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特開2024-130842ブレードの製造方法、ブレードおよび飛翔体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130842
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ブレードの製造方法、ブレードおよび飛翔体
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/20 20060101AFI20240920BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20240920BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20240920BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240920BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20240920BHJP
   F03D 80/00 20160101ALI20240920BHJP
【FI】
B29C43/20
B29C70/42
B29C70/68
B29C43/34
F03D1/06 A
F03D80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040767
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高見 泰浩
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
【テーマコード(参考)】
3H178
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178BB75
3H178CC04
3H178DD70X
4F204AA11
4F204AC03
4F204AD08
4F204AD16
4F204AD17
4F204AG03
4F204AG20
4F204AH04
4F204AR07
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FG02
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA11
4F205AC03
4F205AD08
4F205AD16
4F205AD17
4F205AG03
4F205AG20
4F205AH04
4F205AR07
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HK03
4F205HK04
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】加圧および加熱による接着一体化の際に生じるUDシートやその織物の位置ずれを抑制することができるブレードの製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂の発泡体と、発泡していない熱可塑性樹脂のシートと、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートと、を含む材料を用意する工程と、前記材料を、成形後に内側となる方向から外側となる方向に向けて、発泡体、熱可塑性樹脂のシート、繊維強化樹脂シートの順に積層して積層体とする工程と、前記積層体を加熱および加圧して一体化する工程と、を有する、ブレードの製造方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の発泡体と、発泡していない熱可塑性樹脂のシートと、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートと、を含む材料を用意する工程と、
前記材料を、成形後に内側となる方向から外側となる方向に向けて、発泡体、熱可塑性樹脂のシート、繊維強化樹脂シートの順に積層して積層体とする工程と、
前記積層体を加熱および加圧して一体化する工程と、
を有する、ブレードの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂のシートは、厚みが0.1mm以上2.0mm以下のシートを含む、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項3】
前記発泡体が含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂とは、互いに相溶可能である、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂と、前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とは、互いに相溶可能である、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項5】
前記発泡体が含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内である、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂と、前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内である、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項7】
前記発泡体が含む熱可塑性樹脂、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂、および前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂は、いずれもポリプロピレンである、
