(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130651
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/46 20060101AFI20240920BHJP
B01J 35/58 20240101ALI20240920BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240920BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20240920BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20240920BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20240920BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B01J23/46 301M
B01J35/06 A
B01J37/02 301P
B01J23/755 M
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040500
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康友
(72)【発明者】
【氏名】東 相吾
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA22B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC49A
4G169BC50B
4G169BC51B
4G169BC68B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CC22
4G169DA05
4G169EA06
4G169EA10
4G169EB19
4G169EC27
4G169FA02
4G169FB02
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA10
4H006BA23
4H006BA55
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】触媒活性をより高めることができる新規な複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】複合構造体は、粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子と、Ruとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子と、を含み、不織布構造を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子と、
Ruとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子と、を含み、不織布構造を有する複合構造体。
【請求項2】
前記Ru粒子及びM粒子は、不織布基材の表面に形成されている不織布構造を有するか、又は前記不織布基材が除去された半チューブ型の不織布構造を有する、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
モル比であるM/Ruが0.01以上0.5以下の範囲である、請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記元素Mは、第4族元素のうち1以上である、請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記対象化合物を水素化する触媒として用いられる、請求項1又は2に記載の複合構造体。
【請求項6】
Ru及びRuとは異なる元素Mを含む複合構造体の製造方法であって、
Ru原料のターゲットを用い蒸着処理を行い、不織布構造を有する基材表面に粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含む不織布構造を有する複合構造体を形成する形成工程と、
前記元素Mを含む溶液中に前記複合構造体を浸漬したのち熱処理を行う処理工程と、
を含む複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記形成工程では、除去可能な基材を用い、
前記形成工程のあと、且つ前記処理工程の前に前記基材を除去する除去工程、を含む請求項6に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項8】
粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子とRuとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子とを含み不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含む化合物の製造方法。
【請求項9】
粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含み、不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含む化合物の製造方法。
【請求項10】
前記水素化工程では、250℃以下の温度範囲で前記対象化合物を水素化する、請求項8又は9に記載の化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合構造体としては、貴金属、典型金属及び遷移金属のうちいずれか1以上である第1金属元素により構成される繊維体が3次元的に連結している自立構造体と、第1金属元素と異なる第2金属元素により構成され自立構造体上に形成された機能性部位とを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この複合構造体は、金属元素を含む自立構造を有する新規な複合体を提供することができる。また、触媒としては、シリカのナノファイバー表面に、Ruを内包したMOFを固定化したメタネーション触媒が報告されている(例えば、非特許文献1など参照)。また、メタネーション触媒として、ニッケル(Ni)担持触媒が報告されている(例えば、非特許文献2など参照)。また、メタネーション触媒として、表面積が大きい担持体の使用、担持体の組成調整、Ruの担持方法を最適化することで、ナノサイズ化したRuを担持したRu担持触媒が検討されている(例えば、非特許文献3~6など参照)。更に、担持体フリーの触媒として、Ruナノ粒子が検討されている(例えば、非特許文献7など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Appl.Catal.B,2023,320,121972.
【非特許文献2】Nat.Catal,2019,2,188-197
【非特許文献3】Energy Environ.Sci.,2009,2,315-321.
【非特許文献4】ACSCatal.,2013,3,2449-2455.
【非特許文献5】Energy,2018,43,7179-7189.
【非特許文献6】J.Catal.,2016,333,227-237.
