IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図1
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図2
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図3
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図4
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図5
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図6
  • 特開-解析方法、解析装置及びプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130841
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】解析方法、解析装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/04 20060101AFI20240920BHJP
   G01N 25/50 20060101ALI20240920BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G21C9/04
G01N25/50 A
G21C17/00 040
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040764
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】原井 康考
(72)【発明者】
【氏名】松尾 英治
(72)【発明者】
【氏名】上田 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】新家谷 英之
【テーマコード(参考)】
2G040
2G075
【Fターム(参考)】
2G040AB04
2G040BA02
2G040BA23
2G040CA02
2G040CA09
2G040CA10
2G040CB02
2G040DA02
2G040DA16
2G040GA01
2G040HA03
2G040ZA08
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA10
2G075DA07
2G075EA02
2G075FB04
(57)【要約】
【課題】原子力プラントの設備内での水素の燃焼状況を精緻に解析することができる解析装置を提供する。
【解決手段】解析方法は、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出するステップと、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定するステップと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出するステップと、
熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定するステップと、
を有する解析方法。
【請求項2】
前記自着火温度を算出するステップでは、
前記設備内の気体組成と前記自着火温度を前記化学反応計算コードに入力して着火挙動の解析を行わせることによって、前記化学反応計算コードに前記着火遅れ時間を出力させる処理を、前記自着火温度を変化させて繰り返し行い、前記着火遅れ時間と前記自着火温度の関係を算出して、前記着火遅れ時間が所望の時間となるような前記自着火温度を算出する、
請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記所望の時間は1秒以下の値である、
請求項2に記載の解析方法。
【請求項4】
SA解析コードに基づいて溶融炉心の挙動を解析するステップ、
をさらに有し、
前記判定するステップでは、前記挙動を解析するステップにより得られた前記溶融炉心の発熱量と前記溶融炉心が原子炉容器の下方に設けられたコアキャッチャ設備へ流入することにより発生する前記水素の発生量を境界条件とし、原子炉建屋又は原子炉格納容器内の酸素濃度、水素温度、水蒸気濃度、雰囲気温度の時間変化を解析し、前記酸素濃度が閾値以上、且つ、前記水素温度が閾値以上、且つ、前記水蒸気濃度が閾値未満、且つ、前記雰囲気温度が算出された前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の解析方法。
【請求項5】
前記判定するステップでは、前記設備内をメッシュに分割して、前記メッシュごとに酸素濃度、水素温度、水蒸気濃度、雰囲気温度の時間変化を解析し、ある前記メッシュにおいて、前記酸素濃度が閾値以上、且つ、前記水素温度が閾値以上、且つ、前記水蒸気濃度が閾値未満、且つ、前記雰囲気温度が算出された前記自着火温度を上回ると、当該メッシュにて前記水素が燃焼すると判定する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の解析方法。
