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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130667
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層造形用粉末および積層造形体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/05 20220101AFI20240920BHJP
   B22F 10/14 20210101ALI20240920BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240920BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240920BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240920BHJP
【FI】
B22F1/05
B22F10/14
B22F1/00 S
B33Y70/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040519
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】間 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】佐野 世樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018AA33
4K018BA13
4K018BA17
(57)【要約】
【課題】焼結性と流動性の双方が良好な積層造形用粉末、および、かかる積層造形用粉末を有する積層造形体を提供すること。
【解決手段】Fe基金属材料を含有し、焼結により金属焼結体となる積層造形体の製造に用いられる積層造形用粉末であって、体積基準の積算粒度分布曲線において小径側からの累積値が10%であるときの粒径をD10とし、小径側からの累積値が50%であるときの粒径をD50とし、小径側からの累積値が90%であるときの粒径をD90とするとき、粒径D50が1.0μm以上15.0μm未満であり、かつ、粒径D90と粒径D10との粒径差D90-D10が5.0μm以上18.0μm以下であり、比表面積が、0.05[m/g]以上0.25[m/g]以下であり、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、200ppm以下であり、粒子の平均円形度が、0.85以上0.99以下である積層造形用粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基金属材料を含有し、焼結により金属焼結体となる積層造形体の製造に用いられる積層造形用粉末であって、
レーザー回折法により測定された体積基準の積算粒度分布曲線において小径側からの累積値が10%であるときの粒径をD10とし、小径側からの累積値が50%であるときの粒径をD50とし、小径側からの累積値が90%であるときの粒径をD90とするとき、粒径D50が1.0μm以上15.0μm未満であり、かつ、粒径D90と粒径D10との粒径差D90-D10が5.0μm以上18.0μm以下であり、
比表面積が、0.05[m/g]以上0.25[m/g]以下であり、
カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、200ppm以下であり、
粒子の平均円形度が、0.85以上0.99以下であることを特徴とする積層造形用粉末。
【請求項2】
酸素含有率が、1000ppm以上4000ppm以下である請求項1に記載の積層造形用粉末。
【請求項3】
粒径D50が、4.0μm以上10.0μm以下である請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項4】
比表面積が、0.10[m/g]以上0.22[m/g]以下である請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項5】
前記水分量が、30ppm以上150ppmである請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項6】
前記Fe基金属材料は、ステンレス鋼である請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項7】
かさ密度に対するタップ密度の比が、1.2以上1.8以下である請求項1または2に記載の積層造形用粉末。
【請求項8】
請求項1または2に記載の積層造形用粉末と、
前記積層造形用粉末の粒子同士を結着するバインダーと、
を有することを特徴とする積層造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用粉末および積層造形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元の立体物を造形する技術として、近年、金属粉末を用いた積層造形法が普及しつつある。積層造形法としては、結合させる原理に応じて、熱溶融積層法(FDM : Fused Deposition Modeling)、粉末焼結積層造形法(SLS : Selective Laser Sintering)、バインダージェット法等が知られている。
【0003】
特許文献1には、多数の粒子からなり、これらの粒子がNi、FeおよびCoのうちの少なくとも1種を含んでおり、Ni、FeおよびCoの合計含有率が50質量%以上である造形用金属粉末であって、円形度が0.80未満である粒子の数の、粒子の総数に対する比率P1が10%以下であり、円形度が0.95以上である粒子の数の、粒子の総数に対する比率P3が50%以上である造形用金属粉末が開示されている。
【0004】
このような造形用金属粉末によれば、円形度が大きな粒子を多数含むため、取り扱い性に優れ、高強度の造形物を製造することができる。
