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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130590
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】豆腐の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/45 20210101AFI20240920BHJP
【FI】
A23L11/45 G
A23L11/45 106A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040419
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 真梨
(72)【発明者】
【氏名】会田 渉
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB04
4B020LC04
4B020LG01
4B020LK02
4B020LK04
4B020LK12
4B020LK20
4B020LP03
4B020LP23
4B020LR02
4B020LR04
(57)【要約】
【課題】無機塩からなる凝固作用成分を分散してなるW/O型やS/O型の分散液(凝固剤)を用いて豆腐を製造するに当たり、豆乳に添加する凝固剤量を減らしても、得られる豆腐の品質を十分に維持することができる豆腐の製造方法を提供する。
【解決手段】無機塩からなる凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなるW/O型又はS/O型分散液と、油脂とを、質量基準で[分散液]:[油脂]が98:2~78:22となるように混合し、得られた混合液と豆乳とを混合することを含む、豆腐の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機塩からなる凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなるW/O型又はS/O型分散液と、油脂とを、質量基準で[分散液]:[油脂]が98:2~78:22となるように混合し、得られた混合液と豆乳とを混合することを含む、豆腐の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の豆腐の製造方法で得られる豆腐の硬度Hn1と、前記油脂を混合せずに前記分散液と前記豆乳とを混合すること以外は当該製造方法と同じ製造方法で得られる豆腐の硬度Hn2とが下記式(1)を満たす、請求項1に記載の豆腐の製造方法。
[硬度Hn1/硬度Hn2] ≧ 0.85 ・・・式(1)
【請求項3】
前記油脂が風味油を含む、請求項1又は2に記載の豆腐の製造方法。
【請求項4】
前記分散液中、前記油相を構成する油脂の含有量が20~40質量%である、請求項1又は2に記載の豆腐の製造方法。
【請求項5】
前記豆乳100質量部に対し、前記凝固作用成分量が0.14質量部以上となるように前記混合物と前記豆乳とを混合する、請求項1又は2に記載の豆腐の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆腐の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐は、豆乳に凝固剤を加えてタンパク質を架橋、ゲル化して製造される。タンパク質が架橋されて形成される網目構造中には多数の水分子が保持され、豆腐特有の弾力とみずみずしさが発現する。この凝固剤として、古くから塩化マグネシウムを主成分とするにがりが使用されてきた。塩化マグネシウムは豆腐にほどよい甘味を付与するため、塩化マグネシウムを用いることで風味のよい豆腐に仕上げることができる。一方、塩化マグネシウムの凝固作用は速効性であり、豆乳中に均一に拡散する前に凝固反応が素早く進行する。したがって、塩化マグネシウムを凝固剤として用いてゲル組織の均一性の高い高品質の豆腐を得るには熟練した技術を要するとされる。
また上記凝固剤として、塩化マグネシウムの他、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等の無機塩が豆乳に対する凝固作用を示すことが知られている。
【0003】
凝固作用成分として無機塩を用いてゲル組織の均一な豆腐をより簡便に製造するために、無機塩を徐放する徐放性凝固剤を調製し、かかる徐放性凝固剤を豆乳に添加して豆腐を製造することが知られている。
例えば特許文献1には、油脂とポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとを含む油相と、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムを溶解してなる水溶液を含む水相とを有する油中水型乳化組成物からなる豆腐用凝固剤であって、前記豆腐用凝固剤中、マグネシウムの含有量1質量部に対するカルシウムの含有量が4.0~50.0質量部であり、前記豆腐用凝固剤中、マグネシウムの含有量とカルシウムの含有量が合計で6.0~14.0質量%である豆腐用凝固剤が記載されている。この豆腐用凝固剤は、いわゆるW/O型(Water in Oil型)の乳化安定性に優れた凝固剤である。
