(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130703
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 21/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B43K21/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040566
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 千洋
【テーマコード(参考)】
2C353
【Fターム(参考)】
2C353FA04
2C353FC13
2C353FE02
2C353FE04
2C353FG01
(57)【要約】
【課題】移動終了時のホルダーに加わる荷重を、移動開始時のホルダーに加わる荷重より所定以上大きくすることにより、移動終了直前のホルダーが重くなり、ホルダーの移動速度が低下することにより、筆記者がホルダーの動きを感じ取りにくくして、筆感を向上することができる筆記具を提供することを課題とする。
【解決手段】軸筒と、前記軸筒の先端開口部に挿通されるとともに前記軸筒の先端から前方へ突出したホルダーとを備えた筆記具において、前記ホルダーは、筆記芯を前記ホルダーの先端から前方へ突出するように支持しており、前記軸筒と前記ホルダーの間に、前記ホルダーに加わる前記軸筒の径外方向の力により、前記ホルダーを前記軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換手段を備え、前記運動方向変換手段による前記ホルダーの前進の移動開始時のホルダーの荷重に対する移動終了時のホルダーの荷重の比率が160%以上であることを特徴とする筆記具。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、前記軸筒の先端開口部に挿通されるとともに前記軸筒の先端から前方へ突出したホルダーとを備えた筆記具において、
前記ホルダーは、筆記芯を前記ホルダーの先端から前方へ突出するように支持しており、
前記軸筒と前記ホルダーの間に、前記ホルダーに加わる前記軸筒の径外方向の力により、前記ホルダーを前記軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換手段を備え、
前記運動方向変換手段による前記ホルダーの前進の移動開始時の前記ホルダーの荷重に対する移動終了時の前記ホルダーの荷重の比率が160%以上であることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記ホルダーを前記軸筒に対して後方に付勢するホルダー付勢部材を備え、
前記比率は、前記移動開始時の前記ホルダー付勢部材の付勢力を変えることにより調整されていることを特徴とする請求項1に記載された筆記具。
【請求項3】
前記ホルダーを前記軸筒に対して後方に付勢するホルダー付勢部材を備え、
前記ホルダー付勢部材はバネであり、
前記比率は、前記バネのバネ定数を変えることにより調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された筆記具。
【請求項4】
前記バネはコイルバネであって、
前記バネ定数は、前記バネの線径、有効巻き数、平均コイル径及びバネ材料の横弾性係数の少なくとも1つを変えることにより変えられていることを特徴とする請求項3に記載された筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャープペンシルや、サインペン、マーカーペン、修正ペン、ボールペン等の軸筒の先端から筆記芯が突出する筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、筆記芯の径方向に大きな筆圧等が加わったとき、筆記芯が折れてしまうのを防止する構造(筆記芯折損防止構造)を備えたシャープペンシルやペンが知られている。(特許文献1、2)
この筆記芯折損防止構造は、シャープペンシルやペンの先端に筆記芯を保持するホルダーを備え、筆記芯の軸方向に角度を有して加わる筆圧により、ホルダーが筆記具の軸方向に傾斜すると、ホルダーのカム形状によりホルダーが突出する。この突出するホルダーが筆記芯の繰り出されている部分を被覆して保護することにより、筆記芯が折れるのを防止する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-123689号公報
