(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130764
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】複合軟磁性粉末、複合軟磁性粉末の製造方法及び磁性部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20240920BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240920BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240920BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240920BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F1/14 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040664
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】今野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】松澤 覚
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC09
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC28
4K018CA02
4K018CA09
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA58
4K018KA63
4K018KA70
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA07
5E041AA11
5E041BB03
5E041BC01
5E041BC08
5E041CA02
5E041HB14
(57)【要約】
【課題】高温環境下や高温高湿環境下で長時間使用しても絶縁性能を維持することのできる磁性部品並びにそのような磁性部品に好適な材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性部品は、複合軟磁性粉末をバインダで結着してなるものである。複合軟磁性粉末は、軟磁性体金属からなる主粒子と、当該主粒子の表面を被覆する絶縁体層とを有している。絶縁体層は、Al,P及びOを含む非晶質層を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体金属からなる主粒子と、当該主粒子の表面を被覆する絶縁体層とを有する複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、Al,P及びOを含む非晶質層を有している
複合軟磁性粉末。
【請求項2】
請求項1記載の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、前記主粒子と前記非晶質層との間に位置すると共にZn,Siの少なくとも一方を含む濃縮層を更に有している
複合軟磁性粉末。
【請求項3】
請求項2記載の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、Zn,Siの少なくとも一方を含む付加的濃縮層を更に有しており、
前記非晶質層は、前記濃縮層と前記付加的濃縮層との間に位置している
複合軟磁性粉末。
【請求項4】
請求項1記載の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、前記非晶質層内にZnO微粒子を含んでいる
複合軟磁性粉末。
【請求項5】
軟磁性体金属からなる軟磁性粉末とトリポリリン酸二水素アルミニウムを含む絶縁粉末とを混ぜて、それらに対して機械的応力を作用させてメカノケミカル反応を起こすことにより、軟磁性粉末の粒子表面に絶縁体層を固着する、複合軟磁性粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の複合軟磁性粉末の製造方法であって、
前記絶縁粉末に二酸化ケイ素と酸化亜鉛の少なくとも一方を含む
複合軟磁性粉末の製造方法。
【請求項7】
複合軟磁性粉末をバインダで結着してなる磁性部品であって、
前記複合軟磁性粉末は、軟磁性体金属からなる主粒子と、当該主粒子の表面を被覆する絶縁体層とを有しており、
前記絶縁体層は、Al,P及びOを含む非晶質層を有している
