(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130628
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】低摩擦性高硬度材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/05 20230101AFI20240920BHJP
C04B 35/56 20060101ALI20240920BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20240920BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240920BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240920BHJP
C22C 1/053 20230101ALI20240920BHJP
【FI】
C22C1/05 E
C04B35/56 110
C22C1/10 J
B23B27/14 B
B22F1/14 400
C22C1/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040462
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100116861
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 義博
(72)【発明者】
【氏名】塚根 亮
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
3C046FF34
3C046FF40
4K018AA06
4K018AB07
4K018BA03
4K018BB04
4K018BC15
4K018EA11
4K018FA06
4K018FA08
4K018KA02
4K018KA15
4K018KA18
4K020AA22
4K020AC03
(57)【要約】
【課題】ドライプレス加工用の型や切削工具に利用できるTiC系の高硬度材料を提供すること。
【解決手段】 Ti粉末とC粉末とを、Tiの原子数割合がCの原子数割合より多くしてボールミリング処理し、TiC粉末とTi粉末との混合粉末を得、次いで所定形状に成形して加圧焼結し、焼結体に対して浸炭処理をおこなうことにより低摩擦性高硬度材料を得ることを特徴とする低摩擦性高硬度材料の製造方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti粉末とC粉末とを、Tiの原子数割合がCの原子数割合より多くしてボールミリング処理し、TiC粉末とTi粉末との混合粉末を得、
次いで所定形状に成形して加圧焼結し、
焼結体に対して浸炭処理をおこなうことにより低摩擦性高硬度材料を得ることを特徴とする低摩擦性高硬度材料の製造方法。
【請求項2】
焼結体がニアネットシェイプとなるように成形して加圧焼結し、
浸炭処理前または後に最終形状に加工することを特徴とする請求項1に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法により製造されたことを特徴とする、ドライプレス加工用型、切削工具、または、摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライプラス加工用の型等として使用できるTiC系の低摩擦性、耐摩耗性、化学的安定性を有する軽量な高硬度材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属プレス加工などの塑性加工においては、環境意識の高まりや工数削減の要請から、潤滑剤を使用しないドライプラス加工が要求される場合がある。その中で、セラミックスやサーメットのような高硬度材料が盛んに研究されている。
ここで、高硬度材は一般的に靱性が高くないため、靱性を持たせる材料を加えた複合化が種々検討されている。TiCを主成分とする高硬度材料も同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-077191
【特許文献2】特開2007-039752
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、ドライプレス加工用の型や切削工具に利用できるTiC系の高硬度材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法は、Ti粉末とC粉末とを、Tiの原子数割合がCの原子数割合より多くしてボールミリング処理し、TiC粉末とTi粉末との混合粉末を得、次いで所定形状に成形して加圧焼結し、焼結体に対して浸炭処理をおこなうことにより低摩擦性高硬度材料を得ることを特徴とする。
【0006】
すなわち、請求項1に係る発明は、Tiリッチとなる割合にてボールミリング処理によりTiC粉末とTi粉末との混合材(中間材料)を得て、加圧焼結によりTiにTiC間の結合剤の役割を果たさせるとともにTiを靱性付与材として機能させ、浸炭処理により表面全体が低摩擦係数を有する、高硬度材料を得ることができる。
なお、原料を高価なTiC粉末でなく、Ti粉末とC粉末とすることにより製造費を安価にすることもできる。
【0007】
Tiの原子数割合xは、70%<x<100%、残余をCとする例を挙げることができる。