【特許文献2】特開2017-77730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の筆記芯折損防止構造では、ホルダーがコイルバネにより軸筒後方に付勢されており、筆記芯に筆圧が加わると、ホルダーがカム形状によりコイルバネに抗して突出方向に移動する構造である。この構造では、移動開始時のホルダーに加わる荷重に対して、移動終了時のホルダーに加わる荷重は若干増加するものの、大きく変化しないため、ホルダーの移動開始時から移動終了時までの動きがほぼ一定となる。すると、ホルダーが一定の速度を保ったまま突出し、紙面に衝突して停止するという動きになる。
また、ホルダーが突出方向に移動するとき、ホルダーは軸筒の軸心に対して傾動する。このホルダーの傾動は、ホルダーの先端を注視しながら筆記する筆記者の目に入ることになる。
すると、これらホルダーの動きが、筆記する手に伝わったり、視認されたりすることにより、筆記者がホルダーの作動を感覚的、視覚的に感じやすくなり、筆記者の筆記に対する注意力が削がれることにより、筆感が悪くなるという問題があった。
【0005】
なお、ホルダーから突出する筆記芯としては、シャープペンシルのシャープ芯、サインペン、マーカーペン、修正ペン等のインク供給芯、ボールペンの先端チップ(特に、細長なニードルタイプの先端チップ)などが挙げられる。
【0006】
そこで、本発明は、移動終了時のホルダーに加わる荷重を、移動開始時のホルダーに加わる荷重より所定以上大きくすることにより、移動終了直前のホルダーが重くなり、ホルダーの移動速度が低下することにより、筆記者がホルダーの動きを感じ取りにくくして、筆感を向上することができる筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
軸筒と、前記軸筒の先端開口部に挿通されるとともに前記軸筒の先端から前方へ突出したホルダーとを備えた筆記具において、前記ホルダーは、筆記芯を前記ホルダーの先端から前方へ突出するように支持しており、前記軸筒と前記ホルダーの間に、前記ホルダーに加わる前記軸筒の径外方向の力により、前記ホルダーを前記軸筒及び前記筆記芯に対して前進させる運動方向変換手段を備え、前記運動方向変換手段による前記ホルダーの前進の移動開始時のホルダーの荷重に対する移動終了時のホルダーの荷重の比率が160%以上であることを特徴とする筆記具。
【発明の効果】
【0008】
本発明の筆記具は、移動終了時のホルダーに加わる荷重を、移動開始時のホルダーに加わる荷重より大きくすることにより、移動開始時より移動終了直前のホルダーが重くなり、ホルダーの移動速度が低下し、筆記者がホルダーの動きを感じ取りにくくして、筆感を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の縦断面図である。
【
図2】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の一部拡大縦断面図である。
【
図3】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態での一部拡大縦断面図である。
【
図4】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態でのさらなる一部拡大縦断面図である。
【
図5】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1についての試験1の結果をまとめた表である。
【
図6】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1についての試験2の結果をまとめた表である。
【
図7】本発明に係る実施形態のシャープペンシル1のホルダーガイド部42の変形例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
本発明の筆記具を、実施形態として、シャープペンシルを例に挙げて説明する。
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1を説明する。
以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
なお、本発明の筆記具は、シャープペンシルに限らず、サインペン、マーカーペン、修正ペン、ボールペン等の軸筒の先端から筆記部を突出する筆記具であれば、どのようなものであってもよい。
【0011】
[全体構成]
