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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130799
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】自動列車運転支援システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/40 20060101AFI20240920BHJP
   B61L 23/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60L15/40 D
B61L23/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040703
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【弁理士】
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【弁理士】
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】橘 寛徳
(72)【発明者】
【氏名】葛城 孝哉
(72)【発明者】
【氏名】高見 敦
(72)【発明者】
【氏名】望月 敬太
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CA06
5H125CC04
5H125EE52
5H125EE55
5H125EE62
5H161AA01
5H161BB02
5H161CC02
5H161DD21
5H161EE07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】走行抵抗が発生するトンネル区間内での列車の離合を回避することで、トンネル区間内の列車の離合による発生する走行抵抗により減速した列車を加速する必要がなくなり、消費電力を抑制することができる自動列車運転支援システムを提供する。
【解決手段】地上装置は、2つ以上の列車から受信した位置情報および速度情報と、路線データベースが保持する路線情報から、トンネル区間における2つ以上の列車の離合が発生し、運行ダイヤへの影響なしにトンネル区間における列車の離合を回避できると推定した場合、離合を回避する場合の消費電力量が、回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、離合を回避するための列車への走行指示を送信する。車上装置は、受信した走行指示および路線データベースからランカーブを作成し、列車を走行させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の列車のそれぞれの制限速度、前記2つ以上の列車が走行する路線の勾配情報、前記2つ以上の列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置、および前記2つ以上の列車の運行ダイヤを路線情報として保持する第1路線データベースと、
2つ以上の列車から受信した位置情報および速度情報と、前記第1路線データベースが保持する路線情報から特定のトンネル区間における前記2つ以上の列車の離合発生有無を演算する離合演算部と、
前記離合演算部が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できると推定した場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を推定および比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、離合を回避するための列車への走行指示を送信する離合回避推定部と、
を有する地上装置と、
自列車の制限速度、路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置および運行ダイヤを路線情報として保持する第2路線データベースと、
前記離合回避推定部から受信した走行指示および前記第2路線データベースの路線情報から作成したランカーブを出力するランカーブ出力部と、
前記ランカーブ出力部が出力したランカーブのとおりに列車を走行させる走行制御部と、
を有する車上装置と、
を備える自動列車運転支援システム。
【請求項2】
前記離合回避推定部において、前記離合演算部が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できないと推定した場合、または、離合は回避できるが消費電力量が削減できない場合、列車への走行指示を送信することを特徴とする、
請求項1に記載の自動列車運転支援システム。
【請求項3】
前記ランカーブ出力部において、予め設定された複数のランカーブからランカーブを選択して出力することを特徴とする、
請求項1に記載の自動列車運転支援システム。
【請求項4】
2つ以上の列車のそれぞれの制限速度、前記2つ以上の列車が走行する路線の勾配情報、前記2つ以上の列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置、および前記2つ以上の列車の運行ダイヤを路線情報として保持する第3路線データベースと、
