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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130684
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】管制制御装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 5/04 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G08G5/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040545
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 昌能
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA26
5H181BB04
5H181BB13
5H181CC14
5H181LL04
(57)【要約】
【課題】遠隔監視対象ドローンの地上管制オペレータが、回復制御したつもりが不具合を埋め込んでしまうリスクを低減すること。
【解決手段】管制制御装置11は、不変制約条件を満たしながらゴール制約条件を満たすように自律動作する機体を管制対象機体とし、複数の管制対象機体それぞれについて、現在状態値ベクタと、計画状態値ベクタ列と、ゴール制約条件と、不変制約条件とを収集し、第1機体の不変制約条件と第2機体の不変制約条件との第1競合、または、第1機体のゴール制約条件と第2機体の不変制約条件との第2競合、または、第1機体のゴール制約条件と第2機体のゴール制約条件との第3競合、のいずれかの競合要因を判定する機能を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不変制約条件を満たしながらゴール制約条件を満たすように自律動作する機体を管制対象機体とし、
複数の前記管制対象機体それぞれについて、現在状態値ベクタと、計画状態値ベクタ列と、ゴール制約条件と、不変制約条件とを収集し、
第1機体の不変制約条件と第2機体の不変制約条件との第1競合、または、前記第1機体のゴール制約条件と前記第2機体の不変制約条件との第2競合、または、前記第1機体のゴール制約条件と前記第2機体のゴール制約条件との第3競合、のいずれかの競合要因を判定する機能を有することを特徴とする
管制制御装置。
【請求項2】
前記管制対象機体の付設の広域監視レーダ部が捕捉した機体位置と、前記管制対象機体の現在状態とが一致しない場合にはデータ整合性エラーを通知する機能と、
前記第1競合、前記第2競合、または、前記第3競合を引き起こす制約条件対と、それぞれの制約条件が帰属する機体対、とをオペレータに提示する動作状況提示手段とを有することを特徴とする
請求項1に記載の管制制御装置。
【請求項3】
前記第1競合または前記第2競合を解消する前記管制対象機体の着陸順を算出して、その算出結果をもとに着陸順半順序グラフを構築する機能と、
前記着陸順半順序グラフから、オペレータ指定の優先度設定方法に従って、前記第3競合が発生しないように前記管制対象機体の着陸順を示す着陸順キューを構築して、その着陸順キューに従って安全に降下・着陸させる管制命令を出力する機能とを有することを特徴とする
請求項2に記載の管制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の無人・自律飛行型の航空機を対象とする管制制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積載重量100kgを超える中型の拠点間物流に適したドローンを10万台を超える規模で運用する際、少数のオペレータが多数のドローンを制御することで大規模化を容易にする仕組みが必要である。荷積みから、広域情報収集、経路計算、離陸許可、離陸、上昇、安定航行、降下、着陸、荷下ろしまたは中継までのまとまった作業は、極力無人化されることが望ましい。一方、オペレータは通常時は監視、または例外処理の方針決定のみに関わる程度となるような分業体制が求められる。
【0003】
オペレータには安全航行義務が課されているため、以下の義務がある。
・機体と地上管制側で連携して、既知のハザードシナリオへの対策を出来ていることを確認すること。
・人力対処を要する例外処理が要求された場合には、即座に状況を把握して、少なくとも誤判断によるハザードを引き起こさないようにすること。
【0004】
自律動作する機体は、安全制約の下でゴール条件を充足するような動作計画解を算出することに代表される最小制御問題単位を設定して、その充足解を算出する基本的な内部処理系を周期的に実行する。単機で充足解がない場合は、安全制約とゴール条件とが競合していて、多くの場合はゴール条件の緩和または改変を必要とする。
【0005】
この機体が複数集まり、管制空域内で並行動作すると、以下のいずれかの競合が機能不整合エラー(loss of functional integrity hazard)を起こす。
(a)ゴール条件同士の競合
(b)一方のゴール条件と他方の安全制約の競合
(c)安全制約同士の競合
【0006】
競合の対象となる占有排他リソースは、この場合は飛行空域内の凸閉領域(半平面で囲まれたへこみが無い領域)である。機能不整合エラーを引き起こす原因として少なくとも、前記ゴール条件や安全制約の引数となる凸閉領域に関する競合がある。個々の機体独自の判断による排他制御機能を有しない限り、機能不整合エラーを正しく検出しなければならない。空域を共有する機体数が増えると、機能不整合エラーの発生頻度は組み合わせ的に増加してしまう。
多数の機体が少数の着陸ポートを目指してくる状況で、この問題が露見する。着陸ポート管制のオペレータは、機体同士の接触による墜落を回避する義務を負っているが、個々の機体の制御と機体間の排他制御を同時にするわけにはいかない。
そのため、機械的に実行可能な形で多数の機体を並行動作させて排他制御による安全航行体制を実現する仕組みが求められている。