【請求項6】
前記判定するステップでは、空気濃度、水素温度、水蒸気濃度を各辺とする水素3元図に基づいて、前記設備内のある位置における前記空気濃度、前記水素温度、前記水蒸気濃度が、前記水素3元図内の可燃範囲を示す領域に含まれ、且つ、前記ある位置の前記雰囲気温度が算出された前記自着火温度を上回ると、前記ある位置にて前記水素が燃焼すると判定する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の解析方法。
【請求項7】
原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段と、
熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段と、
を有する解析装置。
【請求項8】
コンピュータを、
原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段、
熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、解析方法、解析装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントの安全性基準の一つとして、原子炉格納容器における水素濃度が基準値以内となることが定められている。原子炉格納容器内の水素濃度を評価する為には、水素の燃焼状況を把握する必要がある。例えば、ドライ型コアキャッチャを有する原子力プラントでは、溶融炉心がコアキャッチャ設備に流入した際に、溶融炉心とコアキャッチャ設備の表面に敷設されている犠牲材コンクリートの反応により水素が発生する。溶融炉心は概して2000℃程度以上の高温となるため、溶融炉心の近傍で発生する水素は着火し、燃焼すると考えられる。しかし、溶融炉心の形状や温度、流入・拡散範囲は必ずしも一定でない。これまでに溶融炉心の挙動や発生水素の燃焼を精緻にモデル化した解析評価は行われていない。例えば、特許文献1には、非常時に炉内の核燃料の状況を把握することを可能とする炉内状況測定技術が開示されているが、水素の燃焼状況を測定する技術に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6871148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原子力プラントの設備内での水素の燃焼状況を評価する方法が必要とされている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる解析方法、解析装置及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の解析方法は、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出するステップと、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定するステップと、を有する。
【0007】
本開示のデータ解析装置は、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段と、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段と、を有する。
【0008】
また、本開示のプログラムは、コンピュータを、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段、として機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の解析方法、解析装置及びプログラムによれば、原子力プラントの設備内での水素の燃焼状況を精緻に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る解析装置の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る原子炉格納容器の概略図である。
図3】実施形態に係る水素3元図の一例を示す図である。
図4】実施形態に係る自着火温度の評価方法について説明する第1図である。
図5】実施形態に係る自着火温度の評価方法について説明する第2図である。
図6】実施形態に係る水素燃焼解析処理の一例を示すフローチャートである。
図7】実施形態の解析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示の解析装置について、図1図7を参照しながら説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る解析装置の一例を示すブロック図である。
