(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130637
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】受信装置、送信装置、及び送受信システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20240920BHJP
G01S 3/48 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
G01S3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040477
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110003937
【氏名又は名称】弁理士法人前川知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼太
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マルチパスの影響を抑制し、より正確に電波の到来方向を認識できる受信装置、送信装置、及び送受信システムを提供すること。
【解決手段】測量システム1は、測量装置100と、送信部210Aが設けられた再帰反射器具200とを有し、測量装置100は、本体部100bを鉛直軸回りに回転可能な水平駆動部102と、特定の電波を受信する受信部120と、受信部が異なる複数の位置から送信された電波を受信した場合に、各電波の推定到来方向を算出して各推定到来方向から本体部の指向方向を設定する演算部101bと、演算部により設定された指向方向に本体部を指向させるよう水平駆動部を制御する測量制御部101aと、を備え、送信部210Aは、特定の電波を送信するビーコン211Aと、ビーコンを移動可能に支持する支持部212Aと、ビーコンを移動させ複数の位置から電波を送信させる送信制御部213Aと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部を回転可能な回転駆動部と、
特定の電波を受信する受信部と、
前記受信部が異なる複数の位置から送信された前記電波を受信した場合に、各電波の到来方向を算出して、各到来方向から前記本体部の指向方向を設定する演算部と、
前記演算部により設定された指向方向に前記本体部を指向させるよう前記回転駆動部を制御する駆動制御部と、
を備える受信装置。
【請求項2】
前記受信部は複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナであり、
前記演算部は、前記各アンテナ素子で受信した前記電波の位相差から前記到来方向を算出する請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記複数の位置から送信された電波のうち、強度の強い電波から推定された到来方向を前記指向方向に設定する請求項1に記載の受信装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記複数の位置から送信された電波を合成処理して前記指向方向を設定する請求項1に記載の受信装置。
【請求項5】
前記本体部は、測量対象を測量するための測距部をさらに備える請求項1に記載の受信装置。
【請求項6】
特定の電波を送信する送信端末と、
前記送信端末を移動可能に支持する支持部と、
前記送信端末を移動させ複数の位置から前記電波を送信させる送信制御部と、
を備える送信装置。
【請求項7】
特定の電波を送信する送信端末と、
複数の前記送信端末が異なる複数の位置に配設された支持部と、
複数の前記送信端末からそれぞれ前記電波を送信させる送信制御部と、
を備える送信装置。
【請求項8】
前記支持部と連結され、入射方向と同じ方向に光を反射する再帰反射部をさらに備える請求項6又は7に記載の送信装置。
【請求項9】
請求項1に記載の受信装置と、
請求項6又は7に記載の送信装置と、
を備える送受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受信装置、送信装置、及び送受信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、Bluetooth(登録商標)の電波が送信された方向を認識可能な方向検知技術が普及している。例えば下記特許文献1では、Bluetooth(登録商標)の方向検知技術を測量装置に適用して、測量装置を測量対象に指向させることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、反射等の影響で本来の方向とは異なる方向からの電波も受信される現象(いわゆるマルチパス)が発生し、電波の到来方向を正確に検知できない場合がある。
