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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130751
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/42 20060101AFI20240920BHJP
   B60N 2/888 20180101ALI20240920BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/888
B60N2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040644
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】矢動丸 裕介
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD04
3B087DB02
3B087DB10
3B087DC05
3B087DC10
(57)【要約】
【課題】後面衝突に起因する乗員の傷害を抑制したシートを提供する。
【解決手段】車両の乗員Pが着座するシート1を、乗員の背部と対向するバックレスト20と、バックレストの上部に設けられたヘッドレスト30と、バックレストの左右側端部に沿って上下方向に延在するサイドメンバ42を有するバックレストフレーム40と、左右の前記サイドメンバにわたして設けられサイドメンバに対して昇降可能に取り付けられたクロスメンバ50と、ヘッドレストから下方に突出し下端部がクロスメンバに連結されたヘッドレストポスト60と、クロスメンバに入力される車両後方側への荷重に応じてクロスメンバをサイドメンバから離脱させるクロスメンバ離脱機構43,51とを備え、クロスメンバ離脱機構は、クロスメンバのサイドメンバに対する上昇に応じて、離脱が生じる荷重が低下する構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が着座するシートであって、
前記乗員の背部と対向するバックレストと、
前記バックレストの上部に設けられたヘッドレストと、
前記バックレストの左右側端部に沿って上下方向に延在するサイドメンバを有するバックレストフレームと、
左右の前記サイドメンバにわたして設けられ前記サイドメンバに対して昇降可能に取り付けられたクロスメンバと、
前記ヘッドレストから下方に突出し前記クロスメンバに連結されたヘッドレストポストと、
前記クロスメンバに入力される車両後方側への荷重に応じて前記クロスメンバを前記サイドメンバから離脱させるクロスメンバ離脱機構と
を備え、
前記クロスメンバ離脱機構は、前記クロスメンバの前記サイドメンバに対する上昇に応じて、前記離脱が生じる前記荷重が低下すること
を特徴とするシート。
【請求項2】
前記クロスメンバ離脱機構は、
前記サイドメンバに形成され上下方向に延在するとともに前記サイドメンバの表面側に対して溝底側が広げられた溝部と、
前記クロスメンバに設けられ前記溝部と係合する係合部とを有し、
前記サイドメンバの表面側における前記溝部の溝幅は、前記サイドメンバの下方側に対して上方側が広くなっていること
を特徴とする請求項1に記載のシート。
【請求項3】
筒状に形成され前記サイドメンバが挿入されるとともに、前記クロスメンバに追従して前記サイドメンバに対して昇降し、前記溝部が広がる方向の前記サイドメンバの変形を抑制する変形抑制部材を有すること
を特徴とする請求項2に記載のシート。
【請求項4】
前記変形抑制部材は、前記クロスメンバの上下にそれぞれ設けられること
を特徴とする請求項3に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員が着座するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のシートに関する技術として、例えば特許文献1には、車両用シートにおいて、車両が追突を受けた際、ヘッドレストを上昇させて乗員の頭部を有効に保護し、鞭打ちを軽減することが記載されている。
また、シートバックフレームの両サイド部の内壁面に第1のリンクアームが回動可能に取付けられており、第1のリンクアームの回動端側に第2のリンクアームが連結部で枢支されることが記載されている。また、この第2のリンクアーム間に荷重受け部材が横設されており、この第2のリンクアームの上端側に橋掛け状に設けた連結バーにヘッドレストを支持するホルダブラケットが固着されていることが記載されている。
