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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130746
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】溶接構造物および疲労監視システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K31/00 G
B23K31/00 N
G01N3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040639
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】馬 東輝
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潤
(72)【発明者】
【氏名】本浪 雅史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 拓実
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB04
2G061BA15
2G061CB19
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】溶接継手の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物を提供する。
【解決手段】溶接構造物は、長手方向に延びる一の溶接継手3を備える。当該一の溶接継手3の溶接部33は、第1ピーニング部35と、第2ピーニング部36とを備える。第1ピーニング部35は、長手方向に沿って延びる。第1ピーニング部35は、第1のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。第2ピーニング部36は、長手方向において第1ピーニング部35に連続するとともに、長手方向に沿って延びる。第2ピーニング部36は、第1のピーニング条件よりも疲労強度の増大率が低い第2のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。これにより、溶接継手の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物を提供することができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の母材が溶接により接合された溶接構造物であって、
長手方向に延びる一の溶接継手を備え、
前記一の溶接継手の溶接部は、
前記長手方向に沿って延びるとともに第1のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第1ピーニング部と、
前記長手方向において前記第1ピーニング部に連続するとともに前記長手方向に沿って延び、前記第1のピーニング条件よりも疲労強度の増大率が低い第2のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第2ピーニング部と、
を備える溶接構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接構造物であって、
前記第1ピーニング部および前記第2ピーニング部にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃である溶接構造物。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接構造物であって、
前記第1のピーニング条件は、前記第1ピーニング部に打撃を与える第1のピンの先端径を含み、
前記第2のピーニング条件は、前記第2ピーニング部に打撃を与える第2のピンの先端径を含み、
前記第2のピンの先端径は前記第1のピンの先端径よりも小さい溶接構造物。
【請求項4】
請求項3に記載の溶接構造物であって、
前記第2のピンの先端径は前記第1のピンの先端径の0.5倍以下である溶接構造物。
【請求項5】
請求項3に記載の溶接構造物であって、
前記第2ピーニング部の前記長手方向における長さは、前記第2のピンの先端径の5倍以上である溶接構造物。
【請求項6】
請求項1に記載の溶接構造物であって、
前記第1のピーニング条件は、前記第1ピーニング部の一方の端部から他方の端部まで前記長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第1のパス数を含み、
前記第2のピーニング条件は、前記第2ピーニング部の一方の端部から他方の端部まで前記長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第2のパス数を含み、
前記第2のパス数は前記第1のパス数よりも少ない溶接構造物。
【請求項7】
溶接構造物の疲労を監視する疲労監視システムであって、
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の溶接構造物と、
前記第2ピーニング部を監視することにより、前記溶接構造物の前記一の溶接継手の疲労を監視する監視部と、
を備える疲労監視システム。
【請求項8】
複数の母材が溶接により接合された溶接構造物であって、
長手方向に延びる一の溶接継手を備え、
前記一の溶接継手の溶接部は、
前記長手方向に沿って延びるとともにピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第3ピーニング部と、
前記長手方向に垂直な幅方向において前記第3ピーニング部に隣接した状態で前記長手方向に延びるとともに前記長手方向の端部が前記第3ピーニング部の前記長手方向の途中に接続され、ピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第4ピーニング部と、
