(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130823
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】軸受制御装置、磁気軸受装置、回転機械、磁気軸受装置の設定方法
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20240920BHJP
F04D 29/058 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D29/058
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040736
(22)【出願日】2023-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】時政 泰憲
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 真人
(72)【発明者】
【氏名】呉 文平
【テーマコード(参考)】
3H130
3J102
【Fターム(参考)】
3H130AA14
3H130AB27
3H130AB47
3H130AC01
3H130AC17
3H130BA66E
3H130DA02Z
3H130DB10X
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA17
3J102BA18
3J102CA29
3J102DA02
3J102DA03
3J102DA09
3J102DA35
3J102DB05
3J102DB21
3J102DB30
3J102GA20
(57)【要約】
【課題】コイルに生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる。
【解決手段】軸受制御装置は、軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、回転軸を、軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受の軸受制御装置であって、コイルに流れる電流の値であるコイル電流値を取得する電流値取得部と、電流値取得部で取得されたコイル電流値を、コイルで生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成するフィルタと、補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、コイルに電流を供給するパワーアンプと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受の軸受制御装置であって、
前記コイルに流れる電流の値であるコイル電流値を取得する電流値取得部と、
前記電流値取得部で取得された前記コイル電流値を、前記コイルで生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成するフィルタと、
前記補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、前記コイルに電流を供給するパワーアンプと、を含む、
軸受制御装置。
【請求項2】
前記フィルタは、前記電磁石のインピーダンスと、前記コイルの抵抗、及び前記コイルのインダクタンスに基づいて、前記コイル電流値を前記渦電流の影響に応じて補正し、前記補正電流値を生成する、
請求項1に記載の軸受制御装置。
【請求項3】
前記フィルタは、
前記コイルに印加される電圧をV
i、前記コイルの抵抗をR
0、前記コイルのインダクタンスをL
0、ラプラス演算子をs、前記渦電流の影響による項をZ
ed、としたときに、下式(1)に基づいて得られる電流値I
lを、前記補正電流値として取得する、
【数1】
請求項2に記載の軸受制御装置。
【請求項4】
前記フィルタは、下式(2)に基づいて算出される前記渦電流の影響による項Z
edを、
【数2】
Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸が回転するときの周波数域に応じて、下式(3)に基づいたフィッティングを行うことで取得する
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(3)
請求項3に記載の軸受制御装置。
【請求項5】
軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受と、
請求項1又は2に記載の軸受制御装置と、を含む、
磁気軸受装置。
【請求項6】
前記磁気軸受は、前記回転軸の前記軸線方向への変位を拘束しつつ、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持するスラスト磁気軸受である
請求項5に記載の磁気軸受装置。
【請求項7】
前記コイルは、金属により一体に形成され、前記回転軸に対して前記軸線方向を中心とした径方向の外側に配置され、前記軸線方向を中心とした周方向に延びる環状に形成されている、