請求項1に記載のブレードの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂の発泡体である芯材と、
前記芯材の表面側に配置された、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む表皮材と、を有する、
前記芯材と表皮材との間に配置された、発泡していない熱可塑性樹脂を含み、かつ強化繊維が一方向に配列された層ではない中間部と、
ブレード。
【請求項9】
請求項8に記載のブレードを有する飛翔体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレードの製造方法、ブレードおよび飛翔体に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行機、ヘリコプターおよびドローンなどの飛翔体における翼およびプロペラ、船などのスクリュー、ならびに風車の羽根などのローター(回転体)などには、空気またはその他の流体中を回転移動等するブレードが用いられる。
【0003】
ブレードには、移動時の抵抗に耐え得る剛性を有することが要求される。また同時に、燃費低減等の目的から、より軽量化したいという要望も、ブレードに対して存在する。これらの要求をかなえる方法として、繊維強化樹脂材により、樹脂発泡体からなる芯材の表面を被覆した構成が知られている(たとえば特許文献1)。特許文献1に記載のブレードは、樹脂発泡体の表面に繊維強化樹脂材を仮着した予備成形体を作製し、繊維強化樹脂材の樹脂が十分な軟化状態となる軟化条件下でこの予備成形体を加圧し、繊維強化樹脂材と樹脂発泡体とを接着一体化することにより、作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-177704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のように繊維強化樹脂材によりブレードを補強することで、ブレードの剛性が高まることが期待される。ところで、本発明者の知見によると、繊維強化樹脂材として、一方向に配向して配列された複数の強化繊維と上記強化繊維に含浸された樹脂組成物(マトリクス樹脂)とを含む薄膜状の繊維強化樹脂(以下、単に「Uni-Direction (UD)シート」ともいう。)や、これの織物などを使用すると、加圧および加熱による接着一体化の際にUDシートやその織物の位置ずれが生じやすい。ブレードは、飛翔効率を考慮して曲面状の表面を有することが多く、このような曲面状の表面を有するときには特にUDシートやその織物の位置ずれが生じやすい。そして、位置ずれが生じると、強化繊維による外観上の模様が不規則に変化してしまい、ブレードの見栄えが悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、加圧および加熱による接着一体化の際に生じるUDシートやその織物の位置ずれを抑制することができるブレードの製造方法、および当該製造方法により製造されたブレードを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態は、下記[1]~[7]のブレードの製造方法に関する。
[1]熱可塑性樹脂の発泡体と、発泡していない熱可塑性樹脂のシートと、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートと、を含む材料を用意する工程と、
前記材料を、成形後に内側となる方向から外側となる方向に向けて、発泡体、熱可塑性樹脂のシート、繊維強化樹脂シートの順に積層して積層体とする工程と、
前記積層体を加熱および加圧して一体化する工程と、
を有する、ブレードの製造方法。
[2]前記熱可塑性樹脂のシートは、厚みが0.1mm以上2.0mm以下のシートを含む、
[1]に記載のブレードの製造方法。
[3]前記発泡体が含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂とは、互いに相溶可能である、
[1]または[2]に記載のブレードの製造方法。
[4]前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂と、前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とは、互いに相溶可能である、
[1]~[3]のいずれかに記載のブレードの製造方法。
[5]前記発泡体が含む熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内である、
[1]~[4]のいずれかに記載のブレードの製造方法。
[6]前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂と、前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内である、
[1]~[5]のいずれかに記載のブレードの製造方法。
[7]前記発泡体が含む熱可塑性樹脂、前記熱可塑性樹脂が含む熱可塑性樹脂、および前記繊維強化樹脂シートのマトリクス樹脂である熱可塑性樹脂は、いずれもポリプロピレンである、
[1]~[6]のいずれかに記載のブレードの製造方法。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の他の実施形態は、下記[8]のブレードに関する。
[8]熱可塑性樹脂の発泡体である芯材と、
前記芯材の表面側に配置された、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む表皮材と、を有する、
前記芯材と表皮材との間に配置された、発泡していない熱可塑性樹脂を含み、かつ強化繊維が一方向に配列された層ではない中間部と、
