(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130708
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電解槽、電解システム
(51)【国際特許分類】
C25B 9/19 20210101AFI20240920BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20240920BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240920BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240920BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240920BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20240920BHJP
C25B 11/036 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
C25B9/19
C25B15/00 303
C25B15/08 302
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B11/03
C25B11/036
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040572
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】504000052
【氏名又は名称】有限会社スプリング
(71)【出願人】
【識別番号】521389996
【氏名又は名称】株式会社文工業
(71)【出願人】
【識別番号】592250414
【氏名又は名称】株式会社テックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】澄田 修生
(72)【発明者】
【氏名】高山 伸雄
(72)【発明者】
【氏名】多胡 宗政
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA17
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC06
4K021CA09
4K021DB15
4K021DB31
4K021DB36
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、電解槽、電解システムにおける水素ガスの生成効率の向上である。
【解決手段】アノード電極(1.1)と、カソード電極(2.1)と、前記アノード電極(1.1)および前記カソード電極(2.1)の間に設けられる複数の複極式電極(3)と、前記アノード電極(1.1)、前記カソード電極(2.1)、前記複極式電極(3)が設けられる電解槽フレーム(4)と、を備え、
前記複極式電極(3)には、前記電解槽フレーム(4)の空間への露出領域に対し、2%から35%の開口率となる第1通水孔(3.1)が形成されている電解槽(10B)。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極と、カソード電極と、前記アノード電極および前記カソード電極の間に設けられる複数の複極式電極と、前記アノード電極、前記カソード電極、前記複極式電極が設けられる電解槽フレームと、を備え、
前記複極式電極には、前記電解槽フレーム内の空間への露出領域に対し、2%から35%の開口率となる第1通水孔が形成されている電解槽。
【請求項2】
請求項1に記載の電解槽において、
隣り合う前記複極式電極の前記第1通水孔は、平面視でズレている電解槽。
【請求項3】
請求項1に記載の電解槽において、
前記第1通水孔には、パイプが嵌められている電解槽。
【請求項4】
請求項3に記載の電解槽において、
前記第1通水孔は、複数あり、前記各第1通水孔に絶縁性の前記パイプが嵌められている電解槽。
【請求項5】
請求項1に記載の電解槽において、
前記複極式電極において、少なくとも前記第1通水孔の周囲に絶縁層が積層されている電解槽。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の電解槽と、
前記アノード電極および前記カソード電極に電圧を印加する電源と、
前記電解槽から送られる水素ガスおよび酸素ガスを含む電解水を貯留するタンクと、
前記タンク内の水素ガスおよび酸素ガスによる圧力が設定値に至っているか否かを検出するセンサと、
前記タンク内の圧力が設定値に至ったことを前記センサが検出すると、前記電源の出力を停止させるコントローラと、を備える電解システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の電解槽と、
前記電解槽にて生成される水素ガスおよび酸素ガスを、液体窒素を用いて冷却し、酸素ガスを液化させて水素ガスから分離させる分離装置と、を備える電解システム。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の電解槽と、
冷媒として水素ガスを用いる冷凍サイクルにより、前記電解槽にて生成された水素ガスを冷却し、液化させる水素ガス液化装置と、を備える電解システム。
【請求項9】
請求項8に記載の電解システムにおいて、
前記電解槽にて生成される水素ガスおよび酸素ガスを、液体窒素を用いて冷却し、酸素ガスを液化させて水素ガスから分離させる分離装置を備え、
前記水素ガス液化装置は、前記分離装置により分離された水素ガスを冷却し、液化させる電解システム。
【請求項10】
請求項1に記載の電解槽において、
隣り合う前記アノード電極および前記複極式電極間、隣り合う前記カソード電極および前記複極式電極間、および隣り合う前記複極式電極間に設けられ、第2通水孔を有するイオン交換体を備える電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを生成する電解槽、電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解は、古くから産業界で利用され、例えば、食塩水や水道水を用いたNaOHおよびCl2、次亜塩素酸、アルカリイオン水、オゾン水等の製造分野で利用されている。電気分解に関し、設備コストの低減、電解効率の向上、装置の耐久性向上等を図る様々な提案がなされている(例えば特許文献1、非特許文献1~6)。なお、本明細書において、「電気分解」を単に「電解」と記載する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】三宅淳巳、水素エネルギーシステムVol.22, No2,9(1992),
【非特許文献2】水素エネルギーシステムVol.30、No.1(2005)第114回定例研究会資料
【非特許文献3】柴田善朗、日本エネルギー経済研究所2016年、インターネット<https://ieei.or.jp/2021/04/takeuchi210414>
【非特許文献4】福井賢一、J. ION EXCHANGE、Vol.21 No.4 (2010) 397
【非特許文献5】田中克己、爆発現象:安全工学Vol.36,No.6 (1997),387