【0005】
そこで、本開示の目的は、マルチパスの影響を抑制し、より正確に電波の到来方向を認識できる受信装置、送信装置、及び送受信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本開示の受信装置は、本体部を回転可能な回転駆動部と、特定の電波を受信する受信部と、前記受信部が異なる複数の位置から送信された前記電波を受信した場合に、各電波の到来方向を算出して、各到来方向から前記本体部の指向方向を設定する演算部と、前記演算部により設定された指向方向に前記本体部を指向させるよう前記回転駆動部を制御する駆動制御部と、を備える。
【0007】
また本開示の送信装置は、特定の電波を送信する送信端末と、前記送信端末を移動可能に支持する支持部と、前記送信端末を移動させ複数の位置から前記電波を送信させる送信制御部と、を備える
【0008】
また本開示の送信装置は、特定の電波を送信する送信端末と、複数の前記送信端末が異なる複数の位置に配設された支持部と、複数の前記送信端末からそれぞれ前記電波を送信させる送信制御部と、を備える。
【0009】
本開示の送受信システムは、上記受信装置と、上記送信装置のいずれかとを備える。
【発明の効果】
【0010】
上記本開示によれば、マルチパスの影響を抑制し、より正確に電波の到来方向を認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の測量システムを示す全体構成図である。
【
図2】本実施形態の測量システムを示すブロック図である。
【
図3】本実施形態の測量方法を示すフローチャートである。
【
図4】送信部の変形例を示す説明図(a)~(d)である。
【
図5】ビーコンの移動方向の変形例を示す説明図(a)~(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、
図1~
図5を適宜参照しつつ、本発明に係る受信装置及び送信装置を適用した測量システム(送受信システム)の一実施形態について説明する。
【0013】
(測量システムの構成)
図1に示す測量システム1は、例えば建設現場において、測量装置100により、作業者が設置した再帰反射器具200の位置を測量するシステムである。測量システム1は、本発明に係る送受信システムの一実施形態である。
【0014】
図1に示すように、測量システム1は、測量装置100と、再帰反射器具200とを備えている。測量装置100は、例えばモータドライブ(MD)を有するトータルステーション(TS)であり、三脚100aと、三脚100aに支持されている円筒状の本体部100bと、本体部100bの上部に設けられている受信部120とを備えている。測量装置100は、本発明に係る受信装置の一実施形態である。再帰反射器具200は、本発明に係る送信装置の一実施形態である。
【0015】
図2に示すように、測量装置100の本体部100bは、本体制御部101と、水平駆動部102と、鉛直駆動部103と、水平方向検出部104と、鉛直方向検出部105と、測距部106と、操作部107と、表示部108と、望遠鏡部109と、記憶部110と、追尾部111とを備えている。また、本体制御部101は、例えばCPUであり、測量制御部101aと演算部101bとを備えている。
【0016】
本体制御部101の測量制御部101aは、水平駆動部102と、鉛直駆動部103と、水平方向検出部104と、鉛直方向検出部105と、測距部106と、操作部107と、表示部108と、望遠鏡部109と、記憶部110と、追尾部111と、演算部101bとを制御可能に構成されている。
【0017】
水平駆動部102(回転駆動部)は、測量装置100の本体部100bを鉛直軸回り、即ち水平方向に回転させるためのものである。
【0018】
鉛直駆動部103は、測量装置100の望遠鏡部109を水平軸回り、即ち鉛直方向に回転させるためのものである。
【0019】
水平方向検出部104は、望遠鏡部109の水平方向における回転角である水平角(すなわち、鉛直軸回りにおける基準方向DBからの回転角)を検出可能な水平エンコーダである。
【0020】
