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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130748
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ディフェンシン発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/683 20060101AFI20240920BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20240920BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
A61K31/683
A61P17/00
A61P31/04
A61P43/00 111
A61K8/14
A61K8/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040641
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 菜月
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小寺 啓貴
(72)【発明者】
【氏名】大橋 幸浩
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC482
4C083AD571
4C083AD572
4C083CC02
4C083DD45
4C083EE13
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA24
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB35
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有するディフェンシン発現促進剤を提供する。
【解決手段】ホスファチジルイノシトールを有効成分として使用する。ホスファチジルイノシトールは皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有するため、皮膚又は生体内における抗菌作用を向上させる目的で好ましく使用することができる。ディフェンシンの中でも特にhBD-1、hBD-2及びhBD-3の発現促進に有効である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するディフェンシン発現促進剤。
【請求項2】
ディフェンシンが、hBD-1、hBD-2又はhBD-3である請求項1に記載のディフェンシン発現促進剤。
【請求項3】
ホスファチジルイノシトールが以下の(1)~(3)の工程を含む方法にて製造されるホスファチジルイノシトール(PI)を40~75質量%含む組成物である請求項2に記載のディフェンシン発現促進剤。
(1):PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程
(2):PIを有機溶媒で抽出する工程
(3):親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程
【請求項4】
ホスファチジルイノシトールがリポソーム膜に内包されて含有していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のディフェンシン発現促進剤。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のディフェンシン発現促進剤を含有する、皮膚または生体内の抗菌作用を向上させるための組成物。
【請求項6】
請求項4に記載のディフェンシン発現促進剤を含有する、皮膚または生体内の抗菌作用を向上させるための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するディフェンシン促進剤、並びに該促進剤を含有する皮膚又は生体内の抗菌作用を向上させるための組成物に関する。
【0002】
生物が生来有している免疫メカニズムの一つとして、生体内で様々な抗菌物質(抗菌ペプチド)が産生されることが知られている。抗菌ペプチドは、細菌、真菌、ウィルスを含む各種の微生物に対して強い抗菌力を発揮し、局所での感染防御や常在菌の恒常性維持などの役割を担っている。したがって、生体内で抗菌ペプチドの発現を促進することができれば、微生物の侵入に対する免疫力の向上や感染症等の疾患に対する治療などにつながると考えられる。
【0003】
抗菌ペプチドの中でも、ディフェンシンは最も多くの研究が報告されている抗菌ペプチドの1種である。ヒトにおいては、主に好中球等の貪食細胞に存在するα-ディフェンシンと、主に皮膚を含む上皮細胞に存在するβ-ディフェンシンが代表的なものとして知られている。ヒトβ-ディフェンシン(hBD)としては、現在、hBD-1~4の4種類が主要なものとして知られている。hBD-1が皮膚で恒常的に発現しているのに対し、hBD-2及びhBD-3は細菌感染や炎症刺激によって発現が誘導される誘導型の抗菌ペプチドであることが報告されており、各種の感染症や炎症と密接な関係があると考えられている。皮膚においては、アトピー性皮膚炎の発症や重症化との関係性が示唆されているほか、ニキビの予防又は治療に有効であることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