【非特許文献7】Chem.Eng.,2019,7,11963-11969.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、触媒反応としては、二酸化炭素などの対象物を水素化してメタンを得るメタネーションがある。特許文献1の金属ナノ構造不織布では、Ruのナノ粒子からなるRu不織布が作製されているが、メタネーションなどの水素化技術は検討されていなかった。また、非特許文献1の触媒では、200℃で2.6mmol/h/g-catと、触媒性能が低かった。また、非特許文献2の触媒では、300℃以上の高温(場合によっては3MPa程度の高圧が必要)でないと、十分なメタン生成速度が得られなかった。更に、非特許文献3~6のRu担持触媒では、150~300℃でNi担持触媒より高い触媒性能を示すが、単位質量あたりのメタン生成速度は、150℃で1.88(mmol/h/g-cat)、200℃で34.5(mmol/h/g-cat)、300℃で62.7(mmol/h/g-cat)程度であり、極めて低いという課題があった。従来のRu担持触媒では、Ruのナノサイズ化(有効面積を増やす)を実現するために様々な取り組みがなされているものの、共通として担持体が使用されているため、触媒の単位質量あたりの性能は、担持体を使用する分、低くなる傾向があった。更にまた、非特許文献7の触媒では、150℃で32.2(mmol/h/g-cat)の活性を示すが、特殊な媒体(イオン性液体)を使用し、かつ125barなどの高圧が必要という課題があった。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、触媒活性をより高めることのできる新規な複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、Ru及びRuと異なる金属元素を含む自立構造体を形成すると、例えば、メタネーションなどの水素化活性の高い新規な複合構造体が得られることを見出し、本開示の複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示の複合構造体は、
粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子と、
Ruとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子と、を含み、不織布構造を有するものである。
【0009】
本開示の複合構造体の製造方法は、
Ru及びRuとは異なる元素Mを含む複合構造体の製造方法であって、
Ru原料のターゲットを用い蒸着処理を行い、不織布構造を有する基材表面に粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含む不織布構造を有する複合構造体を形成する形成工程と、
前記元素Mを含む溶液中に前記複合構造体を浸漬したのち熱処理を行う処理工程と、
を含むものである。
【0010】
本開示の化合物の製造方法は、
粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子とRuとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子とを含み不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含むものである。
【0011】
あるいは、本開示の化合物の製造方法は、
粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含み、不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示では、触媒活性をより高めることができる新規な複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、この複合構造体は、直径20nm以下のRu粒子が、例えば幅100~500nmのナノファイバーを形成し、それらが重なり合った不織布構造を有している。この複合構造体は、Ru粒子および粒子間が被覆される結着材や担持体なしに連結した構造体を形成していることから、一般的な担持触媒とは異なり、活性サイトが担持体に埋没したり、Ru同士の重なりが少ないため、活性サイトの有効面積が大きく、単位質量あたりの触媒活性を高めることができる。また、M粒子は、例えば、塩基性サイトとして働く場合は、CO2を捕捉する性質があり、Ru粒子の近傍にCO2が捕捉されることで、反応が円滑に進行するものと推察される。また、Ru粒子とM粒子との間に金属支持体相互作用(metal-support interaction)が働き、電子的効果により触媒活性が向上することも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】構造体20の構成の概略の一例を示す説明図。
【
図2】構造体20Bの構成の概略の一例を示す説明図。
【
図3】ポリイミド膜に転写した実験例1の外観及びFE-SEM像。
【
図4】ZrO
2を担持した実験例2の外観、FE-SEM像及びHA-BSE像。
【
図5】Ni不織布である実験例3のFE-SEM像。
【
図6】実験例4及び実験例5のRu微粉末のFE-SEM像。
【
