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<図1>
  • 特開-皮膚バリア機能改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130747
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】皮膚バリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/55 20060101AFI20240920BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20240920BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 31/683 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K8/55
A61K8/14
A61Q19/08
A61K31/683
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040640
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 菜月
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小寺 啓貴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 幸浩
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC482
4C083AD492
4C083AD571
4C083AD572
4C083CC02
4C083DD45
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ホスファチジルイノシトールについて新たな生理活性作用を見出し、新たな用途を提供することである。
【解決手段】ホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進、コーニファイドエンベロープ成熟促進、タイトジャンクション形成促進などの生理活性作用を有し、これらの生理活性作用により優れた皮膚バリア機能の改善効果を発揮する。したがって、ホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として好ましく利用できる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有する皮膚バリア機能改善剤。
【請求項2】
ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するセラミド産生促進剤。
【請求項3】
ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するコーニファイドエンベロープ成熟促進剤。
【請求項4】
ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するタイトジャンクション形成促進剤。
【請求項5】
ホスファチジルイノシトールが以下の(1)~(3)の工程を含む方法にて製造されるホスファチジルイノシトール(PI)を40~75質量%含む組成物である請求項1~4の何れかに記載の剤。
(1):PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程
(2):PIを有機溶媒で抽出する工程
(3):親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程
【請求項6】
ホスファチジルイノシトールがリポソーム膜に内包されて含有していることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の剤。
【請求項7】
ホスファチジルイノシトールがリポソーム膜に内包されて含有していることを特徴とする請求項5に記載の剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥や掻破などにより皮膚のバリア機能が低下すると、細菌やアレルゲンなどの異物が外部から侵入しやすくなり、かゆみ・炎症などの症状を引き起こし、このような症状がさらに皮膚バリア機能を低下させるという悪循環が生じる。このような皮膚疾患を治療するためには、皮膚の炎症を抑えるとともに、皮膚バリア機能を回復させることが重要である。
【0003】
レシチンは動物又は植物から得られるグリセロリン脂質の総称であり、天然の乳化剤として食品、化粧品、医薬品などに幅広く使用されている。レシチンの構成成分は、リン酸基に結合した極性基の構造により分類され、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)などが主要な成分であることが知られている。近年においては、これら各々の機能・効能に着目した研究がなされており、この中でホスファチジルイノシトールは、これまでに肌のヒアルロン酸増量(特許文献1)、Nrf2活性増強(特許文献2)、美白、コラーゲン産生促進、ヒアルロン酸産生促進、細胞内活性酸素消去(特許文献3)といった生理活性作用が報告されている。しかしながらPIの生理活性作用については、未だ十分に研究されているとは言えない。なお、PIを有効成分として各種用途に使用するにあたっては、PIを高濃度に含有する組成物を得ることが重要であり、その手法として古くからレシチンを溶剤分別やカラム精製によって分画する方法が用いられているが、製造の煩雑さやコスト面で課題がある。一方で近年、PI以外のリン脂質に特異的に作用するホスホリパーゼBを用いてPIを効率的に製造する方法(特許文献4、5)が開発され、PIを高濃度に含有する組成物を工業的かつ安価に入手することが可能となってきており、PIのさらなる応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/110205号
