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特開2024-130661液体吐出ヘッドの制御方法、及び、液体吐出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130661
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッドの制御方法、及び、液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B41J2/015 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040511
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】片倉 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】四十物 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】牧田 秀史
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF23
2C057AF42
2C057AK07
2C057AM16
2C057AM17
2C057AM21
2C057AM22
2C057AM40
2C057AN01
2C057AN05
2C057AR08
2C057BA04
2C057BA14
2C057CA04
(57)【要約】
【課題】複数の液滴が合体した液滴の重量及び速度の両方を適切に調整する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル、ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて圧力室内の液体に圧力変動を与える駆動素子を含む吐出部を有する液体吐出ヘッドの制御方法であって、駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体して合体滴となる複数の液滴をノズルからそれぞれ吐出させる複数の吐出パルスを含み、複数の吐出パルスの各々は、圧力室の容積を収縮させるように電位が変化し、ノズルから液滴を吐出させる収縮要素を含み、複数の吐出パルスのうち、最後の吐出パルスに含まれる収縮要素の電位変化量を変更せずに、最後の吐出パルスの直前の吐出パルスである特定の吐出パルスに含まれる収縮要素の電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を調整する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える駆動素子を含む吐出部を有する液体吐出ヘッドの制御方法であって、
前記駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体して合体滴となる複数の液滴を前記ノズルからそれぞれ吐出させる複数の吐出パルスを含み、
前記複数の吐出パルスの各々は、前記圧力室の容積を収縮させるように電位が変化し、前記ノズルから液滴を吐出させる収縮要素を含み、
前記複数の吐出パルスのうち、最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の電位変化量を変更せずに、前記最後の吐出パルスの直前の吐出パルスである特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整することにより、前記合体滴の飛翔速度を調整する、
液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項2】
前記駆動信号は、前記複数の吐出パルスとして、3つ以上の吐出パルスを含み、
前記合体滴の飛翔速度を調整する場合、前記複数の吐出パルスのうち前記特定の吐出パルス以外の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を変更せずに維持する、
請求項1に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項3】
前記特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の始点から、前記最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の始点までの期間は、前記吐出部の固有振動周期のn倍(nは1以上の自然数)の期間の±10%の範囲である、
請求項1に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項4】
前記n倍は、2倍である、
請求項3に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項5】
前記最後の吐出パルスは、前記収縮要素よりも前の要素であり、前記圧力室の容積を膨張させるように電位が変化する膨張要素を含み、
前記最後の吐出パルスに含まれる前記膨張要素の始点から、前記最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の始点までの期間は、前記吐出部の固有振動周期の0.5倍の期間の±20%の範囲である、
請求項1に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項6】
前記合体滴の飛翔速度を調整する前に、前記複数の液滴に対応する前記複数の吐出パルスの各々に含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整することにより、前記合体滴の液量を調整する、
請求項1に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項7】
前記合体滴の液量を調整する場合、前記特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量が、前記最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量以下となるように、前記複数の吐出パルスの各々に含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整する、
請求項6に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項8】
前記合体滴の液量を調整する場合、前記特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の単位時間当たりの前記電位変化量である電位変化率が、前記最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化率よりも小さくなるように、前記複数の吐出パルスの各々に含まれる前記収縮要素の前記電位変化率を調整する、
請求項6に記載の液体吐出ヘッドの制御方法。
【請求項9】
液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える駆動素子を含む吐出部を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、
を備え、
前記駆動信号は、
媒体に着弾するまでに合体する複数の液滴を前記ノズルからそれぞれ吐出させる複数の吐出パルスを含み、
前記複数の吐出パルスの各々は、
前記圧力室の容積を収縮させるように電位が変化し、前記ノズルから液滴を吐出させる収縮要素を含み、
前記制御部は、
前記複数の吐出パルスのうち、最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の電位変化量を変更せずに、前記最後の吐出パルスの直前の吐出パルスである特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整することにより、前記複数の液滴が合体した合体滴の飛翔速度を調整する、
液体吐出装置。
【請求項10】
液滴を吐出する第1ノズル、前記第1ノズルに連通する第1圧力室、及び、第1駆動信号に応じて前記第1圧力室内の液体に圧力変動を与える第1駆動素子を含む第1吐出部を有する第1液体吐出ヘッドと、
液滴を吐出する第2ノズル、前記第2ノズルに連通する第2圧力室、及び、第2駆動信号に応じて前記第2圧力室内の液体に圧力変動を与える第2駆動素子を含む第2吐出部を有する第2液体吐出ヘッドと、
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号を生成する駆動信号生成部と、
を備え、
前記第1駆動信号は、
媒体に着弾するまでに合体して第1合体滴となる複数の液滴を前記第1ノズルからそれぞれ吐出させる複数の第1吐出パルスを含み、
前記第2駆動信号は、
媒体に着弾するまでに合体して第2合体滴となる複数の液滴を前記第2ノズルからそれぞれ吐出させる複数の第2吐出パルスを含み、
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号は、前記第1合体滴の液量と前記第2合体滴の液量とが等しくなるように、調整され、
前記複数の第1吐出パルスのうちの最後の第1吐出パルスの電位変化量に対する、前記最後の第1吐出パルスの直前の第1吐出パルスの前記電位変化量の比率が、第1比率であり、
前記複数の第2吐出パルスのうちの最後の第2吐出パルスの前記電位変化量に対する、前記最後の第2吐出パルスの直前の第2吐出パルスの前記電位変化量の比率が、第2比率であり、
前記第1比率と前記第2比率は、異なる、
液体吐出装置。
【請求項11】
前記第1ノズルから媒体までの距離と、前記第2ノズルから媒体までの距離とは、異なり、
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号は、前記第1合体滴の飛翔速度と前記第2合体滴の飛翔速度とが異なるように、調整されている、
請求項10に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記第1ノズルから吐出される液体の物性と、前記第2ノズルから吐出される液体の物性とは、異なり、
前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号は、前記第1合体滴の飛翔速度と前記第2合体滴の飛翔速度とが等しくなるように、調整されている、
請求項10に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの制御方法、及び、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子を用いて複数のノズルからインク等の液体を吐出することにより画像を印刷する液体吐出装置が知られている。この種の液体吐出装置では、例えば、圧電素子は、ノズルからインクを吐出させるパルスを含む駆動信号に応じて、ノズルに連通する圧力室を収縮することにより、圧力室内のインクをノズルから吐出する。また、液体吐出装置の制御方法として、複数のパルスを圧電素子に供給し、各ノズルから吐出される複数の液滴を印刷媒体に着弾するまでに合体させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、第1インク滴をノズルから吐出させる波形と第1インク滴に合体させる第2インク滴をノズルから吐出させる波形とを含む駆動パルスを吐出部の吐出駆動素子に印加する液体吐出装置が開示されている。この種の液体吐出装置では、例えば、ノズルからインク滴を吐出させる複数の波形を含む駆動パルスの全体の電圧を調整することにより、複数のインク滴が合体した合体滴の速度調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-124245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動パルスの全体の電圧を調整することにより合体滴の速度調整が行われた場合、合体滴の重量も変化するため、合体滴の重量が適切な範囲からはずれる場合がある。複数の液滴を印刷媒体に着弾するまでに合体させる液体吐出装置では、複数の液滴が合体した液滴の重量及び速度の両方を適切に調整することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る液体吐出ヘッドの制御方法は、液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える駆動素子を含む吐出部を有する液体吐出ヘッドの制御方法であって、前記駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体して合体滴となる複数の液滴を前記ノズルからそれぞれ吐出させる複数の吐出パルスを含み、前記複数の吐出パルスの各々は、前記圧力室の容積を収縮させるように電位が変化し、前記ノズルから液滴を吐出させる収縮要素を含み、前記複数の吐出パルスのうち、最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の電位変化量を変更せずに、前記最後の吐出パルスの直前の吐出パルスである特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整することにより、前記合体滴の飛翔速度を調整する。
