IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

特開2024-130849電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体
<>
  • 特開-電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体 図1
  • 特開-電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体 図2
  • 特開-電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体 図3
  • 特開-電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体 図4
  • 特開-電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130849
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240920BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20240920BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
B60K1/04 Z
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040777
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩佑
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆博
【テーマコード(参考)】
3D235
4J001
5H770
【Fターム(参考)】
3D235AA02
3D235BB12
3D235CC12
3D235CC13
3D235CC14
3D235HH02
3D235HH44
4J001DA01
4J001DB04
4J001DC15
4J001EB37
4J001EC08
4J001EC14
4J001EE16D
4J001FA01
4J001FB03
4J001FC06
4J001GA12
4J001JA01
4J001JA07
4J001JB02
4J001JB06
4J001JB07
4J001JB08
5H770AA21
5H770BA02
5H770BA03
5H770PA11
5H770PA41
5H770QA12
5H770QA14
(57)【要約】
【課題】高温環境下においても必要な絶縁性を維持しつつ、小型化への対応が可能な電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性を有する金属部材と、前記金属部材を被覆する、ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含み、前記ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を含み、前記ポリアミド樹脂(A)は、テレフタル酸に由来する成分単位、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含み、前記樹脂部材は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部を有する、電気部品。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する金属部材と、
前記金属部材を被覆する、ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含み、
前記ポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)を含むポリアミド樹脂(A)を含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含み、
前記樹脂部材は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部を有する、
電気部品。
【請求項2】
前記第1被覆部のうち、厚みが0.5mm未満の部位を第2被覆部とし、
前記金属部材のうち、前記第1被覆部に接している表面の表面積をS1とし、前記第2被覆部に接している表面の表面積をS2としたとき、S2/S1≦0.5を満たす、
請求項1に記載の電気部品。
【請求項3】
前記金属部材の、前記第1被覆部に接している表面の表面積S1と、前記第2被覆部に接している表面の表面積S2とは、S2/S1≦0.25を満たす、請求項2に記載の電気部品。
【請求項4】
前記第1被覆部は、前記樹脂部材の前記金属部材の表面を被覆する部位の全てに形成される、請求項1または2に記載の電気部品。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物は難燃剤(B)を含む、請求項1または2に記載の電気部品。
【請求項6】
金属製のバスバーと、
前記バスバーに接して配置され、ポリアミド樹脂組成物を含み、前記バスバーを保持する保持部材と、を含み、
前記ポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)を含むポリアミド樹脂(A)を含み、
前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含み、
前記ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含み、
前記保持部材は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部を有する、
バスバーユニット。
【請求項7】
前記第1被覆部のうち、厚みが0.5mm未満の部位を第2被覆部とし、
前記バスバーのうち、前記第1被覆部に接している表面の表面積をS1とし、前記第2被覆部に接している表面の表面積をS2としたとき、S2/S1≦0.5を満たす、
請求項6に記載のバスバーユニット。
【請求項8】
モータと、
前記モータに電力を供給するインバータと、
前記モータと前記インバータとを電気的に接続するバスバーユニットと、を有する駆動ユニットであって、
前記バスバーユニットは、請求項6または7に記載のバスバーユニットである、
駆動ユニット。
【請求項9】
機体と、
請求項8に記載の駆動ユニットと、を有する、