鉛直方向検出部105は、望遠鏡部109の鉛直方向における回転角である鉛直角(すなわち、水平軸回りにおける基準方向からの回転角)を検出可能な鉛直エンコーダである。
【0021】
測距部106は、測距光Lを再帰反射器具200のプリズム202に向かって送光するための送光部と、プリズム202からの反射光を受光するための受光部と、これら送光及び受光によって測距部106とプリズム202との距離を算出する算出部とを備えている。測距光Lは、例えば、直線方向に出射される可視光、近赤外線又は紫外線である。算出方式(測距方式)としては、例えば、周知の技術であるパルス方式又は位相差方式を採用することができる。
【0022】
本体制御部101の演算部101bは、測距部106により測定された斜距離と、水平方向検出部104により検出された水平角と、鉛直方向検出部105により検出された鉛直角とに基づき、再帰反射器具200の位置を測定可能に構成されている。この測定結果としては、例えば、2次元座標(x、y)又は3次元座標(x、y、z)として出力することができる。
【0023】
演算部101bは、この測定結果を3次元座標で出力する場合、例えば、再帰反射器具200のプリズム202の位置をそのまま出力してもよく、記憶部110において記憶されているプリズム202のオフセット(つまり、ポール201の先端の測点接触箇所とプリズム202との距離)に基づいて、この測点接触箇所の3次元座標(つまり
図1に示す測点Оの3次元座標)を出力してもよい。
【0024】
操作部107は、作業者が測量制御部101aに制御指示を与える入力を実施可能な操作手段であり、例えば、タッチパネル、スイッチ、ボタン、ダイアル等の任意のデバイスを含んでいる。
【0025】
表示部108は、各種情報を表示するためのものであり、例えば液晶パネルにより構成されている。本明細書において、各種情報とは、測距部106により測定された斜距離、水平方向検出部104により検出された水平角、鉛直方向検出部105により検出された鉛直角、演算部101bにより算出された再帰反射器具200の位置座標等の測量結果を含む、測量システム1において取得済み又は取得可能なあらゆる情報である。表示部108は、操作部107と一体に構成されていてもよい。
【0026】
望遠鏡部109は、作業者が望遠鏡部109を介してプリズム202の位置を視認可能なように構成されている。望遠鏡部109の視準方向は、測距部106による測距光Lの出射方向と同一方向になっている。
【0027】
記憶部110は、例えば、HDD、SSD又はフラッシュメモリ等の記憶媒体により実現され、測量装置100の寸法(高さ、幅、奥行きなど)、各種プログラム、測量結果等の各種情報を記憶可能に構成されている。例えば、記憶部110は、測距部106により測定された斜距離、水平方向検出部104により検出された水平角、鉛直方向検出部105により検出された鉛直角、演算部101bにより算出された再帰反射器具200の位置座標等の測量結果、上記オフセット等の各種情報を記憶している。
【0028】
追尾部111は、追尾光Tを照射し、プリズム202により反射された追尾光を受光する部分である。測量制御部101aは、反射された追尾光Tを受光し続けるよう水平駆動部102及び鉛直駆動部103を制御することで再帰反射器具200の追尾機能を実現している。なお
図1に示すように追尾光Tはある程度幅を有して照射され、この追尾光Tの範囲がプリズム202を追尾可能な範囲となる。
【0029】
また図示しないが、測量装置100は、図示しない情報端末との間で各種情報を共有可能であり、情報端末により測量装置100を制御することも可能である。情報端末としては、例えば、スマートフォン、フィーチャーフォン、タブレット、ハンドヘルドコンピュータデバイス(一例として、PDA:Personal Digital Assistant)、ウェアラブル端末(一例として、メガネ型デバイス、時計型デバイス)、パーソナルコンピュータ等がある。
【0030】
測量装置100の受信部120は、いわゆるアレイアンテナであり、再帰反射器具200の送信部210Aから送信される電波S(S1、S2)を受信可能な複数のアンテナ素子121を備えている。具体的には、
図1に示すように受信部120は基板122上にアンテナ素子121が水平方向及び鉛直方向にそれぞれ複数(
図1では水平方向3つずつ、鉛直方向3つずつ)配設されている。受信部120はこれら複数のアンテナ素子121で受信した各電波を信号として本体制御部101に送信する。
【0031】