図1は、本実施形態におけるシャープペンシル1の縦断面図であり、
図2は、その一部拡大縦断面図である。なお、
図1及び2では、ホルダー3は初期位置(後述)にある。
シャープペンシル1は、軸筒2、ホルダー3、保持筒4、チャック5、接続部材6、芯タンク7などを有している。
そして、シャープペンシル1の先端から、筆記芯としての鉛芯8を繰り出すことにより筆記可能になっている。
鉛芯8は、長尺円柱状の周知のシャープペンシル用鉛芯である。
以降、軸筒2の長軸方向を、単に「軸方向」という。また、軸方向で、鉛芯8が出没する側を前又は先、その反対側を後という。
【0012】
[軸筒]
軸筒2は、前側軸筒21と後側軸筒22の2つの部材に分けられている。前側軸筒21と後側軸筒22は、シャープペンシル1の軸方向中央部付近で、ネジにより着脱自在に結合されている。
前側軸筒21は、先端に先端開口部211を、後側に後側軸筒22との結合部である雌ネジを有する。先端開口部211からは、後述するホルダー3が突出している。
先端開口部211は、その後側の部分よりも前側軸筒21の内周面を縮径した縮径部として構成されており、この縮径部とその後側との段差部で、ホルダー付勢部材3aの前端を受けている。
また、先端開口部211は、軸心と略平行な円筒状の孔の内周面であり、その前端縁の部分には、ホルダー3のカム斜面311と摺接する摺接部2111を有する。
【0013】
後側軸筒22は、後側に後端開口部221を、中央に前側軸筒21との結合部である雄ネジを有する。後端開口部221からは、後述するノックキャップ71が突出している。前側は、前側軸筒21の中に挿入され、先端は先細り形状になっていて、後述する保持筒4が取り付けられている。
なお、軸筒2は、1つの筒で形成されたもの、先端側に別体の先口を設けたもの、3つ以上の部材に分けたものなどでもよい。また、複数の部材を分離結合する手段としては、ネジのほか、他の任意の係合手段、嵌合手段などを採用してもよい。
【0014】
[筆記芯操出機構]
筆記芯操出機構は、保持筒4、チャック5、接続部材6、芯タンク7を有する。
芯タンク7の先端に接続部材6が取り付けられ、接続部材6の先端にチャック5が取り付けられている。芯タンク7は、芯タンク付勢部材7aにより、後側に付勢されている。
芯タンク7の後端部に取り付けられたノックキャップ71を後端部から押圧すると、芯タンク付勢部材7aの付勢力に抗して、芯タンク7、接続部材6、チャック5が前進して、保持筒4に保持された鉛芯8を前方へ繰り出すことができる。
【0015】
[保持筒]
保持筒4は、後側軸筒22の先端に取り付けられて、チャック5から繰り出された鉛芯8を保持するための部材である。
保持筒4は、先端側で、内部に芯ブレーカー4aが取り付けられた芯保持部41と、芯保持部41の後側で、芯保持部41より外周、内周とも拡径しており、外周面が、ホルダー3の進退時にホルダー3の後端部314(
図4(a)参照)と摺接するホルダーガイド部42と、ホルダーガイド部42の後側で、ホルダーガイド部42より外周、内周とも拡径しており、内周面に雌ネジが形成され、後側軸筒22の先端に取り付けられる取付部43とを有する。
後側軸筒22の先端の外径は、その後側より縮径しており、その縮径部の外周に雄ネジが形成されている。保持筒4の取付部43は、後側軸筒22の先端に嵌合して、ネジ止めされている。
芯ブレーカー4aは、合成ゴムやエラストマー樹脂等の弾性体からなる円筒状部材であり、芯保持部41に進退不能に挿入され、内部に挿通される鉛芯8を弾性的に把持する。
【0016】
[チャック]
チャック5は、芯タンク7とともに、ノックにより進退動作されて、鉛芯8を繰り出す部材である。
チャック5は、弾性的に撓むことが可能な合成樹脂材料又は金属材料から形成され、鉛芯8の周囲に位置するように同芯状に配置された複数(例えば2~4個程度)の爪部51を備え、爪部51を軸筒径内方向へ撓ませることで鉛芯8を後退不能に挟持し、爪部51を弾性的に復元することで鉛芯8を解放する。
チャック5は、爪部51を含む前側部分が、保持筒4内に挿入されている。爪部51の前端側は、その外径部分が後側部分よりも拡径した拡径部になっている。
【0017】
[クラッチリング]
クラッチリング5aは、前側が開口したカップ状の部材であり、底面にはチャック5及びチャック5で保持された鉛芯8を挿通することができる挿通孔が形成されている。クラッチリング5aは、後側軸筒22の先端と、保持筒4のホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部との間に配置されている。