を備え、
前記第4ピーニング部の前記端部の幅は、先端に近づくに従って減少する溶接構造物。
【請求項9】
請求項8に記載の溶接構造物であって、
前記第3ピーニング部および前記第4ピーニング部にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃である溶接構造物。
【請求項10】
溶接構造物の疲労を監視する疲労監視システムであって、
請求項8または9に記載の溶接構造物と、
前記第4ピーニング部の前記端部を監視することにより、前記溶接構造物の前記一の溶接継手の疲労を監視する監視部と、
を備える疲労監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の母材が溶接により接合された溶接構造物、および、溶接構造物の疲労を監視する疲労監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁や海洋構造物、船舶等の大型構造物では、構造物を構成する構造部材の疲労損傷を監視することが行われている。例えば、特許文献1では、橋梁等を支える構造部材であるI型鋼のフランジ部に切り欠きを形成し、周囲に先行して当該切り欠きから発生する亀裂を監視することにより、当該I型鋼の疲労損傷を早期発見する技術が提案されている。
【0003】
また、特許文献2では、船舶等を構成する構造部材である一のロンジの端部に、亀裂を模擬した切り欠き(すなわち、応力集中部)を形成し、他のロンジに先行して当該切り欠きから発生する亀裂を定期的に観察することにより、ロンジの疲労損傷度をモニタリングする技術が提案されている。当該疲労モニタリングでは、ロンジの一部に切れ目を形成し、当該切れ目を突き合わせ溶接した部位が、応力集中部として利用されてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-184792号公報
【特許文献2】特開2013-2960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接構造物の溶接継手における疲労損傷の監視では、溶接継手の強度確保の観点から、上述のような切り欠きを溶接継手に設けることは難しい。このため、溶接線上のどの位置にて疲労損傷が先行して発生するかを特定できず、溶接線の一部のみを監視する定点監視では、溶接線の監視位置以外の部位にて先に疲労損傷が発生した場合、当該疲労損傷が見落とされるおそれがある。一方、T継手や十字継手等のように溶接線が比較的長い溶接継手の場合、溶接線全体を監視することは容易ではない。特に、溶接継手がアクセス困難な位置に存在する場合、溶接線全体を監視することは、より困難となる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、溶接継手の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、複数の母材が溶接により接合された溶接構造物であって、長手方向に延びる一の溶接継手を備える。前記一の溶接継手の溶接部は、前記長手方向に沿って延びるとともに第1のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第1ピーニング部と、前記長手方向において前記第1ピーニング部に連続するとともに前記長手方向に沿って延び、前記第1のピーニング条件よりも疲労強度の増大率が低い第2のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第2ピーニング部と、を備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の溶接構造物であって、前記第1ピーニング部および前記第2ピーニング部にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃である。
【0009】
本発明の態様3は、態様2の溶接構造物であって、前記第1のピーニング条件は、前記第1ピーニング部に打撃を与える第1のピンの先端径を含む。前記第2のピーニング条件は、前記第2ピーニング部に打撃を与える第2のピンの先端径を含む。前記第2のピンの先端径は前記第1のピンの先端径よりも小さい。
【0010】
本発明の態様4は、態様3の溶接構造物であって、前記第2のピンの先端径は前記第1のピンの先端径の0.5倍以下である。
【0011】
本発明の態様5は、態様3(態様3または4、であってもよい。)の溶接構造物であって、前記第2ピーニング部の前記長手方向における長さは、前記第2のピンの先端径の5倍以上である。
【0012】
本発明の態様6は、態様1(態様1ないし5のいずれか1つ、であってもよい。)の溶接構造物であって、前記第1のピーニング条件は、前記第1ピーニング部の一方の端部から他方の端部まで前記長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第1のパス数を含む。前記第2のピーニング条件は、前記第2ピーニング部の一方の端部から他方の端部まで前記長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第2のパス数を含む。前記第2のパス数は前記第1のパス数よりも少ない。
【0013】
本発明の態様7は、溶接構造物の疲労を監視する疲労監視システムであって、態様1ないし6のいずれか1つの溶接構造物と、前記第2ピーニング部を監視することにより、前記溶接構造物の前記一の溶接継手の疲労を監視する監視部と、を備える。
【0014】
本発明の態様8は、複数の母材が溶接により接合された溶接構造物であって、長手方向に延びる一の溶接継手を備える。前記一の溶接継手の溶接部は、前記長手方向に沿って延びるとともにピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第3ピーニング部と、前記長手方向に垂直な幅方向において前記第3ピーニング部に隣接した状態で前記長手方向に延びるとともに前記長手方向の端部が前記第3ピーニング部の前記長手方向の途中に接続され、ピーニングが施されることにより疲労強度が増大された第4ピーニング部と、を備える。前記第4ピーニング部の前記端部の幅は、先端に近づくに従って減少する。