レシチンは動物又は植物から得られるグリセロリン脂質の総称であり、天然の乳化剤として食品、化粧品、医薬品などに幅広く使用されている。レシチンの構成成分は、リン酸基に結合した極性基の構造により分類され、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)などが主要な成分であることが知られている。近年においては、これら各々の機能・効能に着目した研究がなされており、この中でホスファチジルイノシトールは、これまでに肌のヒアルロン酸増量(特許文献1)、Nrf2活性増強(特許文献2)、美白、コラーゲン産生促進、ヒアルロン酸産生促進、細胞内活性酸素消去(特許文献3)といった生理活性作用が報告されている。しかしながらディフェンシンの発現を促進する作用については知られていない。なお、PIを有効成分として各種用途に使用するにあたっては、PIを高濃度に含有する組成物を得ることが重要であり、その手法として古くからレシチンを溶剤分別やカラム精製によって分画する方法が用いられているが、製造の煩雑さやコスト面で課題がある。一方で近年、PI以外のリン脂質に特異的に作用するホスホリパーゼBを用いてPIを効率的に製造する方法(特許文献4、5)が開発され、PIを高濃度に含有する組成物を工業的かつ安価に入手することが可能となってきており、PIのさらなる応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/110205号
【特許文献2】特開2011-168541号公報
【特許文献3】特開2020-189826号公報
【特許文献4】国際公開第2007/010892号
【特許文献5】特開2015-27260号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】フレグランスジャーナル2006年10月号、p.99~104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有するディフェンシン発現促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ホスファチジルイノシトールに優れたディフェンシン発現促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
ホスファチジルイノシトールは、皮膚又は生体内において優れたディフェンシン発現促進作用を有し、ディフェンシン発現促進剤として利用できる。ディフェンシンは細菌、真菌、ウィルスを含む各種の微生物に対して強い抗菌力を発揮する抗菌ペプチドであるため、本発明のディフェンシン発現促進剤は、皮膚又は生体内における抗菌作用を向上させる目的で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するディフェンシン発現促進剤、並びに、該促進剤を含有する皮膚又は生体内の抗菌作用を向上させるための組成物に関するものである。
【0011】
ホスファチジルイノシトール(以下PIとも表記する)は、自然界において大豆、菜種、ヒマワリ、トウモロコシ、パーム等の植物に存在するリン脂質の1種であり、これらの植物から抽出されるレシチンにおおよそ10~20%程度含まれる。本発明では、このようなレシチンから溶剤分別やカラム精製又は後述する酵素を用いた方法によってPI含量が高められた組成物を好ましく使用することができる。
【0012】
酵素を用いた方法により得られるPIを高濃度に含む組成物(以下、酵素法による高濃度PI組成物という)とは、PI以外のリン脂質に特異的に作用するホスホリパーゼBを用い、PC、PE、PS、PA等のPI以外のリン脂質を選択的に加水分解した後、残存したPIを溶剤で抽出してPI含量を高める方法で得られるものであり、具体的には、以下の(1)~(3)の工程を含む方法にて製造されるものである。酵素法による高濃度PI組成物の製造方法については、以下でさらにその詳細を述べる。
(1):PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程
(2):PIを有機溶媒で抽出する工程
(3):親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程
【0013】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(1)は、PIに実質的に作用しない基質特異性を有するホスホリパーゼBをレシチンに作用させる工程である。工程(1)に使用されるレシチンとしては、大豆、菜種、ヒマワリ、サフラワー、落花生、綿実、トウモロコシ、米、大麦などの植物や卵黄から得られるレシチン及びこれらの水素添加物が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。本発明では、植物由来のレシチンを使用することが好ましく、大豆又はヒマワリ由来のレシチンがより好ましく、大豆由来のレシチンが最も好ましい。
【0014】