【非特許文献6】Yakugaku lab,インターネット<https://yakugakulab.info/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、二酸化炭素ガスによる世界的な温暖化現象が問題視され、温暖化現象の要因として、石油、石炭等の化石燃料を利用する火力発電所が挙げられている。このため、火力発電所の新規建設が抑制されている。化石燃料の代替案としては、再生可能エネルギーが着目されており、再生可能エネルギーの中でも、太陽光や風力エネルギー等の自然エネルギーが重要視されている。しかし、自然エネルギーの強度は常時変化するので、自然エネルギーを直接電気エネルギーに変換する発電方式では、安定した発電は難しい。温暖化現象の要因としては、化石燃料を利用する自動車、船舶、飛行機等の移動手段も挙げられ、これらの移動手段に対し、二酸化炭素ガスの排出抑制に繋がる大きな変化が期待されている。自然エネルギーを移動手段の駆動に直接利用することが考えられるが、自然エネルギーの強度は常時変化するので、原理的に困難である。このように、自然エネルギーを直接エネルギー源として利用することで二酸化炭素ガスの排出抑制を図ることは難しい。
【0006】
水素ガスは、自然エネルギーを変換した電気を利用して水から生成できる二次エネルギーである。水は、地球上に無尽蔵に存在する。水素ガスを酸素と反応させて燃焼させると、エネルギーと水を生成し、二酸化炭素ガスは排出しない。そのため、水素ガスの利用は、二酸化炭素ガスの排出抑制に貢献する。化石燃料の将来的な枯渇や地球環境問題の深刻化を背景に、水素ガスは、二次エネルギーにおいて、「水から生まれて水に還るCO2フリーの究極の再生可能エネルギー」として最も注目されている。移動手段として、貯留する水素ガスを利用して電気エネルギーを発生させ、該電気エネルギーを走行するための動力源へ安定的に供給するものが開発されている。従って、二酸化炭素ガスの排出抑制の観点からは、自然エネルギーを利用して水素ガスを製造し、このような移動手段に供給することが望ましい。
【0007】
本発明は、電解槽、電解システムにおける水素ガスの生成効率の向上を目的とする。その背景としては、本発明により、自然エネルギーを利用した水素ガスの生成効率を向上させ、これにより二酸化炭素ガスの排出抑制に貢献することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。以下では、図面の符号を参照のために付してある。
(1)アノード電極(1.1)と、カソード電極(2.1)と、前記アノード電極(1.1)および前記カソード電極(2.1)の間に設けられる複数の複極式電極(3)と、前記アノード電極(1.1)、前記カソード電極(2.1)、前記複極式電極(3)が設けられる電解槽フレーム(4,4.1)と、を備え、
前記複極式電極(3)には、前記電解槽フレーム(4,4.1)内の空間への露出領域(R)に対し、2%から35%の開口率となる第1通水孔(3.1,3.6)が形成されている電解槽(10A~10G)。
(2)(1)に記載の電解槽(10A~10G)において、
隣り合う前記複極式電極(3)の前記第1通水孔(3.1,3.6)は、平面視でズレている電解槽(10A~10G)。
(3)(1)に記載の電解槽(10A~10G)において、
前記第1通水孔(3.1,3.6)には、パイプ(3.3)が嵌められている電解槽(10A~10G)。
(4)(3)に記載の電解槽(10A~10G)において、
前記第1通水孔(3.1,3.6)は、複数あり、前記各第1通水孔(3.1,3.6)に絶縁性の前記パイプ(3.3)が嵌められている電解槽(10A~10G)。
(5)(1)に記載の電解槽(10A~10G)において、
前記複極式電極(3)において、少なくとも前記第1通水孔(3.1,3.6)の周囲に絶縁層(3.9)が積層されている電解槽(10A~10G)。
(6)(1)から(5)のいずれか1つに記載の電解槽(10A~10G)と、
前記アノード電極(1.1)および前記カソード電極(2.1)に電圧を印加する電源(50)と、
前記電解槽(10G)から送られる水素ガスおよび酸素ガスを含む電解水を貯留するタンク(15)と、
前記タンク(15)内の水素ガスおよび酸素ガスによる圧力が設定値に至っているか否かを検出するセンサと、
前記タンク(15)内の圧力が設定値に至ったことを前記センサが検出すると、前記電源(10)の出力を停止させるコントローラ(18.2)と、を備える電解システム(100G,100H)。
(7)(1)から(5)のいずれか1つに記載の電解槽(10G)と、
前記電解槽(10G)にて生成される水素ガスおよび酸素ガスを、液体窒素を用いて冷却し、酸素ガスを液化させて水素ガスから分離させる分離装置(51)と、を備える電解システム(100H)。
(8)(1)から(5)のいずれか1つに記載の電解槽(10G)と、
冷媒として水素ガスを用いる冷凍サイクルにより、前記電解槽(10G)にて生成された水素ガスを冷却し、液化させる水素ガス液化装置(52)と、を備える電解システム(100H)。
(9)(8)に記載の電解システム(100H)において、
前記電解槽にて生成される水素ガスおよび酸素ガスを、液体窒素を用いて冷却し、酸素ガスを液化させて水素ガスから分離させる分離装置(51)を備え、
前記水素ガス液化装置(52)は、前記分離装置(51)により分離された水素ガスを冷却し、液化させる電解システム(100H)。
(10)(1)に記載の電解槽(10B,10F)において、
隣り合う前記アノード電極(1.1)および前記複極式電極(3)間、隣り合う前記カソード電極(2.1)および前記複極式電極(3)間、および隣り合う前記複極式電極(3)間に設けられ、第2通水孔(8.1)を有するイオン交換体(8)を備える電解槽(10B,10F)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】隔膜電解方法による電解を行う電解槽を示す図である。
【
図2】複極式電解方法による電解を行う複極式電解槽を示す図である。
【
図3】隔膜式2極式電解槽における電流密度-電圧曲線を示す図である。
【
図4】電流密度、槽電圧、エネルギー変換効率の関係を示す図である。
【
図5】電極の界面における電気二重層の模式的構造を示す図である。
【
図7】
図7(A)は複極式電極を示す図であり、
図7(B)は、
図7(A)の隣の複極式電極を示す図である。
【
図9】通水孔の部分の酸素ガスに対する還元反応を示す図である。
【
図13】電解槽を備える電解システムを示す図である。
【
図14】比較例の電解槽を備える電解システムを示す図である。
【
図15】発振現象が観測される電解電圧のスペクトルを示す図である。
【
図16】電解槽を備える電解システムを示す図である。
【
図17】電解槽を備える電解システムを示す図である。
【
図18】爆轟における圧力と体積の関係を示す図である。
【
図19】電解槽を備える電解システムを示す図である 。
【
図21】
図20の複極式電極に隣接する円形の複極式電極を示す図である。
【
図22】
図20,
図21の複極式電極が交互に複数組み込まれた電解槽を備える電解システムを示す図である。
【
図23】
図22の電解槽にて生成した水素ガスを冷却し、輸送と応用に便利な液体水素に変化させる電解システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の電解装置及び該装置を用いた水素ガスの生成方法について説明するところ、まず、その狙いについて説明する。
【0011】