【0005】
また、製造された造形体を焼結させることにより、金属焼結体を効率よく製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-102229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の造形用金属粉末は、平均粒径に相当する粒子径D50が15μm以上であり、比較的大きい。このため、得られる造形物は、金属粉末の焼結性が低いという課題がある。また、粒径が小さいほど、粉末の流動性が低下し、粉末の充填性が低下する傾向がある。このため、粒径を小さくして焼結性を高めた場合、流動性の低下を抑える必要がある。
【0008】
そこで、焼結性と流動性の双方が良好な積層造形用粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の適用例に係る積層造形用粉末は、
Fe基金属材料を含有し、焼結により金属焼結体となる積層造形体の製造に用いられる積層造形用粉末であって、
レーザー回折法により測定された体積基準の積算粒度分布曲線において小径側からの累積値が10%であるときの粒径をD10とし、小径側からの累積値が50%であるときの粒径をD50とし、小径側からの累積値が90%であるときの粒径をD90とするとき、粒径D50が1.0μm以上15.0μm未満であり、かつ、粒径D90と粒径D10との粒径差D90-D10が5.0μm以上18.0μm以下であり、
比表面積が、0.05[m/g]以上0.25[m/g]以下であり、
カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、200ppm以下であり、
粒子の平均円形度が、0.85以上0.99以下である。
【0010】
本発明の適用例に係る積層造形体は、
本発明の適用例に係る積層造形用粉末と、
前記積層造形用粉末の粒子同士を結着するバインダーと、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】積層造形体の製造方法を説明するための工程図である。
図2図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図3図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図4図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図5図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図6図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図7図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図8図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図9図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
図10図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層造形用粉末および積層造形体の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
1.積層造形体の製造方法
まず、積層造形用粉末を用いた積層造形体の製造方法について説明する。
【0014】
図1は、積層造形体の製造方法を説明するための工程図である。図2ないし図10は、それぞれ図1に示す積層造形体の製造方法を説明するための図である。なお、本願の図2ないし図10では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定している。各軸は、矢印で表され、先端側を「プラス側」、基端側を「マイナス側」とする。以下の説明では、特に、Z軸のプラス側を「上」とし、Z軸のマイナス側を「下」とする。また、X軸と平行な両方向をX軸方向、Y軸と平行な両方向をY軸方向、Z軸と平行な両方向をZ軸方向という。
【0015】
図1ないし図10に示す積層造形体の製造方法は、積層造形法の一種であるバインダージェット法と呼ばれる方法であり、図1に示すように、粉末層形成工程S102と、バインダー溶液供給工程S104と、繰り返し工程S106と、を有する。バインダージェット法は、造形物を支持するサポート構造が不要であるため、複雑な形状の積層造形体を作製可能であるという利点を有する。
【0016】
粉末層形成工程S102では、積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。バインダー溶液供給工程S104では、粉末層31の所定領域にバインダー溶液4を供給し、粉末層31中の粒子同士を結着させ、結着層41を得る。繰り返し工程S106では、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返すことにより、図10に示す積層造形体6を得る。以下、各工程について順次説明する。
【0017】
作製した積層造形体6は、焼結処理に供されることにより、金属焼結体となる。得られる金属焼結体には、積層造形体の形状が反映されるため、これにより、複雑な形状の金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0018】
1.1.積層造形装置
まず、粉末層形成工程S102の説明に先立ち、積層造形装置2について説明する。
【0019】
積層造形装置2は、粉末貯留部211および造形部212を有する装置本体21と、粉末貯留部211に設けられた粉末供給エレベーター22と、造形部212に設けられた造形ステージ23と、装置本体21上において移動可能に設けられたコーター24、ローラー25および液体供給部26と、を備えている。
【0020】