クラッチリング5aは、チャック5の複数の爪部51の前端側の拡径部に対し後方側から嵌合して、チャック5の複数の爪部51を閉じた状態に保持し、チャック5が前進した際に、チャック5とともに前進した後、ホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部に当接して、チャック5の複数の爪部51から後方へ外れて、チャック5の複数の爪部51を開放する。
【0018】
[接続部材]
接続部材6は、チャック5と芯タンク7を接続して、ノックされて進退する芯タンク7の移動をチャック5に伝える部材である。
接続部材6は、前側の第1接続部材61と後側の第2接続部材62からなる。
第1接続部材61の先端には、チャック5の後端が取り付けられている。
第2接続部材62の先端部には第1接続部材61を収納する孔部が形成されており、孔部内に収納した第1接続部材61の後端が、孔部内に取り付けられている。
第2接続部材62の後部は、前部より外径が縮径しており、芯タンク7の先端部に挿入され、取り付けられている。
【0019】
[芯タンク]
芯タンク7は、複数の鉛芯8を収納可能な長尺円筒状に形成され、その後端部を、後側軸筒22の後端開口部221の近くに配置している。この芯タンク7は、弾性的にしなることが可能なように合成樹脂材料で成形されている。
芯タンク7の後端には、芯タンク7の後端開口をふさぐ消しゴム72と、消しゴム72を後方から覆うノックキャップ71とが、それぞれ着脱可能に接続されている。ノックキャップ71の後端側は、ノック操作が可能なように後側軸筒22の後端開口部221から後方へ突出している。
【0020】
[操出動作]
チャック5と第1接続部材61の取付、第1接続部材61と第2接続部材62の取付、第2接続部材62と芯タンク7の取付は、いずれも、軸方向に固定されていて、チャック5、第1接続部材61、第2接続部材62及び芯タンク7は、軸方向に一体的に進退移動する。
ノックキャップ71をノック操作すると、芯タンク7が前進するとともに、芯タンク7と一体的に進退移動するチャック5が鉛芯8を挟持して前進し、その前進の途中でクラッチリング5aがホルダーガイド部42と取付部43の間の内周の段差部に当接して、チャック5から後方に外れ、チャック5が軸筒径外方向へ開放され、鉛芯8を解放する。そして、芯タンク7が後退すると、チャック5も後退し、所定長さ後退すると、クラッチリング5aに挿入されることで閉じられ、鉛芯8を再度挟持する。これらの動作が、ノック操作により繰り返されて、鉛芯8は前進し、ホルダー3の前端から突出する。
【0021】
[筆記芯折損防止構造]
図3は、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1の使用状態での一部拡大縦断面図であり、(a)は、ホルダー3の初期位置での図、(b)は、ホルダー3の前進位置での図である。
図4は、
図3をさらに拡大した一部拡大縦断面図である。
筆記芯折損防止構造は、前側軸筒21の先端開口部211、ホルダー3、ホルダー付勢部材3a、保持筒4のホルダーガイド部42で構成されている。
ホルダー3は、鉛芯8をホルダー3の先端から前方へ突出するように支持する部材であり、前側のホルダー本体31と、ホルダー本体31の後部に取り付けられたバネ受け部32を有する。
ホルダー本体31は、軸筒2及び鉛芯8に対して前進した前進位置と、その前進前の初期位置との間で進退するように、ホルダー本体31のカム斜面311を介して、前側軸筒21の先端開口部211の摺接部2111に進退可能に先端側から係合している。
【0022】
そして、ホルダー3は、初期位置(
図3(a)、
図4(a))では、環状のカム斜面311を先端開口部211の摺接部2111に全周にわたって接触させることで、先端開口部211に対し軸筒径方向へ移動不能に嵌り合っている。また、ホルダー3は、カム斜面311よりも後側の部分の外形を先端開口部211内径よりも小さくしているため、前進位置(
図3(b)、
図4(b))では、先端開口部211に対し軸筒径方向へ移動可能な遊びを有する状態で嵌り合っている。
また、ホルダー付勢部材3aはコイルバネであり、ホルダー3が初期位置にあるとき、自然長から圧縮された状態で配置されており、ホルダー3は、前側軸筒21内のホルダー付勢部材3aによって軸筒後方へ付勢されているから、初期位置では、カム斜面311が摺接部2111に前側から係合して、ホルダー3が前側軸筒21に固定されている。
【0023】
ホルダー本体31は、先端開口部211を前後方向へ貫通する略円筒状の部材であり、その外周に、先端開口部211の摺接部2111に摺接する環状のカム斜面311を有する。
