(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130847
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電力供給回路、航空機用電源回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240920BHJP
【FI】
H02M7/48 L
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040774
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】樹神 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】南条 徹
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770FA03
5H770GA11
5H770HA03W
5H770LA05X
5H770LA05Z
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】交流負荷の駆動開始に先立ち平滑コンデンサを充電する電力供給回路を、異なる仕様の装置に対しても共用化できるようにすることを目的とする。
【解決手段】コントローラ70は、プリチャージ状態への移行後、直流電源110からの入力電圧に対する平滑コンデンサ40の充電電圧の割合を示す値を算出する。コントローラ70は、算出された割合を示す値が、所定の割合判定値よりも大きくなると、プリチャージ状態を終了し、交流モータ120を駆動させる駆動状態へ移行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流負荷に、交流電力を供給する電力供給回路であって、
直流電力を交流電力に変換して、前記交流負荷に供給するインバータと、
起動用スイッチを有し、一端が直流電源の正極に接続され、他端が前記インバータに接続されており、前記起動用スイッチのオンオフに応じて、前記直流電源と前記インバータとの間の接続状態を切替え可能な起動回路と、
充電スイッチと、前記充電スイッチに直列接続された制限抵抗とを有し、一端が前記直流電源の正極に接続され、他端が前記インバータに接続されており、前記充電スイッチのオンオフに応じて、前記直流電源と前記インバータとの間の接続状態を切替え可能なプリチャージ回路と、
前記起動回路及び前記プリチャージ回路と、前記インバータとの間で、前記直流電源に並列接続された平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの充電電圧を検出する充電電圧検出部と、
前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを切替える切替信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを前記切替信号により切替えることで、前記起動回路を介することなく、前記プリチャージ回路を介して、前記直流電源からの直流電力を前記平滑コンデンサに供給し、前記平滑コンデンサを充電するプリチャージ状態に移行し、
前記プリチャージ状態の終了後、前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを前記切替信号により切替えることで、前記起動回路を介して、前記直流電源からの直流電力を前記インバータに供給する駆動状態に移行し、
前記プリチャージ状態への移行後、前記直流電源からの入力電圧に対する前記平滑コンデンサの充電電圧の割合を示す値を算出し、
算出された前記割合を示す値が割合判定値よりも大きくなると、前記プリチャージ状態を終了し、前記駆動状態へ移行する、電力供給回路。
【請求項2】
前記制御部は、
前記プリチャージ状態への移行後、判定時間が経過するまでに、前記算出された割合を示す値が前記割合判定値よりも大きくなった場合は、前記プリチャージ状態を終了し、前記駆動状態へ移行し、
前記プリチャージ状態への移行後、前記判定時間が経過するまでに、前記算出された割合を示す値が前記割合判定値よりも大きくならない場合は、異常を判定する、請求項1に記載の電力供給回路。
【請求項3】
前記制御部は、
異常時停止モードの有効と無効との設定を変更可能な構成であり、
前記異常時停止モードが有効に設定されていれば、前記異常を判定すると、前記プリチャージ状態から前記駆動状態へ移行せず、
前記異常時停止モードが無効に設定されていれば、前記異常を判定しても、前記プリチャージ状態から前記駆動状態へ移行する、請求項2に記載の電力供給回路。
【請求項4】
前記直流電源からの入力電圧を検出する入力電圧検出部を備え、
前記制御部は、
前記プリチャージ状態への移行前に、前記入力電圧検出部により検出された前記直流電源からの入力電圧が、前記充電スイッチのオンオフを切替える閾値電圧に応じて定められた電圧判定値よりも大きくなったか否かを監視しており、
前記直流電源からの入力電圧が、前記電圧判定値よりも大きくなると、前記プリチャージ状態への移行を開始する、請求項2又は3に記載の電力供給回路。
【請求項5】
前記インバータは、複数の駆動スイッチを有し、前記制御部から出力される駆動信号により、複数の前記駆動スイッチのオンオフを切り替えることで、直流電力を交流電力に変換し、
前記制御部は、
前記駆動信号のデューティファクタを変更することにより、前記インバータから前記交流負荷に供給される交流電力を変化させることが可能であり、
前記プリチャージ状態の終了後、前記駆動状態への移行前に、前記インバータ又は前記交流負荷の短絡異常の有無を判定する短絡異常判定処理を実行し、
前記短絡異常判定処理では、
前記平滑コンデンサを放電させるべく、複数の前記駆動スイッチに所定のデューティファクタの前記駆動信号を出力し、
前記充電電圧検出部により検出された前記平滑コンデンサの充電電圧に基づいて、短絡異常の有無を判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電力供給回路。
【請求項6】
直流電力を降圧して出力する直流電源と、
前記直流電源からの直流電力を交流電力に変換して、交流負荷に供給するインバータと、
