(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130630
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム粒子の分散液、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
C01G23/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040464
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 和馬
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD03
4G047CD08
(57)【要約】
【課題】熱安定性が高いBTO粒子を提供する。
【解決手段】
本発明は、ペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子の分散液であって、XRDにより測定したチタン酸バリウム粒子の結晶子径が25nm以下であり、ペロブスカイト構造のAサイトに存在するバリウム(Ba)の一部が、バリウム以外の金属元素に置換されており、XRDにより測定したペロブスカイト構造のメインピークが31.25deg以上である。動的光散乱法により測定した平均粒子径は100nm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶子径が25nm以下のチタン酸バリウム粒子と、溶媒と、を含むチタン酸バリウム粒子の分散液であって、
前記チタン酸バリウム粒子をX線回折測定装置によって測定したときの結晶構造がペロブスカイト構造であり、
前記ペロブスカイト構造のAサイトに存在するバリウムの一部が、バリウム以外の金属元素に置換されており、
前記ペロブスカイト構造のメインピークが31.25deg以上であり、
動的光散乱法により測定した平均粒子径が100nm以下である分散液。
【請求項2】
前記チタン酸バリウム粒子に含まれる前記金属元素のモル量と前記バリウムのモル量の合計量に対して、前記金属元素のモル量が35%以下である請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記金属元素がカルシウムとストロンチウムの少なくとも一方である請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
前記チタン酸バリウム粒子を500℃で焼成することにより得られる焼成品をX線回折測定装置により測定したとき、前記焼成品の結晶子径D1と焼成前の前記チタン酸バリウム粒子の結晶子径Doの比〔D1/Do〕が1.3以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項5】
前記チタン酸バリウム粒子を500℃で焼成することにより得られる焼成品をX線回折測定装置によって測定したとき、ペロブスカイト構造以外の最も強度が高いピークIiと、ペロブスカイト構造のメインピークの強度Ipとの比〔Ii/Ip〕が0.1以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項6】
バリウムの水酸化物とアルキルセロソルブの混合液を調製する第一工程と、
前記混合液を40℃以上の状態で脱水する第二工程と、
前記混合液にチタンアルコキシドを添加する第三工程と、
前記混合液に水を含む溶媒を添加する第四工程と、
前記混合液を20℃以上で6時間以上熟成する第五工程と、を備え、
前記第五工程が行われる前のいずれかの混合液に、バリウム以外の金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液が添加されており、
前記第三工程で、前記混合液に含まれるバリウムと、バリウム以外の金属元素の濃度の合計が10重量%以上の状態で、前記混合液に前記チタンアルコキシドが添加されることを特徴とするチタン酸バリウム粒子の製造方法。
【請求項7】
前記バリウム以外の金属元素のアルキルセロソルブ溶液を以下の工程(i),(ii)により調製することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
工程(i) ストロンチウムの水酸化物とアルキルセロソルブの第二混合液を調製する工程
工程(ii) 前記第二混合液を-5~15℃の状態にして、前記ストロンチウムの水酸化物を溶解させる工程
【請求項8】