水素ガスは、可燃性ガスであり、爆発を避けて安全に用いる必要がある。非特許文献1には、水素ガスと、酸素ガスまたは空気と、の混合気体の爆発性について記載されている。非特許文献1によると、電解による水素ガスの爆発を避けるためには、酸素ガス濃度を6%以下にすることが重要である。電解槽として、カソード室とアノード室とを分離することで、水素ガスと酸素ガスを安全に分離して採取できるようにしたものがある。このような電解槽として、隔膜電解方法による電解を行うものと、複極式電解方法による電解を行うものがある。
【0012】
(a)隔膜電解方法による電解を行う電解槽
隔膜電解方法による電解を行う
図1の電解槽では、互いに密着するアノード電極1、隔膜9、およびカソード電極2が、
図1の左右方向に間隔を空けて複数配置され、電解槽内を仕切る。アノード電極1、隔膜9、およびカソード電極2は、電解槽を構成する
図1の左右端の電解槽フレーム4と、それらの間の電解槽フレーム4.1と、の間にパッキン5を介して設けられ、電解槽フレーム4に収容される。隔膜9は、イオン交換膜である。アノード電極1およびカソード電極2には通水孔が形成される。電解槽の
図1の下部においてアノード電極1、隔膜9、およびカソード電極2の各組の両側の位置には、アノード電極1への水溶液の入口6.1およびカソード電極2への水溶液の入口6.2が交互に設けられる。電解槽の
図1の上部においてアノード電極1、隔膜9、およびカソード電極2の各組の両側の位置には、アノ-ド電極1による電解水の出口7.1およびカソード電極1による電解水の7.2が交互に設けられる。1つの電解セルは、基本的に、破線で囲んで示すように、間隔を空けて対向するアノード電極1およびカソード電極2、それらの各背面にある隔膜9、それらの間にある「入口6.1および出口7.1」または「入口6.2および出口7.2」を備える。電解セルを増加させることにより、電解槽の電解容量を増大できる。
【0013】
このような電解槽は、隔膜9を利用することにより電解電圧を低減できる。電解槽の部品の熱劣化を防止するために、隔膜9としてフッ素系カチオン交換膜が使用される場合が多い。非特許文献2では、電解電流の効率が90%以上である。高温で電解を行うことで電解電圧を低減できることが報告されている。このような電解槽は、水素ガスと酸素ガスを分離して生成でき、安全性の面で優れているが、後述するように、電解効率を向上させること(低コストで大量の水素ガスを生成すること)が困難である。
【0014】
(b)複極式電解方法による電解を行う電解槽
図2の電解槽は、全通電量を大幅に増やすことに適している。電解槽内の
図2の左側にはアノード電極1が設けられ、
図2の右側にはカソード電極2が設けられる。アノード電極1およびカソード電極2には通水孔が形成される。電極1,2の間には、間隔を空けて複数の複極式電極30が設けられる。アノード電極1およびカソード電極2は電源に接続され、複極式電極30は電源に接続されない。この点は、後述する複極式電極3を有する各電解槽10A~10Gで同じである。電極1,2,30の間に隔膜8が設けられる。電極1,2,30および隔膜8は、電解槽内を仕切り、パッキン5を介して電解室フレーム4,4.1間に設けられ、電解槽フレーム4に収容される。なお、電解室フレーム4は、
図2の左右端に配置される。電解室フレーム4.1は、複数あり、電解室フレーム4間に配置される。
【0015】
複極式電極3に、液体を通過させる穴は形成されていない。電解槽の
図2の下部において電極1,2,30の両側の位置には、アノ-ド電極1またはアノード電極面への水溶液の入口6.1、およびカソ-ド電極2またはカソード電極面への水溶液の入口6.2が交互に設けられる。電解槽の
図2の上部において電極1,2,30の両側の位置には、アノ-ド電極1またはアノード電極面による電解水の出口7.1、およびカソ-ド電極2またはカソード電極面による電解水の出口7.2が交互に設けられる。電極1,2には、近接して隔膜8が設けられており、該隔膜8と電極1,2の間には、入口6.1,6.2および出口7.1,7.2は設けられない。1つの電解セルは、基本的に、破線で囲んで示すように、対向する複極式電極1,2,30、それらの間にある隔膜8、それらの間にある「入口6.1,6.2および出口7.1,7.2」を備える。
【0016】
電解電圧がアノード電極1とカソード電極2の間に印加されると、電極1,2,30間にて電解が行われる。複極式電極30において、アノード電極1側の面は、水溶液を換言するカソード電極面として機能し、カソード電極2側の面は、水溶液を酸化するアノード電極面として機能する。隔膜8により、カソード電極面で生成される水素ガスとアノード電極面で生成される酸素ガスとの混合を防止できる。隔膜8が無い場合、酸素ガスが水素ガスに混合する。そのため、例えば、水素ガス分離装置によって、水素ガスに対する酸素ガスの濃度が6%以下となるまで水素ガスから酸素ガスを分離する。
【0017】
電解による水素ガスの生成の課題として、非特許文献3にも報告されているように、生産コストが挙げられる。現在の技術レベルでは、1Nm3当たりの水素ガスの生成費用は100円を超えると言われている。しかし、水素ガスの生成をビジネスにするためには、30円/Nm3以下にすることが必要であると言われている。生産コストを低減するためには大量の水素ガスを生成する必要があり、大量の水素ガスを生成するためには、大電流を通電する必要がある。大電流の通電には全電極面積を大きくする必要があり、これには、電極枚数を増やすことが可能な複極式電解槽が適している。
【0018】
電解による水素ガスの生成の更なる課題として、電解効率の向上が挙げられる。電解効率には、電流効率とエネルギー効率とがある。電流効率は、電解電流に対し、水素ガスの生成に使用された電気量の割合である。現在のところ、90%以上の電流効率が実現している(非特許文献2)。従って、電解効率において注目すべきは電流効率ではなく、エネルギー効率である。エネルギー効率の向上のために、電解電流値を維持しながら電解電圧を如何に低減させるかが重要となる。
【0019】
非特許文献2の
図3には、隔膜式2極式電解槽における電流密度-電圧曲線が示される。
図3において、カソード電極(Pt極)の曲線は、ゼロ点から一旦立ち上がり、その後オーム損に従って直線的に上昇している。従って、電解効率を上げるためには、曲線の立ち上がり部分を利用して、還元すると、電流密度を低くして、オーム損を省くことが重要である。
【0020】
非特許文献2の
図4には、電流密度、槽電圧、エネルギー変換効率の関係が示される。
図4の右端のエネルギー変換効率の目盛は、下に行くほど高くなる。
図4から、電流密度を下げると、電解電圧が低下し、エネルギー変換効率が向上することがわかる。従って、
図4からも、電解効率の向上に電流密度の低減が重要であることが分かる。
【0021】
理論分解電圧と実際の電解電圧の差を過電圧という。過電圧を低減できれば、無駄な電解電圧を低減できたことになり、電解電圧の効率の向上に繋がる。そこで、H
2O分子が電極表面でどのように反応するのかを検討する。非特許文献5の
図5には、電極の界面における電気二重層の模式的構造が示される。電気二重層は、水溶液中のイオンおよび分子が、ヘルムホルツ層である電極に選択的に吸着している層と、その沖合にあり、液体内のイオンおよび水分子が電極帯電を打ち消す為にイオンが集まった拡散層と、に大別される。カソード電極の界面では陽イオンの濃度が高く、アノ-ド電極の界面では陰イオンの濃度が高い。電解電圧を低減するためには、電気二重層の電圧を低減することが重要であるところ、本出願人は、拡散層における陽、陰イオンを攪拌し、拡散層をより薄くすることが、電解電圧の低減に有効と考えた。実施形態の各電解槽10A~10Gでは、以上の点が考慮されている。
【0022】