【0006】
また、本発明に係る液体吐出装置は、液滴を吐出するノズル、前記ノズルに連通する圧力室、及び、駆動信号に応じて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える駆動素子を含む吐出部を有する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、を備え、前記駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体する複数の液滴を前記ノズルからそれぞれ吐出させる複数の吐出パルスを含み、前記複数の吐出パルスの各々は、前記圧力室の容積を収縮させるように電位が変化し、前記ノズルから液滴を吐出させる収縮要素を含み、前記制御部は、前記複数の吐出パルスのうち、最後の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の電位変化量を変更せずに、前記最後の吐出パルスの直前の吐出パルスである特定の吐出パルスに含まれる前記収縮要素の前記電位変化量を調整することにより、前記複数の液滴が合体した合体滴の飛翔速度を調整する。
【0007】
また、本発明に係る他の液体吐出装置は、液滴を吐出する第1ノズル、前記第1ノズルに連通する第1圧力室、及び、第1駆動信号に応じて前記第1圧力室内の液体に圧力変動を与える第1駆動素子を含む第1吐出部を有する第1液体吐出ヘッドと、液滴を吐出する第2ノズル、前記第2ノズルに連通する第2圧力室、及び、第2駆動信号に応じて前記第2圧力室内の液体に圧力変動を与える第2駆動素子を含む第2吐出部を有する第2液体吐出ヘッドと、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号を生成する駆動信号生成部と、を備え、前記第1駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体して第1合体滴となる複数の液滴を前記第1ノズルからそれぞれ吐出させる複数の第1吐出パルスを含み、前記第2駆動信号は、媒体に着弾するまでに合体して第2合体滴となる複数の液滴を前記第2ノズルからそれぞれ吐出させる複数の第2吐出パルスを含み、前記第1駆動信号及び前記第2駆動信号は、前記第1合体滴の液量と前記第2合体滴の液量とが等しくなるように、調整され、前記複数の第1吐出パルスのうちの最後の第1吐出パルスの電位変化量に対する、前記最後の第1吐出パルスの直前の第1吐出パルスの前記電位変化量の比率が、第1比率であり、前記複数の第2吐出パルスのうちの最後の第2吐出パルスの前記電位変化量に対する、前記最後の第2吐出パルスの直前の第2吐出パルスの前記電位変化量の比率が、第2比率であり、前記第1比率と前記第2比率は、異なる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの構成の一例を示すブロック図である。
図2】インクジェットプリンターの概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
図3】吐出部の構造の一例を説明するための断面図である。
図4】ヘッドユニットにおけるノズルの配置の一例を示す平面図である。
図5】ヘッドユニットの構成の一例を示すブロック図である。
図6】ヘッドユニットに供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
図7】特定のパルスの最高電位を調整した場合の作用を説明するための説明図である。
図8】対比例に係る駆動信号の調整の作用を説明するための説明図である。
図9】駆動信号の調整方法の一例を示すフローチャートである。
図10】第2変形例に係るインクジェットプリンターを説明するための説明図である。
図11】インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整した場合の作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
[1.実施形態]
本実施形態では、記録用紙にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンターを例示して、液体吐出装置を説明する。なお、本実施形態において、インクは「液体」の例であり、記録用紙は「媒体」の例である。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。
【0012】
インクジェットプリンター1には、例えば、パーソナルコンピューター又はデジタルカメラ等のホストコンピューターから、インクジェットプリンター1が形成すべき画像を示す印刷データIMGが供給される。インクジェットプリンター1は、ホストコンピューターから供給される印刷データIMGの示す画像を媒体に形成する印刷処理を実行する。本実施形態では、媒体として、後述する図2に示す記録用紙Pを想定する。
【0013】
インクジェットプリンター1は、インクジェットプリンター1の各部を制御する制御ユニット2と、インクを吐出する吐出部Dが設けられたヘッドユニット3と、吐出部Dを駆動するための駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニット4とを有する。さらに、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるための搬送ユニット7と、ヘッドユニット3に設けられた吐出部Dをメンテナンスするメンテナンス処理を実行するメンテナンスユニット8とを有する。
【0014】
なお、本実施形態では、ヘッドユニット3と駆動信号COMとが互いに対応する場合を想定する。例えば、インクジェットプリンター1が複数のヘッドユニット3を有する場合、複数のヘッドユニット3と1対1に対応する複数の駆動信号COMが、複数のヘッドユニット3にそれぞれ供給される。また、インクジェットプリンター1は、複数のヘッドユニット3を有する場合、複数の駆動信号COMをそれぞれ生成する複数の駆動信号生成ユニット4を有してもよいし、複数の駆動信号COMを生成する1個の駆動信号生成ユニット4を有してもよい。すなわち、インクジェットプリンター1は、複数のヘッドユニット3と1対1に対応する複数の駆動信号生成ユニット4を有してもよいし、複数のヘッドユニット3で共通の1個の駆動信号生成ユニット4を有してもよい。
【0015】
本実施形態では、インクジェットプリンター1が、4個のヘッドユニット3と、4個のヘッドユニット3と1対1に対応する4個の駆動信号生成ユニット4とを有する場合を想定する。但し、インクジェットプリンター1は、1個以上3個以下のヘッドユニット3を有してもよいし、5個以上のヘッドユニット3を有してもよい。また、以下では、説明の便宜上、図1に例示するように、4個のヘッドユニット3のうち一のヘッドユニット3と、4個の駆動信号生成ユニット4のうち一のヘッドユニット3に対応して設けられた一の駆動信号生成ユニット4と、に着目して説明する場合がある。なお、ヘッドユニット3は、「液体吐出ヘッド」の一例である。
【0016】
制御ユニット2は、1又は複数のCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。なお、制御ユニット2は、CPUの代わりに、又は、CPUに加えて、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスを含んで構成されてもよい。また、制御ユニット2は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリーと、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、又は、PROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーと、の一方又は両方を含んで構成される。
【0017】
詳細は後述するが、制御ユニット2は、印刷信号SI、及び、波形指定信号dCOM等の、インクジェットプリンター1の各部の動作を制御するための信号を生成する。ここで、波形指定信号dCOMは、駆動信号COMの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号COMは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。また、印刷信号SIは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号COMを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する信号である。なお、制御ユニット2は、「制御部」の一例である。
【0018】
駆動信号生成ユニット4は、例えば、DAC(Digital Analog Converter)を含み、制御ユニット2から供給される波形指定信号dCOMに基づいて駆動信号COMを生成する。例えば、駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMにより規定される波形を含む駆動信号COMを生成する。駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMに基づいて生成した駆動信号COMを、ヘッドユニット3に含まれる供給回路31に出力する。なお、駆動信号生成ユニット4は、「駆動信号生成部」の一例である。
【0019】
ヘッドユニット3は、供給回路31及び記録ヘッド32を有する。
【0020】
記録ヘッド32は、M個の吐出部Dを有する。なお、値Mは、1以上の自然数である。以下では、記録ヘッド32に設けられたM個の吐出部Dのうち、m番目の吐出部Dを、吐出部D[m]と称する場合がある。ここで、変数mは、「1≦m≦M」を満たす自然数である。また、以下では、インクジェットプリンター1の構成要素又は信号等が、M個の吐出部Dのうち、吐出部D[m]に対応する場合は、当該構成要素又は信号等を表すための符号に、添え字[m]を付すことがある。
【0021】
供給回路31は、印刷信号SIに基づいて、駆動信号COMを吐出部D[m]に供給するか否かを切り替える。なお、以下では、後述する図5等に示すように、吐出部D[m]に供給される駆動信号COMを、個別駆動信号Vin[m]と称する場合がある。
【0022】
上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する。印刷処理が実行される場合、制御ユニット2は、印刷データIMGに基づいて、印刷信号SI等のヘッドユニット3を制御するための信号を生成する。また、制御ユニット2は、印刷処理が実行される場合、波形指定信号dCOM等の駆動信号生成ユニット4を制御するための信号を生成する。また、制御ユニット2は、印刷処理が実行される場合、搬送ユニット7を制御するための信号を生成する。これにより、制御ユニット2は、印刷処理において、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるように搬送ユニット7を制御しつつ、吐出部D[m]からのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整する。このように、制御ユニット2は、印刷データIMGに対応する画像が記録用紙Pに形成されるように、インクジェットプリンター1の各部を制御する。
【0023】
また、上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、メンテナンス処理を実行する。例えば、メンテナンス処理は、吐出部Dからインクを排出するフラッシング処理と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物をワイパーにより拭き取るワイピング処理と、吐出部D内のインクをチューブポンプ等により吸引するポンピング処理とを含む。ノズルNについては、図3において後述する。
【0024】
メンテナンスユニット8は、フラッシング処理において吐出部D内のインクが排出される場合に当該排出されたインクを受けるための排出インク受領部80と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物を拭き取るためのワイパーと、吐出部D内のインクや気泡等を吸引するためのチューブポンプとを有する。なお、排出インク受領部80については、図2において後述する。また、ワイパー及びチューブポンプについては、図示を省略する。次に、図2を参照しつつ、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造について説明する。