ストロンチウムまたはカルシウムのアルコキシドをアルキルセロソルブに溶解させることにより、前記バリウム以外の金属元素のアルキルセロソルブ溶液を調製することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチタン酸バリウム粒子の分散液およびその製造方法に関する。
【0002】
ペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子(BTO粒子)は高い誘電率を持つため、積層セラミックコンデンサ(MLCC)に用いられている。MLCCは、金属Niを主成分とする電極層とBTO粒子を主成分とする誘電体層が交互に重なった構造である。電極層と誘電体層の焼結開始温度の差が大きいほど、MLCC作製時の焼成工程でMLCCにクラックが生じ易い。そのため、電極層のNi粒子の周りに共材としてBTO粒子を共存させ、焼結開始温度の差を小さくしている。さらに、電極層のBTO粒子の一部を2族、8族、ランタノイド系、アクチノイド系等の元素に置換することにより、電極層の焼結開始温度を高くし、電極層と誘電体層の焼結開始温度の差を小さくすることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、MLCCの小型化に伴い電極層に用いられるNi粒子も小さくなっている。そのため、共材として用いるBTO粒子の粒子径や結晶子径も小さい必要がある。小さいBTO粒子の製造方法として、水酸化バリウム(アルカリ土類金属の水酸化物)とアルキルセロソルブの混合溶液にチタンアルコキシドを添加した後、加水分解する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、電極層のBTO粒子の一部を前述の元素に置換すると記載されている。しかしながら、特許文献1のBTO粒子では、前述の元素がペロブスカイト構造の結晶子内に存在するわけではなく、結晶子の外に存在している。これにより、結晶子同士が低いエネルギーで結合する。そのため、MLCCの焼成時に結晶子が結合し、結晶子径が変化してしまう。また、結晶子の外に存在する不純物(添加された金属元素)は、焼成時にペロブスカイト構造以外の結晶に成長してしまう。このような結晶子径の変化やペロブスカイト構造以外の結晶成長によって体積が変化し、MLCCにクラックが発生しやすい。すなわち、特許文献1のBTO粒子は熱収縮率が大きく、良好な熱安定性が得られない、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ペロブスカイト構造のAサイトに存在するバリウム(Ba)の一部を、バリウム以外の金属元素に置換することにより、熱収縮率の低い、良好な熱安定性を持つBTO粒子が実現することを見出した。すなわち、本発明によるペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子の分散液は、X線回折測定装置(XRD)により測定したチタン酸バリウム粒子の結晶子径が25nm以下であり、ペロブスカイト構造のAサイトに存在するバリウム(Ba)の一部が、バリウム以外の金属元素に置換されている。そのため、XRDにより測定したペロブスカイト構造のメインピークが31.25deg以上である。また、動的光散乱法により測定した平均粒子径は100nm以下である。
【0007】
また、本発明のチタン酸バリウム粒子の分散液の製造方法は、バリウムの水酸化物とアルキルセロソルブの混合液を調製する第一工程と、前記混合液を40℃以上の状態で脱水する第二工程と、前記混合液にチタンアルコキシドを添加する第三工程と、前記混合液に水を含む溶媒を添加する第四工程と、前記混合液を20℃以上で6時間以上熟成する第五工程と、を備えている。そして、第五工程が行われる前のいずれかの混合液に、バリウム以外の金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液が添加されている。さらに、第三工程で、前記混合液に含まれるバリウムとバリウム以外の金属元素の濃度の合計が10重量%以上の状態で、この混合液にチタンアルコキシドが添加される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、結晶子径が25nm以下のペロブスカイト構造のチタン酸バリウム粒子(BTO粒子)に関する。結晶子径が小さいBTO粒子ほど、小さいMLCCに適用しやすい。ペロブスカイト構造には、バリウム(Ba)が存在するAサイトと、チタン(Ti)が存在するBサイトがあり、本発明のBTO粒子では、Aサイトに存在するバリウムの一部がバリウム以外の金属元素に置換されている(以降、「バリウム以外の金属元素」を単に「金属元素」と略記する)。すなわち、ペロブスカイト構造の結晶子内に金属元素が置換元素として存在する。これにより、結晶子同士が結合するエネルギーが高くなり、結晶子同士が結合し難くなる。そのため、結晶子径の変化が小さく、BTO粒子の熱収縮率が低くなる。これにより、高い熱安定性が得られる。ただし、結晶子径が小さすぎると、熱安定性が低くなるため、結晶子径は5nm以上が好ましい。なお、結晶子径はXRDにより測定できる。