原料であるTi粉末とC粉末については不可避的不純物の含有は許容されるものとする。
加圧焼結は、特に限定されずSPS(放電プラズマ焼結)や熱間静水圧焼結などを挙げることができる。
なお、TiCの特性により、耐摩耗性も有するため、本発明においては、低摩擦性高硬度材料は、耐摩耗性高硬度材料ということもできる。また、全体がTi系であるため軽量高硬度材料ということもできる。
【0008】
請求項2に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法は、請求項1に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法において、焼結体がニアネットシェイプとなるように成形して加圧焼結し、
浸炭処理前または後に最終形状に加工することを特徴とする。
【0009】
すなわち、請求項2に係る発明は、ドライプレス加工用型や切削工具、摺動部品等の最終製品を効率的に狙った形状とすることができる。
【0010】
請求項3に記載のドライプレス加工用型、切削工具、または、摺動部品は、請求項1または2に記載の低摩擦性高硬度材料の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項3に記載のドライプレス加工用型、切削工具、または、摺動部品は、低摩擦係数であって耐摩耗性に優れた、高硬度製品である。化学的安定性にも優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドライプレス加工用の型や切削工具に利用できるTiC系の高硬度材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ボールミリング処理により得られた、TiC粉末とTi粉末との複合材料をSPSにて加圧焼結した試験体の電子顕微鏡写真である。
【
図2】浸炭処理後の試験体の断面写真とEDSマップ、X線回折結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
<ボールミリング処理>
まず、ボールミリング処理について説明する。
原料であるTi粉末(和光純薬工業社製、粒径数十μm)と、C粉末(高純度化学研究所製、純カーボン、直径10μm以下)とを、原子数比がTi:C=75:25となるように計量し、遊泳型ボールミル(FRITSCH社製P-6)を用いてボールミリング処理をおこなった。なお、ボールは容量80mlのタングステンカーバイド製容器とし、タングステンカーバイド製のボール直径10mm、ボール数25個とした。ミリング条件は500rpm×6時間とした。
ミリング中にTiCを形成させるには、一定の処理時間が必要である、Ti:C=75:25の原子数比であれば処理時間は6時間~10時間(21.6~36キロ秒)、Ti:C=72:28であれば3時間~6時間(10.8~21.6キロ秒)とする例を挙げることができる。
【0015】
<加圧焼結処理>
次に、得られたTiC粉末とTi粉末との複合材料をSPSにて加圧焼結した。こでは円柱試験片を作成することとし、内径20mmΦのダイスを用いた。
SPS処理装置は、住友石炭工業社製DR.SINTER DPD-3.20MK-4を用い、粉末量を5.65gとし、真空中で1000度になるまで35MPaにてパンチで加圧した。1000度になるまで14分かかったが、さらに5分間1000度にて加圧し続き、その後圧力を開放し、自然冷却した。
【0016】
得られた試験体の電子顕微鏡写真を
図1に示す。図中のコントラストの暗い部分がTiCであり、明るい部分がTiである。TiCの周りにTiが分布した焼結体を形成していることが確認できる。
【0017】
<浸炭処理>
次に、焼結した試験片へ表面改質(浸炭処理)をおこなった。
具体的には、カーボン粉末の中に埋め、アルゴンガス雰囲気下で昇温速度30℃/分とし1000℃まで加熱し、5分保持した(なお、浸炭処理であれば、この固体浸炭法によらず、液体浸炭法、ガス浸炭法、真空浸炭法等適宜採用できる)。
【0018】
浸炭処理後の断面写真とEDSマップ、X線回折結果を
図2に示す。SEM写真から、表層が緻密になっていることが確認でき、EDSマップからもCが下層より密になっていることがわかる。すなわち、表層がTiCに改質されたことが確認できた。表層部分のX線回折結果からも浸炭処理が十分なされたことを確認できる。
【0019】
得られた試験体の摩擦係数を測定したところ、0.67(最大値)であった。改質前の摩擦係数は0.83(最大値)であったので、低摩擦化に成功している。
また、ビッカース硬さを測定したところ、改質前が851Hvであって、浸炭処理後が1452Hvであったので、高強度化も実現できている。
また、別途摩耗試験をおこなったが、摩耗痕は確認できず耐摩耗性も発揮している。
【0020】
以上、本法によって耐摩耗性に優れた高硬度材料が得られ、ドライプレス加工用型、切削工具、または、摺動部品(ギアやベアリング)を製造できる。なお、焼結体を得る前に二アネットシェイプとなるように成形し、浸炭処理前に最終形状に加工することが好ましい。特に精度を出す必要があるときは、浸炭処理後に最終形状に加工すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明によって得られる高硬度材料は、Tiを用いるので軽量であるため、軽量特性を生かした素材、例えば、航空機や人工衛星にも適宜利用することもできる。