【0025】
図2は、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
【0026】
図2に示すように、本実施形態では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定する。具体的には、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する場合、副走査方向に記録用紙Pを搬送しつつ、副走査方向に交差する主走査方向にヘッドユニット3を往復動させながら、吐出部D[m]からインクを吐出させることで、記録用紙P上に、印刷データIMGに応じたドットを形成する。なお、本実施形態では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定しているが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3において、複数のノズルNが、記録用紙Pの幅よりも広く延在するように設けられた、所謂ラインプリンターであってもよい。
【0027】
以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を有する3軸の直交座標系を適宜導入する。また、以下では、X軸の矢印の指す方向は+X方向と称され、+X方向の反対方向は-X方向と称される。Y軸の矢印の指す方向は+Y方向と称され、+Y方向の反対方向は-Y方向と称される。そして、Z軸の矢印の指す方向は+Z方向と称され、+Z方向の反対方向は-Z方向と称される。また、以下では、+X方向及び-X方向をX軸方向と総称し、+Y方向及び-Y方向をY軸方向と総称し、+Z方向及び-Z方向をZ軸方向と総称する場合がある。また、本実施形態では、+X方向を副走査方向とし、+Y方向及び-Y方向を主走査方向とする。また、本実施形態では、図2に例示するように、-Z方向を、吐出部D[m]からのインクの吐出方向とする。
【0028】
本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、筐体100と、筐体100内をY軸方向に往復動可能であり、4個のヘッドユニット3を搭載するキャリッジ110とを有する。
【0029】
本実施形態では、キャリッジ110が、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラックの4色のインクと1対1に対応する4個のインクカートリッジ120を格納している場合を想定する。また、本実施形態では、上述のとおり、インクジェットプリンター1が、4個のインクカートリッジ120と1対1に対応する4個のヘッドユニット3を有する場合を想定する。各吐出部D[m]は、当該吐出部D[m]が設けられたヘッドユニット3に対応するインクカートリッジ120からインクの供給を受ける。これにより、各吐出部D[m]は、供給されたインクを内部に充填し、充填したインクをノズルNから吐出することができる。なお、インクカートリッジ120は、キャリッジ110の外部に設けられてもよい。
【0030】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、図1において説明したように、搬送ユニット7を有する。搬送ユニット7は、キャリッジ110をY軸方向に往復動させるためのキャリッジ搬送機構71と、キャリッジ110をY軸方向に往復自在に支持するキャリッジガイド軸76とを有する。さらに、搬送ユニット7は、記録用紙Pを搬送するための媒体搬送機構73と、キャリッジ110に対して-Z方向に設けられたプラテン75とを有する。例えば、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71は、ヘッドユニット3をキャリッジ110とともにキャリッジガイド軸76に沿ってY軸方向に往復動させ、媒体搬送機構73は、プラテン75上の記録用紙Pを+X方向に搬送する。従って、搬送ユニット7は、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71及び媒体搬送機構73に上述の動作を実行させることにより、記録用紙Pのヘッドユニット3に対する相対位置を変化させ、記録用紙Pの全体に対するインクの着弾を可能とする。なお、本実施形態では、記録用紙Pに着弾するまでに合体する複数のインク滴がノズルNから吐出される場合を想定する。インク滴は、例えば、インクの粒である。なお、インク滴は、「液滴」の一例である。また、以下では、複数のインク滴が合体したインク滴を合体滴と称する場合がある。
【0031】
次に、図3を参照しつつ、記録ヘッド32の概略的な構造について説明する。
【0032】
図3は、吐出部Dの構造の一例を説明するための断面図である。なお、図3では、吐出部D[m]を含むように記録ヘッド32を切断した場合の記録ヘッド32の一部の断面が模式的に示されている。
【0033】
吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]と、内部にインクが充填されたキャビティーCVと、キャビティーCVに連通するノズルNと、振動板321とを有する。吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されることにより、キャビティーCV内のインクをノズルNから吐出させる。なお、キャビティーCVは、「圧力室」の一例であり、圧電素子PZは、「駆動素子」の一例である。
【0034】
キャビティーCVは、キャビティープレート324と、ノズルNが形成されたノズルプレート323と、振動板321と、により区画される空間である。キャビティーCVは、インク供給口326を介してリザーバ325と連通している。リザーバ325は、インク取入口327を介して、吐出部D[m]に対応するインクカートリッジ120と連通している。
【0035】
圧電素子PZ[m]は、個別駆動信号Vin[m]に応じてキャビティーCV内のインクに圧力変動を与える。例えば、圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]と、下部電極Zd[m]と、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に設けられた圧電体Zb[m]とを有する。上部電極Zu[m]は、個別駆動信号Vin[m]が供給される配線Liと電気的に接続される。下部電極Zd[m]は、バイアス電圧信号VBSが供給される配線Ldと電気的に接続される。そして、上部電極Zu[m]に個別駆動信号Vin[m]が供給されることにより、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に電圧が印加される。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて、+Z方向又は-Z方向に変位する。
【0036】
このように、圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて振動する。振動板321には、下部電極Zd[m]が接合されている。このため、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されて振動することにより、振動板321も振動する。そして、振動板321の振動によりキャビティーCVの容積及びキャビティーCV内の圧力が変化し、キャビティーCV内に充填されたインクがノズルNより吐出される。
【0037】
本実施形態では、一例として、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZが-Z方向に変位する場合を想定する。すなわち、本実施形態では、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定する。
【0038】
次に、図4を参照しつつ、ノズルNの配置の一例について説明する。
【0039】
図4は、ヘッドユニット3におけるノズルNの配置の一例を示す平面図である。なお、図4では、-Z方向からインクジェットプリンター1を平面視した場合の、キャリッジ110に搭載された4個のヘッドユニット3と、当該4個のヘッドユニット3に設けられた合計4M個のノズルNの配置の一例が示されている。
【0040】
キャリッジ110に設けられた各ヘッドユニット3には、ノズル列NLが設けられる。ここで、ノズル列NLとは、所定方向に列状に延在するように設けられた複数のノズルNである。本実施形態では、各ノズル列NLが、X軸方向に延在するように配置されたM個のノズルNから構成される場合を、一例として想定する。
【0041】
次に、図5及び図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の概要について説明する。
【0042】
図5は、ヘッドユニット3の構成の一例を示すブロック図である。
【0043】
ヘッドユニット3は、図1において説明したように、供給回路31及び記録ヘッド32を有する。また、ヘッドユニット3は、駆動信号生成ユニット4から駆動信号COMが供給される配線Laと、個別駆動信号Vin[m]を吐出部D[m]に供給する配線Li[m]とを有する。
【0044】
供給回路31は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチSWa[1]~SWa[M]と、接続状態指定回路310とを有する。接続状態指定回路310は、M個のスイッチSWaの各々の接続状態を指定する。例えば、接続状態指定回路310は、制御ユニット2から供給される印刷信号SI、及び、ラッチ信号LATの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qa[m]を生成する。
【0045】
スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチSWa[m]がオンする場合、配線Laに供給される駆動信号COMが、個別駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に配線Li[m]を介して供給される。
【0046】
次に、図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の動作について説明する。
【0047】
本実施形態において、インクジェットプリンター1が、印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合、インクジェットプリンター1の動作期間として、1又は複数の単位期間TPが設定される。本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、各単位期間TPにおいて、印刷処理又はフラッシング処理のために各吐出部D[m]を駆動することができる。
【0048】
図6は、ヘッドユニット3に供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【0049】
制御ユニット2は、パルスPLLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御ユニット2は、パルスPLLの立ち上がりから次のパルスPLLの立ち上がりまでの期間として、単位期間TPを規定する。単位期間TPは、例えば、各ノズルNに対応する1つのドットを記録用紙Pに形成するための期間である。本実施形態では、同一の単位期間TPに2つのインク滴がノズルNから吐出され、当該2つのインク滴が記録用紙Pに着弾する前に合体することにより、1つのドットが記録用紙Pに形成される場合を想定する。単位期間TPは、例えば、M個の吐出部Dの駆動周期である。本実施形態では、駆動信号COMの1周期が単位期間TPである場合を想定する。
【0050】
本実施形態に係る印刷信号SIは、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む。個別指定信号Sd[m]は、インクジェットプリンター1が印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合に、各単位期間TPにおける吐出部D[m]の駆動の態様を指定する。例えば、制御ユニット2は、各単位期間TPに先立って、M個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路310に供給する。そして、接続状態指定回路310は、当該単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]を生成する。このように、制御ユニット2は、M個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む印刷信号SIを接続状態指定回路310に供給することにより、M個の圧電素子PZの各々への駆動信号COMの供給を制御する。
