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  • 特開-焼成用具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130688
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】焼成用具
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/64 20060101AFI20240920BHJP
   C04B 35/583 20060101ALI20240920BHJP
   F27D 3/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B35/64
C04B35/583
F27D3/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040549
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 邦康
(72)【発明者】
【氏名】阿部 輝
【テーマコード(参考)】
4K055
【Fターム(参考)】
4K055AA05
4K055HA02
4K055HA12
4K055HA13
4K055HA18
4K055HA21
4K055HA27
(57)【要約】
【課題】 焼成時の加熱温度、加熱時間に起因する課題を抑制し、信頼性の高い焼成体を製造できる焼成用具を提供することを目的とする。
【解決手段】 不活性ガス雰囲気下で成形体を焼成するための焼成用具10であって、成形体を搭載する板状の保持部材12と、保持部材12を支持する支持部材11とを備え、支持部材11は、保持部材12から少なくとも一部が露出する露出部を有し、支持部材11の露出部と保持部材12とによって成形体を包囲する焼成用具10とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気下で成形体を焼成するための焼成用具であって、
前記成形体を搭載する板状の保持部材と、前記保持部材を支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、前記保持部材から少なくとも一部が露出する露出部を有し、
前記支持部材の前記露出部と前記保持部材とによって前記成形体を包囲することを特徴とする焼成用具。
【請求項2】
前記支持部材は凹部を備え、前記凹部の底面に前記保持部が配置されることを特徴とする請求項1に記載の焼成用具。
【請求項3】
前記支持部材は、前記凹部の開口を覆う蓋体を備えることを特徴とする請求項2に記載の焼成用具。
【請求項4】
前記支持部材を複数備え、一つの前記支持部材の底部を他の前記支持部材の前記蓋体として積み重ねたことを特徴とする請求項3に記載の焼成用具。
【請求項5】
前記保持部の厚みは、前記支持部の底部の厚みより薄いことを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の焼成用具。
【請求項6】
前記支持部材は、前記保持部材より高い熱伝導率を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の焼成用具。
【請求項7】
前記支持部材は、前記保持部材より曲げ強度が高いことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の焼成用具。
【請求項8】
前記支持部材は、炭素からなり、前記保持部材は窒化硼素、炭化珪素、または窒化珪素で複合化された窒化硼素からなることを特徴とする請求項1に記載の焼成用具。
【請求項9】
前記成形体は、窒化珪素またはサイアロンであることを特徴とする請求項1に記載の焼成用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気下で成形体を焼成するための焼成用具に関する。
【背景技術】
【0002】
焼成体の製造は、成形体を焼成用具に載置しガス雰囲気下で加熱処理することで行われる。例えば、窒化ケイ素などの窒化物や、窒化物に酸化物、炭素物などを複合化した複合化窒化物の窒化物系セラミックスの焼成は、窒化物系セラミックスの粉体を圧縮成形した成形体を1700℃以上の高温かつ窒素ガスやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下において、常圧、もしくは加圧することで行われる。
【0003】
このような雰囲気下での焼成では、一般的に高熱伝導率、高放射率であり機械的強度の高い黒鉛材料などの炭素材からなる焼成用具が用いられている。しかしながら窒化物系セラミックスなどの材料は、高温で炭素成分と反応し炭化物を生じてしまうため、炭素材の焼成用具と成形体との間に成形体と反応しない物質を介在させ、炭素材と成形体とが直接接触しない構成としたり、焼成用具自体を両者と反応性が低い材料により構成したりすることが行われている。このような窒化物系セラミックスなどの成形体と反応性の低い材料としては、例えば窒化硼素が挙げられる。特許文献1には、炭素基材上に窒化硼素粉を敷いた焼成用具上に、窒素及び酸素を含む成形体を載置し焼成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-167834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように炭素基材からなる焼成用具上に窒化硼素粉を敷いた場合、窒化硼素粉の間には隙間が存在し窒化硼素粉に流動性があるため、成形体が球体の場合などは粉の隙間に成形体が進入してしまい、成形体と炭素基材とが接触し成形体と焼成体とが反応してしまう恐れがある。