起動用スイッチを有し、一端が前記直流電源の正極に接続され、他端が前記インバータに接続されており、前記起動用スイッチのオンオフに応じて、前記直流電源と前記インバータとの間の接続状態を切替え可能な起動回路と、
充電スイッチと、前記充電スイッチに直列接続された制限抵抗とを有し、一端が前記直流電源の正極に接続され、他端が前記インバータに接続されており、前記充電スイッチのオンオフに応じて、前記直流電源と前記インバータとの間の接続状態を切替え可能なプリチャージ回路と、
前記起動回路及び前記プリチャージ回路と、前記インバータとの間で、前記直流電源に並列接続された平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの充電電圧を検出する充電電圧検出部と、
前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを切替える切替信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを前記切替信号により切替えることで、前記起動回路を介することなく、前記プリチャージ回路を介して、前記直流電源からの直流電力を前記平滑コンデンサに供給し、前記平滑コンデンサを充電するプリチャージ状態に移行し、
前記プリチャージ状態の終了後、前記起動用スイッチ及び前記充電スイッチのオンオフを前記切替信号により切替えることで、前記起動回路を介して、前記直流電源からの直流電力を前記インバータに供給する駆動状態に移行し、
前記プリチャージ状態への移行後、前記直流電源からの入力電圧に対する前記平滑コンデンサの充電電圧の割合を示す値を算出し、
算出された前記割合を示す値が割合判定値よりも大きくなると、前記プリチャージ状態を終了し、前記駆動状態へ移行する、航空機用電源回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流負荷に交流電力を供給する電力供給回路、及び航空機用電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平滑コンデンサと、インバータと、を備える電力供給回路が記載されている。また、平滑コンデンサの充電が十分でない状況下では、平滑コンデンサに突入電流が流れる場合がある。そのため、特許文献1に記載された電力供給回路では、交流負荷の駆動開始に先立ち、プリチャージ抵抗を介して平滑コンデンサを充電することで、交流負荷の駆動開始時に平滑コンデンサやインバータに突入電流が流れるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、異なる仕様の航空機に対しても共用化できるように電力供給回路を設計する場合に、航空機の仕様や、電力供給回路が接続される箇所に応じて、直流電源から電力供給回路に供給される入力電圧が異なる場合がある。このような場合、直流電源からの入力電圧に応じて、平滑コンデンサの充電完了までに要する時間が同じにならず、ひいては平滑コンデンサの充電完了を判断させる構成を共用化できなくなることが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みたものであり、交流負荷の駆動開始に先立ち、平滑コンデンサを充電する構成であって、異なる仕様の装置に対しても共用化することが可能な電力供給回路、及びこの電力供給回路を備える航空機用電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明では、交流負荷に、交流電力を供給する電力供給回路であって、直流電力を交流電力に変換して、交流負荷に供給するインバータと、起動用スイッチを有し、一端が直流電源の正極に接続され、他端がインバータに接続されており、起動用スイッチのオンオフに応じて、直流電源とインバータとの間の接続状態を切替え可能な起動回路と、充電スイッチと、充電スイッチに直列接続された制限抵抗とを有し、一端が直流電源の正極に接続され、他端がインバータに接続されており、充電スイッチのオンオフに応じて、直流電源とインバータとの間の接続状態を切替え可能なプリチャージ回路と、起動回路及びプリチャージ回路と、インバータとの間で、直流電源に並列接続された平滑コンデンサと、平滑コンデンサの充電電圧を検出する充電電圧検出部と、起動用スイッチ及び充電スイッチのオンオフを切替える切替信号を出力する制御部と、を備える。制御部は、起動用スイッチ及び充電スイッチのオンオフを切替信号により切替えることで、起動回路を介することなく、プリチャージ回路を介して、直流電源からの直流電力を平滑コンデンサに供給し、平滑コンデンサを充電するプリチャージ状態に移行し、プリチャージ状態の終了後、起動用スイッチ及び充電スイッチのオンオフを切替信号により切替えることで、起動回路を介して、直流電源からの直流電力をインバータに供給する駆動状態に移行し、プリチャージ状態への移行後、直流電源からの入力電圧に対する平滑コンデンサの充電電圧の割合を示す値を算出し、算出された割合を示す値が割合判定値よりも大きくなると、プリチャージ状態を終了し、駆動状態へ移行する。
【0007】
上記構成の電力供給回路では、制御部は、プリチャージ回路を介して平滑コンデンサを充電するプリチャージ状態への移行後、直流電源からの入力電圧に対する平滑コンデンサの充電電圧の割合を算出し、入力電圧に対する平滑コンデンサの充電電圧の割合が割合判定値よりも大きくなると、プリチャージ状態を終了し、駆動状態へ移行する。ここで、電力供給回路に供給される直流電源の入力電圧が異なっても、この入力電圧に対する、平滑コンデンサを適正に充電した場合の電圧の割合を示す割合判定値は近い値になる。これにより、割合判定値を用いることで、平滑コンデンサの充電完了を適正に判断することができ、異なる仕様の装置に対しても、電力供給回路を共用化することができる。
【0008】
制御部は、プリチャージ状態への移行後、判定時間が経過するまでに、算出された割合を示す値が割合判定値よりも大きくなった場合は、プリチャージ状態を終了し駆動状態へ移行し、プリチャージ状態への移行後、判定時間が経過するまでに、算出された割合を示す値が割合判定値以上にならない場合は、異常を判定する。
例えば、経年劣化により、平滑コンデンサの充電速度が低下する場合がある。しかし、判定時間内に、平滑コンデンサの充電が完了するのであれば、そのまま交流負荷を駆動させ、装置を稼働させることを優先させたほうがよい場合がある。そこで、上記構成では、判定時間が経過するまでに、入力電圧に対する平滑コンデンサの充電電圧の割合を示す値が割合判定値よりも大きくなれば、プリチャージ状態から駆動状態へ移行させる。一方で、判定時間を超えても、割合を示す値が割合判定値よりも大きくならなければ、異常を判定することとした。