図8】実験例1~5の反応温度とメタン生成速度との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[複合構造体]
本開示の複合構造体は、Ruの金属及び/又は酸化物であるRu粒子と、Ruとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子と、を含む。この複合構造体は、Ru粒子とM粒子とにより構成される繊維状の不織布構造を有する。複合構造体は、不織布構造の基材の表面にRu粒子とM粒子とが形成されているものとしてもよい。この複合構造体では、ハンドリングが容易であり、好ましい。あるいは、複合構造体は、不織布構造の基材の表面にRu粒子とM粒子とが形成された後、この不織布構造の基材が除去された半チューブ型の構造を有するものとしてもよい。この複合構造体では、Ru粒子の接触面積がより大きいため、触媒特性的に好ましい。また、この複合構造体は、Ruを含むナノ粒子の凝集体が3次元的に連結している自立構造を有するものとしてもよい。ここで、「自立構造」とは、ハンドリングが可能な程度の強度を持つ構造をいうものとする。また、「不織布構造」とは、基材としての不織布と近似した構造を有するものとする。また、「ナノ粒子」とは、粒径が1nm以上20nm以下である粒子をいう。ナノ粒子は、結晶質であってもよく、あるいは、非晶質であってもよい。
【0015】
複合構造体において、Ru粒子は、粒径が20nm以下であるものとし、粒径が10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましく、5nm以下であるものとしてもよい。Ru粒子の粒径は、より小さいことが、より低温での触媒活性が高く、好ましい。なお、この粒径は、複合構造体を電子顕微鏡で観察し、その表面に存在する粒状のRuの長径の最大値をいうものとする。Ru粒子は、Ruが集合した一次粒子としてもよいし、一次粒子が更に集合した二次粒子としてもよいが、一次粒子であることがより好ましい。
【0016】
複合構造体において、元素Mは、卑金属であることが好ましく、例えば、Ti、Zr、Hfなどの第4族元素や、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどや、Al、Si、Ceなどが挙げられる。このうち、元素Mは、Ti、Zr、Hf及びCeのうち1以上とすることが好ましい。M粒子は、元素Mの金属又は酸化物とするが、酸化物であることがより好ましい。このM粒子は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウムなどが好ましく、酸化ジルコニウムがより好ましい。M粒子は、粒径が50nm以下であるものとし、粒径が20nm以下であることが好ましく、10nm以下であるものとしてもよい。
【0017】
複合構造体は、Ruのモル数に対する元素Mのモル数であるモル比M/Ruが0.01以上0.5以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、例えば250℃以下などの低温範囲で対象物の水素化反応を進行可能であり、好ましい。このモル比M/Ruは、より大きいことが貴金属低減の観点から好ましく、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上としてもよい。また、このモル比M/Ruは、より小さいことが触媒活性向上の観点から好ましく、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2以下としてもよい。このモル比M/Ruは、発光分光分析により求めるものとする。
【0018】
複合構造体は、含まれる繊維体の長手方向に直交する幅が100nm以上500nm以下の範囲であるナノファイバーが連結した不織布構造を有するものとしてもよい。不織布構造に含まれる繊維体は、Ru及び元素Mを含んで形成されるものである。この繊維体の平均直径は、例えば、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、200nm以上であるものとしてもよい。この繊維体の平均直径は、例えば、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、200nm以下であるものとしてもよい。このとき、基材の直径(
図1の直径d参照)、即ち、基材繊維の平均直径は、例えば、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であるものとしてもよい。また、基材が除去された場合、基材により形成された基材空間の平均直径は、例えば、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であるものとしてもよい。基材繊維の平均直径は、Ruや酸化物Mが形成された繊維体の平均直径を決定する主因子であり、より細ければ不織布構造の表面積を増加することができる。なお、繊維体の断面が三日月形状など、一部欠けた形状である場合、繊維体の直径は、欠けた部分を含めて円形状にした疑似円の直径をいうものとする(
図2の直径D参照)。この平均直径は、SEMで所定視野(例えば5視野)観察し、各繊維の直径を求め、その平均値から求めるものとする。
【0019】