図6は、複極式電極3の平面図を示す図である。複極式電極3の形状は、アノード電極1.1およびカソード電極2.1の形状に適用できる。
複極式電極3には、縁部に沿って連結孔3.2が形成されているとともに、後述する電解槽10A~10G(電解槽フレーム4,4.1)内への露出領域Rの内側に通水孔3.1(第1通水孔)が形成されている。複極式電極3は、例えば、電解槽フレーム4,4.1の縁を貫通する締結具が連結孔3.2に差し込まれ、電解槽フレーム4,4.1が締結されることで、電解槽フレーム4,4.1に組み付けられ、電解槽フレーム4,4.1に収容される。通水孔3.1は、1つでも複数であってもよい。複極式電極3の電解槽10A~10G(電解槽フレーム4,4.1)内への露出領域Rに対する通水孔3.1の開口面積(複数の場合は合計の開口面積)である開口率は、2%~35%の範囲が望ましい。
なお、
図3の複極式電極3では、通水孔3.1を、強調表示するために露出領域Rに対して実際よりも大きく描いているが、実際の開口率は、2%~35%の範囲となる。実施形態の電解槽10A~10Gでは、通水孔3.1を通る水溶液(電解原料水)、アノ-ド電解水、カソード電解水により、複極式電極3の両面から、該両面に付着する生成ガスを剥離できる。また、実施形態では、通水孔3.1をアノ-ド電解水およびカソード電解水が通り、その混合を促進させるので、電気二重層における拡散層を薄くできる。このため、実施形態は、電解電圧を低減できる。
【0023】
図7(A)は複極式電極3を示し、
図7(B)は、
図7(A)の隣の複極式電極3を示す。
隣り合う複極式電極3は、同一の形状で、かつ位置が異なる通水孔3.1を備えていてもよい。隣り合う複極式電極3の通水孔3.1は、複極式電極3に対して垂直な方向から見た平面視において、一部が重なっていてもよい。通水孔3.1は、
図6のように同一形状のものが複数あり、かつ縦横に並び、かつ、隣り合う複極式電極3においてその全てが平面視でズレた位置にあってもよく、さらに、隣り合う複極式電極3において平面視で互いに一部が重なっていてもよい。電解槽10A~10Gでは、平面視でズレた位置に通水孔3.1がある2つの複極式電極3を、アノード電極1.1およびカソード電極2.1の対向方向において交互に備えることが好ましい。
【0024】
このように隣り合う複極式電極3の通水孔3.1がズレた位置にある実施形態では、アノ-ド電解水およびカソード電解水をより撹拌でき、その混合を促進できる。そのため、実施形態では、拡散層を効率的に薄くできる。複極式電極3の通水孔3.1は、隣にある複極式電極3の通水孔3.1に対してズレているのと同様に、隣にあるアノード電極1.1およびカソード電極2.1の通水孔に対してもズレていることが好ましい。
【0025】
以下、複極式電極3を備える電解槽の例を説明する。
図8は、電解槽10Aを示す図である。
電解槽10Aでは、
図8の上側に位置するアノード電極1.1、下側に位置するカソード電極2.1、これらの間に位置する複数の複極式電極3が、
図8の上下の二つ電解槽フレーム4の間に組み込まれ、電解槽フレーム4に収容されている。電解槽10Aおよび以降の電解槽10B~10Gにおいて、特に断りのない場合を除いて、電極1.1,2.1,3は、
図6の複極式電極3と同様、複数の通水孔3.1が形成されたものが使用される。電極1.1,2.1は、アノード電極1.1が電解時に水溶液に溶け出さない材料が用いられ、例えば白金製である。各電極1.1,2.1,3の間にはパッキン5が設置される。複極式電極3とパッキン5のセットの数は、生成目標の水素ガスの量に合わせて決定する。電解槽10Aの
図8の下部には、内部に水溶液を導入する入口6がある。電解槽10Aの
図8の上部には、外部に電解水を排出する出口7がある。
【0026】
この種の複極式の電解槽10Aでは、電極1.1,2.1,3として、コスト低減のために、ステンレス鋼を利用する場合がある。この場合、電解水の電気伝導度を上げ、pHをアルカリ性にする支持電解質として、NaOH、KOH、またはKCO3塩等を含むアルカリ性水溶液を、入口6から電解槽10A内に供給してもよい。Na+,K+およびLi+等のアルカリイオンの支持電解質の電気伝導度を比較すると(非特許文献6)、K+イオンが最も電気伝導度が高いので、K+を使用することが好ましい。このようなアルカリ性水溶液を利用して電解した場合、アノード電極1.1および複極式電極3のアノード電極面では、電子移動反応として以下の式(1)の酸化反応が生じ、酸素ガスが生成される。一方、カソード電極2.1および複極式電極3のカソード電極面では、電子移動反応として以下の式(2)の還元反応が生じ、水素ガスが生成される。これにより、出口7からは、酸素ガスと水素ガスを含む電解水が排出される。
4OH-→O2+2H2O+4e- ・・・(1)
4H2O+4e-→2H2+4OH- ・・・(2)
【0027】
通水孔3.1を備える複極式電極3を利用する場合、アノード電極1.1およびアノード電極面で生成された酸素ガスの一部に、
図9に示すように、複極式電極3の通水孔3.1の部分でカソード電極2.1およびカソード電極面によって以下の式(3)の還元反応が生じ、HO
2
-(ヒドロペルオキシドイオン)が生成される。この反応は進行し易い。HO
2
-は、還元されると、以下の式(4)のように過酸化物、換言すると反応性の高い活性酸素、であるHO(ヒドロキシルラジカル)を生じる。また、HO
2
-が水素イオンと反応して過酸化物であるH
2O
2(過酸化水素)を生じる反応およびその逆反応が平衡状態となる(式(5))。
O
2+H
2O+2e
-→HO
2
-+OH
- ・・・(3)
HO
2
-+H
2O+2e
-→HO+2OH
- ・・・(4)
HO
2
-+H
+⇔H
2O
2 ・・・(5)
そこで、
図10に示すように、実施形態では、通水孔3.1にパイプ3.3が嵌められていてもよい。パイプ3.3は、僅かに複極式電極3の両面に突出する長さでよい。パイプ3.3は、絶縁性の材料で形成されていることが好ましく、例えば絶縁性プラスチックで形成されている。パイプ3.3により、アノード電極1.1およびアノード電極面で生成された酸素ガスが、パイプ3.3(通水孔3.1)を通ってカソード電極2.1およびカソード電極面側に移動して還元されること、すなわちHO
2
-の生成を抑制できる。
【0028】
図11に示すように、複極式電極3のアノード電極面(
図11の上面)において、通水孔3.1の周囲に絶縁層3.9が積層されていてもよい。絶縁層3.9は、塗布された絶縁性塗料等により形成されてもよい。通水孔3.1が円形ではない場合、パイプ3.3の設置が困難である。絶縁層3.9の積層により、絶縁層3.9上で式(1)の酸化反応を抑制でき、ひいては酸素ガスの通水孔3.1内への移動を抑制できる。そのため、このような実施形態では、HO
2
-の生成、ひいては過酸化物の生成を抑制できる。なお、電解槽10Aでは、各部を調整することで、生成される水素ガスと酸素ガスの比率を変えることが可能である。
【0029】
図12は、電解槽10Bを示す図である。
電解槽10Bは、複極式電極3を備え、かつ水素ガスと酸素ガスを別けて採取可能である。電解槽10Bの
図12の左側にはアノード電極1.1が設けられ、
図12の右側にはカソード電極2.1が設けられる。電極1.1,2.1の間には、間隔を空けて複数の複極式電極3が設けられる。電極1.1~3の間には、イオン交換体として隔膜8が設けられる。隔膜8は、イオン交換膜であり、耐熱性が必要な場合、フッ素系カチオン交換膜であってもよい。各隔膜8には、通水孔8.1(第2通水孔)が空いている。この通水孔8.1は、水溶液あるいは電解水が、隔膜8を通過して