【0009】
制御部は、異常時停止モードの有効と無効との設定を変更可能な構成であり、異常時停止モードが有効に設定されていれば、異常を判定すると、プリチャージ状態から駆動状態へ移行せず、異常時停止モードが無効に設定されていれば、異常を判定しても、プリチャージ状態から駆動状態へ移行する。
装置に異常が生じている場合でも、装置の稼働を優先させた方がよい場合がある。そこで、異常時停止モードを有効と無効との間で変更可能にしておき、異常時停止モードが無効に設定されていれば、異常を判定していても、プリチャージ状態から駆動状態へ移行することとした。これにより、事前に、異常時停止モードの有効と無効とを設定しておくことで、装置の稼働を優先させたい状況と、異常による不具合の防止を優先させたい状況とを、切り替えることが可能になる。
【0010】
直流電源からの入力電圧を検出する入力電圧検出部を備え、制御部は、プリチャージ状態への移行前に、入力電圧検出部により検出された直流電源からの入力電圧が、充電スイッチのオンオフを切替える閾値電圧に応じて定められた電圧判定値よりも大きくなったか否かを監視しており、直流電源からの入力電圧が、電圧判定値よりも大きくなると、プリチャージ状態への移行を開始する。
直流電源の駆動開始時において入力電圧が低いことで、充電スイッチが適正に動作せず、入力電圧に対する平滑コンデンサの充電電圧の割合を示す値が適正に算出されないことや、平滑コンデンサの充電に時間を要することが懸念される。そこで、本発明では、直流電源からの入力電圧が、所定電圧よりも大きくなるまでは、プリチャージ状態へ移行しないこととした。
【0011】
インバータは、複数の駆動スイッチを有し、制御部から出力される駆動信号により、複数の駆動スイッチのオンオフを切り替えることで、直流電力を交流電力に変換し、制御部は、駆動信号のデューティファクタを変更することにより、インバータから交流負荷に供給される交流電力を変化させることが可能であり、プリチャージ状態の終了後、駆動状態への移行前に、インバータ又は交流負荷の短絡異常の有無を判定する短絡異常判定処理を実行し、短絡異常判定処理では、平滑コンデンサを放電させるべく、複数の駆動スイッチに所定のデューティファクタの駆動信号を出力し、充電電圧検出部により検出された平滑コンデンサの充電電圧に基づいて、短絡異常の有無を判定する。
上記構成では、新たなハードウェア構成を追加することなく、電力供給回路、又は交流負荷の短絡異常の有無を判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、交流負荷の駆動開始に先立ち、平滑コンデンサを充電する電力供給回路において、異なる仕様の装置に対しても共用化することができる電力供給回路、及びこの電力供給回路を備える航空機用電源回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】コントローラにより実行される処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図3】プリチャージ状態での各波形の推移を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図2のS15で実行される処理の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本実施形態に係る航空機用電源回路を、図面を参照しつつ説明する。
図1に示す航空機用電源回路130は、ロケット、飛行機等の航空機に適用され、交流負荷に交流電力を供給するための回路である。航空機用電源回路130は、直流電源110と、電力供給回路100とを備えている。電力供給回路100は、入力側で直流電源110に接続され、出力側で交流負荷である交流モータ120に接続されている。電力供給回路100は、直流電源110から供給された直流電力を、交流電力に変換して、交流モータ120に供給する。
【0015】
直流電源110は、DC・DCコンバータであり、不図示の主電源から供給された直流電圧を降圧することで入力電圧を生成し、生成した入力電圧を電力供給回路100に供給する。本実施形態では、直流電源110は、主電源から供給された270[V]程度の電圧を、20[V]~50[V]に降圧する。なお、直流電源110は、電力供給回路100に直流電力を供給できる装置や回路であればよく、DC・DCコンバータ以外にも、蓄電池であってもよい。
【0016】
交流モータ120は、電力供給回路100(詳細には、後述するインバータ50)から供給される交流電力により回動する交流負荷である。本実施形態では、交流モータ120は、3相モータであり、例えば、航空機における推進用ファン、油圧制御のために用いられる。これ以外にも、航空機が高揚力装置を備える場合は、高揚力装置におけるフラップの開閉制御のために用いられる。
【0017】
電力供給回路100は、高圧側入力端子11、低圧側入力端子12、高圧側ライン13、低圧側ライン14、起動回路20、プリチャージ回路30、平滑コンデンサ40、インバータ50、コントローラ70を主に備えている。
【0018】
高圧側入力端子11は、直流電源110の正極に接続されており、低圧側入力端子12は、直流電源110の負極に接続されている。高圧側入力端子11には、起動回路20がその一端で接続されている。起動回路20は、他端で高圧側ライン13の一端に接続されている。起動回路20は、起動用スイッチ21を有している。本実施形態では、起動用スイッチ21は、FET(Field effect transistorの略称)であり、オフ状態とオン状態との間で切替わることで、高圧側入力端子11と、高圧側ライン13との間の電気的な接続の有無を切替える。起動用スイッチ21は、ドレインで高圧側入力端子11に接続され、ソースで高圧側ライン13の一端に接続され、ゲートでコントローラ70に接続されている。
【0019】
起動用スイッチ21は、後述するようにコントローラ70から供給される起動信号MS1(切替信号の一例)によりオフ状態である期間では、高圧側入力端子11と高圧側ライン13との間の接続を遮断している。一方、起動用スイッチ21は、コントローラ70からの起動信号MS1によりオン状態である期間では、高圧側入力端子11と高圧側ライン13とを接続し、直流電源110からの直流電力を高圧側ライン13に供給する。なお、