【0015】
本発明の態様9は、態様8の溶接構造物であって、前記第3ピーニング部および前記第4ピーニング部にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃である。
【0016】
本発明の態様10は、溶接構造物の疲労を監視する疲労監視システムであって、態様8または9の溶接構造物と、前記第4ピーニング部の前記端部を監視することにより、前記溶接構造物の前記一の溶接継手の疲労を監視する監視部と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、溶接継手の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施の形態に係る溶接構造物の一部を示す斜視図である。
図2】溶接継手の一部を拡大して示す縦断面図である。
図3】溶接継手の一部を拡大して示す縦断面図である。
図4】溶接継手の一部を拡大して示す縦断面図である。
図5】溶接継手の一部を拡大して示す斜視図である。
図6】疲労監視システムの構成を示す図である。
図7】溶接継手の一部を拡大して示す斜視図である。
図8】第2の実施の形態に係る溶接構造物の溶接継手の一部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る溶接構造物1の一部を示す斜視図である。溶接構造物1は、複数の母材が溶接により接合された構造物である。溶接構造物1は、例えば、セミサブ型洋上風力発電装置の浮体や、トランスファープレス等の比較的大型の構造物である。図1では、溶接構造物1において、略平板状の母材11の上面に、略平板状の母材12の下端面が溶接により接合された一の溶接継手3の一部を示す。溶接継手3は、母材11と母材12とが略直交するように溶接されたT継手である。
【0020】
図1に示す例では、母材11の上面と母材12の右側面との接続部に、略直線状に延びる溶接線31が形成されている。以下の説明では、溶接線31が延びる方向を「長手方向」とも呼ぶ。当該長手方向は、溶接継手3が延びる方向でもある。溶接継手3では、母材11の上面と母材12の左側面との接続部にも、長手方向に略直線状に延びる溶接線31’が形成されている。溶接線31および溶接線31’は、溶接ビードとも呼ばれる。
【0021】
図2は、図1に示す溶接継手3の一部を拡大して示す縦断面図である。図2では、溶接継手3のうち溶接線31近傍の部位における長手方向に垂直な断面を示す。溶接継手3では、溶接金属(すなわち、溶接時の熱により溶融した後に凝固した金属)により形成された溶接線31によって、母材11と母材12とが接合されている。母材11および母材12のうち、溶接線31の周囲において破線にて囲まれた部位32は、溶接時の熱によって溶融してはいないが、当該熱によって組織、冶金的性質、機械的性質等に変化が生じた部位であり、以下、「熱影響部32」とも呼ぶ。また、以下の説明では、溶接線31(すなわち、溶接金属)および熱影響部32をまとめて「溶接部33」とも呼ぶ。
【0022】
図2に示す例では、溶接線31の表面に凹部311が設けられている。なお、図1では、凹部311の図示を省略している。凹部311は、溶接部33に対するピーニングにより形成されたものである。ピーニングとは、溶接部33を連続的に打撃して溶接部33の表面層に塑性変形を与える処理である。溶接部33に対してピーニングが施されることにより、溶接部33の疲労強度が増大される。
【0023】
溶接部33に対するピーニングは、例えば、先端部が略球状の丸みを有する金属製または非金属製のピン(ハンマーまたはニードルとも呼ばれる。)によって溶接部33の表面を連続的に叩くことにより行われる。これにより、溶接線31の表面が凹み、上述の凹部311が形成される。溶接部33に対するピンの打撃は、例えば、溶接線31の母材11側の止端部(すなわち、溶接線31のうち、母材11の表面と溶接線31の表面との境界近傍の部位)に対して行われる。
【0024】
溶接部33に対するピーニングは、溶接線31のうち、上述の止端部以外の部位に対して行われてもよい。また、溶接部33に対するピーニングは、図3に例示するように、溶接線31と母材11の熱影響部32との境界部に対して行われ、凹部311が溶接線31と熱影響部32との双方に亘って形成されてもよい。あるいは、溶接部33に対するピーニングは、図4に例示するように、溶接線31ではなく、母材11の熱影響部32に対して行われてもよい。図4に示す例では、ピーニングにより形成される凹部311は、熱影響部32と母材11の熱影響部32以外の部位との双方に亘って設けられているが、熱影響部32のみに設けられてもよい。なお、溶接部33に対するピーニングは、溶接線31の母材12側の止端部に対して行われてもよく、溶接部33と母材12の熱影響部32との境界部に対して行われてもよく、母材12の熱影響部32のみに対して行われてもよい。
【0025】
図5は、溶接継手3の一部を拡大して示す斜視図である。図5では、上述のピーニングが施された部位およびその近傍に平行斜線を付す。溶接継手3の溶接部33は、第1ピーニング部35と、第2ピーニング部36とを備える。第1ピーニング部35および第2ピーニング部36はそれぞれ、溶接線31上において上述の長手方向に沿って略直線状に延びる部位である。第2ピーニング部36は、長手方向において第1ピーニング部35に連続する。換言すれば、第2ピーニング部36は、第1ピーニング部35の長手方向の一方側の端部から当該一方側へと長手方向に沿って延びる。図5に示す例では、長手方向において離間する2つの第1ピーニング部35の間に1つの第2ピーニング部36が配置され、第2ピーニング部36は、長手方向の両端において2つの第1ピーニング部35と長手方向に連続する。第2ピーニング部36の長手方向の端部は、第1ピーニング部35の長手方向の端部と、長手方向において接続される。上記2つの第1ピーニング部35と第2ピーニング部36とをまとめて「ピーニング部37」と呼ぶと、当該ピーニング部37は、例えば、溶接部33の長手方向における略全長に亘って設けられる。