また、特許文献2には、油脂とポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとを含む油相中に、塩化マグネシウム及び塩化カルシウムが分散してなる豆腐用凝固剤であって、前記豆腐用凝固剤中、マグネシウムの含有量1質量部に対するカルシウムの含有量が4.0~50.0質量部であり、前記豆腐用凝固剤中、マグネシウムの含有量とカルシウムの含有量が合計で9.0~15.0質量%である豆腐用凝固剤が記載されている。この豆腐用凝固剤は、いわゆるS/O型(Solid in Oil型)の分散安定性に優れたスラリー状の凝固剤である。
特許文献1及び2記載の技術によれば、これらの凝固剤を豆乳中に分散させることにより、油脂に包まれた塩化マグネシウム及び塩化カルシウムが徐々に豆乳中に溶け出して豆乳の凝固を生じ、にがりの甘味が引き立ち、苦みは少なく、ゲル組織が均質で全体に亘って均一な硬さを有する豆腐が得られるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-106573号公報
【特許文献2】特開2017-93407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無機塩からなる凝固作用成分を、W/O型やS/O型の分散液状とし、これを徐放性凝固剤として用いて豆腐を製造する場合、無機塩をそのまま凝固剤として用いて豆腐を製造する場合に比べて、徐放性凝固剤の製造コストが上乗せされるため、豆腐の製造コストは必然的に高くなる。他方、製造コストを抑えるべく単純に凝固剤の使用量を減らせば十分な凝固作用を得ることができず、得られる豆腐は品質に劣るものとなる。
【0006】
本発明は、無機塩からなる凝固作用成分を分散してなるW/O型やS/O型の分散液(凝固剤)を用いて豆腐を製造するに当たり、豆乳に添加する凝固剤量を減らしても、得られる豆腐の品質を十分に維持することができる豆腐の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが検討を重ねた結果、無機塩からなる凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなるW/O型又はS/O型分散液を、豆腐製造における凝固剤として用いるに当たり、この凝固剤を豆乳に添加する前に特定量の油脂と混合し、得られた混合液を豆乳に添加することにより、上記凝固剤をそのまま豆乳に添加する場合の凝固剤の必要量に比べて、凝固剤使用量を低減しても、目的の高品質な豆腐が得られること、その結果、豆腐の製造コストを低減できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づき検討を重ねて完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明は、無機塩からなる凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなるW/O型又はS/O型分散液と、油脂とを、質量基準で[分散液]:[油脂]が98:2~78:22となるように混合し、得られた混合液と豆乳とを混合することを含む、豆腐の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の豆腐の製造方法によれば、無機塩からなる凝固作用成分を分散してなるW/O型やS/O型の凝固剤を用いて豆腐を製造するに当たり、豆乳に添加する凝固剤量を減らしても、得られる豆腐の品質を十分に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[豆腐の製造方法]
本発明の豆腐の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも称す。)は、凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなるW/O型又はS/O型分散液(以下、これらのW/O型分散液とS/O型分散液とを総称して、単に「分散液」とも称す。)と、油脂(前記分散液と混合する油脂を「油脂A」とも称す。)とを、本発明で規定する特定の量比で混合し、次いで当該混合液(前記分散液と前記油脂Aとの混合液を「混合液I」とも称す。)と豆乳とを混合することを含む。
本発明の製造方法は、前記分散液を特定量の前記油脂Aで希釈してから豆乳と混合すること以外は、常法により実施することができる。すなわち、前記混合液Iと、豆乳とを混合し、この混合液I中の凝固作用成分が徐々に豆乳中に放出されることによって、豆乳中のタンパク質に架橋構造が形成され、ゲル組織の均一な豆腐を得ることができる。
【0011】
本発明の製造方法では上記の通り、混合液I(前記分散液を前記油脂Aにより特定の希釈倍率で希釈した混合液)を、豆乳と混合して豆乳の凝固作用を生じさせる。この油脂Aとの混合工程を経ることにより、豆乳中に混合される前記分散液の絶対量を減らしても、得られる豆腐は十分な品質(硬度、風味等)を維持することができる。この理由は定かではないが、分散液に油脂Aを混合すると液の粘性が低下するなどして、凝固剤の豆乳への分散性が向上することが一因と考えられる。