特許文献2には、車両用乗員拘束装置を構成する可動支持体として、ヘッドレストの後方側に配置される鞭打ち軽減バーを備えることが記載されている。鞭打ち軽減バーは、シート幅方向に沿って延びる連結部と、連結部のシート幅方向両端部から垂下された左右一対の被案内部とを有して構成され、左右の被案内部は、左右のスライダ及び左右のガイドパイプを介してシートバックフレームの左右の側部に支持されることが記載されている。
特許文献3には、ヘッドレスト部、背当部、腰当部を有する背もたれを備えた車両用シートにおいて、ヘッドレスト部と背当部との間、及び、背当部と腰当部との間がそれぞれ伸縮可能とされたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11- 34707号公報
【特許文献2】特開2013-203349号公報
【特許文献3】実開昭56- 18752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車等の車両において、後面衝突で発生する鞭打ち傷害を抑制するため、ヘッドレスト構造によって後頭部を斜め上方から支持し、頸部の後屈を抑制する手法が一般的である。
しかし、乗員の体格が極度に小さい場合には、ヘッドレストの下端部付近に後頭部の最も出っ張った箇所が配置される場合がある。
このような状態では、上体がバックレスト構造に潜り込んでしまうため、後頭部がヘッドレストに押し出されて、頸部が一般的な後面衝突時の挙動とは逆の前屈状態となり、傷害が発生することが懸念される。
これに対し、ヘッドレストの可動範囲(調整可能範囲)を下方に拡大することも考えられるが、この場合スペース、強度や、比較的体格が大きい乗員が着座した場合の快適性を確保することが困難である。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、後面衝突に起因する乗員の傷害を抑制したシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係るシートは、車両の乗員が着座するシートであって、前記乗員の背部と対向するバックレストと、前記バックレストの上部に設けられたヘッドレストと、前記バックレストの左右側端部に沿って上下方向に延在するサイドメンバを有するバックレストフレームと、左右の前記サイドメンバにわたして設けられ前記サイドメンバに対して昇降可能に取り付けられたクロスメンバと、前記ヘッドレストから下方に突出し前記クロスメンバに連結されたヘッドレストポストと、前記クロスメンバに入力される車両後方側への荷重に応じて前記クロスメンバを前記サイドメンバから離脱させるクロスメンバ離脱機構とを備え、前記クロスメンバ離脱機構は、前記クロスメンバの前記サイドメンバに対する上昇に応じて、前記離脱が生じる前記荷重が低下することを特徴とする。
これによれば、体格が小さい乗員の場合には、後面衝突の発生時に乗員の上体の背部から入力される後向きの荷重をクロスメンバで受けることにより、乗員の上体が過度にバックレストに潜り込むことを防止できる。
このため、乗員の後頭部がヘッドレストに押されることによる頸部の前屈挙動を軽減することができる。
一方、体格が大きい乗員の場合には、ヘッドレストとともにクロスメンバが上昇することから、クロスメンバ離脱機構が離脱する荷重が低下し、クロスメンバが離脱しやすくなる。
後面衝突の発生時には、クロスメンバを離脱させることにより、乗員の上体を適度にバックレストに潜り込ませるとともにヘッドレストで頭部を支持することにより、頸部の後屈による鞭打ち傷害の発生を抑制することができる。
【0006】
本発明において、前記クロスメンバ離脱機構は、前記サイドメンバに形成され上下方向に延在するとともに前記サイドメンバの表面側に対して溝底側が広げられた溝部と、前記クロスメンバに設けられ前記溝部と係合する係合部とを有し、前記サイドメンバの表面側における前記溝部の溝幅は、前記サイドメンバの下方側に対して上方側が広くなっている構成とすることができる。
これによれば、簡単な構成により上述した効果を得ることができる。
【0007】
本発明において、筒状に形成され前記サイドメンバが挿入されるとともに、前記クロスメンバに追従して前記サイドメンバに対して昇降し、前記溝部が広がる方向の前記サイドメンバの変形を抑制する変形抑制部材を有する構成とすることができる。
これによれば、変形抑制部材が設けられた箇所においては溝部が広がる方向のサイドメンバの変形が抑制されることから、クロスメンバの離脱が生じる荷重を適切に設定することができる。
この場合、前記変形抑制部材は、前記クロスメンバの上下にそれぞれ設けられる構成とすることができる。
これによれば、上述した効果をよりいっそう促進できる。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、後面衝突に起因する乗員の傷害を抑制したシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明を適用したシートの実施形態に乗員が着座した状態を示す模式的側面視図である。