請求項5に記載の磁気軸受装置。
【請求項8】
軸線方向に延びる回転軸と、
請求項5に記載の磁気軸受装置と、を含む、
回転機械。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の軸受制御装置の設定方法であって、
前記電磁石のインピーダンスI
r/V
iを取得するステップと、
前記コイルの抵抗をR
0、前記コイルのインダクタンスをL
0としたときに、下式(4)
【数3】
に基づいて算出される、前記渦電流の影響による項Z
edを取得するステップと、
Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸が回転するときの周波数域に応じて、下式(5)
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(5)
に基づいて、前記渦電流の影響による項Z
edをフィッティングするステップと、
フィッティングされた前記渦電流の影響による項Z
edに基づいて、前記フィルタを設定するステップと、を含む、
軸受制御装置の設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受制御装置、磁気軸受装置、回転機械、磁気軸受装置の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、支持体側のコイルに制御電流を通電するパワーアンプの出力制御電流の検出信号と、磁気力で浮上支持される被支持体の変位検出信号を入力信号に基づいて、支持体側の電磁石と被支持体側の電磁石ターゲットとの間に発生する磁束を推定し、磁束の推定値をパワーアンプにフィードバックする磁気軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、磁気軸受装置においては、コイルに電流を流すことで生成される磁束回りに渦電流が生じる。この渦電流により、コイルにおける磁束の生成が妨げられ、コイルにおける起磁力の低下に繋がる。その結果、磁気軸受装置の軸受性能向上の妨げとなっている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、コイルに生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる軸受制御装置、磁気軸受装置、回転機械、磁気軸受装置の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る軸受制御装置は、軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受の軸受制御装置であって、前記コイルに流れる電流の値であるコイル電流値を取得する電流値取得部と、前記電流値取得部で取得された前記コイル電流値を、前記コイルで生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成するフィルタと、前記補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、前記コイルに電流を供給するパワーアンプと、を含む。
【0007】
本開示に係る磁気軸受装置は、軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受と、上記軸受制御装置と、を含む。
【0008】
本開示に係る回転機械は、軸線方向に延びる回転軸と、上記磁気軸受装置と、を含む。
【0009】
本開示に係る磁気軸受装置の設定方法は、上記軸受制御装置の設定方法であって、前記電磁石のインピーダンスI
r/V
iを取得するステップと、前記コイルの抵抗をR
0、前記コイルのインダクタンスをL
0としたときに、下式(1)
【数1】
に基づいて算出される、前記渦電流の影響による項Z
edを取得するステップと、Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸が回転するときの周波数に応じて、下式(2)
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(2)
に基づいて、前記渦電流の影響による項Z
edをフィッティングするステップと、フィッティングされた前記渦電流の影響による項Z
edに基づいて、前記フィルタを設定するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の軸受制御装置、磁気軸受装置、回転機械、磁気軸受装置の設定方法によれば、コイルに生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態に係る磁気軸受装置、回転機械の概略構成を示す図である。
【
図2】上記磁気軸受装置の磁気制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】上記磁気制御装置の機能構成を示す図である。
【
図4】上記磁気制御装置のスラスト軸受制御部の機能構成を示す図である。
【
図5】上記磁気軸受装置の電磁石の等価回路を示す図である。
【