図1は、複合構造体20の構成の概略の一例を示す説明図である。この複合構造体20は、繊維体21が3次元的に連結している自立構造を備えている。この繊維体21には、その内部に不織布構造を形成する繊維状の基材22が含まれている。繊維体21は、Ruを含むRu粒子24の凝集体により構成されている。また、繊維体21を拡大すると、その表面に直径が1nm以上50nm以下の卑金属の元素Mを含むM粒子25が存在している。このような構造を有する複合構造体20では、柔軟性を有し、取り扱いしやすく、更に表面積が大きく、Ru粒子の触媒活性をより高めることができる。
【0020】
図2は、別の複合構造体20Bの構成の概略の一例を示す説明図である。この複合構造体20Bは、複合構造体20と同様に、繊維体21が3次元的に連結している自立構造を備えている。この繊維体21には、基材22の繊維が除去されたあとの基材空間22Bが形成されている。繊維体21は、Ruを含むRu粒子24の凝集体により構成されている。また、繊維体21を拡大すると、その表面に直径が1nm以上50nm以下の卑金属の元素Mを含むM粒子25が存在している。この複合構造体20Bは、繊維体21の中央に基材空間22Bが形成されている以外は、複合構造体20と同様の構造を有している。このような構造を有する複合構造体20Bでは、柔軟性を有し、取り扱いしやすく、更に表面積が大きく、Ru粒子24の触媒活性を更に高めることができる。
【0021】
[触媒システム]
本開示の複合構造体は、例えば、対象化合物を水素化する触媒として用いられるものとしてもよい。この複合構造体は、対象化合物及び水素ガスを収容する収容部と、収容部に配設され対象化合物の水素化を行う複合構造体を固定する固定部と、を備える触媒システムに用いられるものとしてもよい。対象化合物は、例えば、水素化によって有益な化合物が得られるものが挙げられ、具体的には、CO2などが挙げられる。もしくは、対象化合物は、例えば、環式芳香族化合物(例えば、ベンゼン)から環式脂肪族化合物(例えば、シクロヘキサン)を得ることや、オレフィン(例えば、エチレン)から脂肪族化合物(例えば、エタン)、アセチレン化合物(例えば、アセチレン)からオレフィン(例えば、エチレン)、アルデヒド(例えば、ベンズアルデヒド)やケトン(例えば、アセトフェノン)からアルコール(例えば、ベンジルアルコールや1-フェニルエタノール)、ニトリル(例えば、ベンゾニトリル)からアミン(例えば、ベンジルアミン)、カルボン酸(例えば、安息香酸)からアルコール(例えば、ベンジルアルコール)、ニトロ化合物もしくはニトロソ化合物(例えば、N,N-ジメチルニトロサミン)からアミン化合物(例えば、N,N-ジメチルヒドラジン)を得るなどのように、水素化反応によって所望の化合物が得られるものとしてもよい。水素化に用いられるガスは、水素としてもよい。対象化合物及び水素ガスの配合比や濃度は、適宜所望の範囲に設定することができる。また、触媒システムの水素化反応温度は、例えば、150℃以上300℃以下の範囲としてもよいし、200℃以上250℃以下の範囲などとしてもよい。なお、複合構造体の耐熱温度範囲、例えば、250℃以下などを水素化反応温度としても構わない。本開示の複合構造体は、CO2の低温での水素化反応に適している。この触媒システムにおいて、触媒の単位質量当たりの水素化の反応速度(mmol/h/g-cat)は、より高い方が好ましく、例えば、5以上が好ましく、10以上が好ましく、20以上が更に好ましく、50以上としてもよい。また、この反応速度は10000以下としてもよい。
【0022】
[化合物の製造方法]
本開示は、例えば、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る、化合物の製造方法としてもよい。この製造方法は、粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子とRuとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子とを含み不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、を含むものである。この化合物の製造方法では、上述した複合構造体を触媒として用いるものである。この化合物の製造方法では、上述した複合構造体を用いて、対象化合物としてのCO2を水素化するメタネーション反応により、メタンを得るものとすることが好ましい。水素化に用いられるガスは、水素としてもよい。対象化合物及び水素ガスの配合比や濃度は、適宜所望の範囲に設定することができる。また、この製造方法の水素化反応温度は、例えば、150℃以上300℃以下の範囲としてもよいし、200℃以上250℃以下の範囲などとしてもよい。本開示の複合構造体は、CO2の低温での水素化反応に適している。この触媒システムにおいて、触媒の単位質量当たりの水素化の反応速度(mmol/h/g-cat)は、より高い方が好ましく、例えば、5以上が好ましく、10以上が好ましく、20以上が更に好ましく、50以上としてもよい。また、この反応速度は10000以下としてもよい。
【0023】
あるいは、化合物の製造方法は、粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含み、不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し、水素化された化合物を得る水素化工程、を含むものとしてもよい。複合構造体にM粒子を含まないものとしても、より高い水素化活性を得ることができる。