粉末貯留部211は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。この粉末貯留部211には、積層造形用粉末1が貯留される。そして、粉末貯留部211に貯留されている積層造形用粉末1の適量が、コーター24によって造形部212へ供給されるようになっている。
【0021】
粉末貯留部211の底部には、粉末供給エレベーター22が配置されている。粉末供給エレベーター22は、積層造形用粉末1を載せた状態で、上下方向に移動可能になっている。粉末供給エレベーター22を上方に移動させることにより、この粉末供給エレベーター22に載置されている積層造形用粉末1を押し上げ、粉末貯留部211からはみ出させる。これにより、はみ出した分の積層造形用粉末1を造形部212側へ移動させることができる。
【0022】
造形部212は、装置本体21に設けられ、上部が開口している凹部である。造形部212の内部には、造形ステージ23が配置されている。造形ステージ23上には、コーター24によって積層造形用粉末1が層状に敷かれるようになっている。また、造形ステージ23は、積層造形用粉末1が敷かれた状態で、上下方向に移動可能になっている。造形ステージ23の高さを適宜設定することにより、造形ステージ23上に敷かれる積層造形用粉末1の量を調整することができる。
【0023】
コーター24およびローラー25は、粉末貯留部211から造形部212にかけて、X軸方向に移動可能になっている。コーター24は、積層造形用粉末1を引きずることにより、積層造形用粉末1を均して、層状に敷くことができる。ローラー25は、均された積層造形用粉末1を上から圧縮する。
【0024】
液体供給部26は、例えばインクジェットヘッドやディスペンサー等で構成され、造形部212において、X軸方向およびY軸方向に移動可能になっている。そして、液体供給部26は、目的とする量のバインダー溶液4を目的とする位置に供給することができる。なお、液体供給部26は、1つのヘッドに複数の吐出ノズルを備えていてもよい。そして、複数の吐出ノズルからバインダー溶液4を同時または時間差を伴って吐出するようになっていてもよい。
【0025】
1.2.粉末層形成工程
次に、上述した積層造形装置2を用いた粉末層形成工程S102について説明する。粉末層形成工程S102では、造形ステージ23上に積層造形用粉末1を敷いて粉末層31を形成する。具体的には、図2および図3に示すように、コーター24を用い、粉末貯留部211に貯留している積層造形用粉末1を造形ステージ23上に引きずり、均一な厚さに均す。これにより、図4に示す粉末層31を得る。この際、造形ステージ23の上面を、造形部212の上端よりも下げるとともに、下げる量を調整することにより、粉末層31の厚さを調整することができる。なお、積層造形用粉末1は、後述するように、均されたときの充填性に優れる粉末である。このため、充填率が高い粉末層31を得ることができる。
【0026】
次に、粉末層31をローラー25で厚さ方向に圧縮しながら、図4に示すように、ローラー25をX軸方向に移動させる。これにより、粉末層31における積層造形用粉末1の充填率を高めることができる。なお、ローラー25による圧縮は、必要に応じて行えばよく、省略してもよい。また、ローラー25とは異なる手段、例えば押さえ板等により、粉末層31を圧縮するようにしてもよい。
【0027】
1.3.バインダー溶液供給工程
バインダー溶液供給工程S104では、図5に示すように、液体供給部26により、粉末層31のうち、造形しようとする積層造形体6に対応する形成領域60にバインダー溶液4を供給する。バインダー溶液4は、バインダーと、溶媒または分散媒と、を含有する液体である。バインダー溶液4が供給された形成領域60では、積層造形用粉末1の粒子同士が結着し、図6に示す結着層41が得られる。結着層41では、積層造形用粉末1の粒子同士がバインダーによって結着され、自重によって壊れない程度の保形性を有している。
【0028】
なお、バインダー溶液4の供給と同時または供給後に、結着層41を加熱するようにしてもよい。これにより、バインダー溶液4に含まれる溶媒や分散媒の揮発を促進するとともに、バインダーの固化または硬化による粒子同士の結着を促進する。なお、バインダーが光硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂を含む場合には、加熱に代えて、または、加熱とともに光照射や紫外線照射を行うようにすればよい。
【0029】
加熱する場合の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上250℃以下であるのが好ましく、70℃以上200℃以下であるのがより好ましい。これにより、結着層41に十分な熱量を与えることができ、溶媒や分散媒の揮発を十分に促進することができる。
【0030】
バインダー溶液4は、積層造形用粉末1の粒子同士を結着可能な成分を有する液体であれば、特に限定されない。一例として、バインダー溶液4が含む溶媒または分散媒としては、例えば、水、アルコール類、ケトン類、カルボン酸エステル類等が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種を含む混合液であってもよい。また、バインダー溶液4が含むバインダーとしては、例えば、脂肪酸、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル、ステアリン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
【0031】
1.4.繰り返し工程
繰り返し工程S106では、結着層41を複数積層してなる積層体が、所定の形状になるまで、粉末層形成工程S102およびバインダー溶液供給工程S104を1回以上繰り返す。つまり、これらの工程を合計で2回以上行う。これにより、図10に示す、立体的な積層造形体6を得る。
【0032】
具体的には、まず、図6に示す結着層41の上に、図7に示すように、新たな粉末層31を形成する。次に、図8に示すように、新たに形成した粉末層31のうち、形成領域60にバインダー溶液4を供給する。これにより、図9に示す2層目の結着層41が得られる。これらの操作を繰り返すことにより、図10に示す積層造形体6が得られる。