ブレード。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の実施形態は、下記[9]の飛翔体に関する。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の製造方法で製造されたブレード、または[8]に記載のブレードを有する飛翔体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加圧および加熱による接着一体化の際に生じるUDシートやその織物の位置ずれを抑制することができるブレードの製造方法、および当該製造方法により製造されたブレードが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に関するドローンの模式斜視図である。
図2図2Aは、図1に示すドローンが有するブレードの1つを示す平面図であり、図2Bは、図2A中の線分A-Aでブレードを切断したときの断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に関するドローンの製造方法のフローチャートである。
図4図4Aおよび図4Bは、図1に示すドローンが有するブレードの製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.飛翔体およびブレード
図1は、本発明の一実施形態に関するドローン100(飛翔体)の模式斜視図である。図1に示すように、ドローン100は、胴体部110と、複数枚のブレード200と、足部120と、を有しており、それぞれのブレード200を回転させることにより、飛翔可能であり、かつ飛翔しながらの移動が可能である。本実施形態では、ドローン100は、いずれも同じ形状の4枚のブレード200を有する。
【0013】
図2Aは、ドローン100が有するブレード200の1つを示す平面図であり、図2Bは、図2A中の線分A-Aでブレード200を切断したときの断面図である。なお、図2Bには、特許文献1に記載されたような従来のブレードの断面図を示す。
【0014】
図2Aに示すように、ブレード200は、回転軸となる中心部210と、中心軸から伸びた一対の板状の羽部220とを有する。一対の(2つの)羽部220はいずれも同じ形状を有し、中心部210から互いに反対方向に、両者がなす角度が180°となるように配置される。
【0015】
また、図2Aおよび図2Bに示すように、ブレード200は、回転方向(それぞれの羽部220が移動する方向でもあるので、これ以降「移動方向」ともいう。)前方に配置された肉厚の本体部230と、回転方向(移動方向)後方に配置された肉薄のフラップ部240と、を有する。フラップ部240は、その厚みが本体部230の厚みの1/2以下となっている部位であることが好ましい。
【0016】
本体部230およびフラップ部240はいずれも、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む表皮材250と、表皮材250の内部に充填された熱可塑性樹脂の発泡体を含む芯材260と、を有する。そして、本体部230およびフラップ部240は一体的に成形されている。なお、一体的に成形するとは、本体部230およびフラップ部240を有するブレード200を一回の成形工程により形成することを意味する。一体的な成形品であることは、本体部230とフラップ部240との間に接合部位(継ぎ目)がないことにより確認することができる。
【0017】
本体部230は、厚みが1mm以上20mm以下であることが好ましく、1.5mm以上15mm以下であることがより好ましく、2mm以上10mm以下であることがさらに好ましい。また、本体部230は、最大幅(ブレード200の移動方向における最大の幅)が羽部220の長さの1/20以上1/2以下であることが好ましく、1/10以上1/3以下であることがより好ましく、1/7以上1/4以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態のドローン100のような複数のブレードを有する飛翔体における羽部220の長さは、最大離陸重量(機体重量と運搬重量の合計)とブレード使用枚数とによって決められてもよい。例えば離陸重量25kg、ブレード枚数16個(2枚組、ローター8個)の場合、羽部220の長さは20mm以上40mm以下であることが好適である。なお、本実施形態のような回転するブレード200においては、羽部220の長さは、ブレードの長さ方向における両端部を結んだ線分の長さを2で除した値である。
【0018】
フラップ部240は、厚みが0.3mm以上10.0mm以下であることが好ましく、0.4mm以上7mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上5mm以下であることがさらに好ましい。また、フラップ部240は、最大幅(ブレード200の移動方向における最大の幅)が本体部の最大幅の1/10以上2倍以下であることが好ましく、1/7以上1.5倍以下であることがより好ましく、1/4mm以上等倍以下であることがさらに好ましい。
【0019】
なお、図2Aおよび図2Bに示すように、本体部230およびフラップ部240の厚みおよび幅は場所によって変わり得る。本明細書において、フラップ部240の厚みは羽部220が最大の厚みとなる部分を通る移動前後方向の仮想線分上における、後方端部から2mmの位置を測定位置とし、本体部230の厚みは、羽部220のうち厚みが最も厚い部分の厚みを測定位置とすればよい。また本体部230の最大幅は、最大幅部をとおる回転前後方向の仮想線分上における、羽部220の最大厚みの1/2を超える厚みを有する部分の長さとし、フラップ部240の幅は、羽部220の最大幅から本体部の最大幅を引いた長さとする。
【0020】
2.ブレードの製造方法