解析装置10は、冷却システムの故障等により、高温となった溶融炉心が原子炉容器の底を突き抜けて、コアキャッチャ設備に落下した場合の事象進展に伴う原子炉格納容器内の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、水素の燃焼状況などを解析する。図2にコアキャッチャ設備を有するPWR(Pressurized Water Reactor)型の原子炉格納容器1の要部の概略を示す。原子炉格納容器1には、原子炉容器2が設置されており、その下方には、燃料等の溶融物を受け止めるコアキャッチャ設備3が備えられている。コアキャッチャ設備3は、原子炉容器2の底部を覆うように設けられたRV(Reactor Vessel)ピット4(図2のU字型の構造物)とRVピット4が受け止めた溶融物を拡散して保持、冷却する拡散槽5とを含む。溶融した炉心が、コアキャッチャ設備3に流入し、コアキャッチャ設備3の表面のコンクリートと反応すると、水素が発生し、溶融炉心の熱により着火することがある。解析装置10は、水素の着火を判定する着火判定ロジックを有し、コアキャッチャ設備3内での水素の燃焼状況を考慮して、水素濃度等の解析を行う。
【0012】
解析装置10は、1台又は複数台のコンピュータで構成されている。図1に示すように、解析装置10は、入力受付部11と、解析部12と、自着火温度算出部13と、出力部14と、記憶部15とを備える。
【0013】
入力受付部11は、キーボード、マウス、タッチパネル、ボタン等の入力装置を用いて入力された各種の設定情報、処理の実行を指示する指示情報などを受け付ける。
【0014】
解析部12は、SA(Severe Accident)解析コード(例えば、MAAP)、熱水力解析コード(例えば、GOTHIC)を用いて、炉心溶融時に原子炉格納容器1で生じる事象について事象進展解析を行う。例えば、解析部12は、SA解析コードを用いて、コアキャッチャ設備3へ流入する溶融炉心の挙動、コアキャッチャ設備3での水素発生量を解析し、熱水力解析コードによる解析の境界条件とする。例えば、解析部12は、熱水力解析コードを用いて、原子炉格納容器1内をメッシュに分割し、各メッシュにおける時々刻々の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度などを解析する。その際、解析部12は、コアキャッチャ設備3内の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度に基づいて、溶融炉心などの溶融物により発生する水素の着火判定を行う。図3を参照して水素の着火判定ロジックについて説明する。
【0015】
図3は、水素3元図の一例を示す図である。図示するように水素3元図とは、三角形の1辺に空気濃度、他の1辺に水蒸気濃度、残りの1辺に水素濃度をわりあてて、これら3つのパラメータの関係を三角形内の位置で表したものである。水素の着火について考えると、水素濃度が所定の閾値Th1(図3の例では5%程度)以上となり、且つ、酸素濃度(水素3元図の空気濃度に対応する酸素濃度)が所定の閾値Th2(図3の例では空気に換算して25%程度)以上となり、且つ、水蒸気濃度が所定の閾値Th3(図3の例では55%程度)未満となり、且つ、雰囲気温度が所定の閾値Th4を上回ると、着火すると考えられる。図3に示す線131は、閾値Th1~Th3についての条件を満たす水素の可燃範囲の境界を示す。線131で囲まれた領域132が、水素が燃えやすい条件が揃った可燃範囲である。残りの条件である雰囲気温度については、例えば、線131に沿って離散的に評価点#1~#9を設定し、各評価点において自着火温度(火種が無くても自然に着火する温度、自己着火温度とも呼ぶ。)を評価し、解析における雰囲気温度が自着火温度を超える場合に着火すると判定するための閾値Th4とする。これにより水素が燃焼するような一般的な雰囲気組成に対して着火判定を行う仕組みとなる。なお、評価点#1~#9には、各評価点における水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度の条件下で解析された水素に着火する雰囲気温度の全てを包絡する(つまり、雰囲気温度の最大値)を設定するようにしてもよい。また、評価点#1~#9以外については、内挿により、領域132内の各位置の雰囲気温度の閾値Th4を設定するようにしてもよい。例えば、解析部12は、図3に例示する水素3元図に基づいて、あるメッシュの水素濃度、酸素濃度(水素3元図の空気濃度に対応する酸素濃度、以下同様)、水蒸気濃度で表される位置が領域132内に位置し、且つ、雰囲気温度の閾値Th4を上回ると、そのメッシュの水素に着火し、燃焼すると判定する。水素が着火し、燃焼すると、周囲の温度が上昇し、他のメッシュの水素にも燃焼が広がる可能性がある。解析部12は、例えば、コアキャッチャ設備3内のどの位置で着火するか、その結果、周囲の雰囲気温度がどのように上昇し、どのように燃焼が広がるかを解析する。水素が燃えると、その部分の水素濃度は低下する。したがって、水素の燃焼状況を解析することにより、コアキャッチャ設備3内の水素濃度を精緻に評価することができる。