図2図1のII-II部矢視模式的透視図である。
図3図2のIII-III部矢視模式的断面図である。
図4】内筒にサイドメンバが挿入された状態を模式的に示す斜視図である。
図5】本発明の比較例のシートに体型が小さい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
図6】実施形態のシートに体型が小さい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
図7】実施形態のシートに体型が大きい乗員が着座した状態を示す模式的側面視図である。
図8】実施形態のシートに体型が大きい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用したシートの実施形態について説明する。
実施形態のシートは、例えば、自動車等の車両の車室内に設けられ乗員が着座するものである。
図1は、実施形態のシートに乗員が着座した状態を示す模式的側面視図である。
【0011】
シート1は、シートクッション10、バックレスト20、ヘッドレスト30、バックレストフレーム40、クロスメンバ50、ヘッドレストポスト60、アッパテレスコピックカバー70、ロワテレスコピックカバー80、昇降装置90等を有する。
シートクッション10は、乗員Pの大腿部T、臀部Bが載せられる座面部分である。
シートクッション10は、水平方向にほぼ沿って配置された上面部を有する。
【0012】
バックレスト20は、乗員Pの上体UBの背部に対向して配置されている。
バックレスト20は、シートクッション10の後端部付近から上方へ張り出している。
バックレスト20の内部には、後述するバックレストフレーム40、クロスメンバ50、及び、ヘッドレストポスト60の下部が収容されている。
【0013】
ヘッドレスト30は、乗員Pの頭部Hの後方に設けられている。
ヘッドレスト30は、後述するヘッドレストポスト60を介して、クロスメンバ50に連結されている。
ヘッドレスト30は、バックレストフレーム40に対するクロスメンバ50の昇降と連動して、バックレスト20に対して昇降する。
【0014】
バックレストフレーム40は、バックレスト20の内部に配置された枠体状の構造部材である。
バックレスト20は、バックレストフレーム40及びクロスメンバ50を芯材とし、その周囲に、例えば発泡ウレタン樹脂などの弾性、可撓性を有するクッション材を設けて構成されている。
【0015】
図2は、図1のII-II部矢視模式的透視図である。
バックレストフレーム40は、アッパメンバ41、サイドメンバ42等を有する。
アッパメンバ41は、バックレスト20の上端部近傍に設けられている。
アッパメンバ41は、左右方向に延在する梁状の部分である。
サイドメンバ42は、バックレスト20の側端部近傍に設けられている。
サイドメンバ42は、上下方向に延在する柱状の部分である。
サイドメンバ42の上端部は、アッパメンバ41の左右側端部にそれぞれ接続されている。
アッパメンバ41、サイドメンバ42は、例えば共通の丸パイプ材を曲げ加工して一体に形成される。
【0016】
サイドメンバ42の後面部には、スリット状に開口した溝部43が形成されている。
溝部43は、クロスメンバ50の側端に設けられた係合部51が取り付けられる部分である。
溝部43は、サイドメンバ42の周面を貫通して形成されている。
溝部43は、サイドメンバ42の長手方向に沿って延在する長穴として形成されている。
溝部43の左右方向の幅は、下方に対して上方が広がるよう上下方向に沿って連続的に変化している。
【0017】
クロスメンバ50は、左右のサイドメンバ42の間にわたして左右方向に延在する梁状の部材である。
クロスメンバ50は、バックレストフレーム40に対して上下方向に相対変位可能となっている。
クロスメンバ50の左右両端部には、係合部51が設けられている。
係合部51は、突端部がサイドメンバ42の溝部43に挿入されることでサイドメンバ42に取り付けられる。
溝部43は、係合部51を上下方向に案内するガイドレールとして機能する。
【0018】
図3は、図2のIII-III部矢視模式的断面図である。
クロスメンバ50の係合部51は、クロスメンバ50の端部から前方側へ突出するとともに、前端部において左右方向に広がった形状(断面がT字状となる形状)を有する。
サイドメンバ40は、溝部43の内側に、係合部51を収容する空間部44を有する。
空間部44は、例えば、係合部51を収容可能な矩形の断面形状を有する。
このような空間部44は、例えば、サイドメンバ42を構成する丸パイプ材の内側に、Cチャンネル材を溶接等で固着させることによって形成可能である。
溝部43及び空間部44は、サイドメンバ42の表面側に対して溝底側(車両前方側)が広げられたT溝(T Slot)状の溝部として機能する。