【0024】
[複合構造体の製造方法]
本開示の複合構造体の製造方法は、上述した複合構造体を製造する方法である。この製造方法は、形成工程と、処理工程と、必要に応じて除去工程を含むものとしてもよい。また、この製造方法において、場合に応じて処理工程を省略し、元素Mを含まないRu粒子による複合構造体を製造するものとしてもよい。
【0025】
[形成工程]
形成工程では、少なくともRu粒子を含む不織布構造を有する複合構造体を形成する。この形成工程では、Ru原料のターゲットを用い蒸着処理を行い、不織布構造を有する基材表面にRu粒子を形成する。このRu粒子は、粒径が20nm以下であり、Ruの金属及び/又は酸化物である粒子を含む。この工程において、Ruの形成方法は、特に限定されないが、物理蒸着としてもよい。物理蒸着法としては、例えば、スパッタリング法、パルスレーザーデポジション(PLD)法などがある。基材表面にRuの物理蒸着を行う場合、物理蒸着は基材の両面から行ってもよいが、片面から行うことが好ましい。例えば、基材としてポリマー製のナノワイヤー不織布を用いる場合において、ナノワイヤー不織布の片面のみから物理蒸着を行うと、半チューブ型のナノワイヤーからなる不織布構造が得られる。半チューブ型のナノワイヤーは、チューブ型のナノワイヤー又はロッド型のナノワイヤーに比べて比表面積が大きい。このため、例えば、これを触媒システムの酸化触媒に適用した場合には、Ruの触媒活性をより高めることができる。また、半チューブ型のナノワイヤーでは、基材の除去がより容易であり好ましい。蒸着処理中の雰囲気は、酸化ガスを共存させるものとしてもよいし、不活性ガスとしてもよいが、不活性ガスである方が好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガスや希ガスなどが挙げられ、このうちArガスが好ましい。
【0026】
この工程で用いる基材としては、ポリマーを用いることが好ましい。基材としてポリマーを用いると、複合構造体の形成時に基材表面において、ナノ粒子の核生成及び粒成長が比較的容易に進行する。あた、基材がポリマーの場合、除去しやすく好ましい。ポリマーは、例えば、溶媒可溶性の樹脂などが好ましい。基材に用いられるポリマーの組成は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。また、基材の除去を容易化する場合、基材は、溶媒可溶性のポリマーが好ましい。溶媒可溶性のポリマーとしては、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリレート、ポリプロピレンオキシドなどが挙げられる。基材の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。本開示の複合構造体は、基材の表面形状が転写された構造を持つ。そのため、ナノサイズの構造を有するポリマーを基材に用いると、ナノサイズの構造を有する自立膜を製造することができる。基材としては、例えば、エレクトロスピニングなどにより作製したナノワイヤー不織布などが挙げられる。基材に用いるポリマー製の不織布は、電界紡糸により作製することができる。この基材不織布の繊維径は、例えば、上述した基材空間の直径の範囲とすることができる。基材不織布の繊維径は、例えば、電界紡糸に用いる溶液のポリマー濃度、電場、溶液の供給速度などにより調節することができる。基材に用いる繊維体の平均径は、50nm以上とすることが好ましく、100nm以上とすることがより好ましく、200nm以上としてもよい。また、繊維体の平均径を500nm以下とすることが好ましく、300nm以下とすることがより好ましく、100nm以下としてもよい。平均径が50nm以上300nm以下の範囲では、触媒反応をより促進することができ好ましい。
【0027】
[処理工程]
処理工程では、元素Mを含む溶液中に複合構造体を浸漬したのち熱処理を行う。この工程では、元素MをRuからなる複合構造体に含浸することができる。元素Mを含む溶液の元素Mの濃度は、所望の特性に応じて適宜設定すればよい。元素Mは、例えば、Ti、Zr、Hfなどの第4族元素や、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどや、Al、Si、Ceなどが挙げられる。このうち、元素Mは、Ti、Zr、Hf及びCeのうち1以上とすることが好ましい。溶液の溶媒は、水としてもよいし、有機溶媒としてもよいが、水であることが好ましい。熱処理は、例えば、酸化雰囲気中で行ってもよいし、不活性雰囲気中で行ってもよいが、酸化雰囲気中で行うことが好ましい。酸化雰囲気中で行うと、元素Mの酸化物のM粒子が得られる。熱処理の温度は、例えば、150℃以上600℃以下の範囲が好ましく、250℃以上450℃以下の範囲がより好ましい。この範囲では、M粒子の酸化処理を行うと共に、不織布構造を維持することができる。熱処理時間は、複合構造体の特性に合わせて適宜設定すればよく、例えば、5分以上1時間以下の範囲、より好ましくは、10分以上30分以下などとしてもよい。
【0028】
[除去工程]