カム斜面311は、前方へ向かって拡径する円錐面に形成され、摺接部2111に摺接するように配置されて、鉛芯8を介してホルダー3に加わる軸筒径方向の力によりホルダー3を前側軸筒21及び鉛芯8に対して前進させる運動方向変換手段として構成されている。
【0024】
ホルダー本体31におけるカム斜面311よりも前側の部分は縮径されるように形成されている。
ホルダー3の内部には、カム斜面311よりも前側で鉛芯8の外周面に摺接可能な鉛芯摺動孔312と、鉛芯摺動孔312よりも後側で拡径されて、保持筒4の前側部分を収納する収納部313を有する。
鉛芯摺動孔312は、鉛芯8の外周面に接触又は近接するように、鉛芯8の外径よりもわずかに大きい内径に形成された孔であり、ホルダー本体31の先端部から後方へ延びて収納部313内に連通している。
【0025】
バネ受け部32は、ホルダー本体31の後端側の外周面に嵌合されている。なお、ホルダー本体31とバネ受け部32との取付構造は、嵌合以外の構造であってもよい。
バネ受け部32は、ホルダー本体31の後端側の外径よりも大きい外径を有するとともに前側軸筒21の内周面に対し隙間を有する筒状の部材であり、その前端側の環状段部を、ホルダー付勢部材3aの後端に当接させている。このバネ受け部32は、前記隙間により、軸心に対し若干傾くことが可能である(
図3(b)参照)。
なお、バネ受け部32としては、ホルダー本体31と一体形成された部位として構成することも可能である。すなわち、例えば、ホルダー本体31の後端側の外周面に突起を設けて、該突起をホルダー付勢部材3aの後端に後方から当接させる構成としてもよい。
【0026】
本実施形態では、運動方向変換手段として、ホルダー3にカム斜面を、軸筒2に摺接部を形成したが、逆に、ホルダー3に摺接部を、軸筒2にカム斜面を形成してもよい。
ホルダー付勢部材3aは、圧縮バネにより、ホルダー3を後側に付勢するものであるが、逆に、引張バネにより、ホルダー3を後側に付勢するものであってもよい。
【0027】
[筆記芯折損防止動作]
軸筒2を傾けて紙面Pに押し付けた通常の筆記状態においては、
図3(a)に示すように、ホルダー本体31から前方へ突出した鉛芯8に対し、紙面Pから力Fを受ける。この紙面Pから受ける力Fは、筆圧の反力であるといえる。この力Fの分力として、鉛芯8に交差する方向(換言すれば、軸筒径方向)の力Fxを受ける。この力Fxが所定値を超えると、ホルダー本体31は、ホルダー本体31のカム斜面311を前側軸筒21の先端開口部211(詳細には摺接部2111)に摺接させて軸筒径外方向へ傾動しながら、ホルダー付勢部材3aの付勢力に抗して前進する。
図3(b)に示すように、ホルダー本体31が傾動すると、ホルダー本体31の後端部314が、保持筒4のホルダーガイド部42の外周面と当接する。ホルダー本体31は、後端部314をホルダーガイド部42の外周面に摺接させながら、前進する。
このホルダー本体31の前進の際、鉛芯8は、芯ブレーカー4aから先端側がホルダー本体31とともに傾くようにして軸筒径方向へ移動する。
そして、鉛芯8の先端側が、前進したホルダー本体31によって覆われて保護され、ホルダー本体31の鉛芯摺動孔312の先端が紙面Pに当接すると、ホルダー本体31の前進が停止する。
そして、筆記者は、ホルダー3が前進したのを視認して、シャープペンシル1の先端を紙面Pから離すと、力Fが解除され、ホルダー3は、ホルダー付勢部材3aの付勢力によって後退し、初期位置に戻る。
【0028】
[ホルダー付勢部材の付勢力]
ホルダー付勢部材3aは、ホルダー3のバネ受け部32と、先端開口部211とその後側との段差部との間に配置されており、ホルダー3を後方に付勢している。また、ホルダー付勢部材3aは、ホルダー3が初期位置にあるとき、自然長から圧縮された状態で配置されており、ホルダー3が前進すると、ホルダー付勢部材3aはさらに圧縮される。
ホルダー付勢部材3aの付勢力により、ホルダー3が初期位置から移動開始するときにホルダーに加わる荷重(移動開始時のホルダーの荷重)、ホルダー3の前進移動中にホルダー3に加わる荷重、ホルダー3が紙面Pに当接して停止するときにホルダー3に加わる荷重(移動終了時のホルダーの荷重)が異なってくる。
そこで、ホルダー付勢部材3aの付勢力を変えて、ホルダー3の荷重を変えて、筆感に与える影響を試験した。
【0029】
<試験1>
