(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130756
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20240920BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01L21/60 301A
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040650
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日向 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】金井 直之
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044AA02
5F044EE00
5F044FF05
5F044FF06
(57)【要約】
【課題】ボンディングワイヤの接合部に発生するひずみを低減できる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置の一態様は、半導体チップ20と、半導体チップ20に設けられた電極と電気的に接続されるボンディングワイヤと、半導体チップ20の電極に接合された接続用基板90と、を備え、接続用基板90の熱膨張係数α1は、ボンディングワイヤの熱膨張係数α1と同じ、又は、ボンディングワイヤの熱膨張係数α1よりも所定値d以下の範囲内の値であり、ボンディングワイヤでα1は接続用基板90に接合され、接続用基板90を通じて電極に導通する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップと、
前記半導体チップに設けられた電極と電気的に接続されるボンディングワイヤと、
前記半導体チップの前記電極に接合された接続用基板と、を備え、
前記接続用基板の熱膨張係数は、前記ボンディングワイヤの熱膨張係数と同じ、又は、前記ボンディングワイヤの熱膨張係数よりも所定値以下の範囲内の値であり、
前記ボンディングワイヤは、前記接続用基板に接合され、前記接続用基板を通じて前記電極に導通する、
半導体装置。
【請求項2】
前記接続用基板と前記電極との接合部のせん断強度は、
前記ボンディングワイヤと前記電極とがワイヤボンディングされたときのワイヤボンディング接合部のせん断強度に比べて強い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体チップを搭載する絶縁配線基板と、
前記電極、及び前記絶縁配線基板を電気的に接続する板状の配線部材と、
を更に備え、
前記接続用基板と前記電極との接合に用いられる前記接合材料が、前記配線部材と前記電極との接合に用いられる接合材料と同じである
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記接続用基板の熱伝導率が前記半導体チップを搭載する絶縁配線基板も低い
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記接続用基板は、
第1主面、及び第2主面を有し、前記第1主面及び前記第2主面の間を貫通する1つ以上のスルーホールが設けられた基板と、
前記第1主面に設けられ、前記ボンディングワイヤが接合される導電性の第1配線層と、
前記第2主面に設けられ、前記半導体チップの電極に接合される導電性の第2配線層と、
前記スルーホールの壁面に設けられ、前記第1配線層と前記第2配線層とを繋ぐ導電性の第3配線層と、
を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記スルーホールの前記第1主面からみた開口形状が長孔形状である、
請求項5に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置において、高温の負荷条件下で、電力半導体素子のAlワイヤ接合部に早期にクラックが発生し、従来から要求されていた寿命が得られないという課題が生じることが示されている。また、特許文献1には、Alワイヤと電力半導体素子の中間の線膨張係数を有するバッファプレートを設けることにより、高温で熱膨張する際にAlワイヤの接合部に加わる応力を軽減することが示されている。
【0003】
特許文献2には、半導体素子に接続された枕部と、枕部に接続されたワイヤ部と、を有し、かつ、枕部の線膨張係数が、半導体素子の第1導電層の線膨張係数よりも小である半導体装置が示されており、この半導体装置によれば、ワイヤの剥離が抑制されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-253950号公報