【0009】
置換元素がAサイトに入っているかどうかはXRDを用いて判断できる。イオン半径がBa2+より小さい置換元素を含むBTO粒子は、置換元素を含まないBTO粒子よりも、ペロブスカイト構造のメインピークが高角度側にシフトする。XRDを用いてBTO粒子を測定したとき、ペロブスカイト構造のメインピークが31.25deg以上であれば、Aサイトに置換元素が存在していると判断できる。Ba2+のイオン半径(1.61Å)未満のイオン半径を持つ置換元素はAサイトに入りやすい。さらに、イオン半径がBa2+に近いほど、置換元素がAサイトに入りやすい。そのため、置換元素のイオン半径は0.8Å以上が好ましく、0.9Å以上がより好ましい。特に、バリウムと同じアルカリ土類金属であり、且つBa2+よりイオン半径が小さい元素(イオン半径1.34ÅのCa2+やイオン半径1.44ÅのSr2+)が適している。ここで、イオン半径は、シャノンのイオン半径である。二種類以上の元素がAサイトに置換元素として存在してもよい。
【0010】
置換元素の量が多いほど、メインピークは高角度側にシフトする。また、置換元素の量が多いほど、結晶子径の変化が小さく、BTO粒子は熱収縮率が低くなる。すなわち、体積変化は小さくなる。BTO粒子中のバリウムと置換元素のモル量の和に対する置換元素のモル量の割合〔置換元素のモル量A/(バリウムのモル量Ba+置換元素のモル量A)〕は、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。ここで、焼成前後の結晶子径を測定することにより、熱収縮性(体積変化)が判断できる。
【0011】
BTO粒子に不純物が含まれていると、すなわち、BTO粒子の結晶子の外に不純物が存在していると、BTO粒子の熱収縮率が大きくなり、高い熱安定性が得られない。焼成により不純物はペロブスカイト構造以外の結晶(不純物結晶)を形成し、体積を変化させるためである。置換元素を増やすために原料(金属元素)の添加量を増やすと、Aサイトに入らなかった金属元素がBTO粒子の結晶子の外に不純物として存在する。そのため、置換元素の量が多すぎると、ペロブスカイト構造以外の結晶(不純物結晶)が生じやすくなる。置換元素のモル量の割合は35%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。BTO粒子に不純物が含まれているかどうかは、焼成後のBTO粒子をXRDで測定し、ペロブスカイト構造以外のピークを分析することにより判断できる。
【0012】
通常、MLCCは1000~1300℃で焼成され、昇温時には常温から1300℃まで温度が変化する。その際、400~600℃で、MLCCの強度が最も低くなる。この温度範囲での僅かな体積変化がMLCCの性能低下の原因となる。体積変化は、焼成によって、ペロブスカイト構造の結晶子径が変化および不純物がペロブスカイト構造以外の結晶に変化することにより起こる。そのため、ここでは500℃で焼成されたBTO粒子について結晶子径変化(熱収縮率)の測定およびXRDによるピーク分析を行って評価した。
【0013】
熱収縮率は、結晶子径同士の焼成時の結合(焼結)のし易さで決まる。BTO粒子を500℃で焼成した後の結晶子径D1と、焼成前の結晶子径Doとの比(結晶子径増加率D1/Do)が小さいほど、熱収縮率が低い。結晶子径の増加率を1.3以下にすることが好ましい。
【0014】
500℃焼成後のBTO粒子をXRDで測定し、ペロブスカイト構造以外の最も強度が高いピーク(Ii)と、ペロブスカイト構造のメインピークの強度(Ip)を求める。不純物結晶の量が少なければ、ピーク強度の比〔Ii/Ip〕は小さくなる。すなわち、ピーク強度の比が小さいほど焼成前のBTO粒子中に含まれる不純物の量が少ないといえる。ピーク強度の比は0.1以下が好ましく、0.07以下がさらに好ましい。
【0015】
BTO粒子の形状は、例えば、球状、楕球体(ラグビーボール)状、繭状、金平糖状、鎖状、サイコロ状などが挙げられる。球状のBTO粒子はNi粒子の隙間に入りやすい。
【0016】
BTO粒子を電極層のNiの周りに均一に充填するために、BTO粒子の結晶子径は小さいほど好ましい。結晶子径は20nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、12nm以下がさらに好ましい。