【0019】
溝部43の幅は、上端部付近において、係合部51の最大幅よりも大きくなるように設定される。
これにより、係合部51を溝部43から空間部44内へ挿入し、クロスメンバ50をバックレストフレーム40に組み付けることが可能となる。
また、溝部43の上端部付近以外の領域においては、溝部43の幅は、係合部51の最大幅よりも小さくなるよう設定される。
これにより、車両の通常使用時等におけるバックレストフレーム40からのクロスメンバ50の離脱が防止される。
特に、溝部43の下端部近傍の領域においては、後面衝突時に乗員Pの上体UBから受ける荷重によって、係合部51が溝部43から離脱しないよう、溝部43の幅は他の領域に対して狭く設定される。
【0020】
溝部43の下端部近傍の領域以外の領域に係合部51が係合されている状態においては、例えば車両の後面衝突などにより、クロスメンバ50に車両後方側への入力があった場合に、溝部43の縁部が広がるように変形して、溝部43から係合部51が離脱するようになっている。
溝部43、係合部51は、本発明のクロスメンバ離脱機構として機能する。
ここで、溝部43の幅を上下方向に変化させたことにより、係合部51が離脱する荷重の大きさは、クロスメンバ50の上昇に応じて小さくなる。
つまり、クロスメンバ50は、下方に配置された状態においては離脱し難く、上方へ配置された状態においては離脱しやすくなる。
【0021】
ヘッドレストポスト60は、ヘッドレスト30から下方に突出した柱状の部材である。
ヘッドレストポスト60は、左右方向に離間して一対が設けられる。
ヘッドレストポスト60の下端部は、クロスメンバ50の中間部に連結され固定されている。
ヘッドレストポスト60の中間部は、ガイド部材61を介してバックレストフレーム40のアッパメンバ41の中間部に取り付けられている。
ガイド部材61は、例えば、ヘッドレストポスト60が挿入される筒状に形成されている。
ガイド部材61は、ヘッドレストポスト60の昇降を許容しつつ、前後方向、左右方向にはヘッドレストポスト60が動かないよう拘束する。
また、ガイド部材61は、クロスメンバ50の離脱が生じた場合には、ヘッドレストポスト60がアッパメンバ41の長手方向回りに回動(揺動)することを許容する。
【0022】
アッパテレスコピックカバー70、ロワテレスコピックカバー80は、溝部43において係合部51が係合している領域以外の領域をカバーする装置である。
アッパテレスコピックカバー70、ロワテレスコピックカバー80は、係合部51の上下にそれぞれ設けられている。
【0023】
アッパテレスコピックカバー70は、内筒71、外筒72等を有する。
内筒71は、内径側にサイドメンバ42が挿入される円筒状の部材である。
内筒71の内周面は、サイドメンバ42の外周面と、摺動可能な状態で対向して配置されている。
図4は、内筒にサイドメンバが挿入された状態を模式的に示す斜視図である。
内筒71は、溝部43と重畳して配置される領域においては、係合部51に車両後方側への荷重が負荷された際に、溝部43の縁部等の変形を抑制し、係合部51の離脱を抑制する変形抑制部材としての機能を有する。
【0024】
内筒71は、係合部51のサイドメンバ42に対する昇降に追従して、サイドメンバ42に対して昇降する。
内筒71の下端部は、図示しない連結部により、係合部51に連結されている。
外筒72は、内径側に内筒71が挿入される円筒状の部材である。
外筒72は、サイドメンバ42に固定されるとともに、内筒71の上部をサイドメンバ42に対して昇降可能に支持し、案内する。
【0025】
ロワテレスコピックカバー80は、内筒81、外筒82を有し、これらはアッパテレスコピックカバー70の内筒71、外筒82を上下反転させた構成を備えている。
【0026】
昇降装置90は、例えば電動モータ等のアクチュエータを用いて、ヘッドレスト30、クロスメンバ50、ヘッドレストポスト60を、バックレストフレーム40に対して上下方向に駆動するものである。
昇降装置90は、例えば、電動モータによって駆動されるリールと、クロスメンバ50とをワイヤWで接続し、ワイヤWの巻き上げ、巻き戻しによってヘッドレスト30等を昇降駆動する構成とすることができる。
【0027】
以下、実施形態のシートの効果について、本発明の比較例と対比しつつ説明する。
図5は、比較例のシートに体型が小さい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
なお、本明細書等において、体型が小さいとは、座高が低くヘッドレスト30を調整範囲下限まで降下させても頭部Hとヘッドレスト30との位置関係を適切に設定できない(後頭部の最も出っ張った箇所がヘッドレスト30の下端部以下)程度の体型を示すものとする。