【0033】
なお、粉末層31のうち、結着層41を構成しなかった積層造形用粉末1は回収され、必要に応じて再使用、すなわち再び積層造形体6の製造に供される。
以上のようにして得られた積層造形体6は、後述する焼結処理に供される。
【0034】
1.5.金属焼結体の製造方法
積層造形体6に焼結処理を施すことにより、金属焼結体が得られる。焼結処理では、積層造形体6を加熱し、焼結反応を生じさせる。
【0035】
焼結温度は、積層造形用粉末1の構成材料や粒径等によって異なるが、一例として、980℃以上1330℃以下であるのが好ましく、1050℃以上1260℃以下であるのがより好ましい。また、焼結時間は、0.2時間以上7時間以下であるのが好ましく、1時間以上6時間以下であるのがより好ましい。
【0036】
焼結処理の雰囲気は、例えば、水素等の還元性雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。減圧雰囲気の圧力は、常圧(100kPa)未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。
【0037】
なお、上記のような条件で行う焼結処理を「本焼結」とするとき、必要に応じて積層造形体6に対し、本焼結の前処理に相当する「仮焼結」または「脱脂」を行うようにしてもよい。これにより、積層造形体6に含まれるバインダーの少なくとも一部を除去したり、一部に焼結反応を生じさせたりすることができる。これにより、本焼結を行うとき、意図しない変形等を抑制することができる。
【0038】
仮焼結や脱脂の温度は、金属粉末が焼結を完了させない程度の温度であれば、特に限定されないが、100℃以上500℃以下であるのが好ましく、150℃以上300℃以下であるのがより好ましい。また、仮焼結や脱脂の時間は、前記温度範囲で、5分以上であるのが好ましく、10分以上120分以下であるのがより好ましく、20分以上60分以下であるのがさらに好ましい。仮焼結や脱脂の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
【0039】
以上のようにして得られる金属焼結体は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品の全体または一部を構成する材料として用いることができる。
【0040】
2.積層造形用粉末
次に、実施形態に係る積層造形用粉末について説明する。
【0041】
本実施形態に係る積層造形用粉末1は、前述したバインダージェット法のような各種の積層造形法に用いられる粉末である。
【0042】
2.1.構成材料
積層造形用粉末1は、Fe基金属材料を含有する。Fe基金属材料は、原子数比でFeの含有率が50%超である金属材料を指す。
【0043】
Fe基金属材料としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼のようなステンレス鋼、低炭素鋼、炭素鋼、耐熱鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金等が挙げられる。
【0044】
このうち、Fe基金属材料には、ステンレス鋼が好ましく用いられる。ステンレス鋼は、機械的強度および耐食性に優れる鋼種である。このため、ステンレス鋼で構成された積層造形用粉末1を用いることにより、機械的強度および耐食性に優れ、形状精度の高い金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0045】
オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS301、SUS301L、SUS301J1、SUS302B、SUS303、SUS304、SUS304Cu、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS312L、SUS315J1、SUS315J2、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS317J2、SUS836L、SUS890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1等が挙げられる。
【0046】
フェライト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS405、SUS410L、SUS429、SUS430、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS445J1、SUS445J2、SUS444、SUS447J1、SUSXM27等が挙げられる。
【0047】
マルテンサイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410S、SUS420J1、SUS420J2、SUS440A等が挙げられる。
【0048】
析出硬化系ステンレス鋼としては、例えば、SUS630、SUS631等が挙げられる。
【0049】
オーステナイト・フェライト系(二相系)ステンレス鋼としては、例えば、SUS329J1、SUS329J3L、SUS329J4L等が挙げられる。
【0050】
なお、上記の記号は、JIS規格に基づく材料記号である。本明細書におけるステンレス鋼の種類は、上記材料記号で区別される。
【0051】
積層造形体6は、種類の異なるステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて製造されてもよい。積層造形体6を2つの部位に分け、一方の部位を第1のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製し、他方の部位を第2のステンレス鋼を含有する積層造形用粉末1を用いて作製するようにしてもよい。
【0052】
また、積層造形用粉末1には、Fe基金属材料で構成されたコア粒子の表面を被覆する被膜が設けられていてもよい。この被膜は、例えば、積層造形用粉末1の流動性および充填性を高める、積層造形用粉末1とバインダーとの親和性を高めるといった目的で設けられる。被膜の構成材料としては、例えば、樹脂のような有機材料、セラミックス、ガラスのような無機材料、カップリング剤に由来する化合物等が挙げられる。