【特許文献2】特開2011-168541号公報
【特許文献3】特開2020-189826号公報
【特許文献4】国際公開第2007/010892号
【特許文献5】特開2015-27260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ホスファチジルイノシトールについて新たな生理活性作用を見出し、新たな用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ホスファチジルイノシトールに、セラミド産生促進、コーニファイドエンベロープ成熟促進、タイトジャンクション形成促進などの生理活性作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
ホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進、コーニファイドエンベロープ成熟促進、タイトジャンクション形成促進などの生理活性作用を有し、これらの生理活性作用により優れた皮膚バリア機能の改善効果を発揮する。したがって、ホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として好ましく利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤に関するものである。
【0009】
ホスファチジルイノシトール(以下PIとも表記する)は、自然界において大豆、菜種、ヒマワリ、トウモロコシ、パーム等の植物に存在するリン脂質の1種であり、これらの植物から抽出されるレシチンにおおよそ10~20%程度含まれる。本発明では、このようなレシチンから溶剤分別やカラム精製又は後述する酵素を用いた方法によってPI含量が高められた組成物を好ましく使用することができる。
【0010】
酵素を用いた方法により得られるPIを高濃度に含む組成物(以下、酵素法による高濃度PI組成物という)とは、PI以外のリン脂質に特異的に作用するホスホリパーゼBを用い、PC、PE、PS、PA等のPI以外のリン脂質を選択的に加水分解した後、残存したPIを溶剤で抽出してPI含量を高める方法で得られるものであり、具体的には、以下の(1)~(3)の工程を含む方法にて製造されるものである。酵素法による高濃度PI組成物の製造方法については、以下でさらにその詳細を述べる。
(1):PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程
(2):PIを有機溶媒で抽出する工程
(3):親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程
【0011】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(1)は、PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程である。工程(1)に使用されるレシチンとしては、大豆、菜種、ヒマワリ、サフラワー、落花生、綿実、トウモロコシ、米、大麦などの植物や卵黄から得られるレシチン及びこれらの水素添加物が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。本発明では、植物由来のレシチンを使用することが好ましく、大豆又はヒマワリ由来のレシチンがより好ましく、大豆由来のレシチンが最も好ましい。
【0012】
工程(1)に使用される基質特異性を有するホスホリパーゼBについて説明する。ホスホリパーゼB(PLB)とは、グリセロリン脂質中のグリセロール基のα位及びβ位にエステル結合した脂肪酸に作用して加水分解する活性を有する酵素の総称である。本発明で使用されるPLBは、PIには実質的に作用せず、PI以外のPC、PE、PS、PA等のリン脂質に特異的に作用する基質特異性を有するものである。このようなホスホリパーゼBとしては、特許文献4に記載されているCandida cylindraceaや、特許文献5に記載されているPenicillium camanbertti、Penicillium Roqueforti、Rhizupus orysae等の微生物由来の酵素を使用することができる。これらのうちCandida cylindracea由来の酵素が最も好ましい。
【0013】
本発明においてPIに実質的に作用しない基質特異性を有するとは、PI又はPCを基質とした際のPLB活性をそれぞれ測定し、PCに対するPIの活性比率(相対活性)を求めたとき、その活性比率が10%以下、好ましくは5%以下であることを意味する。一方、PCに対するPI以外のリン脂質(PE、PS、PA)の活性比率(相対活性)は、20~150%、好ましくは30%~100%と、PIに比較して十分に高いことを意味する。なお、PLB活性測定の詳細は特許文献4に記載されている。
【0014】
工程(1)におけるホスホリパーゼB(PLB)をレシチンに作用させる条件としては、特許文献4や5に記載された条件で行えばよい。具体的には、PLBをレシチン1kgあたり1000~100000000単位、より好ましくは2000~5000000単位の範囲で使用する。レシチンは予めホモジナイザー等を使用して水に均一に分散した水分散液に調製するとよい。水分散液中のレシチン濃度は、PLBが作用しうる濃度であれば特に制限はないが、1~20重量%、好ましくは5~10重量%、特に好ましくは6~8重量%の範囲にするとよい。レシチンとPLBを作用させる際のpHは、pH3~10の範囲であり、PLBの活性が最大になるpH5.5~6.5付近に調整することがより好ましい。この際、pHを一定に保つために緩衝液を使用することが好ましく、pH5.5~6.5の範囲で緩衝能を有する緩衝液であればその種類は特に限定されない。また、緩衝液を使用する代わりに反応中にアルカリ溶液を適宜添加して反応液のpHを好ましい範囲にコントロールすることもできる。作用させる温度はPLBが失活しない範囲で行えばよく、上限としては60℃以下、より好ましくは45℃以下であり、下限としては10℃以上、より好ましくは30℃以上である。反応時間は上記の酵素反応条件によって異なり、通常1~150時間であるが、基質の残存量を定量的に把握して反応を止めればよい。反応終了後、熱処理、pH処理などによりPLBを失活させても何ら問題はない。