【特許文献2】国際公開第2020/054688号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、及び特許文献2の技術においては、ボンディングワイヤと、当該ボンディングワイヤが接合される箇所との熱膨張係数の差が比較的大きい。このため、ボンディングワイヤの接合部におけるひずみの低減、及び当該ひずみに起因するクラックの発生を抑える点において更なる改善の余地がある。
【0006】
本開示は、ボンディングワイヤの接合部に発生するひずみを低減できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの態様に係る半導体装置は、半導体チップと、前記半導体チップに設けられた電極と電気的に接続されるボンディングワイヤと、前記半導体チップの前記電極に接合された接続用基板と、を備え、前記接続用基板の熱膨張係数は、前記ボンディングワイヤの熱膨張係数と同じ、又は、前記ボンディングワイヤの熱膨張係数よりも所定値以下の範囲内の値であり、前記ボンディングワイヤは、前記接続用基板に接合され、前記接続用基板を通じて前記電極に導通する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の1つの態様によれば、ワイヤの接合部に発生するひずみを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る半導体装置の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】半導体装置の構成の一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】接続用基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図4】接続用基板の構成の一例を模式的に示す平面図である。
【
図5】接続用基板の有無による、第2ワイヤの接合部におけるひずみの違いを示す図である。
【
図6】接続用基板に用いられる材料の例を示す図である
【
図7】半導体装置の製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の変形例1に係る接続用基板の構成の一例を模式的に示す平面図である。
【
図9】本開示の変形例2に係る接続用基板を備えた半導体装置の一例を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、各図面においては、各要素の寸法及び縮尺が実際の製品とは相違する場合がある。また、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態に限定されない。
【0011】
1.実施形態
図1は本実施形態に係る半導体装置1の構成の一例を模式的に示す断面図であり、
図2は半導体装置1の構成の一例を模式的に示す平面図である。
同図に示す半導体装置1は本開示の半導体装置の一例である。半導体装置1は、
図1に示すように、第1主面10A、及び第2主面10Bを有する板状の絶縁配線基板10と、当該絶縁配線基板10の第1主面10Aの側に設けられた半導体チップ20と、第1主端子30-1と、第2主端子30-2と、制御端子40と、を備える。第1主端子30-1、第2主端子30-2、及び制御端子40は、それぞれ半導体チップ20の互いに異なる電極に電気的に接続される端子であり、それぞれが半導体装置1の外部の回路に接続される。
【0012】
以下の説明において、絶縁配線基板10からみて半導体チップ20が設けられている方向を「上」と定義し、その反対方向を「下」と定義する。また、「平面視」における平面は、上方から対象物を視た平面である。
【0013】
絶縁配線基板10は、電気的絶縁性を有する板状の絶縁層100を含み、この絶縁層100の第1主面10A、及び第2主面10Bのそれぞれに第1導電層101、及び第2導電層102が形成される。絶縁層100としては、アルミナ(Al2O3)、アルミナ(Al2O3)を主成分とする複合セラミックス、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等を用いることができる。第1導電層101、及び第2導電層102は、それぞれ電気的な回路を構成するためのパターンを含み、第1導電層101、及び第2導電層102の主材には導電性、及び加工性に優れた材料が用いられる。この材料の例には、銅(Cu)、及びアルミニウム(Al)などの金属が挙げられる。
【0014】
第1導電層101は、
図2に示すように、第1主端子30-1が接続される第1パターン101P1と、半導体チップ20、及び第2主端子30-2が接続される第2パターン101P2と、制御端子40が接続される第3パターン101P3と、を含む。本実施形態の半導体装置1は補助端子50を更に備えており、第1導電層101は、補助端子50が接続される第4パターン101P4を更に含む。