磁性部品。
【請求項8】
請求項7記載の磁性部品であって、
前記絶縁体層は、前記非晶質層内にZnO微粒子を含んでいる
磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合軟磁性粉末及びその製造方法、並びに磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軟磁性粉末に対してトリポリリン酸アルミニウムを混合して成型することにより磁気コアを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載用のパワーインダクタのような用途の磁性部品については、使用環境が高温になりやすく、高湿度環境下での長時間に亘る使用も想定される。かかる使用を経ても、絶縁性能を維持し性能劣化を抑制できる磁性部品が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、高温環境下や高温高湿環境下で長時間使用しても絶縁性能を維持することのできる磁性部品並びにそのような磁性部品に好適な材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、第1の複合軟磁性粉末として、
軟磁性体金属からなる主粒子と、当該主粒子の表面を被覆する絶縁体層とを有する複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、Al,P及びOを含む非晶質層を有している
複合軟磁性粉末を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の複合軟磁性粉末として、第1の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、前記主粒子と前記非晶質層との間に位置すると共にZn,Siの少なくとも一方を含む濃縮層を更に有している
複合軟磁性粉末を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の複合軟磁性粉末として、第2の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、Zn,Siの少なくとも一方を含む付加的濃縮層を更に有しており、
前記非晶質層は、前記濃縮層と前記付加的濃縮層との間に位置している
複合軟磁性粉末を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の複合軟磁性粉末として、第1の複合軟磁性粉末であって、
前記絶縁体層は、前記非晶質層内にZnO微粒子を含んでいる
複合軟磁性粉末を提供する。
【0010】
また、本発明は、第1の複合軟磁性粉末の製造方法として、
軟磁性体金属からなる軟磁性粉末とトリポリリン酸二水素アルミニウムを含む絶縁粉末とを混ぜて、それらに対して機械的応力を作用させてメカノケミカル反応を起こすことにより、軟磁性粉末の粒子表面に絶縁体層を固着する、複合軟磁性粉末の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、第2の複合軟磁性粉末の製造方法として、第1の複合軟磁性粉末の製造方法であって、
前記絶縁粉末に二酸化ケイ素と酸化亜鉛の少なくとも一方を含む
複合軟磁性粉末の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、第1の磁性部品として、
複合軟磁性粉末をバインダで結着してなる磁性部品であって、
前記複合軟磁性粉末は、軟磁性体金属からなる主粒子と、当該主粒子の表面を被覆する絶縁体層とを有しており、
前記絶縁体層は、Al,P及びOを含む非晶質層を有している
磁性部品を提供する。
【0013】
また、本発明は、第2の磁性部品として、第1の磁性部品であって、
前記絶縁体層は、前記非晶質層内にZnO微粒子を含んでいる
磁性部品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による磁性部品は、高温環境下や高温高湿環境下で長時間使用しても絶縁性能を維持することができ、性能劣化を抑制することができる。また、本発明による複合軟磁性粉末は、そのような磁性部品の材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態による磁性部品を示す模式図である。図において、磁性部品の一部を拡大して示している。
【
図2】
図1の磁性部品の材料として用いられる複合軟磁性粉末を示す断面図である。図において、複合軟磁性粉末の一部を拡大して示している。
【
図3】実施例1の複合軟磁性粉末の断面の一部を示す透過型電子顕微鏡像(TEM像)である。