【0015】
上記の方法で工程(1)を実施することにより、レシチン中のPI以外のPC、PE、PS、PA等のリン脂質は選択的に加水分解され、遊離脂肪酸と、グリセロホスフォリルコリン(GPC)、グリセロホスフォリルエタノールアミン(GPE)、グリセロホスフォリルセリン(GPS)、グリセロリン酸(GPA)などの脱アシル化リン脂質となり、一方、PIは加水分解されずにそのまま残存させることができる。
【0016】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(2)は、PIを有機溶媒で抽出する工程である。工程(2)に使用される有機溶媒としては、クロロホルム、メチレンクロライド、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、及び、これらとイソプロピルアルコール、エチルアルコールなどとの混合液等を使用できるが、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、及び、これらとエチルアルコールとの混合液が好ましく、ヘキサン又はヘキサン-エチルアルコール混合液がより好ましい。
【0017】
工程(2)においてPIを抽出するとは、工程(1)の反応液に前述した有機溶媒を加えて混合した後に静置し、有機溶媒相と水相に分液させて、有機溶媒相に工程(1)で残存したPIを抽出することを意味する。この際、無機塩及び/またはキレート剤の存在下で行うとより好ましい。なおこの工程では、工程(1)の加水分解生成物である遊離脂肪酸も有機溶媒に可溶であるため有機溶媒相に抽出される。もう一方の加水分解生成物であるGPC、GPE、GPS、GPAなどは水に可溶であるため水相に残存することとなり、これらの成分はこの工程において除去される。
【0018】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(3)は、親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程である。工程(3)に使用される親水性溶剤としては、アセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、及び、これらと水との混合液等が使用できるが、アセトン、エチルアルコール、及び、これらと水との混合液等がより好ましく使用できる。
【0019】
工程(3)においてPIを沈殿回収するとは、詳細には、まず初めに工程(2)で得られたPIが抽出された有機溶媒溶液、又は、該溶液から有機溶媒を回収して得られる濃縮物に、前述した親水性溶剤を添加する操作を行う。PIはこのような親水性溶剤に不溶であるため、このような操作によりPIを沈殿析出させることができる。析出したPIは、濾過又は遠心分離等の方法により親水性溶剤と分離し、さらに乾燥させることで目的の高濃度PI組成物を粉末として回収することができる。なおこの工程では、遊離脂肪酸は親水性溶媒に可溶であるため、遊離脂肪酸はこの工程において除去される。
【0020】
以上のようにして得られる酵素法による高濃度PI組成物は、PIを40~75重量%、より好ましくは45~70重量%含むものとして得ることができる。このような製造方法は、溶剤分別やカラム精製等の従来の高濃度PI組成物を得る手法に比較して、効率性が高く、スケールアップも容易であるため、工業的かつ安価に高濃度PI組成物を得る方法として最適である。本発明で使用できる高濃度PI組成物としては、このような酵素法により製造されたものを好ましく使用することができ、大豆レシチン由来の高濃度PI組成物としてソイブレインPI50(ユニテックフーズ製)が市販されており、このような市販品を好ましく使用することができる。
【0021】
酵素法による高濃度PI組成物は、PIを高濃度で含むものであるが、PI以外の成分も含有するものである。具体的には、本願発明者らは組成物中の各成分をカラムクロマトグラフィーの手法により分離し、各種分析機器を用いて解析したところ、ステリルグルコシドを3~10重量%、ホスファチジルエタノールアミンを2~8重量%、ホスファチジル酸を0.1~2重量%、トリグリセライドを1~5重量%程度含み、かつ、それ以外に未同定の成分を15~35重量%程度含むことを確認した。したがって高濃度PI組成物は、その組成物を構成するすべての成分を明らかにすることが困難であり、その製造方法により組成物が特定されるべきものである。
【0022】
本発明はホスファチジルイノシトールについて、セラミド産生促進作用を有することを見出したものである。したがって、ホスファチジルイノシトールはセラミド産生促進剤の有効成分として好ましく利用できる。本発明のホスファチジルイノシトールのセラミド産生促進剤への配合量としては、特に制限はなく、0.005~99重量%、好ましくは0.01~90重量%程度配合するとよい。なお、皮膚炎などの皮膚疾患を発症している皮膚の角層においては、セラミドの減少が確認されている。したがって、皮膚のセラミド産生を促進して角層のセラミドを増加させることは、皮膚バリア機能の改善につながる。
【0023】