【0017】
以下、前述のBTO粒子と溶媒を含む分散液について説明する。溶媒として、水や有機溶媒を例示できる。
【0018】
動的光散乱法により測定した分散液の平均粒子径は100nm以下である。平均粒子径が小さいほど、小型のMLCCに適用し易い。そのため、平均粒子径は50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。溶媒への分散性を考慮すると、平均粒子径は1.5nm以上が好ましい。なお、500℃焼成後のBTO粒子は焼結しているため、平均粒子径は500nmより大きい。この点で焼成前のBTO粒子と区別できる。分散液中のBTO粒子は、一次粒子(結晶子)の形態と、一次粒子が複数集まった二次粒子の形態の少なくとも一方の形態をとる。一次粒子の形態のBTO粒子は、電極層のNiの周りに均一に充填され易い。
【0019】
BTO粒子が一次粒子の形態かどうかは、平均粒子径と結晶子径との比(平均粒子径/結晶子径)で判断することができる。この比が小さいほど、BTO粒子を構成する結晶子の数が少なくなる。例えば、この比が、2以下、1以下、0.5以下と下がるにつれて、BTO粒子を構成する結晶子の数が少なくなる。この比が0.1未満のBTO粒子は調製しにくいので、下限は0.1といえる。
【0020】
次に、BTO粒子の製造方法について説明する。まず、バリウムの水酸化物とアルキルセロソルブの混合液を調製する(第一工程)。この混合液を40℃以上の状態で脱水する(第二工程)。さらに、混合液にチタンアルコキシドを添加する(第三工程)。この混合液に水を含んだ溶媒を添加する(第四工程)。さらに、混合液を20℃以上で熟成する(第五工程)。このとき、第五工程が行われるまでに、混合液に置換元素の原料(金属元素)を添加しておく必要がある。すなわち、第一工程開始前から第五工程開始前のどこかのタイミングで混合液に金属元素を添加する。これにより、第五工程でチタン酸バリウムが混合液中で結晶化し、ペロブスカイト構造のBTO粒子が得られる。
【0021】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0022】
<第一工程>
本工程では、バリウムの水酸化物とアルキルセロソルブを混合し、混合液を調製する。アルキルセロソルブはバリウムの水酸化物と相互作用する。相互作用によりバリウムの水酸化物がアルキルセロソルブに溶解する。溶解が進むほど(よく溶解するほど)BTOの平均粒子径は小さくなる。アルキルセロソルブの炭化水素基の炭素数が少ないほど、相互作用が起き易い。炭素数は、4以下が好ましく、2以下がより好ましい。アルキルセロソルブとして、メチルセロソルブが好ましい。また、混合液に超音波を照射することにより、バリウム水酸化物が溶解し易くなる。バリウムの水酸化物の代わりにバリウムのアルコキシドを用いると、平均粒子径を小さくすることができるものの、コストが高くなってしまう。
【0023】
<第二工程>
本工程では、混合液から水を取り除く(すなわち、混合液を脱水する)。バリウムの水酸化物とアルキルセロソルブとが相互作用する際に水が発生する。この水を取り除くことにより相互作用が促進する。脱水する際に、混合液の温度が高いほど、バリウムの水酸化物がアルキルセロソルブと相互作用し易くなる。脱水時の温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。温度が高いほど脱水し易いものの、高過ぎると突沸するおそれがある。突沸を防ぐには、90℃以下が好ましい。
【0024】
脱水時間が長いほど、多くの水を取り除くことができるため、相互作用が促進する。したがって、脱水時間は10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。一方、脱水時間が長すぎると、生産効率が低い。10時間以下、5時間以下、3時間以下、の順に効率がよくなる。また、脱水時間が長いほど、バリウムの水酸化物は溶け残り難い。溶け残り量が少ないほど、収率が高くなる。溶け残り量を考慮して、脱水時間を設定してもよい。例えば、溶け残り量が原料の4割未満になるように脱水した場合、粒子の収率が6割以上となる。溶け残り量は、3割未満が好ましく、2.5割未満がより好ましい。
【0025】
脱水方法として、(減圧)蒸留、ならびに、シリカゲルやゼオライト等の吸着材を用いる方法などが挙げられる。(減圧)蒸留する場合、その時間が長いほど、溶解するバリウムの水酸化物の量が多くなる。そのため、30分以上蒸留することが好ましい。
【0026】