図6】上記軸受制御装置の設定方法の手順を示すフローチャートである。
【
図7】上記磁気軸受装置の設定方法において、渦電流による影響による項を、フィッティングさせる例を示す図である。
【
図8】上記磁気軸受装置の設定方法において、渦電流による影響による項を、フィッティングさせる他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本開示による軸受制御装置、磁気軸受装置、回転機械、磁気軸受装置の設定方法を実施するための形態を説明する。しかし、本開示はこの実施形態のみに限定されるものではない。
(回転機械の構成)
本開示の実施形態において、回転機械1は、例えば、ターボ冷凍機等に用いられるターボ機械である。回転機械1としては、ターボ機械に限らず、蒸気タービン、ガスタービン、遠心圧縮機等であってもよい。
図1に示すように、回転機械1は、回転軸11、ハウジング10、第一インペラ12、第二インペラ13、モータ14、及び磁気軸受装置19を備えている。
【0013】
回転軸11は、軸線Oに沿った軸線方向Daに延びる円柱状をなしている。回転軸11の軸線方向Daの一部には、スラストカラー18が設けられている。スラストカラー18は、回転軸11の外周面から、軸線Oを中心とした径方向Drの外側に鍔状に張り出している。
【0014】
ハウジング10は、回転軸11を径方向Drの外側から囲うように配置されている。回転軸11の軸線方向Daの両端部は、ハウジング10の軸線方向Daの両側の開口から突出している。
【0015】
第一インペラ12は、回転軸11の軸線方向Daの一方側(
図2の左側)の端部に一体に固定されている。第一インペラ12は、回転軸11とともに軸線O回りの周方向Dcに回転することで、軸線方向Daの一方側から流入する冷媒を径方向外側に向かって圧送する。
【0016】
第二インペラ13は、回転軸11の軸線方向Daの他方側(
図2の右側)の端部に一体に固定されている。第二インペラ13は、回転軸11とともに周方向Dcに回転することで、径方向外側から流入する冷媒を軸線方向Daの他方側に向かって圧送する。
【0017】
このように第一インペラ12及び第二インペラ13を有する回転機械1は、第一インペラ12で圧縮した冷媒をさらに第二インペラ13で圧縮する二段圧縮構造とされている。
【0018】
モータ14は、ロータコア15とステータ16とを有している。
ロータコア15は、回転軸11の外周面に一体に固定されている。ロータコア15は、回転軸11の外周面に外嵌された積層鋼板構造を有している。ロータコア15には、周方向Dcに間隔をあけて複数の永久磁石(図示なし)が設けられている。
【0019】
ステータ16は、ロータコア15の径方向Drの外側に配置されたステータコアと、ステータコアに周方向Dcに間隔をあけて複数設けられたステータコイルとを有している。
モータ14は、ステータ16のステータコイルに外部から電流が供給されることで、軸線O回りの周方向Dcに回転する回転磁界が生成される。ロータコア15は、ステータ16による回転磁界に各永久磁石が追従することで、回転軸11と一体に、周方向Dcに回転する。
【0020】
磁気軸受装置19は、一対のラジアル磁気軸受20と、スラスト磁気軸受(磁気軸受)30と、を備えている。
一対のラジアル磁気軸受20は、モータ14を挟んで、軸線方向Daの両側に配置されている。各ラジアル磁気軸受20は、ヨーク21と、複数のラジアル磁気軸受コイル22と、を有している。
【0021】
ヨーク21は、複数の積層鋼板を軸線方向Daに積層させることで構成されている。ヨーク21は、バックヨーク21a及び複数のティース21bを有している。バックヨーク21aは、軸線Oを中心とする円環状をなしている。バックヨーク21aは、ハウジング10に固定されている。ティース21bは、周方向Dcに等間隔をあけて設けられている。各ティース21bは、バックヨーク21aから径方向Drの内側に向かって延びている。各ティース21bの径方向Drの内側の端部は、回転軸11の外周面と径方向Drに間隔をあけて対向している。
【0022】
ラジアル磁気軸受コイル22は、複数のティース21bに巻回されている。ラジアル磁気軸受コイル22は、後述する軸受制御装置60からの制御信号に基づいて、図示しない電源から電流が供給されることで磁界を発生する。ラジアル磁気軸受20は、ラジアル磁気軸受コイル22で発生する磁界により、回転軸11を、径方向Drへの移動を拘束しつつ、軸線O回りの周方向Dcに回転自在に非接触で支持する。ラジアル磁気軸受20は、変位センサ(図示なし)で検出される回転軸11の位置情報に基づいて、回転軸11が径方向Drにおける基準位置に復帰するように回転軸11を支持している。
【0023】
スラスト磁気軸受30は、回転軸11のスラストカラー18に対し、軸線方向Daの両側に配置された、一対の電磁石31を有している。各電磁石31は、ステータ32と、コイル33と、を備えている。
【0024】
ステータ32は、ハウジング10と一体に固定されている。ステータ32は、軸線O回りの周方向Dcに延びる円環状に形成されている。ステータ32は、軸線方向Daにおいて、スラストカラー18と向き合う位置に、コイル保持溝32mを有している。コイル保持溝32mは、軸線方向Daにおいてスラストカラー18から離間する方向に窪んでいる。コイル保持溝32mは、軸線O回りの周方向Dcに延びる円環状に形成されている。