【0026】
第1ピーニング部35および第2ピーニング部36はそれぞれ、ピンによる連続的な打撃によるピーニング(ハンマーピーニングとも呼ばれる。)によって形成される。これにより、溶接部33では、長手方向において第1ピーニング部35が設けられた領域、および、長手方向において第2ピーニング部36が設けられた領域の疲労強度が、ピーニングが施されるよりも前の状態に比べて増大される。上述のピンによる連続的な打撃は、例えば、溶接部33に対してピンを連続的に進退させる装置により行われてもよく、作業員の手作業により行われてもよい。なお、ピーニングが施されるよりも前の状態では、第1ピーニング部35となる予定の部位の疲労強度と、第2ピーニング部36となる予定の部位の疲労強度とは、略同じである。
【0027】
第1ピーニング部35と第2ピーニング部36とでは、施されるピーニングの条件が異なるため、疲労強度の増大率に差異が生じる。以下の説明では、第1ピーニング部35に施されるピーニングの条件を「第1ピーニング条件」とも呼び、第2ピーニング部36に施されるピーニングの条件を「第2ピーニング条件」とも呼ぶ。第2ピーニング条件は、第1ピーニング条件よりも疲労強度の増大率(すなわち、ピーニングが施されるよりも前の状態に比べた疲労強度の増大の割合)が低い。したがって、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度は、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度よりも低い。例えば、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度は、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度の1.05倍以上であることが好ましく、1.1倍以上であることがより好ましい。ただし、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度は、溶接構造物1に係る規則等を満たす所定の疲労強度以上である。なお、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36では、上述のピーニング条件の違いにより、疲労強度以外の性質に差異が生じてもよい。
【0028】
第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異は、例えば、第1ピーニング部35に連続的な打撃を与える第1のピンの先端径と、第2ピーニング部36に連続的な打撃を与える第2のピンの先端径とを異ならせることにより実現される。具体的には、第2のピンの先端径が、第1のピンの先端径よりも小さくされる。これにより、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度は、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度よりも低くなる。第1のピンおよび第2のピンについて、ピンの先端径とは、当該ピンの略球状の先端部における曲率半径を意味する。
【0029】
第2のピンの先端径は、第1のピンの先端径の0.5倍以下であることが好ましい。これにより、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度の差を明確にすることができる。例えば、第2ピーニング部36の疲労寿命は、第1ピーニング部35の疲労寿命の半分以下に設定される。また、第2のピンの先端径の下限は特に限定されないが、例えば、第1のピンの先端径の0.1倍以上である。
【0030】
第2ピーニング部36の長手方向における長さは、第2のピンの先端径の5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがさらに好ましい。このように、第2ピーニング部36の長さをある程度長くすることにより、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度の差を明確にすることができる。また、第2ピーニング部36の長手方向における長さの上限は特に限定されないが、例えば、第2のピンの先端径の50倍以下であり、好ましくは、第2のピンの先端径の20倍以下である。これにより、溶接継手3において、第1ピーニング部35と比較して疲労強度が低い第2ピーニング部36の占める割合を低減し、溶接継手3の全体的な疲労強度の低下を抑制することができる。
【0031】
第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異は、必ずしも、上述のピンの先端径の差異である必要はなく、様々に変更されてよい。例えば、第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異は、第1ピーニング部35に対して行われる単位ピーニングの繰り返し回数である第1のパス数と、第2ピーニング部36に対して行われる単位ピーニングの繰り返し回数である第2のパス数とを異ならせることにより実現されてもよい。この場合、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36に対するピーニングには、例えば、同じピンが使用される。
【0032】