第1主端子30-1、第2主端子30-2、制御端子40、及び補助端子50と、対応するパターンとの接合にははんだ接合及び超音波接合やレーザー溶接等の適宜の接合手法が用いられる。また、第1主端子30-1、第2主端子30-2、制御端子40、及び補助端子50の形状、材料、及び製造方法については任意である。なお、
図1では補助端子50が省略されている。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の半導体チップ20は、シリコン(Si)、炭化珪素(SiC)、又は、窒化ガリウム(GaN)などを主材とする平面視略矩形状、かつ、第1主面20A、及び第2主面20Bを有する板状の電子部品である。
図2に示すように、第1主面20Aには第1電極201、及び第3電極203の互いに異なる2つの電極が形成されている。また、
図1に示すように、第2主面20Bには第2電極202が形成されている。そして、第2主面20Bが焼結材60によって第2パターン101P2に接合される。焼結材60は導電性を有する接合材料であり、当該焼結材60を通じて半導体チップ20の第2電極202と第2パターン101P2とが電気的に接続される。
【0016】
一方、半導体チップ20において、
図2に示すように、第1主面20Aの第1電極201が配線部材70によって第1パターン101P1に電気的に接続され、第3電極203が第1ワイヤ80-1によって第3パターン101P3に電気的に接続される。さらに、本実施形態の第1電極201は、上記第1パターン101P1の他に、第4パターン101P4に第2ワイヤ80-2によって電気的に接続される。
【0017】
第1ワイヤ80-1、及び、第2ワイヤ80-2は、それぞれ、アルミニウム、及び銅などの金属を主材とするボンディングワイヤである。すなわち、第1ワイヤ80-1の両端が、それぞれワイヤボンディングによって第3電極203、及び第3パターン101P3に接合される。また、第2ワイヤ80-2の両端が、それぞれワイヤボンディングによって第1電極201、及び第4パターン101P4に接合される。なお、本実施形態において、第1電極201には接続用基板90が焼結材60によって接合されており、第2ワイヤ80-2の一端部は当該接続用基板90にワイヤボンディングによって接続される。接続用基板90、及び焼結材60については後に詳述する。
【0018】
配線部材70は、第1電極201と第1パターン101P1との間を延びる略板状の導電性部材であり、少なくとも断面積がボンディングワイヤよりも大きな部材である。配線部材70と第1パターン101P1、及び第1電極201との接合は、半導体チップ20と第2パターン101P2との接合に用いられる焼結材60を用いて行われる。
【0019】
配線部材70はボンディングワイヤに比べて大きな電流を流すことが可能であるため、より大電流に適した半導体装置1が得られる。なお、配線部材70の具体的な材料、及び形状は適宜であり、例えば、銅などの金属製の板状の部材などであってもよい。
【0020】
半導体チップ20は、例えば、パワー半導体素子の1つであるIGBT(InsulatedGateBipolarTransistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、又は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)、及び、BJT(Bipolar junction transistor)などのスイッチング素子である。
以下では半導体チップ20がIGBTである場合を説明する。この場合、第1電極201、及び第1主端子30-1は、それぞれエミッタ電極、及びエミッタ端子に相当し、第2電極202、及び第2主端子30-2は、それぞれコレクタ電極、及びコレクタ端子に相当する。また第3電極203、及び制御端子40は、それぞれゲート電極、及びゲート端子に相当し、補助端子50は補助エミッタ端子に相当する。そして、半導体装置1において、ゲート端子である制御端子40へ印加される制御用の電圧が外部の回路によって制御されることにより、第1主端子30-1(エミッタ端子)と第2主端子30-2(コレクタ端子)との間の電流が制御される。
【0021】
第1主端子30-1(エミッタ端子)に流れる電流は比較的大きく、この電流による電圧降下の影響により、第1主端子30-1(エミッタ端子)と制御端子40との間に制御用の電圧を正確に印加することが難しい場合がある。この問題を解消するために補助端子50が用いられる。補助端子50は、上述の通り、第1主端子30-1と同じ第1電極201(エミッタ電極)に接続されているが、補助端子50に流れる電流は第1主端子30-1(エミッタ端子)に流れる電流に比べて非常に小さい端子である。したがって、補助端子50と制御端子40との間に制御用の電圧を外部の機器によって印加することで、電圧降下の影響を受けずに当該制御用の電圧を正確に印加することができる。