【0012】
<分散液>
本発明の製造方法に用いる前記分散液は、無機塩からなる凝固作用成分を含有する相がポリグリセリン脂肪酸エステルの作用によって油相中に分散してなる、W/O型又はS/O型分散液である。この分散液は、油相が連続相を構成し、無機塩からなる凝固作用成分を含有する相が分散相を構成する。前記分散液がW/O型分散液である場合、前記「無機塩からなる凝固作用成分を含有する相」とは、水相を意味する。また前記分散液がS/O型分散液である場合、前記「無機塩からなる凝固作用成分を含有する相」とは、固相(W/O型分散液の水相から水が除去されたものに相当する相)を意味する。
【0013】
前記分散液それ自体は公知であり、豆腐の製造方法に凝固剤として用いられる通常のW/O型分散液及びS/O型分散液を使用することができる。市販品として、例えばW/O型分散液としては、マグネスファインHT(商品名、花王株式会社製)、マグネスファインAT(商品名、花王株式会社製)、S/O型分散液としては、にがり伝説(登録商標)2000(商品名、理研ビタミン株式会社製)などを用いることもできる。また、例えば、塩化マグネシウム等の凝固作用成分、又はこの凝固作用成分を特定量含有する水溶液を、油脂及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する油脂組成物中に乳化分散することによっても得ることができる。
【0014】
(無機塩からなる凝固作用成分を含有する相)
前記無機塩からなる凝固作用成分を含有する相において、当該無機塩は、豆乳を凝固させる凝固作用成分として公知の無機塩を用いることができ、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、及び硫酸カルシウムの1種又は2種以上であることが好ましく、塩化マグネシウムであることがより好ましい。
前記分散液中の前記無機塩の含有量は、分散液の形態(W/O型分散液、又はS/O型分散液)や、豆乳に対する分散液の添加量等に応じて適宜決定することができる。例えば、前記分散液中の前記無機塩の含有量を、10~40質量%(無水物換算)とすることもでき、12~35質量%であってもよく、15~30質量%であってもよい。当該無機塩の含有量は配合量から算出でき、また、「第8版食品添加物公定書」のうち該当する各無機塩の項に記載の方法により定量することもできる。なお、配合する無機塩が水和物である場合、水和物を構成する水分子は前記無機塩には含まれないものとする。この水分子は、W/O型分散液においては水相の水を構成するものとする。
【0015】
前記無機塩からなる凝固作用成分を含有する相は、上記の無機塩の他、水や多価アルコール等の他の成分を含有してもよい。
【0016】
(油相)
前記油相は、水に対して非相溶性の成分(油性成分)からなる相である。水に対して非相溶性とは、水と実質的に溶け合わないことを意味する。すなわち、水と混合した際に、油性成分と水とが互いに相分離した状態になることを意味する。
前記分散液において、油相は、油脂(前記分散液の油相を構成する油脂を「油脂B」ともいう。)及びポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。なお、前記油脂Bとポリグリセリン脂肪酸エステルや、下記に説明する他の油性成分を含有する油溶性混合物を、「油脂組成物」とも称する。
【0017】
-油脂B-
前記油相を構成する油脂Bとしては、例えば、食用に適する動物性油脂、食用に適する植物性油脂、及び、多価アルコールと脂肪酸とのエステル(トリアシルグリセロール及びポリグリセリン脂肪酸エステルを除く)が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、20℃において液状の油脂であることが好ましく、分散液と油脂をより均一に混合させる観点から、5℃において液状の油脂であることが好ましい。本明細書において「20℃において液状の油脂」とは、20℃において固体脂含量が1質量%以下である油脂を意味する。また、「5℃において液状の油脂」とは、5℃において固体脂含量が1質量%以下である油脂を意味する。油脂の固体脂含量は、日本油化学協会制定の基準油脂分析試験法の2.2.9固体脂含量 NMR法に記載の方法に従い測定される。
前記動物性油脂としては、例えば、ラード、牛脂等が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。また、前記植物性油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、米油、ひまわり油、ごま油、又はこれらの硬化油、これらのエステル交換油もしくはこれらの分別油が挙げられ、これらの油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂を用いることができる。