脱水後の混合液の水分量が少ないほど、チタンアルコキシドの添加時に不純物ゲルが発生し難い。そのため、この水分量は1重量%未満が好ましく、0.8重量%以下がより好ましく、0.55重量%以下がさらに好ましい。
【0027】
脱水後の混合液から未溶解の化合物を分離することが好ましい。溶け残ったバリウムの水酸化物や金属元素と、空気中の物質(CO2等)が反応して生じたバリウムの塩など(炭酸塩など)が不純物となる。本工程の前に不純物が存在していても、本工程で除去できる。第一工程で水酸化物の溶解を促進させれば、不純物を少なくすることができる。分離方法として、ろ過やデカンテーション等が挙げられる。デカンテーションの前に、混合液を遠心分離してもよい。
【0028】
<第三工程>
本工程では、混合液にチタンアルコキシドを添加する。このとき、あらかじめ混合液中のバリウムの濃度を10重量%以上にしておく必要がある。チタンアルコキシドが添加される前の混合液に置換元素となる金属元素が既に存在している場合、バリウムと金属元素の濃度の合計を10重量%以上にしておく必要がある。この濃度が10重量%未満の場合、混合液中でバリウムや金属元素がチタンと均一に反応し難く、バリウムと金属元素がAサイトに入り難くなる。そのため、熟成後にペロブスカイト構造以外の化合物(バリウム化合物、金属元素の化合物またはチタン化合物等)が生じ易い。一方、この濃度が高すぎるとゲルが発生しやすい。そのため、この濃度は40重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。本工程の前であれば、どの工程でバリウムの濃度を調整してもよい。濃度調整の方法として(減圧)蒸留を選択すれば、加温、脱水、濃度調整(濃縮)を同時に行うことができる。すなわち、工程数を減らすことができる。(減圧)蒸留の時間が長過ぎると、混合液のバリウムの濃度が高くなり過ぎるため、5時間以下が好ましい。蒸留温度やバリウムの濃度、混合液の量等を考慮して、(減圧)蒸留の時間を設定できる。
【0029】
<第四工程>
次に、混合液に水を含む溶媒を添加する。これにより、チタンアルコキシドが加水分解する。モル比が6未満の場合は、加水分解が十分に行われない。モル比が30より大きい場合には局所的に加水分解が発生するため、不純物が生じ易い。また、アルコールと水の混合溶媒を添加することにより、加水分解速度を調整することができる。そのため、均一な加水分解が実現する。均一な加水分解により、不純物が生じにくくなる。不純物を減らすためには、アルコールと水の重量比(アルコール/水)は0.5~4.0が好ましく、1.5~3.5がより好ましい。特に、添加する水と、混合液中のチタンアルコキシドのモル比が8に近いとき、例えば、モル比が7~9のときに、アルコールと水の重量比が1.5~3.5の範囲にあることが好ましい。この範囲であれば、粒子径を小さくすることができる。
【0030】
<金属元素添加工程>
次の第五工程で熟成する前に、置換元素となる金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液を混合液に加えておく必要がある。熟成後にアルキルセロソルブ溶液を加えた場合、ペロブスカイト構造が生成した後に金属元素が添加されることになり、ペロブスカイト構造のAサイトに金属元素が入らない。チタンアルコキシドを添加した後に金属元素を添加することが好ましい。これにより、BTO粒子の熱収縮率を低くすることができる。添加した金属元素のうちAサイトに入らなかった金属元素は、不純物としてBTO粒子の結晶子の外に存在するので、BTO粒子の熱収縮率を低くすることはできない。不純物はMLCCの性能を低下させる原因となる。混合液中のバリウムと本工程で添加する金属元素のモル量の比は、上述のバリウムと置換元素のモル量の和に対する置換元素のモル量の割合〔A/(Ba+A)〕と同じでよい。
【0031】
熟成時の混合液中に存在する金属元素(A)とバリウム(Ba)の合計と、チタン(Ti)との原子比(Ba+A/Ti)が1に近いほど、不純物が生じ難い。そのため、この原子比が0.95~1.02の範囲となるように、金属元素とチタンアルコキシドの添加量を設定することが好ましい。さらに、Ti(OR)4の構造を持つチタンアルコキシド(Rは炭素数1~4の炭化水素基であって互いに同一であっても異なっていてもよい)を用いることにより、不純物が生成し難くなる。テトライソプロポキシチタンが入手し易く、大量生産に向いている。
【0032】