移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、成形材料として、ポリアミド樹脂組成物が知られている。ポリアミド樹脂組成物は、例えば、自動車用部品、電気・電子用部品などの種々の部品の材料として広く用いられており、成形体の機械的強度に優れることが知られている。特に、半芳香族ポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂組成物は、成形体の耐熱性にも優れることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、テレフタル酸に由来する成分単位を含む半芳香族ポリアミド樹脂と、強化材と、難燃剤とを含む難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。特許文献1では、上記ポリアミド樹脂組成物の成形体は、高温環境下における機械特性や寸法安定性に優れており、耐熱性が良好であったとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010-534258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリアミド樹脂組成物は、金属部材に電流を流して他の部品に電気を供給するための電気部品において、電流を流すための金属部材を絶縁被覆するための樹脂部材に用いられ得る。
【0006】
金属部材に電流を流すとジュール熱が発生し、金属部材を被覆する樹脂部材は高温の熱に晒される。特に、電気自動車用途などで大電流を流すとより高温の熱に晒される。このとき、高温の熱に晒された(高温環境下における)樹脂部材に電圧が印加されると、絶縁破壊が生じやすいという問題が生じた。
【0007】
また、電気部品の小型化の観点からは、金属部材を被覆する樹脂部材の厚みを薄くすることが望ましい。しかし、樹脂部材の厚みが小さいと、高温環境下における絶縁破壊がより生じやすいという問題が生じた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温環境下においても必要な絶縁性を維持しつつ、小型化への対応が可能な電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[1]~[5]の電機部品に関する。
[1]導電性を有する金属部材と、前記金属部材を被覆する、ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材と、を含み、前記ポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)を含むポリアミド樹脂(A)を含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含み、前記樹脂部材は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部を有する、電気部品。
[2]前記第1被覆部のうち、厚みが0.5mm未満の部位を第2被覆部とし、
前記金属部材のうち、前記第1被覆部に接している表面の表面積をS1とし、前記第2被覆部に接している表面の表面積をS2としたとき、S2/S1≦0.5を満たす、[1]に記載の電気部品。
[3]前記金属部材の、前記第1被覆部に接している表面の表面積S1と、前記第2被覆部に接している表面の表面積S2とは、S2/S1≦0.25を満たす、[2]に記載の電気部品。
[4]前記第1被覆部は、前記樹脂部材の前記金属部材の表面を被覆する部位の全てに形成される、[1]~[3]のいずれかに記載の電気部品。
[5]前記ポリアミド樹脂組成物は難燃剤(B)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の電機部品。
【0010】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[6]、[7]のバスバーユニットに関する。
[6]金属製のバスバーと、前記バスバーに接して配置され、ポリアミド樹脂組成物を含み、前記バスバーを保持する保持部材と、を含み、前記ポリアミド樹脂組成物は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)を含むポリアミド樹脂(A)を含み、前記ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含み、前記ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含み、前記保持部材は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部を有する、バスバーユニット。
[7]前記第1被覆部のうち、厚みが0.5mm未満の部位を第2被覆部とし、
前記バスバーのうち、前記第1被覆部に接している表面の表面積をS1とし、前記第2被覆部に接している表面の表面積をS2としたとき、S2/S1≦0.5を満たす、[6]に記載のバスバーユニット。
【0011】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[8]の駆動ユニットに関する。
[8]モータと、前記モータに電力を供給するインバータと、前記モータと前記インバータとを電気的に接続するバスバーユニットと、を有する駆動ユニットであって、前記バスバーユニットは、[6]または[7]に記載のバスバーユニットである、駆動ユニット。
【0012】
上記課題を解決するための、本発明の一態様は、下記[9]の移動体に関する。
[9]機体と、[8]に記載の駆動ユニットと、を有する、移動体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下においても必要な絶縁性を維持しつつ、小型化への対応が可能な電気部品、バスバーユニット、駆動ユニット、および移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、電気部品の例示的な形態を示す模式図である。
図2図2は、図1におけるα部分の拡大図である。
図3図3は、図2における電気部品の側面図である
図4図4は、電気部品の、図1におけるA-A線断面図である。
図5図5は、バスバーユニットを有する移動体(車両)の例示的な構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0016】
1.電気部品(金属樹脂複合体)
図1は、本実施形態に係る、電気部品100の例示的な形態を示す模式図である。図1に示されるように、電気部品100は、導電性を有する金属部材110と、金属部材110を被覆する樹脂部材120とを含む、金属樹脂複合体である。
【0017】
1-1.金属部材
金属部材110は、導電性を有する金属製の部材であれば、その材料および形状は特に限定されない。例えば、金属部材110の材料は、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、およびマンガンや、ステンレス、真鍮、およびリン青銅などの合金とすることができる。
【0018】