【0022】
ところで、本実施形態の半導体装置1は、ベースとなる放熱器などの部材と、当該ベースの部材に組み付けられた枠体とを含むケースに収められることによりパワー半導体モジュールとしてモジュール化される。係るパワー半導体モジュールの用途の一例には、車両、及び産業機器などに搭載された電動機を駆動するインバータ回路が挙げられる。当該インバータ回路において、パワー半導体モジュールの制御端子40には、オン/オフを繰り返すPWM(Pulse Width Modulation)信号が与えられる。そして、PWM信号のデューティ比、及び周波数等を可変することによって第1主端子30-1(エミッタ端子)、及び第2主端子30-2(コレクタ端子)の間の電流のオン/オフが制御され、当該電流のオン/オフの制御によって電動機の回転数、及び加速度等が可変される。
【0023】
一方、パワー半導体モジュールに組み込まれた半導体装置1にあっては、第1主端子30-1、及び第2主端子30-2の間の電流のオン/オフに伴い、半導体チップ20が自身の電気抵抗により発熱と冷却の熱サイクルを繰り返すことになる。したがって、半導体チップ20の第1主面20Aの電極にボンディングワイヤがワイヤボンディングによって接合されている構成においては、熱サイクルにより、半導体チップ20とボンディングワイヤの接合部との間の熱膨張係数の差によってひずみが生じる。このひずみに起因してボンディングワイヤの内部にクラックが進展し、最終的には断線することで半導体装置1が破壊に至ることがある。この結果、半導体チップ20それ自身、及び、配線部材70の接合部などが破壊される前にボンディングワイヤにおけるクラックの進展によって故障が生じることとなり、半導体装置1の寿命が想定寿命よりも短くなる可能性がある。
【0024】
また、パワー半導体モジュールについては、小型化、及び、冷却機構の簡素化などによる半導体装置1のコストダウンの要請などに起因して使用温度範囲が年々上昇しており、従前の使用温度範囲が175℃以下の温度域であるのに対し、近年の使用温度範囲は200℃以上の温度域にまで達している。このため、半導体チップ20における熱サイクルの温度差が大きくなり、半導体チップ20とボンディングワイヤの接合部との間のひずみが増大するため、ボンディングワイヤにおけるクラックの発生の問題はより顕著なものとなる。
【0025】
この問題に対し、例えば、半導体チップ20において、大電流が通電されない低発熱エリアを増やし、第1主面20Aの活性部の直上から外れた低発熱エリア上部に補助エミッタ電極を設け、当該補助エミッタ電極にボンディングワイヤを接合する、という手法が考え得る。しかしながら、低発熱エリアが半導体チップ20に設けられることにより、半導体チップ20のサイズ、及びコストが増大する、という新たな問題が生じる。
【0026】
そこで本実施形態の半導体装置1は、半導体チップ20の発熱エリアに相当する第1電極201の中に、上述の接続用基板90を接合し、当該接続用基板90に、ワイヤボンディング部材である第2ワイヤ80-2の一端部をワイヤボンディングすることにより、ボンディングワイヤにおけるクラックの発生を抑制している。
【0027】
なお、本実施形態の半導体装置1において、半導体チップ20の第1主面20Aには、
図2に示すように、第2ワイヤ80-2の他にも、第1ワイヤ80-1がワイヤボンディングされる。本実施形態の半導体チップ20は、この第1ワイヤ80-1が接合される第3電極203(本実施形態ではゲート電極)に相当するエリアが上述の低発熱エリアとなっており、このため、当該第1ワイヤ80-1の接合部において発生するひずみは十分に抑えられている。
一方、発熱エリアに相当する第1電極201(本実施形態ではエミッタ電極)には、第2ワイヤ80-2の他に配線部材70も接合されている。しかしながら、配線部材70の接合強度は第2ワイヤ80-2の強度に比べて高いため、熱サイクルによって仮に配線部材70の接合部に破壊が生じるとしても、この破壊よりも先に第2ワイヤ80-2において破壊が生じる。したがって、半導体装置1の寿命の短縮化の解決には、配線部材70よりも第2ワイヤ80-2における破壊を抑えることが必要不可欠である。
【0028】
[接続用基板90:構造・特性]
図3は接続用基板90の構成の一例を模式的に示す断面図であり、
図4は接続用基板90の構成の一例を模式的に示す平面図である。
接続用基板90は、