再帰反射器具200は、ポール201と、プリズム202(測量対象)と、送信部210Aとを備えている。測量時には、ポール201の端部が測点Оに設置される。プリズム202は、入射した光と同じ方向に光を反射する再帰反射部である。プリズム202は、ポール201の上端に設けられており、本体部100bの測距部106から出射される測距光Lを測距部106に反射させる。
【0032】
送信部210Aは、Bluetooth(登録商標)の電波S(S1、S2)を送信するビーコン211A(送信端末)と、当該ビーコン211Aを移動可能に支持する支持部212Aと、ビーコン211Aを移動させ複数の位置から電波S(S1、S2)を送信させる送信制御部213Aと、を有している。また送信部210Aは、図示しない送信操作部を有しており、作業者の操作に応じて測量装置100に対して、プリズム202を視準させる視準指示を送信することも可能である。
【0033】
詳しくは、
図1に示すように、送信部210Aは、水平方向の一方向の延びた板状の支持部212A上に、ビーコン211Aが設けられている。支持部212A内には図示しない駆動機構が搭載され、ビーコン211Aを長手方向に摺動可能である。
【0034】
送信制御部213Aは、支持部212A内に搭載されたコンピュータであり、駆動機構の制御及びビーコン211Aの制御を行う。例えば、送信制御部213Aは、駆動機構によるビーコン211Aの移動速度や、移動位置、ビーコン211Aからの電波S(S1、S2)の送信タイミング等を制御可能である。
【0035】
なお、ビーコン211Aが支持部212A上で移動可能な距離、即ち支持部212Aの長手方向長さは、空間ダイバーシティを確保するため、Bluetooth(登録商標)の電波の0.5波長から2波長分の長さ(例えば2.4GHzの1波長12.5cm)が好ましい。送信制御部213Aは、少なくとも0.5波長分離れた位置にあるときにビーコン211Aからの電波送信を行う。例えば本実施形態の送信制御部213Aは、ビーコン211A及び支持部212Aを制御して、支持部212Aの長手方向一端側の第1の送信位置からの電波S1と、支持部212Aの長手方向他端側の第2の送信位置からの電波S2と、を送信させる。
【0036】
一方、受信側である測量装置100は、演算部101bがいわゆるBluetooth(登録商標)の方向検出機能を有する。具体的には、演算部101bは受信部120の複数のアンテナ素子121それぞれが受信した信号間の位相差に基づき、受信部120に対する送信部210Aの方向(信号の到来方向)を算出する。この到来方向は、任意の2次元平面における方向(例えば水平面)であっても3次元空間における方向であってもよい。
【0037】
さらに演算部101bは、受信部120が異なる複数の位置から送信された送信部210Aからの電波S(S1、S2)を受信した場合に、各電波S(S1、S2)の到来方向を算出する機能を有する。つまり、演算部101bは、空間ダイバーシティに基づく到来方向の算出が可能である。そして、演算部101bは、算出した到来方向から本体部100bの指向方向DAを設定し、測量制御部101aが演算部101bにより設定された指向方向DAに本体部100bを指向させるよう水平駆動部102を制御する。
【0038】
例えば、演算部101bは、受信部120によって第1の送信位置から送信された電波S1と、第2の送信位置から送信された電波S2のそれぞれの到来方向を算出した後、電波強度に応じていずれかの到来方向を選択する。具体的には、演算部101bは、第1の電波S1と第2の電波S2のうち電波強度の強い方の到来方向を最終的な到来方向として選択し、当該到来方向に基づいて本体部100bを指向させる。
【0039】
本体部100bの指向方向DAは、具体的には測距部106の測距光出射方向、即ち望遠鏡部109の視準方向を基準とした水平方向の相対向きである。演算部101bは基準方向DBから指向方向DAまでの相対水平角θを算出して、当該相対水平角θ分、水平駆動部102により本体部100bを回転させる。このように本体部100bを指向方向DAに指向させることで、本体部100bを再帰反射器具200に向かせることができる。そして、プリズム202が追尾光Tの範囲内に入った際には、追尾部111を用いた追尾機能によりプリズム202を視準できる。
【0040】
(測量方法の手順)
次に、本実施形態の測量システム1を用いた測量方法について、
図3のフローチャートに沿って説明する。なお、本フローチャートは、前提として作業者が再帰反射器具200を測点Oに設置しており、且つプリズム202が追尾光Tの範囲外にある場合の測量制御を示している。
【0041】