前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する多価アルコールは、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビト-ル及びソルビタンから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。また、前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限は無い。例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルは、なかでもプロピレングリコールジエステル化合物が好ましい。前記の多価アルコールと脂肪酸とのエステルは、通常のエステル化反応等により調製することができる。
油脂Bは、前記油脂Aと同じであってもよく、異なってもよい。
【0018】
前記分散液中の油脂Bの含有量は、分散液の安定性の観点から、20~40質量%であることが好ましく、22~38質量%であることがより好ましく、24~37質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
-ポリグリセリン脂肪酸エステル-
前記油相を構成するポリグリセリン脂肪酸エステルは、そのHLBが7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。このポリグリセリン脂肪酸エステルは、前記分散液の分散安定性の観点から、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルであることがより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンのグリセリン単位の数に特に制限はない。分散安定性の観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンのグリセリン重合度(平均重合度)は4~6であることが好ましい。また、同様の観点から、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを構成する縮合リシノレイン酸は、2~5分子のリシノレイン酸が縮合した構造であることが好ましい。
【0020】
ポリグリセリンのグリセリン重合度は水酸基価に基づき下記式(i)~(iii)より算出される。
MW=74n+18・・・式(i)
OHV=56110(n+2)/MW・・・式(ii)
n=(112220-18OHV)/(74OHV-56110)・・・式(iii)
MW:ポリグリセリンの平均分子量
n:ポリグリセリン重合度(平均重合度)
OHV:ポリグリセリンの水酸基価
【0021】
前記分散液中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、無機塩からなる凝固作用成分を含有する相を油相中に分散させる分散剤(乳化剤)として機能するように適宜設定することができる。例えば、前記分散液中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を1~15質量%とすることもでき、1.5~12質量%としてもよく、2~10質量%としてもよい。前記分散液がW/O型分散液である場合には、当該分散液中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は1~10質量%であることが好ましく、1.5~8質量%であることがより好ましく、2~6質量%であることがさらに好ましい。また、前記分散液がS/O型分散液である場合には、当該分散液中のポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は5~15質量%であることが好ましく、6~12質量%であることがより好ましく、7~10質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
前記分散液中の、前記油脂Bと前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの各含有量の合計は、21~55質量%であることが好ましく、23.5~50質量%であることがより好ましく、26~47質量%であることがさらに好ましく、28~43質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
前記油相は、上記の油脂B、ポリグリセリン脂肪酸エステルの他、着色料、酸化防止剤、調味料、強化剤等から選ばれる1種又は2種以上の他の油性成分を含有してもよい。
【0024】
<油脂A>
本前記分散液と混合する油脂Aとして、上記油脂Bで説明した油脂を用いることができる。また、本発明の製造方法により得られる豆腐に風味を付与する観点からは、前記油脂Aは風味油(香味油)であることも好ましい。当該風味油とは、油脂原料由来の風味を有する油脂であってもよく、油脂と香味素材とを組み合わせることにより調製された風味油であってもよい。前記風味油の種類は特に限定されず、豆腐に所望の風味を付与できる種々の風味油を採用することができ、例えば、ごま油、ガーリックオイル、ゆず油、ラー油、レモンオイル、ハーブオイル、バジルオイルから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