図12の右側のカソード電極2.1側から
図12の左側のアノード電極1.1側へ移動することを円滑にする働きを有する。通水孔8.1は、電極1.1~3で生成される酸素ガスおよび水素ガスの混合を防ぐ機能をより発揮させるために、隔膜8の下側に設けられることが好ましい。本実施形態では、電解槽10Bの下側の内壁が、通水孔8.1の下縁となっている。本実施形態および以下の実施形態において、隔膜8は、カチオン交換膜であってもよいしアニオン交換膜であってもよいし、隔膜8の替わりにイオン交換体としてイオン交換樹脂フィルタが設けられていてもよい。隔膜8は、陽(カチオン)イオンまたは陰(アニオン)イオンを透過する膜であるところ、イオン交換樹脂フィルタは、陽イオンを吸着し、吸着している他の陽イオンを放出する、または陰イオンを吸着し、吸着している他の陰イオンを放出する。イオン交換樹脂フィルタにも、隔膜8と同様の通水孔(第2通水孔)が空いている。
【0030】
電極1.1~3および隔膜8は、電解槽内を仕切り、パッキン5を介して電解室フレーム4に挟持され、電解室フレーム4に収容される。電解槽フレーム4の
図12の下部において、カソード電極2.1よりも外側には、電解に使用する水溶液を電解槽10B内に供給する入口6が設けられる。電解槽フレーム4の
図12の上部において、電極1.1~3の両側の位置には、アノ-ド電極1.1およびアノード電極面による電解水の出口7.1と、カソード電極2.1およびカソード電極面による電解水の出口7.2と、が交互に設けられる。電解槽フレーム4の
図12の下部において、アノード電極1.1よりも外側には、出口7.1が設けられる。電極1.1,2.1には、近接して隔膜8が設けられており、隔膜8と電極1.1,2.1の間には、出口7.1,7.2は設けられない。
【0031】
電解電圧がアノード電極1.1とカソード電極2.1の間に印加されると、電極1.1~3間にて電解が行われる。複極式電極3において、アノード電極1.1側の面はカソード電極面として機能し、カソード電極2.1側の面はアノード電極面として機能する。隔膜8により、アノード電極面で生成される酸素ガスとカソード電極面で生成される水素ガスとの混合を抑制できる。
【0032】
電解槽10Bでも、電解槽10Aと同様、通水孔3.1をアノ-ド電解水およびカソード電解水が通ることにより、複極式電極3の拡散層を撹拌してその厚みをより薄くでき、また、複極式電極3に付着する生成ガスを剥離でき、これにより電解電圧を低減できる。通水孔3.1にパイプ3.3を設置してもよいし、通水孔3.1の周囲に絶縁層3.9を設けてもよいことは、本電解槽10Bにおいても、後述する各電解槽10C~10Gにおいても同様である。
【0033】
図13は、電解槽10Cを備える電解システム100Cを示す図である。
電解槽10Cは、アノード電極1.1、
図13の左右方向に対向するカソード電極2.1、電極1.1,2.1の間に間隔を空けて配置される複数枚、ここでは4枚の複極式電極3を備える。電解槽10Cには隔膜は設けられていない。電極1.1,2.1,3は、電解槽10C内を仕切る。電極1.1,2.1,3は、電解槽10Cを構成する
図13の左右端の電解槽フレーム4と、それらの間の電解槽フレーム4.1と、の間にパッキンを介して設けられ、電解槽フレーム4,4.1に収容される。電極1.1~3は、複数の円形の通水孔3.1を有する
図6の形状のものを使用する。露出領域Rは、
図6の横縦方向の寸法が6cm、8cmであり、面積は6×8=48cm
2である。通水孔3.1は直径5mmであり、130個ある。電解槽10Cの
図13の下部において、電極1.1~3の両側の位置には、水溶液、ここでは電解水、の入口6が設けられる。電解槽10Cの
図13の上部において、電極1.1~3の両側の位置には、電解水の出口7が設けられる。各出口7と各入口6とは、配管41で接続され、電解水の循環経路が形成されている。出口7に接続する配管41は、合流し、入口6の手前で分岐し、各入口6に接続する。配管41において、出口7の後段にはタンク15があり、タンク15の後段には循環ポンプ16がある。電極1.1,2.1は、電源50に接続される。
【0034】
図14は、比較例であり、電解槽10C1を備える電解システム100C1を示す図である。
電解システム100C1における電解システム100Cとの相違点は、電解システム100C1では、電解槽10C1内を仕切る隔膜9が各複極式電極3に接触するように設けられている点である。隔膜9は、フッ素系カチオン交換膜であり、電解水が複極式電極3の通水孔3.1を通過することを妨げる。電解システム100C1のその他の構成は、電解システム100Cと同じである。
【0035】
電解システム100C,100C1を以下の条件で駆動した際の電圧の変化等の測定結果を以下の表1に示す。1mol/lのK2CO3をタンク15に注入し、循環ポンプ16を用いて水溶液を0.5l/minで循環させる。電源50を用いて電解電流を3.0Aに固定する。
【0036】
【0037】
表1の上段に示すように、通水孔3.1を隔膜9で閉じた比較例の電解システム100C1では、電解電流3.0Aで電解電圧は約21Vだった。前述の条件で30分駆動し、生成された電解水を5cc採取した。電解水に0.005mol/lの過マンガン酸カリウム(KMnO4)水溶液0.2ccを添加したが、呈色反応は見られなかった。電解電圧のスペクトルに発振現象は観測されなかった。
【0038】
一方、表1の下段に示すように、隔膜9が無く通水孔3.1を機能させた実施形態の電解システム100Cでは、電解電流3.0Aで電解電圧は約14Vと、比較例の21Vから電解電圧を大幅に低減できた。30分駆動後に採取した電解水5ccに上述と同様にして過マンガン酸カリウムに対する呈色反応の有無を調べたところ、呈色反応が確認された。この呈色反応は、水素ガス、酸素ガスの発生反応に加え、前述の
図9に示す様にHO
2
-等の過酸化物イオンが生成された可能性を示す。HO
2
-等の過酸化物イオンは、アルカリ性電解水が複極式電極3の通水孔3.1を通過する際に生成されると考えられる。
【0039】
図15に示す電解システム100Cの電解電圧のスペクトルには、発振現象が観測される。この原因は、アノード電極1.1および複極式電極3のアノード電極面で生成された酸素分子の一部が、通水孔3.1を通ることで還元されて過酸化水素分子が生成されることにあると考えられる(式(3)、式(5)参照)。すなわち、アルカリ性溶液中では、酸素分子と過酸化水素分子の自由エネルギー、電位が近いことによると考えられる。この結果、電位の発振現象が現れる。電圧発振現象が現れると、電解水に接する電極1.1,2.1の自然電位が変化する。電解水中の水素ガスは自然電位をよりマイナス側にシフトさせ、過酸化水素等の過酸化物は自然電位をよりプラス側にシフトさせる。
【0040】
図16は、電解槽10Dを備える電解システム100Dを示す図である。
電解槽10Dは、電解槽10Cと同様の構成であり、
図16の左右の電解槽フレーム4にパッキン5を介して挟持されて収容される電極1.1,2.1,3を備える。アノード電極1.1が
図16の左側に位置し、カソード電極2.1が
図16の右側に位置する。電解槽10Dにおいて、カソード電極2.1の外側、換言すると
図16の右側、の上部および下部に、電解槽10D内への水溶液の入口6がある。電解槽10Dにおいて、アノード電極1.1の外側、換言すると
図16の左側、の上部および下部に、電解槽10Dから外部への電解水の出口7がある。出口7に接続する配管41は合流した後、タンク15、循環ポンプ16を経て分岐し、入口6に接続する。電極1.1,2.1は電源50に接続する。