図1では、起動用スイッチ21と、コントローラ70との接続を省略して図示している。後述する、充電スイッチ31、駆動スイッチSW1~SW6においても同様である。
【0020】
なお、起動用スイッチ21は、コントローラ70からの起動信号MS1によりオンオフが切替えられる素子であればよく、FET以外にも、IGBT、サイリスタ、リレーであってもよい。後述する充電スイッチ31においても同様である。
【0021】
高圧側入力端子11には、プリチャージ回路30の一端が接続されている。プリチャージ回路30は、他端で高圧側ライン13の一端に接続されている。即ち、起動回路20とプリチャージ回路30とは、高圧側入力端子11と高圧側ライン13との間で並列接続されることで、並列回路を構成している。
【0022】
プリチャージ回路30は、充電スイッチ31と、この充電スイッチ31に直列接続された制限抵抗32とを有している。本実施形態では、充電スイッチ31は、FETであり、ドレインで高圧側入力端子11に接続され、ソースで制限抵抗32の一端に接続され、ゲートでコントローラ70に接続されている。制限抵抗32における充電スイッチ31に接続されない他端は、高圧側ライン13に接続されている。制限抵抗32は、充電スイッチ31がオン状態になったときに、高圧側ライン13に流れる電流を抑制することで、平滑コンデンサ40に突入電流が流れるのを抑制する抵抗素子である。
【0023】
高圧側ライン13は、上述のように、一端で起動回路20及びプリチャージ回路30に接続され、他端でインバータ50の高圧側インバータ入力端子51に接続されている。低圧側ライン14は、一端で低圧側入力端子12を介して直流電源110の負極に接続され、他端でインバータ50の低圧側インバータ入力端子52に接続されている。なお、高圧側ライン13は、1つの配線で構成されている場合のほか、抵抗等の素子を含んだ回路の一部として構成されていてもよい。また、低圧側ライン14は、電力供給回路100のグランドとしても機能し、1つのグランドで構成されている場合に限らず、複数のグランドにより構成されていてもよい。
【0024】
平滑コンデンサ40は、起動回路20及びプリチャージ回路30と、インバータ50との間で、直流電源110に並列接続されている。具体的には、平滑コンデンサ40は、一端で高圧側ライン13に接続され、他端で低圧側ライン14に接続されることで、直流電源110に並列接続されている。平滑コンデンサ40の容量は、異なる仕様の航空機に用いられた場合において、直流電源110から供給される入力電圧のうち想定される最大の電圧に応じてその値が定められていればよい。
【0025】
インバータ50は、電流負荷である交流モータ120に交流電力を供給する電圧型インバータであり、より詳細には3相インバータである。インバータ50は、各ライン13,14を通じて入力された直流電力を、3相の交流電力に変換して、交流モータ120に供給する。
【0026】
インバータ50は、3つのレグ53,54,55を有するブリッジ回路を構成している。各レグ53,54,55は、1組の駆動スイッチ(スイッチSW1~SW6)を直列接続して構成されている。本実施形態では、各レグ53,54,55を構成する駆動スイッチは、FETである。このうち、U相レグ53は、第1スイッチSW1のソースと、第2スイッチSW2のドレインとが接続されることで構成されている。V相レグ54は、第3スイッチSW3のソースと、第4スイッチSW4のドレインとが接続されることで構成されている。W相レグ55は、第5スイッチSW5のソースと、第6スイッチSW6のドレインとが接続されることで構成されている。
【0027】
各レグ53~55において、第1,第3,第5スイッチSW1,SW3,SW5のドレインは、高圧側インバータ入力端子51につながるラインに接続され、第2,第4,第6スイッチSW2,SW4,SW6のソースは、低圧側インバータ入力端子52につながるラインに接続されている。U相レグ53において、第1,第2スイッチSW1,SW2の接続点には、交流モータ120のU相巻線に接続されている。V相レグ54において、第3,第4スイッチSW3,SW4の接続点には、交流モータ120のV相巻線に接続されている。W相レグ55において、第5,第6スイッチSW5,SW6の接続点には、交流モータ120のW相巻線に接続されている。また、第1~第6スイッチSW1~SW6のゲートは、コントローラ70に接続されており、コントローラ70から駆動信号が供給される。
【0028】
本実施形態では、インバータ50の各レグ53~55を構成する駆動スイッチは、FETを用いる以外にも、例えば、IGBTを用いてもよい。
【0029】
コントローラ70は、所定の機能を備える集積回路であり、電力供給回路100の駆動を制御する。コントローラ70は、第1切替信号端子P1、第2切替信号端子P2、第1AD変換端子P3、第2AD変換端子P4、駆動信号端子P5,P6,P7,P8,P9,P10を有している。また、コントローラ70は、その内部に、プログラムが記憶されたメモリを有しており、プログラムを実行することにより、所定の機能を実行することができる。更に、コントローラ70は、その内部に、AD変換部、タイマーといった複数の機能ブロックを有している。AD変換部は、第1,第2AD変換端子P3,P4に生じる電圧(アナログ)を、デジタル値に変換する。タイマーは、計時を行う。本実施形態では、コントローラ70が制御部の一例である。
【0030】
第1切替信号端子P1は、起動回路20における起動用スイッチ21のゲートに接続されており、起動用スイッチ21のゲートに起動信号MS1を出力する。コントローラ70は、起動信号MS1をハイレベルに変化させることで、起動用スイッチ21をオン状態にし、起動信号MS1をローレベルに変化させることで、起動用スイッチ21をオフ状態にすることができる。第2切替信号端子P2は、プリチャージ回路30における充電スイッチ31のゲートに接続されており、充電スイッチ31のゲートに充電信号MS2を出力する。コントローラ70は、充電信号MS2をハイレベルに変化させることで、充電スイッチ31をオン状態にし、充電信号MS2をローレベルに変化させることで、充電スイッチ31をオフ状態にすることができる。
【0031】