【0006】
また、窒化物系セラミックスと反応性の低い材料である窒化硼素によって焼成用具の全体を構成した場合、炭素基材の曲げ強度が約40MPaであるのに対し窒化硼素は約30MPaと低いため、焼成用具には破損防止からある程度の厚みが必要となる。ここで、窒化硼素の比熱は炭素とほぼ同等、密度はわずかに小さいが、熱伝導率が約60W/(m・K)と炭素の約100W/(m・K)より低いため、破損防止できる程度に焼成用具の厚みを増すと、炭素で構成された焼成用具より、焼成用具が所定の温度に到達するのに時間を要する。そのため、焼成を確実に進行するためには、炭素で構成した焼成用具を用いた場合より、加熱温度を高くするか、加熱時間を長くする必要があり、加熱温度や加熱時間の増加により窒化物系セラミックスの分解が生じることで、焼成体の品質悪化が起こりやすい。
【0007】
なお、強度を高めるため窒化珪素や炭化珪素を複合化した複合化窒化硼素も提案されているが、その熱伝導率は30~70W/(m・K)で炭素よりも劣り、また、複合化窒化硼素で構成した焼成用具を繰り返し使用した場合、複合化窒化硼素に含まれている窒化珪素や炭化珪素の分解による製品の汚染が起こる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決しようとするもので、焼成時の加熱温度、加熱時間に起因する上記課題を抑制し、信頼性の高い焼成体を製造できる焼成用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
不活性ガス雰囲気下で成形体を焼成するための焼成用具であって、前記成形体を搭載する板状の保持部材と、前記保持部材を支持する支持部材とを備え、前記支持部材は、前記保持部材から少なくとも一部が露出する露出部を有し、前記支持部材の前記露出部と前記保持部材とによって前記成形体を包囲する焼成用具とする。
前記支持部材は凹部を備え、前記凹部の底面に前記保持部が配置してもよい。
また、前記支持部材は、前記凹部の開口を覆う蓋体を備えていてもよい。
また、前記支持部材を複数備え、一つの前記支持部材の底部を他の前記支持部材の前記蓋体として積み重ねてもよい。
また、前記保持部の厚みは、前記支持部の底部の厚みより薄くしててもよい。
また、前記支持部材は、前記保持部材より高い熱伝導率を有していてもよい。
また、前記支持部材は、前記保持部材より曲げ強度が高くしてもよい。
また、前記支持部材は、炭素からなり、前記保持部材は窒化硼素、炭化珪素、または窒化珪素で複合化された窒化硼素から構成してもよい。
さらに、前記成形体は、窒化珪素またはサイアロンとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼成用具を利用して成形体を焼成することで、信頼性の高い焼成体を製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明における焼成用具の概略構成を示す分解斜視図である。
図2】本発明における焼成用具の支持部材及び保持部材の断面図である。
図3】本発明の焼成用具による焼成体の製造方法の一実施例を示す図である。
図4】本発明の焼成用具と従来技術による焼成用具とにより製造した成形体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明における焼成用具の概略構成を示す分解斜視図である。図2は、本発明における焼成用具の支持部材及び保持部材の断面図である。焼成用具10は、支持部材11、保持部材12及び蓋体13を備える。
【0013】
支持部材11は、円板状の底板111の周端部から外周壁112を起立させた容器体であり、外周壁112と底板111とに囲われた凹部113を備える。また、外周壁112の上面には、凹部113から支持部材11の外部にわたって形成された溝114が、支持部材11の周方向に4箇所形成されている。支持部材11は、熱伝導率、放射率の高い材料により構成され、本実施の形態では黒鉛により構成される。支持部材11の曲げ強度は、保持部材12の曲げ強度より高い。支持部材11は、外径φ120mm、厚さ10mm、凹部113の内径はφ100mm、底板111の厚み4mmである。また、溝114は幅10mm、外周壁112の上面からの深さ1.5mmである。
【0014】
保持部材12は、支持部材11を構成する材料よりも焼成対象となる成形体との反応性及び熱伝導率の低い材料により構成され、本実施の形態では窒化硼素により構成される。保持部材12は、φ98mm、厚み1mmの円板状の部材である。
【0015】
蓋体13は、支持部材11と同じ材料から構成され、本実施の形態では黒鉛から構成される。蓋体13は、外径のφ120mm、厚さ4mmの円板状の部材である。
【0016】
焼成用具10は、支持部材11の凹部113の底面を形成する底板111上に、保持部材12が搭載される。焼成を行うにあたっては、支持部材11上に搭載された保持部材12上に焼成対象となる成形体(不図示)が載置、保持される。そして、成形体が保持部材12上に載置された状態で、支持部材11の外周壁112の上面に、凹部113を覆うように蓋体13が配置される。支持部材11の上に蓋体13が配置された状態において、支持部材11の凹部113は外周壁112の上面に形成された溝114によって焼成用具10の外部と連通する。この溝114は、焼成時においてガス雰囲気を凹部113内に導入する導入口として機能する。