ホルダー付勢部材3aを変えたシャープペンシル1を6種類(サンプルNo.1~サンプルNo.6)用意した。本実施形態では、ホルダー付勢部材3aは、コイルバネを使用しており、サンプルNo.1~サンプルNo.6では、バネ定数が異なっている。バネ定数は、周知のように、バネの線径、バネの有効巻き数、平均コイル径、バネ材料の横弾性係数により決まり、これらのうちの少なくとも1つを変えることにより、バネ定数を変えることができる。
また、サンプルNo.1~サンプルNo.6のそれぞれにおいて、移動開始時の荷重がほぼ250gf、300gf、350gfになるように、初期位置での圧縮長を調整して(移動開始時の前記ホルダー付勢部材の付勢力を変えて)、それぞれ、枝番を-1、-2、-3とした。
そして、サンプルNo.1-1~サンプルNo.6―3の18個のサンプルについて、実験者(筆記者)が、シャープペンシル1を紙面に対して、約60°になるように傾けて(
図3(b)参照)、鉛芯8に径方向(軸方向に直交する方向)の荷重をかけて、ホルダー3を作動させることにより行った。
【0030】
試験1では、移動開始時のホルダー3の荷重と移動終了時のホルダー3の荷重を測定するとともに、実験者がホルダー3の作動を知覚できたかどうかを調べた。
ホルダー3の荷重は、次のように測定した。
シャープペンシル1の先端の突出している鉛芯8の先端を、荷重を測定できる測定器(例えば、重量計など)の測定面に当接させる。このとき、シャープペンシル1は、測定面に対して、略60°になるように傾けて保持する。
そして、シャープペンシル1を測定面に対して垂直方向に押圧して、測定器の測定値をホルダー3の荷重とした。なお、移動開始時、移動終了時は、目視により判断した。
すなわち、ホルダー3の荷重は、上述した測定面(紙面)から受ける力F(
図3参照)である。ホルダー3は、このホルダー3の荷重に抗して、前側軸筒21と鉛芯8に対して前進する。
【0031】
10人の実験者が実験して、その結果を、
図5にまとめた。
10人の実験者が、各サンプルにつき、1回ずつ、シャープペンシル1の先端を見ないで、シャープペンシル1に荷重をかけて、移動開始時の荷重と移動終了時の荷重の値を測定し、それぞれ、10人分の値を平均した。
また、10人の実験者全員が、ホルダー3の作動を知覚できた場合を×、10人の実験者の一部が、ホルダー3の作動を知覚できた場合を△、10人の実験者全員が、ホルダー3の前進を知覚できなかった場合を〇とした。
【0032】
図5から、移動開始時のホルダーの荷重に対する移動終了時のホルダーの荷重の比率(変化率)が大きくなると、ホルダー3の作動を知覚できないことがわかった。
移動終了時のホルダーの荷重が、移動開始時のホルダーの荷重よりも所定以上大きくなると、ホルダー3の前進の動きが、移動終了直前に減速されて、移動開始時よりも遅くなる。すると、移動終了(ホルダー本体31の鉛芯摺動孔312の先端が紙面Pに当接する)直前に、ホルダー3の動きが遅くなって、ホルダー3の停止がスムーズで、ホルダー3の停止が感じられなくなる。その結果、移動開始時から移動終了時までの全体として、ホルダー3の作動を感じにくくなることが要因であると考えられる。
そして、
図5から、変化率が160%以上であると、ホルダー3の作動を知覚できないことが分かった。すなわち、変化率を大きくすると筆感が向上し、変化率が160%以上であれば、筆感がよくなることが分かった。
【0033】
[ホルダーの傾斜角度]
ホルダー3の軸心は、初期位置では、軸筒2の軸心とほぼ同じであるが、前進位置では、ホルダー3は傾動して、軸筒2の軸心に対して傾いている。このとき、軸筒2の軸心とホルダー3の軸心の傾き度合いを、移動終了時のホルダーの傾斜角度という(
図3(b)、
図4(b)のαを参照。また、以下、単に、ホルダーの傾斜角度という。)。
ホルダーの傾斜角度が大きくなると、鉛芯8の先端を見ながら、筆記している筆記者の視覚で認知されやすくなる。筆記者が、ホルダー3の作動を視認すると、それに注意をそがれてしまい、結果として、筆感が悪くなったように感じてしまうことになる。
そこで、ホルダーの傾斜角度を変えて、筆記している筆記者の視覚での認知の可否、すなわち、筆感に与える影響を試験した。
【0034】
<試験2>
ホルダーの傾斜角度を変えたシャープペンシル1を10種類(サンプルNo.1~サンプルNo.10)用意した。
10種類のシャープペンシル1では、ホルダー本体31のカム斜面311の形状を変えることにより、ホルダーの傾斜角度を変えている。なお、カム斜面311の形状に換えて又は加えて、ホルダー本体31の後端部314が摺接する保持筒4のホルダーガイド部42の摺接面の形状を変えることにより、ホルダーの傾斜角度を変えることもできる。