まず、再帰反射器具200側のステップS20において、送信制御部213Aは、作業者の操作に基づき測量装置100に対して視準指示する。
【0042】
測量装置100側のステップS10において、測量制御部101aは、プリズム202の視準制御を開始する。具体的には、測量制御部101aは、追尾部111から追尾光Tの照射を開始する。
【0043】
次に再帰反射器具200側のステップS21において、送信制御部213Aは、支持部212A上の第1の位置にてビーコン211Aから電波(第1の電波S1)を送信させる。
【0044】
測量装置100側のステップS11において、受信部120が第1の電波S1を受信する。具体的には受信部120の各アンテナ素子121がそれぞれ第1の電波S1を受信し、電波強度や位相を測定する。
【0045】
続いて、測量装置100側のステップS12において、演算部101bは、各アンテナ素子121が測定した位相差から第1の電波S1の到来方向(第1の到来方向)を算出する。
【0046】
一方、再帰反射器具200側のステップS22において、送信制御部213Aは、ビーコン211Aを移動させる。具体的には、送信制御部213Aは、支持部212A内の駆動機構を制御してビーコン211Aを摺動させて第2の位置まで移動させる。なお、ステップS22においては、駆動機構の制御によりビーコン211Aを摺動させることに代えて、作業者の手動によりビーコン211Aを摺動させてもよい。
【0047】
再帰反射器具200側のステップS23において、送信制御部213Aは、支持部212A上の第2の位置にてビーコン211Aから電波(第2の電波S2)を送信する。
【0048】
測量装置100側のステップS13において、受信部120が第2の電波S2を受信する。具体的には受信部120の各アンテナ素子121がそれぞれ第2の電波S2を受信し、電波強度や位相を測定する。
【0049】
続いて、測量装置100側のステップS14において、演算部101bは、各アンテナ素子121が測定した位相の差から第2の電波S2の到来方向(第2の到来方向)を算出する。
【0050】
測量装置100側のステップS15において、演算部101bは、第1の電波S1及び第2の電波S2のうち、電波強度の強い方の電波に基づき算出された到来方向を、最終的な到来方向として選択する。
【0051】
測量装置100側のステップS16において、演算部101bがステップS15にて選択した到来方向を指向方向DAとして設定し、測量制御部101aが水平駆動部102により本体部100bを回転駆動させる。具体的には、演算部101bは、基準方向DBから指向方向DAまでの相対水平角θを算出して、測量制御部101aが当該相対水平角θ分、本体部100bを回転駆動させる。
【0052】
測量装置100側のステップS17において、測量制御部101aは、本体部100bの回転駆動停止後に、追尾光Tがプリズム202により反射されているか否かを判断する。ステップS17がYesである場合、すなわち、追尾光Tがプリズム202により反射された場合、プリズム202が追尾光T内に入ったことを意味し、測量制御部101aはステップS18に処理を進める。具体的には、ステップS18において、測量制御部101aは、追尾光Tの反射光を用いてプリズム202を視準する。一方、ステップS17がNoである場合、すなわち、相対水平角θ分の回転駆動が終了してもプリズム202が追尾光T内に入らない場合には、上記ステップS11及びステップS21に戻ってもよい。
【0053】
ステップS18の実施後、測量装置100側のステップS19において、測量制御部101aはプリズム202の測量を実行する。つまり、測量制御部101aは、測距部106による斜距離の測定、水平方向検出部104による水平角の検出、鉛直方向検出部105による鉛直角の検出を行い、測量結果を出力する。測量結果の出力が完了すると、本体制御部101及び送信制御部213Aは当該ルーチンを終了する。
【0054】
(本実施形態の効果)
上記実施形態に係る測量システム1及び測量方法によれば、測量装置100は、受信部120が異なる複数の位置から送信された電波を受信した場合に、演算部101bが各電波の到来方向を算出し、各到来方向から指向方向DAを設定し、指向方向DAに向けて本体部100bを回転駆動させている。このように電波による位置検出技術を用いて、送信部210Aが設けられた再帰反射器具200の位置を特定することで、追尾部111による追尾機能が及ばない範囲でも、本体部100bを再帰反射器具200に指向させることができ、且つ複数の位置から送信された電波S(S1、S2)から到来方向を算出することで、空間ダイバーシティを利用してマルチパスの影響を抑制し、より正確に電波S(S1、S2)の到来方向を認識できる。