【0051】
例えば、吐出部D[m]は、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]により、ドットを形成する吐出部D、及び、ドットを形成しない吐出部Dのいずれかに指定される。
【0052】
駆動信号COMは、時系列に並ぶパルスPD1及びPD2を有する。図6に示す例では、パルスPD2は、パルスPD1よりも後のパルスである。なお、パルスPD2は、「最後の吐出パルス」の一例であり、パルスPD1は、「特定の吐出パルス」の一例である。すなわち、パルスPD1及びPD2は、「複数の吐出パルス」の一例である。以下では、パルスPD1及びPD2を、パルスPDと総称する場合がある。また、以下では、パルスPD1は、特定のパルスPD1とも称される。
【0053】
パルスPD1及びPD2は、ノズルNからインク滴を吐出させるための吐出パルスである。例えば、同一の単位期間TPにおいて、パルスPD1によりノズルNから吐出されたインク滴と、パルスPD2によりノズルNから吐出されたインク滴とが、記録用紙Pに着弾するまでに合体する。以下では、パルスPD1によりノズルNから吐出されたインク滴は、1つ目のインク滴とも称され、パルスPD2によりノズルNから吐出されたインク滴は、2つ目のインク滴とも称される。
【0054】
このように、駆動信号COMは、記録用紙Pに着弾するまでに合体して合体滴となる複数のインク滴をノズルNからそれぞれ吐出させる複数のパルスPDを含む。さらに、駆動信号COMは、パルスPD1の開始前にパルスPD1の開始時の電位V0に電位が維持される波形要素PW1と、パルスPD1とパルスPD2とを接続し、パルスPD2の開始時の電位V0に電位が維持される波形要素PW2とを含む。例えば、駆動信号COMが配線Laに供給されることにより、波形要素PW1、パルスPD1、波形要素PW2及びパルスPD2が、単位期間TPに配線Laに供給される。
【0055】
詳細は後述するが、本実施形態では、パルスPD1の電位VH1を調整することにより、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴との合体滴の飛翔速度を調整する。このため、図6では、電位VH1の調整の一例として、互いに異なる3つの電位VH1a、VH1b及びVH1cが示されている。以下では、電位VH1a、VH1b及びVH1cを、特に区別することなく、電位VH1と称する場合がある。
【0056】
先ず、パルスPD1の概要について説明する。
【0057】
パルスPD1は、例えば、駆動信号COMの電位が、電位V0から、電位VL及び電位VH1を経て、電位V0に戻るパルスである。電位V0は、例えば、基準電位である。電位VLは、電位V0よりも低い電位であり、パルスPD1の最低電位である。電位VH1は、電位V0よりも高い電位であり、パルスPD1の最高電位である。電位V0、電位VL及び電位VH1の各々は、例えば、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。インクの吐出特性としては、例えば、インク滴として吐出されるインクの量、及び、吐出されるインク滴の速度等が該当する。
【0058】
例えば、パルスPD1は、波形要素Pep1、Peh1、Pcn1、Pch1及びPdm1を含む。なお、図6では、パルスPD1の最高電位が電位VH1cである場合の波形要素Pcn1、Pch1及びPdm1が実線で示されている。また、図6では、パルスPD1の最高電位が電位VH1bである場合の波形要素Pcn1、Pch1及びPdm1が破線で示され、パルスPD1の最高電位が電位VH1aである場合の波形要素Pcn1、Pch1及びPdm1が点線で示されている。
【0059】
波形要素Pep1及びPdm1は、圧電素子PZを+Z方向に変位させるための膨張要素である。膨張要素では、駆動信号COMの電位が、キャビティーCVの容積を膨張させるように変化する。従って、波形要素Pep1及びPdm1では、キャビティーCVの容積を膨張させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。キャビティーCVの容積が膨張した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向の反対方向である+Z方向に引き込まれる。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向の反対方向に引き込むことを、プルと称する場合がある。また、以下では、ノズルN内のインクの表面を、メニスカスと称する場合がある。
【0060】
波形要素Peh1は、圧電素子PZのZ軸方向の位置を維持するための維持要素である。例えば、波形要素Peh1では、波形要素Pep1により膨張したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。従って、波形要素Peh1では、駆動信号COMの電位は、波形要素Pep1の終点の電位である電位VLに維持される。
【0061】
波形要素Pcn1は、圧電素子PZを-Z方向に変位させるための収縮要素である。収縮要素では、駆動信号COMの電位が、キャビティーCVの容積を収縮させるように変化する。従って、波形要素Pcn1では、キャビティーCVの容積を収縮させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。キャビティーCVの容積が収縮した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向である-Z方向に押し出される。これにより、ノズルNから1つ目のインク滴が吐出される。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向に押し出すことを、プッシュと称する場合がある。なお、波形要素Pcn1は、「収縮要素」の一例である。
【0062】
ここで、波形要素Pcn1の終点の電位である電位VH1は、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴とが飛翔中に合体するように調整される。例えば、波形要素Pcn1の電位変化量を大きくしすぎると、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴との飛翔中での合体が困難となる。このため、波形要素Pcn1の電位変化量が後述する波形要素Pcn2の電位変化量以下となるように電位VH1が調整されることが好ましい。より好ましくは、電位VH1は、波形要素Pcn1の電位変化量が波形要素Pcn2の電位変化量の60%以上100%以下となるように、調整される。
【0063】
また、波形要素Pcn1の単位時間当たりの電位変化量である電位変化率も、電位VH1と同様に、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴とが飛翔中に合体するように調整される。例えば、波形要素Pcn1の電位変化率は、後述する波形要素Pcn2の電位変化率よりも小さいことが好ましい。より好ましくは、波形要素Pcn1の電位変化率は、波形要素Pcn2の電位変化率の0.5倍以上1倍未満となるように、調整される。
【0064】
波形要素Pch1は、維持要素である。例えば、波形要素Pch1では、波形要素Pcn1により収縮したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が波形要素Pcn1の終点の電位VH1に維持される。
【0065】
波形要素Pdm1は、膨張要素である。例えば、波形要素Pdm1では、波形要素Pcn1により収縮したキャビティーCVの容積を膨張させてキャビティーCV内のインクの残留振動を減衰させるように、駆動信号COMの電位が変化する。すなわち、波形要素Pdm1では、波形要素Pch1により維持されたキャビティーCVの容積を膨張させてキャビティーCV内のインクの残留振動を減衰させるように、駆動信号COMの電位が電位VHから電位V0に変化する。このように、パルスPD1は、所謂プル・プッシュ・プル波形である。
【0066】
次に、パルスPD2について説明する。パルスPD2も、パルスPD1と同様なプル・プッシュ・プル波形である。パルスPD1と同様な要素については、詳細な説明を省略する。
【0067】
パルスPD2は、例えば、駆動信号COMの電位が、電位V0から、電位VL及び電位VH2を経て、電位V0に戻る波形である。電位VH2は、電位V0よりも高い電位であり、パルスPD2の最高電位である。電位V0、電位VL及び電位VH2の各々は、例えば、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。例えば、パルスPD2は、パルスPD1によりノズルNから吐出されたインク滴の速度よりも、パルスPD2によりノズルNから吐出されたインク滴の速度が速くなるように、定められる。
【0068】
例えば、パルスPD2は、波形要素Pep2、Peh2、Pcn2、Pch2及びPdm2を含む。波形要素Pep2は、波形要素Pep1と同様の膨張要素であり、波形要素Peh2は、波形要素Peh1と同様の維持要素である。また、波形要素Pcn2は、波形要素Pcn1と同様の収縮要素であり、波形要素Pch2は、波形要素Pch1と同様の維持要素である。そして、波形要素Pdm2は、波形要素Pdm1と同様の膨張要素である。以下では、波形要素Pcn1及びPcn2を波形要素Pcnと総称する場合がある。
【0069】
波形要素Pcn2では、例えば、波形要素Pep2により膨張したキャビティーCVの容積を収縮させてノズルNからインク滴を吐出させるように、駆動信号COMの電位が変化する。これにより、ノズルN内のインクの表面が吐出方向である-Z方向に押し出され、ノズルNから2つ目のインク滴が吐出される。
【0070】
なお、2つ目のインク滴を1つ目のインク滴と飛翔中に合体させるには、2つ目のインク滴の速度が速いことが好ましい。2つ目のインク滴の速度を速くするには、パルスPD2に含まれる波形要素Pep2の始点からパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の始点までの期間Tle2が、吐出部Dの固有振動周期の0.5倍の期間の±20%の範囲であることが好ましい。すなわち、期間Tle2は、吐出部Dの固有振動周期の0.4倍以上0.6倍以下の期間であることが好ましい。より好ましくは、期間Tle2は、吐出部Dの固有振動周期の0.5倍である。本実施形態では、例えば、期間Tle2を吐出部Dの固有振動周期の0.4倍以上0.6倍以下にすることにより、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴とが記録用紙Pに着弾するまでに合体しない吐出不良の発生を抑制することができる。
【0071】
吐出部Dの固有振動周期は、例えば、M個の吐出部Dの固有振動周期を代表する固有振動周期である。例えば、M個の吐出部Dの固有振動周期を代表する固有振動周期は、M個の吐出部Dのうちの一の吐出部Dの固有振動周期であってもよい。あるいは、M個の吐出部Dの固有振動周期を代表する固有振動周期は、K個の吐出部Dの固有振動周期の平均値であってもよいし、K個の吐出部Dの固有振動周期のうちの最大値又は最小値であってもよい。なお、値Kは、「2≦K≦M」を満たす自然数である。
【0072】
ここで、本実施形態では、合体滴の飛翔速度を調整する前に、合体滴の液量が調整される場合を想定する。合体滴の液量は、例えば、1つ目のインク滴の吐出量と2つ目のインク滴の吐出量との合計の吐出量に対応する。例えば、合体滴の液量は、パルスPD1に含まれる波形要素Pcn1及びパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の各々の電位変化量を調整することにより、調整される。また、例えば、合体滴の飛翔速度は、波形要素Pcn2を調整することなく波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、調整される。従って、本実施形態では、合体滴の液量が適切な量になるように調整された波形要素Pcn1の電位変化量が、合体滴の飛翔速度を調整するために、さらに調整される場合を想定する。この場合、合体滴の液量を変えずに、合体滴の飛翔速度を調整することが好ましい。
【0073】
例えば、合体滴の液量が調整された後に、合体滴の飛翔速度を速くするために1つ目のインク滴の吐出量を増加させた場合、パルスPD2を変更せずに、2つ目のインク滴の吐出量を減少させることが好ましい。本実施形態では、1つ目のインク滴が吐出された後のメニスカスの引き込み量を大きくすることにより、パルスPD2を変更せずに、2つ目のインク滴の吐出量を減少させる。