工程(1)に使用される基質特異性を有するホスホリパーゼBについて説明する。ホスホリパーゼB(PLB)とは、グリセロリン脂質中のグリセロール基のα位及びβ位にエステル結合した脂肪酸に作用して加水分解する活性を有する酵素の総称である。本発明で使用されるPLBは、PIには実質的に作用せず、PI以外のPC、PE、PS、PA等のリン脂質に特異的に作用する基質特異性を有するものである。このようなホスホリパーゼBとしては、特許文献4に記載されているCandida cylindraceaや、特許文献5に記載されているPenicillium camanbertti、Penicillium Roqueforti、Rhizupus orysae等の微生物由来の酵素を使用することができる。これらのうちCandida cylindracea由来の酵素が最も好ましい。
【0015】
本発明においてPIに実質的に作用しない基質特異性を有するとは、PI又はPCを基質とした際のPLB活性をそれぞれ測定し、PCに対するPIの活性比率(相対活性)を求めたとき、その活性比率が10%以下、好ましくは5%以下であることを意味する。一方、PCに対するPI以外のリン脂質(PE、PS、PA)の活性比率(相対活性)は、20~150%、好ましくは30%~100%と、PIに比較して十分に高いことを意味する。なお、PLB活性測定の詳細は特許文献4に記載されている。
【0016】
工程(1)におけるホスホリパーゼB(PLB)をレシチンに作用させる条件としては、特許文献4や5に記載された条件で行えばよい。具体的には、PLBをレシチン1kgあたり1000~100000000単位、より好ましくは2000~5000000単位の範囲で使用する。レシチンは予めホモジナイザー等を使用して水に均一に分散した水分散液に調製するとよい。水分散液中のレシチン濃度は、PLBが作用しうる濃度であれば特に制限はないが、1~20重量%、好ましくは5~10重量%、特に好ましくは6~8重量%の範囲にするとよい。レシチンとPLBを作用させる際のpHは、pH3~10の範囲であり、PLBの活性が最大になるpH5.5~6.5付近に調整することがより好ましい。この際、pHを一定に保つために緩衝液を使用することが好ましく、pH5.5~6.5の範囲で緩衝能を有する緩衝液であればその種類は特に限定されない。また、緩衝液を使用する代わりに反応中にアルカリ溶液を適宜添加して反応液のpHを好ましい範囲にコントロールすることもできる。作用させる温度はPLBが失活しない範囲で行えばよく、上限としては60℃以下、より好ましくは45℃以下であり、下限としては10℃以上、より好ましくは30℃以上である。反応時間は上記の酵素反応条件によって異なり、通常1~150時間であるが、基質の残存量を定量的に把握して反応を止めればよい。反応終了後、熱処理、pH処理などによりPLBを失活させても何ら問題はない。
【0017】
上記の方法で工程(1)を実施することにより、レシチン中のPI以外のPC、PE、PS、PA等のリン脂質は選択的に加水分解され、遊離脂肪酸と、グリセロホスフォリルコリン(GPC)、グリセロホスフォリルエタノールアミン(GPE)、グリセロホスフォリルセリン(GPS)、グリセロリン酸(GPA)などの脱アシル化リン脂質となり、一方、PIは加水分解されずにそのまま残存させることができる。
【0018】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(2)は、PIを有機溶媒で抽出する工程である。工程(2)に使用される有機溶媒としては、クロロホルム、メチレンクロライド、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、及び、これらとイソプロピルアルコール、エチルアルコールなどとの混合液等を使用できるが、酢酸エチル、ヘプタン、ヘキサン、及び、これらとエチルアルコールとの混合液が好ましく、ヘキサン又はヘキサン-エチルアルコール混合液がより好ましい。
【0019】
工程(2)においてPIを抽出するとは、工程(1)の反応液に前述した有機溶媒を加えて混合した後に静置し、有機溶媒相と水相に分液させて、有機溶媒相に工程(1)で残存したPIを抽出することを意味する。この際、無機塩及び/またはキレート剤の存在下で行うとより好ましい。なおこの工程では、工程(1)の加水分解生成物である遊離脂肪酸も有機溶媒に可溶であるため有機溶媒相に抽出される。もう一方の加水分解生成物であるGPC、GPE、GPS、GPAなどは水に可溶であるため水相に残存することとなり、これらの成分はこの工程において除去される。
【0020】
酵素法による高濃度PI組成物の製造における工程(3)は、親水性溶剤を用いてPIを沈殿回収する工程である。工程(3)に使用される親水性溶剤としては、アセトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、及び、これらと水との混合液等が使用できるが、アセトン、エチルアルコール、及び、これらと水との混合液等がより好ましく使用できる。
【0021】