図3は、本実施形態におけるブレード200の製造方法のフローチャートである。図3に示すように、本実施形態では、ブレード200の材料である熱可塑性樹脂の発泡体と、発泡していない熱可塑性樹脂のシートと、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートと、を用意し(工程S110)、これらの材料を積層した積層体を作製し(工程S120)、加圧および加熱によりこれらの材料を一体化して(工程S130)、ブレード200を製造する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0021】
2-1.工程S110:材料の用意
まず、ブレード200の材料である、熱可塑性樹脂の発泡体と、発泡していない熱可塑性樹脂のシートと、一方向に配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートと、を用意する。
【0022】
2-1-1.熱可塑性樹脂の発泡体
熱可塑性樹脂の発泡体は、ブレード200の芯材260の主要な構成要素となる。芯材260に発泡体を用いることで、ブレード200を軽量化することができる。
【0023】
上記熱可塑性樹脂の発泡体を構成する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などを用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0024】
発泡体の密度は、0.2g/cc以上0.6g/cc以下であることが好ましく、0.25g/cc以上0.4g/cc以下であることがより好ましい。発泡体中の気泡は、独立気泡であってもよいし、連通気泡であってもよい。これらのうち、より強度が高いことから、独立気泡が好ましい。
【0025】
発泡体の発泡倍率は、1.3倍以上5倍以下であることが好ましく、2倍以上4倍以下であることがより好ましい。
【0026】
発泡体の厚みは特に限定されず、ブレード200の厚みに応じて設定すればよい。たとえば、発泡体の厚みは、次の工程(工程S120)で積層された時の厚みが1.0mm以上15.0mm以下とすることができ、2.0mm以上12.0mm以下とすることが好ましく、3.0mm以上8.0mm以下とすることがより好ましい。
【0027】
2-1-2.熱可塑性樹脂のシート
熱可塑性樹脂のシートは、加圧および加熱により発泡体と繊維強化樹脂シートとを一体化するときの、繊維強化樹脂シートの位置ずれを抑制する。
【0028】
上記熱可塑性樹脂のシートは、熱可塑性樹脂をシート状に成型してなるものであり、上記熱可塑性樹脂が発泡していないものであればよい。上記熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などを用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂のシートは、公知の充填材(無機充填材、有機充填材)、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、および軟化剤などの充填剤を含んでもよい。なお、上記熱可塑性樹脂のシートは、長さが15mm以上である長繊維を実質的に含まないか、含んでいても長繊維が一方向に配向して配列していないことが好ましい。また、熱プレス成型(工程S130)時の繊維強化樹脂シートの位置ずれをより効果的に抑制する観点からは、上記熱可塑性樹脂のシートは、その全体積に対する強化繊維の含有量(繊維体積分率(Vf))が、0体積%以上10体積%未満であることが好ましく、0体積%以上5体積%未満であることがより好ましく、0体積%以上1体積%未満であることがさらに好ましい。
【0030】
上記熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂と、発泡体を構成する熱可塑性樹脂とは、相溶可能であることが好ましい。これにより、熱プレス成型(工程S130)時にこれらの樹脂を相溶させて、これらの接合強度をより高めることができる。なお、相溶可能であるとは、これらの熱可塑性樹脂をすべての樹脂の融点よりも高い温度まで加熱して混合し、その後25℃まで冷却したときに、単一相が形成されるような樹脂の組合せを意味する。
【0031】
また、上記熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂と、発泡体を構成する熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内であることが好ましい。これにより、熱プレス成型(工程S130)時にこれらの樹脂を入り混じらせたり相溶させたりしやすくして、これらの接合強度をより高めることができる。
【0032】
なお、次の工程(工程S120)で発泡体の上下に熱可塑性樹脂のシートおよび繊維強化樹脂シートを積層するときは、本工程で2枚の熱可塑性樹脂のシートを用意する。また、次の工程(工程S120)における熱可塑性樹脂のシートの配置に応じて、3枚あるいはそれ以上の複数枚の熱可塑性樹脂のシートを用意してもよい。このとき、それぞれの熱可塑性樹脂のシートは、同じ熱可塑性樹脂から構成されるものであってもよいし、樹脂種やモノマー比率、分子量等の物性などが互いに異なる樹脂から構成されるものであってもよい。
【0033】
複数枚の熱可塑性樹脂のシートを用意するときは、いずれか1つの熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂が、発泡体を構成する熱可塑性樹脂と相溶可能あるいは融点の差が10℃以内であることが好ましいが、すべての熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂が、発泡体を構成する熱可塑性樹脂と相溶可能あるいは融点の差が10℃以内であることがより好ましい。
【0034】