【0041】
電解槽10Dでも、複極式電極3の通水孔3.1により、拡散層を撹拌してその厚みを薄くできるとともに、生成ガスを複極式電極3から剥離でき、電解電圧を低減できる。
【0042】
図17は、電解槽10Eを備える電解システム100Eを示す図である。
電解システム100Eは、
図16の電解システム100Dと同様の構成を備えるが、複極式電極3が、複極本体3.4および複極支持体3.5を備える点が電解システム100Dと異なる。複極支持体3.5は、電解槽10Dの複極式電極3の替わりに電解槽フレーム4に挟持されて収容されるものであり、例えばフィルターである。複極本体3.4は、通水孔3.1を備え、複極支持体3.5に貼付等により保持される。露出領域Rは、例えば
図17の奥方向の寸法が6cm、
図17の縦方向の寸法が8cmであり、48cm
2となる。複極式電極3の開口率は、露出領域R(例えば48cm
2)に対する複極本体3.4の複数の通水孔3.1の合計の大きさ、または1つの通水孔3.1の大きさとなる。
【0043】
電解システム100Eを前述と同様の駆動条件で駆動して電解電圧の変化等を測定した。この際、複極本体3.4を、通水孔3.1の大きさが異なるものに替えるたびに駆動し、測定した。その結果を以下の表2に示す。使用した複極本体3.4は、全てステンレス鋼(SUS304)製である。複極本体3.4として、直径5mmの通水孔3.1が4つあるもの(複極式電極3の開口率2.6%)、5cm×6cmの大きさで、かつ直径5mmの通水孔3.1が
図6のように縦横に複数並ぶパンチングメタル(複極式電極3の開口率35.4%)、5cm×6cmの大きさで、かつ直径2mmの通水孔3.1が
図6のように縦横に複数並ぶパンチングメタル(複極式電極3の開口率50.9%)、5cm×6cmの大きさで、かつ直径5mmの通水孔3.1が
図6のように縦横に複数並ぶパンチングメタル(複極式電極3の開口率35.4%)、25.4mm(1インチ)の間に矩形の通水孔3.1が70個並ぶ平織金網である70メッシュ(複極式電極3の開口率45%)を使用した。複極本体3.4は、通水孔3.1が隣り合う複極本体3.4の通水孔3.1と平面視でズレるように
図17の上下方向に千鳥状に設置された。
【0044】
【0045】
表2から、複極式電極3の開口率が大きいほど電解電圧が低下する傾向が分かる。複極式電極3として、ステンレス鋼の70メッシュである複極本体3.4を含むものを用いると、電解電圧が約4Vにまで低下した。いずれも過マンガン酸カリウムに対する呈色反応が確認されるとともに、発信現象が生じ、HO2
-等の過酸化物イオン生成による反応が顕著であった。その結果として、複極式電極3の開口率が大きいほど、電極1.1,2.1間の自然電位の変化がより小さくなる。自然電位の変化は、水素分子等の酸化還元種の濃度を測定することに適している。複極本体3.4として用いるパンチングメタルは、一般的に、仕様の規格から、穴(通水孔3.1)の大きさが直系(φ)5mmのもののほか、2mm、3mm、4mmのものが利用可能である。
【0046】
電解水中の過酸化水素等の過酸化物は、電解水中の電極1.1,2.1の自然電位をプラス側にシフトさせる。表2から、開口率が大きくなり複極式電極3の有効面積が小さくなるにつれ、自然電位の範囲が上方へシフトしており、過酸化水素等の過酸化物が増加することを示している。通水孔3.1の大きさが直系2mmで開口率が50.9%の複極式電極3を利用する場合(表2の3段目)の自然電位の範囲は-200V~-400Vであり、開口率が45%の70メッシュの複極式電極3を利用する場合(表2の4段目)の自然電位の範囲は-150V~-300Vである。一方、通水孔3.1の大きさが直系5mmで開口率が35%の複極式電極3を利用する場合(表2の2段目)、直系2mmの通水孔3.1のパンチングメタルの複極式電極3を利用する場合(表2の3段目)に比べ、自然電位の範囲が-300V~-500Vとマイナス側にシフトしており、電解水中の過酸化物を減少できていることがわかる。よって、電解槽10Eの製造コストを考えると、安価なSUS(ステンレス)製の規格品のパンチングメタルを使用することが好ましいところ、電解水中の過酸化物を減少させるためには、複極式電極3の直系の大きなものを使用することが好ましい。そして、SUS(ステンレス)製の規格品のパンチングメタルとしては、直径5mmのものまでが市場で手に入りやすいため、複極式電極3の開口率の上限は35%(通水孔3.1の大きさが直系5mm)が望ましいことがわかる。
【0047】
開口率が約2%の複極式電極3を利用する場合(表2の1段目)、自然電位の範囲は~-600Vで過酸化水素等の過酸化物の生成を十分に抑制できていることが分かる。そして、開口率が約2%の複極式電極3を利用する場合(表2の1段目)、電圧を約14Vまで低減できており(表1の1段目では21V)、複極式電極3の開口率の下限は2%であることが望ましいことがわかる。
【0048】
次に、HO
2
-等の過酸化物イオン等の副反応生成物の影響を確認するために、電解システム100Eを用いて、上述の駆動条件に加え後述の条件を加えて二通りの確認試験を実施した結果を表3に示す。
【表3】
【0049】
表3の上段の試験では、支持電解質としてK2CO3を含む電解水を含むタンク15に、酸素吸収材であるピロガロール(C6H6O3)を80g添加して、電解システム100Eを電解電流3.0Aで電解したところ、電解電圧は9Vとなり、電極1.1,2.1間の自然電位は約-800mVとなった。過マンガン酸カリウムに対する呈色反応は確認できず、また電解電圧の発振現象は生じなかった。これらの事から、表3の上段の試験では、ピロガロールにより、HO2
-等の過酸化物イオンの生成が抑制されていることが分かる。
【0050】
表3の下段の試験では、5mmの長さの外径5mmのポリエチレンチューブであるパイプ3.3が各通水孔3.1に嵌められた複極本体3.4を使用した。電解電圧は、8Vとなり、9Vとなった表3の上段の試験と略同じとなった。電極1.1,2.1間の自然電位は、表3の上段の試験からマイナスにシフトし、約-1000mVと低い値になった。過マンガン酸カリウムに対する呈色反応は確認できず、また、電解電圧の発振現象は非常に抑制されており、微量であった。これらの現象は、パイプ3.3がHO2
-等の過酸化物イオンの生成を抑制していることを示している。
【0051】
上述のように、通水可能な複極式電極3を備える電解槽10A~10Eでは、電解水に水素ガスと酸素ガスが混合される。非特許文献5の
図18に示すように、爆轟は、圧力と体積に大きく依存するため、爆轟を避けるためには、体積比を縮小し、さらに圧力が上がらないようにすることが重要である。そのため、電解槽10A~10E及びそれらを備える電解システム100C~100Eを含む実施形態(以下の電解槽10F,10G、電解システム100F~100Hを含む)は、爆轟を防止する以下の構成を備える。
【0052】
実施形態は、電解により生成した水素ガスおよび酸素ガスの圧力を調整する構成を備える。具体的に、実施形態は、例えば
図19~