【
図4】
図3の点線Aで囲まれた部分を示す図である。図において、複合軟磁性粉末の一部を拡大して示している。
【
図5】
図3の点線Bで囲まれた部分を示す図である。図において、複合軟磁性粉末の一部を拡大して示している。
【
図6】実施例1の複合軟磁性粉末の一部を示す別のTEM像である。
【
図7】
図6の点線Cで囲まれた部分を示す図である。
【
図8】
図7の点線Eで囲まれた部分を示す図である。
【
図9】
図7の点線Fで囲まれた部分を示す図である。
【
図10】
図9のDIFF1における電子線回折像である。
【
図11】
図9のDIFF2における電子線回折像である。
【
図12】
図9のDIFF3における電子線回折像である。
【
図13】
図9のDIFF4における電子線回折像である。
【
図14】
図6の点線Dで囲まれた部分に係る走査透過型電子顕微鏡像(STEM像)及び元素マッピング像である。
【
図15】実施例1の複合軟磁性粉末の一部を示す別のSTEM像である。図において、エリア分析を行った箇所を、P1、P2、P3として夫々示している。
【
図16】実施例1の磁性部品の断面の一部を示すTEM像である。
【
図17】
図16の点線Gで囲まれた部分を示すTEM像である。図において、磁性部品の一部を拡大して示している。
【
図18】
図16の点線Hで囲まれた部分を示すTEM像である。図において、磁性部品の一部を拡大して示している。
【
図19】実施例1の磁性部品の断面の一部を示すSTEM像及び元素マッピング像である。
【
図20】実施例1の磁性部品の断面の一部を示すSTEM像である。図において、エリア分析を行った箇所を、PCとして示している。
【
図21】絶縁抵抗値と加熱時間との関係を示すグラフである。
【
図22】恒温恒湿条件下における絶縁抵抗値と静置時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(磁性部品)
図1を参照して、本発明の実施の形態の磁性部品600は、複合軟磁性粉末100をバインダ500で結着してなるものである。即ち、複合軟磁性粉末100は、硬化されたバインダ500で結着されている。
【0017】
(複合軟磁性粉末)
図2を参照して、本実施の形態の複合軟磁性粉末100は、軟磁性体金属からなる主粒子200と、当該主粒子200の表面を被覆する絶縁体層300とを有している。
【0018】
(主粒子)
図2を参照して、本実施の形態の主粒子200は、純鉄、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Fe-Al-Cr系、Fe-Ni系、Fe-B-P-Cu(-C)系、Fe-B-Si-P-Cu(-C)系、Fe-B-Si-Nb-Cu系、Fe-(Nb,Zr)-B系などである。
【0019】
(絶縁体層)
図2を参照して、本実施の形態の絶縁体層300の目的は、主粒子200の絶縁性の向上である。絶縁体層300は、金属酸化物等の無機物で構成されている。具体的には、
図2を参照して、本実施の形態の絶縁体層300は、Al,P及びOを含む非晶質層310を有している。絶縁体層300は、非晶質層310内にZnO微粒子312を含んでいる。なお、本発明はこれに限定されず、絶縁体層300は、非晶質層310内にZnO微粒子312を含んでいなくてもよい。非晶質層310は、Feを含有している。非晶質層310におけるFeの重量割合は、10wt%未満である。なお、本発明はこれに限定されず、非晶質層310におけるFeの重量割合は、10wt%以上であってもよい。
【0020】
絶縁体層300の原料としては、トリポリリン酸二水素アルミニウム(AIH2P3O10・2H2O)や、オルソリン酸アルミニウム(AlPO4)が挙げられる。絶縁体層300の原料としてトリポリリン酸二水素アルミニウムを使用すると、複合軟磁性粉末100において0.2wt%を超えるような比較的高い割合のAlやPを含む非晶質層310を安定して得ることができる。従って、絶縁体層300の原料としてはトリポリリン酸二水素アルミニウムが好ましい。
【0021】
図2を参照して、絶縁体層300の厚さTが1nmよりも薄い場合、主粒子200の間の絶縁性が低下し、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600の電気抵抗も低下する。このため、絶縁体層300の厚さTは、1nm以上である。特に、絶縁体層300の厚さTは、1nm~100nmの範囲にある。
【0022】