コントローラ70の第1AD変換端子P3には、充電電圧検出ライン81の一端が接続されている。充電電圧検出ライン81は、平滑コンデンサ40の充電電圧を検出するためのラインであり、具体的には、充電電圧検出ライン81の他端は、高圧側ライン13において、平滑コンデンサ40と、プリチャージ回路30との間に接続されている。充電電圧検出ライン81が、充電電圧検出部の一例である。なお、充電電圧検出部は、平滑コンデンサ40の充電電圧を検出できるものであればよく、充電電圧検出ライン81に代えて、電圧センサであってもよい。この場合において、電圧センサは、平滑コンデンサ40に並列接続され、その出力は、コントローラ70の第1AD変換端子P3に接続されればよい。
【0032】
コントローラ70の第2AD変換端子P4には、入力電圧検出ライン80の一端が接続されている。入力電圧検出ライン80は、直流電源110からの入力電圧に応じた電圧を検出するためのラインであり、本実施形態では、入力電圧検出ライン80の他端は、プリチャージ回路30における、充電スイッチ31と制限抵抗32との間に接続されている。なお、入力電圧検出ライン80は、直流電源110からの入力電圧を検出できればよく、高圧側入力端子11と、プリチャージ回路30との間に接続されていてもよい。入力電圧検出ライン80が、入力電圧検出部の一例である。入力電圧検出部は、入力電圧検出ライン80に代えて、電圧センサであってもよい。この場合において、電圧センサの出力は、コントローラ70の第2AD変換端子P4に接続されればよい。
【0033】
駆動信号端子P5~P10は、インバータ50の各スイッチSW1~SW6のゲートに接続されており、矩形波である駆動信号を、各スイッチSW1~SW6のゲートに出力する。コントローラ70は、駆動信号の1スイッチング周期Tswに対するパルス幅Dであるデューティファクタ(=D/Tsw)を0~100[%]の間で変化させて、この駆動信号を各スイッチSW1~SW6のゲートに供給することができる。これにより、コントローラ70は、インバータ50の各レグ53~55と、交流モータ120のUVW各巻線の接続とを、所定周期で切替えることで、交流モータ120に交流電力を供給することができる。
【0034】
次に、電力供給回路100の動作について説明する。まず、航空機に対してメイン電源が投入されると、コントローラ70に対してスタート信号が入力される。コントローラ70は、スタート信号を受信すると、メモリに記憶されたプログラムを実行することで、メインループ処理を開始する。
【0035】
コントローラ70は、スタート信号を受信した直後のメインループ処理において、まず、プリチャージ状態に移行する。プリチャージ状態は、インバータ50による交流モータ120の駆動(後述する、駆動状態)に先立ち、平滑コンデンサ40を充電するモードである。プリチャージ状態により平滑コンデンサ40が充電されることで、交流モータ120の駆動を開始したときに、平滑コンデンサ40及びインバータ50に突入電流が流れるのを抑制することができる。
【0036】
図2は、コントローラ70が、プリチャージ状態で実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
図3は、プリチャージ状態での各波形の推移を示すタイミングチャートである。このうち、
図3(a)は、充電信号MS2を示し、
図3(b)は、起動信号MS1を示す。
図3(c)は、入力電圧検出値V_PREを示し、
図3(d)は、充電電圧検出値V_MAINを示す。
【0037】
コントローラ70は、ステップ10(以下、ステップを「S」とも記載する)で、充電信号MS2をハイ状態にし、起動信号MS1をロー状態にする。
図3(a)に示すように、時刻t1で、充電信号MS2がハイ状態(Hi)になることで、プリチャージ回路30の充電スイッチ31がオン状態になる。
図3(b)に示すように、時刻t1で起動信号MS1がロー状態(Low)であるため、起動用スイッチ21がオフ状態になる。これにより、直流電源110から供給された直流電力は、プリチャージ回路30を介して高圧側ライン13に供給され、平滑コンデンサ40を充電する。このとき、プリチャージ回路30の制限抵抗32により電流が抑制され、平滑コンデンサ40に突入電流が流れるのが防止される。
【0038】
充電スイッチ31がオン状態になることで、入力電圧検出ライン80に直流電源110からの入力電圧が生じ、コントローラ70の第2AD変換端子P4に入力電圧に応じた電圧が生じる。
図3(c)に示すように、コントローラ70は、時刻t1以後、第2AD変換端子P4に生じた電圧を、AD変換部によりデジタル値に変換した入力電圧検出値V_PREを監視する。また、
図3(d)に示すように、コントローラ70は、第1AD変換端子P3に生じる電圧をAD変換部によりデジタル値に変換した充電電圧検出値V_MAINを監視する。なお、
図3(c)、(d)では、説明を容易にするため、デジタル値である入力電圧検出値V_PRE、及び充電電圧検出値V_MAINを実線で示している。
【0039】
S11では、コントローラ70は、入力電圧チェック処理を実行する。コントローラ70は、入力電圧検出値V_PREが、電圧判定値Tvよりも大きいか否かを判断する。「電圧判定値Tv」は、充電スイッチ31のオンオフを切り替える閾値電圧に応じた値を示すデジタル値である。航空機の駆動開始直後は、直流電源110からの入力電圧が低く、充電スイッチ31がオン状態になっていない場合がある。このような状態では、平滑コンデンサ40の充電完了を適正に判定できなくなるおそれがある。そのため、コントローラ70は、入力電圧検出値V_PREが電圧判定値Tv以下であると判断すると(S11:NO)、充電スイッチ31がオン状態になっていない可能性があるため、待機する。
【0040】
その後、時間の経過に応じて直流電源110からの入力電圧が上昇していき、
図3(c)で示されるように、時刻t2で入力電圧検出値V_PREが電圧判定値Tvよりも大きくなったとする。コントローラ70は、入力電圧検出値V_PREが電圧判定値Tvよりも大きいと判断して(S11:YES)、S12に進む。
【0041】
S12では、コントローラ70は、直流電源110からの入力電圧に対する平滑コンデンサ40の充電電圧の割合を示す充電割合Rcを算出する。本実施形態では、コントローラ70は、入力電圧検出値V_PREと、充電電圧検出値V_MAINと、以下の式(1)とを用いて、充電割合Rcを算出する。