本発明はホスファチジルイノシトールについて、コーニファイドエンベロープ成熟促進作用を有することを見出したものである。したがって、ホスファチジルイノシトールはコーニファイドエンベロープ成熟促進剤の有効成分として好ましく利用できる。本発明のホスファチジルイノシトールのコーニファイドエンベロープ成熟促進剤への配合量としては、特に制限はなく、0.005~99重量%、好ましくは0.01~90重量%程度配合するとよい。なお、コーニファイドエンベロープは、インボルクリンやロリクリンなどのタンパク質から形成される角質細胞を包む膜状構造体であり、角層の物理的あるいは化学的な強靭性に寄与している。皮膚炎などの皮膚疾患を発症している皮膚の角層においては、コーニファイドエンベロープが未成熟であることが確認されており、コーニファイドエンベロープ成熟を促進することは、皮膚バリア機能の改善につながる。
【0024】
本発明はホスファチジルイノシトールについて、タイトジャンクション形成促進作用を有することを見出したものである。したがって、ホスファチジルイノシトールはタイトジャンクション形成促進剤の有効成分として好ましく利用できる。本発明のホスファチジルイノシトールのタイトジャンクション形成促進剤への配合量としては、特に制限はなく、0.005~99重量%、好ましくは0.01~90重量%程度配合するとよい。なお、タイトジャンクションは、上皮細胞において隣り合う細胞同士を強固に密着させる細胞間接着因子であり、オクルディン、クローディン、ZOなどのタンパク質によって形成される。角層直下の顆粒層においては皮膚内からの水分の蒸散や外部からの異物の侵入を防ぐ機能を果たしている。したがって、タイトジャンクションの形成を促進することは、皮膚バリア機能の改善につながる。
【0025】
上記のようにホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進、コーニファイドエンベロープ成熟促進、タイトジャンクション形成促進といった生理活性作用を有し、これらの生理活性作用はいずれも皮膚バリア機能の改善につながるものである。すなわち、ホスファチジルイノシトールは、様々な作用機序によって皮膚バリア機能を改善させるものであり、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として好ましく利用できる。
【0026】
本発明のセラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤には、さらに同様の生理活性を有する成分を併用することができる。このような成分を併用することで、本発明の効果を相乗的に発揮させることが可能である。
【0027】
本発明のホスファチジルイノシトールを有効成分として含有する、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤、及び、皮膚バリア機能改善剤の生体への投与方法としては、経口投与、注射による投与、経皮投与等が挙げられる。投与量としては、本発明の効果が得られる量であればよく、特に制限はなく、製剤の剤型、適用部位、年齢、性別などに応じて適宜調整するとよい。
【0028】
ホスファチジルイノシトールは、そのまま用いてもよいが、一般的な基剤、例えば、水、ゲル、多価アルコール、ワセリン、パラフィン、エステル油、シリコーン油等に溶解、分散又は混合して使用するとよい。また、必要に応じて各種添加剤を併用することができる。使用できる添加剤としては、所望の剤型を得るために通常用いられるものであれば特に制限はなく、賦形剤、着色剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、保湿剤、pH調整剤等の公知のものを適宜選択して使用すればよい。或いは、所望の効果を発揮させる有効成分として、医薬品や化粧品の一成分として配合して投与してもよい。医薬品の場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;外皮用剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、口腔剤、坐剤等の外用剤;点滴剤、注射剤等の非経口剤に配合することできる。化粧品の場合は、化粧水、ローション、ジェル、乳液、美容液、クリーム、パック、洗顔料、ボディ洗浄料等の皮膚化粧料;ファンデーション、口紅、リップグロス、マスカラ等のメイクアップ化粧料;シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアミスト、ヘアワックス、セットローション、カラーローション、ヘアマニキュア、育毛剤等の毛髪化粧料に配合することができる。
【0029】
ホスファチジルイノシトールは水への分散性が乏しいため、単独で水に分散させることが困難である。このような観点から、ホスファチジルイノシトールを水に分散させて使用する場合、リポソーム膜に内包して水に分散させるとよい。リポソーム膜を形成する膜成分としては、レシチン又は水素添加レシチンを使用するとよく、好ましくはホスファチジルコリンの含有量が50~99重量%のレシチン又は水素添加レシチンであり、より好ましくはホスファチジルコリンの含有量が70~99重量%のレシチン又は水素添加レシチンである。なお、前述のように植物由来レシチンにはPIが10~20%程度含まれるが、溶剤分別でPC含有量を高めたレシチンにはその分別過程で除去されるためにPIはほとんど含まれない。一般的にリポソームを形成させる場合、レシチンとしてはPC含有量を高めたものが使用される。したがって、ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームを得るためには、高濃度PI組成物とPC含有量を高めたレシチンを混合する必要がある。