【0074】
例えば、1つ目のインク滴が吐出された後のメニスカスは、パルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の始点からパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の始点までの期間Tle1が吐出部Dの固有振動周期の整数倍である場合、効率よく引き込まれる。期間Tle1は、吐出部Dの固有振動周期の整数倍であることが好ましい。なお、整数倍は、厳密な整数倍だけではなく、実質的な整数倍も含む。例えば、吐出部Dの固有振動周期の実質的な整数倍は、1以上の自然数をnとした場合、吐出部Dの固有振動周期のn倍の±10%の範囲であってもよい。すなわち、期間Tle1は、吐出部Dの固有振動周期のn倍の期間の±10%の範囲であることが好ましい。換言すれば、期間Tle1は、吐出部Dの固有振動周期の“0.9*n”倍以上“1.1*n”倍以下の期間であることが好ましい。なお、値nは、小さいことが望ましいが、値nが1の場合、インクの吐出が安定し難い。従って、値nは、2であることが好ましい。すなわち、期間Tle1は、吐出部Dの固有振動周期の1.8倍以上2.2倍以下の期間であることがより好ましい。
【0075】
このように、本実施形態では、期間Tle1を吐出部Dの固有振動周期のn倍の期間の±10%の範囲にすることにより、1つ目のインク滴が吐出された後のメニスカスの引き込み量を大きくすることができる。この結果、本実施形態では、合体滴の液量が合体滴の飛翔速度の調整前後で変化することを抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、図6に示すように、1つ目のインク滴が吐出されてから2つ目のインク滴が吐出されるまでに、キャビティーCVの容積の膨張が、波形要素Pdm1、波形要素PW2及び波形要素Pep2により、2段階に分けて行われる。例えば、合体滴の液量が合体滴の飛翔速度の調整前後で変化することを抑制するには、波形要素Pep1の電位変化量と波形要素Pep2の電位変化量とが一致することが好ましい。なお、一致は、厳密な一致だけではなく、実質的な一致、例えば、誤差範囲内の一致も含む。本実施形態では、波形要素Pep1の電位変化量と波形要素Pep2の電位変化量とを一致させることにより、合体滴の液量が合体滴の飛翔速度の調整前後で変化することを抑制することができる。
【0077】
また、波形要素Pcn1の電位変化量が波形要素Pep2の電位変化量よりも小さくなると、1つ目のインク滴が吐出された後のメニスカスの引き込み量が、所望な量、すなわち、適切な量からずれる場合がある。例えば、波形要素Pcn1の電位変化量が波形要素Pep2の電位変化量よりも小さくなるように電位VH1が調整された場合、1つ目のインク滴が吐出された後、波形要素Pep2の開始電位まで電位変化させる波形要素によりメニスカスが押し出されるためメニスカスの引き込み量が適切な量からずれ、合体滴の液量が許容範囲外に変化するおそれがある。従って、波形要素Pcn1の電位変化量が波形要素Pep2の電位変化量より小さくならないように電位VH1が調整されることが好ましい。具体的には、電位VH1は、電位V0以上電位VH2以下の範囲で調整されることが好ましい。
【0078】
例えば、図6に示す電位VH1a、VH1b及びVH1cは、電位V0以上電位VH2以下の範囲の電位である。電位VH1aは、電位V0と電位VH1bとの間の電位であり、電位VH1cは、電位VH1bと電位VH2との間の電位である。例えば、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1aである場合、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1bである場合に比べて、1つ目のインク滴の吐出量は、小さくなる。また、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1cである場合、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1bである場合に比べて、1つ目のインク滴の吐出量は、大きくなる。
【0079】
次に、図7を参照しつつ、波形要素Pcn1の終点の電位VH1を調整した場合の作用について説明する。なお、上述の通り、波形要素Pcn2の終点の電位VH2は変更しない。
【0080】
図7は、特定のパルスPD1の最高電位を調整した場合の作用を説明するための説明図である。特定のパルスPD1の最高電位は、上述したように、波形要素Pcn1の終点の電位VH1である。なお、図7では、ノズルNから吐出されるインク滴の様子として、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が異なる複数の様子が模式的に示されている。図7の上段には、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が図6に示した電位VH1aである場合にノズルNから吐出されるインク滴の様子が模式的に示されている。また、図7の中段には、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が図6に示した電位VH1bである場合にノズルNから吐出されるインク滴の様子が模式的に示されている。そして、図7の下段には、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が図6に示した電位VH1cである場合にノズルNから吐出されるインク滴の様子が模式的に示されている。なお、図7の横軸は、時間を示す。
【0081】
図7では、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合を想定して、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴とが合体する過程を説明する。なお、図7において丸で囲んだ部分は、説明で着目する部分を示す。
【0082】
例えば、タイミングT1において、パルスPD1に含まれる波形要素Pcn1により、ノズルNから1つ目のインク滴が吐出される。波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、波形要素Pcn1の電位変化量が大きくなるため、1つ目のインク滴の吐出量及び吐出速度が増加する。
【0083】
1つ目のインク滴が吐出された後、例えば、タイミングT2において、メニスカスの引き込み量が最大となる。波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、1つ目のインク滴の吐出量が増加するため、1つ目のインク滴が吐出された後のメニスカスの引き込み量が大きくなる。さらに、パルスPD2に含まれる波形要素Pep2によるメニスカスの引き込みとの相乗効果によって、2つ目のインク滴が吐出される前のメニスカスの引き込み量がさらに大きくなる。
【0084】
そして、例えば、タイミングT3において、パルスPD2に含まれる波形要素Pcn2により、ノズルNから2つ目のインク滴が吐出される。上述したように、電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、メニスカスの引き込み量が大きい状態で波形要素Pcn2による2つ目のインク滴の吐出が行われるため、2つ目のインク滴の吐出量は、減少する。
【0085】
このように、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、1つ目のインク滴の吐出量は、増加し、2つ目のインク滴の吐出量は、減少する。この結果、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更されても、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴との合体滴の液量は、波形要素Pcn1の終点の電位VH1の変更前後で殆ど変化しない。すなわち、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更されても、合体滴の液量は、ほぼ一定である。
【0086】
また、電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、メニスカスの引き込み量が大きい場合のインク滴の吐出速度は、メニスカスの引き込み量が小さい場合のインク滴の吐出速度から殆ど変化しないか、又は、増加する。従って、2つ目のインク滴の吐出速度は、波形要素Pcn1の終点の電位VH1の変更前後で殆ど変化しないか、又は、増加する。
【0087】
そして、例えば、タイミングT4において、1つ目のインク滴と2つ目のインク滴とが合体し、合体滴となる。
【0088】
ここで、例えば、1つ目のインク滴の運動量と2つ目のインク滴の運動量との合計は、波形要素Pcn1の電位変化量を大きくするように電位VH1が変更された場合、増加する傾向にある。従って、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、波形要素Pcn1の電位変化量が大きくなるため、1つ目のインク滴の運動量と2つ目のインク滴の運動量との合計は、増加する。また、1つ目のインク滴の運動量と2つ目のインク滴の運動量との合計は、合体滴の運動量に対応する。すなわち、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、合体滴の液量はほぼ一定で、合体滴の運動量が増加する。従って、波形要素Pcn1の終点の電位VH1が電位VH1a又はVH1bから電位VH1cに変更された場合、合体滴の液量はほぼ一定で、合体滴の飛翔速度が増加する。
【0089】
このように、本実施形態では、パルスPD1及びPD2のうちのパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、合体滴の液量を殆ど変化させずに、合体滴の飛翔速度を調整することができる。
【0090】
次に、図8を参照しつつ、本実施形態と対比される対比例に係る駆動信号COMの調整の作用について説明する。
【0091】
図8は、対比例に係る駆動信号COMの調整の作用を説明するための説明図である。なお、第1対比例及び第2対比例では、パルスPD1及びPD2のそれぞれの最高電位が同じ電位、例えば、電位VH2であり、且つ、パルスPD1及びPD2のプッシュ時間が同じであり、駆動信号COMの調整する際はパルスPD1及びPD2が一緒に変更される場合を想定する。第1対比例は、駆動信号COMの調整として、圧電素子PZに印加される駆動電圧のプッシュ時間、例えば、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の開始から終了までの時間は変えずに、圧電素子PZに印加される駆動電圧、例えば、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化量が変更される態様である。また、第2対比例は、駆動信号COMの調整として、圧電素子PZに印加される駆動電圧、例えば、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化量は変えずに、圧電素子PZに印加される駆動電圧のプッシュ時間、例えば、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の開始から終了までの時間が変更される態様である。
【0092】
第1対比例のグラフは、圧電素子PZに印加される駆動電圧と、合体滴の液量及び飛翔速度との関係を示す。第1対比例のグラフの横軸は、駆動電圧[V]を示し、第1対比例のグラフの左右の縦軸は、合体滴の液量[ng]及び飛翔速度[m/s]をそれぞれ示す。また、第2対比例のグラフは、圧電素子PZに印加される駆動電圧のプッシュ時間と、合体滴の液量及び飛翔速度との関係を示す。第2対比例のグラフの横軸は、駆動電圧のプッシュ時間[μs]を示し、第2対比例のグラフの左右の縦軸は、合体滴の液量[ng]及び飛翔速度[m/s]をそれぞれ示す。
【0093】
第1対比例では、駆動電圧の増加に伴い、合体滴の液量及び飛翔速度の両方が増加する。このため、第1対比例では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することが困難である。例えば、第1対比例では、駆動電圧を調整することにより、合体滴の液量を適切な量に調整した場合、合体滴の飛翔速度が適切な速度であるとは限らない。あるいは、第1対比例では、例えば、駆動電圧を調整することにより、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整した場合、合体滴の液量が適切な量であるとは限らない。なお、駆動電圧の調整は、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化量の調整に対応する。