【0007】
特許文献1では、以下の(手順1)~(手順4)を行う運航管理システムが開示されている。
(手順1)ドローンの位置情報、飛行状態情報と機体状態を収集する。
(手順2)衝突状態と判定する衝突圏を設定して、干渉状態を検知する。
(手順3)ドローンが衝突状態にあると判定して、運航管理者に、衝突警報を通知する。
(手順4)ドローンに空中で停止飛行するようにホバリングを指示する。
広義には(c)安全制約間の競合を回避する設計に相当するが、(b)第一の機体のゴール条件と第二の機体の安全制約の競合を起源とする機能不整合エラーの検出手段と、競合解決の手段が開示されていない。
【0008】
特許文献2では、航空機等の位置、速度や、機体特有の特性情報、飛行計画を基に、管制上の制約を守るように各航空機の到達時刻を調整する、飛行体の到着順序を付けるシステムが記載されている。飛行計画の許可時点で、着陸ポートにおける競合回避を図る設計は、その制約を逸脱する例外処理時に機能せず、実際、航行遅延や隣接する着陸ポートの閉鎖による臨時受け入れ等により、前記のような排他制御を要求する競合状態を引き起こすが、具体的な処理手順は言及されていない。
【0009】
特許文献3では、内部と外部を区分する二値ラベルを割り当てるデータ表現を二値ベクタモデル形式と呼称している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-147583号公報
【特許文献2】特開2011-170502号公報
【特許文献3】特開2022-035526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
自律飛行する個々の機体は、多数の外界計測系センサを搭載し、多入力多出力なデータフローを処理する過程で複雑な状況に陥り、オペレータによる例外処理を要求する。前記のような機能不整合エラーになると、内部の動作計画系のデータを取得し、解釈し、不具合の原因を特定する必要がある。
【0012】
しかし、機体は常時移動しており、滞空時間が延びると着陸ポートでは燃料切れになり墜落するリスクが上がる。一般に、短時間で遠隔で状況把握して、意図した通りにゴール条件を再設定するのは難しく、従って、オペレータ自身への心理的負荷も高い。個々の機体は、管制側とは異なる組織が運用している場合には、機体へのアクセス自体ができない場合もある。また、個々の機体には、通信帯域の限度があり、外界計測系の計測限界もある。航行動作の継続を優先するために、有限の演算能力とメモリ帯域しか割り当てる余裕がないドローンには、複数のドローン間で協調して競合処理させることも困難である。
【0013】
このような状況で、遠隔監視対象ドローンの地上管制オペレータが、回復制御したつもりが不具合を埋め込んでしまうリスクがある。また、オペレータの回復制御の失敗で機能不整合エラーの状態が継続し、事故のリスクが顕在化した場合に、個々の機体を再プログラミングする手段しかなければ、オペレータが作業の安全検証できず、具体的な不具合の検出・対処手段が欠けている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明の管制制御装置は、以下の特徴を有する。
本発明は、不変制約条件を満たしながらゴール制約条件を満たすように自律動作する機体を管制対象機体とし、
複数の前記管制対象機体それぞれについて、現在状態値ベクタと、計画状態値ベクタ列と、ゴール制約条件と、不変制約条件とを収集し、
第1機体の不変制約条件と第2機体の不変制約条件との第1競合、または、前記第1機体のゴール制約条件と前記第2機体の不変制約条件との第2競合、または、前記第1機体のゴール制約条件と前記第2機体のゴール制約条件との第3競合、のいずれかの競合要因を判定する機能を有することを特徴とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遠隔監視対象ドローンの地上管制オペレータが、回復制御したつもりが不具合を埋め込んでしまうリスクを低減できる。また、オペレータの回復制御の失敗で機能不整合エラー状態が継続し、事故のリスクが顕在化した場合でも、オペレータが作業の安全検証をするための、具体的な不具合の検出・対処手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に関する地上側管制システムの構成図である。
図2】本実施形態に関する管制制御装置のハードウェア構成図である。
図3】本実施形態に関する管制制御装置の処理を示すフローチャートである。
図4】本実施形態に関する管制制御装置が扱うデータ構造を示す説明図である。
図5】本実施形態に関する各機体の機体占有領域Rを示す説明図である。
図6】本実施形態に関する着陸ポートへ向かう各機体にデータ整合性エラーが発生していない状況を示す説明図である。
図7】本実施形態に関する図6の機体P3にデータ整合性エラーが発生した状況を示す説明図である。
図8】本実施形態に関する図7の機体P3のデータ整合性エラーが解消した状況を示す説明図である。
図9】本実施形態に関する図6の機体P3の計画軌道の一例を示す説明図である。
図10】本実施形態に関する図9の計画軌道から計算される機体P3の凸閉領域の一例を示す説明図である。
図11】本実施形態に関する図6の各機体に機能不整合エラーが発生していない状況を示す説明図である。
図12】本実施形態に関する図6の各機体に機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
図13】本実施形態に関する管制制御装置が構築する競合グラフの一例を示すテーブルである。
図14】本実施形態に関する図6の機体P1のゴール条件と、機体P2の不変条件との間で機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
図15】本実施形態に関する図6の機体P1のゴール条件と、機体P2のゴール条件との間で機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例を示す。