工程(3)においてPIを沈殿回収するとは、詳細には、まず初めに工程(2)で得られたPIが抽出された有機溶媒溶液、又は、該溶液から有機溶媒を回収して得られる濃縮物に、前述した親水性溶剤を添加する操作を行う。PIはこのような親水性溶剤に不溶であるため、このような操作によりPIを沈殿析出させることができる。析出したPIは、濾過又は遠心分離等の方法により親水性溶剤と分離し、さらに乾燥させることで目的の高濃度PI組成物を粉末として回収することができる。なおこの工程では、遊離脂肪酸は親水性溶媒に可溶であるため、遊離脂肪酸はこの工程において除去される。
【0022】
以上のようにして得られる酵素法による高濃度PI組成物は、PIを40~75重量%、より好ましくは45~70重量%含むものとして得ることができる。このような製造方法は、溶剤分別やカラム精製等の従来の高濃度PI組成物を得る手法に比較して、効率性が高く、スケールアップも容易であるため、工業的かつ安価に高濃度PI組成物を得る方法として最適である。本発明で使用できる高濃度PI組成物としては、このような酵素法により製造されたものを好ましく使用することができ、大豆レシチン由来の高濃度PI組成物としてソイブレインPI50(ユニテックフーズ製)が市販されており、このような市販品を好ましく使用することができる。
【0023】
酵素法による高濃度PI組成物は、PIを高濃度で含むものであるが、PI以外の成分も含有するものである。具体的には、本願発明者らは組成物中の各成分をカラムクロマトグラフィーの手法により分離し、各種分析機器を用いて解析したところ、ステリルグルコシドを3~10重量%、ホスファチジルエタノールアミンを2~8重量%、ホスファチジル酸を0.1~2重量%、トリグリセライドを1~5重量%程度含み、かつ、それ以外に未同定の成分を15~35重量%程度含むことを確認した。したがって高濃度PI組成物は、その組成物を構成するすべての成分を明らかにすることが困難であり、その製造方法により組成物が特定されるべきものである。
【0024】
本発明はホスファチジルイノシトールについて、ディフェンシン促進作用を有することを見出したものである。したがって、ホスファチジルイノシトールはディフェンシン促進剤の有効成分として好ましく利用できる。本発明のホスファチジルイノシトールのディフェンシン促進剤への配合量としては、特に制限はなく、0.005~99重量%、好ましくは0.01~90重量%程度配合するとよい。ディフェンシンは細菌、真菌、ウィルスを含む各種微生物に対して強い抗菌力を発揮する抗菌ペプチドであるから、本発明のディフェンシン発現促進剤は、皮膚又は生体内における抗菌作用を向上させる目的で使用できる。すなわち、本発明のディフェンシン発現促進剤は、微生物の侵入に対する免疫力の向上、常在菌の恒常性維持、感染症等の疾患に対する治療などに利用できる。特に皮膚においては、ニキビやアトピー性皮膚炎の予防又は治療に好ましく使用でき、健常な皮膚を維持する目的でも使用できる。
【0025】
本発明のディフェンシン発現促進剤は、ディフェンシンの中でも、主に皮膚を含む上皮細胞に存在するヒトβ-ディフェンシンの発現促進に有効であり、特にヒトβ-ディフェンシン-1(hBD-1)、ヒトβ-ディフェンシン-2(hBD-2)及びヒトβ-ディフェンシン-3(hBD-3)の発現促進に有効である。
【0026】
本発明のディフェンシン促進剤には、さらに同様の生理活性を有する成分を併用することができる。このような成分を併用することで、本発明の効果を相乗的に発揮させることが可能である。
【0027】
本発明のホスファチジルイノシトールを有効成分として含有するディフェンシン促進剤の生体への投与方法としては、経口投与、注射による投与、経皮投与等が挙げられる。投与量としては、本発明の効果が得られる量であればよく、特に制限はなく、製剤の剤型、適用部位、年齢、性別などに応じて適宜調整するとよい。
【0028】
ホスファチジルイノシトールは、そのまま用いてもよいが、一般的な基剤、例えば、水、ゲル、多価アルコール、ワセリン、パラフィン、エステル油、シリコーン油等に溶解、分散又は混合して使用するとよい。また、必要に応じて各種添加剤を併用することができる。使用できる添加剤としては、所望の剤型を得るために通常用いられるものであれば特に制限はなく、賦形剤、着色剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、保湿剤、pH調整剤等の公知のものを適宜選択して使用すればよい。或いは、所望の効果を発揮させる有効成分として、医薬品や化粧品の一成分として配合して投与してもよい。医薬品の場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、懸濁剤等の経口剤;外皮用剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤、口腔剤、坐剤等の外用剤;点滴剤、注射剤等の非経口剤に配合することできる。化粧品の場合は、化粧水、ローション、ジェル、乳液、美容液、クリーム、パック、洗顔料、ボディ洗浄料等の皮膚化粧料;ファンデーション、口紅、リップグロス、マスカラ等のメイクアップ化粧料;シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアミスト、ヘアワックス、セットローション、カラーローション、ヘアマニキュア、育毛剤等の毛髪化粧料に配合することができる。
【0029】