2つ以上の列車から受信した位置情報および速度情報と、前記第3路線データベースが保持する路線情報から特定のトンネル区間における前記2つ以上の列車の離合発生有無を演算する離合演算部と、
前記離合演算部が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できると推定した場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を推定および比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、離合を回避するための列車への走行指示を送信する離合回避推定部と、
前記離合回避推定部から受信した走行指示および前記第3路線データベースの路線情報から作成したランカーブを出力するランカーブ出力部と、
を有する地上装置と、
前記ランカーブ出力部が出力したランカーブのとおりに列車を走行させる走行制御部と、
を有する車上装置と、
を備える自動列車運転支援システム。
【請求項5】
前記離合回避推定部において、前記離合演算部が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できないと推定した場合、または、離合は回避できるが消費電力量が削減できない場合、列車への走行指示を送信することを特徴とする、
請求項4に記載の自動列車運転支援システム。
【請求項6】
前記ランカーブ出力部において、予め設定された複数のランカーブからランカーブを選択して出力することを特徴とする、
請求項4に記載の自動列車運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動列車運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動列車運転装置(ATO:Automatic Train Operation)は、横軸がキロ程、縦軸が速度のランカーブ(運転曲線)に従い、自動で列車を加速、惰行、減速などして、列車の自動運転を行う。
ランカーブに従ったATOによる自動列車運転において、列車がトンネル区間を通過すると、特定のトンネル区間内で発生する走行抵抗により列車が減速する。運行ダイヤ通り列車を運行して、列車が目標到着時間に目標駅に到着するためには、走行抵抗により減速した列車を加速する。列車の加速により、運行ダイヤ通り列車を運行して、目標到着時間通り列車が目標駅に到着する。
特定のトンネル区間における走行抵抗による列車の減速への対応方法として、例えば、特許文献1の列車の駆動制御装置および列車の走行抵抗学習装置では、演算した補償電流指令値に基づいて電動機に電流を供給する方法がある。特許文献1では、実速度と位置に基づく走行抵抗を求め、走行抵抗から演算した電流補償値と、速度指令値と実速度の速度差を零とするような電流指令値を演算し、これを加算して得られた補償電流指令値に基づき電動機を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-322414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような駆動制御装置および走行抵抗学習装置において、特定のトンネル区間内で2つ以上の列車がすれ違う(離合する)ときに、発生した走行抵抗により列車が減速した場合、列車を加速するため、消費電力が増加するという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、2つ以上の列車の離合位置を演算し、トンネル区間内の離合を回避可能かどうか推定し、回避できる場合、作成したランカーブにより列車の走行を制御することで、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間内での離合を回避することで消費電力を抑制する自動列車運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る自動列車運転支援システムは、2つ以上の列車のそれぞれの制限速度、前記2つ以上の列車が走行する路線の勾配情報、前記2つ以上の列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置、および前記2つ以上の列車の運行ダイヤを路線情報として保持する第1路線データベースと、2つ以上の列車から受信した位置情報および速度情報と、前記第1路線データベースが保持する路線情報から特定のトンネル区間における前記2つ以上の列車の離合発生有無を演算する離合演算部と、前記離合演算部が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できると推定した場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を推定および比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、離合を回避するための列車への走行指示を送信する離合回避推定部と、を有する地上装置と、自列車の制限速度、路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置および運行ダイヤを路線情報として保持する第2路線データベースと、前記離合