また、比較例において、上述した実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0028】
比較例のシート1Aは、実施形態のシート1からクロスメンバ50及びこれに関連する構成を除去したものである。
図5に示すように、体型が小さい乗員Pの上体UBはバックレスト20(左右のサイドメンバ42の間隔)に深く潜り込んでしまう。
その結果、乗員Pの頭部はヘッドレスト30やアッパメンバ41によって強く前方側に押され、頸部が前屈してしまう。
【0029】
図6は、実施形態のシートに体型が小さい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
実施形態においては、クロスメンバ50が乗員Pの上体UBの肩部、背部を支持することにより、上体UBのバックレスト20への潜り込みが抑制される。
その結果、頸部の前屈挙動も軽減される。
【0030】
図7は、実施形態のシートに体型が大きい乗員が着座した状態を示す模式的側面視図である。
図8は、実施形態のシートに体型が大きい乗員が着座して後面衝突を受けた状態を示す模式的側面視図である。
体型が大きい乗員Pの場合には、ヘッドレスト30を上昇させた状態で着座することから、クロスメンバ50もバックレストフレーム40に対して上昇することになる。
この状態で車両が後面衝突を受けた場合、乗員Pの上体UBからクロスメンバ50に入力される後向の荷重により、クロスメンバ50が後方側へ離脱する。
このため、乗員Pの上体UBはバックレスト20に適度に潜り込むことが可能となり、ヘッドレストポスト60の下端部が後退することでヘッドレスト30が前傾し、頭部Hを支持して径部の後屈による鞭打ち傷害の発生を防止することができる。
【0031】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)体格が小さい乗員Pの場合には、後面衝突の発生時に乗員Pの上体UBの背部から入力される後向きの荷重をクロスメンバ50で受けることにより、乗員の上体UBが過度にバックレスト20に潜り込むことを防止できる。
このため、乗員Pの後頭部がヘッドレスト30に押されることによる頸部の前屈挙動を軽減することができる。
一方、体格が大きい乗員Pの場合には、ヘッドレスト30とともにクロスメンバ50が上昇することから、係合部51がサイドメンバ42の溝部43から離脱する荷重が低下し、クロスメンバ50が離脱しやすくなる。
後面衝突の発生時には、クロスメンバ50を離脱させることにより、乗員Pの上体UBを適度にバックレスト20に潜り込ませるとともにヘッドレスト30で頭部Hを支持することにより、頸部の後屈による鞭打ち傷害の発生を抑制することができる。
(2)クロスメンバ離脱機構は、サイドメンバ42に形成され上下方向に延在するとともにサイドメンバ42の表面側に対して溝底側が広げられた溝部43、空間部44と、クロスメンバ50に設けられ溝部43と係合する係合部51とを有し、サイドメンバ42の表面側における溝部43の幅は、サイドメンバ42の下方側に対して上方側が広くなっている構成とすることにより、簡単な構成により上述した効果を得ることができる。
(3)筒状に形成されサイドメンバ42が挿入されるとともに、クロスメンバ50に追従してサイドメンバ42に対して昇降し、溝部43が広がる方向のサイドメンバ42の変形を抑制する内筒71,81を有することにより、内筒71,81が設けられた箇所においては溝部43が広がる方向のサイドメンバ42の変形が抑制されることから、クロスメンバ50の離脱が生じる荷重を適切に設定することができる。
【0032】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
シートを構成する各部材の形状、構造、材質、製法、数量、配置等は、上述した実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。
例えば、クロスメンバ離脱機構の具体的な構成は、上述した実施形態に限定されず適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 シート(実施形態) 1A シート(比較例)
10 シートクッション 20 バックレスト
30 ヘッドレスト 40 バックレストフレーム
41 アッパメンバ 42 サイドメンバ
43 溝部 44 空間部
50 クロスメンバ 51 係合部
60 ヘッドレストポスト 61 ガイド部材
70 アッパテレスコピックカバー 71 内筒
72 外筒 80 ロワテレスコピックカバー
81 内筒 82 外筒
90 昇降装置 W ワイヤ
P 乗員 H 頭部
UB 上体 T 大腿部
B 臀部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8