【0053】
2.2.積層造形用粉末の各種特性
次に、積層造形用粉末1の各種特性について説明する。なお、以下の特性は、いずれも、積層造形用粉末1に前述した被膜が設けられていない状態で測定される特性である。
【0054】
2.2.1.粒度分布
本実施形態に係る積層造形用粉末1について、レーザー回折式粒度分布測定装置により体積基準で粒度分布を得たとき、頻度の累積が小径側から10%であるときの粒径をD10とする。同様に、頻度の累積が小径側から50%、90%、99%であるときの粒径をD50、D90、D99とする。粒度分布の測定装置としては、例えば、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100が挙げられる。
【0055】
積層造形用粉末1の粒径D50は、1.0μm以上15.0μm未満とされ、好ましくは3.0μm以上12.0μm以下とされ、より好ましくは4.0μm以上10.0μm以下とされる。これにより、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。その結果、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0056】
なお、粒径D50が前記下限値を下回ると、積層造形用粉末1の粒子同士が凝集しやすくなる。このため、積層造形用粉末1の流動性が低下し、金属焼結体の密度が低下する。一方、粒径D50が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の焼結性が低下し、金属焼結体の密度が低下する。
【0057】
粒径D50に対する粒径D10の比D10/D50は、0.30以上0.70以下であるのが好ましく、0.35以上0.60以下であるのがより好ましく、0.42以上0.55以下であるのがさらに好ましい。これにより、積層造形用粉末1の粒径が比較的揃った状態となり、流動性を高めやすくなるとともに、焼結性も確保することができる。なお、比D10/D50が前記下限値を下回ると、粒度分布が広がることになり、流動性が低下するおそれがある。一方、比D10/D50が前記上限値を上回った場合、逆に粒度分布が狭すぎて、充填率を高めにくくなり、焼結性が低下するおそれがある。
【0058】
粒径D50に対する粒径D90の比D90/D50は、1.50以上2.70以下であるのが好ましく、1.70以上2.60以下であるのがより好ましく、1.90以上2.50以下であるのがさらに好ましい。これにより、積層造形用粉末1の粒径が比較的揃った状態となり、流動性を高めやすくなるとともに、焼結性も確保することができる。なお、比D90/D50が前記下限値を下回ると、粒度分布が狭まることになり、充填率を高めにくくなり、焼結性が低下するおそれがある。一方、比D90/D50が前記上限値を上回ると、粒度分布が広がることになり、流動性が低下するおそれがある。
【0059】
粒径D90と粒径D10との粒径差D90-D10は、5.0μm以上18.0μm以下とされ、より好ましくは8.0μm以上15.0μm以下とされ、より好ましくは9.0μm以上13.0μm以下とされる。これにより、積層造形用粉末1の粒度分布が十分に狭くなり、高い流動性が得られる。その結果、積層造形用粉末1の充填性が高くなり、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができる。
【0060】
なお、粒径差D90-D10が下限値を下回ると、積層造形用粉末1の粒度分布が極端に狭くなるため、充填率を高めにくくなり、焼結性が低下する。このため、製造される金属焼結体の密度や表面精度が低下する。一方、粒径差D90-D10が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の粒度分布が広がることになり、流動性が低下する。このため、製造される焼結体の密度や表面精度が低下する。
【0061】
2.2.2.比表面積
積層造形用粉末1の比表面積は、0.05[m/g]以上0.25[m/g]以下とされ、好ましくは0.10[m/g]以上0.22[m/g]以下とされ、より好ましくは0.15[m/g]以上0.20[m/g]以下とされる。比表面積が前記範囲内であれば、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。その結果、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0062】
なお、比表面積が前記下限値を下回ると、積層造形用粉末1の焼結性が低下し、金属焼結体の密度が低下する。一方、比表面積が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の焼結性を高められるものの、積層造形用粉末1の流動性が低下し、金属焼結体の密度や表面精度が低下する。
【0063】
積層造形用粉末1の比表面積は、BET法により取得される。比表面積の測定装置としては、例えば、株式会社マウンテック社製のBET式比表面積測定装置HM1201-010が挙げられ、検体の量は5gとされる。
【0064】
2.2.3.平均円形度
積層造形用粉末1の平均円形度は、0.85以上0.99以下であるのが好ましく、0.86以上0.98以下であるのがより好ましく、0.87以上0.97以下であるのがさらに好ましい。これにより、積層造形用粉末1の粒径が小さくても、粒子が転動しやすくなり、かつ、充填状態を最密充填に近づけることができる。その結果、積層造形用粉末1の焼結性と流動性の双方を両立させることができる。これにより、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0065】
なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、平均円形度が低下するため、積層造形用粉末1の流動性が低下するとともに、充填率が低下する。一方、平均円形度が前記上限値を上回る場合、製造難易度が高くなり、積層造形用粉末1の製造効率が低下する。