これらの材料は、電気部品100の用途に応じて選択することができる。例えば、熱伝導性が要求されるときは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、および銅合金が好ましく、銅および銅合金がより好ましい。また、軽量化および強度確保が要求されるときは、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、およびマグネシウム合金が好ましい。また、導電性の観点からは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、および銅合金が好ましい。
【0019】
金属部材110は、樹脂部材120に被覆されている。そして、詳細は後述するが、樹脂部材120は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部121を有する。また、第1被覆部121のうち厚みが0.5mm未満である部位を第2被覆部122としたとき、金属部材110のうち、第1被覆部121に接する表面の表面積S1、および第2被覆部122に接する表面の表面積S2は、S2/S1≦0.5を満たすことが好ましい。
【0020】
なお、樹脂部材120の厚みとは、金属部材110の表面のうちの任意の一点と、当該一点から最も距離が近い樹脂部材120の表面と、を結ぶ線分の長さである。そして、樹脂部材120のうち、当該線分の長さが3.0mm以下となる部位を、第1被覆部121とし、当該線分の長さが0.5mm未満となる部位を、第2被覆部122とする。
【0021】
厚みが0.5mm未満である第2被覆部122は、電気部品100の製造において、例えば、樹脂部材120のバリとして形成されうる。そのため、S2/S1を0.5以下とすることで、電気部品100を、バリ等が少ない部材とすることができる。このような観点から、S2/S1は0.25以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましく、0.01未満であることが特に好ましい。S2/S1の下限値は、特に限定されないが、例えば、0.001である。
【0022】
例えば、図1に示す電気部品100がバスバーユニットであるとき、バスバーとしての導体である金属部材110の一部を、バスバーを他の部材に取り付けるための保持部材としての樹脂部材120が被覆した構成である。これにより、金属部材110のうち樹脂部材120によって被覆された部分は絶縁される。このとき、金属部材110は断面が多角形であってもよいし円形であってもよいが、多角形であることが好ましく、断面が長方形の板状部材であることがより好ましい。このとき、典型的には第1被覆部121は金属部材110の延在方向に垂直となる方向(図1中Z方向およびY方向)に形成され、金属部材110と樹脂部材120との境界部から金属部材110の延在方向(図1中X方向)に第2被覆部122が形成される(図2も参照)。そして、金属部材110のうち樹脂部材120に被覆されていない部位は、金属部材110が露出した露出部111となっている。電気部品100は、露出部111において他の部品と電気的に接続される。
【0023】
図1に示す電気部品100は、いずれも長方形の板状部材である、4本のバスバー(金属部材110)が、縦方向(図1のZ方向)に並んで配置されており、これら4本のバスバーが一体的に略直方体形状の樹脂部材120により被覆された構成である。ただし、電気部品100の構成はこれに限定されず、バスバーの形状や本数および配置(例えば、バスバーが横方向(図1のX方向やY方向)に並んで配置されてもよい)、樹脂部材120の形状などは任意に変更してもよい。
【0024】
ただし、本実施形態において、樹脂部材120のうち、板状である金属部材110に対してその表面積が最も大きくなる表面(断面長方形の長辺)を被覆している部分について、厚みが3.0mm以下である部位を第1被覆部121とし、第1被覆部121のうち厚みが0.5mm未満である部位を第2被覆部122としてもよい。言い換えると、図1において、樹脂部材のうち、図中Z方向への厚みが3.0mm以下である部位を第1被覆部121とし、第1被覆部121のうち厚みが0.5mm未満である部位を第2被覆部122としてもよい。このような構成とすることで、バスバーユニットの小型化が可能となる。そして、後述するポリアミド樹脂組成物により樹脂部材120を形成することで、樹脂部材の厚みをこのように薄くしても、高温環境下における絶縁破壊が生じにくい。
【0025】
上記金属部材110は、表面が粗面化処理されていることが好ましい。粗面化処理の方法は特に限定されず、塩基または酸を含む処理液への浸漬やエッチングなどの化学的な処理や、レーザーまたはブラストなどの物理的な処理により、表面が粗面化されればよい。
【0026】
粗面化された金属部材110の表面は、粗面化処理により形成された複数の凸部の中心間距離(ピッチ)が、5nm以上500μm以下であることが好ましい。複数の凸部の中心間距離が5nm以上であると、凸部同士の間の凹部が適度に大きいため、接合時に樹脂部材を当該凹部に十分に浸入させやすく、金属部材110と樹脂部材120との接合強度をより向上させることができる。また、複数の凸部の中心間距離が500μm以下であると、当該凹部が大きくなりすぎないため、電気部品100の金属-樹脂界面に隙間が生じるのをより抑制し、気密性をより高めることができる。同様の観点から、複数の凸部の中心間距離は、5μm以上250μm以下であることがより好ましい。複数の凸部の中心間距離は、一の凸部の中心とそれと隣接する凸部の中心との間の距離の平均値である。
【0027】
複数の凸部の中心間距離は、電気部品100から樹脂部材120を機械的剥離、溶剤洗浄などにより除去し、露出した金属部材110の表面を、電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡観察、あるいは表面粗さ測定装置を用いて観察して測定することができる。
【0028】
具体的には、複数の凸部の中心間距離が0.5μm未満であるときは、電子顕微鏡により観察することが可能であり、複数の凸部の中心間距離が0.5μm以上であるときは、レーザー顕微鏡または表面粗さ測定装置により観察することができる。例えば、金属部材の表面を電子顕微鏡またはレーザー顕微鏡で撮影した写真において、任意の凸部を50個選択し、それらの凸部の中心間距離をそれぞれ測定する。そして、凸部の中心間距離の全ての測定値を積算した後、50で除したもの(平均したもの)を「複数の凸部の中心間距離」とする。
【0029】
金属部材110の粗面化処理された表面の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)の平均値は、特に制限されないが、2μmを超えることが好ましく、2μmより大きく50μm以下であることがより好ましく、2.5μmより大きく45μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