【0094】
第2対比例では、駆動電圧のプッシュ時間の増加に伴い、合体滴の液量及び飛翔速度の両方が減少する。このため、第2対比例では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することが困難である。例えば、第2対比例では、駆動電圧のプッシュ時間を調整することにより、合体滴の液量を適切な量に調整した場合、合体滴の飛翔速度が適切な速度であるとは限らない。あるいは、第2対比例では、例えば、駆動電圧のプッシュ時間を調整することにより、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整した場合、合体滴の液量が適切な量であるとは限らない。なお、駆動電圧のプッシュ時間の調整は、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化率の調整に対応する。例えば、駆動電圧のプッシュ時間が増加することは、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化率が小さくなることに対応する。
【0095】
このように、第1対比例及び第2対比例では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することが困難である。これに対し、本実施形態では、上述したように、合体滴の液量を適切な量に調整した後に、合体滴の液量を適切な量から殆ど変化させずに、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整することができる。すなわち、本実施形態では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することができる。
【0096】
次に、図9を参照しつつ、駆動信号COMの調整方法の一例について説明する。
【0097】
図9は、駆動信号COMの調整方法の一例を示すフローチャートである。
【0098】
先ず、ステップS100において、制御ユニット2は、合体滴の液量が適正であるか否かを判定する。なお、合体滴の液量及び飛翔速度の検出方法としては、テストパターンの印刷結果に基づいて液量及び飛翔速度を検出する方法、及び、飛翔中の合体滴を撮像した画像に基づいて液量及び飛翔速度を検出する方法等の既存の検出方法を採用することができる。
【0099】
ステップS100における判定の結果が肯定の場合、制御ユニット2は、処理をステップS200に進める。一方、ステップS100における判定の結果が否定の場合、制御ユニット2は、処理をステップS120に進める。
【0100】
ステップS120において、制御ユニット2は、例えば、パルスPD1に含まれる波形要素Pcn1及びパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の各々の電位変化量を調整することにより、合体滴の液量を調整する。そして、制御ユニット2は、処理をステップS100に戻す。
【0101】
ステップS200において、制御ユニット2は、合体滴の飛翔速度が適正であるか否かを判定する。ステップS200における判定の結果が肯定の場合、制御ユニット2は、駆動信号COMの調整を終了する。一方、ステップS200における判定の結果が否定の場合、制御ユニット2は、処理をステップS220に進める。
【0102】
ステップS220において、制御ユニット2は、例えば、パルスPD2を変更することなく、パルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を調整する。そして、制御ユニット2は、処理をステップS200に戻す。
【0103】
このように、本実施形態では、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化量を調整することにより、合体滴の液量を適切な量に調整した後に、パルスPD2を変更することなく、波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整する。これにより、本実施形態では、合体滴の液量を適切な量から殆ど変化させずに、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整することができる。すなわち、本実施形態では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することができる。
【0104】
なお、駆動信号COMの調整方法は、図9に示す例に限定されない。例えば、ステップS100及びS200の判定自体は、テストパターンの印刷結果等に基づいてユーザーにより行われてもよい。この場合、例えば、制御ユニット2は、ステップS120の前のステップにおいて、テストパターンの印刷を指示し、ユーザーによる指示がインクジェットプリンター1に入力されるまで待機する。そして、インクジェットプリンター1に入力されたユーザーによる指示が合体滴の液量の調整が必要であることを示す場合、制御ユニット2は、処理をステップS120に進める。また、インクジェットプリンター1に入力されたユーザーによる指示が合体滴の飛翔速度の調整が必要であることを示す場合、制御ユニット2は、処理をステップS220に進める。また、インクジェットプリンター1に入力されたユーザーによる指示が駆動信号COMの調整の終了、即ち駆動信号COMが適正であることを示す場合、制御ユニット2は、駆動信号COMの調整を終了する。なお、制御ユニット2は、ステップS120又はS220の処理を実行した後、例えば、テストパターンの印刷を指示し、ユーザーによる指示がインクジェットプリンター1に入力されるまで待機する。
【0105】
また、制御ユニット2は、例えば、ステップS120において、波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化量の調整と波形要素Pcn1及びPcn2の各々の電位変化率の調整とを実行することにより、合体滴の液量を調整してもよい。
【0106】
また、本実施形態では、図2において説明したように、インクジェットプリンター1が、4個のインクカートリッジ120と1対1に対応する4個のヘッドユニット3を有する場合を想定している。なお、4個のインクカートリッジ120は、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラックの4色のインクと1対1に対応している。すなわち、本実施形態では、4個のヘッドユニット3は、粘度等の物性が互いに異なる4色のインクを、それぞれ吐出する。一般的に、インクの粘度が高い場合、インクの粘度が低い場合に比べて、インクの吐出速度が遅くなる。また、インクの粘度が高い場合、インクの粘度が低い場合に比べて、インクの吐出量が減少する。
【0107】
本実施形態では、4個のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数の合体滴の各々の液量及び飛翔速度の両方が適切な範囲になるように、図9に示す駆動信号COMの調整を4個のヘッドユニット3の各々に対して実行する。この場合、例えば、物性の異なる複数のインクを複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出させるための複数の駆動信号COMでは、波形要素Pcn2の電位変化量に対する波形要素Pcn1の電位変化量の比率が、互いに異なる。なお、複数の駆動信号COMのうちの2つを第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMと称する場合、第1の駆動信号COMに含まれる波形要素Pcn2の電位変化量に対する波形要素Pcn1の電位変化量の比率は、「第1比率」の一例である。また、第2の駆動信号COMに含まれる波形要素Pcn2の電位変化量に対する波形要素Pcn1の電位変化量の比率は、「第2比率」の一例である。
【0108】
4個のヘッドユニット3に対応する4つの駆動信号COMの調整により、例えば、4個のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される合体滴の液量が互いに等しくなり、かつ、4個のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される合体滴の飛翔速度が互いに等しくなる。但し、等しいことは、厳密に等しいことだけではなく、実質的に等しいこと、例えば、誤差範囲内で等しいことも含む。
【0109】
このように、本実施形態では、物性の異なる複数のインクを複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出させるための複数の駆動信号COMは、当該複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数の合体滴の液量が互いに等しくなるように、調整される。さらに、本実施形態では、物性の異なる複数のインクを複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出させるための複数の駆動信号COMは、当該複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数の合体滴の飛翔速度が互いに等しくなるように、調整される。すなわち、本実施形態では、複数のヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数のインクの物性が互いに異なる場合においても、合体滴の液量及び飛翔速度の両方をインクの物性に応じて適切に調整することができる。
【0110】
なお、4個のヘッドユニット3のうちの一のヘッドユニット3が「第1液体吐出ヘッド」の一例であり、他の3個のヘッドユニット3のうちのいずれかが「第2液体吐出ヘッド」の一例である。
【0111】
また、「第1液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3に含まれる吐出部Dは、「第1吐出部」の一例であり、「第1液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3に供給される駆動信号COMは、「第1駆動信号」の一例である。また、「第1吐出部」に該当する吐出部Dに含まれるノズルN、キャビティーCV及び圧電素子PZは、それぞれ「第1ノズル」、「第1圧力室」及び「第1駆動素子」の一例である。また、「第1駆動信号」に該当する駆動信号COMに含まれる複数のパルスPD1及びPD2は、「複数の第1吐出パルス」の一例である。そして、「第1ノズル」に該当するノズルNから吐出された複数のインク滴が合体した合体滴は、「第1合体滴」の一例である。
【0112】
同様に、「第2液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3に関連する吐出部D、駆動信号COM、ノズルN、キャビティーCV及び圧電素子PZは、それぞれ「第2吐出部」、「第2駆動信号」、「第2ノズル」、「第2圧力室」及び「第2駆動素子」の一例である。また、「第2駆動信号」に該当する駆動信号COMに含まれる複数のパルスPD1及びPD2は、「複数の第2吐出パルス」の一例である。そして、「第2ノズル」に該当するノズルNから吐出された複数のインク滴が合体した合体滴は、「第2合体滴」の一例である。上述の「第1液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3、「第2液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3、「第1吐出部」、及び、「第2吐出部」等の対応は、後述する第2変形例においても適用される。
【0113】
以上、本実施形態に係るヘッドユニット3の制御方法は、インク滴を吐出するノズルN、ノズルNに連通するキャビティーCV、及び、駆動信号COMに応じてキャビティーCV内のインクに圧力変動を与える圧電素子PZを含む吐出部Dを有するヘッドユニット3の制御方法であって、駆動信号COMは、記録用紙Pに着弾するまでに合体して合体滴となる複数のインク滴をノズルNからそれぞれ吐出させる複数のパルスPDを含み、複数のパルスPDの各々は、キャビティーCVの容積を収縮させるように電位が変化し、ノズルNからインク滴を吐出させる波形要素Pcnを含み、複数のパルスPDのうち、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の電位変化量を変更せずに、最後のパルスPD2の直前のパルスPDである特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を調整する。
【0114】