単位ピーニングとは、第1ピーニング部35または第2ピーニング部36において行われる1回のピーニングである。第1ピーニング部35に対する単位ピーニングでは、ピンによる第1ピーニング部35に対する打撃が、第1ピーニング部35の長手方向の一方の端部から他方の端部まで、打撃位置(すなわち、施工位置)を当該長手方向に沿って移動しつつ連続的に行われる。第2ピーニング部36に対する単位ピーニングでは、ピンによる第2ピーニング部36に対する打撃が、第2ピーニング部36の長手方向の一方の端部から他方の端部まで、打撃位置(すなわち、施工位置)を当該長手方向に沿って移動しつつ連続的に行われる。
【0033】
上述の第2のパス数は、第1のパス数よりも少なくされる。これにより、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度は、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度よりも低くなる。なお、第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異は、当該パス数の差異と、上述のピンの先端径の差異との双方を含んでいてもよい。また、第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異は、上記2つの差異とは異なる他の差異を、上記2つの差異に代えて、あるいは、上記2つの差異に加えて含んでいてもよい。当該他の差異は、例えば、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36に対する単位時間当たりの打撃回数であってもよく、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36に対する打撃強さの差異であってもよい。
【0034】
溶接構造物1において溶接継手3の疲労を監視する場合、図6に示すように、監視部5が設けられ、監視部5によって第2ピーニング部36の監視が行われる。監視部5は、例えば、第2ピーニング部36を撮像するカメラである。図6では、第2ピーニング部36に平行斜線を付す。監視部5は、例えば、溶接構造物1に取り付けられ、あるいは、溶接構造物1の近傍に配置される。監視部5によって撮像された画像は、監視室等に設けられたディスプレイ等の表示装置に表示される。そして、当該画像をオペレータが目視すること等により、第2ピーニング部36における疲労損傷(例えば、亀裂)の有無が確認される。あるいは、当該画像に対してAI(人工知能)による画像診断が行われ、第2ピーニング部36における疲労損傷の有無が確認されてもよい。
【0035】
上述のように、第2ピーニング部36の疲労強度は第1ピーニング部35の疲労強度よりも低いため、第1ピーニング部35よりも先に第2ピーニング部36において疲労損傷が生じる可能性が高い。したがって、監視部5によって第2ピーニング部36を監視することにより、溶接継手3のうち監視位置とは異なる位置にて、当該監視位置よりも先に疲労損傷が生じる可能性を低減することができる。その結果、溶接継手3における疲労損傷の発生が見落とされることを抑制することができる。
【0036】
図6に示す例では、溶接構造物1および監視部5により、溶接構造物1の溶接継手3の疲労を監視する疲労監視システム50が構成される。疲労監視システム50では、監視部5の撮像範囲に、第2ピーニング部36の全体が含まれていることが好ましい。また、当該撮像範囲には、第1ピーニング部35(図5参照)の一部も含まれてよい。
【0037】
なお、監視部5は、必ずしも第2ピーニング部36を撮像するカメラである必要はなく、他の様々な構成であってよい。例えば、第2ピーニング部36または第2ピーニング部36近傍に貼付された歪みセンサによって第2ピーニング部36の歪みを測定し、測定結果に基づいて第2ピーニング部36における疲労損傷の有無が確認されてもよい。
【0038】
以上に説明したように、溶接構造物1は、長手方向に延びる一の溶接継手3を備える。当該一の溶接継手3の溶接部33は、第1ピーニング部35と、第2ピーニング部36とを備える。第1ピーニング部35は、長手方向に沿って延びる。第1ピーニング部35は、第1のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。第2ピーニング部36は、長手方向において第1ピーニング部35に連続するとともに、長手方向に沿って延びる。第2ピーニング部36は、第1のピーニング条件よりも疲労強度の増大率が低い第2のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。
【0039】
溶接構造物1では、上述のように、第2ピーニング部36の疲労強度が第1ピーニング部35の疲労強度よりも低いため、第1ピーニング部35よりも先に第2ピーニング部36において疲労損傷が生じる可能性が高い。したがって、第2ピーニング部36を監視しておけば、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としを抑制し、当該疲労損傷を迅速に発見することができる。すなわち、溶接構造物において上記構造を採用することにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物1を提供することができる。
【0040】
上述のように、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃であることが好ましい。これにより、溶接部33に対して、第1ピーニング部35および第2ピーニング部36を設けつつ容易にピーニングを施すことができる。その結果、溶接継手3の疲労強度を容易に増大させることができる。
【0041】
上述のように、第1のピーニング条件は、第1ピーニング部35に打撃を与える第1のピンの先端径を含み、第2のピーニング条件は、第2ピーニング部36に打撃を与える第2のピンの先端径を含むことが好ましい。この場合、第2のピンの先端径は第1のピンの先端径よりも小さい。これにより、第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異を容易に実現することができる。