図2を参照して、絶縁体層300の厚さTは、高温加熱時における電気抵抗の劣化を考慮すると、10nm以上であることが好ましい。一方、絶縁体層300の厚さTの増大は、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600における主粒子200の割合の減少に繋がり、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600の透磁率の低下を招く。これにより、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600の磁気特性の観点から、絶縁体層300の厚さTは、70nm以下であることが好ましい。即ち、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600の電気抵抗と磁気特性の両立の観点から、絶縁体層300の厚さTは、10nm~70nmの範囲にあることが好ましい。
【0023】
図2に示されるように、本実施の形態の絶縁体層300は、主粒子200と非晶質層310との間に位置すると共にZn,Siの両方を含む濃縮層320を更に有している。なお、本発明はこれに限定されず、絶縁体層300は、主粒子200と非晶質層310との間に位置すると共にZn,Siの少なくとも一方を含む濃縮層320を有していればよい。
【0024】
(濃縮層)
本実施の形態の濃縮層320におけるZn及びSiの重量割合の合計は、非晶質層310おけるZn及びSiの重量割合の合計よりも大きい。特に、本実施の形態の濃縮層320におけるZnの重量割合は、非晶質層310おけるZnの重量割合よりも大きく、本実施の形態の濃縮層320におけるSiの重量割合は、非晶質層310おけるSiの重量割合よりも大きい。
【0025】
図2に示されるように、本実施の形態の絶縁体層300は、Zn,Siの両方を含む付加的濃縮層330を更に有している。なお、本発明はこれに限定されず、絶縁体層300は、Zn,Siの少なくとも一方を含む付加的濃縮層330を有していてもよい。
【0026】
(付加的濃縮層)
図2に示されるように、本実施の形態の付加的濃縮層330におけるZn及びSiの重量割合の合計は、非晶質層310おけるZn及びSiの重量割合の合計よりも大きい。特に、本実施の形態の付加的濃縮層330におけるZnの重量割合は、非晶質層310におけるZnの重量割合よりも大きく、本実施の形態の付加的濃縮層330におけるSiの重量割合は、非晶質層310におけるSiの重量割合よりも大きい。非晶質層310は、濃縮層320と付加的濃縮層330との間に位置している。
【0027】
複合軟磁性粉末100の製造方法では、軟磁性体金属からなる軟磁性粉末とトリポリリン酸二水素アルミニウムを含む絶縁粉末とを混ぜて、それらに対して機械的応力を作用させてメカノケミカル反応を起こすことにより、軟磁性粉末の粒子(主粒子200)表面に絶縁体層300を固着する。これにより、軟磁性体金属からなる主粒子200と、当該主粒子200の表面を被覆する絶縁体層300とを有する複合軟磁性粉末100であって、絶縁体層300がAl,P及びOを含む非晶質層310を有している複合軟磁性粉末100が得られる。
【0028】
本実施の形態におけるメカノケミカル反応とは、対象物質に機械的エネルギーを与えることで物質の物理化学的性質の変化、及び周囲の物質との反応を生じさせる現象を利用した反応である。例えば、衝撃、圧縮、せん断等の力が生じ得る機械的エネルギーを固体に加えると、固体の表面の結晶構造が変化し、あるいは固体の表面が活性化され物理化学的性質が変化して周囲との界面で化学反応を起こし得る。
【0029】
なお、軟磁性体金属からなる軟磁性粉末とトリポリリン酸二水素アルミニウムを含む絶縁粉末とを、乳鉢で混合してもメカノケミカル反応は起きないため、本実施の形態の複合軟磁性粉末100は製造できない。また、軟磁性体金属からなる軟磁性粉末とトリポリリン酸二水素アルミニウムを含む絶縁粉末とを、V型混合機を使用して混合しても、メカノケミカル反応は起きないため、本実施の形態の複合軟磁性粉末100は製造できない。
【0030】
上記の製造方法において、軟磁性粉末に対する絶縁粉末の混合割合が0.5wt%より小さい場合、形成される絶縁体層300の厚みが薄くなるため、主粒子200間の絶縁性が低下し、複合軟磁性粉末100を用いて製造された磁性部品600の電気抵抗が低下する。このため、軟磁性粉末に対する絶縁粉末の混合割合は、0.5wt%以上である。
【0031】
上記の製造方法において、軟磁性粉末に対する絶縁粉末の混合割合は、2.0wt%以下である。また、上記の製造方法において、軟磁性粉末に対する絶縁粉末の混合割合が増大すると、複合軟磁性粉末100の絶縁体層300の厚みが増加するものの、主粒子200に付着しない絶縁粉末が増加するため、複合軟磁性粉末100を用いて製造した磁性部品600中における軟磁性粉末の割合が減少して磁性部品600の磁気特性が悪化してしまう。このため、軟磁性粉末に対する絶縁粉末の混合割合は、1.5wt%以下であることが好ましい。