【0055】
特に受信部120は複数のアンテナ素子121を有するアレイアンテナであり、演算部101bは、各アンテナ素子121で受信した電波の位相差から到来方向を算出することから、容易に電波S(S1、S2)の到来方向を認識することができる。
【0056】
また、再帰反射器具200に設けられた送信部210Aは、ビーコン211Aが移動可能に支持部212Aに設けられ、送信制御部213Aがビーコン211Aを移動させ複数の位置から前記電波を送信させることで、容易に空間ダイバーシティを実現させることができる。これによっても、マルチパスの影響を抑制し、より正確に電波S(S1、S2)の到来方向を認識させることできる。
【0057】
測量装置100と再帰反射器具200は、空間ダイバーシティを実現するために相補的に関連しており、これら測量装置100と再帰反射器具200を有する測量システム1としても、マルチパスの影響を抑制し、より正確に電波S(S1、S2)の到来方向を認識させることできる。
【0058】
(その他の実施形態)
以上で本開示の一実施形態の説明を終えるが、本開示の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0059】
上記実施形態では、演算部101bは電波強度の強い方の電波(S1又はS2)に基づく到来方向を最終的な到来方向として選択し、指向方向DAを設定している。これにより電波強度が弱い電波(S1又はS2)、つまり精度が低い可能性が高い電波(S1又はS2)に基づく到来方向を排除することができるという利点がある。一方、最終的な到来方向の算出方法はこれに限られるものではない。
【0060】
例えば、演算部101bは、複数の位置から送信された電波(S1及びS2)を合成して、最終的な到来方向(つまり指向方向DA)を設定してもよい。具体的には、演算部101bは、算出した各電波(S1及びS2)の到来角(基準方向DBに対する到来方向までの角度)を平均化して最終的な到来方向としてもよい。単純な平均化だけでなく、例えば各電波S1、S2の強度に応じて重みづけした上で平均化をしてもよい。つまり電波強度の高い到来方向に寄る割合が高くなる合成処理を行う。
【0061】
このように、算出した各到来方向を合成処理して指向方向DAを設定すれば、極端に精度を落とすことなく、電波S(S1、S2)の到来方向を認識させることできる。
【0062】
また、上記実施形態では、送信部210Aは、ビーコン211Aが水平方向に摺動することで、複数の位置から電波S(S1、S2)を送信可能としているが、送信部の構成はこれに限られるものではない。
【0063】
ここで
図4を参照すると、送信部の変形例を示す説明図(a)~(d)が示されており、以下同図に基づき送信部の変形例について説明する。なお、各変形例において、支持部内に設けられている送信制御部は図示を省略している。
【0064】
図4(a)に示す第1変形例の送信部210Bは、支持部212Bが再帰反射器具200のポール201の長手方向に沿って延びた板状をなしている。ビーコン211Bは当該支持部212Bに沿って、即ちポール201の長手方向に沿って摺動可能である。したがって、再帰反射器具200を設置すると、ビーコン211Bは鉛直方向に移動することとなる。鉛直方向の複数位置から電波を送信できることで、水平角に対する誤差を抑えた空間ダイバーシティを実現することが可能となり、測量装置100の本体部100bを再帰反射器具200に指向させるのに、より好適である。
【0065】
図4(b)に示す第2変形例の送信部210Cは、取付位置は上記実施形態と同じようにポール201の上端であるが、支持部212Ca上にさらに柱部212Cbが立設している。そして、柱部212Cb下部に第1ビーコン211Caが設けられ、柱部212Cb上部に第2ビーコン211Cbが設けられている。このような構成によっても、鉛直方向の複数位置から電波を送信できる。したがって、第1変形例と同様に、水平角に対する誤差を抑えた空間ダイバーシティを実現することが可能となり、測量装置100の本体部100bを再帰反射器具200に指向させるのに、より好適である。
【0066】
図4(c)に示す第3変形例の送信部210Dは、取付位置は上記実施形態と同じようにポール201の上端であり、支持部212Dの一端側の第1の位置に第1ビーコン211Daが設けられ、支持部212Dの他端側の第2の位置に第2ビーコン211Dbが設けられている。このような構成によっても第1の位置及び第2の位置から電波を送信でき、駆動機構を要さずに容易に空間ダイバーシティを実現することができる。