【0066】
積層造形用粉末1の平均円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で積層造形用粉末1の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0067】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、積層造形用粉末1の平均円形度となる。なお、円形度をeとし、粒子像の面積をSとし、粒子像の周囲長をLとするとき、円形度eは、次式で求められる。
e=4πS/L
【0068】
2.2.4.水分量
積層造形用粉末1の水分量は、200ppm以下であり、好ましくは30ppm以上200ppm以下であり、より好ましくは40ppm以上150ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以上100ppm以下である。水分量が前記範囲内であれば、水分の吸着に伴う流動性の低下が抑えられる。このため、流動性に優れた積層造形用粉末1が得られる。また、水分量が前記範囲内であれば、積層造形用粉末1の帯電しやすさを適切な範囲に制御することができ、帯電に伴う流動性の低下を抑制することができる。
【0069】
なお、水分量は前記下限値を下回ってもよいが、積層造形用粉末1が帯電しやすくなり、流動性が低下するおそれがある。一方、水分量が前記上限値を上回ると、積層造形用粉末1の水分量が多くなりすぎて、流動性の低下を招く。
【0070】
積層造形用粉末1の水分量は、測定対象の積層造形用粉末1を、温度25℃、相対湿度50%の環境に、1時間以上放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定される。測定には、例えば、日東精工アナリテック株式会社製、水分測定装置CA-310等が用いられる。
【0071】
2.2.5.酸素含有率
積層造形用粉末1の酸素含有率は、質量比で1000ppm以上4000ppm以下であるのが好ましく、1500ppm以上3500ppm以下であるのがより好ましく、2000ppm以上3000ppm以下であるのがさらに好ましい。酸素含有率が前記範囲内であれば、水分の吸着を抑えつつ、特性の経時変化を抑制することができる。つまり、保存安定性の高い積層造形用粉末1が得られる。
【0072】
なお、酸素含有率が前記下限値を下回ると、積層造形用粉末1の粒子表面に存在する酸化膜が薄くなり、経時変化が生じやすくなるおそれがある。一方、酸素含有率が前記上限値を上回ると、水分が吸着しやすくなり、水分量が多くなって、積層造形用粉末1の流動性が低下するおそれがある。
【0073】
積層造形用粉末1の酸素含有率は、例えば、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則に準じて測定される。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300、LECO社製酸素・窒素・水素分析装置、ONH836等を用いて測定することができる。
【0074】
2.2.6.かさ密度およびタップ密度
積層造形用粉末1のかさ密度は、2.50g/cm以上3.50g/cm以下であるのが好ましく、2.70g/cm以上3.40g/cm以下であるのがより好ましく、3.00g/cm以上3.30g/cm以下であるのがさらに好ましい。かさ密度が前記範囲内であれば、自然状態でも、良好な充填性を確保できる。これにより、積層造形用粉末1を用いて粉末層31を形成するとき、充填率の高い粉末層31を形成することができる。その結果、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0075】
積層造形用粉末1のかさ密度は、JIS Z 2504:2012に規定の金属粉の見掛密度測定方法に準じて測定される。また、かさ密度の測定には、ホソカワミクロン株式会社製、粉体特性評価装置、パウダテスタ(登録商標)PT-Xが好ましく用いられる。なお、かさ密度の測定前には、測定対象の積層造形用粉末1を、気温25℃、相対湿度50%の環境に、1時間以上放置しておくのが好ましい。
【0076】
積層造形用粉末1のタップ密度は、4.20g/cm以上4.90g/cm以下であるのが好ましく、4.40g/cm以上4.80g/cm以下であるのがより好ましく、4.50g/cm以上4.70g/cm以下であるのがさらに好ましい。タップ密度が前記範囲内であれば、粉末層31を造形ステージ23で均したり、ローラー25で圧縮したりしたとき、高い充填率を得ることができる。これにより、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0077】
積層造形用粉末1のタップ密度は、ホソカワミクロン株式会社製、粉体特性評価装置、パウダテスタ(登録商標)PT-Xにより測定される。なお、タップ密度の測定前には、測定対象の積層造形用粉末1を、気温25℃、相対湿度50%の環境に、1時間以上放置しておくのが好ましい。
【0078】
また、積層造形用粉末1のかさ密度に対するタップ密度の比は、1.2以上1.8以下であるのが好ましく、1.3以上1.7以下であるのがより好ましく、1.4以上1.6以下であるのがさらに好ましい。この比が前記範囲内であれば、自然状態の積層造形用粉末1と、振動や荷重等が加わった後の積層造形用粉末1とで、充填率の差を小さくできる。このため、充填率の差に伴う積層造形体6の変形等を抑制することができる。その結果、表面精度が高い金属焼結体が得られる。
【0079】
なお、この比が前記下限値を下回ってもよいが、そのような特性を持つ積層造形用粉末1を安定して製造する難易度が高くなるおそれがある。一方、この比が前記上限値を上回ると、充填率の差が大きくなり、積層造形体6の変形等を招くおそれがある。
【0080】
3.積層造形用粉末の製造方法
次に、積層造形用粉末の製造方法の一例について説明する。
【0081】