このように、本実施形態では、複数のパルスPDのうち、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の電位変化量を変更せずに、特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を調整する。これにより、本実施形態では、合体滴の液量が合体滴の飛翔速度の調整前後で変化することを抑制しつつ、合体滴の飛翔速度を適切な速度に調整することができる。従って、本実施形態では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することができる。
【0115】
また、本実施形態では、特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の始点から、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の始点までの期間Tle1は、吐出部Dの固有振動周期のn倍(nは1以上の自然数)の期間の±10%の範囲である。これにより、本実施形態では、特定のパルスPD1によるインク滴の吐出後のメニスカスの引き込み量に応じて最後のパルスPD2によるインク滴の吐出量を変更することができる。これにより、例えば、特定のパルスPD1により吐出されるインク滴の飛翔速度を上げるように特定のパルスPD1を調整したことで吐出量が増加された場合、最後のパルスPD2を変更せずに、最後のパルスPD2により吐出されるインク滴の吐出量を減少させることができる。あるいは、特定のパルスPD1により吐出されるインク滴の飛翔速度を下げるように特定のパルスPD1を調整したことで吐出量が減少された場合、最後のパルスPD2を変更せずに、最後のパルスPD2により吐出されるインク滴の吐出量を増加させることができる。この結果、本実施形態では、合体滴の液量が合体滴の飛翔速度の調整前後で変化することを抑制することができる。
【0116】
また、本実施形態では、上述のn倍は、2倍である。これにより、本実施形態では、インクの吐出が不安定になることを抑制しつつ、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切に調整することができる。
【0117】
また、本実施形態では、最後のパルスPD2は、波形要素Pcn2よりも前の要素であり、キャビティーCVの容積を膨張させるように電位が変化する波形要素Pep2を含む。最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pep2の始点から、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の始点までの期間Tle2は、吐出部Dの固有振動周期の0.5倍の期間の±20%の範囲である。これにより、本実施形態では、最後のパルスPD2により吐出されるインク滴の吐出速度を速くすることができる。この結果、本実施形態では、特定のパルスPD1により吐出されるインク滴と最後のパルスPD2により吐出されるインク滴とが記録用紙Pに着弾するまでに合体しない吐出不良の発生を抑制することができる。
【0118】
また、本実施形態では、合体滴の飛翔速度を調整する前に、複数のインク滴に対応する複数のパルスPDの各々に含まれる波形要素Pcnの電位変化量を調整することにより、合体滴の液量を調整する。これにより、本実施形態では、合体滴の液量及び飛翔速度の両方を適切な範囲に容易に調整することができる。
【0119】
また、本実施形態では、合体滴の液量を調整する場合、特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量が、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の電位変化量以下となるように、複数のパルスPDの各々に含まれる波形要素Pcnの電位変化量を調整する。これにより、本実施形態では、合体滴の飛翔速度を調整する際に、特定のパルスPD1の波形要素Pcn1の電位変化量を大きくした場合に吐出されるインク滴と最後のパルスPD2により吐出されるインク滴とが記録用紙Pに着弾するまでに合体しない吐出不良の発生を抑制することができる。
【0120】
また、本実施形態では、合体滴の液量を調整する場合、特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の単位時間当たりの電位変化量である電位変化率が、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の電位変化率よりも小さくなるように、複数のパルスPDの各々に含まれる波形要素Pcnの電位変化率を調整する。これにより、本実施形態では、合体滴の飛翔速度を調整する際に、特定のパルスPD1の波形要素Pcn1の電位変化率を大きくした場合に吐出されるインク滴と最後のパルスPD2により吐出されるインク滴とが記録用紙Pに着弾するまでに合体しない吐出不良の発生を抑制することができる。
【0121】
また、本実施形態では、インクジェットプリンター1は、駆動信号COMに対して、上述の調整を実行する制御ユニット2を有する。従って、本実施形態に係るインクジェットプリンター1においても、上述の効果と同様の効果を得ることができる。
【0122】
例えば、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、インク滴を吐出するノズルN、ノズルNに連通するキャビティーCV、及び、駆動信号COMに応じてキャビティーCV内のインクに圧力変動を与える圧電素子PZを含む吐出部Dを有するヘッドユニット3と、ヘッドユニット3を制御する制御ユニット2と、を備え、駆動信号COMは、記録用紙Pに着弾するまでに合体する複数のインク滴をノズルNからそれぞれ吐出させる複数のパルスPDを含み、複数のパルスPDの各々は、キャビティーCVの容積を収縮させるように電位が変化し、ノズルNからインク滴を吐出させる波形要素Pcnを含み、制御ユニット2は、複数のパルスPDのうち、最後のパルスPD2に含まれる波形要素Pcn2の電位変化量を変更せずに、最後のパルスPD2の直前のパルスPDである特定のパルスPD1に含まれる波形要素Pcn1の電位変化量を調整することにより、複数のインク滴が合体した合体滴の飛翔速度を調整する。
【0123】
また、本実施形態では、インクジェットプリンター1は、複数のヘッドユニット3を有する。以下では、「第1液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3、及び、当該ヘッドユニット3に関連する要素は、先頭に「第1の」を付して称される場合がある。同様に、「第2液体吐出ヘッド」に該当するヘッドユニット3、及び、当該ヘッドユニット3に関連する要素は、先頭に「第2の」を付して称される場合がある。
【0124】
例えば、本実施形態では、インクジェットプリンター1は、インク滴を吐出する第1のノズルN、第1のノズルNに連通する第1のキャビティーCV、及び、第1の駆動信号COMに応じて第1のキャビティーCV内のインクに圧力変動を与える第1の圧電素子PZを含む第1の吐出部Dを有する第1のヘッドユニット3と、インク滴を吐出する第2のノズルN、第2のノズルNに連通する第2のキャビティーCV、及び、第2の駆動信号COMに応じて第2のキャビティーCV内のインクに圧力変動を与える第2の圧電素子PZを含む第2の吐出部Dを有する第2のヘッドユニット3と、第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニット4と、を備える。第1の駆動信号COMは、記録用紙Pに着弾するまでに合体して第1の合体滴となる複数のインク滴を第1のノズルNからそれぞれ吐出させる複数の第1のパルスPDを含む。第2の駆動信号COMは、記録用紙Pに着弾するまでに合体して第2の合体滴となる複数のインク滴を第2のノズルNからそれぞれ吐出させる複数の第2のパルスPDを含む。第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMは、第1の合体滴の液量と第2の合体滴の液量とが等しくなるように、調整される。複数の第1のパルスPDのうちの最後の第1のパルスPDの電位変化量に対する、最後の第1のパルスPDの直前の第1のパルスPDの電位変化量の比率が、第1比率である。複数の第2のパルスPDのうちの最後の第2のパルスPDの電位変化量に対する、最後の第2のパルスPDの直前の第2のパルスPDの電位変化量の比率が、第2比率である。第1比率と第2比率は、異なる。
【0125】
このように、本実施形態では、第1の合体滴の液量と第2の合体滴の液量とが等しくなるように、第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMが、第1比率と第2比率とを異ならせて、調整される。例えば、本実施形態では、第1のノズルNから吐出されるインクの物性と第2のノズルNから吐出されるインクの物性とが異なる場合においても、第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMの調整により、第1の合体滴の液量と第2の合体滴の液量とを等しくすることができる。
【0126】
また、本実施形態では、第1のノズルNから吐出されるインクの物性と第2のノズルNから吐出されるインクの物性とは異なり、第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMは、第1の合体滴の飛翔速度と第2の合体滴の飛翔速度とが等しくなるように、調整されている。このように、本実施形態では、第1のノズルNから吐出されるインクの物性と第2のノズルNから吐出されるインクの物性とが異なる場合においても、第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMの調整により、第1の合体滴の飛翔速度と第2の合体滴の飛翔速度とを等しくすることができる。
【0127】
[2.変形例]
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲内で適宜に併合され得る。なお、以下に例示する変形例において作用や機能が実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0128】
[第1変形例]
駆動信号COMが、単位期間TPに配線Laに供給される2つのパルスPDを含む場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、駆動信号COMは、単位期間TPに配線Laに供給される3つ以上のパルスPDを含んでもよい。すなわち、本変形例では、駆動信号COMは、複数のパルスPDとして、3つ以上のパルスPDを含む。例えば、制御ユニット2は、複数のパルスPDのうち、特定のパルスPD以外のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量を変更せずに、特定のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量を調整することにより、合体滴の飛翔速度を調整する。なお、特定のパルスPDは、複数のパルスPDのうち、最後のパルスPDの直前のパルスPDである。
【0129】
例えば、駆動信号COMが、単位期間TPに配線Laに供給される3つパルスPDを含む場合、2番目のパルスPDが特定のパルスPDである。この場合、特定のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量は、最初のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量以上で、最後のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量以下であることが好ましい。但し、特定のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量が最初のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量未満であっても、特定のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量が最後のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量以下であればよい。
【0130】
以上、本変形例では、複数のパルスPDは、3つ以上のパルスPDを含み、制御ユニット2は、合体滴の飛翔速度を調整する場合、複数のパルスPDのうち特定のパルスPD以外のパルスPDに含まれる波形要素Pcnの電位変化量を変更せずに維持する。本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0131】
[第2変形例]