【0067】
図4(d)に示す第4変形例の送信部210Eは、取付位置は上記実施形態と同じようにポール201の上端であり、支持部212E上に、当該支持部212Eに沿って長いビーコン211Eが設けられている。当該ビーコン211Eは、一端側の第1の位置に第1送信アンテナ211Eaを有し、他端側の第2の位置に第2送信アンテナ211Ebを有している。図示しない送信制御部は、第1送信アンテナ211Ea及び第2送信アンテナ211Ebを切り替えて電波を送信する。このような構成によっても第1の位置及び第2の位置から電波を送信でき、駆動機構を要さずに容易に空間ダイバーシティを実現することができる。
【0068】
なお、送信部は上記実施形態及び各変形例を組み合わせた構成としてもよい。例えば、上記実施形態及び第1~第3変形例の各ビーコンに、第4変形例のビーコン211Eのように複数のアンテナを設けてもよい。また、第2~第4変形例の支持部に駆動機構を設けて各ビーコンを支持部上にて摺動可能としてもよい。
【0069】
また、ビーコンの移動方向は、上記実施形態では水平方向、第1変形例では鉛直方向であるが、受信部120から見た到来角が大きく変化しない範囲であれば、これに限られるものではない。例えば、
図5にはビーコンの移動方向を示す説明図(a)~(d)が示されている。なお
図5ではXY平面を水平方向とし、Z軸を鉛直方向として、丸印がビーコンの位置を示し、矢印により移動方向を示している。
【0070】
図5(a)に示すように、上記実施形態や第1変形例のような水平方向の一方向、鉛直方向一方向に往復運動させるだけでなく、ビーコン211を直線的に多方向に自由に移動させてもよい。また、
図5(b)に示すようにビーコン211をX軸線周りに回転移動させたり、
図5(c)に示すようようにビーコン211をY軸線回りに回転移動させたり、
図5(d)に示すようにビーコン211をZ軸線周りに回転移動させたり、してもよい。
【0071】
また、図示しないが、第2変形例や第3変形例のように複数のビーコンを配置する場合も、相対的な位置関係は水平方向や鉛直方向に限られず、水平方向且つ鉛直方向に離間した三次元的な配置にしてもよい。特に受信部120に対して三次元的に位置をずらして配置するとより多様性が確保され、適切な空間ダイバーシティを実現することができる。
【0072】
また、上記実施形態における演算部101bによる指向方向DAの設定は、相対水平角θを算出することで行っているが、指向方向は水平角のみに限られず、鉛直角のみ、又は水平角及び鉛直角の両方を設定してもよい。
【0073】
上記実施形態では測量装置100に対して単数の受信部120のみが設けられているが、測量装置100に対して複数の受信部120が設けられていてもよい。この場合、複数の受信部120のそれぞれが、複数の位置から送信された電波S(S1、S2)を受信して電波Sの到来方向を算出する。 演算部101bは、例えば、複数の受信部120ごとに算出した上記到来方向のうち、より強い電波S(S1、S2)を受信した受信部120により算出した上記到来方向を最終的な到来方向(指向方向DA)として認識するか、または、複数の受信部120ごとに算出した上記到来方向に平均化等の合成処理を行った上記到来方向を最終的な到来方向(指向方向DA)として認識する。これにより、電波Sの受信側においても空間ダイバーシティを利用するため、マルチパスの影響をさらに抑制することができ、より正確に電波Sの到来方向(指向方向DA)を認識することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 測量システム(送受信システム)
100 測量装置(受信装置)
100a 三脚
100b 本体部
101 本体制御部
101a 測量制御部
101b 演算部
102 水平駆動部(回転駆動部)
103 鉛直駆動部
104 水平方向検出部
105 鉛直方向検出部
106 測距部
107 操作部
108 表示部
109 望遠鏡部
110 記憶部
111 追尾部
120 受信部
121 アンテナ素子
200 再帰反射器具(送信装置)
201 ポール
202 プリズム
210A~210E 送信部
211(211A~211E) ビーコン(送信端末)
212(212A~212E 支持部
DA 指向方向
DB 基準方向
L 測距光
O 測点
S(S1、S2) 電波
T 追尾光
θ 相対水平角