積層造形用粉末は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよく、例えばアトマイズ法により製造される。アトマイズ法では、溶融金属を坩堝から流下させ、高速で噴射された液体または気体のような流体に衝突させる。流体に衝突した溶融金属は、惰性落下するので、その際に液滴の球形化が図られる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、平均円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。また、比表面積を小さくすることで、水分量を減らすことができる。
【0082】
アトマイズ法には、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等がある。
【0083】
溶融金属の流下量は、装置サイズ等によって異なるが、1.0[kg/分]超20.0[kg/分]以下であるのが好ましく、2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下であるのがより好ましい。これにより、一定時間に流下する溶融金属の量を最適化することができるので、粒度分布が狭く、それぞれ球形化が十分に図られた金属粉末を効率よく製造することができる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、平均円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。また、比表面積を小さくすることで、水分量を減らすことができる。
【0084】
坩堝における溶融金属の温度(鋳込み温度)は、積層造形用粉末の構成材料の融点Tm[℃]に対し、Tm+100℃以上Tm+350℃以下に設定されるのが好ましく、Tm+180℃以上Tm+320℃以下に設定されるのがより好ましく、Tm+250℃以上Tm+300℃以下に設定されるのがさらに好ましい。これにより、各種アトマイズ法で微細化されて固化に至るとき、溶融金属として存在している時間を従来よりも長く確保することができる。その結果、小径でも、平均円形度が高く、比表面積が比較的小さい金属粉末を製造することができる。
【0085】
また、各種アトマイズ法では、溶融金属を流下させたときの細流の外径は、特に限定されないが、3.0mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、溶融金属に流体を均一に当て易くなるので、適度な大きさの液滴が均一に飛散し易くなる。その結果、上述したような平均粒径で、かつ、平均円形度が良好な金属粉末を、狭い粒度分布で製造することができる。
【0086】
また、製造した金属粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0087】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、Fe基金属材料を含有し、焼結により金属焼結体となる積層造形体6の製造に用いられる積層造形用粉末であって、粒径D50、粒径差D90-D10、比表面積、水分量、および、粒子の平均円形度が、それぞれ下記の範囲を満たす粉末である。粒径D10は、レーザー回折法により測定された体積基準の積算粒度分布曲線において小径側からの累積値が10%であるときの粒径であり、粒径D50は、小径側からの累積値が50%であるときの粒径であり、粒径D90は、小径側からの累積値が90%であるときの粒径であって、粒径D50が1.0μm以上15.0μm未満であり、かつ、粒径D90と粒径D10との粒径差D90-D10が5.0μm以上18.0μm以下である。また、比表面積が0.05[m/g]以上0.25[m/g]以下であり、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が200ppm以下であり、粒子の平均円形度が0.85以上0.99以下である。
【0088】
このような構成によれば、焼結性と流動性の双方が両立した積層造形用粉末1が得られる。この積層造形用粉末1を用いることにより、緻密で造形精度の高い積層造形体6を得ることができ、それを用いて最終的に高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造することができる。
【0089】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、酸素含有率が、1000ppm以上4000ppm以下であることが好ましい。
【0090】
このような構成によれば、水分の吸着を抑えつつ、特性の経時変化を抑制することができる。つまり、保存安定性の高い積層造形用粉末1が得られる。
【0091】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、粒径D50が、4.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。
【0092】
このような構成によれば、焼結性と流動性の双方をより良好に両立した積層造形用粉末1が得られる。
【0093】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、比表面積が、0.10[m/g]以上0.22[m/g]以下であることが好ましい。
【0094】
このような構成によれば、焼結性と流動性の双方をより良好に両立した積層造形用粉末1が得られる。
【0095】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1は、水分量が、30ppm以上150ppmであることが好ましい。
【0096】
このような構成によれば、水分の吸着に伴う流動性の低下が抑えられた積層造形用粉末1が得られる。
【0097】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1では、Fe基金属材料は、ステンレス鋼であることが好ましい。
【0098】