そして、サンプルNo.1~サンプルNo.10の10個のサンプルについて、実験者(筆記者)が、シャープペンシル1を紙面に対して、約60°となるように傾けて(
図3(b)参照)、シャープペンシル1に径方向(軸方向に直交する方向)の荷重をかけて、ホルダー3を作動させることにより行った。
筆感の試験を行った。
試験2では、実験者が、ホルダー3が作動したことを視認できたかどうかを調べた。
【0035】
10人の実験者が実験して、その結果を、
図6にまとめた。
10人の実験者全員が、ホルダー3の作動を視認できた場合を×、10人の実験者の一部が、ホルダー3の作動を視認できだ場合を△、10人の実験者全員が、ホルダー3の作動を視認できなかった場合を〇とした。
図6から、ホルダーの傾斜角度が小さくなると、ホルダー3の作動を視認できないことがわかった。
そして、
図6から、ホルダーの傾斜角度が2.3°以下であると、ホルダー3の作動を視認できないことが分かった。すなわち、ホルダーの傾斜角度を大きくすると筆感が向上し、ホルダーの傾斜角度が2.3°以下であれば、筆感がよくなることが分かった。
【0036】
[ホルダーガイド部の形状]
ホルダーガイド部42の外周面の後側の、ホルダー本体31の後端部314が摺接する箇所には、傾斜面が形成されている。
図4に示すように、ホルダーガイド部42の外周面の後側端部から前方に向かって、保持筒4の外径が縮径するように傾斜する縮径面421が形成され、縮径面421の前端に連続して、前方に向かって保持筒4の外径が拡径するように傾斜する拡径面422が形成されている。これら縮径面421と拡径面422は傾斜角度が一定の円錐面であり、
図4に示すように、保持筒4の縦断面図では、略V字状をなしている。
【0037】
なお、縮径面421と拡径面422の間に、径の変わらない円筒面が形成されていてもよい。また、縮径面421と拡径面422は、それぞれ、傾斜角度が一定の円錐面、すなわち、母線が直線になる曲面に限らず、傾斜角度が連続的に変化する椀形面、すなわち、母線が曲線になる曲面であってもよい。さらに、縮径面421と拡径面422は、それぞれ、傾斜角度が異なる複数種類の円錐面を組み合わせたもの、母線の曲線が異なる複数種類の椀形面を組み合わせたもの、1種類以上の円錐面と1種類以上の椀形面を組み合わせたものなどでもよい。
【0038】
上述したとおり、ホルダー本体31から前方へ突出した鉛芯8に対し、紙面Pから、鉛芯8に軸筒径方向の筆圧を受けると、ホルダー本体31は、カム斜面311を前側軸筒21の先端開口部211の摺接部2111に、後端部314を保持筒4のホルダーガイド部42の外周面に、それぞれ、摺接させて、軸筒径外方向へ傾動しながら、ホルダー付勢部材3aの付勢力に抗して前進する。
ホルダー本体31の移動開始時に、ホルダー本体31の後端部が最初に縮径面421に当接する(
図4(b)の二点鎖線参照)。縮径面421は、ホルダー本体31の傾動及び前進を助勢する作用を奏するため、ホルダー本体31の移動開始時のホルダーの荷重は小さくなり、ホルダー3はなめらかに移動を開始する。
【0039】
後端部314が、縮径面421から拡径面422に当接する(
図4(b)の実線参照)ようになると、拡径面422は、ホルダー本体31の傾動及び前進を阻害する作用を奏するため、ホルダー本体31の移動終了前のホルダーの荷重は大きくなり、ホルダー3の移動は遅くなる。
縮径面421と拡径面422の作用により、ホルダー本体31の移動終了時のホルダーの荷重は、移動開始時のホルダーの荷重よりも相当程度大きくなる。
すると、上述したように、移動開始時のホルダーの荷重に対する移動終了時のホルダーの荷重の変化率を所定以上大きくする要因となる。
すなわち、上述した、ホルダー付勢部材3aのバネ定数及び/又はホルダー付勢部材3aの初期位置での圧縮長の調整に加えて、ホルダーガイド部42の縮径面及び/又は拡径面の形状の設計により、移動開始時のホルダーの荷重に対する移動終了時のホルダーの荷重の比率(変化率)を160%以上にすることができる。また、ホルダーガイド部42の縮径面及び/又は拡径面の形状の設計のみによっても、変化率を160%以上にすることができる。すると、筆記者が、ホルダー3の前進を感じることがなく、筆感が向上する。
【0040】
[ホルダーガイド部の変形例1]
実施形態では、ホルダーガイド部42の外径を変えることにより、移動開始時のホルダーの荷重より移動終了時のホルダーの荷重を大きくするものであったが、本変形例1では、ホルダーガイド部42の外径は変えずに、ホルダーガイド部42の外周面の粗さを変えることにより、移動開始時のホルダーの荷重より移動終了時のホルダーの荷重を大きくするものである。