【0025】
コイル33は、コイル保持溝32m内に収容されている。コイル33は、軸線O回りの周方向Dcに延びる円環状に形成されている。コイル33は、金属材料により円環状に一体形成されている。
【0026】
各コイル33は、後述する軸受制御装置60からの制御信号により電流が供給されることで、磁界を発生する。スラスト磁気軸受30の一対の電磁石31は、各コイル33で、スラストカラー18を軸線方向Daにおいて吸引する方向の磁界を発生する。スラスト磁気軸受30は、一対の電磁石31の各々でスラストカラー18を吸引することで、回転軸11を、回転軸11の軸線方向Daへの変位を拘束しつつ、回転軸11を、軸線O回りの周方向Dcに回転自在に非接触で支持する。スラスト磁気軸受30は、位置センサ(図示なし)で検出される回転軸11の軸線方向Daの位置情報に基づいて、回転軸11が軸線方向Daで所定の位置になるように、回転軸11を非接触で軸線方向Daから支持している。
【0027】
軸受制御装置60は、磁気軸受装置19の各ラジアル磁気軸受20、及びスラスト磁気軸受30の動作を制御する。
軸受制御装置60は、
図2に示すように、プロセッサ61、ROM62(Read Only Memory)、RAM63(Random Access Memory)、ストレージ64、信号受信モジュール65を備えるコンピュータである。信号受信モジュール65は、回転軸11の位置を検出する位置センサ(図示なし)からの位置信号、コイル33に流れる電流の検出信号等を受信する。
【0028】
図3に示すように、軸受制御装置60は、ラジアル磁気軸受20の動作を制御するラジアル磁気軸受制御部70Aと、スラスト磁気軸受30の動作を制御するスラスト軸受制御部70Bと、を機能的に備えている。
【0029】
ラジアル磁気軸受制御部70Aは、変位センサ(図示なし)で検出される回転軸11の径方向Drにおける位置情報を示す位置信号を受信すると、ラジアル磁気軸受コイル22に供給する電流を制御する。なお、ラジアル磁気軸受20のヨーク21は、積層鋼板からなる。積層鋼板は、薄い鋼板を軸線方向Daに積層することで構成されている。このような積層鋼板からなるヨーク21を備えたラジアル磁気軸受20においては、渦電流が生じにくい。このため、本開示の実施形態では、ラジアル磁気軸受制御部70Aは、後述するスラスト軸受制御部70Bのようなフィルタ74を備えていない。
【0030】
図4に示すように、スラスト軸受制御部70Bは、コントローラ71と、パワーアンプ72と、電流値取得部73と、フィルタ74と、を機能的に備えている。
【0031】
コントローラ71は、変位センサ(図示なし)で検出される回転軸11の軸線方向Daにおける位置情報を示す位置指令信号を受信すると、一対の電磁石31のコイル33に供給する電流値の指令信号S1を出力する。
【0032】
パワーアンプ72は、コントローラ71から出力される指令信号S1と、後述するフィルタ74から出力される補正電流値Ihを示す補正信号S2とに基づいて、コイル33に電流を供給する。
【0033】
電流値取得部73は、実際にコイル33に流れる電流の値であるコイル電流値Icを取得する。
【0034】
フィルタ74は、電流値取得部73で取得されたコイル電流値Icを、コイル33で生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正する。フィルタ74は、コイル電流値Icを渦電流の影響に応じて補正することによって生成された補正電流値Ihを出力する。
【0035】
図5は、電磁石31のコイル33の等価回路を示す図である。この
図5に示すように、電磁石31は、コイル33に電流が流れることによって生成される磁束回りに渦電流が発生する。この渦電流による影響は、1段目の渦電流(1次)、1段目の渦電流に起因して生成される2段目の渦電流(2次)、…といったように複数次にわたって現れる、カウアーラダーモデルとしてモデル化することができる。そこで、これら複数次の渦電流による影響の総和を、渦電流の影響による項Z
edと表す。
【0036】
フィルタ74は、電磁石31のインピーダンスと、コイル33の抵抗、及びコイル33のインダクタンスに基づいて、コイル電流値Icを渦電流の影響に応じて補正し、補正電流値を生成する。
より具体的には、コイル33に印加される電圧V
iに対する主励磁電流の値I
lの応答比I
l/V
iは、コイル33の抵抗R
0、コイル33のインダクタンスL
0、ラプラス演算子s、渦電流の影響による項Z
edとの間に、下式(3)に示すような関係が成り立つ。
【数2】
上式(3)に基づき、渦電流の影響による項Z
edを予め設定しておくことで、フィルタ74は、主励磁電流の値I
lを算出し、この値I
lを、補正電流値として出力することができる。
【0037】
ここで、渦電流の影響による項Z
edをフィルタ74に予め設定するための、軸受制御装置60の設定方法S10について説明する。