ステンレス鋼は、機械的強度および耐食性に優れる鋼種である。このため、ステンレス鋼で構成された積層造形用粉末1を用いることにより、機械的強度および耐食性に優れ、形状精度の高い金属焼結体を効率よく製造することができる。
【0099】
また、前記実施形態に係る積層造形用粉末1では、かさ密度に対するタップ密度の比が、1.2以上1.8以下であることが好ましい。
【0100】
このような構成によれば、自然状態の積層造形用粉末1と、振動や荷重等が加わった後の積層造形用粉末1とで、充填率の差を小さくできる。このため、充填率の差に伴う積層造形体6の変形等を抑制することができる。その結果、表面精度が高い金属焼結体が得られる。
【0101】
また、前記実施形態に係る積層造形体6は、積層造形用粉末1と、積層造形用粉末1の粒子同士を結着するバインダーと、を有する。
【0102】
このような積層造形体6は、積層造形用粉末1の高い流動性および充填性の恩恵を受けることにより、緻密で造形精度の高いものとなる。このため、例えば、かかる積層造形体6を焼結することにより、高密度で表面精度の高い金属焼結体を得ることができる。
【0103】
以上、本発明の積層造形用粉末および積層造形体を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば本発明の積層造形用粉末および積層造形体は、前記実施形態に任意の成分が付加されたものであってもよい。
【実施例0104】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
5.積層造形用粉末の製造
水アトマイズ法により、サンプルNo.1~18の積層造形用粉末を作製した。各サンプルNo.の積層造形用粉末の構成は、表1ないし表4に示すとおりである。
【0105】
【表1】
【0106】
6.積層造形用粉末の特性の取得
各積層造形用粉末について、代表粒径、比表面積、平均円形度、酸素含有率および水分量を測定した。測定結果を表2ないし表4に示す。なお、表2ないし表4では、各サンプルNo.の積層造形用粉末のうち、本発明に相当するものを「実施例」、本発明に相当しないものを「比較例」とした。
【0107】
7.積層造形用粉末の評価
7.1.かさ密度およびタップ密度
サンプルNo.1~10の積層造形用粉末について、かさ密度およびタップ密度を測定した。そして、かさ密度に対するタップ密度の比を算出した。測定結果および算出結果を表2に示す。
【0108】
7.2.金属焼結体の相対密度
各サンプルNo.の積層造形用粉末を用い、バインダージェット法により、直方体形状をなす積層造形体を作製した。作製した積層造形体のサイズは、長さ40mm、幅20mm、厚さ5mmであった。バインダー溶液には、ステアリン酸エマルションを用いた。
【0109】
続いて、作製した積層造形体に脱脂処理を施して脱脂した後、焼成炉にて焼結させた。鋼種1の場合の焼結条件は、アルゴン雰囲気において、1100℃×3時間とした。これにより、金属焼結体を得た。鋼種2および鋼種3についても、組成に合わせて焼結条件を選択した。
【0110】
次に、得られた金属焼結体の密度を測定した。次に、用いた積層造形用粉末の真密度に対する、測定した密度の相対値、すなわち相対密度を算出した。そして、算出した相対密度を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2ないし表4に示す。
【0111】
A:相対密度が99.0%以上である
B:相対密度が98.5%以上99.0%未満である
C:相対密度が98.0%以上98.5%未満である
D:相対密度が98.0%未満である
【0112】
7.3.金属焼結体の表面粗さ
得られた金属焼結体のうち、最も大きい面について、表面粗さを測定した。この表面粗さは、算術平均粗さRaのことであり、JIS B 0671-1:2002に規定された方法に準じて測定した。そして、表2では、サンプルNo.7の積層造形用粉末を用いて製造された金属焼結体の表面粗さを基準にして、各サンプルNo.の積層造形用粉末を用いて製造された金属焼結体の表面粗さを相対的に評価した。また、表3では、サンプルNo.14の積層造形用粉末を用いて製造された金属焼結体の表面粗さを基準にし、表4では、サンプルNo.18の積層造形用粉末を用いて製造された金属焼結体の表面粗さを基準にして、それぞれ同様の相対評価を行った。評価結果を表2ないし表4に示す。
【0113】
A:表面粗さの相対値が基準値の80%未満である
B:表面粗さの相対値が基準値の80%以上90%未満である
C:表面粗さの相対値が基準値の90%以上100%未満である
D:表面粗さの相対値が基準値の100%以上である
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
7.4.評価結果に対する考察
表2に示すように、各実施例の積層造形用粉末では、かさ密度およびタップ密度の双方が高いことがわかった。これらは、積層造形用粉末の流動性および充填性に寄与すると考えられることから、この積層造形用粉末を用いて積層造形体を作製し、さらにそれを焼結して金属焼結体を作製したところ、相対密度が高く、かつ、表面粗さが良好な金属焼結体を作製することができた。また、表3および表4に示すように、他の実施例の積層造形用粉末を用いた場合も、相対密度が高く、かつ、表面粗さが良好な金属焼結体を作製できた。
【0118】
以上のことから、本発明の積層造形用粉末は、焼結性と流動性の双方が良好であり、その結果、高密度で表面精度の高い金属焼結体を製造し得ることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0119】
1…積層造形用粉末、2…積層造形装置、4…バインダー溶液、6…積層造形体、21…装置本体、22…粉末供給エレベーター、23…造形ステージ、24…コーター、25…ローラー、26…液体供給部、31…粉末層、41…結着層、60…形成領域、211…粉末貯留部、212…造形部、S102…粉末層形成工程、S104…バインダー溶液供給工程、S106…繰り返し工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10