上述した実施形態及び変形例では、「媒体」として記録用紙Pを例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、「媒体」は、図10に示すように、印刷される面が曲面である円筒状の印刷媒体PPであってもよい。
【0132】
図10は、第2変形例に係るインクジェットプリンター1を説明するための説明図である。図10では、インクジェットプリンター1の要部が模式的に示されている。
【0133】
図10では、インクジェットプリンター1が3個のヘッドユニット3を有する場合を想定する。但し、変形例はこのような態様に限定されるものではない。例えば、インクジェットプリンター1は、2個のヘッドユニット3を有してもよいし、4個以上のヘッドユニット3を有してもよい。また、図10では、3個のヘッドユニット3を互いに区別するために、3個のヘッドユニット3の各々の符号の末尾には、アルファベット“a”、“b”又は“c”が付されている。また、図10では、各ヘッドユニット3に設けられたノズル列NLの符号の末尾には、当該ヘッドユニット3の符号の末尾に付されたアルファベットと同じアルファベット“a”、“b”又は“c”が付されている。
【0134】
なお、ヘッドユニット3bは、「第1液体吐出ヘッド」又は「第2液体吐出ヘッド」の一例である。そして、ヘッドユニット3bが「第1液体吐出ヘッド」に該当する場合、ヘッドユニット3a及び3cは、「第2液体吐出ヘッド」の一例である。また、ヘッドユニット3bが「第2液体吐出ヘッド」に該当する場合、ヘッドユニット3a及び3cは、「第1液体吐出ヘッド」の一例である。
【0135】
図10に示すインクジェットプリンター1は、図2に示した記録用紙Pの代わりに円筒状の印刷媒体PPに画像を形成することを除いて、図1等に示したインクジェットプリンター1と同様である。例えば、搬送ユニット7は、円筒状の印刷媒体PPの中心軸Oを回転軸として印刷媒体PPを回転させることにより、合体滴が着弾する印刷媒体PP上の位置を変化させる。本変形例では、印刷媒体PPの回転軸、すなわち、中心軸OがY軸方向に延在する場合を想定する。
【0136】
本変形例では、インクジェットプリンター1がラインプリンターである場合を想定する。例えば、3個のヘッドユニット3a、3b及び3cは、X軸方向に沿って配置され、配置された場所に固定されている。また、例えば、3個のヘッドユニット3a、3b及び3cにそれぞれ設けられた3つのノズル列NLa、NLb及びNLcの各々は、印刷媒体PPの幅よりも広くY軸方向に延在する。搬送ユニット7は、印刷処理において、印刷媒体PPを速度Vrで回転させることにより、印刷媒体PPの側面SSの全体に対するインクの着弾を可能とする。速度Vrは、ヘッドユニット3に対する印刷媒体PPの側面SSの相対速度[m/s]である。
【0137】
なお、本変形例に係るインクジェットプリンター1は、ラインプリンターに限定されない。例えば、インクジェットプリンター1は、シリアルプリンターであってもよい。この場合、例えば、搬送ユニット7は、印刷処理において、印刷媒体PPが1周する毎にヘッドユニット3をY軸方向に移動させることにより、ヘッドユニット3に対する印刷媒体PPの側面SSの相対位置を変化させてもよい。この場合においても、印刷媒体PPの側面SSの全体に対するインクの着弾を可能となる。
【0138】
ヘッドユニット3bは、例えば、ノズル列NLbと印刷媒体PPの側面SSとの距離が最小の距離gとなるように、配置される。ヘッドユニット3a及び3cは、ノズル列NLaとノズル列NLbとのX軸方向の間隔と、ノズル列NLbとノズル列NLcとのX軸方向の間隔とが等しくなるように、ヘッドユニット3bに対して-X方向及び+X方向にそれぞれ配置される。この場合、ノズル列NLaと印刷媒体PPの側面SSとの距離、及び、ノズル列NLaと印刷媒体PPの側面SSとの距離は、印刷媒体PPの半径rを用いて、“r*(1-cosθ)”で表される。なお、角度θは、ノズル列NLaとノズル列NLbとのX軸方向の間隔を“W/2”とした場合、逆正弦関数arcsinを用いて、“arcsin((W/2)/r)”で表される。
【0139】
以下では、ノズル列NLaから吐出される複数のインクが合体した合体滴は、ノズル列NLaの合体滴とも称され、ノズル列NLbから吐出される複数のインクが合体した合体滴は、ノズル列NLbの合体滴とも称される。また、ノズル列NLcから吐出される複数のインクが合体した合体滴は、ノズル列NLcの合体滴とも称される。また、以下では、ノズル列NLaの合体滴、ノズル列NLbの合体滴、及び、ノズル列NLbの合体滴の3つの合体滴を、単に、3つの合体滴と称する場合がある。なお、ヘッドユニット3bが「第1液体吐出ヘッド」に該当する場合、ノズル列NLbの合体滴は、「第1合体滴」の一例であり、ノズル列NLaの合体滴、及び、ノズル列NLcの合体滴は、「第2合体滴」の一例である。また、ヘッドユニット3bが「第2液体吐出ヘッド」に該当する場合、ノズル列NLbの合体滴は、「第2合体滴」の一例であり、ノズル列NLaの合体滴、及び、ノズル列NLcの合体滴は、「第1合体滴」の一例である。
【0140】
制御ユニット2は、例えば、印刷媒体PPの側面SS上の同じ位置に3つの合体滴が着弾するように、ノズル列NLから吐出されるインクの吐出タイミングをノズル列NLa、NLb及びNLcで異ならせる。具体的には、例えば、ノズル列NLaの吐出タイミングは、ノズル列NLbの吐出タイミングに対して、“(W/2)/Vr”秒早くなるように制御される。また、ノズル列NLcの吐出タイミングは、ノズル列NLbの吐出タイミングに対して、“(W/2)/Vr”秒遅くなるように制御される。
【0141】
なお、インクの吐出速度が3つのノズル列NLで同じ場合、ノズル列NLと印刷媒体PPの側面SSとの距離が、ノズル列NLa及びNLcと、ノズル列NLbとで異なるため、吐出タイミングの調整だけでは、3つの合体滴の着弾位置は、揃わない。このため、本変形例では、制御ユニット2は、印刷媒体PPの側面SS上の同じ位置に3つの合体滴が着弾するように、ノズル列NLと印刷媒体PPの側面SSとの距離に応じて、インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整する。なお、各ノズル列NLのインクの吐出速度は、図9に示した駆動信号COMの調整を3個のヘッドユニット3a、3b及び3cの各々に対して実行することにより、調整される。
【0142】
次に、図11を参照しつつ、インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整した場合の作用について説明する。
【0143】
図11は、インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整した場合の作用を説明するための説明図である。図11では、3つのノズル列NLa、NLb及びNLcで直線を形成する場合を例にして、インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整した場合の作用を説明する。
【0144】
図11の上段のグラフは、ノズル列NLbのインクの吐出速度を固定した場合のノズル列NLa及びNLcのインクの吐出速度と3つの合体滴の着弾位置のずれとの関係を示す。図11の上段のグラフの縦軸は、ノズル列NLbの合体滴の着弾位置に対する、ノズル列NLaの合体滴及びノズル列NLcの合体滴の着弾位置のずれ量を示し、図11の上段のグラフの横軸は、ノズル列NLa及びNLcのインクの吐出速度を示す。また、図11の下段は、3つの合体滴の着弾位置の模式図を示す。図11の模式図の白丸は、ノズル列NLbの合体滴を示し、薄い網掛けの丸は、ノズル列NLaの合体滴を示し、濃い網掛けの丸は、ノズル列NLcの合体滴を示す。
【0145】
図11の下段の模式図の左側には、本変形例と対比される形態として、吐出速度が全てのノズル列NLで7m/sである対比例が示されている。図11の下段の模式図の右側には、本変形例の一形態として、インクの吐出速度がノズル列NL毎に調整された例が示されている。
【0146】
図11では、ノズル列NLaとノズル列NLcとのX軸方向の間隔Wが25.4mm、印刷媒体PPの半径rが330mm、印刷媒体PPの回転速度Vrが1m/s、ノズル列NLbと印刷媒体PPの側面SSとの距離gが1mmである場合を想定する。
【0147】
例えば、吐出速度が全てのノズル列NLで7m/sである場合、図11の下段の“対比例”に示すように、ノズル列NLaの合体滴及びノズル列NLcの合体滴の着弾位置は、ノズル列NLbの合体滴の着弾位置に対して、35μmずれる。
【0148】
これに対し、本変形例では、ノズル列NLbのインクの吐出速度を7m/s、ノズル列NLa及びNLcのインクの吐出速度を8.7m/sに調整することにより、図11の下段の“吐出速度調整”に示すように、3つの合体滴の着弾位置を直線上に揃えることができる。
【0149】
なお、例えば、±10μm以内のずれが許容されている場合、ノズル列NLa及びNLcのインクの吐出速度は、図11の上段のグラフに示すように、約8.2m/sから約9.4m/sの範囲で調整されてもよい。
【0150】
このように、本変形例では、ノズル列NLから印刷媒体PPの側面SSまでの距離に応じて、インクの吐出速度をノズル列NL毎に調整する。例えば、合体滴となる1つ目のインクがノズル列NLから吐出されてから合体滴が印刷媒体PPに着弾するまでの時間が、ノズル列NLa、NLb及びNLcで等しくなるように、インクの吐出速度がノズル列NL毎に調整される。これにより、本変形例では、3つの合体滴の着弾位置がずれることを抑制することができる。
【0151】
以上、本変形例では、第1のノズルNから印刷媒体PPまでの距離と、第2のノズルNから印刷媒体PPまでの距離とは、異なる。第1の駆動信号COM及び第2の駆動信号COMは、第1の合体滴の飛翔速度と第2の合体滴の飛翔速度とが異なるように、調整されている。これにより、本変形例では、例えば、第1のノズルNから1つ目のインクが吐出されてから第1の合体滴が印刷媒体PPに着弾するまでの時間と、第2のノズルNから1つ目のインクが吐出されてから第2の合体滴が印刷媒体PPに着弾するまでの時間とを等しくすることができる。この場合、第1の合体滴の着弾位置と第2の合体滴の着弾位置とがずれることを抑制することができる。
【0152】
[第3変形例]
上述した実施形態及び変形例では、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZが-Z方向に変位する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位から低電位に変化することにより、-Z方向に変位する圧電素子PZが用いられてもよい。この場合、例えば、駆動信号COMの電位は、膨張要素に該当する部分において低電位から高電位に変化し、収縮要素に該当する部分において高電位から低電位に変化する。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0153】
[第4変形例]
上述した実施形態、及び、変形例では、各ヘッドユニット3が1つのノズル列NLを有する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、各ヘッドユニット3は、複数のノズル列NLを有してもよい。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0154】
[第5変形例]
上述した実施形態、及び、変形例では、駆動信号COMが1つの場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、駆動信号COMは、図6に示した駆動信号COMの他に、パルスPD1及びPD2とは異なるパルスPDを有する駆動信号を含んでもよい。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
[第6変形例]
上述した実施形態、及び、変形例では、複数のヘッドユニット3が、粘度等の物性が互いに異なるインクをそれぞれ吐出する場合に、ヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数の合体滴の各々の液量及び飛翔速度の両方が適切な範囲になるように、駆動信号COMを調整する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。複数のヘッドユニット3の製造誤差により、ヘッドユニット3からそれぞれ吐出される複数の合体滴の各々の液量及び飛翔速度が異なる場合に、上述の実施形態の駆動信号COMの調整を実施してもよい。
【符号の説明】
【0155】
1…インクジェットプリンター、2…制御ユニット、3…ヘッドユニット、4…駆動信号生成ユニット、7…搬送ユニット、8…メンテナンスユニット、31…供給回路、32…記録ヘッド、D…吐出部、N…ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11