十点平均粗さ(Rz)の平均値は、JIS B0601(ISO 4287)に準拠して測定することができる。具体的には、互いに平行な任意の3つの直線部と、それらと直交する任意の3つの直線部の合計6つの直線部上の十点平均粗さ(Rz)を測定し、これらの平均値をRzの平均値とする。
【0031】
金属部材110の粗面化処理された表面の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、0.5μm以上500μm以下であることが好ましい。特に、接合強度をより高める観点からは、複数の凸部の中心間距離が0.5μm未満であり、かつ、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5μm以上500μm以下であることが好ましい。粗さ曲線要素の平均長さも、前述と同様、JIS B0601(ISO 4287)により測定することができる。
【0032】
1-2.樹脂部材
樹脂部材120は、ポリアミド樹脂組成物を含む。樹脂部材120は絶縁性の部材であり、金属部材110を被覆することで、金属部材110を絶縁被覆する。
【0033】
1-2-1.ポリアミド樹脂組成物
本実施形態において、ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を含む。
【0034】
<ポリアミド樹脂(A)>
本実施形態において、ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)およびジアミンに由来する成分単位(Ab)を含む。上記ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含む。本発明者らは、ポリアミド樹脂(A)が、ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むことで、高温環境下(例えば150℃以上)における絶縁破壊を抑制できることを見出した。
【0035】
樹脂部材の絶縁破壊強度は、樹脂部材を構成する分子の分子運動の活発化に伴って低下する。樹脂部材を構成する分子の分子運動は樹脂部材の温度上昇に伴って活発化するため、高温環境下では絶縁破壊強度は低下する。特に、ガラス転移温度(Tg)以上の温度においては、分子の分子運動がより活発化するため、樹脂部材の絶縁破壊強度は急激に低下する。従来の(ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含まない)ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材は、分子構造が比較的直鎖状に近いため温度上昇に伴って分子運動が活発化しやすく、高温環境下で絶縁破壊強度が低下しやすい。また、樹脂部材に電圧が印加されると樹脂部材を構成する分子の分子運動が活発化して発熱し、樹脂部材の温度上昇がもたらされるが、従来の(ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含まない)ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材は、比較的直鎖状に近い分子構造を有するため電圧印加による発熱が大きく、これによっても絶縁破壊強度が低下していた。加えて、従来の(ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含まない)ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材は、ガラス転移温度(Tg)も比較的低い。さらに、樹脂部材の厚みを小さくすると、高温環境での分子運動の活発化がより生じやすいため、高温環境下において絶縁破壊が顕著に生じやすかったと考えられる。
【0036】
これに対して、ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むポリアミド樹脂(A)は、分子構造中に嵩高く剛直な環状構造であるビシクロ骨格を有する。そのため、温度が上昇したり電圧が印加されたりしても、分子運動が活発化しにくく、絶縁破壊強度の低下が生じにくい。さらに、ガラス転移温度(Tg)も高いため、高温環境下においても絶縁破壊強度の急激な低下を抑制できる。これにより、ルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むポリアミド樹脂(A)を含む樹脂部材120の、高温環境下における絶縁破壊を十分に抑制できると考えられる。その結果、樹脂部材120の厚みを薄くしたときにおいても、高温環境下でも樹脂部材120の絶縁破壊を抑制できると考えられる。
【0037】
(ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa))
本実施形態において、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、テレフタル酸に由来する成分単位を含む。
【0038】
テレフタル酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、50モル%以上100モル%以下であることが好ましく、75モル%以上100モル%以下であることがより好ましい。
【0039】
ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、少量の他のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよい。
【0040】
他のジカルボン酸の例には、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸などが含まれる。
【0041】
テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸などが含まれる。
【0042】
上記脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子数4~20の脂肪族ジカルボン酸であり、上記炭素原子数は6~12であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸およびセバシン酸が含まれる。これらの中でも、アジピン酸およびセバシン酸が好ましい。
【0043】
上記脂環式ジカルボン酸の例には、シクロヘキサンジカルボン酸およびそのエステルが含まれる。
【0044】
他のジカルボン酸に由来する成分単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0モル%以上2モル%以下であることが好ましく、0モル%以上1モル%未満であることがさらに好ましく、0モル%であることが特に好ましい。
【0045】
(ジアミンに由来する成分単位(Ab))