ホスファチジルイノシトールは水への分散性が乏しいため、単独で水に分散させることが困難である。このような観点から、ホスファチジルイノシトールを水に分散させて使用する場合、リポソーム膜に内包して水に分散させるとよい。リポソーム膜を形成する膜成分としては、レシチン又は水素添加レシチンを使用するとよく、好ましくはホスファチジルコリンの含有量が50~99重量%のレシチン又は水素添加レシチンであり、より好ましくはホスファチジルコリンの含有量が70~99重量%のレシチン又は水素添加レシチンである。なお、前述のように植物由来レシチンにはPIが10~20%程度含まれるが、溶剤分別でPC含有量を高めたレシチンにはその分別過程で除去されるためにPIはほとんど含まれない。一般的にリポソームを形成させる場合、レシチンとしてはPC含有量を高めたものが使用される。したがって、ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームを得るためには、高濃度PI組成物とPC含有量を高めたレシチンを混合する必要がある。
【0030】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームには、分散安定性を向上させる観点からステロール類を含有させるとよい。ステロール類としては、具体的には、コレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、及びこれらの混合物であるフィトステロール等の植物由来のステロール;エルゴステロール等の微生物由来のステロール;γ-オリザノール;ウルソール酸;グリチルレチン酸;並びにこれらのエステル化物等が挙げられる。これらのステロール類は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのステロール類のうち、本発明の効果を十分に発揮させる観点から、コレステロール、フィトステロール、γ-オリザノールが好ましいものとして挙げられる。
【0031】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームには、保存安定性を向上させる観点から抗酸化物質を含有させてもよい。抗酸化物質としては、具体的には、トコフェロール及びその誘導体、トコトリエノール及びその誘導体、没食子酸及びその誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、ビタミンA類、カロテノイド類、リポ酸、コエンザイムQ10、ユビキノール、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。これらの抗酸化物質は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのうち、トコフェロール及びその誘導体、カロテノイド類、リポ酸、コエンザイムQ10が好ましいものとして挙げられる。
【0032】
ホスファチジルイノシトールを内包するリポソームを製造する方法としては、特に制限はなく、一般的に公知の方法、例えば、バンガム法、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス押出法、メカノケミカル法、脂質溶解法、噴霧乾燥法、多価アルコール法等により製造することができる。また、特開2019-189556号に記載されている複合体を使用すれば、より簡便に製造することが可能である。このような複合体としては、日本精化(株)よりPrimeLipid PIが市販されており、このような市販品を使用してもよい。
【実施例0033】
以下の実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0034】
<ホスファチジルイノシトールを内包するリポソーム液の調製>
表1に記載の組成、製造方法にて、ホスファチジルイノシトールを内包するリポソーム液(PI内包リポソーム液)を調製した。比較として、ホスファチジルイノシトールを内包しないリポソーム液(PI未内包リポソーム液)を調製した。PI未内包リポソームの脂質組成は、PI内包リポソーム液の脂質組成中のPIをPCに置き換えた組成とした。
【0035】
【表1】
【0036】
<ディフェンシン発現促進>
正常ヒト表皮角化細胞を24ウェル平板プレートに1.0×10cells/wellの濃度で播種し、HuMedia-KG2培地(クラボウ社製)で24時間培養した後、HuMedia-KB2培地(クラボウ社製)に置換し、上記で得られたPI内包リポソーム液又はPI未内包リポソーム液を培地中に5%濃度になるように添加して、さらに24時間培養した。その後、hBD-1、hBD-2及びhBD-3の遺伝子発現量(GAPDHにより標準化)をリアルタイムPCR法により測定した。コントロールとして被験物質無添加におけるhBD-1、hBD-2及びhBD-3の遺伝子発現量を同様に測定した。結果は3ウェルの平均値を用い、コントロールの発現量を100とした相対値として表2に記載した。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果より、PI内包リポソーム液は、PI未内包リポソーム液に比較して、hBD-1、hBD-2及びhBD-3の遺伝子発現量を有意に増加させることが分かった。したがって、ホスファチジルイノシトールは、ディフェンシン発現促進剤の有効成分として利用できると考えられた。