図3に示すように、第1主面90A、及び第2主面90Bを有する板状であり、第1主面90Aに第2ワイヤ80-2がワイヤボンディングによって接合され、また、第2主面90Bが半導体チップ20の第1電極201に焼結材60によって接合される部材である。この接続用基板90は、第1主面90Aと第2主面90Bとが導通し、かつ、第1主面90Aと第2主面90Bとの間を熱が伝わり難い構造を有する。加えて、接続用基板90は、半導体チップ20の動作時の高温度の範囲として想定される100℃以上200℃以下の範囲での熱膨張係数α1が、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2に応じた値、より具体的には、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2と同じ、又は、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2よりも所定値d以下の範囲内の値となっている。
【0029】
詳述すると、本実施形態の接続用基板90は、
図3に示すように、第1主面90A及び第2主面90Bに亘って貫通する1つ以上のスルーホール910が設けられた第1基板900と、この第1基板900の第1主面90Aに設けられた導電性の第1配線層911と、第2主面90Bに設けられた導電性の第2配線層912と、スルーホール910の壁面に設けられ、第1配線層911及び第2配線層912を導通させる導電性の第3配線層913と、を有する。
第1配線層911、第2配線層912、及び第3配線層913は、例えばめっき処理によって形成される。
【0030】
第1基板900は、絶縁配線基板10よりも10分の1以下の低い熱伝導率を有し、かつ、電気的絶縁性を有する板材である。絶縁配線基板10の熱伝導率は、5W/mK以下とすることができる。本実施形態ではプリント基板が第1基板900に用いられている。すなわち、第1基板900は、低熱伝導率、及び電気的絶縁性を有する基材から成る絶縁板901と、この絶縁板901の第1主面、及び第2主面のそれぞれに、略全面を覆う大きさに設けられた金属箔902とを有する。プリント基板は、リジット基板及びフレキシブル基板のいずれもよく、また金属箔902は例えば銅箔である。
【0031】
接続用基板90の第1主面90Aは、第2ワイヤ80-2がワイヤボンディング可能な大きさ以上、かつ、半導体チップ20の第1主面20Aのサイズ以内の大きさである。本実施形態では、第2ワイヤ80-2の断面の直径が約300μmであり、第1主面90Aのサイズは短辺L1が約1mm、長辺L2が約2mmとなっている。
係る第1主面90Aの第1配線層911には、
図3に示すように、第2ワイヤ80-2がワイヤボンディングによって接合され、また、第2配線層912には上述の焼結材60によって半導体チップ20の第1電極201に接合される。この接合により、第2ワイヤ80-2と第1電極201とが、第1配線層911、第2配線層912、及び第3配線層913を通じて導通する。
【0032】
ここで、第2ワイヤ80-2が接続用基板90に接続された状態においては、第2ワイヤ80-2と第1電極201との間に、半導体チップ20よりも低い熱伝導率の第1基板900が介在する。したがって、半導体チップ20が発熱した場合でも、第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pへ半導体チップ20から熱が伝わり難くなる。
【0033】
一般に、第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pに生じるひずみεは、当該接合部Pにおける温度変化ΔTに比例し、また、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2と接続用基板90の熱膨張係数α1との差である熱膨張係数差Δα(ただし、Δα=α2-α1)にも比例することが知られている。
【0034】
したがって、半導体チップ20から第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pへの伝熱が抑えられることによって、当該接合部Pの温度変化ΔTも抑えられるため、ひずみεが抑えられることになる。そして、ひずみεに起因した第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pにおけるクラックの発生、及び半導体装置1の寿命の短縮が抑えられる。
【0035】
また、上述の通り、接続用基板90の熱膨張係数α1は、熱膨張係数α2以下、かつ、(熱膨張係数α2-所定値d)以上の範囲の値に設定されている。本実施形態において所定値dは約9ppm/Kである。したがって、上述の熱膨張係数差Δαはゼロ以上、所定値d以下という小さな値となるため、熱膨張係数差Δαが小さいことによってもひずみεが抑えられている。なお、所定値dは、製品に求められる寿命によって設定され、所定値dが小さい値ほど、ひずみを小さくできる。
【0036】