除去工程は、例えば、形成工程のあと、且つ処理工程の前に基材の全部又は一部を除去する処理を行う。このとき、形成工程では、除去可能な基材を用いるものとする。この工程では、基材の全部を除去してもよく、あるいは、一部を除去してもよい。基材/ナノ粒子界面の量を低減するためには、基材の全部を除去するのが好ましい。基材の除去方法は、特に限定されるものではなく、基材の種類に応じて最適な方法を選択することができる。例えば、基材として溶媒可溶性のポリマーを用いた場合、溶媒を用いて基材を除去するのが好ましい。各種ポリマーを溶解可能な溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、NaBH4溶液(溶媒:水とエタノールの1対1混合液)、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール等のアルコール類、水、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ニトロメタンなどが挙げられる。
【0029】
以上詳述したように、本開示では、触媒活性をより高めることができる新規な複合構造体、複合構造体の製造方法及び化合物の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、この複合構造体は、直径20nm以下のRu粒子が、例えば幅100~500nmのナノファイバーを形成し、それらが重なり合った不織布構造を有している。この複合構造体は、Ru粒子および粒子間が被覆される結着材や担持体なしに連結した構造体を形成していることから、一般的な担持触媒とは異なり、活性サイトが担持体に埋没したり、Ru同士の重なりが少ないため、活性サイトの有効面積が大きく、単位質量あたりの触媒活性を高めることができる。また、M粒子は、例えば、第4族元素の酸化物など、塩基性サイトとして働く場合は、CO2を捕捉する性質があり、Ru粒子の近傍にCO2が捕捉されることで、反応が円滑に進行するものと推察される。また、Ru粒子とM粒子との間に金属支持体相互作用(metal-support interaction)が働き、電子的効果により触媒活性が向上することも考えられる。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子と、
Ruとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子と、を含み、不織布構造を有する複合構造体。
[2] 前記Ru粒子及びM粒子は、不織布基材の表面に形成されている不織布構造を有するか、又は前記不織布基材が除去された半チューブ型の不織布構造を有する、[1]に記載の複合構造体。
[3] モル比であるM/Ruが0.01以上0.5以下の範囲である、[1]又は[2]に記載の複合構造体。
[4] 前記元素Mは、第4族元素のうち1以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の複合構造体。
[5] 前記対象化合物を水素化する触媒として用いられる、[1]~[4]のいずれか1つに記載の複合構造体。
[6] Ru及びRuとは異なる元素Mを含む複合構造体の製造方法であって、
Ru原料のターゲットを用い蒸着処理を行い、不織布構造を有する基材表面に粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含む不織布構造を有する複合構造体を形成する形成工程と、
前記元素Mを含む溶液中に前記複合構造体を浸漬したのち熱処理を行う処理工程と、
を含む複合構造体の製造方法。
[7] 前記形成工程では、除去可能な基材を用い、
前記形成工程のあと、且つ前記処理工程の前に前記基材を除去する除去工程、を含む[6]に記載の複合構造体の製造方法。
[8] 粒径が20nm以下であるRuの金属及び/又は酸化物であるRu粒子とRuとは異なる元素Mの金属及び/又は酸化物であるM粒子とを含み不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含む化合物の製造方法。
[9] 粒径が20nm以下であるRu粒子を少なくとも含み、不織布構造を有する複合構造体を用い、対象化合物を水素化し水素化された化合物を得る水素化工程、
を含む化合物の製造方法。
[10] 前記水素化工程では、250℃以下の温度範囲で前記対象化合物を水素化する、[8]又は[9]に記載の化合物の製造方法。
【実施例0032】
以下には自立構造を有する複合構造体を具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1~2が本開示の実施例に相当し、実験例3~5が比較例に相当する。
【0033】
<試薬>
電界紡糸で使用するポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone、PVP)は、Sigma-Aldrich製の、平均分子量が1,300,000のものを用いた。メタノールは富士フイルム和光純薬製のものを用いた。ポリイミド膜は、アズワン製とした。スパッタ蒸着で使用するターゲット金属のRu(直径63mm×厚さ1mm)およびNi(直径25mm×厚さ1mm)は、それぞれ豊島製作所のものを用いた。RuO2微粉末(品番:238058)は、Sigma-Aldrich製、Ru微粉末(品番:384111)は、ニラコ製とした。
【0034】
<構造解析>