本実施形態において、ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位およびノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含む。上述のように、ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むことで、高温環境下での樹脂部材120の絶縁破壊を十分に抑制できる。
【0046】
また、ノルボルナンジアミンは、ビシクロ骨格を含む剛直な環状構造を有するため、ポリアミド樹脂の分子鎖の運動性を低下させる。そのため、上記構造を有するジアミンは、上記構造を有さないジアミンよりも、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)を高くすることができる。これにより、ポリアミド樹脂(A)がノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むことで、高温環境下における樹脂部材120の機械的強度(引張強度、曲げ強度および曲げ弾性率)を高めることができる。
【0047】
ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、50モル%以上90モル%以下の1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位と、10モル%以上50モル%以下のノルボルナンジアミンに由来する成分単位とを含むことが好ましく、55モル%以上85モル%以下の1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位と、15モル%以上45モル%以下のノルボルナンジアミンに由来する成分単位とを含むことがより好ましく、55モル%以上70モル%以下の1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位と、30モル%以上45モル%以下のノルボルナンジアミンに由来する成分単位とを含むことがさらに好ましい。
【0048】
1,6-ジアミノヘキサンに由来する成分単位が50モル%以上含まれることで、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を高めて、樹脂部材120の引張強度をより高めることができる。ノルボルナンジアミンに由来する成分単位が10モル%以上含まれることで、高温環境下における樹脂部材120の絶縁破壊をより抑制できる。また、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)を高めて、高温環境下における樹脂部材120の機械的強度をより高めることができる。
【0049】
ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、少量の他のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。
【0050】
他のジアミンの例には、1,6-ジアミノヘキサン以外の炭素原子数4~18の脂肪族ジアミン、炭素数4~20の脂環式ジアミンに由来する成分単位、および芳香族ジアミンなどが含まれる。
【0051】
1,6-ジアミノヘキサン以外の脂肪族ジアミンの例には、(1,6-ジアミノヘキサン以外の)炭素原子数4~18の直鎖状アルキレンジアミン、および炭素原子数4~18の分岐状アルキレンジアミン(側鎖を有するアルキレンジアミン)などが含まれる。
【0052】
上記直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミンおよび1,10-ジアミノデカンが好ましい。直鎖状アルキレンジアミンは、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0053】
上記分岐状アルキレンジアミンの例には、1-ブチル-1,2-ジアミノエタン、2,2-ジメチルジアミノプロパン、1,1-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1-エチル-1,4-ジアミノブタン、1,2-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、1,4-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2,3-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2,5-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、3,3-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4,4-トリメチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,4-ジエチル-1,6-ジアミノヘキサン、2,3-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,4-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,5-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2-ジメチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-4-エチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-エチル-4-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2,2,5,5-テトラメチル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソプロピル-1,7-ジアミノヘプタン、3-イソオクチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、1,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,5-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,2-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、4,4-ジメチル-1,8-ジアミノオクタン、3,3,5-トリメチル-1,8-ジアミノオクタン、2,4-ジエチル-1,8-ジアミノオクタン、および5-メチル-1,9-ジアミノノナンなどが含まれる。これらの中でも、2-メチル-1,5-ジアミノペンタンがより好ましい。
【0054】