【0042】
上述のように、第2のピンの先端径は第1のピンの先端径の0.5倍以下であることが好ましい。これにより、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度と、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度との差を明確にすることができる。したがって、第1ピーニング部35よりも先に第2ピーニング部36において疲労損傷が生じる可能性をより高くすることができ、その結果、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としをさらに抑制することができる。
【0043】
上述のように、第2ピーニング部36の長手方向における長さは、第2のピンの先端径の5倍以上であることが好ましい。これにより、第1ピーニング部35のピーニング後の疲労強度と、第2ピーニング部36のピーニング後の疲労強度との差を明確にすることができる。したがって、第1ピーニング部35よりも先に第2ピーニング部36において疲労損傷が生じる可能性をより高くすることができ、その結果、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としをさらに抑制することができる。
【0044】
上述のように、第1のピーニング条件は、第1ピーニング部35の一方の端部から他方の端部まで長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第1のパス数を含み、第2のピーニング条件は、第2ピーニング部36の一方の端部から他方の端部まで長手方向に沿って施工位置を移動しつつ行われる単位ピーニングの繰返し回数である第2のパス数を含むことも好ましい。この場合、第2のパス数は第1のパス数よりも少ない。これにより、第1ピーニング条件と第2ピーニング条件との差異を容易に実現することができる。
【0045】
疲労監視システム50は、上述の溶接構造物1と、監視部5とを備える。監視部5は、第2ピーニング部36を監視することにより、溶接構造物1の上記一の溶接継手3の疲労を監視する。これにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視することができる。
【0046】
上記例の溶接構造物1では、ピーニング部37(すなわち、第2ピーニング部36および2つの第1ピーニング部35)が、溶接部33の長手方向における略全長に亘って設けられているが、これには限定されない。例えば、図7に示すように、他のピーニング部41が溶接部33の長手方向における略全長に亘って設けられ、溶接線31上に設けられるピーニング部37aは、長手方向に垂直な幅方向(すなわち、長手方向に垂直、かつ、溶接線31のうちピーニング部37aが設けられる部位の表面に沿う方向)において他のピーニング部41に隣接した状態で、他のピーニング部41の途中から長手方向に延びていてもよい。換言すれば、ピーニング部37aは、他のピーニング部41と長手方向に関して重複して配置される。
【0047】
図7に示す例では、ピーニング部37aおよび他のピーニング部41はそれぞれ、溶接線31上において長手方向に沿って略直線状に延びる部位である。なお、ピーニング部37aおよび他のピーニング部41はそれぞれ、溶接線31と母材11の熱影響部32との境界部上に設けられてもよく、熱影響部32上に設けられてもよい。他のピーニング部41は、例えば、ピーニング部37aと略同様に、ピンによる連続的な打撃によるピーニングによって形成される。他のピーニング部41に施されるピーニングの条件は、上述の第1ピーニング条件および第2ピーニング条件のうち一方と同じであってもよく、双方と異なっていてもよい。
【0048】
図7に示す例では、ピーニング部37aの長手方向の長さは、他のピーニング部41の長手方向の長さよりも短い。ピーニング部37aは、他のピーニング部41の長手方向の両端部を除く部位(例えば、長手方向の略中央部)のみと隣接し、他のピーニング部41の長手方向の両端部は、ピーニング部37aと長手方向に関して重複していない。ピーニング部37aの長手方向の両端部は、他のピーニング部41の途中に滑らかに合流するように接続される。具体的には、ピーニング部37aの長手方向の端部の幅は、ピーニング部37aの先端に近づくに従って減少する。換言すれば、ピーニング部37aのうち他のピーニング部41とは反対側の側縁(すなわち、幅方向の縁部)は、ピーニング部37aの端部において先端に近づくに従って、幅方向に関して他のピーニング部41に近づく。
【0049】
ピーニング部37aでは、長手方向の両端部(すなわち、幅方向の幅が先端に近づくに従って漸次減少する部位)が第2ピーニング部36aであり、当該両端部を除く部位(すなわち、長手方向の中央部)が第1ピーニング部35aである。上述のピーニング部37と同様に、第1ピーニング部35aは、上記第1のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。各第2ピーニング部36aは、第1のピーニング条件よりも疲労強度の増大率が低い上記第2のピーニング条件にてピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。各第2ピーニング部36aは、第1ピーニング部35aと長手方向において連続する。
【0050】
図7に示す溶接構造物1においても、少なくとも一方の第2ピーニング部36aを監視することにより、上記と略同様に、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としを抑制し、当該疲労損傷を迅速に発見することができる。したがって、上述の疲労監視システム50によって第2ピーニング部36aを監視することにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視することができる。