図6に示すように、軸受制御装置60の設定方法S10は、電磁石のインピーダンスを取得するステップS11と、渦電流の影響による項を取得するステップS12と、渦電流の影響による項をフィッティングするステップS13と、渦電流の影響による項を、フィルタに設定するステップS14と、を含んでいる。
【0038】
電磁石のインピーダンスを取得するステップS11では、電磁石31のインピーダンスIr/Viを取得する。これには、電磁石31のインピーダンスIr/Viを実測してもよいし、電磁石31のインピーダンスIr/Viを磁場解析により算出してもよい。
【0039】
渦電流の影響による項を取得するステップS12では、下式(4)
【数3】
に基づいて、渦電流の影響による項Z
edを推定する。ここで、コイル33の抵抗R
0、コイル33の静的なインダクタンスL
0は、実測してもよいし、解析により算出してもよい。ここで、コイル33の静的なインダクタンスL
0は、コイル33の吸引力に寄与するコイル33の主磁束に関するインダクタンスであり、電磁石31とスラストカラー18との隙間に対する依存性が大きい。一方、渦電流の影響による項Z
edは、電磁石31の構造に起因するものであり、電磁石31とスラストカラー18との隙間に対する依存性が小さい。
【0040】
渦電流の影響による項をフィッティングするステップS13では、Tz、Tpを時定数としたときに、回転軸11が回転するときの周波数に応じて、下式(5)
Zed=Π{(1+Tz*s)/(1+Tp*s)} ・・・(5)
に基づいて、渦電流の影響による項Zedをフィッティングする。ここで、回転機械1において、回転軸11が回転するときの周波数を、例えば10~1000Hzとした場合、渦電流の影響による項Zedの位相歪みの大きさと、ゲイン(インピーダンスの逆数)の大きさを実測し、それぞれ最小二乗法等により、予め設定した理想値に近づくように、渦電流の影響による項Zedをフィッティングさせる。
【0041】
渦電流の影響による項を、フィルタに設定するステップS14では、ステップS13でフィッティングされた渦電流の影響による項Zedを、フィルタ74に設定する。
【0042】
(作用効果)
上記構成の軸受制御装置60、磁気軸受装置19、回転機械1、磁気軸受装置19の設定方法S10によれば、フィルタ74で、コイル33で生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成する。パワーアンプ72では、補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、コイル33に電流を供給することにより、コイル33に生じる渦電流による影響を抑えることができる。したがって、渦電流によってコイル33における磁束の生成が妨げられることが抑えられ、コイル33における起磁力の低下が抑えられる。その結果、スラスト磁気軸受30の軸受性能を向上させることができる。
【0043】
また、フィルタ74は、電磁石31のインピーダンスIr/Viと、コイル33の抵抗R0、及びコイル33のインダクタンスL0に基づいて、コイル電流値Icを渦電流の影響に応じて補正することで、コイル33で、渦電流の影響を相殺して励磁を行えるように、補正電流値を生成することができる。
【0044】
また、金属により一体に形成されたコイル33を備えるスラスト磁気軸受30においては、コイル33に生じる渦電流による影響が大きくなる。そこで、このようなコイル33に生じる渦電流による影響を抑えることで、軸受性能を、より有効に向上させることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
なお、上記実施形態では、渦電流の影響による項Zedの設定方法の流れを説明したが、その手順は適宜変更可能である。
【0046】
<付記>
実施形態に記載の軸受制御装置60、磁気軸受装置19、回転機械1、磁気軸受装置19の設定方法S10は、例えば以下のように把握される。
【0047】
(1)第1の態様に係る軸受制御装置60は、軸線方向Daに延びる回転軸11に対向配置されたコイル33を含む電磁石31を備え、前記コイル33に電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸11を、前記軸線O回りの周方向Dcに回転自在に非接触で支持する磁気軸受30の軸受制御装置60であって、前記コイル33に流れる電流の値であるコイル電流値Icを取得する電流値取得部73と、前記電流値取得部73で取得された前記コイル電流値Icを、前記コイル33で生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成するフィルタ74と、前記補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、前記コイル33に電流を供給するパワーアンプ72と、を含む。
【0048】