上記熱可塑性樹脂のシートの厚みは、次の工程(工程S120)で積層された時の厚みが0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上1.0mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上0.5mm以下とすることがさらに好ましく、0.35mm以上0.5mm以下とすることが特に好ましい。熱可塑性樹脂のシートをより厚くするほど、熱プレス成型(工程S130)時の繊維強化樹脂シートの位置ずれを抑制する効果が高まる。熱可塑性樹脂のシートをより薄くするほど、ブレード200中に占める発泡体の割合を増やしてブレード200をより軽くすることができる。
【0035】
2-1-3.繊維強化樹脂シート
上記繊維強化樹脂シートは、一方向に配向して配列した強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂シートであればよい。
【0036】
上記強化繊維の種類は特に限定されず、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維などを使用することができる。これらのうち、密度が小さく、ブレード200を軽量化してその比剛性をより高める観点からは、炭素繊維およびアラミド繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。
【0037】
強化繊維は、一方向に配向した、長さが15mm以上である長繊維であればよい。また、長繊維は、一方向のみに配向していてもよいし、長繊維の配向方向が異なる複数の層を繊維強化樹脂シート中に形成していてもよいし、長繊維が織り込まれていてもよい。あるいは、長繊維が一方向に配向してなるブロックが、ブロックごとの長繊維の配向方向がランダムになるように繊維強化樹脂シート中に配置されていてもよい。これらのうち、製造時の賦形性を高める観点からは、長繊維の配向方向が同一または異なる複数の層が繊維強化樹脂シート中に形成されているか、あるいは長繊維が織り込まれていることが好ましい。
【0038】
長繊維の配向方向が異なる複数の層を有する繊維強化樹脂シートは、一方向に配向して配列された複数の強化繊維と上記強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂とを含む薄膜状の繊維強化樹脂(UDシート)を、強化繊維の配向方向をずらして積層して加熱プレス成形して、作製することができる。長繊維が織り込まれた繊維強化樹脂シートは、強化繊維の配向方向に沿って切断して得られるテープ状のUDシートを織り込んで加熱プレス成形して、作製することができる。このときの織り方は、平織り、綾織り、および朱子織りなどのいかなる織り方でもよい。長繊維が一方向に配向してなるブロックが、ブロックごとの長繊維の配向方向がランダムに配置された繊維強化樹脂シートは、チップ状に切断したUDシートを金型中にランダムに敷き詰めて加熱プレス成形して、作製することができる。
【0039】
また、強化繊維は、剛性の向上効果を十分に高める観点から、平均直径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0040】
強化繊維は、サイジング剤によりサイジング処理されていてもよい。上記サイジング剤は特に限定されないが、未変性のポリオレフィンと、変性ポリオレフィンを含むことが好ましく、得には、カルボン酸金属塩を含む変性ポリオレフィンを含むことがより好ましい。上記変性ポリオレフィンは、たとえば、未変性ポリオレフィンの重合体鎖に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基またはカルボン酸エステル基をグラフト導入し、かつ上記官能基と金属カチオンとの間で塩を形成させたものである。
【0041】
上記未変性ポリオレフィンは、エチレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるエチレン系重合体、またはプロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン系重合体であることが好ましい。上記エチレン系重合体の例には、エチレン単独重合体、およびエチレンと炭素原子数3以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記プロピレン系重合体の例には、プロピレン単独重合体、およびプロピレンとエチレンまたは炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記未変性ポリオレフィンは、ホモポリプロピレン、ホモポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、またはエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体であることが好ましい。これらの未変性ポリオレフィンの原料となるα-オレフィンは、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0042】
繊維強化樹脂シートの全質量に対する強化繊維の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上65質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0043】
繊維強化樹脂シートの全体積に対する強化繊維の含有量(繊維体積分率(Vf))は、10体積%以上70体積%以下であることが好ましく、15体積%以上60体積%以下であることがより好ましく、20体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
上記マトリクス樹脂の材料は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されない、マトリクス樹脂は、結晶性樹脂であってもよいし、非結晶性樹脂であってもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。これらの熱可塑性樹脂は、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0046】