Rc=V_MAIN÷V_PRE×100 … (式1)
【0042】
S13では、コントローラ70は、S12で算出された充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きいか否かを判定する。割合判定値Trは、平滑コンデンサ40の充電により、インバータ50の駆動を開始しても、平滑コンデンサ40に突入電流が流れないと想定される場合の入力電圧に対する充電電圧の割合を示す値である。本実施形態では、割合判定値Trは、60[%]より大きく、かつ100[%]よりも小さい値を用いることができる。より望ましくは、割合判定値Trは、70[%]以上、かつ80[%]以下の値を用いるとよい。
【0043】
ここで、ある時刻tnでの平滑コンデンサ40の充電電圧検出値V_MAINは、入力電圧検出値V_PRE、平滑コンデンサ40の静電容量C、制限抵抗32の抵抗値Rと、を用いて、下記(式2)により概略的に算出することができる。なお、「e」は、自然対数の底であり、「^」はべき乗を示す。
V_MAIN(tn)=V_PRE×(1-e^(-1×tn/(CR))) … (式2)
【0044】
上記(式2)において、両辺を入力電圧検出値V_PREで割ることで、所定時刻tnでの充電割合Rcを示す下記(式3)を導出することができる。
Rc(tn)=V_MAIN(tn)/V_PRE(tn)=1-e^(-1×tn/(CR)) … (式3)
上記(式3)は、所定時刻tnでの充電割合Rc(tn)は、入力電圧検出値V_PREの値によらず、制限抵抗32の抵抗値Rと、平滑コンデンサ40の静電容量Cとの積である時定数(=CR)によって定まることを示している。言い換えると、充電割合Rcを用いることで、直流電源110からどのような値の入力電圧が供給されても、平滑コンデンサ40と、プリチャージ回路30とが共通であれば、同じ割合判定値Trにより平滑コンデンサ40の充電完了を判定することが可能になる。
【0045】
図3(d)に示されるように、時刻t2の経過直後は、充電電圧検出値V_MAINの値が低いため、充電割合Rcは割合判定値Tr以下であり(S13:NO)、コントローラ70は、S16に進む。S16で、コントローラ70は、充電信号MS2をハイ状態に変化させてから判定時間Ttを経過しているか否かを判定する。判定時間Ttは、平滑コンデンサ40の充電が完了する時間として想定される時間よりも長い時間であり、平滑コンデンサ40の充電が完了する時間として許容できる最大時間として実験的に定められた時間である。電力供給回路100の経年劣化により、例えば、リーク電流が生じるなどして、平滑コンデンサ40の充電が完了(即ち、S13:YES)するまでに要する時間は伸びていく場合がある。一方で、航空機では、電力供給回路100の劣化が、平滑コンデンサ40の充電を所定時間内に完了できる程度であれば、交流モータ120を駆動させて、航空機の稼働を優先させたほうがよい場合がある。そこで、本実施形態では、判定時間Ttを経過するまでに、平滑コンデンサ40の充電により充電割合Rcが割合判定値Trを上回る場合は、交流モータ120の駆動を優先させている。なお、本実施形態では、判定時間Ttは、4[sec]~6[sec]の値を用いることができる。
【0046】
コントローラ70は、プリチャージ状態に移行してから判定時間Ttが経過していなければ(S16:NO)、S12に戻り、現在の充電割合Rcを算出する。時間の経過により、平滑コンデンサ40の充電電圧は増加するため、S12で新たに算出された充電割合Rcは、前回の値よりも増加している。なお、コントローラ70は、上述のように内部にタイマーを有しているため、充電信号MS2がハイ状態になることでプリチャージ状態に移行してからの時間をカウントすることができる。
【0047】
その後、コントローラ70は、プリチャージ状態に移行してから判定時間Ttが経過するまで(S16:NO)、S12で充電割合Rcを算出し、S13で、算出された充電割合Rcを割合判定値Trと比較する。コントローラ70は、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなるまでに、判定時間Ttが経過したことを判断する場合(S16:YES)、S17に進み、タイムアウトエラーを判定する。タイムアウトエラーは、判定時間Ttまでに、平滑コンデンサ40の充電が完了しなかったことを示すエラーである。例えば、タイムアウトエラー判定フラグを、タイムアウトエラー(即ち、異常)が生じていることを示す値に設定する。そして、S19に進む。
【0048】
コントローラ70は、プリチャージ状態に移行してから判定時間Ttが経過するまでに、S12で算出される充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなったことを判断すると(S13:YES)、S14に進む。コントローラ70は、S14で、短絡異常チェックが未実施であるか否かを判断する。短絡異常チェックは、インバータ50及び交流モータ120に短絡が生じているか否かを判定するための処理である。ここでは、コントローラ70は、短絡異常チェックが未実施であるため(S14:YES)、S15に進み、短絡異常チェックを実行する。
【0049】
図4は、コントローラ70が、S15で実行する処理の手順を説明するフローチャートである。S15で実行される短絡異常チェックでは、充電完了後の平滑コンデンサ40を、所定の放電時間だけ放電させて、このときの放電速度により、インバータ50や交流モータ120に短絡異常が生じているか否かを判定する。
【0050】
S30では、コントローラ70は、インバータ50の各スイッチSW1~SW6を50%デューティファクタで駆動させるべく、駆動信号を設定する。次に、S31では、コントローラ70は、起動信号MS1をロー状態にすることで起動用スイッチ21をオフ状態に維持し、充電信号MS2をハイ状態にすることで充電スイッチ31をオン状態に維持する。各スイッチSW1~SW6のデューティファクタを50%に維持した状態で、起動用スイッチ21をオフ状態に維持し、充電スイッチ31をオン状態に維持することで、平滑コンデンサ40は放電を開始する。そのため、
図3(d)で示すように、充電電圧検出値V_MAINは、時刻t3での平滑コンデンサ40の充電完了時における値から低下していく。
【0051】
S32では、コントローラ70は、放電時間だけ待機する。