なお、本実施形態の接続用基板90は、上述の通り、第1基板900、第1配線層911、及び第2配線層912の積層構造体であるため、接続用基板90の熱膨張係数α1は、例えば、特開2021-1550458号公報に記載されているように、線熱膨張係数の複合則(Turner, P.S. J. Research of the National Bureau of Standard 36, 239 1946)を用いて求められる。
【0037】
図5は、接続用基板90の有無による、第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pにおけるひずみεの違いを示す図である。
なお、接合部Pのひずみεは、第2ワイヤ80-2、及び、当該第2ワイヤ80-2が接合される部材のそれぞれの熱膨張係数に基づいて算出された値である。また、同図における温度変化ΔTは、熱サイクルにおいて室温から高温まで変化させたときの接合部Pの温度変化であり、接続用基板90の熱伝導率が0.4W/mKであると仮定してシミュレーションによって得られた値である。このシミュレーション結果に示されるように、接続用基板90が「有」の場合、「無」の場合に比べ接合部Pの温度が約10℃以上低くなることが分かる。
【0038】
また、
図5において、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2は、一般的なアルミニウムワイヤの値である。第2ワイヤ80-2が接合される部材の熱膨張係数は、接続用基板90が「有」の場合、当該接続用基板90の熱膨張係数α1であり、接続用基板90が「無」の場合、半導体チップ20の熱膨張係数α3である。熱膨張係数α3には、シリコン(Si)の値が用いられている。接続用基板90の熱膨張係数α3には、アルミニウム(Al)の値(=24)と、銅(Cu)の値(=15)とが用いられている。
【0039】
図5に示すように、接続用基板90が「無」の場合、ひずみεは約0.2%に達する。
これに対して、接続用基板90の熱膨張係数α1がアルミニウムの値、すなわち第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2と概ね等しい場合、ひずみεは約0.004%であり、「接続用基板90」が「無」の場合に比べ非常に小さな値となる。したがって、この場合、接合部Pにおけるクラックは、接続用基板90が「無」の場合に比べて非常に発生し難くなることが分かる。
【0040】
また、接続用基板90の熱膨張係数α1が銅の値、すなわち第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2よりも約8~9ppm/K以下の値の場合でも、ひずみεは約0.08%程度に抑えられる。この値は、接続用基板90が「無」の場合に比べて約3分の1であり十分に低い値である。したがって、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2と接続用基板90の熱膨張係数α1の差、すなわち上記所定値dが約8~9ppm/Kであっても、ひずみεが十分に抑えられ、クラックの発生が抑制されることが分かる。
【0041】
[接続用基板90:材料例]
図6は、接続用基板90に用いられる材料の2つの例を示す図である。
同図において、第1の例、及び第2の例は、いずれも、アルミニウム(Al)、及び銅(Cu)のいずれかに近い熱膨張係数α1を実現でき、第1基板900の熱伝導率が上述の低い熱伝導率に相当し、なおかつ、第1基板900が焼結材60の焼結のための加圧、及び加熱に耐え得る材料の例である。
また第1の例は、接続用基板90がフレキシブル基板のように柔軟性を有する例であり、第2の例は、接続用基板90がリジット基板のように柔軟性を有さない例である。
第1の例、及び第2の例に示すように、第1配線層911、及び第2配線層912の主材には銅(Cu)やアルミニウム(Al)が用いられてもよく、また、第1基板900には、フレキシブル基板に用いられるカプトン(登録商標)などのポリイミド材料、及びリジッド基板に用いられるガラスエポキシ系材料が用いられてもよい。
そして、第1の例、及び第2の例のいずれの材料の組み合わせにおいても、第1配線層911、第2配線層912、及び第1基板900のそれぞれの厚みを調整することによって、接続用基板90の熱膨張係数α3がアルミニウム、又は銅の値に近付けることができる。
【0042】
[接続用基板90:焼結材60]
接続用基板90と半導体チップ20との接合には、上述の通り、導電性を有する焼結材60が用いられる。この焼結材60は、配線部材70と第1電極201との接合に用いられる接合材料と同じである。したがって、製造工程においては、配線部材70と半導体チップ20との接合のための焼結材60を塗布した後に、別の接合材材料を接続用基板90の接合のために塗布する必要がなく、製造コストを抑えることができる。
【0043】