この軸受制御装置60は、フィルタ74で、コイル33で生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成する。パワーアンプ72では、補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、コイル33に電流を供給することにより、コイル33に生じる渦電流による影響を抑えることができる。したがって、渦電流によってコイル33における磁束の生成が妨げられることが抑えられ、コイル33における起磁力の低下が抑えられる。その結果、磁気軸受30の軸受性能を向上させることができる。
【0049】
(2)第2の態様に係る軸受制御装置60は、(1)の軸受制御装置60であって、前記フィルタ74は、前記電磁石31のインピーダンスIr/Viと、前記コイル33の抵抗R0、及び前記コイル33のインダクタンスL0に基づいて、前記コイル電流値Icを前記渦電流の影響に応じて補正し、前記補正電流値を生成する。
【0050】
これにより、フィルタ74は、電磁石31のインピーダンスIr/Viと、コイル33の抵抗R0、及びコイル33のインダクタンスL0に基づいて、コイル電流値Icを渦電流の影響に応じて補正することで、コイル33で、渦電流の影響を相殺して励磁を行えるように、補正電流値を生成することができる。
【0051】
(3)第3の態様に係る軸受制御装置60は、(2)の軸受制御装置60であって、前記フィルタ74は、前記電磁石31に印加される電圧をV
i、前記コイル33の抵抗をR
0、前記コイル33のインダクタンスをL
0、ラプラス演算子をs、前記渦電流の影響による項をZ
ed、としたときに、下式(6)に基づいて得られる電流値I
lを、前記補正電流値として取得する。
【数4】
【0052】
これにより、渦電流の影響を相殺しながらコイル33で励磁を行えるように、補正電流値を取得することができる。
【0053】
(4)第4の態様に係る軸受制御装置60は、(3)の軸受制御装置60であって、前記フィルタ74は、下式(7)に基づいて算出される前記渦電流の影響による項Z
edを、
【数5】
Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸11が回転するときの周波数域に応じて、下式(8)に基づいたフィッティングを行うことで取得する。
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(8)
【0054】
これにより、回転軸11が回転するときの周波数域において、渦電流の影響を相殺しながらコイル33で励磁を行えるように、補正電流値を生成することができる。
【0055】
(5)第5の態様に係る磁気軸受装置19は、軸線方向Daに延びる回転軸11に対向配置されたコイル33を含む電磁石31を備え、前記コイル33に電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸11を、前記軸線O回りの周方向Dcに回転自在に非接触で支持する磁気軸受30と、(1)から(5)の何れか一つの軸受制御装置60と、を含む。
【0056】
これにより、コイル33に生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる軸受制御装置60を備えた、磁気軸受装置19を提供することが可能となる。
【0057】
(6)第6の態様に係る磁気軸受装置19は、(5)の磁気軸受装置19であって、前記磁気軸受30は、前記回転軸11の前記軸線方向Daへの変位を拘束しつつ、前記回転軸11を、前記軸線O回りの周方向Dcに回転自在に非接触で支持するスラスト磁気軸受30である。
【0058】
これにより、スラスト磁気軸受30において、コイル33に生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる。
【0059】
(7)第7の態様に係る磁気軸受装置19は、(5)又は(6)の磁気軸受装置19であって、前記コイル33は、金属により一体に形成され、前記回転軸11に対して前記軸線方向Daを中心とした径方向Drの外側に配置され、前記軸線方向Daを中心とした周方向Dcに延びる環状に形成されている。
【0060】
これにより、金属により一体に形成されたコイル33においては、コイル33に生じる渦電流による影響が大きくなる。そこで、このようなコイル33に生じる渦電流による影響を抑えることで、軸受性能を、より有効に向上させることができる。
【0061】
(8)第8の態様に係る回転機械1は、軸線方向Daに延びる回転軸11と、(1)から(7)の何れか一つの磁気軸受装置19と、を含む。
回転機械1の例としては、ターボ機械、蒸気タービン、ガスタービン、遠心圧縮機等が挙げられる。
【0062】
これにより、コイル33に生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができる磁気軸受装置19を備えた、回転機械1を提供することが可能となる。
【0063】
(9)第9の態様に係る軸受制御装置60の設定方法S10は、(1)から(4)の何れか一つの軸受制御装置60の設定方法S10であって、前記電磁石31のインピーダンスI
r/V
iを取得するステップS11と、前記コイル33の抵抗をR
0、前記コイル33のインダクタンスをL
0としたときに、下式(9)
【数6】
に基づいて算出される、前記渦電流の影響による項Z