【0018】
図1は、地上側管制システム10の構成図である。地上側管制システム10は、管制制御装置11と、端末情報受信部14と、管制情報送信部12と、広域監視レーダ部13とで構成される。管制センタ100のオペレータ19が、機体間の競合解決をする管制制御装置11の処理フローを遠隔で監視している。
管制制御装置11は、管制情報送信部12を介して、管制命令(着陸順番の指令など)を個々の機体(複数の管制対象機体)に送信する。管制制御装置11は、端末情報受信部14を介して、以下の情報を個々の機体から収集する。
・機体の現在状態(現在状態値ベクタ)
・機体の計画状態値ベクタ列
・機体の制約条件として、二値ベクタモデル形式のゴール条件(ゴール制約条件)および不変条件(不変制約条件)
【0019】
なお、定点近傍でホバー可能な機体に限定をしていないため、端末情報受信部14は、固定翼機の場合には、現在状態の代わりに、少なくとも以下の(第1収集情報)および(第2収集情報)という2種類の情報を各機体から収集する。
(第1収集情報)着陸待ちで滞留する時系列の計画軌道
着陸待ちフェーズの各機体は、ポート基準点に対する相対位置をILS(Instrument Landing System)装置等から取得して、推定自己位置を算出する。固定翼機は旋回し続ける必要がある為、機体の動作計画系は、現在状態に加えて計画軌道に相当する時系列の座標点群を計算する。
【0020】
(第2収集情報)動作計画系が用いている不変条件の関数
不変条件は、経時変化する周囲動体の位置や速度を未定変数とする二値関数であり、安全マージン付きの内部と外部を区分する分離境界30(図6)を指定する。しかし任意形状の閉領域をリアルタイム制御系で使えるデータ構造は、凸閉領域分割によるもの以外は知られていない。また、競合判定に用いる該否判定の計算式を解析的に記述するのが難しいので、同じく前記該否判定の内外分離境界を凸閉領域分割に基づくデータ表現で組み立てて、動作計画系は、前記内外分離境界を拘束条件として使う。
指定したデータ点群を用いた凸閉領域分割により得られる個々の凸閉領域の境界は、隣接するデータ点対の垂直二等分面になっているため、具体的な分離境界30の幾何学構造ではなく、代表データ点群があれば自動構築できる。各代表データ点には、本例では内部と外部を区分する二値ラベルを割り当てたものを使用し、不変条件の該否判定の内外分離境界を構築する。この凸閉領域分割に基づく内外分離境界のデータ表現を二値ベクタモデル形式と呼称している(特許文献3参照)。
本例の用途では、各機体は、外界計測系から取得した周囲動体の相対軌道(相対位置と相対速度)を線形外挿したデータ点列と自機軌道(位置速度)を少なくとも使って不変条件を構築する。よって、不変条件を構築するための引数となる、不変条件関数を表現するデータ点群があればよい。既に凸閉領域分割をした結果を再利用したい場合には、ポート基準点に対する相対座標系における凸閉領域を指定してもよい。
【0021】
管制制御装置11は、計画軌道(第1収集情報)を不変条件の関数(第2収集情報)の未定変数に順次代入して不変条件関数を組み立てる。これにより、管制制御装置11は、時系列の座標点群(自己位置予測値列)に不変条件の関数(第2収集情報)の安全マージン分を増量した領域を包含するように凸閉領域を設定する(詳細は図10)。
図6における分離境界30は、離着陸ポートが管制対象とする全空域を、各機体の機体占有領域Rと、着陸基準点H(着陸ポート22内の着陸する基準となる座標点)の付近の領域とが分離されるように、分離境界30として凸閉領域分割した結果を示す。
後記する図6では、個々の機体が、一つの凸閉領域の内部に留まるように指示する基準とする分離境界30が略式記述されているが、上記の処理により全ての機体から収集したデータ点群を凸閉領域分割して(図3のS204)構築する。
【0022】
図2は、管制制御装置11のハードウェア構成図である。
管制制御装置11は、CPU901と、RAM902と、ROM903と、データストレージ904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを有するコンピュータ900として構成される。
通信I/F905は、外部の通信装置915と接続される。入出力I/F906は、入出力装置916と接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーションや、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各処理部を改善制御する。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布したりすることも可能である。
【0023】
図3は、管制制御装置11の処理を示すフローチャートである。
以下、図3の各処理の概要を説明する。
管制制御装置11は、図4の機体群リスト301に登録されている管制対象の全機体から、二値ベクタモデル形式のゴール条件と不変条件(安全制約を示す条件、性能限界を示す条件など)とを取得する(S201)。管制制御装置11は、二値ベクタモデル形式に変換した各機体の機体占有領域Rを、広域監視レーダ部13から取得する(S202、詳細は図5)。
管制制御装置11は、データ整合性エラー(loss of data integrity)を起こしている機体を検出して、その検出結果をオペレータ19に通知する(S203、詳細は図6図7)。S203で通知される機体とは、機体から通知された現在状態が機体占有領域R内に存在しない機体である。
【0024】
図4は、管制制御装置11が扱うデータ構造を示す説明図である。
管制制御装置11は、機体群リスト301と、着陸順半順序グラフ302と、着陸順キュー303とが格納された記憶部からデータアクセス可能に構成される。データアクセス可能とは、例えば、管制制御装置11の自身内部の記憶部(データストレージ904など)を用いてもよいし、外部接続された記憶部を用いてもよい。