走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察、ならびにエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray spectroscopy)は、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-5500(Hitachi製)を用い、加速電圧10kVにて行った。なお、試料表面の組成情報を得るために、1.5kVの低加速電圧にて、2次電子(SE:Secondary Electron)像と高角度(HA:High Angle)反射電子(BSE:Backscattered Electron)像の観察を行った。X線光電子分光(XPS)測定は、XPS測定装置(アルバックファイ製Quantera SXM)を用い、X線源としてAlKαを用いて行った。誘導結合プラズマ発光分光分析測定は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)を用いて行った。
【0035】
<実験例1:Ru不織布の合成>
Cu基板(直径50mm)上に、電界紡糸によりPVPファイバー不織布を作製した。電界紡糸は、PVPを8質量%含むメタノール溶液を用い、印加電圧:電界1kV/cm、送液速度:1mL/h、総送液量:0.4mLとした。シリンジ針からCu基板の距離は15cmとした。Ruのスパッタ蒸着は、市販の小型DCマグネトロンスパッタ装置(MC1000,Hitachi製)を使用した。スパッタターゲット(Ru、直径63mm×厚さ1mm)、PVPナノファイバー不織布とターゲットの距離:30mm、電流値:40mA、スパッタリングガス:純アルゴンガス、スパッタ時の真空度:7Paに設定し、蒸着量が180μg/cm
2となるように水晶振動子を用いて、膜厚を調整した。スパッタ蒸着後、水晶振動子と同心円状の位置関係にあたる箇所を型抜き器で1cm角に打ち抜いた。得られたRu/PVP不織布からPVPを除去するため、容器に用意した水に投下した。水中でRu/PVP不織布を洗浄することで、PVPを除去したRu不織布を得た。Ru不織布をエタノールで洗浄した後、Ru不織布を再度、容器に用意した水に移した。水面に浮上したRu不織布をTiメッシュ(線径0.10mm×3cm×5cm)で掬い、メッシュ側に触れていない面をポリイミド膜(カプトン:登録商標、2cm角×厚さ0.50mm)に貼りつけるように転写した。その後、70℃の恒温器で5分間乾燥後、空気中300℃で10分間加熱処理し、実験例1のRu不織布を得た。
図3は、ポリイミド膜に転写した実験例1の外観(
図3A)及びFE-SEM像(
図3B~D)である。得られた実験例1のRu不織布は、直径20nm以下のRu粒子が連結したファイバー構造を有していることを、電子顕微鏡像(FE-SEM像)により確認した。
【0036】
<実験例2:Zr/Ru不織布の合成>
容器に150mM-ZrO(NO
3)
2溶液の2.5mLを量り取り、実験例1で得られたポリイミド膜に転写したRu不織布を浸漬し、25℃で20時間静置した。その後、試料を取り出し、容器に用意した水(3mL)に浸漬し、25℃で1分間静置した。試料を取り出し、エアブローで余分な水分を取り除いた後、70℃の恒温器で5分間乾燥後、空気中300℃で10分間加熱処理し、実験例2のZr/Ru不織布を得た。
図4は、ZrO
2を担持した実験例2の外観(
図4A)、FE-SEM像(
図4B~D)及びHA-BSE像(
図4E~F)である。得られた実験例2のZr/Ru不織布は、Ru粒子が連結したファイバー構造が維持されていることをFE-SEM像より確認した。HA-BSE像を観察し、ZrO
2粒子が担持されていることを確認した
図4Fに示すように、試料全体のコントラストとは異なる明るい粒子が表面に点在している様子が見られた。一般に、原子番号が大きいほど放出される2次電子の量は多く、明るい像として観察されるため、明視野の粒子がRu、暗視野の粒子がZrであるものと推察された。また、実験例2を元素分析したところ、表面組成の検出感度が高いEDX及びXPSでは各元素のモル比Zr/Ruは0.13~0.15であり、ICPではモル比Zr/Ruは0.098であった。
【0037】
<実験例3:Ni不織布の合成>
Ti基板(50mm角)上に、電界紡糸によりPVPファイバー不織布を作製した。電界紡糸は、PVPを8質量%含むメタノール溶液を用い、印加電圧:電界1kV/cm、送液速度:1mL/h、総送液量:0.4mLとした。シリンジ針からTi基板の距離は15cmとした。Niのスパッタ蒸着は、ベース圧力1×10
-6Torrの真空装置内のマグネトロンRFスパッタリング装置を使用した。得られたPVP不織布を、スパッタリング装置の真空チャンバにセットし、2×10
-2Pa以下になるまで真空排気した後、Ar(流量:30sccm)を導入した。チャンバ内の圧力を10.0Paに調整し、出力電力75WでNiを蒸着(2424秒)し、蒸着量が200μg/cm
2となるように水晶振動子を用いて、膜厚を調整した。スパッタ蒸着後、水晶振動子と同心円状の位置関係にあたる箇所を型抜き器で1cm角に打ち抜いた。以降の操作は実施例1と同様に行い、ポリイミド膜(カプトン:登録商標、2cm角×厚さ0.50mm)に転写した。その後、70℃の恒温器で5分間乾燥後、空気中300℃で10分間加熱処理し、実験例3のNi不織布を得た。
図5は、Ni不織布である実験例3のFE-SEM像(