回避推定部から受信した走行指示および前記第2路線データベースの路線情報から作成したランカーブを出力するランカーブ出力部と、前記ランカーブ出力部が出力したランカーブのとおりに列車を走行させる走行制御部と、を有する車上装置と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る自動列車運転支援システムによれば、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間内での列車の離合を回避することで、特定のトンネル区間内の列車の離合による発生する走行抵抗により減速した列車を加速する必要がなくなり、消費電力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムを示す構成図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムのランカーブの一例である。
図3】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムの動作を示すフローチャートである。
図4】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムにおける列車の離合発生を示すランカーブである。
図5】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムにおいて列車の離合が回避可能なランカーブである。
図6】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムにおいて列車の離合が回避できないランカーブである。
図7】本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムの変形例を示す構成図である。
図8】本開示の実施の形態2に係る自動列車運転支援システムを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システムを示す構成図である。図1に示すように、自動列車運転支援システム1は、列車Aの車上に設けられ、ランカーブを作成し、列車Aの走行を制御するATO車上装置10aと、列車Bの車上に設けられ、ランカーブを作成し、列車Bの走行を制御するATO車上装置10bと、地上に設けられ、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間内での列車Aと列車Bの離合の発生有無を演算し、特定のトンネル区間内での離合を回避できるか推定し、列車に走行を指示するATO地上装置20を備える。特定のトンネル区間内は、路線上に複数あるトンネル区間のうち、任意のトンネル区間の全体または一部を指す。なお、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間は、走行抵抗が発生して列車が減速する区間であればよく、路線上のトンネル区間外でもよい。
【0010】
ATO車上装置10aは、路線情報を保持する第2路線データベース101、路線情報などによりランカーブを作成するランカーブ作成部102、ランカーブに従って列車の走行を制御する走行制御部103、列車の位置および速度を取得する位置・速度取得部104、ATO地上装置20と情報を送信および受信する伝送部105を備える。ATO車上装置10bはATO車上装置10aと同様のデータベースおよび機能部を備える。
【0011】
第2路線データベース101は、自列車の制限速度、路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置および運行ダイヤを路線情報として保持する。例えば、列車Aに搭載されたATO車上装置10aの第2路線データベース101は、自列車Aの制限速度、列車Aが走行する路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置および運行ダイヤを路線情報として保持する。
【0012】
ランカーブ作成部102は、第2路線データベース101の路線情報からランカーブを作成する。また、ATO地上装置20が送信する走行指示情報と第2路線データベース101の路線情報からランカーブを作成する。なお、ランカーブ作成部はランカーブを作成しなくても、ATO地上装置20が送信する走行指示情報に従い固定のランカーブを出力するランカーブ出力部でもよい。
【0013】
図2は、ランカーブ作成部102が作成する列車Aのランカーブの一例を示す図である。ランカーブの横軸がA駅からB駅までのキロ程、ランカーブの縦軸が速度を示している。
【0014】
制限速度30は、A駅からB駅までに設定された列車の制限速度を示しており、列車はA駅からB駅に走行する際、設定された制限速度を超えないように列車の速度を制御しながら走行する必要がある。
【0015】
列車速度40は、A駅からB駅までに設定されたキロ程毎の列車の速度を示している。
【0016】
走行制御部103は、列車の速度がランカーブの列車速度40となるように、列車の推進制御装置やブレーキ装置などによる列車の加速、惰行、減速などにより列車の走行を制御する。
【0017】
位置・速度取得部104は、車輪径による演算、速度センサ、衛星測位システムなどにより列車の位置および速度を取得する。位置・速度取得部104は、取得した列車の位置および速度を一定の周期で伝送部105に送信する。