金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液は、金属アルコキシドをアルキルセロソルブに溶解させて調製してもよいし、バリウムの水酸化物と同様に、金属元素の水酸化物をアルキルセロソルブと相互作用(溶解)させて調整してもよい。金属元素の水酸化物とアルキルセロソルブを相互作用させない場合、金属元素はAサイトに入り難く、BTO粒子の熱収縮率が高くなる。
【0033】
金属元素の原料としてストロンチウムの水酸化物を用いる場合は、ストロンチウムの水酸化物とアルキルセロソルブとを混合し、第二混合液を調製する。第二混合液を-5~15℃の状態にする。この反応は発熱反応であるため、第二混合液をこの温度範囲の状態にすることによりストロンチウム水酸化物とアルキルセロソルブが相互作用し易くなる。-5~15℃の状態で静置させることにより、ストロンチウムの水酸化物とアルキルセロソルブが相互作用し易くなる。-5~15℃の状態にする時間が長いほど相互作用しやすい。そのため、この時間は10時間以上が好ましい。この時間が長いほど、コストが高くなる。そのため、この時間は100時間以下が好ましい。-5~15℃の状態にする際、第二混合液中のストロンチウム水和物の濃度が高すぎると、相互作用し難い。そのため、この濃度は50重量%以下が好ましく、30重量%以下が好ましい。第三混合液は9℃以下の状態にすることが好ましく、8℃以下がさらに好ましい。
【0034】
金属元素の原料として金属アルコキシドを用いる場合は、金属アルコキシドとアルキルセロソルブを混合し、第三混合液を調製する。第三混合液を-5~15℃の状態にすることにより、金属アルコキシドをアルキルセロソルブに溶解させる。-5~15℃の状態で静置させることにより、ストロンチウムの水酸化物とアルキルセロソルブが相互作用し易くなる。-5~15℃の状態にする時間が長いほど溶解しやすい。そのため、この時間は10時間以上が好ましい。この時間が長いほど、コストが高くなる。そのため、この時間は100時間以下が好ましい。金属アルコキシドとして、ストロンチウムやカルシウムのアルコキシドが好ましい。第三混合液は9℃以下の状態にすることが好ましく、8℃以下がさらに好ましい。
【0035】
<第五工程>
バリウム、金属元素、チタンを含む混合液を20℃以上の状態にする。これにより、混合液が熟成され、ペロブスカイト構造の粒子が得られる。この方法であれば、焼成をしなくても、ペロブスカイト構造のBTO粒子が得られる。また、混合液を熟成することにより、BTO粒子を溶媒に分散させたまま結晶化できる。すなわち、結晶化のために粒子を溶媒から取り出す必要がない。そのため、ペースト化の際にBTO粒子を溶媒に再分散させる必要がなく、製造工程を減らすことができる。また、熟成すると、平均粒子径が均一になり易い。熟成時間が20℃未満では結晶化に必要なエネルギーが得られにくく、熟成に時間がかかり生産性が低い。20℃以上に保つ時間が長い方が、BTO粒子の結晶の欠陥が少なくなり、熱安定性が高くなり易い。そのため、熟成時間は6時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましい。一方、時間が長過ぎても生産効率が悪くなる。例えば、500時間以下であると効率がよい。
【0036】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0037】
[実施例1]
本実施例では、第二工程で脱水濃縮した後の混合液に、金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液を添加した。
【0038】
<第一工程>
水酸化バリウム・八水和物(富士フィルム和光純薬社製)100gと2-メトキシエタノール(メチルセロソルブ)630gを1Lのビーカーに入れ、40℃で30分間超音波を照射した。これにより、水酸化バリウムの一部が溶解した混合液を得た。
【0039】
<第二工程>
この混合液を2Lのナス型フラスコに入れ、エバポレータを用いて減圧蒸留(15hPa-70℃-1H)を行った。すなわち、脱水と濃縮を同時に行った。
【0040】
<金属元素添加工程>
ジエトキシカルシウム(高純度化学研究所社製)2.5gとメチルセロソルブ100gをビーカーに入れ、1時間撹拌した後、23~25℃で6時間静置した。さらに、冷蔵庫でこれを3~8℃で15時間静置し、その後、ろ過により未溶解物を除去し、カルシウム溶液(金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液)を得た。ICP-OES(Agilent製ICP-OES 5800、以下同じ装置で測定)によって、この溶液のカルシウム濃度が0.76%であることを確認した。
【0041】