【0017】
ここで、焼成用具10は、保持基板12が板状であることから支持部材11の底板111と成形体とは直接接触せず、支持部材11より成形体と反応性の低い材料から構成される保持部材12とのみ接触する。したがって、成形体と焼成用具10とが接触し反応することにより生じる不具合を抑制できる。さらに、支持部材11を構成する材料の曲げ強度が保持部材12の曲げ強度より高いことから焼成用具10の破損も防止できる。
【0018】
また、保持部材12上に載置された成形体は、支持部材11の外周壁112の内側、及び蓋体13に露出する。成形体は、成形体と接触し支持する部分を除き、熱伝導率、放射率の高い部材に露出し、この支持部材11の露出部と保持部材12によって包囲されることで、支持部材11より熱伝導率の低い材料で構成された保持部材12によって全体を包囲されている場合と比較し、焼成時の加熱温度や加熱時間を抑えることができ、その結果、焼成体の品質悪化を抑制することができる。なお、支持部材11より熱伝導率の低い保持部材12の厚みを支持部材11の底板111の厚みより薄くすることで、保持部材12が存在することによって生じる熱伝導の低下を抑制することができる。好ましくは、保持部材12の厚みを底板111の厚みの1/2以下とするとよい。
【0019】
次に本実施の形態の焼成用具10により焼成体を製造する方法について説明する。図3は、本発明の焼成用具10による焼成体の製造方法の一実施例を示す図である。本実施の形態による焼成体の製造では、まず、焼成対象となる成形体14を準備する。本実施の形態では、成形体14としてφ2mmの球状のサイアロン成形体を用いる。そして、成形体14を脱脂炉または焼成炉に投入し加熱して、成形体14に含まれる成形助剤を取り除く。
【0020】
次に、凹部113における底面である底板111上に保持部材12が搭載された支持部材11を複数準備し、それぞれの支持部材11の凹部113内の保持部材12上に焼成対象となる成形体14を載置する。そして、成形体14を収容した複数の支持部材11を積み重ね、最上段に位置する支持部材11上に蓋体13を載置する。このとき、最上段より下段に位置する支持部材11は、そのすぐ上段に位置する支持部材11の底板111により凹部113が覆われる。ここで、支持部材11に収容された成形体14は、保持部材12に支持され接触するが、支持部材11の外周壁112、及びそれぞれの支持部材11の上段に位置する支持部材11の底板111や蓋体13とは接触しないように成形体14を配置する。成形体14の配置は、保持部材12における成形体14の搭載面に成形体14の外径に対応した凹部113などを設け、その凹部113内に成形体14を振り込み整列させてもよい。また、成形体14と外周壁112との間にスペーサを配置して整列させてもよい。このとき使用するスペーサは、後の焼成工程の前までに支持部材11から取り外す。
【0021】
次に、成形体14が収容された支持部材11及び蓋体13の積層体を焼成炉に投入し、成形体14の焼成を行う。焼成は、焼成炉内に窒素ガスを導入し、9KPaで加圧しながら1750℃の温度で焼成を行う。なお、支持部材11には凹部113内と焼成用具10の外部とを連通する溝114が設けられているため、焼成炉内に窒素ガスを導入すると溝114を通じて凹部113内も窒素ガス雰囲気となる。以上の工程により焼成体が製造される。
【0022】
次に、本発明の一実施形態である焼成用具10を用いて製造した焼成体(実施例1)と、従来技術による焼成用具を用いて製造した焼成体(比較例)との状態を説明する。実施例1は、先に説明した焼成用具10により焼成体を製造する方法によって製造した。比較例は、焼成用具が異なる以外は実施例1と同様の条件にて製造を行った。ここで、比較例は、本発明の焼成用具10から保持部材12を取り除いた焼成用具で製造した比較例1と、保持部材12がなく支持部材11及び蓋体13を窒化硼素で構成した焼成用具で製造した比較例2である。なお、焼成する成形体も先に説明したφ2mmの球状のサイアロンからなる成形体14である。焼成を終えた焼成体14は内部のピンホールを除去するため、熱間等方性加圧装置(HIP)にて窒素ガスで100MPaに加圧し1700℃、2時間保持するHIP処理を行った。
【0023】
図4は、本発明の焼成用具10と従来技術による焼成用具とにより製造した成形体の断面図である。製造した焼成体の断面観察をしたところ、実施例1は変色部分がなく組成が均質であり、熱が成形体14に良好に伝導され均質な焼成が行われたことがわかる。対して、比較例1は、焼成用具との反応により、焼成体の外周部に黒色の変色部分がみられ、組成が不均質となった。これは成形体14と焼成用具の表面とが反応したことが考えられ、この焼成体を研磨したところ、黒色に変色した変色部分はその他の部分と比較し加工性が悪く、変色部分の機械的強度が他の部分より高いことがわかった。また、比較例2は、今回実施した焼成条件下では焼成が進まず、その後の加工できるほど機械的強度の高い焼成体が得られなかった。これは、焼成工程における熱が焼成用具の影響により成形体14へ良好に伝導されなかったためであり、実施例1や比較例1より熱伝導率の劣る比較例2の製造に用いた焼成用具では、より温度での焼成が必要と思われる。以上の通り、本発明の焼成用具を用いることで、焼成用具と成形体との接触や、焼成用具の熱伝達により焼成体に生じる不具合を抑制でき、信頼性の高い焼成体を製造することができた。
【符号の説明】
【0024】
10 焼成用具
11 支持部材
111 底板
112 外周壁
113 凹部
114 溝
12 保持部材
13 蓋体
14 成形体

図1
図2
図3
図4