機体群リスト301には、広域監視レーダ部13が検知した機体群(機体P1、P2、P3)が登録される。管制制御装置11は、着陸基準点Hを含む凸閉領域と隣接する機体順で着陸順半順序グラフ302を構築する。例えば、図4の着陸順半順序グラフ302は、先頭(head)から順に、機体P1、P2を着陸させた後に、機体P3を着陸させる旨が示される。なお、同じ項目内の機体P1、P2の着陸順は、指定しない。
続いて、管制制御装置11は、ゴール条件競合を解消するように着陸順半順序グラフ302を逐次化することで、着陸順キュー303を作成する。例えば、図4の着陸順キュー303は、機体P1→P2→P3の順に着陸させる旨が示される。また、管制センタ100(オペレータ19)は、着陸順キュー303を手動で制御(編集)してもよい。例えば、オペレータ19は、機体P3から燃料不足の通知を受けた時には、機体P3の着陸順を最優先にさせるように、着陸順キュー303を変更し、着陸ルートをふさぐ機体P1,P2の少なくともいずれかを着陸基準点Hから遠ざけて、凸閉領域分割を再度行い、機体P3が着陸順半順序グラフでheadエントリに隣接するように、移動命令を出す。
【0025】
図3に戻り、管制制御装置11は、競合する機体対を機能不整合エラーとしてオペレータ19に提示する(S204)。S204で検出したい競合は、以下のデータ点群を用いて二値ベクタモデル形式で構築した、各機体に帰属する不変条件間の競合Aを検出する処理である。
・機体占有領域Rを構築するデータ点群(図6で分離境界となる機体占有領域P1R,P2R,P3Rを表現する)
・収集した管制対象機体毎の不変条件を構成するデータ点群M(図11で分離境界となる凸閉領域P1Y,P2Y,P3Yを表現する)
・データ点群Mと着陸基準点Hを併合したデータ点群W
なお、任意形状の内外分離境界の対の交差領域の有無を判定するのに要する計算量は多い。前記内外分離境界を凸閉領域の連結として表現した二値ベクタモデル形式で与えられると、凸閉領域対の交差領域判定に帰着させればよい。管制制御装置11は、帰着させた凸閉領域対の交差領域判定を高速で解ける。また、不変条件が二値ベクタモデル形式で与えられていると、計算リソースが限られる機体側の動作計画系の計算量も抑制される。
【0026】
管制制御装置11は、S204で競合Aが検出されたか否かを判定する(S211)。S211でYes(競合Aが検出)ならS212に進み、NoならS213に進む。管制制御装置11は、着陸基準点Hを代表点とする凸閉領域に隣接する凸閉領域にある機体群X(図6の機体P1と機体P2)を着陸順半順序グラフ302に登録して(S212)、データ点群Wから機体群Xと対応付けた不変条件を除外する。
【0027】
管制制御装置11は、着陸順半順序グラフ302で先頭エントリから順に、同じグループ内で、以下の競合する機体対{機体P、機体Q}を検出し、その結果から競合グラフ(図13)を構築する(S213)。
・機体Pの不変条件と機体Qのゴール条件とが競合する。
・機体Pのゴール条件と機体Qのゴール条件とが競合する。
【0028】
管制制御装置11は、ゴール条件に対する競合がない機体Pが存在するか否かを判定する(S214)。S214でYes(機体Pが存在)ならS215に進み、Noなら管制制御装置11は、以下のようなデッドロック状態などの競合をオペレータ19に通知する(S217)。
・双方向競合(race):機体Pと機体Qのゴール条件同士が競合する場合。例えば、複数の機体が同じ着陸ポート22に向かって着陸しようとするゴール条件設定である場合。この場合、一方のゴール条件を「着陸ポート22に向かう」から「滞留せよ」に書き換える命令(図4の着陸順キュー303の書き換え命令)を管制センタ100が発令することで対処される。
・一方向競合(deadlock):機体Pのゴール条件と、機体Qの不変条件が競合し、かつ、競合グラフを構築して循環が存在する場合。例えば、滞留中の機体Pが機体Qに帰属する不変条件を指す凸閉領域内に侵略しに行く状況であり、いずれかの機体のゴール条件を書き換える命令(図4の着陸順キュー303の書き換え命令)を管制センタ100が発令することで対処される。
【0029】
なお、管制制御装置11は、機能不整合エラーとなる競合(raceとdeadlock両方)の該否判定の形式化方法として、以下の(分類a)~(分類d)という4通りに分類して扱ってもよい。なお、機体同士の優先度として、第1機体(例えば、図6の機体P1)=高優先度、第2機体(例えば、図6の機体P2)=低優先度とする。
(分類a)第1機体のゴール条件と、第2機体のゴール条件との競合。この競合は、第1機体と第2機体とが同時に着陸基準点Hに向かう場合のraceである。
(分類b)第1機体のゴール条件と、第2機体の不変条件との競合。この競合は、第1機体が着陸ポート22に向かう経路が、第2機体の領域に侵入しに行くコースになってしまう状況である。第1機体の計画軌道に不具合がない場合は、強風その他の外部要因により(分類b)が発生する。対処方法は、例えば、第2機体の領域を着陸ポート22から遠ざける命令を出すなどである。
【0030】
(分類c)第1機体の不変条件と、第2機体のゴール条件との競合。この競合は、基本的に発生しない。図3の手順で着陸順キュー303に各機体を登録してゴール条件を設定すると、第2機体のゴール条件は第1機体のゴール条件とも不変条件(安全制約など)とも競合しないように設定されるからである。もし、(分類c)が発生する場合は、管制制御装置11は、例外処理とみなしてオペレータ19に対処を促す。
(分類d)第1機体の安全制約と、第2機体の安全制約との競合。この競合は図3のS211で言及の競合Aである。、開示の手順で着陸順キューに登録してゴール条件を設定すると、競合解決済みになって発生しない。
【0031】
管制制御装置11は、S214の機体Pを着陸順キュー303のtailに登録し(S215)、競合グラフと着陸順半順序グラフ302とからS214の機体Pを削除する。管制制御装置11は、着陸順半順序グラフ302が空(empty)であるか否かを判定する(S216)。S216でYes(空である)なら処理を終了し、NoならS213に戻る。
【0032】
以下、図3の処理の詳細を説明する。