【0051】
ピーニング部37aでは、長手方向の両端部が、第1ピーニング条件にてピーニングが施された第1ピーニング部35aとされ、当該両端部を除く部位(すなわち、長手方向の中央部)が、第2ピーニング条件にてピーニングが施された第2ピーニング部36aとされてもよい。この場合も、上記と同様に、上述の疲労監視システム50によって第2ピーニング部36aを監視することにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視することができる。
【0052】
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る溶接構造物1bの溶接継手3の一部を拡大して示す斜視図である。第2の実施の形態では、溶接継手3の溶接部33に対するピーニングの態様が異なる点を除き、第1の実施の形態と同様である。以下の説明では、第1の実施の形態と同じ構成に同符号を付す。
【0053】
図8では、ピーニングが施された部位およびその近傍に平行斜線を付す。溶接継手3の溶接部33は、第3ピーニング部38と、第4ピーニング部39とを備える。図8に示す例では、第3ピーニング部38および第4ピーニング部39はそれぞれ、溶接線31上において長手方向に沿って略直線状に延びる部位である。第3ピーニング部38および第4ピーニング部39はそれぞれ、ピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。第3ピーニング部38および第4ピーニング部39はそれぞれ、例えば、ピンによる連続的な打撃によるピーニングによって形成される。第3ピーニング部38に施されるピーニングの条件と、第4ピーニング部39に施されるピーニングの条件とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、第3ピーニング部38に施されるピーニングの条件は、第3ピーニング部38の全長に亘って略同じであり、第4ピーニング部39に施されるピーニングの条件は、第4ピーニング部39の全長に亘って略同じである。
【0054】
第3ピーニング部38は、溶接部33の長手方向における略全長に亘って設けられるピーニング部である。一方、第4ピーニング部39は、長手方向に垂直な幅方向(すなわち、長手方向に垂直、かつ、溶接線31のうち第4ピーニング部39が設けられる部位の表面に沿う方向)において第3ピーニング部38に隣接した状態で、第3ピーニング部38の途中から長手方向に延びる他のピーニング部である。換言すれば、第4ピーニング部39は、第3ピーニング部38と長手方向に関して重複して配置される。なお、第3ピーニング部38および第4ピーニング部39はそれぞれ、溶接線31と母材11の熱影響部32との境界部上に設けられてもよく、熱影響部32上に設けられてもよい。
【0055】
図8に示す例では、第4ピーニング部39の長手方向の長さは、第3ピーニング部38の長手方向の長さよりも短い。第4ピーニング部39は、第3ピーニング部38の長手方向の両端部を除く部位(例えば、長手方向の略中央部)のみと隣接し、第3ピーニング部38の長手方向の両端部は、第4ピーニング部39と長手方向に関して重複していない。第4ピーニング部39の長手方向の両端部391は、第3ピーニング部38の途中に滑らかに合流するように接続される(すなわち、円滑に繋がる)。具体的には、第4ピーニング部39の長手方向の端部391の幅は、第4ピーニング部39の先端に近づくに従って減少する。換言すれば、第4ピーニング部39のうち第3ピーニング部38とは反対側の側縁(すなわち、幅方向の縁部)は、第4ピーニング部39の端部391において先端に近づくに従って、幅方向に関して第3ピーニング部38に近づく。
【0056】
第4ピーニング部39の端部391では、第3ピーニング部38に接続することによって応力集中が生じ、局所的に応力が高くなる。このため、第4ピーニング部39の各端部391におけるピーニングによる疲労強度の増大率は、第4ピーニング部39の両端部391以外の部位(すなわち、第4ピーニング部39の中央部)におけるピーニングによる疲労強度の増大率よりも低い。したがって、第4ピーニング部39のうち、少なくとも一方の端部391を監視することにより、第1の実施の形態と略同様に、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としを抑制し、当該疲労損傷を迅速に発見することができる。したがって、上述の疲労監視システム50によって第4ピーニング部39の端部を監視することにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視することができる。なお、溶接構造物1bでは、必ずしも第4ピーニング部39の両端部391が第3ピーニング部38に滑らかに接続する必要はなく、第4ピーニング部39の一方の端部391のみが第3ピーニング部38に滑らかに接続されてもよい。
【0057】
以上に説明したように、溶接構造物1bは、長手方向に延びる一の溶接継手3を備える。当該一の溶接継手3の溶接部33は、第3ピーニング部38と、第4ピーニング部39とを備える。第3ピーニング部38は、長手方向に沿って延びるとともに、ピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。第4ピーニング部39は、長手方向に垂直な幅方向において第3ピーニング部38に隣接した状態で長手方向に延びるとともに、ピーニングが施されることにより疲労強度が増大された部位である。第4ピーニング部39の長手方向の端部391が第3ピーニング部38の長手方向の途中に接続される。第4ピーニング部39の端部391の幅は、先端に近づくに従って減少する。
【0058】