【0016】
自着火温度算出部13は、化学反応計算コード(例えば、Chemkin)を用いて、水素の自着火温度を算出し、算出した値を解析部12へ渡す。解析部12は、自着火温度算出部13から受け取った自着火温度を水素3元図の評価点#1~#9等に設定する。上記のとおり、解析部12は、コアキャッチャ設備3内の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度が一定の条件を満たしたうえで、雰囲気温度が、自着火温度算出部13によって設定された温度以上となると、水素が着火し、燃焼すると判定する。自着火温度算出部13による自着火温度の算出方法については後述する。
【0017】
出力部14は、解析部12による解析結果を出力する。例えば、出力部14は、原子炉格納容器1内の各メッシュ位置における時々刻々の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度、水素着火の有無などを含む時刻歴データを表示装置や電子ファイル等に出力する。また、例えば、出力部14は、原子炉格納容器1全体の水素濃度を出力する。原子炉格納容器1全体の水素濃度とは、全メッシュの水素濃度の平均値である。
【0018】
記憶部15は、設定情報、解析中の処理データなど各種情報を記憶する。また、記憶部15は、SA解析コード16と、熱水力解析コード17と、化学反応計算コード18と、を記憶している。
【0019】
SA解析コード16は、原子炉容器2の破損、炉心損傷などの各種のシビアアクシデントが発生した場合に生じる事象を模擬する計算コードである。公知のSA解析コード16の一例として、MAAPを挙げることができる。SA解析コード16は、様々な事象を模擬することができるが、解析部12は、SA解析コード16を使って溶融炉心の挙動を解析する。例えば、SA解析コード16は、コアキャッチャ設備3へ流入する溶融炉心の流量や発熱量、流入した溶融炉心により発生する水素の量などを解析する。
【0020】
熱水力解析コード17は、図示しない原子炉建屋や原子炉格納容器1内における流体の熱流動を模擬する解析コードである。公知の熱水力解析コード17の一例として、GOTHICを挙げることができる。解析部12は、熱水力解析コード17を使って、原子炉格納容器1内の水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度の時間変化を解析する。解析部12は、熱水力解析コード17が模擬した水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度がある条件を満たすと、水素が着火すると判定する。
【0021】
化学反応計算コード18は、様々な物質の化学反応を解析する計算コードであり、気体の着火挙動の解析などに用いられる。公知の化学反応計算コード18の一例として、Chemkinを挙げることができる。気体組成と自着火温度を化学反応計算コードに入力すると、着火遅れ時間が出力される。自着火とは、可燃範囲内にある燃料(例えば、水素)と空気の予混合気が十分な高温に達するときに自然に発火し燃焼する現象を指し、自着火温度とは、自着火が生じるときの雰囲気温度を指す。また、着火遅れ時間とは、自着火の反応開始から、温度が急激に上昇するまでの時間を指す。この急激な温度上昇に至ると、水素が燃焼すると考える。図4にコアキャッチャ設備3にて想定される気体組成において生じる反応の連鎖の一例を示す。コアキャッチャ設備3の雰囲気温度が自着火温度に達すると、反応式(R1)~(R2)の反応が生じ、さらに反応が進むと、その次の段階として反応式(R3)~(R5)の反応が生じ、O、H、OHの濃度が急減に上昇する。すると次の段階として、反応式(R6)~(R13)、(R-10)の反応が生じ、コアキャッチャ設備3の雰囲気温度が急激に上昇する(例えば、自着火温度から50℃程度上昇する。)。自着火から雰囲気温度が急激に上昇するまでの時間を着火遅れ時間と呼ぶ。上述のように、コアキャッチャ設備3の気体組成(例えば、O、Hなどの量)と自着火温度を化学反応計算コード18(Chemkin)に入力すると、化学反応計算コード18は、図4に例示する反応式によって生じる温度変化を計算し、計算した条件下ではどのように反応が進むか、あるいは反応前の状態に戻るか等を解析して気体組成変化を計算し、水素の着火挙動を模擬する。そして、自着火から温度が急激に上昇し、本格的に燃焼が始まるまでの時間、つまり、着火遅れ時間を算出して、この時間を出力する。
【0022】