図5A~C))である。得られた実験例3のNi不織布は、直径20nm以下のNi粒子が連結した構造を有していることを、FE-SEM像より確認した。
【0038】
<実験例4:Ru微粉末A>
市販品のRuO2微粉末(Sigma-Aldrich、品番:238058)を、水素雰囲気下(100kPa)、300℃で2時間還元処理を行い、Ru微粉末を得た。X線回折測定器(XRD:リガク社製RINT-TTR)を用いて、測定したところ、その測定結果から、不織布構造がRuであることを確認した。
【0039】
<実験例5:Ru微粉末B>
市販品のRu微粉末(ニラコ、品番:384111)をそのまま使用した。
図6は、実験例4のRu微粉末A(
図6A)及び実験例5のRu微粉末B(
図6B)のFE-SEM像である。
図6Aに示すように、実験例4では、Ru粒子の大きさが30~40nmであることをFE-SEM像より確認した。また、
図6Bに示すように、実験例5では、Ru粒子の大きさが、1μm以上であることを、FE-SEM像より確認した。
【0040】
(触媒評価)
四重極型質量分析計(QMS:ファイファーバキューム社製PRISMAPRO)をインラインに設けた微分反応器を用いて実施した。
図7は、触媒評価装置の概略を示す説明図であり、
図7Aが全体写真、
図7Bがサンプルホルダ、
図7Cがサンプルの写真である。微分反応器内のセラミックヒーターにポリイミド膜に転写した不織布触媒もしくはTi板で作製した容器内に用意したRu微粉末をセットした。反応器内を180Paまで減圧後、反応容器内の圧力が106kPaになるように、H
2(4sccm)/CO
2(1sccm)/Ar(70sccm)を導入した。QMSに流れる圧力を5.0×10
-4Paに調整し、メタン(m/z=15)に由来する電流値をモニタリングした。反応は、室温付近から300℃まで実施し、昇温レートは、5℃/分とした。任意の流量において、メタン濃度既知の混合ガスから求めた電流値と、反応で発生したメタン由来の電流値との比較から、単位時間あたりのメタン生成量(メタン生成速度)を算出した。メタン生成速度を使用した金属量(触媒量)で除算し、触媒単位重量あたりのメタン生成速度(mmol/h/g-cat)を求めた。
【0041】
(反応結果と考察)
図8は、反応温度とメタン生成速度との関係図である。また、各実験例の構造、及び各温度におけるメタン生成速度を表1にまとめた。実験例1のRu不織布では、100℃付近からメタンの生成が確認でき、反応温度が上昇するにつれて、メタン生成速度が上昇した。100℃で2.3、160℃で62.8、250℃で1158、300℃で2038mmol/h/g-catの活性を示した。一方、実験例3のNi不織布では、100℃で0.53、160℃で2.4、250℃で26.0、300℃で91.6mmol/h/g-catの活性を示した。このことから、Ru不織布は、Ni不織布よりも高い触媒活性を示すことが分かった。また、粒子径が小さい実験例4のRu微粉末Aでは、100℃で0.55、160℃で41.7、250℃で230.7、300℃で231.8mmol/h/g-catの活性を示し、性能はRu不織布より低かった。一方、粒子径が大きい実験例5のRu微粉末Bでは、100℃で0.017、160℃で0.27、250℃で5.1、300℃で8.8mmol/h/g-catの活性を示し、実験例4のRu微粉末Aより性能がさらに低かった。このように、Ruの粒子サイズによって、メタン生成速度が異なり、本開示で得られたRu不織布の粒子サイズが重要であることが分かった。
【0042】
一方、実験例2のZrO2/Ru不織布では、100℃付近からメタンの生成が確認でき、反応温度が上昇するにつれて、メタン生成速度が上昇した。100℃で5.9、160℃で145.1、250℃で1783、300℃で2589mmol/h/g-catの活性を示した。このことから、ZrO2/Ru不織布は、Ru不織布よりも高いメタン生成速度を示し、ZrO2を担持することによって、触媒性能が向上していることが分かった。又この金属種は、Zrのみでなく、例えば、Ti、Hfなどの第4族元素でも同様の効果が得られるものと推察された。
【0043】
実験例1、特に実験例2では、水素化活性をより高めることができることが明らかとなった。このような効果が得られる理由は、以下のように推察された。例えば、この複合構造体は、直径20nm以下のRu粒子が、幅100~500nmのナノファイバーを形成し、それらが重なり合った不織布構造を有している。この複合構造体は、Ru粒子および粒子間が被覆される結着材や担持体なしに連結した構造体を形成していることから、一般的な担持触媒とは異なり、活性サイトが担持体に埋没したり、Ru同士の重なりが少ないため、活性サイトの有効面積が大きく、単位質量あたりの触媒活性を高めることができるものと推察された。また、酸化ジルコニウム粒子は、塩基性サイトとして働き、CO2を捕捉する性質があり、Ru粒子の近傍にCO2が捕捉されることで、反応が円滑に進行するものと推察された。また、Ru粒子と酸化ジルコニウム粒子との間に金属支持体相互作用が働き、電子的効果により水素化活性が向上することも予想された。また、モル比Zr/Ruは、0.01以上0.5以下の範囲であることが好ましいものと推察された。
【0044】
【0045】
以上、本開示の実施例について詳細に説明したが、本開示は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。