溶接構造物1bでは、上述のように、第4ピーニング部39の端部391の疲労強度は、第4ピーニング部39の端部391以外の部位の疲労強度よりも低いため、第4ピーニング部39の端部391以外の部位よりも先に端部391において疲労損傷が生じる可能性が高い。したがって、第4ピーニング部39の端部391を監視しておけば、溶接部33に生じる疲労損傷の見落としを抑制し、当該疲労損傷を迅速に発見することができる。すなわち、溶接構造物において上記構造を採用することにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視可能な溶接構造物1bを提供することができる。
【0059】
上述のように、第3ピーニング部38および第4ピーニング部39にそれぞれ施されるピーニングは、ピンによる打撃であることが好ましい。これにより、第3ピーニング部38に第4ピーニング部39の端部391を滑らかに接続させつつ容易にピーニングを施すことができる。その結果、溶接継手3の疲労強度を容易に増大させることができる。
【0060】
疲労監視システム50は、上述の溶接構造物1bと、監視部5(図6参照)とを備える。監視部5は、第4ピーニング部39の端部391を監視することにより、溶接構造物1bの上記一の溶接継手3の疲労を監視する。これにより、溶接継手3の疲労を精度良く監視することができる。
【0061】
上述の溶接構造物1,1bおよび疲労監視システム50では、様々な変更が可能である。
【0062】
溶接継手3および溶接線31は、必ずしも略直線状である必要はなく、湾曲していてもよい。この場合、上述の長手方向も、溶接継手3および溶接線31と共に湾曲しつつ延びる方向である。また、第1ピーニング部35,35a、第2ピーニング部36,36aおよび他のピーニング部41の長手方向の長さは、湾曲する長手方向に沿って測定した長さである。第3ピーニング部37および第4ピーニング部38の長手方向の長さも、湾曲する長手方向に沿って測定した長さである。
【0063】
溶接継手3では、第2ピーニング部36の長手方向における長さは、第2のピンの先端径の5倍未満であってもよい。第2ピーニング部36aの長手方向における長さも、第2のピンの先端径の5倍未満であってもよく、5倍以上であってもよい。
【0064】
第2ピーニング部36,36aを形成する第2のピンの先端径は、第1ピーニング部35を形成する第1のピンの先端径の0.5倍よりも大きくてもよい。
【0065】
図5に示す例では、2つの第1ピーニング部35の間に第2ピーニング部36が設けられるが、第2ピーニング部36の位置はこれには限定されない。例えば、溶接線31の長手方向の端部に第2ピーニング部36が設けられ、当該第2ピーニング部36に長手方向において連続して第1ピーニング部35が設けられてもよい。また、溶接線31に設けられる第2ピーニング部36の数は、2つ以上であってもよい。
【0066】
上述の溶接線31’に係る溶接部には、ピーニングが施されてもよく、施されなくてもよい。例えば、当該溶接部には、上述のピーニング部37と略同様のピーニング部が設けられてもよく、ピーニング部37aおよび他のピーニング部41と略同様のピーニング部が設けられてもよく、または、第3ピーニング部38および第4ピーニング部39と略同様のピーニング部が設けられてもよい。あるいは、当該溶接部の略全長に亘って、一のピーニング条件にてピーニングが施されてもよい。当該溶接部にピーニング部37,37aと略同様のピーニング部が設けられる場合、第2ピーニング部36,36aの長手方向の位置は、溶接線31に係る溶接部33における第2ピーニング部36,36aの長手方向の位置と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
溶接構造物1,1bでは、ピーニング部37、ピーニング部37aおよび他のピーニング部41、または、第3ピーニング部38および第4ピーニング部39が設けられる溶接継手3は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。また、溶接継手3は、T継手以外の様々な継手(例えば、十字継手)であってもよい。
【0068】
溶接構造物1,1bでは、溶接部33に対するピーニングは、必ずしもピンによる打撃である必要はなく、他の既知の方法により行われてもよい。例えば、金属製または非金属製の多数の小球を噴射して溶接部33の表面に衝突させるショットピーニングが、溶接部33に対して施されてもよい。この場合、第1ピーニング条件および第2ピーニング条件は、例えば、上述の小球の噴射速度を含み、溶接構造物1において第2ピーニング部36に対する小球の噴射速度は、第1ピーニング部35に対する小球の噴射速度よりも低く設定される。あるいは、第1ピーニング条件および第2ピーニング条件は、例えば、ピーニング部に衝突する上述の小球の密度(すなわち、単位面積当たりに衝突する小球の個数)を含み、溶接構造物1において第2ピーニング部36に衝突する小球の密度は、第1ピーニング部35に衝突する小球の密度よりも低く設定される。
【0069】
また、溶接構造物1,1bでは、溶接部33に対するピーニングは、高圧水流を高速にて噴射して溶接部33の表面に衝突させるウォータージェットピーニング、または、溶接部33の表面に超音波を付与する超音波ピーニングであってもよい。溶接部33にショットピーニング、ウォータージェットピーニングまたは超音波ピーニングが施された場合、溶接部33には、上述のような凹部311は必ずしも形成されない。
【0070】
溶接構造物1,1bの母材11,12は、必ずしも平板状の部材である必要はなく、様々な形状(例えば、棒状や管状等)の母材が用いられてよい。
【0071】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0072】
1,1b 溶接構造物
3 溶接継手
5 監視部
11,12 母材
33 溶接部
35,35a 第1ピーニング部
36,36a 第2ピーニング部
38 第3ピーニング部
39 第4ピーニング部
391 (第4ピーニング部の)端部
50 疲労監視システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8