通常、豆腐の製造方法において得られる豆腐に風味を付与する場合、香味料として、豆乳に対し予め風味油を添加しておくことが一般的である。しかし、風味油は豆乳に馴染みにくい傾向があり、豆乳に対して風味油を均一に混合するためには強い撹拌力が必要である。これに対し、本発明の製造方法では、風味油を油脂Aに含ませて、予め分散液に添加して混合液Iを調製し、この混合液Iを豆乳と混合することができる。本発明者らが検討したところ、風味油を油脂Aに含ませることにより、比較的弱い撹拌力でも風味油を豆乳中に良好に分散させられることがわかってきた。すなわち、風味油を油脂Aとして用いることにより、風味油を豆乳中に直接混合する場合に比べて、豆腐製造の負荷(エネルギーコスト)を低減することが可能となる。
【0025】
<混合液I>
本発明の製造方法において、前記混合液Iは、前記分散液と前記油脂Aとを混合することにより得られる。前記分散液と前記油脂の混合比は、質量基準で[分散液]:[油脂A]が98:2~78:22である。このような混合比とすることにより、豆腐の製造における分散液の使用量を低減しつつ、得られる豆腐の品質を十分に維持することができ、さらに風味に優れた(油脂の異味を抑えた)豆腐とすることができる。
上記と同様の観点から、前記混合比は、質量基準で[分散液]:[油脂A]が97:3~80:20であることが好ましく、96:4~85:15であることがより好ましく、96:4~87:13であることがより好ましく、96:4~88:12であることがより好ましく、95:5~90:10であることがさらに好ましい。
【0026】
前記混合液I中の無機塩の含有量は、無水物換算で、17質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、19質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、21質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有量は、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下とすることもでき、24質量%以下とすることもできる。当該含有量を好ましい範囲として示せば、17~30質量%が好ましく、18~30質量%がより好ましく、19~27質量%がさらに好ましく、20~27質量%がさらに好ましく、21~24質量%がさらに好ましい。
【0027】
前記混合液I中の油脂の含有量(油脂Aと油脂Bの総含有量)は、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。また、当該含有量は、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、37質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有量を好ましい範囲として示せば、20~50質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましく、28~40質量%がさらに好ましく、30~37質量%がさらに好ましい。
【0028】
前記分散液と前記油脂Aの混合方法は特に限定されず、前記分散液と前記油脂Aが均一に混合されるように適宜設定することができる。例えば、汎用の撹拌機を用いることができる。
【0029】
<豆乳>
本発明の製造方法において、豆腐の原料として用いる豆乳に特に制限はなく、大豆原料から常法により調製した豆乳を広く用いることができる。大豆原料としては、例えば、カナダ産白目大豆(商品名:銀河、日清商会社製)、北海道産ユキホマレ、佐賀県産フクユタカなどが挙げられる。原料として用いる豆乳の豆乳濃度(Brix値)に特に制限はなく、Brix値が、例えば10~13の範囲にある豆乳を用いることができる。なお、Brix値は、例えばポケット豆乳濃度計PAL-27S(アタゴ社製)を用いて常法により測定することができる。
【0030】
本発明の製造方法において、前記混合液Iと前記豆乳との混合比は、得られる豆腐に十分な硬度を付与する観点から、豆乳100質量部に対して、前記混合液I中の凝固作用成分量が0.14質量部以上となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することが好ましく、より好ましくは0.15質量部以上、さらに好ましくは0.16質量部以上、さらに好ましくは0.17質量部以上となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。また、得られる豆腐をゲル組織の均一性の高い高品質の豆腐とする観点から、豆乳100質量部に対して、前記混合液I中の凝固作用成分量が0.25質量部以下となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することが好ましく、より好ましくは0.23質量部以下、さらに好ましくは0.21質量部以下、さらに好ましくは0.18質量部以下となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。したがって、豆乳100質量部に対する前記混合液I中の凝固作用成分量が好ましくは0.14~0.25質量部となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することができ、より好ましくは0.15~0.23質量部、さらに好ましくは0.16~0.21質量部、さらに好ましくは0.17~0.18質量部となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。