S201にて、管制圏内にある全機体から、二値ベクタモデル形式のゴール条件と不変条件を取得する。不変条件は、一般には前述の、周囲動体を引数とする安全制約と、機体固有の性能限界に区分できるが、任意の時点で2条件を充足し続けなければならない点は共通しているため不変条件と一括して呼称する。
【0033】
個々の機体から計画軌道(第1収集情報)を収集する過程で、管制制御装置11付設の広域監視レーダ部13から、現在位置と機体が送信してくる推定自己位置が一致しているか否かを確認する(S202)。そのため、管制制御装置11は、広域監視レーダ部13にスキャン範囲を通知し、広域監視レーダ部13から機体占有領域マップを取得する。
推定自己位置が実際の飛行位置と乖離しているか否かが、この管制制御方法の単一故障点であるため、管制制御装置11は、現在位置からの許容誤差の内外判定を行う計算をする。レーダ21は、各機体にビームを照射し、各機体からの反射波を受信する。移動している機体から返ってくる反射波は拡散しているため誤差が内在している。
そのため、管制制御装置11は、有限体積の機体占有領域Rと、推定自己位置を中心とした許容誤差の分離境界30の包含関係を基準として、このデータ整合性エラーの該否判定を行う。重複割合が少ない場合、特に機体占有領域R と分離境界30内部の閉領域のintersection(共通集合)が空集合である場合には、管制制御装置11は、データ整合性エラーであると判定する。
【0034】
管制制御装置11は、データ整合性エラーを検出したら当該機体は即時でオペレータ19に通知する(S203)。三次元の飛行空域を可視化するS203の画面を見たオペレータ19は、機体から収集した推定自己位置と広域レーダ系が捕捉した機体位置が乖離しているのを即座に確認できて、その幾何学的な演算論拠も分かりやすい。
引き続き、地上側管制システム10は、機体側が保持する推定自己位置を上書きして補正させる。機体に対して管制側からのライトアクセスを許可権限も単一故障点であるため、機体が管制圏内に入った場合に限定し、管制制御装置11の間で相互認証をしてライトアクセスを許可するようなサイバーセキュリティ上の防護策を講じた上で行うのがよい。
【0035】
S204では、管制制御装置11は、機体間の不変条件対の競合判定を行う。具体的には、管制制御装置11は、計画軌道(第1収集情報)を不変条件の関数(第2収集情報)の未定変数に順次代入して不変条件関数を組み立てて、二つの不変条件関数の分離境界30内部を指す閉領域対のintersectionが空集合であるか否かを判定する。一般的には不変条件関数は、機体位置を引数として安全マージン分だけ拡張した閉領域であって安全マージンと解釈される。そのため、管制制御装置11は、二つの機体に関して空集合の判定をして、空集合でない場合は、安全マージンが充分でないことを意味する。
管制制御装置11は、この不変条件間の競合Aを即座に検出してオペレータ19に通知する。
【0036】
この競合Aがない場合には、管制制御装置11は、収集した(第1収集情報)および(第2収集情報)を用いて、不変条件関数を構築するのに用いるデータ点群Mと、着陸ポート22の空間座標位置とを併合することで、一括して凸閉領域分割する。
凸閉領域分割の結果、管制制御装置11は、各機体の滞留飛行軌道を分離する分離境界30を取得する(図6)。この分離境界30の構成要素である、隣接データ点対の垂直半平面P3L(図5)は、異なる機体に帰属するデータ点対を連結したものである。
この分離境界30は、その内部にいる機体が着陸待ちで滞留してよい範囲を指示するものである。個々の機体の外界計測系には、観測限界がある。管制制御装置11は、この分離境界30の内部での観測、異常時の検知・回避のみを義務として、機体間の競合回避と個々の機体の責任範囲の有界化とを図る。オペレータ19は、算出された分離境界30内部に個々の機体が留まる限りは、不変条件間の競合が起こらないことを把握できる。
【0037】
各機体の外界計測系の観測限界だけでなく、機体間通信・交渉による不変条件間競合は、通信自体の信頼性の問題、交渉相手の機体数に対する多項式的計算量増加の問題、および、機体自体の不具合の問題という単一故障点を残してしまう問題がある。そのため、地上の管制制御装置11は、機体間の不変条件競合をまず検出し、このような空域の空間分割により滞留空域w算出して、競合解決を同時に行える点が優れている。S211の処理が済めば、S213に進む。
【0038】
例えば、図6の初期段階では、着陸ポート22と隣接凸閉領域に属する機体P1、機体P2は着陸ポート22に向かう限り競合Aが発生する。そこで、管制制御装置11は、競合Aの二機を着陸順半順序グラフ302に登録した上で(S212)、前記データ点群Mから機体P1,機体P2に帰属するデータ点群を除外する。管制圏内の機体がすべて着陸順半順序グラフ302に登録されるまで、管制制御装置11は、S204とS212とを反復する。この着陸順半順序グラフ302は、滞留空域の分離境界30を算出した後に、着陸ポート22との隣接関係から機械的に算出される幾何学的な近さを間接的に示している。
【0039】
S213では、管制制御装置11は、着陸順半順序グラフ302に登録した順で、同じランクにある機体対のゴール条件対の競合、不変条件とゴール条件の間の競合の解決を図る。図6の初期段階では、機体P1と機体P2が着陸ポート22に向かうゴール条件競合が発生している。
また、機体P3が燃料不足で緊急着陸を図り、機体P1または機体P2の分離境界30を越境する場合には、機体P3のゴール条件が、機体P1または機体P2の不変条件と競合している場合に相当する。
【0040】
管制制御装置11は、すべての機体が滞留空域に留まるようになったS213の段階ではゴール条件競合も発生していないので、処理をS215に進ませ、機体P1、機体P2のいずれかを着陸順キュー303に登録し、着陸順半順序グラフ302から削除する。
機体P1と機体P2のいずれを優先するかは、オペレータ19が選択したり初期ロジックを用いてもよい。残存滞留可能時間が短い方を優先してもよいし、質量が大きく、落下時のダメージの多寡が懸念される方を優先して登録してもよい。管制制御装置11は、着陸順半順序グラフ302の登録エントリがなくなるまで、S213からの処理を繰り返す(S216)。