図23に例示されるように、生成された電解水から水素ガスおよび/または酸素ガスを抽出し、抽出したガスを貯留するガスタンク15.1,15.2,15、ガスタンク15.1,15.2,15内の圧力が設定値に至っているかを検出するセンサ18.1を備える。そして、実施形態では、センサ18.1が、ガスタンク15.1,15.2,15内の圧力が設定値に至っていることを検出すると、コントローラ18.2が電源50の出力を停止し、ガスタンク15.1,15.2,15内の圧力が低下したら、電源50に再度出力させる。水素ガスのガスタンク15.2および酸素ガスのガスタンク15.1の内容積は一定容積内であってもよい。水素ガスのガスタンク15.2と酸素ガスのガスタンク15.1の圧力を制御するため、各ガスタンク15.1,15.2には、ガスを適宜排出するシステムが組み込まれる。実施形態では、電解槽10A~10Gにて生成される水素ガス中の酸素ガス濃度比を低減するため、電解槽10A~10Gの内部構造に関し、電解液は通水可能であるが、アノ-ド電極1.1で生成された酸素ガスと、カソード電極2.1で生成された水素ガスの大部分は、アノ-ド電極1.1およびカソード電極2.1から分離して電解槽10A~10Gの外部に放出させる機構が組み込まれる。
【0053】
図19は、電解槽10Fを備える電解システム100Fを示す図である。
電解システム100Fは、水素ガスと酸素ガスを概ね別けて採取できる。電解槽10Fは、
図12の電解槽10Bと同様の構成を備え、電解セル(電解膜8、複極式電極3、出口7.1,7.2)が電解槽10Bよりも1つ多い点と、電極1.1,2.1の左右が逆となる点が電解槽10Bと異なる。隔膜8として、イオンの移動が可能であるイオン交換膜を設置するが、耐熱性が必要な場合、フッ素系カチオン交換膜が適している。隔膜8は、水溶液または電解水の入口6側から19の左端の出口7.2側への移動を許容しつつ、生成された水素ガス気泡および酸素ガス気泡の通過を抑制する。そのため、隔膜8の下部には、水溶液または電解水の通過を可能にする通水孔8.1が設けられている。通水孔8.1として、直系φ約1cmの
図6の丸形のものが複数あってもよいし、
図7(A)、(B)のような単独の開口があってもよい。イオン交換体として、隔膜8よりも、イオンの移動(吸着及び放出)は可能であるが生成された水素ガス気泡および酸素ガス気泡の通過を抑制できるフッ素系のイオン交換樹脂フィルタが望ましい。電解槽10Fの上部において、
図19の右側から出口7.1,7.2が交互に並ぶ。
【0054】
電解槽10Fの入口6から水溶液(または原水)が電解槽10F内に供給され、アノード電極1.1とカソード電極2.1の間に電解電圧が印加され、電解が開始する。この電解電圧により、電極1.1~3間で電解反応が生じ、アノード電極1.1、および複極式電極3のカソード電極2.1側の面であるアノード電極面で、酸素ガスを含む電解水であるアノード電解水が生成される。同様に、カソード電極2.1、および複極式電極3のアノード電極1.1側の面であるカソード電極面で、水素ガスを含む電解水であるカソード電解水が生成される。発生した水素ガスおよび酸素ガスを分離する為に、電極1.1~3間に隔膜8が設けられている。アノード電極1.1と複極式電極3との間の隔膜8は、アノード電極1.1のすぐ側に設けられている。カソード電極2.1と複極式電極3との間の隔膜8は、カソード電極2.1のすぐ側に設けられている。電解水は、
図19の入口から
図19の左端の出口7.2側に向かって電極1.1~3の通水孔3.1および隔膜8の通水孔8.1を通過しながら移動する。電解水は
図19の右側から左側に移動しつつ、その一部が、酸素ガスを含むアノード電解水として出口7.1から排出されるとともに、水素ガスを含むカソード電解水として出口7.2から排出される。
【0055】
アノ-ド電解水は、電解槽10Fの出口7.1から配管411を介してアノ-ド電解水タンク15.3に送られる。アノ-ド電解水タンク15.3内のアノ-ド電解水から酸素ガスが分離機構16.2により分離され、酸素ガスタンク15.1に溜められる。カソード電解水は、電解槽10Fの出口7.2から配管412を介してカソード電解水タンク15.4に送られる。カソ-ド電解水タンク15.4内のカソ-ド電解水から分離機構16.3により水素ガスが分離され、水素ガスタンク15.2に溜められる。アノ-ド電解水タンク15.3内の電解水は、配管413を介してタンク15に送られ、カソード電解水タンク15.4内の電解水は、配管414を介してタンク15に送られる。また、電解槽10Fの
図19の左端下部の出口7.2から、カソード電解水が配管415を介してタンク15に送られる。タンク15内の電解水は、配管416、循環ポンプ16、および電解槽10Fの入口6を介して電解槽10F内へ再度送られる。
【0056】
【表4】
表4に電解システム100Fの試験結果をまとめる。表4から分かるように、隔膜8の種類が電解電圧に与える影響は、非常に大きい。表4の上段のフッ素系カチオン交換膜を隔膜8に用いた場合は電解電圧が30Vであるところ、表4の下段のフッ素樹脂フィルタを隔膜8の替わりに用いた場合、電解電圧は18Vまで低減できた。酸素ガスおよび水素ガスを分離した電解水を用いることにより、電極1.1,2.1の自然電位の変化は小さかった。水素ガスタンク15.2に溜められたガスのうち、約90%が水素ガスであり、隔膜8による水素ガスと酸素ガスの分離効果が確認できた。従って、電解システム100Fでは、イオン交換体としてフッ素樹脂フィルタを用いることで、電解電圧を低減できることが確認できた。また、電解システム100Fでは、水素ガスタンク15.2内の水素ガスを、水素分離膜等を備える水素ガス分離装置に通すことで、酸素濃度を6%以下に抑えた低酸素ガス濃度の水素ガスを容易に生成できる。
【0057】
図20は、円形の複極式電極3を示す図である。
図20に示ように、直径17cmの円形の複極式電極3に、直径1.3cmの通水孔3.6(第1通水孔)を5個開けた。複極式電極3に対する通水孔3.6の開口率は約2%となった。複極式電極3において、通水孔3.6は、中心軸に形成されるとともに、中心軸から径方向に等しい位置、かつ中心軸に対して90°ずつズレた位置に計4つ形成される。複極式電極3において、通水孔3.6よりも径方向外側には、中心軸に対して90°ずつずれた位置に、計4つ固定孔3.5が形成される。固定孔3.5には、複極式電極3を固定する支持体3.4(
図21)が通される。通水孔3.6は、固定孔3.5に対し、
図20の反時計回りに45°未満の角度ズレた位置にある。
【0058】
図21は、
図20の複極式電極3に隣接する円形の複極式電極3を示す図である。
図21の複極式電極3と
図20の複極式電極3は、軸方向に交互に配置される。この際、通水孔3.6が平面視(軸方向視)で周方向に互い違いに配置され、通水孔3.6を通過する電解水の混合をより促進し、電解電圧を低減する。例えば、
図21の複極式電極3は、
図20の複極式電極3を裏返したものである。具体的に、
図21の複極式電極3では、
図20の複極式電極3と同様に、固定孔3.5が中心軸に対して90°ずつずれた位置に計4つ形成される。
図21の複極式電極3において、通水孔3.6は、中心軸と、中心軸に対して90°ずつずれた位置、かつ固定孔3.5に対し、
図21の時計回りに45°未満の角度ズレた位置に計4つある。
【0059】
図22は、
図20,
図21の複極式電極3が交互に計111枚組み込まれた電解槽10Gを備える電解システム100Gを示す図である。
電解槽10Gは、アノード電極1.1、アノード電極1.1と対向するカソード電極2.1、電極1.1,2.1間に配置される111枚の複極式電極3を備える。電極1.1,2.1は、複極式電極3と同様の通水孔3.6および固定孔3.5を備え、複極式電極3と同様の形状である。電解槽10G内は、電極1.1,2.1の対向方向に延びる円柱状の空間である。電極1.1,2.1は、電解槽フレーム4にパッキンを介して挟持される。電極1.1~3の各固定孔3.5に支持体3.4が通されることで、複極式電極3は固定される。電極1.1~3は、電解槽フレーム4に収容され、電解槽10G内を仕切る。電解槽フレーム4において、