【0018】
伝送部105は、位置・速度取得部104から受信した列車の位置および速度をATO地上装置20の伝送部201に無線通信で送信する。
また、伝送部105は、ATO地上装置20の伝送部201が送信する走行指示情報を受信してランカーブ作成部102に送信する。
【0019】
ATO地上装置20は、伝送部201、第1路線データベース202、離合演算部203、離合回避推定部204を備える。
【0020】
伝送部201は、ATO車上装置10の伝送部105から無線通信で受信した列車の位置および速度を、離合演算部203へ送信する。
また、伝送部201は、離合回避推定部204から受信した走行指示情報を、ATO車上装置10の伝送部105に送信する。
【0021】
第1路線データベース202は、列車Aの制限速度、路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置、および運行ダイヤを路線情報として保持する。さらに、第1路線データベース202は、列車Bの路線情報、図示しない他の列車の路線情報を保持する。
【0022】
離合演算部203は、第1路線データベース202が保持する列車Aの路線情報と列車Bの路線情報、伝送部201から受信した列車Aの位置および速度と列車Bの位置および速度から、特定のトンネル区間の走行抵抗により列車が減速する位置で列車の離合が発生するかどうかを演算する。
【0023】
離合回避推定部204は、離合演算部203により列車の離合が発生すると演算された場合、離合する列車への走行指示により離合が回避可能か否かを推定する。
【0024】
離合回避推定部204は、離合が回避可能と推定された場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を演算により推定および比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、換言すると、離合回避により消費電力量を削減可能な場合、列車に対して走行指示を送信する。
【0025】
離合回避推定部204は、離合が回避できない場合、または、離合は回避できるが消費電力量が削減できない場合、列車に対して離合による減速を考慮した走行指示を送信する。
【0026】
次にこのように構成された自動列車運転支援システム1における離合回避を、図3を用いて説明する。
【0027】
図3は、本開示の実施の形態1に係る自動列車運転支援システム1の動作を示すフローチャートである。ATO地上装置20は、列車が駅を出発する前にこの動作を開始して、目標駅に到着する毎に、この動作を行う。
【0028】
ステップS301において、離合演算部203は、複数の列車のATO車上装置10が一定の周期で送信する位置・速度情報と、第1路線データベース202が保持する路線情報の制限速度、勾配情報、トンネル区間、運行ダイヤから、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間で列車の離合が発生するか演算する。
例えば、列車Aと列車Bが路線I上で向かい合う方向で走行している場合、離合演算部203は、列車AのATO車上装置10から取得した列車Aの位置・速度情報と、列車BのATO車上装置10から取得した列車Bの位置・速度情報から、第1路線データベース202が保持する路線Iのキロ程毎の制限速度、勾配情報を考慮の上、離合の位置を演算する。離合演算部203は、演算した離合位置が、第1路線データベース202が保持する路線Iの、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間内にあるかどうかを確認する。離合演算部203は、離合位置が特定のトンネル区間内にある場合は「離合発生有り」、離合位置がトンネル区間内にない場合は「離合発生無し」と判断する。
図4は、走行抵抗が発生する特定のトンネル区間で列車の離合が発生するランカーブである。トンネル区間内で離合が発生する場合、走行抵抗により、A駅発B駅着の列車とB駅発A駅着の列車が減速し、離合後、双方の列車の再加速が必要となる。
離合が発生する場合ステップS302の処理を行い、離合が発生しない場合はステップS306の処理を行う。
【0029】
ステップS302において、離合回避推定部204が、離合が発生する列車に対する走行指示(臨時速度制限・目標到着時刻変更・運転パターン変更等のコマンド)で、離合を回避できるかを推定する。
【0030】
例えば、路線Iのトンネル区間において列車Aと列車Bの離合が発生する場合、列車Aの位置から列車Aの目標駅までの距離を算出する。次に列車Bの位置から列車Bの目標駅までの距離を算出する。さらに列車Aの目標駅までの距離と、列車Bの目標駅までの距離を比較して、目標駅までの距離が大きい列車の方に対して、走行指示として加速指示を送信した場合、離合位置がトンネル区間外となるかどうかを演算する。
【0031】
列車Aが駅を出発して加速中で、目標駅までの距離が、列車Bの目標駅の距離よりも大きい場合、列車Aへの加速指示により、作成したランカーブよりも大きい速度まで加速したのち惰行することで、離合演算部203が演算した列車Aの列車Bとの離合位置が、列車Aの目標駅に近づくため、離合回避推定部204はトンネル区間内の離合を回避することができる、と推定する。