混合液にこのカルシウム溶液0.4gを混合した後、遠心分離することにより、未溶解の化合物を沈降させた。上澄み(混合液)をデカンテーションすることにより、沈降物(未溶解の化合物)を分離した。沈降物は白色であった。遠心分離の条件は、3000rpm、15分とした。ICP-OESにより測定した上澄み(チタンアルコキシドを添加する直前の混合液)のバリウム濃度は15.5重量%、カルシウム濃度は0.05重量%、水分含有量は0.49重量%であった。
【0042】
<第三工程>
この上澄みにチタンアルコキシドを、原子比(〔Ba+Ca〕/Ti)が1.00となるように添加した。すなわち、窒素ガス雰囲気下のグローブボックス内で、上澄み100gにテトライソプロポキシチタン(マツモトファインケミカル社製オルガチックス(登録商標)TA-8;Ti濃度16.85重量%)32.5gを添加し、混合物を調製した。
【0043】
<第四工程>
混合物を25℃で撹拌しながら、メタノール49.4gと水16.5gの混合溶媒を1分間かけて混合物に添加した後、混合物を室温で1時間撹拌した。
【0044】
<第五工程>
この混合物を80℃に昇温し、48時間熟成することにより、BTO粒子の分散液が得られた。この分散液50gを130℃で1時間乾燥し、BTO粒子の粉末を得た。
【0045】
第五工程で得られた粉末2gをるつぼに入れ、2.5時間かけて500℃まで昇温し、500℃で3時間焼成した。これにより500℃焼成品を得た。BTO粒子の粉末をICP-OESにより測定し、置換元素の割合〔A/(Ba+A)〕を測定・算出した。
【0046】
粒子の調製条件について、他の実施例・比較例も合わせて表1に示す。得られた粒子の物性を以下の方法で測定した。他の実施例・比較例の測定結果を併せて表2に示す。表2の「チタン酸バリウム粒子(焼成前)」の欄には、第五工程のBTO粒子の分散液とその130℃乾燥品(BTO粒子の粉末)の測定値を記載している。500℃焼成品の欄には、500℃焼成品(粉末)とその分散液の測定値を記載している。結晶子径増加率は、130℃乾燥品の結晶子径をDoとし、500℃焼成品の結晶子径をD1として算出した。
【0047】
(1)BTO粒子の平均粒子径
分散液1gを測定用のセルに充填した。セル内を均一にするためにセル中の液をスポイトで吸い上げ、再度セル内に戻した。この作業を二回繰り返し、測定用の試料とした。粒度分布装置(日機装社製ナノトラックUPA-UT151)を用い、動的光散乱法にて分散液の粒度分布を測定した。粒度分布から求められたメジアン径(D50)を平均粒子径とした。500℃焼成品0.5gを2-メトキシエタノール10gと混合し、超音波で分散処理を行うことにより、500℃焼成品の測定用の試料を調製した。測定は上記と同じ手順で行った。
【0048】
(2)結晶構造(結晶子径、ピーク強度比、メインピーク)
対象の粉末を粉砕し、測定用の試料とした。X線回折測定装置であるリガク社製MiniFlex(登録商標)600を用いて結晶構造を測定した。結晶構造は、解析ソフトであるPDXL2を用いて同定できる。結晶子径は、ペロブスカイト構造の2θ=31.5°付近の半価幅βを測定し、半価幅β(rad)からScherrerの式「D=Kλ/βcosθ」により算出できる。ここで、Dは結晶子径(Å)、KはScherrer定数、λはX線波長(1.7889Å)、θは反射角を表す。なお、BTO粒子は正方晶と立方晶の少なくとも一方の結晶構造をとる。結晶構造が正方晶(Tetragonal)の場合、ミラー指数「101」の半価幅βを測定し、立方晶(Cubic)の場合、ミラー指数「110」の半価幅βを測定する。解析ソフトのPDXL2(version 2.0.3.0)を用いてピークサーチ(ハイブリットサーチマッチ)を行い、比〔Ii/Ip〕を求めた。さらに、メインピークを測定した。
【0049】
[実施例2]
本実施例は、以下の相違点を除き、実施例1と同様である。すなわち、金属元素添加工程で混合液とカルシウム溶液2.7gを混合した。第三工程にてTA-8を34.33g使用した。第四工程にて水を17.4gとメタノールを52.21g使用した。
【0050】
[実施例3]
本実施例では、第二工程の前に置換元素の原料である金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液を添加した。
【0051】
<第一工程>
水酸化バリウム・八水和物(富士フィルム和光純薬社製)100gと2-メトキシエタノール(メチルセロソルブ)630gを1Lのビーカーに入れ、混合した。40℃で30分間これに超音波を照射することにより、水酸化バリウムの一部を溶解させ、混合液を得た。
【0052】
<金属元素添加工程>