【0032】
主粒子200に対して絶縁体層300を良好に形成するため、また、製造された複合軟磁性粉末100における絶縁体層300が高い電気抵抗と耐候性を有するため、上記の製造方法における絶縁粉末中のトリポリリン酸二水素アルミニウムの割合は、50wt%以上であることが好ましい。
【0033】
また、上記の製造方法における絶縁粉末中のトリポリリン酸二水素アルミニウムの割合は、100wt%以下である。なお、トリポリリン酸二水素アルミニウムは吸湿性を有し、トリポリリン酸二水素アルミニウムの割合が高い絶縁粉末を用いて製造された磁性部品600を高温・高湿環境下で長時間使用すると、当該磁性部品600の電気抵抗が低下する。このため、上記の製造方法における絶縁粉末中のトリポリリン酸二水素アルミニウムの一定量を、二酸化ケイ素(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの吸湿性の低い酸化物で置換することが好ましい。即ち、上記の製造方法における絶縁粉末中のトリポリリン酸二水素アルミニウムの割合は、80wt%以下であることが好ましい。
【0034】
上記のように、絶縁粉末中のトリポリリン酸二水素アルミニウムの一定量は、二酸化ケイ素や酸化亜鉛で置換されることが好ましい。即ち、複合軟磁性粉末100の製造方法においては、絶縁粉末に二酸化ケイ素と酸化亜鉛の少なくとも一方を含んでいるのが好ましい。具体的には、本実施の形態の複合軟磁性粉末100の製造方法においては、絶縁粉末に二酸化ケイ素と酸化亜鉛との両方を含んでいる。なお、本発明はこれに限定されず、絶縁粉末は、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛を含んでいなくてもよい。即ち、絶縁粉末は、トリポリリン酸二水素アルミニウムのみで構成されていてもよい。
【0035】
上記の製造方法における絶縁粉末中の二酸化ケイ素の割合は、0wt%~20wt%の範囲にある。また、二酸化ケイ素が絶縁粉末に含まれることにより、吸湿性を有するトリポリリン酸二水素アルミニウムの絶縁粉末における含有量を抑制でき、また、製造された複合軟磁性粉末100における絶縁体層300が高い電気抵抗と耐候性を有することができることから、上記の製造方法における絶縁粉末中の二酸化ケイ素の割合は、10wt%~20wt%の範囲にあることが好ましい。
【0036】
上記の製造方法における絶縁粉末中の酸化亜鉛の割合は、0wt%~50wt%の範囲にある。また、酸化亜鉛が絶縁粉末に含まれることにより、吸湿性を有するトリポリリン酸二水素アルミニウムの絶縁粉末における含有量を抑制でき、また、製造された複合軟磁性粉末100における絶縁体層300が高い電気抵抗と耐候性を有することができることから、上記の製造方法における絶縁粉末中の酸化亜鉛の割合は、20wt%~50wt%の範囲にあることが好ましい。
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0038】
(実施例1~5)
元素組成がFe-Si-Crであり、平均粒径D50が10μmである軟磁性体金属からなる軟磁性粉末と、トリポリリン酸二水素アルミニウム(AIH2P3O10・2H2O)、二酸化ケイ素(SiO2)及び酸化亜鉛(ZnO)の混合物で構成される絶縁粉末とを、実施例1~5に係る複合軟磁性粉末100の原料として用いた。
【0039】
【0040】
まず、軟磁性粉末に対するトリポリリン酸二水素アルミニウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛の混合割合が表1に示される割合となるように、軟磁性粉末と絶縁粉末とを混ぜて、混合物を生成する。
【0041】
次に、この混合物を処理装置内に投入し、メカノケミカル反応にて処理する。すると、上記混合物に機械的応力が作用し、軟磁性粉末及び絶縁粉末にメカノケミカル反応が起こり、軟磁性粉末である主粒子200の表面に絶縁体層300が形成される。このようにして、実施例1~5の複合軟磁性粉末100を作製した。
【0042】
(比較例1~3)
元素組成がFe-Si-Crであり、平均粒径D50が10μmである軟磁性体金属からなる軟磁性粉末と、トリポリリン酸二水素アルミニウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛の混合物で構成される絶縁粉末とを、比較例1~3に係る粉末の原料として用いた。
【0043】