列車Aが列車Bの位置と近い場合、列車Aまたは列車Bへの加速指示により、離合回避推定部204はトンネル区間内の離合を回避することができない、と推定する。
離合回避ができると推定する場合ステップS303の処理を行い、離合回避ができないと推定する場合、ステップS308の処理を行う。
【0032】
ステップS303において、離合回避推定部204は、離合が回避可能と推定された場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を演算により推定する。
消費電力量の推定は、ランカーブの走行を実現する走行指示(ノッチ指令)に基づき、力学的エネルギーの変動と、モータ効率(モータが電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する効率)と、回生効率(モータが力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する効率)により演算する。
例えば、次の計算式により演算する。列車速度をv、出力ノッチをn、車両性能上の加速度(速度およびノッチに依存)をa(v,n)、車重をM、モータ効率をe1、車両性能上のブレーキ減速度(速度およびノッチに依存)をb(v,n)、回生効率をe2とする。
加速時の消費電力E1は以下の式で求められる。ここで、a(v,n)には勾配や空気抵抗の影響は含めない。
ブレーキ時に発生する回生電力E2は以下の式で求められる。ここで、b(v,n)には勾配や空気抵抗の影響は含めない。

列車の消費電力量は、加速時の消費電力E1からブレーキ時に発生する回生電力E2を減算した値(E1-E2)となる。
【0033】
離合回避推定部204は、演算により推定した、離合を回避する場合の消費電力量と離合を回避しない場合の消費電力量を比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、列車に対して走行指示を送信する。
図5は、列車に対する走行指示により列車の離合が回避可能なランカーブである。B駅発A駅着の列車に対して、離合位置よりB駅寄りの位置で列車を加速するよう走行を指示することで、トンネル区間における離合を回避している。
離合回避により消費電力量を削減可能な場合、ステップS304の処理を行い、離合回避により消費電力量を削減できない場合はステップS308の処理を行う。
【0034】
ステップS304において、ATO地上装置20はATO車上装置10に、離合を回避するための走行指示情報(臨時速度制限・目標到着時刻変更・運転パターン変更等のコマンド)を送信する。例えば、ATO地上装置20は、列車AのATO車上装置10に対して、離合位置に到着する前に列車を更に加速することで、離合の位置をずらし、離合を回避するよう走行指示情報を送信する。
【0035】
ステップS305において、ATO車上装置10のランカーブ作成部102は、受信した走行指示情報と第2路線データベース101からランカーブを作成する。
例えば、走行指示情報として列車Aへの加速指示を受信した場合、ランカーブ作成部は、運行ダイヤへの影響を抑制しつつ、路線の勾配情報を考慮して第2路線データベースの自列車Aの制限速度を超えない速度まで、列車Aを加速したのち惰行する、横軸がキロ程、縦軸が速度のランカーブを作成する。
【0036】
ステップS306において、ATO車上装置10の走行制御部103は、作成したランカーブに従い走行を制御する。
【0037】
ステップS307において、ATO地上装置20は、ATO車上装置10から一定の周期で送信される位置・速度情報から、列車が目標駅に到着したかを判断する。列車が目標駅に到着した場合、ATO地上装置20は図3のフローチャートの動作を終了する。列車が目標駅に到着していない場合、ステップS301の処理を行う。
【0038】
ステップS308において、ATO地上装置20はATO車上装置10に、回避不可能、または回避可能な場合でも消費電力を削減できない離合により発生する走行抵抗による減速を考慮した走行指示情報、例えば回避不可能な走行抵抗により列車が減速しても、目標駅に運行ダイヤ通り列車が到着できるよう、予め離合位置に到着する前に、列車を十分加速させたのち、惰行で離合位置を通過するよう、走行指示情報を送信する。
図6は、列車に対する走行指示により列車の離合が回避できないランカーブである。B駅発A駅着の列車に対して、離合位置よりB駅寄りの位置で列車を制限速度まで加速するよう走行を指示しても、離合を回避できない。離合は回避できないが、予め加速しているため、離合による減速後の再加速を抑制できる。
【0039】
ステップS309において、ATO車上装置10のランカーブ作成部102は、受信した走行指示情報と第2路線データベース101からランカーブを作成する。
例えば、走行指示情報として列車Aへの加速指示を受信した場合、ランカーブ作成部は、運行ダイヤへの影響を抑制しつつ、路線の勾配情報と回避不可能な走行抵抗による減速も考慮して第2路線データベースの列車Aの制限速度を超えない速度まで、列車Aを加速したのち惰行する、横軸がキロ程、縦軸が速度のランカーブを作成する。
【0040】