【0041】
着陸ポート22が複数ある場合には、管制制御装置11は、あえてすべてのエントリを着陸順キュー303に登録する必要はなく、着陸順半順序グラフ302の形で保持し、即時で着陸可能な機体を適宜選択していけばよい。管制制御装置11は、予定着陸開始時間を全機体に送信して、滞留可能時間を超える機体があれば優先順位を入れ替える等の例外処理を追加してもよい。
着陸順の逐次化ができない場合はデッドロック状態にあるため、管制制御装置11は、即時でオペレータ19に通知する(S217)。
【0042】
なお、競合関係は、以下の場合がある。
・二つの機体P、機体Qとの間でゴール条件が競合する場合。
・一方向競合、特に機体Pのゴール条件が、優先度が高い機体Qの不変条件と競合する場合。
・優先度逆転を引き起こす3つ以上の機体の間の循環構造ができる場合。
デッドロックは元来組み合わせ的複雑性があるため、解決方法の一般的な解決手順は規定しにくい場合が多い。実務上は、優先度変更ロジックを用意してオペレータ19が選択するか、デッドロックが解消するような競合解決ロジックを最大充足可能性判定問題(MAXSAT:Maximum satisfiability)に帰着して解くアルゴリズムが知られている。
【0043】
以上説明した図2では、管制制御装置11は以下の第一の特徴から第三の特徴を有する。
第一の特徴として、着陸先ポートの管制圏に到達した機体は、系全体の動作環境モデル構築に必要なデータを地上側管制システム10に集約する(S201)。自律動作中のドローンは、動作環境を特徴づけるデータ点群と、最小制御問題単位を構成する不変条件とゴール条件を送信する。着陸ポート22におけるゴール条件は、燃料の制約の下で滞留を続け、時間内に着陸することである。
【0044】
不変条件は、現在位置と計画軌道を未定変数とする、安全マージン付きの閉領域を指す二値関数等を用いる。任意形状の閉領域をリアルタイム制御系で使えるデータ構造は、凸閉領域分割によるもの以外は知られておらず、管制制御装置11が機能不整合エラー(競合)を容易に判定できる(S204)。機体は移動する計画軌道は任意形状を取りえる為、二乗ノルム等の解析関数では整合せず、競合の該否判定条件を解析的に記述するのは更に難しい。従って、管制制御装置11は、個々の機体の動作計画系が計画軌道を算出する際に用いる制約条件(不変条件とゴール条件)を表現する際に使う代表点をすべての機体から集約する。
【0045】
第二の特徴として、管制制御装置11は、前記代表点群と地上側監視レーダ系のデータ群を併合して、管制側の高性能計算機で一括して凸閉領域分割して組み立てて、個々の機体が滞留するべき凸閉領域であって、機能不整合エラーを起こさない滞留境界を算出する。
地上側監視レーダ系が特定した機体位置と機体側から通知された推定自己位置が乖離している場合には、管制制御装置11は、データ整合性エラーを即時で検出できる(S203)。なお、推定自己位置がおかしければ、前記滞留境界内部に留まる保証ができなくなる。よって、この単一故障点(単一箇所が働かないと、システム全体が障害となるような箇所)は即時で検出しなければならない。
引き続き、地上側管制システム10が、機体側が保持する推定自己位置を上書きして補正させる。機体に対して管制側からのライトアクセスを許可権限も単一故障点であるため、サイバーセキュリティ上の防護策を講じた上で行う。
【0046】
多数の機体が集結した場合であっても、管制制御装置11は、同様に凸閉領域分割形式の動作環境モデルを復元して、滞留境界を算出できなくなる場合に、不変条件が競合する機体対を特定できるようになる。滞留境界を算出できた場合は、管制制御装置11は、個々の機体がその内部に留まることだけ監視しておけばよい。このようにして、管制制御装置11は、着陸ポート周辺の管制圏全体の状況を可視化・把握し、データ整合性エラー、機能不整合エラーを起こす競合制約対をオペレータ19に発見できるような画面を提供できる。
着陸ポート自体も占有排他リソースである為、排他制御の仕組みが求められる。
【0047】
第三の特徴として、管制制御装置11は、以下を実行する。
・着陸地点と隣接する凸閉領域群に属する機体の順に着陸順半順序グラフ302に登録して不変条件対の競合を回避する(S212)。
・オペレータ19指定の優先度で、ゴール条件競合(特にデッドロック)を解消する順序で逐次化して着陸順キュー303に登録する(S215)。
・各機体に滞留凸閉領域空間を通知する。
【0048】
オペレータ19は、この決定過程を確認して、滞留境界を可視化した実際の動作状況との整合性を論拠として、算出された順序で着陸し、滞留境界内にとどまっているのを確認するだけでよくなる。また、オペレータ19は監視自体も前記地上側管制システム10が滞留境界の内外判定をするだけでよくなり、対処義務が簡素化される。
滞留境界から逸脱した機体は、引き起こされる事故に対して法的責任の少なくとも一部を負うことにして、管制側と機体側の法的責任を分割して、オペレータ19の責任の有界化を図れる。
【0049】
以上説明した管制制御装置11は、遠隔からオペレータ19が状況を理解しやすい制御対象の動作状況提示手段と、回復制御試行の安全性を担保できると確認できる遠隔管制手段を提供する。そして、機体の航行情報を集約した地上側管制システム10(管制制御装置11)は、凸閉領域分割により個々の機体の滞留空域を算出し、凸閉領域の空域分割構造を基準として着陸ポート22に近い順で優先度付けをして着陸順を決める。
さらに、管制制御装置11は、機体から通知された推定自己位置と地上管制付設のレーダが捕捉した位置との乖離を、データ整合性エラーとして通知し、この単一故障点に対策する。
【0050】
これにより、通信、演算、外界計測系共に低信頼な機体間の調停をさせる代わりに、管制圏にいる機体間の競合を解決して、着陸時の競合によるハザード発生を回避することができる。また、例外処理発生時には、オペレータ19が短時間で競合発生状態を、オペレータ19に把握させることができる。