軟磁性粉末に対するトリポリリン酸二水素アルミニウム、二酸化ケイ素及び酸化亜鉛の混合割合が表1に示される割合となるように、軟磁性粉末と絶縁粉末とをV型混合器に投入して混合物を作製し、比較例1~3の粉末とした。
【0044】
作製した実施例1の複合軟磁性粉末100の断面の表層付近の構造について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察、電子線回折分析、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察、エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)による元素マッピング分析及びエリア分析を実施した。TEM観察結果を
図3~9に示す。また、電子線回折像を
図10~13に示す。更に、STEM観察結果及び元素マッピング分析結果を
図14に示す。更に加えて、エリア分析を行った箇所(P1、P2、P3)を
図15に示し、夫々の箇所の元素分析結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
図4,5,8から、主粒子200の表面に厚さ10~50nm程度の絶縁体層300が形成されていることが分かった。また、
図9及び
図11から、実施例1の複合軟磁性粉末100のDIFF2においては、非晶質相を示すハローパターンが見られた。加えて、
図14から、主粒子200を覆う絶縁体層300にAl,P及びOが含まれていることが分かった。更に加えて、
図15及び表2から、実施例1の複合軟磁性粉末100のP2の箇所に、Al,P及びOが含まれていることが分かった。これらの結果から、実施例1の複合軟磁性粉末100は、主粒子200の表面に厚さ10~50nm程度であって、Al,P及びOを含む非晶質層310を有している絶縁体層300が形成されていることが確認された。
【0047】
図14から、絶縁体層300の非晶質層310に含まれる微粒子がZnを含むことが分かった。また、
図9及び
図12から、実施例1の複合軟磁性粉末100に含まれる微粒子312内に位置するDIFF3は、ZnOと同定された。これにより、実施例1の複合軟磁性粉末100は、絶縁体層300が、非晶質層310内にZnO微粒子312を含んでいることが確認された。
【0048】
図14、
図15及び表2から、実施例1の複合軟磁性粉末100の絶縁体層300は、主粒子200と非晶質層310との間に位置すると共にZn,Siの少なくとも一方を含む濃縮層320を更に有していることが確認された。特に、本実施の形態の濃縮層320は、Zn及びSiの両方を含み、濃縮層320中のSiの含有割合(13.9at%)は、非晶質層310中のSiの含有割合(0.5at%)よりも大きく、濃縮層320中のZnの含有割合(0.6at%)は、非晶質層310中のZnの含有割合(0.3at%)よりも大きいことが確認された。
【0049】
更に加えて、
図14、
図15及び表2から、実施例1の複合軟磁性粉末100の絶縁体層300は、Zn,Siの少なくとも一方を含む付加的濃縮層330を更に有していることが確認された。特に、本実施の形態の付加的濃縮層330は、Zn及びSiの両方を含み、付加的濃縮層330中のSiの含有割合(2.9at%)は、濃縮層320中のSiの含有割合(13.9at%)よりは小さいものの、非晶質層310中のSiの含有割合(0.5at%)よりも大きく、付加的濃縮層330中のZnの含有割合(1.1at%)は、濃縮層320中のZnの含有割合(0.6at%)及び非晶質層310中のZnの含有割合(0.3at%)の何れよりも大きいことが確認された。なお、非晶質層310は、濃縮層320と付加的濃縮層330との間に位置していることが確認された。
【0050】
上記方法により製造された実施例1~5の複合軟磁性粉末100を用いて、以下の方法により、実施例1~5に係る磁性部品(リングコア)600を作製した。
【0051】
まず初めに、製造された実施例1~5の複合軟磁性粉末100と、熱硬化性樹脂とを、複合軟磁性粉末100に対する熱硬化性樹脂の割合が5wt%となるように混合し、目開き500μmのステンレス製篩で整粒して、顆粒を得る。その後、この顆粒を金型に充填し、金型に充填された顆粒を油圧プレスで成型圧力3t/cm2で成型する。これにより、外径13mm、内径8mm、及び高さ5mmの成型体を作製した。また、成型圧力5t/cm2で成型した成型体、及び、成型圧力8t/cm2で成型した成型体についても、同様に作製した。作製した成型体を、大気オーブンにて180℃で2時間加熱し、熱硬化性樹脂を硬化して、実施例1~5に係る磁性部品(リングコア)600を作製した。
【0052】