上述したとおり、本実施の形態に係る自動列車運転支援システム1は、2つ以上の列車のそれぞれの制限速度、前記2つ以上の列車が走行する路線の勾配情報、前記2つ以上の列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置、および前記2つ以上の列車の運行ダイヤを路線情報として保持する第1路線データベース202と、2つ以上の列車から受信した位置情報および速度情報と、前記第1路線データベース202が保持する路線情報から特定のトンネル区間における前記2つ以上の列車の離合発生有無を演算する離合演算部203と、前記離合演算部203が列車の離合発生が有ると演算した場合、列車への走行指示により特定のトンネル区間における列車の離合を回避できるか否かを推定し、回避できると推定した場合、離合を回避する場合の消費電力量と、離合を回避しない場合の消費電力量を推定および比較して、離合を回避する場合の消費電力量が、離合を回避しない場合の消費電力量よりも小さい場合、離合を回避するための列車への走行指示を送信する離合回避推定部204と、を有するATO地上装置20と、自列車の制限速度、路線の勾配情報、列車離合時に走行抵抗が発生する特定のトンネル区間の路線における位置および運行ダイヤを路線情報として保持する第2路線データベース101と、前記離合回避推定部204から受信した走行指示および前記第2路線データベース101の路線情報から作成したランカーブを出力するランカーブ作成部102と、前記ランカーブ作成部102が作成し出力したランカーブのとおりに列車を走行させる走行制御部103と、を有するATO車上装置10と、を備える。
【0041】
これにより、走行抵抗が発生するトンネル区間内での列車の離合を回避することで、特定のトンネル区間内の列車の離合による発生する走行抵抗により列車が減速しないので、列車の加速をする必要がなくなり、消費電力を抑制することができる。
【0042】
実施の形態2.
実施の形態2の自動列車運転支援システム1について図7を用いて説明する。なお、実施の形態2の説明において実施の形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0043】
図7は、本開示の実施の形態2に係る自動列車運転支援システム1を示す構成図である。図7に示すように、ATO車上装置10は、ランカーブ作成部102の代わりにランカーブ選択部106を備える。
【0044】
ランカーブ選択部106は、予め生成された複数の固定ランカーブを保持している。ランカーブ選択部106は、離合回避推定部204の走行指示から、予め生成した複数の固定ランカーブの中から、ランカーブを選択する。
【0045】
ATO車上装置10の走行制御部103は、ランカーブ選択部106が選択したランカーブに従い列車の走行を制御する。
【0046】
上述のとおり、実施の形態2に係る自動列車運転支援システム1は、ATO地上装置20が、ランカーブ作成部102の代わりにランカーブ選択部106を備える構成とした。これによりATO車上装置10の演算負荷を抑制することができる。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態3の自動列車運転支援システム1について図8を用いて説明する。なお、実施の形態3の説明において実施の形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0048】
図8は、本開示の実施の形態3に係る自動列車運転支援システム1を示す構成図である。図8に示すように、ATO車上装置10でなくATO地上装置20がランカーブ出力部206を備える。また、ATO地上装置20は、第1路線データベース202の路線情報と第2路線データベース101の路線情報両方を保持する第3路線データベース205を備える。
【0049】
ATO地上装置20のランカーブ出力部206は、離合回避推定部204から受信した走行指示情報と第3路線データベース205からランカーブを作成またはランカーブを選択して出力し、ATO車上装置10に送信する。
【0050】
ATO車上装置10の走行制御部103は、受信したランカーブに従い列車の走行を制御する。
【0051】
上述のとおり、実施の形態3に係る自動列車運転支援システム1は、ATO車上装置10でなくATO地上装置20がランカーブ出力部206を備え、ATO地上装置20は、第1路線データベース202の路線情報と第2路線データベース101の路線情報両方を保持する第3路線データベース205を備える構成とした。これによりATO地上装置がランカーブを出力し、ATO車上装置にランカーブを送信することができるため、ATO車上装置の演算負荷を抑制することができる。
【0052】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能である。また本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 自動列車運転支援システム、10、10a、10b ATO車上装置、101 第2路線データベース、102 ランカーブ作成部、103 走行制御部、104 位置・速度取得部、105 伝送部、106 ランカーブ選択部、20 ATO地上装置、201 伝送部、202 第1路線データベース、203 離合演算部、204 離合回避推定部、205 第3路線データベース、206 ランカーブ出力部、30 制限速度、40 列車速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8