炭素原子数4~20の脂環式ジアミンの例には、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナンおよび2,6-ビスアミノメチルノルボルナンなどが含まれる。芳香族ジアミンの例には、メタキシリレンジアミンなどが含まれる。
【0055】
他のジアミンに由来する成分単位の含有量は、ジアミンに由来する成分単位(Ab)の総モル数に対して、0モル%以上5モル%以下であることが好ましく、0モル%以上2モル%以下であることが好ましく、0モル%以上1モル%未満であることがさらに好ましく、0モル%であることが特に好ましい。
【0056】
ポリアミド樹脂(A)の各構成単位およびその比率は、ポリアミド樹脂(A)の調製時の仕込み比から算出するか、または、NMR法で測定することができる。
【0057】
H-NMR測定の場合、例えば、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製 ECX400型)を用い、溶媒は重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核はH(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする条件である。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、他にも、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来のHなどのピークは、常法によりアサインしうる。
【0058】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0059】
なお、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)は、バイオマス由来のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよいし、ジアミンに由来する成分単位(Ab)は、バイオマス由来のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。また、ポリアミド樹脂(A)は、バイオマス由来の原料を含む原料群を重合してなる、バイオマス由来のポリアミド樹脂(A)であってもよい。
【0060】
ポリアミド樹脂(A)は、コンパウンドや成形時の熱安定性を高めたり、機械的強度をより高めたりする観点から、少なくとも一部の分子の末端基が末端封止剤で封止されていてもよい。末端封止剤は、例えば、分子末端がカルボキシル基の場合は、モノアミンであることが好ましく、分子末端がアミノ基である場合は、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0061】
モノアミンの例には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、およびブチルアミンなどを含む脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、およびジシクロヘキシルアミンなどを含む脂環式モノアミン、ならびに、アニリン、およびトルイジンなどを含む芳香族モノアミンなどが含まれる。モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸およびリノ-ル酸などを含む炭素原子数2以上30以下の脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸およびフェニル酢酸などを含む芳香族モノカルボン酸、ならびにシクロヘキサンカルボン酸などを含む脂環式モノカルボン酸が含まれる。芳香族モノカルボン酸および脂環式モノカルボン酸は、環状構造部分に置換基を有していてもよい。
【0062】
(ポリアミド樹脂(A)の物性)
本実施形態におけるポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点(Tm)は290℃以上340℃以下であることが好ましく、300℃以上335℃以下であることがより好ましい。上記融点(Tm)が290℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物および樹脂部材120の引張強度や耐熱性をより高めることができる。また、上記融点(Tm)が340℃以下であると、成形温度を過剰に高くせずに、ポリアミド樹脂組成物を成形しやすくすることができ、成形加工性をより良好にすることができる。
【0063】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)は、ポリアミド樹脂(A)の組成を調整することによって、上記範囲にすることができる。例えば、ポリアミド樹脂(A)中のジカルボン酸に由来する成分単位(Aa)中のテレフタル酸に由来する成分単位の含有比率を多くすることによって、上記融点(Tm)を高めることができる。
【0064】
また、ポリアミド樹脂(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定されるガラス転移温度(Tg)が、130℃以上180℃以下であることが好ましく、140℃以上175℃以下であることがより好ましく、150℃以上170℃以下であることがさらに好ましい。上記ガラス転移温度(Tg)が130℃以上であると、高温環境下における分子の運動性が顕著に活発になる温度が高くなるため、分子の運動性を抑制してポリアミド樹脂組成物および樹脂部材120の耐熱性をより高めることができるとともに、高温環境下における絶縁破壊強度をより高めることができる。また、上記ガラス転移温度(Tg)が180℃以下であると、成形加工時に金型温度を過剰に高めずとも樹脂組成物の流動性を維持しやすくでき、成形加工性を向上させることができる。
【0065】
ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、20J/g以上80J/g以下であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)が20J/g以上であると、結晶性が高まるため、樹脂部材の耐熱性および接合強度が高まりやすい。また、80J/g以下であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶性を適度に低くすることができるため、樹脂部材の収縮率を低下させて、樹脂部材と金属部材との線膨張係数の差を小さくすることができる。これにより、成形品の耐ヒートショック性をより高めることができる。
【0066】
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)、融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。
【0067】