ここで、接続用基板90と半導体チップ20との間のせん断強度が第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pのせん断強度よりも弱い場合、接続用基板90と半導体チップ20の接合箇所が接合部Pよりも先に破壊されることがある。そこで、接続用基板90と半導体チップ20とは、第2ワイヤ80-2と第1電極201とがワイヤボンディングされたときのワイヤボンディング接合部よりも強いせん断強度が得られる接合材料、より具体的には、焼結型の接合材料である焼結材60を用いて接合される。焼結型の接合材料としては、例えば、銀粒子や銅粒子を主材とする材料が用いられる。これらのせん断強度(MPa)は、JIS Z 3198-7(チップ部品のはんだ継手せん断試験方法)に基づくシェア試験により測定できる。
【0044】
[半導体装置1の製造工程]
図7は半導体装置1の製造工程の一例を示すフローチャートである。
同図に示すように、先ず、絶縁配線基板10を製造装置のステージにセットし(ステップSa1)、絶縁配線基板10の第1主面10Aの第1パターン101P1および第2パターン101P2上に接合材を塗布によって搭載する(ステップSa2)。本実施形態において、この接合材は焼結材60である。第1パターン101P1上の焼結材60と第2パターン101P2上の焼結材60は同じ材料であってよい。次いで、この接合材の上に半導体チップ20を搭載する(ステップSa3)。
【0045】
次に、半導体チップ20の第1主面10Aに接合材を塗布により搭載する(ステップSa4)。本実施形態において、この接合材は焼結材60である。この焼結材60は、第1パターン101P1上の焼結材60および第2パターン101P2上の焼結材60とは異なる材料であってよい。次いで、この焼結材の上に配線部材70を搭載し(ステップSa5)、また、この焼結材の上に接続用基板90を搭載する(ステップSa6)。このように、配線部材70と半導体チップ20との接合、及び、接続用基板90と半導体チップ20との接合のそれぞれに同じ焼結材60が用いられるため、ステップSa6において、ステップSa5とは別に接合材料を塗布する必要がない。
【0046】
次いで、半導体チップ20などが搭載された絶縁配線基板10を加熱炉に入れて加熱することにより、接合材である焼結材60を焼結させ、接合材に搭載されている各部材を接合する(ステップSa7)。次に、第2ワイヤ80-2の両端をワイヤボンディングにより、接続用基板90、及び、絶縁配線基板10の第4パターン101P4にそれぞれ接合する(ステップSa8)。
その後、第1主端子30-1、第2主端子30-2、制御端子40、及び補助端子50などの各種の端子を、例えば超音波接合、及びはんだ接合などにより絶縁配線基板10に接合する(ステップSa9)。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の半導体装置1は、半導体チップ20と、半導体チップ20に設けられた第1電極201と電気的に接続される第2ワイヤ80-2と、半導体チップ20の第1電極201に接合された接続用基板90と、を備える。そして、接続用基板90の熱膨張係数α1は、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2と同じ、又は、第2ワイヤ80-2の熱膨張係数α2よりも所定値d以下の範囲内の値であり、第2ワイヤ80-2は、接続用基板90に接合され、この接続用基板90を通じて第1電極201に導通する。
この構成によれば、接続用基板90の熱膨張係数α1が第2ワイヤ80-2と同じ、又は所定値dの範囲内であるため、半導体チップ20の熱サイクルにおいて発生するひずみεが抑えられ、当該ひずみεに起因したクラックの発生が抑えられる。
【0048】
本実施形態の半導体装置1において、接続用基板90と第1電極201とのせん断強度は、第2ワイヤ80-2と第1電極201とがワイヤボンディングされたときのワイヤボンディング接合部のせん断強度よりも強い。
この構成によれば、第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pよりも先に接続用基板90と第1電極201の接合箇所にクラックなどの破壊が生じることを確実に防止できる。
【0049】
本実施形態の半導体装置1において、半導体チップ20を搭載する絶縁配線基板10と、第1電極201、及び絶縁配線基板10を電気的に接続する板状の配線部材70と、を更に備え、接続用基板90と第1電極201との接合に用いられる接合材料が、配線部材70と第1電極201との接合に用いられる接合材料と同じである。
この構成によれば、配線部材70と半導体チップ20との接合のための接合材料を半導体チップ20に塗布した後に、当該塗布とは別の接合材材料を、接続用基板90の接合のために塗布する必要がなく、製造コストを抑えることができる。
【0050】