図3(d)に示されるように、時刻t3から、放電時間Tdだけ経過後の時刻t4までの期間で、平滑コンデンサ40の放電により充電電圧検出値V_MAINが低下していく。本実施形態では、放電時間Tdは、S16で用いられた判定時間Ttよりも短い時間であり、例えば、5~10[msec]とすることができる。
【0052】
インバータ50及び交流モータ120に短絡が生じている場合、平滑コンデンサ40の放電速度は、短絡が生じていない場合の放電速度よりも早くなる。放電速度は、充電電圧検出値の傾きにより取得することもできる。そのため、放電開始から放電時間Tdだけ経過後の充電電圧検出値V_MAINの値により短絡の発生の有無を判定することが可能となる。
【0053】
S33では、コントローラ70は、S32で放電時間Tdだけ待機した後の平滑コンデンサ40の充電電圧を示す充電電圧検出値V_MAINが、短絡異常判定値Tsよりも大きいか否かを判断する。短絡異常判定値Tsは、インバータ50及び交流モータ120に短絡が生じていない状況において、充電完了後の平滑コンデンサ40を放電時間Tdだけ放電させた場合の、充電電圧の下限値を示す値である。
【0054】
コントローラ70は、充電電圧検出値V_MAINが、短絡異常判定値Ts以下であれば(S33:NO)、S34に進み、短絡異常を判定する。例えば、コントローラ70は、S34で、メモリに記憶された短絡異常判定フラグを、短絡異常が生じていることを示す値に設定する。コントローラ70は、S34を終了すると、S35に進む。
【0055】
一方、コントローラ70は、充電電圧検出値V_MAINが短絡異常判定値Tsよりも大きければ(S33:YES)、S35に進む。S35では、コントローラ70は、駆動信号のデューティファクタの設定を解除する。具体的には、コントローラ70は、S30で設定した駆動信号のデューティファクタ(50%)を、0%に戻す。これにより、
図3(d)に示されるように、時刻t3から放電時間Tdだけ経過後の時刻t4において、平滑コンデンサ40の放電が停止され、充電電圧検出値V_MAINの低下が抑制される。S35の処理を終了すると、
図2のS18に進む。
【0056】
S18で、コントローラ70は、所定時間だけ待機する。上述のように、インバータ50の駆動が停止され(S35)、かつ充電信号MS2がハイ状態であるため、充電スイッチ31がオン状態であり、平滑コンデンサ40の充電が継続される。これは、S15の短絡異常チェックにより、平滑コンデンサ40を放電させているため、平滑コンデンサ40を充電する必要があるためである。S18で待機する時間は、S32で用いた放電時間Tdよりも長いことが望ましい。
【0057】
コントローラ70は、S18の処理を終了すると、S12に戻り、現在の充電割合Rcを算出する。コントローラ70は、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きいと判定すると(S13:YES)、S14に進む。なお、コントローラ70は、すでに、平滑コンデンサ40の充電完了を判断しているため(S13:YES)、S18での再充電により、今回もS13を肯定判定し、S14に進むことになる。
【0058】
コントローラ70は、短絡異常チェックを実行しているため(S14:NO)、S19に進む。S19で、コントローラ70は、異常時停止モードが有効に設定されているか否かを判定する。「異常時停止モード」は、プリチャージ状態から駆動状態への移行前に、異常が検出された場合に、駆動状態へ移行しないことで、航空機を稼働させないモードである。なお、「異常時停止モード」が無効に設定されていれば、プリチャージ状態から駆動状態への移行前に、異常が検出されても、駆動状態へ移行することで、航空機を稼働させる。航空機では、経年劣化による異常が、航空機を離陸等、稼働させるのに支障のない度合であれば、交流モータ120を駆動させて、航空機の稼働を優先させたほうがよい場合がある。そこで、本実施形態では、異常時停止モードの有効と無効とを切替える可能にすることで、異常時停止モードが無効に設定されていれば、異常が生じている場合でも、航空機の稼働を優先させている。
【0059】
本実施形態では、異常時停止モードが有効に設定されている場合において、プリチャージ状態から駆動状態への移行を禁止する条件は、S15で短絡異常が判定されていることと、S17で、タイムアウトエラーが判定されていることである。これ以外にも、コントローラ70は、短絡異常と、タイムアウトエラー以外の他の異常を判定する構成であれば、判定された他の異常を、プリチャージ状態から駆動状態への移行を禁止する条件に加えてもよい。
【0060】
コントローラ70は、異常時停止モードが「無効」に設定されていれば(S19:NO)、S21に進み、起動信号MS1をハイ状態にすることで、起動用スイッチ21をオン状態にする。言い換えると、異常時停止モードが「無効」に設定されていれば、S15、S17のいずれかで異常が判定されていても、S21に進み、プリチャージ状態から駆動状態へ移行する。
図3(b)では、時刻t5で、起動信号MS1がハイ状態(Hi)に変化しており、起動用スイッチ21がオン状態になっている。なお、本実施形態では、S21で、充電信号MS2をロー状態(Low)状態にすることで、充電スイッチ31をオン状態からオフ状態へと切り替えている。コントローラ70は、S21を終了すると、
図2の処理を終了する。プリチャージ状態から駆動状態に移行することで、直流電源110からの直流電力は、起動回路20を介して、インバータ50に供給されることとなる。
【0061】
一方、コントローラ70は、異常時停止フラグが「有効」に設定されていれば(S19:YES)、S20に進み、異常判定がなされているか否かを判定する。コントローラ70は、S15,S17の処理により異常が判定されていなければ(S20:NO)、S21に進み、上述したように、起動信号MS1をハイ状態に変化させることで、プリチャージ状態から駆動状態に移行する。
【0062】
コントローラ70は、異常が判定されていれば(S20:YES)、起動信号MS1をハイ状態に変化させることなく、
図2の処理を終了する。この場合、プリチャージ状態から駆動状態への移行は行われず、インバータ50は駆動することができない。この場合、異常原因が解除されるまでは、駆動状態への移行は行われない。
【0063】
以上説明した本実施形態では、以下の効果を奏することができる。