【0051】
さらに、管制制御装置11は、以下の第一から第三までの効果を有する。
第一の効果として、凸閉領域分割処理に渡すデータ点群のみ送信し、機体側の通信帯域、競合を回避して個々の機体の滞留境界を算出する演算能力、メモリ帯域を節約し、地上側管制システム10側が多数の機体を並行制御できるようになる。
第二の効果として、地上側管制システム10側で、異なる機体間の競合が引き起こす致命的なランタイムエラーを把握できるようになる。
第三の効果として、前記ランタイムエラーを回避する排他制御処理を管制制御装置11に移管し、オペレータ19の設定作業を簡素化できる。
【0052】
以下、図5図15を参照して、管制制御装置11が扱う管制対象の各機体の場面を説明する。
図5は、各機体の機体占有領域Rを示す説明図である。
各レーダ21の位置L1-L6は、S204で機体占有領域Rを構築するデータ点群の一例である。管制制御装置11は、各レーダ21の位置L1-L6から機体P3に向けて照射されるビームの反射波により、機体P3の現在位置が誤差を含む範囲情報(反射強度が高い領域を雲として図示)を取得できる。そして、管制制御装置11は、機体P3の現在位置の範囲情報を包含するような機体P3の機体占有領域P3Rを計算する。
【0053】
管制制御装置11は、同様に、機体P2の機体占有領域P2R、および、機体P1の機体占有領域P1Rも計算する。
なお、機体P3の機体占有領域P3Rは、2地点(機体P3の位置、レーダ21の位置L5)の接続線に対して垂直になるような垂直半平面P3Lが分離境界になるように、構築される。これにより、機械的かつ省メモリ容量で凸閉領域分割できる。また、広域監視レーダ部13が保持するデータ表現は、例えば、Density map function: (3D+time)->[0-1]が用いられる。
【0054】
図6は、着陸ポート22へ向かう各機体にデータ整合性エラーが発生していない状況を示す説明図である。
分離境界30で区切られた以下の4つの空間に対して、それぞれ1つずつの領域が存在する。
・着陸ポート22を含む領域
・機体P1の機体占有領域P1Rを含む領域
・機体P2の機体占有領域P2Rを含む領域
・機体P3の機体占有領域P3Rを含む領域
【0055】
図7は、図6の機体P3にデータ整合性エラーが発生した状況を示す説明図である。
機体P3が管制制御装置11に自己申告した現在位置P3Aは、広域監視レーダ部13(複数のレーダ21)が計測した機体P3の機体占有領域P3Rには含まれていない。
管制制御装置11は、図7のように、自己申告した現在位置P3Aと、機体占有領域P3Rとを併せて表示することで、オペレータ19に機体P3についてのデータ整合性エラーを認識させることができる。
さらに、管制制御装置11は、機体P3の推定位置P3B(例えば、機体占有領域P3Rの重心)や、現在位置P3Aから推定位置P3Bまでのずれ幅を示すベクトル表記P3Cなどの補助情報も併せて表示してもよい。これにより、「機体P3の現在位置P3Aを推定位置P3Bになるように修正する」などの新たな指示を、オペレータ19が発行することを支援できる。
【0056】
図8は、図7の機体P3のデータ整合性エラーが解消した状況を示す説明図である。
オペレータ19は、図7の画面表示により認識したデータ整合性エラーを解消するために、例えば、機体P3の現在位置P3Aを推定位置P3Bになるように修正する旨の管制命令を、管制制御装置11から管制情報送信部12を介して機体P3に送信させる。
【0057】
これにより、機体P3は、自己申告した現在位置P3Aを適切に修正できる。以下、データ整合性エラーの解消方法を例示する。
・着陸ポート管制圏内に入って以降は、機体が通知する自己位置がおかしいとみなし、地上レーダー系の値を真値として、機体側fleet operatorにデータ整合性エラーの発生を通知することで、機体自己位置の暫定上書き許可を要請する。そして、機体側fleet operatorで(暗号化した通信経路を介して)機体が保持する自己位置というプログラム状態を上書きしてもらう。
・着陸ポートと所定のプロトコルを設計して、その中で機体側が保持する自己位置を上書きしろと言う命令を入れる仕様とする。
【0058】
図9は、図6の機体P3の計画軌道の一例を示す説明図である。
機体P3は、他の機体が着陸するまで現在位置の周囲で待機する旨の管制命令を受け、現在位置P31から、位置P32→位置P33→位置P34→位置P35を順に通過し、現在位置P31に戻ってくる旨の計画軌道P3Xを作成する。各位置P31~P35は、計画状態値ベクタ列の座標成分である。
【0059】
図10は、図9の計画軌道から計算される機体P3の凸閉領域の一例を示す説明図である。
状態値ベクタ0の空間座標位置である各位置P31~P35を中心に、破線四角形で図示する不変条件(機種毎に規定した安全マージンなど)に該当する領域が形成される。これらの破線四角形で図示する領域は、機体P3の状態値ベクタ0を引数とする不変条件の内外分離境界である。
管制制御装置11は、機体3の計画軌道P3X(経時の座標列)を引数として、不変条件に該当する領域(閉領域列)を包含する凸閉領域P3Yを計算する。凸閉領域P3Yは、各位置P31~P35における機体占有領域P3R(図10では位置P31のものだけ図示)も包含する。
【0060】
図11は、図6の各機体に機能不整合エラーが発生していない状況を示す説明図である。
この図11は、管制制御装置11が端末情報受信部14を通じて機体P3から受け取った着陸基準点Hからの相対座標位置をそのまま図示したものである。以下の各凸閉領域が、他の凸閉領域と重複していない。
・機体P1の凸閉領域P1Y(機体P1を着陸させる場合の計画軌道P1Xから計算される)
・機体P2の凸閉領域P2Y(機体P2を滞留させる場合の計画軌道P2Xから計算される)
・機体P3の凸閉領域P3Y(機体P3を滞留させる場合の計画軌道P3Xから計算される)。なお、図11では、凸閉領域P3Yの内部のみに、不変条件に該当する領域(破線四角形)を図示したが、他の凸閉領域P1Y、P2Yも同様に、不変条件に該当する領域を図示してもよい。さらに、図12以降の各図においても、凸閉領域の内部に、不変条件に該当する領域を図示してもよい。