まず、水酸化ストロンチウム・八水和物(富士フィルム和光純薬社製)4.5gとメチルセロソルブ33gをビーカーに入れ、1時間撹拌した後、23~25℃で6時間静置した。さらに、冷蔵庫でこれを3~8℃で15時間静置した。その後、エバポレータにて3倍に濃縮し、ろ過にて未溶解物を除去することでストロンチウム溶液(金属元素を含んだアルキルセロソルブ溶液)を得た。この溶液をICP-OESにて測定し、ストロンチウム濃度が13.86%であることを確認した。このストロンチウム溶液0.6gと第一工程で得た混合液を2Lのナス型フラスコに入れ混合した。
【0053】
<第二工程>
このストロンチウム溶液0.6gと第一工程で得た混合液を2Lのナス型フラスコに入れ、エバポレータを用いて減圧蒸留した。すなわち、脱水と濃縮を同時に行った(第二工程)。蒸留は、70℃、及び15hPaの条件で1時間行った。
【0054】
次に、蒸留後の混合液を遠心分離することにより、未溶解の化合物を沈降させた。その後、上澄み(混合液)をデカンテーションし、沈降物(未溶解の化合物)を分離した。沈降物は白色であった。遠心分離の条件は、3000rpm、15分とした。ICP-OESにより測定した上澄み(チタンアルコキシドを添加する直前の混合液)のバリウム濃度は16.00重量%、ストロンチウム濃度は2.55重量%、水分含有量は0.56重量%であった。
【0055】
<第三工程>
この上澄みにチタンアルコキシドを、原子比(〔Ba+Sr〕/Ti)が1.00となるように添加した。すなわち、窒素ガス雰囲気下のグローブボックス内で、上澄み100gにテトライソプロポキシチタン(マツモトファインケミカル社製オルガチックス(登録商標)TA-8;Ti濃度16.85重量%)41.4gを添加し、混合物を調製した。
【0056】
<第四工程>
混合物を25℃で撹拌しながら、メタノール62.92gと水21.0gの混合溶媒を1分間かけて添加した後、混合物を25℃で2時間撹拌した。
【0057】
<第五工程>
この混合物を80℃に昇温した後に48時間熟成することにより、BTO粒子の分散液が得られた。この分散液50gを130℃で1時間乾燥することにより、BTO粒子の粉末が得られた。粉末の外観は白色であった。この粒子の粉末2.5gをるつぼに入れた。この粉末を2.5時間かけて500℃まで昇温し、500℃で3時間焼成することにより、500℃焼成品が得られた。
【0058】
[実施例4]
本実施例は、以下の相違点を除き、実施例3と同様である。すなわち、金属元素添加工程でストロンチウム溶液の量を1.0gにした。第三工程にてTA-8を46.1g使用した。第四工程にて水を23.3gとメタノールを70.1g使用した。
【0059】
[実施例5]
本実施例は、以下の相違点を除き、実施例3と同様である。すなわち、金属元素添加工程で混合液とストロンチウム溶液1.5gを混合した。第三工程にてTA-8の量を54.13gにした。第四工程にて水の量を23.3gに、メタノールの量を82.3gにした。
【0060】
[実施例6]
本実施例は、以下の相違点を除き、実施例3と同様である。すなわち、金属元素添加工程でストロンチウム溶液の代わりにストロンチウム溶液0.12gとカルシウム溶液0.3gを用いた。第三工程にてTA-8の量を33.75gにした。第四工程にて水の量を17.1gに、メタノールの量を51.3gにした。
【0061】
[実施例7]
実施例1で得たBTO粒子の分散液100gを2-(2―ブトキシエトキシ)エタノール(富士フィルム和光)80gと混合し、エバポレータにて蒸留し、分散液を得た。蒸留条件は、温度70℃、減圧度0.015MPa、1時間とした。
【0062】
[実施例8]
カルシウム溶液を金属元素添加工程ではなく、TA-8を添加した後に添加し、1時間混合した。それ以外は、実施例1と同様である。
【0063】
[比較例1]
本比較例は、以下の点が実施例8と相違している。金属元素添加工程・第二工程にて、カルシウム溶液を加えなかったこと、第三工程にてTA-8の量を33.1gにした。第四工程にて水の量を16.8gに、メタノールの量を50.3gにした。
【0064】
[比較例2]
本比較例は、以下の点が実施例8と相違している。カルシウム溶液を金属元素添加工程で添加せず、第三工程にてTA-8を35.0g添加した後、水酸化ストロンチウムを0.85g添加した。第四工程で水の量を17.7g、メタノールの量を53.2gにした。
【0065】
[比較例3]
本比較例は、以下の点が実施例8と相違している。カルシウム溶液を金属元素添加工程で添加せず、第三工程にてTA-8を35.0g添加した後、水酸化カルシウムを0.52g添加した。第四工程にて水の量を17.7g、メタノールの量を53.2gにした。
【0066】
【0067】