上述のとおり、紙面Pから、鉛芯8に軸筒径方向の筆圧を受けると、ホルダー本体31は、その後端部314を保持筒4のホルダーガイド部42の外周面に摺接させながら、軸筒径外方向へ傾動するとともにホルダー付勢部材3aの付勢力に抗して前進する。
そこで、ホルダーガイド部42の外周面の後側端部から所定長さ前方までの後側外周面423は平滑面に、後側外周面423から所定長さ前方までの前側外周面424は後側外周面423よりも粗い粗面になるように形成されている。なお、
図7では、平滑面である後側外周面423を実線で、粗面である前側外周面424を点線で示している。
【0041】
このように、後側外周面423よりも前側外周面424を粗くすることにより、後側外周面423とホルダー本体31の後端部314との摩擦よりも、前側外周面424とホルダー本体31の後端部314との摩擦を大きくすることにより、移動開始時のホルダーの荷重よりも移動開始時のホルダーの荷重を大きくすることができる。
なお、後側外周面423を平滑面、前側外周面424を粗面と記載したが、この記載は前側外周面424が後側外周面423よりも相対的に粗いことを示すものであり、絶対的に、後側外周面423が平滑面、前側外周面424が粗面である構成に限るものではない。また、ホルダーガイド部42の外周面の表面粗さを、平滑面、粗面の2段階に分けることに限らず、3段階以上に分けてもよいし、連続的に変化するようにしてもよい。
本変形例1でも、実施形態の縮径面、拡径面と同様の作用効果を奏することができる。
【0042】
[ホルダーガイド部の変形例2]
変形例1では、ホルダーガイド部42の外径は変えずに、ホルダーガイド部42の外周面の粗さを変えることにより、移動開始時のホルダーの荷重より移動終了時のホルダーの荷重の大きくするものであったが、本変形例2では、ホルダーガイド部42の外径を変えるとともに、ホルダーガイド部42の外周面の粗さを変えることにより、移動開始時のホルダーの荷重より移動終了時のホルダーの荷重の大きくするものである。
実施形態と同様、ホルダーガイド部42の外周面には、縮径面421と拡径面422が形成されており、縮径面421は平滑面、拡径面422は粗面に形成されている。
このように、ホルダーガイド部42の外周面として、縮径面421、拡径面422、平滑面、粗面を組み合わせることにより、移動開始時のホルダーの荷重より移動終了時のホルダーの荷重の大きくすることができる。
なお、縮径面421の全部を平滑面に、拡径面422の全部を粗面にする必要はなく、縮径面421の後側を平滑面、前側を粗面にするなど、縮径面421、拡径面422と平滑面、粗面の組み合わせは自由に設計することができる。また、平滑面、粗面の意味は、上述のとおりであり、さらに、表面粗さを、平滑面、粗面の2段階に分けることに限らず、3段階以上に分けてもよいし、連続的に変化するようにしてもよい。
本変形例2でも、実施形態の縮径面、拡径面と同様の作用効果を奏することができる。
【0043】
上述の本実施形態、変形例1及び変形例2は、鉛芯8が軸方向に押圧力を受けたときに、鉛芯8を保持した状態の芯操出機構を後方へ移動させて、鉛芯8をホルダー3内に没入させることにより、鉛芯8の折損や芯操出機構の破損などを抑止する機構を備えていないが、この機構を備えるよう構成してもよい。
【0044】
[筆感]
上述のように、移動終了時のホルダーの荷重を移動開始時のホルダーの荷重よりも所定以上大きくすると、移動開始時から移動終了時までの全体として、ホルダー3の動きを感じにくくなり、また、前進時のホルダーの傾斜角度を小さくすると、ホルダー3の前進を視認できなくなり、筆感が向上する。
【0045】
以上、本発明に係る実施形態のシャープペンシル1を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 シャープペンシル
2 軸筒
21 前側軸筒
211 先端開口部
2111 摺接部
22 後側軸筒
221 後端開口部
3 ホルダー
31 ホルダー本体
311 カム斜面
312 鉛芯摺動孔
313 収納部
314 後端部
32 バネ受け部
3a ホルダー付勢部材
4 保持筒
41 芯保持部
42 ホルダーガイド部
421 縮径面
422 拡径面
423 後側外周面
424 前側外周面
43 取付部
4a 芯ブレーカー
5 チャック
51 爪部
5a クラッチリング
6 接続部材
61 第1接続部材
62 第2接続部材
7 芯タンク
71 ノックキャップ
72 消しゴム
7a 芯タンク付勢部材
8 鉛芯
P 紙面