これらのうち、小石などの飛来物が衝突しても破損しにくく、ブレード200の信頼性を高めることができるため、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂が好ましく、表皮材250が水を吸収したときの力学特性の低下を抑制する観点からは、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
【0047】
マトリクス樹脂は、添加剤を含む樹脂組成物であってもよい。添加剤の例には、公知の充填材(無機充填材、有機充填材)、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、および軟化剤などが含まれる。
【0048】
また、マトリクス樹脂は、上記以外の樹脂や、上記炭素繊維よりも短い長さの短繊維などの他の成分を含んでいてもよい。
【0049】
繊維強化樹脂シートの全質量に対するマトリクス樹脂の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、25質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0050】
繊維強化樹脂シートの全体積に対するマトリクス樹脂の含有量は、30体積%以上90体積%以下であることが好ましく、40体積%以上85体積%以下であることがより好ましく、40体積%以上80体積%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
上記マトリクス樹脂と、次の工程(工程S120)で繊維強化樹脂シートに接して(積層方向に隣接して)配置される熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂とは、相溶可能であることが好ましい。これにより、熱プレス成型(工程S130)時にこれらの樹脂を相溶させて、これらの接合強度をより高めることができる。なお、相溶可能であるとは、これらの熱可塑性樹脂をすべての樹脂の融点よりも高い温度まで加熱して混合し、その後25℃まで冷却したときに、単一相が形成されるような樹脂の組合せを意味する。
【0052】
上記マトリクス樹脂と、次の工程(工程S120)で繊維強化樹脂シートに接して(積層方向に隣接して)配置される熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂とは、融点の差が10℃以内であることが好ましい。これにより、熱プレス成型(工程S130)時にこれらの樹脂を入り混じらせたり相溶させたりしやすくして、これらの接合強度をより高めることができる。
【0053】
次の工程(工程S120)で発泡体の上下に熱可塑性樹脂のシートおよび繊維強化樹脂シートを積層するときは、本工程で2枚の繊維強化樹脂シートを用意する。また、次の工程(工程S120)における繊維強化樹脂シートの配置に応じて、3枚あるいはそれ以上の複数枚の繊維強化樹脂シートを用意してもよい。このとき、それぞれの繊維強化樹脂シートは、同じ熱可塑性樹脂から構成されるものであってもよいし、樹脂種やモノマー比率、分子量等の物性などが互いに異なる樹脂から構成されるものであってもよい。
【0054】
複数枚の繊維強化樹脂シートを用意するときは、いずれか1つの繊維強化樹脂シートに含まれるマトリクス樹脂が、積層方向に隣接して配置された熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂と相溶可能あるいは融点の差が10℃以内であることが好ましいが、すべての繊維強化樹脂シートに含まれるマトリクス樹脂が、積層方向に隣接して配置された熱可塑性樹脂のシートを構成する熱可塑性樹脂と相溶可能あるいは融点の差が10℃以内であることがより好ましい。
【0055】
繊維強化樹脂シートの厚みは特に限定されず、ブレード200の厚みに応じて設定すればよい。たとえば、繊維強化樹脂シートの厚みは、次の工程(工程S120)で積層された時の厚みが0.1mm以上2.0mm以下とすることができ、0.3mm以上1.2mm以下とすることが好ましく、0.5mm以上0.9mm以下とすることがより好ましい。
【0056】
2-2.工程S120:積層体の作製
次に、これらの材料を積層して、積層体とする。このときの積層の順番は、成形後に内側になる方向側に芯材260の主要な構成要素となる熱可塑性樹脂の発泡体が配置され、成形後に外側となる方向に向けて、熱可塑性樹脂のシート、繊維強化樹脂シートの順とする。たとえば、積層体の下部から上部に向けて、繊維強化樹脂シート/熱可塑性樹脂のシート/熱可塑性樹脂の発泡体/熱可塑性樹脂のシート/繊維強化樹脂シートの順に積層すればよい。これらの間に他の材料が配置されてもよいが、熱可塑性樹脂のシートと繊維強化樹脂シートとは、少なくとも部分的に積層方向に接するように隣接して配置されることが好ましい。
【0057】
このとき、発泡体、熱可塑性樹脂のシートおよび繊維強化樹脂シートはそれぞれ1枚ずつを積層してもよいし、複数枚を重ねて積層してもよい。たとえば、上記積層の態様における最上部または最下部の繊維強化シートとして、強化繊維の配向方向や織の有無などが異なる複数枚の繊維強化樹脂シートを積層してもよい。このとき、たとえばブレードの外観を良好にするため、長繊維が織り込まれた繊維強化樹脂シートや、長繊維が一方向に配向してなるブロックがランダム配置された繊維強化樹脂シートを、繊維強化樹脂シートのうちの最も外側に配置してもよい。
【0058】