電力供給回路100のコントローラ70は、プリチャージ回路30を介して平滑コンデンサ40を充電するプリチャージ状態への移行後、充電割合Rcを算出し、この充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなったことを判断すると、プリチャージ状態から駆動状態へ移行する。これにより、電力供給回路100のコントローラ70は、直流電源110から供給される入力電圧に関わらず、同じ割合判定値Trにより平滑コンデンサ40の充電完了を適正に判定することができる。その結果、異なる仕様の航空機に対しても、電力供給回路100を共用化することができる。
【0064】
コントローラ70は、プリチャージ状態への移行後、判定時間Ttが経過するまでに、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなった場合は、駆動状態へ移行する。一方、プリチャージ状態への移行後、判定時間Ttが経過するまでに、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくならない場合は、タイムアウトエラーを判定する。これにより、電力供給回路100の劣化が重大な度合でない場合は、交流モータ120の駆動を優先させることができる。
【0065】
コントローラ70は、異常時停止モードが有効に設定されていれば、異常を判定すると、プリチャージ状態から駆動状態へ移行せず、異常時停止モードが無効に設定されていれば、異常を判定しても、プリチャージ状態から駆動状態へ移行する。これにより、事前に、異常時停止モードの有効と無効とを設定しておくことで、航空機の離陸等を優先させたい状況と、異常による不具合の防止を優先させたい状況とを、切り替えることが可能になる。
【0066】
コントローラ70は、入力電圧検出値V_PREが、電圧判定値Tvよりも大きくなると、プリチャージ状態への移行を開始する。これにより、直流電源110からの入力電圧が低いことに起因して、平滑コンデンサ40の充電に要する時間が長くなることで、充電割合Rcが適正に算出されないことや、タイムアウトエラーが判定されてしまうのを防止することができる。
【0067】
コントローラ70は、プリチャージ状態から駆動状態への移行前に、短絡異常判定処理を実行する。コントローラ70は、短絡異常判定処理において、平滑コンデンサ40の充電電圧を放電させ、平滑コンデンサ40の放電速度が、判定速度よりも速い場合に、短絡異常を判定する。上記構成では、新たなハードウェア構成を追加することなく、短絡異常の有無を判定することができる。
【0068】
(その他の実施形態)
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上述の実施形態では、コントローラ70は、S16で、電力供給回路100の劣化度合に応じて定められた判定時間Ttが経過するまでは、S12で充電割合Rcを算出し、S13で算出した充電割合Rcを割合判定値Trと比較した。これに代えて、コントローラ70は、S16で、判定時間Ttよりも短い時間が経過した後に、S17に進み、異常を判定してもよい。この場合、コントローラ70は、S16で、平滑コンデンサ40の充電を開始してから、充電割合Rcが割合判定値Trになる時間として予め定められた時間を経過した場合に、S17に進めばよい。
【0069】
上述の実施形態では、コントローラ70は、S13で、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなったことを判定した後に、S15で短絡異常チェックを実行した。これに代えて、コントローラ70は、充電割合Rcが割合判定値Trよりも大きくなったことを判定した後は、短絡異常チェックを実行することなく、S19に進んでもよい。言い換えると、コントローラ70は、S15での短絡異常チェックを実行しなくともよい。
【0070】
上述の実施形態では、コントローラ70は、異常時停止モードの有効と無効とを切り替え可能であった。これに代えて、コントローラ70は、異常時停止モードの有効無効に関わらず、常に、S20で異常を判定した場合は、S21で、起動信号をハイ状態にして、起動用スイッチ21をオン状態に変化させることなく、
図2の処理を終了してもよい。この場合において、S19での異常時停止モードの有効の有無を判定する処理を省略すればよい。
【0071】
上述の実施形態では、コントローラ70は、S12で、入力電圧検出値V_PREと、充電電圧検出値V_MAINとを用いて充電割合Rcを算出した。これに代えて、コントローラ70は、S12で、直流電源110からの入力電圧に応じた値を示す固定値と、充電電圧検出値V_MAINとを用いて、充電割合Rcを算出してもよい。この場合において、電力供給回路100は、入力電圧検出ライン80を備えていない。
【0072】
上述の実施形態では、制御部の一例であるコントローラ70は、切替信号である起動信号MS1と充電信号MS2と、駆動信号とをそれぞれ出力した。これに代えて、コントローラ70は、起動信号MS1及び充電信号MS2を出力し、駆動信号を出力しなくともよい。この場合、プリチャージ状態から駆動状態に移行した場合に、コントローラ70とは異なる回路により駆動信号が出力されることになる。
【0073】
上述の実施形態では、交流負荷は、3相の交流モータであった。これに代えて、交流負荷は、3相以上の交流モータであってもよい。この場合において、インバータ50は、交流モータの相数に応じた、レグを有する構成であればよい。また、交流負荷は、交流モータに限らず、航空機に用いられる装置であって、インバータ50から供給される交流電力により駆動する装置であれば、どのような装置であってもよい。
【0074】
上述の実施形態では、航空機に適用される電源回路を例示して説明を行った。これに代えて、電力供給回路100により交流電力が供給される装置は、交流負荷を備える装置であれば、航空機以外の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
21…起動用スイッチ、20…起動回路、30…プリチャージ回路、31…充電スイッチ、32…制限抵抗、40…平滑コンデンサ、50…インバータ、70…コントローラ、80…入力電圧検出ライン、81…充電電圧検出ライン、100…電力供給回路、110…直流電源、120…交流モータ、130…航空機用電源回路