【0031】
また、豆乳に対する前記混合液Iの分散性を高める観点から、豆乳100質量部に対し、前記混合液I由来の油脂(油脂A+油脂B)量が0.20質量部以上となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することが好ましく、より好ましくは0.21質量部以上、さらに好ましくは0.23質量部以上、さらに好ましくは0.25質量部以上となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。また、当該油脂量が0.40質量部以下となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することが好ましく、より好ましくは0.35質量部以下、さらに好ましくは0.32質量部以下、さらに好ましくは0.30質量部以下となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。したがって、豆乳100質量部に対する前記混合液I由来の油脂量が好ましくは0.20~0.40質量部となるように前記混合液Iと前記豆乳とを混合することができ、より好ましくは0.21~0.35質量部、さらに好ましくは0.23~0.32質量部、さらに好ましくは0.25~0.30質量部となるように前記混合液Iと前記豆乳とが混合される。
【0032】
前記豆乳と前記混合液Iとを混合する際の温度は、85℃以下とすることが好ましく、80℃以下とすることがより好ましい。当該温度は通常は60℃以上とする。
前記豆乳と前記混合液Iとの混合は、通常のミキサーを用いて均質に撹拌することにより行うことができる。前記豆乳と前記混合液Iとを混合して数秒~数十秒間撹拌した後、所望の形状の豆腐充填容器に充填し、通常は80~90℃程度の温度下で20~50分間程度熟成させることにより、豆腐が得られる。本発明の製造方法において、前記混合液Iは豆乳に対する分散性に優れるため、通常の分散液(凝固剤)を豆乳と混合するよりも比較的弱い撹拌力で豆乳と均一に混合することができる。
本発明の製造方法により製造される豆腐の種類に特に制限はない。例えば、絹豆腐であってもよいし、木綿豆腐であってもよい。
【0033】
本発明の製造方法により、前記分散液の使用量を減らしても、目的の高品質な豆腐を得ることができる。例えば、得られる豆腐の硬さを指標にすると、本発明の製造方法により得られた豆腐(豆腐1)の硬度「Hn1」と、前記分散液を油脂Aと混合せずにそのまま豆乳と混合して得られる豆腐(豆腐2)の硬度「Hn2」との関係は、下記式(1)を満たすことができ、下記式(2)を満たすこともでき、下記式(3)を満たすこともできる。

[硬度Hn1/硬度Hn2] ≧ 0.85 ・・・式(1)
[硬度Hn1/硬度Hn2] ≧ 0.90 ・・・式(2)
[硬度Hn1/硬度Hn2] ≧ 0.95 ・・・式(3)

なお、上記豆腐1の製造において豆乳と混合した混合液I(分散液+油脂A)の量と、上記豆腐2の製造において豆乳と混合した分散液の量は同一とする。
【0034】
前記豆腐の硬度は、実施例の項に記載の方法により測定することができる。具体的には、本発明の製造方法により得られた熟成工程直後の豆腐を、縦35mm、横35mm、高さ34mmの直方体に整形し、小型卓上試験機(商品名:Ez-TEST、ロードセル:20N、島津製作所社製)を用い、30mm/分の速度でひずみ60%地点まで直径15mmのプランジャーを下げたときの最大強度(gf)を圧縮面積(プランジャー断面積、cm)で割った値(gf/cm(1gf/cm=98.1Pa))を、豆腐硬度とする。
【0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0036】
<W/O型分散液の調整方法>
表1に示す通りに原料を配合(単位:質量%)してW/O型分散液を得た。具体的な方法を以下に説明する。
【0037】
W/O型分散液の調製に用いた原料は以下の通りである。

・油脂:コーン油(商品名:日清コーン油(S)、日清オイリオ社製)
・ポリグリセリン脂肪酸エステル:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン平均重合度:6、サンソフトNo.818SK(商品名、太陽化学社製)
・抗酸化剤-1:理研Eオイル600(商品名、理研ビタミン社製)
・抗酸化剤-2:L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル(DSMニュートリションジャパン社製)
・塩化マグネシウム6水和物(MgCl・6HO):ソフトウエハー(商品名、赤穂化成社製)
・水:蒸留水
【0038】