【0030】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームには、分散安定性を向上させる観点からステロール類を含有させるとよい。ステロール類としては、具体的には、コレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、及びこれらの混合物であるフィトステロール等の植物由来のステロール;エルゴステロール等の微生物由来のステロール;γ-オリザノール;ウルソール酸;グリチルレチン酸;並びにこれらのエステル化物等が挙げられる。これらのステロール類は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのステロール類のうち、本発明の効果を十分に発揮させる観点から、コレステロール、フィトステロール、γ-オリザノールが好ましいものとして挙げられる。
【0031】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームには、保存安定性を向上させる観点から抗酸化物質を含有させてもよい。抗酸化物質としては、具体的には、トコフェロール及びその誘導体、トコトリエノール及びその誘導体、没食子酸及びその誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、ビタミンA類、カロテノイド類、リポ酸、コエンザイムQ10、ユビキノール、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。これらの抗酸化物質は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのうち、トコフェロール及びその誘導体、カロテノイド類、リポ酸、コエンザイムQ10が好ましいものとして挙げられる。
【0032】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームを製造する方法としては、特に制限はなく、一般的に公知の方法、例えば、バンガム法、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス押出法、メカノケミカル法、脂質溶解法、噴霧乾燥法、多価アルコール法等により製造することができる。また、特開2019-189556号に記載されている複合体を使用すれば、より簡便に製造することが可能である。このような複合体としては、日本精化(株)よりPrimeLipid PIが市販されており、このような市販品を使用してもよい。
【実施例0033】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0034】
<ホスファチジルイノシトールを内包するリポソーム液の調製>
表1に記載の組成、製造方法にて、ホスファチジルイノシトールを内包するリポソーム液(PI内包リポソーム液)を調製した。比較として、ホスファチジルイノシトールを内包しないリポソーム液(PI未内包リポソーム液)を調製した。PI未内包リポソームの脂質組成は、PI内包リポソーム液の脂質組成中のPIをPCに置き換えた組成とした。
【0035】
【表1】
【0036】
<生理活性評価>
正常ヒト表皮角化細胞を24ウェル平板プレートに1.0×10cells/wellの濃度で播種し、HuMedia-KG2培地(クラボウ社製)で24時間培養した後、HuMedia-KB2培地(クラボウ社製)に置換し、上記で得られたPI内包リポソーム液又はPI未内包リポソーム液を培地中に5%濃度になるように添加して、さらに24時間培養した。その後、各種タンパク質の遺伝子発現量(GAPDHにより標準化)をリアルタイムPCR法により測定した。コントロールとして被験物質無添加における各種タンパク質の遺伝子発現量を同様に測定した。結果は3ウェルの平均値を用い、コントロールの発現量を100とした相対値として表2に記載した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果より、PI内包リポソーム液は、PI未内包リポソーム液に比較して、SPTLC1、OCDN、CLDN4、ZO-1、TGM-1の遺伝子発現量を有意に増加させることが分かった。なお、SPTLC1はセラミド生合成における律速反応であるL-セリンとパルミトイル-CoAの縮合反応を触媒する酵素であり、SPTLC1の遺伝子発現量の増加はセラミド産生促進につながる。TGM-1はコーニファイドエンベロープの形成過程で作用する酵素であり、TGM-1の遺伝子発現量の増加はコーニファイドエンベロープの成熟促進につながる。OCDN、CLDN4、ZO-1は、細胞間の接着を司るタイトジャンクションを形成するタンパク質群であり、これらタンパク質群の遺伝子発現量の増加は、タイトジャンクションの形成促進につながる。以上のことより、ホスファチジルイノシトールは、セラミド産生促進剤、コーニファイドエンベロープ成熟促進剤、タイトジャンクション形成促進剤の有効成分として利用できると考えられた。
【0039】
また、既に述べたように、セラミド産生促進、コーニファイドエンベロープ成熟促進、タイトジャンクション形成促進といった生理活性作用は、いずれも皮膚バリア機能の改善につながるものである。したがって、ホスファチジルイノシトールは、様々な作用機序によって皮膚バリア機能を改善させるものであり、皮膚バリア機能改善剤の有効成分として利用できると考えられる。このことは、以下に記載した角層バリア機能の指標の一つである経表皮水分蒸散量(TEWL)の試験結果からも確認される。
【0040】
<経表皮水分蒸散量(TEWL)試験>
健康な成人女性(18名)の半顔にPI内包リポソーム液を1日2回塗布し、他方の半顔は無塗布とした。試験初日(塗布前)、2週目、及び、4週目に塗布部及び無塗布部について、各パネラーのTEWLを測定し、その平均値を求めた。得られた結果は、初期の値を100%とした変化率として図1に示した。
【0041】
図1の結果より、PI内包リポソーム液は角層の水分蒸散量を有意に低減させることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】PI内包リポソーム液のTEWL試験結果を示す図である
図1