edを取得するステップS12と、Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸11が回転するときの周波数域に応じて、下式(10)
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(10)
に基づいて、前記渦電流の影響による項Z
edをフィッティングするステップS13と、フィッティングされた前記渦電流の影響による項Z
edに基づいて、前記フィルタ74を設定するステップS14と、を含む。
【0064】
これにより、コイル33に生じる渦電流による影響を抑え、軸受性能を向上させることができるフィルタ74を備えた、軸受制御装置60を設定することができる。
【符号の説明】
【0065】
1…回転機械
10…ハウジング
11…回転軸
12…第一インペラ
13…第二インペラ
14…モータ
15…ロータコア
16…ステータ
18…スラストカラー
19…磁気軸受装置
20…ラジアル磁気軸受
21…ヨーク
21a…バックヨーク
21b…ティース
22…ラジアル磁気軸受コイル
30…磁気軸受
30…スラスト磁気軸受
31…電磁石
32…ステータ
32m…コイル保持溝
33…コイル
60…軸受制御装置
61…プロセッサ
62…ROM
63…RAM
64…ストレージ
65…信号受信モジュール
70A…ラジアル磁気軸受制御部
70B…スラスト軸受制御部
71…コントローラ
72…パワーアンプ
73…電流値取得部
74…フィルタ
Da…軸線方向
Dc…周方向
Dr…径方向
O…軸線
S1…指令信号
S2…補正信号
【手続補正書】
【提出日】2023-10-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受の軸受制御装置であって、
前記コイルに流れる電流の値であるコイル電流値を取得する電流値取得部と、
前記電流値取得部で取得された前記コイル電流値を、前記コイルで生成される磁束によって生じる渦電流の影響に応じて補正した補正電流値を生成するフィルタと、
前記補正電流値に基づいた電流指令値を入力とし、前記コイルに電流を供給するパワーアンプと、を含む、
軸受制御装置。
【請求項2】
前記フィルタは、前記電磁石のインピーダンスと、前記コイルの抵抗、及び前記コイルのインダクタンスに基づいて、前記コイル電流値を前記渦電流の影響に応じて補正し、前記補正電流値を生成する、
請求項1に記載の軸受制御装置。
【請求項3】
前記フィルタは、
前記コイルに印加される電圧をV
i、前記コイルの抵抗をR
0、前記コイルのインダクタンスをL
0、ラプラス演算子をs、前記渦電流の影響による項をZ
ed、としたときに、下式(1)に基づいて得られる電流値I
lを、前記補正電流値として取得する、
【数1】
請求項2に記載の軸受制御装置。
【請求項4】
前記フィルタは、
電磁石のインピーダンスI
r
/V
i
を示す下式(2)に基づいて算出される前記渦電流の影響による項Z
edを、
【数2】
Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸が回転するときの周波数域に応じて、下式(3)に基づいたフィッティングを行うことで取得する
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(3)
請求項3に記載の軸受制御装置。
【請求項5】
軸線方向に延びる回転軸に対向配置されたコイルを含む電磁石を備え、前記コイルに電流を流すことで発生する磁界によって、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持する磁気軸受と、
請求項1又は2に記載の軸受制御装置と、を含む、
磁気軸受装置。
【請求項6】
前記磁気軸受は、前記回転軸の前記軸線方向への変位を拘束しつつ、前記回転軸を、前記軸線回りの周方向に回転自在に非接触で支持するスラスト磁気軸受である
請求項5に記載の磁気軸受装置。
【請求項7】
前記コイルは、金属により一体に形成され、前記回転軸に対して前記軸線方向を中心とした径方向の外側に配置され、前記軸線方向を中心とした周方向に延びる環状に形成されている、
請求項5に記載の磁気軸受装置。
【請求項8】
軸線方向に延びる回転軸と、
請求項5に記載の磁気軸受装置と、を含む、
回転機械。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の軸受制御装置の設定方法であって、
前記電磁石のインピーダンスI
r/V
iを取得するステップと、
前記コイルの抵抗をR
0、前記コイルのインダクタンスをL
0としたときに、下式(4)
【数3】
に基づいて算出される、前記渦電流の影響による項Z
edを取得するステップと、
Tz、Tpを時定数としたときに、前記回転軸が回転するときの周波数域に応じて、下式(5)
Z
ed=Π{(1+Tz
*s)/(1+Tp
*s)} ・・・(5)
に基づいて、前記渦電流の影響による項Z
edをフィッティングするステップと、
フィッティングされた前記渦電流の影響による項Z
edに基づいて、前記フィルタを設定するステップと、を含む、
軸受制御装置の設定方法。