図22の右側のカソード電極2.1よりも外側の上部および下部に入口6が形成され、
図22の左側のアノード電極1.1よりも外側の上部および下部に出口7が形成される。電極1.1,2.1は、直流の電源50に印加される。両出口7に接続する配管41は、合流してタンク15、循環ポンプ16を経て分岐し、入口6に接続される。入口6から電解槽10G内に供給された電解水は、電極1.1~3間で電解された後、出口7から排出され、タンク15に送られ、循環ポンプ16によりタンク15から入口6を経て電解槽10G内に再度送られる。
【0060】
タンク15には、タンク15の液面高さを検出する液面センサー17.1と、タンク19内の電解水を冷却する冷却コイル19と、タンク15内のガスの圧力が設定値に到達すると作動する圧力スイッチ18.1(圧力センサ)および圧力調整器18.2(コントローラ)と、が装着される。タンク15には、電解原料水が、電解原料水タンク15.1から供給ポンプ16.1の駆動により供給される。電解原料水の流量は、電磁弁20.1で調整される。電解水タンク15に溜まったガスは、外部へ配管42を介して排出でき、その流量は、配管42に設けられた流量調整弁18.3と電磁弁20.2にて調整される。
【0061】
電解システム100Gは、生成された水素ガスの爆轟反応を抑制するため、タンク15内のガスの圧力を、大気圧1013hPa(1atm)と同様、例えば大気圧から10%高い設定値以下、に制御する。タンク15のガスの圧力が設置値に至ると圧力スイッチ18.1が作動し、圧力調整器18.2によりシグナルが電源50に送られる。すると、電源50のリレー回路14が作動し、電解槽10Gへの電解電圧の印加が遮断される。電源50をOFF後、一定期間経過後、またはタンク15内の圧力が設定値以下であることを圧力スイッチ18.1(圧力センサ)が検出することにより電源50をONするコントローラが設けられていてもよい。コントローラは、プロセッサがメモリ内のプログラムを読み込むことで作動してもよいし、ASIC等の専用の回路を備えていてもよい。電解電圧を定期的に遮断することは、エネルギー効率向上の面からも有意義である。すなわち、アノ-ド電極1.1とカソード電極2.1による電解電圧の印加を停止し、複極式電極3の通水孔3.1による電解水の攪拌機能を電解槽10G内の電解水に作用させることで、複極式電極3に積層する電気二重層のうちの拡散層を効果的に薄くできる。
【0062】
【表5】
上記の表5に電解システム100Gを利用した時の結果をまとめる。複極式電極3の通水孔3.6の大きさを直径13mmとした。隣接する複極式電極3の通水孔3.6が交互にズレて位置するように、通水孔3.6の位置が異なる2パターンの複極式電極3を交互に計111枚、電解槽10Gに設置した。この電解槽10Gを組み込んだ電解システム100Gに、水道水に約0.5m/lの水酸化カリウムを添加した電解水を注入した。電解槽10Gに電解電圧200Vを印加すると、電解電流は約187Aとなった。この電解条件で1時間、電解システム100Gを稼働して水素ガスを発生させた。水素ガスの発生量は、15.6Nm3(698mol)となり、要した電気量は37.4kWとなった。水素ガスの発生量1Nm
3あたりに要した電気量は2.4KWとなり、電気料金に換算すると、目標値30円/Nm
3に近づいた値となった。
【0063】
電解システム100Gでは、タンク15内の圧力を略大気圧と同様に制御する。そのため、タンク15から配管42を介して排出される水素ガスおよび酸素ガスを分離してガスの状態で各々貯蔵タンクに溜める場合、または上記混合ガスをそのままガスの状態で貯蔵タンクに溜める場合、のいずれにおいても、高圧ガスとして法令で規定される1MPaよりも小さい圧力で溜めることが容易である。従って、電解システム100Gでは、生成ガスの貯蔵に際してその取り扱いが容易である。
【0064】
図23は、
図22の電解槽100Gにて生成した水素ガスを冷却し、輸送と応用に便利な液体水素に変化させる電解システム100Hを示す。
電解システム100Hでは、電解槽10Gにて水素ガスと酸素ガスの混合した酸水素ガスが生成される。電解システム100Hは、分離装置51を備える。分離装置51は、酸水素ガスを液体窒素を用いて冷却することで、酸素ガスを液化させて水素ガスから分離させる。分離装置51は、例えば、酸水素ガス冷却用タンク22、液体窒素タンク21、冷却用コイル20.1、液体酸素タンク23を備える。
【0065】
酸水素ガスは、電解槽10Gから配管42を介して酸水素ガス冷却用タンク22に送られる。酸水素ガス冷却用タンク22内には、液体窒素タンク21から延びる冷却用コイル20.1が設けられている。冷却用コイル20.1は、液体窒素タンク21により、液体窒素と同じ温度である液体窒素温度まで冷却されている。冷却用コイル20.1は、酸水素ガス冷却用タンク22内の酸水素ガス中の酸素ガスを冷却して液体酸素に変化させる。液体酸素は、酸水素ガス冷却用タンク22から液体酸素タンク23に送られて溜められる。なお、酸水素ガス中に窒素ガスが含まれている場合、窒素ガスも液化され、液体酸素タンク23に送られる。酸水素ガス冷却用タンク22内の酸水素ガスは、上述のように液体窒素温度まで冷却されることで酸素ガスが抽出され、水素ガスとなる。
【0066】
液体窒素温度の水素ガスは、酸水素ガス冷却用タンク22から配管43を介して水素ガスタンク24に送られる。水素ガスタンク24内の水素ガスは、配管44を介して冷却用水素ガスタンク30に送られ、水素ガス液化装置52により液化される。水素ガス液化装置52は、冷媒として水素ガスを用いる冷凍サイクルにより、電解槽10Gにて生成された水素ガスを冷却し、液化させる。本実施形態では、水素ガス液化装置52は、電解槽10Gにて生成された酸水素ガスから分離された水素ガスを液化するが、酸水素ガスを直接液化してもよい。また、例えば
図19の電解槽10Fのように、複極式電極3のカソード電解面、およびカソード電極2.1から主に水素ガスが採取される場合、電解槽10Fから直接採取される該水素ガスを水素ガス液化装置52が冷却してもよい。
【0067】
水素ガス液化装置52の冷凍サイクルでは、水素ガスタンク26と拡張タービン29との間で冷媒としての水素ガスが循環する。水素ガスタンク26から不図示の圧縮機によって圧縮された水素ガスが拡張タービン29に送られる。なお、圧縮機は、水素ガスタンク26の前段で、拡張タービン29の後段にあってもよい。拡張タービン29にて膨張することで冷却される冷凍サイクル内の水素ガスは、電解槽10Gにて生成されて配管44内を流通する水素ガスと熱交換し、該生成された水素ガスを冷却する。冷凍サイクルにおいて、該熱交換に係る、拡張タービン29から水素ガスタンク26へ向かう経路、熱交換を媒体する構成要素等は、冷却用水素ガスタンク30に収容されている。配管44を介して冷却用水素ガスタンク30に送られ、水素ガス液化装置52により液化した水素ガスは、液体水素タンク31に送られて溜められる。
【0068】
本発明は、その特徴から逸脱することなく、実施形態で実施できる。実施形態、変形例、効果は単なる例示であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。実施形態および変形例の特徴、構造は、追加でき、また代替の構成を得るために様々な方法で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0069】
1.1…アノード電極、2.1…カソード電極、3…複極式電極、3.1,3.6…通水孔、4,4.1…電解槽フレーム、10A~10G…電解槽、R…露出領域。