また上記方法と同様の方法により、比較例1~3の粉末を用いて、比較例1~3に係る磁性部品(リングコア)を作製した。
【0053】
作製した実施例1のリングコア600の断面の構造について、TEM観察、STEM観察、STEM-EDSによる元素マッピング分析及びエリア分析を実施した。TEM観察結果を
図16~18に示す。また、STEM観察結果及び元素マッピング分析結果を
図19に示す。更に、エリア分析を行った箇所(PC)を
図20に示し、当該箇所の元素分析結果を表3に示す。
【0054】
【0055】
図16~20及び表3から、実施例1のリングコア600は、複合軟磁性粉末100が硬化されたバインダ500で結着されており、軟磁性体金属からなる主粒子200の表面に厚さ10~50nm程度であって、Al,P及びOを含む非晶質層310を有している絶縁体層300が形成されていることが確認された。また、
図17から、実施例1のリングコア600に含まれる複合軟磁性粉末100の絶縁体層300が、非晶質層310内にZnO微粒子312を含んでいることが確認された。
【0056】
作製された実施例1,4,5のリングコア600及び比較例1~3に係るリングコアに線径が0.26mmの銅線を10回巻きつけて測定用試料を作製し、インピーダンスアナライザを使用して、周波数が1MHz、電流値が1mAにおける透磁率μを測定した。また、作製された実施例1,4,5のリングコア600及び比較例1~3のリングコアの上下面間に測定電圧100Vを印加し、絶縁抵抗値Rを測定した。測定結果を表4に示す。
【0057】
【0058】
表4から、実施例1,4,5のリングコア600における透磁率μが22.7~29.3である一方、比較例1~3のリングコアにおける透磁率μが23.3~32.5となっており、実施例1,4,5のリングコア600の透磁率μと、比較例1~3のリングコアの透磁率μとが、概ね同様の値をとることが分かった。
【0059】
また、表4から、実施例1,4,5のリングコア600における絶縁抵抗値Rが2.2*1012~7.2*1012Ωである一方、比較例1~3のリングコアにおける絶縁抵抗値Rが1.3*106~4.5*106Ωとなっており、実施例1,4,5のリングコア600の絶縁抵抗値Rが、比較例1~3のリングコアの絶縁抵抗値Rに対して、106倍程度の値をとることが分かった。これにより、メカノケミカル反応で製造された複合軟磁性粉末100を用いた実施例1,4,5のリングコア600は、軟磁性粉末と絶縁粉末とをV型混合器で混合して作製した粉末を用いた比較例1~3のリングコアと比較して、絶縁抵抗値Rが大幅に改善されていることが分かった。
【0060】
作製された実施例1~3のリングコア600を、155℃で所定時間(1時間、100時間、300時間、500時間、1000時間)加熱した後、リングコア600の上下面間に測定電圧100Vを印加して絶縁抵抗値Rを測定した。測定結果を
図21に示す。
【0061】
図21から明らかなように、実施例1~3のリングコア600は、加熱時間が1000時間の場合においても、10
10Ω程度の絶縁抵抗値を維持していることが明らかとなった。これにより、実施例1~3のリングコア600は、高温環境下で長時間使用しても絶縁性能を維持することができることが分かった。
【0062】
作製された実施例1~3のリングコア600を、温度85℃、湿度85%の恒温恒湿試験槽内に所定時間(1時間、100時間、300時間、500時間、1000時間)静置した後、恒温恒湿試験槽から取り出されたリングコア600の上下面間に測定電圧100Vを印加して絶縁抵抗値Rを測定した。測定結果を
図22に示す。
【0063】
図22から明らかなように、実施例1~3のリングコア600は、静置時間が1000時間の場合においても、10
10Ωを超える絶縁抵抗値を維持していることが明らかとなった。特に、実施例1,3のリングコア600は、静置時間が1000時間の場合においても、10
11Ωを超える絶縁抵抗値を維持していることが明らかとなった。これにより、実施例1~3のリングコア600は、高温高湿環境下で長時間使用しても絶縁性能を維持することができることが分かった。
【0064】
本発明の最良の実施の形態について説明したが、当業者には明らかなように、本発明の精神を逸脱しない範囲で実施の形態を変形することが可能であり、そのような実施の形態は本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0065】
100 複合軟磁性粉末
200 主粒子
300 絶縁体層
310 非晶質層
312 ZnO微粒子(微粒子)
320 濃縮層
330 付加的濃縮層
500 バインダ
600 磁性部品(リングコア)