なお、発泡体、熱可塑性樹脂のシートおよび繊維強化樹脂シートは、積層前に、ブレード200の平面視した形状(積層方向と直交する方向にみた形状)に切り抜き加工または打ち抜き加工されることが好ましい。ただし、ブレード200の形状に応じてはこの限りではなく、たとえばブレード200のうち厚みが薄いフラップ部240などについては、繊維強化樹脂シートのみ、あるいは繊維強化樹脂シートおよび熱可塑性樹脂のシートのみ、により十分な厚みが形成されるようであれば、発泡体はフラップ部240を有さない形状に切り抜き加工または打ち抜き加工されてもよい。また、平面視したブレード200よりも小さい形状に切断した断片を散りばめて、上述した厚みを有する積層体における発泡体、熱可塑性樹脂のシートおよび繊維強化樹脂シートの各層としてもよい。本体部230とフラップ部240との間で表皮材250の厚みを変えたいときには、本体部230用の繊維強化樹脂シートとフラップ部240用の繊維強化樹脂シートとをそれぞれ用意してもよい。ただし、熱プレス時のシートの位置ずれを防ぐ観点からは、本体部230およびフラップ部240をあわせた形状を有する繊維強化樹脂シートを使用し、本体部230とフラップ部240との間で表皮材250の厚みを同一にすることが好ましい。
【0059】
あるいは、熱可塑性樹脂のシートは、繊維強化樹脂シートのうち熱プレス成型(工程S130)による位置ずれが大きい位置のみに部分的に積層してもよい。また、繊維強化樹脂シートは、ブレード200のうち補強効果が必要な位置のみに部分的に積層してもよい。繊維強化樹脂シートを部分的に積層するときは、当該積層された繊維強化樹脂シートの内側のみに熱可塑性樹脂のシートを積層すればよい。
【0060】
また、繊維強化樹脂シートの外側にコーティング層となる熱可塑性樹脂のシートを配置してもよい。
【0061】
また、本工程は、次の工程(工程S130)で熱プレス成型する金型の内部で行ってもよい。
【0062】
2-3.工程S130:材料の一体化
前の工程(工程S120)で得られた積層体を金型の内部に配置し、熱プレス成型することで、ブレード200を得ることができる。
【0063】
図4Aは、積層体を金型の内部に配置した様子を、図4Bは熱プレス成型する様子を、それぞれ示す模式図である。
【0064】
図4Aでは、前工程で用意された、繊維強化樹脂シート250a、熱可塑性樹脂のシート270a、発泡体260a、熱可塑性樹脂のシート270a、および繊維強化樹脂シート250aがこの順に積層された積層体が、金型の内部に配置されている。
【0065】
図4Bに示すように、この状態で熱プレスすることで、発泡体260aが軟化して流動し、かつ熱可塑性樹脂のシート270aを介して繊維強化樹脂シート250aと融着して、一方向に配列した強化樹脂と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む表皮材250が外側を取り囲み、熱可塑性樹脂の発泡体による芯材260がその内部に配置された、ブレード200を得ることができる。
【0066】
熱プレス時の温度は、発泡体260a、熱可塑性樹脂のシート270a、繊維強化樹脂シート250aのマトリクス樹脂であるそれぞれの熱可塑性樹脂の融点(これらが異なる種類の熱可塑性樹脂を含むときは、融点が最も高い熱可塑性樹脂の融点)に対して-20℃以上50℃以下となる温度であることが好ましく、-10℃以上30℃以下となる温度であることがより好ましく、0℃以上20℃以下となる温度であることがさらに好ましい。
【0067】
なお、上記熱可塑性樹脂の融点が異なるときは、融点が最も高い熱可塑性樹脂の融点にあわせて加熱温度を設定することにより、その他の熱可塑性樹脂の劣化や発泡形状の崩壊などを抑止することもできる。
【0068】
熱プレス時の圧力は、0.2MPa以上10MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以上7MPa以下であることがより好ましく、0.5MPa以上5MPa以下であることがさらに好ましい。
【0069】
熱プレスの時間は、設定温度での保持時間が1秒以上10分以下であることが好ましく、5秒以上5分以下であることがより好ましく、10秒以上1分以下であることがさらに好ましい。
【0070】
熱プレスによって、発泡体260aが軟化して流動し、芯材260の形状に変形する。そして、本発明者らの知見によると、従来のブレード200の製造方法では、この発泡体260aの流動および変形に追随して繊維強化樹脂シート250aが移動してしまい、これにより不規則な模様が表皮材250に形成されてしまっていた。これに対し、本実施形態では、発泡体260aと繊維強化樹脂シート250aとの間に熱可塑性樹脂のシート270aを配置する。この熱可塑性樹脂のシート270aは、熱プレス時に軟化して流動して発泡体260aの流動および変形に追従しつつ、発泡体260aの流動および変形の、繊維強化樹脂シート250aへの伝播を阻害する。このようにして、熱可塑性樹脂のシート270aは、発泡体260aの流動および変形の、繊維強化樹脂シート250aへの影響を緩和して、繊維強化樹脂シート250aの位置ずれを抑制すると考えられる。
【0071】
熱プレス後は、金型を急冷することが好ましい。急冷することで、表皮材との接着性を担保しつつ、発泡体の溶融を防ぐことができる。たとえば、冷却速度は、0.1℃/分以上100℃/分以下であることが好ましく、1℃/分以上50℃/分以下であることがより好ましく、5℃/分以上30℃/秒以下であることがさらに好ましい。
【0072】
このようにして、熱プレスにより、発泡体260aによる芯材260と、芯材260の表面側に配置された、繊維強化樹脂シート250aによる表皮材250と、を有するブレード200が得られる。なお、このようにして得られるブレード200は、芯材260と表皮材250との間に配置された、発泡していない熱可塑性樹脂を含み、なおかつ、強化繊維が一方向に配列された層ではない、熱可塑性樹脂のシート270aによる中間部270を有していてもよい。中間部270は、芯材260と表皮材250との間に層状に配置されていてもよいし、芯材260と表皮材250との間の一部のみに配置されていてもよい。なお、熱プレス時の流動により熱可塑性樹脂のシート270aの熱可塑性樹脂が繊維強化樹脂シート250aのマトリクス樹脂と一体化されて、中間部270が形成されなくてもよい。
【0073】