ところで、図3を参照して説明したように、本実施形態の水素燃焼状況の解析において、必要な情報は着火遅れ時間ではなく、途中で火が消えることなく燃焼に至るような水素の自着火温度である。つまり、熱水力解析コード17による水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度、雰囲気温度の解析において、雰囲気温度がある温度になったときに水素が燃焼すると判定する為の温度(自着火温度)が必要な情報である。そこで、本実施形態では、自着火温度算出部13が、化学反応計算コード18に対して、コアキャッチャ設備3へ溶融炉心が流入したときに想定される気体組成や様々な自着火温度を入力して着火遅れ時間を出力させ、その結果を整理して、適切な着火遅れ時間から水素が本格的な燃焼に至るときの自着火温度を算出する。図5に、化学反応計算コード18が出力した着火遅れ時間と、化学反応計算コード18に入力した自着火温度の関係を整理したグラフを示す。図5のグラフの縦軸は雰囲気圧力の対数、横軸は自着火温度を示し、グラフ内の色は着火遅れ時間を示す。
【0023】
コアキャッチャ設備3の環境を考えると、溶融炉心による加熱のため、水素自着火が想定されるRVピット4、拡散槽5では高温が維持されるが、それでも着火遅れ時間があまりにも長いと、周囲に熱が逃げ、急激な温度上昇には至らず、途中の段階で自着火した火が消えてしまうと考えられる。実際、文献や実験では1秒よりも十分に短い着火遅れ時間にて水素に着火したという結果が得られている。そこで、自着火温度算出部13は、例えば、着火遅れ時間に1秒(又はそれ以下の値)を設定し、着火遅れ時間が1秒となるような自着火温度を、図5に例示する図から読み取り(例えば800K)、読み取った値をコアキャッチャ設備3で水素が燃焼に至るような自着火温度として算出する。
【0024】
自着火温度算出部13は、化学反応計算コード18に、入力する気体組成を様々に変化させながら上記の処理を繰り返し、コアキャッチャ設備3内の様々な酸素濃度、水素濃度、水蒸気濃度に応じた自着火温度を算出する。例えば、自着火温度算出部13は、図3の評価点#1~#9それぞれの自着火温度を算出する。
【0025】
(動作)
次に図6を用いて、解析装置10の動作について説明する。
図6は、実施形態に係る水素燃焼解析処理の一例を示すフローチャートである。
最初に自着火温度を評価する(ステップS1)。自着火温度算出部13は、着火遅れ時間に適切な値(例えば、1秒以下)を設定して、図4図5を参照して説明した方法により、例えば、評価点#1~#9の自着火温度を算出する。例えば、ユーザは、評価点#1~#9の気体組成(水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度など)と、入力する自着火温度の範囲(例えば500K~1100K)および計算間隔(例えば10K)と、所望の着火遅れ時間(例えば、1秒)を解析装置10に入力し、自着火温度の算出を指示する。入力受付部11は、これらの情報を受け付け、自着火温度算出部13に出力する。自着火温度算出部13は、評価点#1の気体組成と指定された範囲の自着火温度を様々に変化させて(例えば500K~1100Kを10K刻みで変化させて)化学反応計算コードへ入力して、水素の着火挙動の解析を行わせ、着火遅れ時間を出力させる。これにより、評価点#1の気体組成の条件下における、入力した自着火温度ごとに着火遅れ時間が得られる。自着火温度算出部13は、この結果を整理し、評価点#1の気体組成の条件における自着火温度と着火遅れ時間の対応マップ(例えば、図5)を作成する。自着火温度算出部13は、対応マップとユーザが入力した所望の着火遅れ時間(例えば1秒)に基づいて、所望の着火遅れ時間を実現する自着火温度を算出する。自着火温度算出部13は、評価点#2~#9の気体組成の条件についても同様の解析を行い、評価点#2~#9における自着火温度を算出する。自着火温度算出部13は、算出した自着火温度とその条件(気体組成)を解析部12に出力する。
【0026】
次に水素3元図の評価点に着火温度を設定する(ステップS2)。解析部12は、自着火温度算出部13が算出した評価点#1~#9の自着火温度を取得して、図3にて例示する水素3元図の評価点#1~#9に設定する。解析部12は、評価点#1~#9以外の自着火温度について、内挿によって計算して設定してもよいし、評価点#1~#9の自着火温度の最大値を、評価点#1~#9およびそれ以外の位置(領域132内の各位置)に対して設定してもよい。なお、原子炉格納容器1内の水素濃度は閾値以下となることが求められるが、自着火温度の最大値を設定すると、それだけ水素が燃焼しづらい条件となり、水素濃度は高めに評価される結果となるため、閾値をクリアするという観点からは不利な条件設定となる。
【0027】