本実施形態の半導体装置1において、接続用基板90の熱伝導率は半導体チップ20よりも低い。
この構成によれば、第2ワイヤ80-2と第1電極201との間に半導体チップ20よりも低い熱伝導率の接続用基板90が介在する。したがって、半導体チップ20が発熱した場合でも、第2ワイヤ80-2の接続用基板90との接合部Pへ半導体チップ20から熱が伝わり難くなり、当該接合部Pで発生するひずみεが抑えられる。
【0051】
本実施形態の半導体装置1において、接続用基板90は、第1主面90A、及び第2主面90Bを有し、第1主面90A及び第2主面90Bに亘って貫通する1つ以上のスルーホールが設けられた第1基板900と、第1主面90Aに設けられ、第2ワイヤ80-2が接合される導電性の第1配線層911と、第2主面90Bに設けられ、半導体チップ20の第1電極201に接合される導電性の第2配線層912と、スルーホール910の壁面に設けられ、第1配線層911と第2配線層912とを導通させる導電性の第3配線層913と、を含む。
この構成によれば、第1主面90Aと第2主面90Bの導通をスルーホール910によって確保しつつ、絶縁板901により第2主面90Bから第1主面90A側への熱伝導を抑制することにより、第2ワイヤ80-2と第1主面90Aとの接合部Pの温度上昇が抑えられる。また、第1基板900、第1配線層911、及び第2配線層912のそれぞれの主材、及び厚みなどを変えることで、接続用基板90の電気的絶縁性や熱伝導率、熱膨張係数α1を調整できる。
【0052】
2.変形例
以上に例示した実施形態に付加される変形の形態を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の形態を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0053】
(変形例1)
図8は、変形例1に係る接続用基板90の構成の一例を模式的に示す平面図である。
接続用基板90における1つ以上のスルーホール910は、第1主面90Aからみた開口形状が前掲
図4に示す円形ではなく、
図8に示すように長孔形状でもよい。
【0054】
(変形例2)
接続用基板90は、
図9に示すように、半導体チップ20の第1主面20Aに設けられた第1電極201、及び第3電極203の両方を覆う形状(すなわち、複数の電極を覆う形状)であり、第1電極201と導通する第2ワイヤ80-2、及び第3電極203と導通する第1ワイヤ80-1の両方が接続用基板90に接合されてもよい。
より具体的には、接続用基板90の第1主面90Aの第1配線層911には、第1電極201と導通する第1領域902-1と、第3電極203と導通する第2領域902-2とを電気的に分離するための分離領域940が設けられる。分離領域940は例えば、第1配線層911を除去することによって形成される。また、図示を省略するが、第2主面90Bの第2配線層912にも同様に、第1電極201と導通する領域と、第3電極203と導通する領域とが分離領域によって分離されている。
そして、第1主面90Aにおいて、第1領域902-1には第2ワイヤ80-2が接合され、第2領域902-2には第1ワイヤ80-1が接合される。
なお、半導体チップ20の第1主面20Aに、例えば温度などの状態検出のためのボンディングワイヤが導通する他の電極が更に設けられる場合には、接続用基板90が、その電極も更に覆う形状とし、当該電極に対応する第3領域902-3が更に設けられてもよい。
【0055】
本変形例によれば、半導体チップ20に電気的に接続される複数のボンディングワイヤのそれぞれについて、半導体チップ20の熱サイクルに起因して発生するひずみが抑えられ、また、ひずみに起因するクラックの発生が抑えられる。
【0056】
(変形例3)
接続用基板90と半導体チップ20との接合に用いられる接合材料は、必ずしも、半導体チップ20と配線部材70との接合に用いられる接合材料と同じである必要はない。
また、接続用基板90と半導体チップ20との接合に用いられる接合材料は焼結材に限らない。すなわち、接合材料は、導電性を有し、かつ、ボンディングワイヤと半導体チップ20とがワイヤボンディングされたときのワイヤボンディング接合部よりも強いせん断強度が得られる材料であれば、例えば、金属接着剤、及び樹脂材の被覆などでせん断強度が補強されたはんだ等でもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…半導体装置、10…絶縁配線基板、20…半導体チップ、60…焼結材(接合材料)、70…配線部材、80-1…第1ワイヤ(ボンディングワイヤ)、80-2…第2ワイヤ(ボンディングワイヤ)、90…接続用基板、201…第1電極、202…第2電極、203…第3電極、910…スルーホール、911…第1配線層、912…第2配線層、913…第3配線層、P…接合部、d…所定値、α1、α2、α3…熱膨張係数。