管制制御装置11は、図11を画面表示することで、オペレータ19に機能不整合エラーが発生していないことを目視で確認させることができる。
【0061】
図12は、図6の各機体に機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
図11の機体P2の計画軌道P2Xと比較すると、図12では機体P2の計画軌道P2X2が分離境界30をまたいで機体P3の側にはみ出している。よって、機体P2の計画軌道P2X2から計算される凸閉領域P2Y2と、機体P3の凸閉領域P3Yとの間に重複領域が発生している。
管制制御装置11は、図12を画面表示することで、オペレータ19に機能不整合エラー(機体P2と機体P3との間の競合A)が発生していることを目視で確認させることができる。
【0062】
機能不整合エラーは、例えば、以下の手順により解消される。
(手順1)基本的にゴール条件を放棄して、不変条件(安全マージンをキープしろなど)を堅持した上でalertを上げて機体側fleet operatorと地上管制の両方に通知する。
(手順2)データ整合性エラーの解消方法と同様に、合意できた法的責任の分担に従って設定変更を行う。例えば、着陸順キュー303で優先度を上げる要請を機体が行い、管制センタ100がそれを承認して要請した機体を優先して着陸させる。
【0063】
図13は、管制制御装置11がS213の処理により構築する競合グラフの一例を示すテーブルである。
このテーブルは、機体群リスト301に登録されている各機体の組み合わせごとに、競合が発生しているか(「競合」と記載)、競合が発生していないか(空欄)が入力される。管制制御装置11は、図12を画面表示することで、オペレータ19に多数の機体のうちのどの機体対に機能不整合エラーが発生しているかを確認させることができる。
【0064】
図14は、図6の機体P1のゴール条件と、機体P2の不変条件との間で機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
機体P1を着陸させる場合の計画軌道P1X2は、図12の計画軌道P1Xとは異なり、機体P2の凸閉領域P2Y内に侵入している。管制制御装置11は、図14を画面表示することで、オペレータ19に図14の機能不整合エラーを目視で確認させることができる。
【0065】
図15は、図6の機体P1のゴール条件と、機体P2のゴール条件との間で機能不整合エラーが発生した状況を示す説明図である。
機体P1を着陸させる場合の計画軌道P1Xと、
機体P2を着陸させる場合の計画軌道P2X3とは、ともに同じ着陸ポート22に向かっており、このままでは、着陸ポート22付近で両機体の接触が懸念される。管制制御装置11は、図15を画面表示することで、オペレータ19に図15の機能不整合エラーを目視で確認させることができる。
【0066】
以上説明した本実施形態の管制制御装置11は、以下の(機能1)~(機能3)を有する。
管制制御装置11の基本的な機能不整合判定機能(機能1)は、不変制約条件を満たしながらゴール制約条件を満たすように自律動作する機体を管制対象機体とし、
複数の管制対象機体それぞれについて、現在状態値ベクタと、計画状態値ベクタ列と、ゴール制約条件と、不変制約条件とを収集し、
第1機体の不変制約条件と第2機体の不変制約条件との第1競合、または、第1機体のゴール制約条件と第2機体の不変制約条件との第2競合、または、第1機体のゴール制約条件と第2機体のゴール制約条件との第3競合、のいずれかの競合要因を判定する機能である。
【0067】
管制制御装置11の提示機能(機能2)は、管制対象機体の付設の広域監視レーダ部13が捕捉した機体位置と、管制対象機体の現在状態とが一致しない場合にはデータ整合性エラーを通知する機能と、
第1競合、第2競合、または、第3競合を引き起こす制約条件対と、それぞれの制約条件が帰属する機体対、とをオペレータ19に提示する動作状況提示手段とを含む。
【0068】
管制制御装置11の競合解決の為の制御機能(機能3)は、第1競合または第2競合を解消する管制対象機体の着陸順を算出して、その算出結果をもとに着陸順半順序グラフ302を構築する機能と、
着陸順半順序グラフ302から、オペレータ指定の優先度設定方法に従って、第3競合が発生しないように管制対象機体の着陸順を示す着陸順キュー303を構築して、その着陸順キュー303に従って安全に降下・着陸させる管制命令を出力する機能である。
【0069】
さらに、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために管制制御装置11の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成要素に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0070】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの広義のプロセッサデバイスを用いてもよい。
また、上述した実施形態にかかる管制制御装置11の各構成要素は、それぞれのハードウェアがネットワークを介して互いに情報を送受信できるならば、いずれのハードウェアに実装されてもよい。また、ある処理部により実行される処理が、1つのハードウェアにより実現されてもよいし、複数のハードウェアによる分散処理により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 地上側管制システム
11 管制制御装置
12 管制情報送信部
13 広域監視レーダ部
14 端末情報受信部
19 オペレータ
21 レーダ
22 着陸ポート
30 分離境界
100 管制センタ
301 機体群リスト
302 着陸順半順序グラフ
303 着陸順キュー
P1 機体(第1機体)
P2 機体(第2機体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15