表1に記載の配合比で塩化マグネシウム6水和物を水に溶解し、80℃で加熱して塩化マグネシウム水溶液を調製した。加熱した水溶液は10℃にて24時間静置した。また、表1に記載の配合比で油脂とポリグリセリン脂肪酸エステルと抗酸化剤(1及び2)とを混合し、油脂組成物を調製した。前記塩化マグネシウム水溶液と前記油脂組成物を80℃まで加温した。撹拌機にアンカー羽(Φ58mm)取り付け、回転数300rpmで前記油脂組成物を攪拌しながら、前記水溶液をローラーポンプ(東京理科社製、型番:RP-1000、チューブΦ48mm、回転速度:125rpm)を用いて、表1に記載の配合比となるように添加した。その後、アンカー羽の回転速度を500rpmに設定してさらに15分間攪拌し、予備乳化物を得た。さらに前記予備乳化物をホモミキサー(プライミクス社製、TKホモミクサーMARKII)を用いて11000rpmで、3分間撹拌することで乳化分散させ、W/O型分散液を得た。
【0039】
【表1】
【0040】
<豆腐の製造方法>
得られたW/O型分散液と、下記に示す各種油脂Aと、豆乳とを用い、実施例1~6、比較例1、参考例1の豆腐をそれぞれ製造した。

-油脂A-
・コーン油:日清コーン油(日清オイリオ社製)
・ごま油:金印純正ごま油(かどや製油社製)
・ガーリックオイル:ピエトロCHEF’S ガーリックオイル(ピエトロ社製)

-豆乳-
・サチユタカ(Brix:11)
【0041】
(実施例1)
前記W/O型分散液(室温)に対し、下記表2に記載の配合比で油脂A(コーン油、室温)を添加し、トルネード攪拌機(PM-202、アズワン製)でアンカー羽(φ58mm)を用いて200rpmで10分間攪拌することにより、実施例1に用いる混合液Iaを得た。
豆乳(85℃に調温)と、混合液Iaとを、豆乳と混合液Iの合計に占める混合液Iaの割合が0.8質量%となるようにモーノポンプを用いて送液し、マイルダー(MDN303V、ローター・ステーターG/M/F、太平洋機工製)を用いて、80℃、4000rpmにて流量1L/minで処理して豆乳中に混合液Iaを分散させ、豆乳分散液を得た。この分散条件は、豆腐の製造において広く採用されている一般的な分散条件である。
得られた豆乳分散液150mLをPP(ポリプロピレン)製容器(型番:C-150、第一パック機工業株式会社製)に充填し、容器にシールした後、80℃で40分間熟成して豆腐を製造した。
【0042】
(実施例2~6、比較例1、参考例1)
前記W/O型分散液と各種油脂Aの配合比を下記表2に記載の通りとして、実施例2に用いる混合液Ib、実施例3に用いる混合液Ic、実施例4に用いる混合液Id、実施例5に用いる混合液Ie、実施例6に用いる混合液If、比較例1に用いる混合液Igを得た。また、W/O型分散液に油脂を添加しないものを分散液R(W/O型分散液そのもの、参考例1)とした。これらの混合液Ib~Ig、及び分散液Rを、実施例1における豆乳と混合液Iaとの混合比と同じになるように豆乳と混合したこと以外は、上記実施例1と同様にして豆腐を製造した。
【0043】
得られた実施例1~6、比較例1、参考例1の豆腐の性状を、下記試験により評価した。
【0044】
<豆腐の圧縮破断試験>
熟成工程直後の豆腐(約80℃)を上記豆腐容器に入れた状態で十字状に4等分にカットし(それぞれ縦35mm×横35mm×高さ34mm、約37g)、カットした4切れそれぞれについて、小型卓上試験機(商品名:Ez-TEST、ロードセル:20N、島津製作所社製)を用い圧縮破断試験を行った。試験は、豆腐が容器に入った状態で直径15mmのステンレス製プランジャーを用いて実施した。圧縮破断試験により30mm/分の速度でひずみ60%地点までプランジャーを下げたときの最大強度(gf)を圧縮面積(プランジャー断面積、cm)で割った値(gf/cm(1gf/cm=98.1Pa))を豆腐硬度とし、4つの各値の平均値を算出した。
参考例1の豆腐の硬度(4つの各値の平均値)を1とし、参考例1の豆腐硬度に対する実施例1~6及び比較例1の豆腐硬度の相対値(実施例1~6及び比較例1の豆腐硬度/参考例1の豆腐硬度)を算出し、下記評価基準に当てはめ評価した。結果を下記表2に示す。

-評価基準-
A:豆腐硬度の相対値が0.95以上
B:豆腐硬度の相対値が0.90以上0.95未満
C:豆腐硬度の相対値が0.85以上0.90未満
D:豆腐硬度の相対値が0.80以上0.85未満
E:豆腐硬度の相対値が0.75以上0.80未満
F:豆腐硬度の相対値が0.75未満
【0045】
【表2】
【0046】
W/O型分散液と油脂Aとを質量比で70:30として混合し、得られた混合液Igと豆乳とを混合して製造した比較例1の豆腐は、W/O型分散液のみを豆乳と混合して製造した参考例1の豆腐に比べて、豆腐の硬度が格段に劣る結果となった。
これに対し、W/O型分散液と油脂Aの配合比率を本発明で規定する範囲とし、得られた混合液Ia~Ifと豆乳とを混合して製造した実施例1~6の豆腐は、参考例1の豆腐と同等の硬度を有することが示された。この結果から、豆腐製造において、分散液の特定量を油脂Aに置き換えても高品質の豆腐が得られること、その結果、豆腐の製造コストを低減できることがわかる。
さらに、乳化型凝固剤と混合する油脂Aとして風味油(ごま油やガーリックオイル)を用いた実施例5及び6の豆腐は、油脂A由来の風味が引き立っていた。
なお、上記実施例ではW/O型分散液を用いた結果を示すものであるが、W/O型と同様に油相を連続相とするS/O型分散液であっても、油脂Aによる希釈によって同様の効果が得られるであろうことを理解することができる。