図4Bに示すブレード200は、熱プレス時の流動により、比重が小さい発泡体260aはフラップ部240(図4Aおよび図4Bに「X」で示した範囲)から押し出され、フラップ部240は表皮材250および中間部270のみにより構成されている。
【0074】
金型から取り出したブレード200には、回転軸を挿入するための穴あけ等の後加工を、必要に応じて行うことができる。
【0075】
なお、上述の実施形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な各実施形態も可能であることは言うまでもない。
【0076】
たとえば、上記実施形態では、ドローン用の回転羽根を例示してブレードを説明したが、ブレードの種類はこれに限られず、飛行機および船などのプロペラ、ヘリコプターの回転翼、飛行機の主翼および尾翼などの翼、風車などの回転翼などの、流体(気体または液体)の内部を移動して所定の力を発生させるための各種ブレードに、本発明は適用され得る。これらの中でも、フラップ部を薄肉化可能であり、かつ、比剛性に優れるため、ドローン、ヘリコプター、空飛ぶ車などの飛翔体の回転翼として好ましく用いることができる。
【0077】
本発明の別の実施形態では、上述の実施形態に係るブレードを有する飛翔体が提供される。飛翔体にあっては、ブレードは回転翼であることが好ましい。なお、飛翔体は、有人であるか無人であるかを問わない。
【実施例0078】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0079】
1.ブレードの作製
1-1.ブレード1の作製(実施例1)
厚み4mmのポリプロピレン発泡シート(三井化学東セロ株式会社製、パロニア、密度0.3g/cc、発泡倍率3倍)を、トムソン刃により図2Aに示す形状に打ち抜いて、芯材材料とした。なお、打ち抜きされた形状は、長軸方向(図2A中の左右方向)の長さが700mm、短軸方向(図2A中の上下方向)の最大幅が60mm、表面積が250cmであった。
【0080】
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、J106G、融点163℃)を熱プレス法により厚み0.30mmに成膜して、ポリプロピレンシートを得た。このポリプロピレンシートを、カッターナイフにより芯材材料と同じ形状に切り抜いて、熱可塑性樹脂のシートとした。
【0081】
一方向に配向した炭素繊維の長繊維にポリプロピレンのマトリクス樹脂が含浸してなるUDシート(三井化学株式会社製、商品名TAFNEX、繊維体積分率(Vf)50%、厚さ0.16mm)を用意した。このUDシートを、炭素繊維の延伸している方向に沿って12.5mm幅に切断してテープ状とし、このテープを、開口率が0.38%、経糸と緯糸との間隔が平均で0.05mm~約1mmとなるように綾織りで製織し、厚みが0.30mmの織物状の繊維強化樹脂シートを得た。
【0082】
トムソン刃を用いて、この繊維強化樹脂シートを芯材材料と同じ形状に打ち抜いた。このとき、長軸方向に対して強化繊維の延伸方向がなす角度が0°および90°となるように打ち抜いたものを表皮材材料1、長軸方向に対して強化繊維の延伸方向がなす角度が45°および-45°となるように打ち抜いたものを表皮材材料2とした。
【0083】
上記用意した材料を、表皮材材料2/表皮材材料1/中間層材料/芯材材料/中間層材料/表皮材材料1/表皮材材料2の順に積層して積層体とした。この積層体を金型に入れて、250tプレス加工機により、型温度175℃、型締め力10t、型締め時間30秒の状件で加熱プレス成形した。その後、金型を40℃まで急冷して、ブレード1を得た。
【0084】
1-2.ブレード2の作製(実施例2)
中間層材料の成膜時の厚みを0.45mmに変更した以外はブレード1の作製と同様にして、ブレード2を作製した。
【0085】
1-3.ブレード3の作製(実施例3)
中間層材料の成膜時の厚みを0.50mmに変更した以外はブレード1の作製と同様にして、ブレード3を作製した。
【0086】
1-4.ブレード4の作製(比較例1)
積層体とするときに、中間層材料を用いずに表皮材材料2/表皮材材料1/芯材材料/表皮材材料1/表皮材材料2の順に積層した以外はブレード1の作製と同様にして、ブレード4を作製した。
【0087】
2.評価
評価方法を事前に調整した5人のパネラーがブレード1~ブレード4の外観を観察し、成形前の表皮材材料2の外観と比較して、繊維の配向方向の乱れおよびシワの有無をもとに、表皮材材料2からの強化繊維の位置ずれを評価した。評価は、位置ずれが顕著であるときを1、位置ずれが認められないときを5としての5段階で行った。
【0088】
ブレード1~ブレード4の積層体(加熱プレス成形前)の層構成および各層の厚み、ならびに評価結果を、表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すように、熱可塑性樹脂の発泡体である芯材材料と、一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂のマトリクス樹脂とを含む表皮材材料と、の間に熱可塑性樹脂のシートを配置することで、強化繊維の位置ずれが抑制され、外観の良好なブレードが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に関するブレードの製造方法によれば、外観が良好なブレードが得られる。そのため、本発明は、各種用途におけるブレードへのUDシートの適用を促進してブレードの耐久性をより高め、ブレードの利用およびさらなる開発を促進して、ブレードが用いられる各種分野の発展に寄与すると期待される。
【符号の説明】
【0092】
100 ドローン
110 胴体部
120 足部
200 ブレード
210 中心部
220 羽部
230 本体部
240 フラップ部
250 表皮材
250a 繊維強化樹脂シート
260 芯材
260a 熱可塑性樹脂の発泡体
270 中間部
270a 熱可塑性樹脂のシート
図1
図2
図3
図4