次に溶融炉心の挙動を解析する(ステップS3)。ユーザが、炉心溶融時の挙動の解析を解析装置10へ指示する。入力受付部11は、この指示情報を受け付け、解析部12に出力する。これにより、SA解析コード16や熱水力解析コード17を用いた解析が実行される。まず、解析部12は、SA解析コード16を用いて、溶融炉心の挙動を解析する。例えば、SA解析コード16は、どれぐらいの量の溶融炉心が原子炉容器2の底からRVピット4へ落下するか、さらにどれぐらいの量の溶融炉心が拡散槽5へ流入するか、およびそのときの発熱量、水素発生量を解析する。解析部12は、解析結果を記憶部15に保存する。この解析により得られた、溶融炉心がコアキャッチャ設備3へ流入したときの発熱量、水素発生量は、熱水力解析コード17に引き継がれる。なお、溶融炉心の挙動については、解析部12は、コンクリートと反応して粘度が低下した溶融炉心が、RVピット4の中心付近を破って落下し、拡散槽5内に均一に広がると仮定して発熱量や水素発生量などの解析を行ってもよいし、RVピット4の端部から落下し、拡散槽5にて偏りをもって拡散する場合など、様々な状況を想定した解析を行い、様々な状況ごとの解析結果に基づいて、以下のステップS4、ステップS5を実行するようにしてもよい。
【0028】
次に水素の燃焼状況、水素濃度等の解析を行う(ステップS4)。解析部12は、熱水力解析コード17を用いて、溶融炉心がコアキャッチャ設備3へ流入したときに原子炉格納容器1にて生じる現象の事象進展解析を行い、原子炉格納容器1の各メッシュについて、水素の着火判定、水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度の時間変化を解析する。解析部12は、解析結果を記憶部15に保存する。これにより、溶融炉心とコンクリートの反応により発生した水素が何処で着火し、燃焼するか、その燃焼がどのように広がるか、その結果、原子炉格納容器1における水素濃度や酸素濃度の分布はどのように変化するかを解析することができる。また、様々な溶融炉心の流入、拡散の状況に応じて、ステップS4の解析を行うことによって、溶融炉心の挙動に応じた、水素の燃焼状況や水素濃度などの時系列変化を解析することができる。また、解析部12は、各メッシュの水素濃度や酸素濃度の平均値を算出し、算出した値を原子炉格納容器1全体の水素濃度、酸素濃度として、記憶部15に保存するようにしてもよい。また、解析部12は、原子炉格納容器1だけではなく、原子炉格納容器1を覆う原子炉建屋(図示せず)を解析対象として、原子炉建屋内の空間をメッシュに分割し、各メッシュにおける水素着火、水素濃度、酸素濃度などの解析を行うようにしてもよい。これにより、原子炉格納容器1から漏洩した水素などの影響を解析することができる。
【0029】
次に、出力部14が、ステップS3、S4の解析結果を表示装置や電子ファイル等に出力する(ステップS5)。ユーザは、出力された解析結果を参照することによって、例えば、何時、どのメッシュ位置で水素が燃焼し、その燃焼がどのように広がるか、原子炉格納容器1全体の水素濃度は安全基準の閾値を達成できるかなどを把握することができる。
【0030】
(効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、自着火の判定基準を定め、溶融炉心の挙動、気体組成、雰囲気温度の変化を解析することにより、溶融炉心がコアキャッチャ設備3に流入した際の水素の燃焼状況、水素濃度を解析することができる。また、本実施形態の水素燃焼解析を前提とした水素濃度の解析方法は、原子力プラントの許認可グレードでの解析評価に適用でき、かつ計算リソースについても従来と概ね同等の範囲で実施可能となる。
【0031】
なお、上記実施形態では、コアキャッチャ設備3を有するPWR型の原子力プラントの原子炉格納容器1や不図示の原子炉建屋(何れも空気雰囲気)の解析を例に説明を行ったが、BWR(Boiling Water Reactor)型の原子力プラントの原子炉建屋(空気雰囲気)や、BWR型の原子炉格納容器(N2雰囲気、PWR型と比較して水素の発生量が多く、N2の加圧により酸素濃度を低減させている)における水素燃焼や水素濃度の解析にも適用することができる。つまり、本実施形態によれば、コアキャッチャ設備3に限らず、PWR型およびBWR型の原子力プラントの各種設備内での水素の燃焼状況、水素濃度、酸素濃度、水蒸気濃度を精緻に解析することができる。
【0032】
図7は、解析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述の解析装置10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0033】
なお、解析装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0034】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。分離超平面は分類器の一例である。分離精度は分類精度の一例である。
【0035】
<付記>
実施形態に記載の解析方法、解析装置及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0036】
(1)第1の態様に係る解析方法は、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると、体系全体の有意な温度上昇とそれに要する水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出するステップと、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定するステップと、を有する解析方法である。
これにより、原子力プラントの設備内での水素の燃焼状況を精緻に解析することができる。
【0037】
(2)第2の態様に係る解析方法は、(1)の解析方法であって、前記自着火温度を算出するステップでは、前記設備内の気体組成と前記自着火温度を前記化学反応計算コードに入力して着火挙動の解析を行わせることによって、前記化学反応計算コードに前記着火遅れ時間を出力させる処理を、前記自着火温度を変化させて繰り返し行い、前記着火遅れ時間と前記自着火温度の関係を算出して、前記着火遅れ時間が所定の時間となるような前記自着火温度を算出する。
これにより、化学反応計算コードを用いて、着火遅れ時間から自着火温度を逆算することにより、自着火温度を算出することができる。
【0038】
(3)第3の態様に係る解析方法は、(2)の解析方法であって、前記所定の時間は1秒以下の値である。
これにより、水素が燃焼する現実的な自着火温度を算出することができる。
【0039】
(4)第4の態様に係る解析方法は、(1)~(3)の解析方法であって、SA解析コードに基づいて溶融炉心の挙動を解析するステップ、をさらに有し、前記判定するステップでは、前記挙動を解析するステップにより得られた前記溶融炉心の発熱量と前記溶融炉心が原子炉圧力容器の下方に設けられたコアキャッチャ設備へ流入することにより発生する前記水素の発生量を境界条件とし、原子炉建屋又は原子炉格納容器内の酸素濃度、水素温度、水蒸気濃度、雰囲気温度の時間変化を解析し、前記酸素濃度が閾値以上、且つ、前記水素温度が閾値以上、且つ、前記水蒸気濃度が閾値未満、且つ、前記雰囲気温度が前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する。
これにより、燃料が冷却できないときなどに溶融炉心がコアキャッチャ設備3へ流入したときのコアキャッチャ設備3での水素の燃焼状況を精度よく解析することができる。
【0040】
(5)第5の態様に係る解析方法は、(1)~(4)の解析方法であって、前記判定するステップでは、前記設備内をメッシュに分割して、前記メッシュごとに酸素濃度、水素温度、水蒸気濃度、雰囲気温度の時間変化を解析し、ある前記メッシュにおいて、前記酸素濃度が閾値以上、且つ、前記水素温度が閾値以上、且つ、前記水蒸気濃度が閾値未満、且つ、前記雰囲気温度が前記自着火温度を上回ると、当該メッシュにて前記水素が燃焼すると判定する。
これにより、原子力プラントの設備の何処で何時、水素の燃焼が発生するかを解析することができる。
【0041】
(6)第6の態様に係る解析方法は、(1)~(5)の解析方法であって、前記判定するステップでは、空気濃度、水素温度、水蒸気濃度を各辺とする水素3元図に基づいて、前記設備内のある位置における前記空気濃度、前記水素温度、前記水蒸気濃度が、前記水素3元図内の所定の領域に含まれ、且つ、前記ある位置の前記雰囲気温度が前記自着火温度を上回ると、前記ある位置にて前記水素が燃焼すると判定する。
これにより、水素3元図を利用して水素燃焼状況を解析することができる。
【0042】
(7)第7の態様に係る解析装置は、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると体系全体の有意な温度上昇とそれに要する水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段と、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段と、を有する。
【0043】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータを、コンピュータを、原子力プラントの設備内の気体組成と自着火温度を入力すると、体系全体の有意な温度上昇とそれに要する水素の着火遅れ時間を計算する化学反応計算コードを用いて、前記水素の自着火温度を算出する手段、熱水力解析コードを用いて前記設備内の事象進展解析を行い、前記設備内の気体組成が所定の条件を満たし、且つ、雰囲気温度が算出した前記自着火温度を上回ると、前記水素が燃焼すると判定する手段、として機能させるためのプログラムである。
【符号の説明】
【0044】
10・・・解析装置
11・・・入力受付部
12・・・解析部
13・・・自着火温度算出部
14・・・出力部
15・・・記憶部
16・・・SA解析コード
17・・・熱水力解析コード
18・・・化学反応計算コード
900・・・コンピュータ
901・・・CPU
902・・・主記憶装置
903・・・補助記憶装置
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7