具体的には、約5mgの結晶性ポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を結晶性ポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。融解熱量(ΔH)は、JIS K7122に準じて、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求める。
【0068】
ポリアミド樹脂(A)の、温度25℃、96.5%硫酸中で測定される極限粘度[η]は、0.6dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.6dl/g以上であると、成形体の機械的強度(引張強度など)を十分に高めやすく、1.5dl/g以下であると、樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。ポリアミド樹脂(A1)の極限粘度[η]は、同様の観点から、0.8dl/g以上1.2dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂(A1)の末端封止量などによって調整することができる。
【0069】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0070】
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0071】
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)以外に、ポリアミド樹脂(A)とは異なるポリアミド樹脂をさらに含んでいてもよい。ポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂の全質量に対して、50.00質量%以上100.00質量%以下であることが好ましく、70.00質量%以上100.00質量%以下であることがより好ましく、80.00質量%以上100.00質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有量が50.00質量%以上であると、樹脂部材120の引張強度および高温環境下での絶縁性をより高めることができる。
【0072】
<難燃剤(B)>
本実施形態において、ポリアミド樹脂組成物は難燃剤(B)を含んでもよい。ポリアミド樹脂組成物が難燃剤(B)を含むことで、ポリアミド樹脂組成物の難燃性を高めることができる。
【0073】
難燃剤(B)の例には、有機ハロゲン系難燃剤、有機ハロゲン系難燃剤と、酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛および酸化鉄からなる群より選ばれる1種以上との組み合わせ、有機リン系難燃剤、有機リン系難燃剤とシリコーン化合物との組み合わせ、赤リンなどの無機リン、オルガノポリシロキサンおよび有機金属化合物の組み合わせ、ヒンダードアミン系難燃剤、水酸化マグネシウム、アルミナ、硼酸カルシウムおよび低融点ガラスなどの無機系難燃剤等が含まれる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、難燃剤(B)は、有機リン系難燃剤であることが好ましい。
【0074】
有機リン系難燃剤の例には、ホスフェート化合物、ホスフィン化合物、ホスフィン酸塩化合物、ホスフィンオキシド化合物およびホスファゼン化合物などが含まれる。
【0075】
ホスフェート化合物の例には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、トリルジキシリルホスフェート、トリス(ノリルフェニル)ホスフェートおよび(2-エチルヘキシル)ジフェニルホスフェートなどのリン酸エステル、レゾルシノールジフェニルホスフェートおよびハイドロキノンジフェニルホスフェートなどの水酸基含有リン酸エステル、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール-Aビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール-Sビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシリルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシリルホスフェート)、ビスフェノール-Aビス(ジトリルホスフェート)、ビフェノール-Aビス(ジキシリルホスフェート)およびビスフェノール-Sビス(ジキシリルホスフェート)などの縮合リン酸エステル化合物等が含まれる。
【0076】
ホスフィン化合物の例には、トリラウリルホスフィン、トリフェニルホスフィンおよび トリトリルホスフィン等が含まれる。
【0077】
ホスフィン酸塩化合物は、下記一般式(I)で表される。
【0078】
【化1】
【0079】
式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、直鎖状もしくは分枝状の炭素数1~6のアルキル基またはアリール基を示す。Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、NaおよびKからなる群より選択される少なくとも一種の金属原子を示す。mは、1~4の整数を示す。
【0080】
ホスフィン酸塩化合物の具体例には、ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩、ジエチルホスフィン酸マグネシウム塩などが含まれる。
【0081】
ホスフィンオキシド化合物の例には、トリフェニルホスフィンオキシドおよびトリトリ ルホスフィンオキシドなどが含まれる。
【0082】
ホスファゼン化合物の例には、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-メトキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-メチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-エチルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-プロピルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタキス(4-シアノフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ジフェノキシテトラキス(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、テトラフェノキシビス(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、ペンタフェノキシ(4-ヒドロキシフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-フェニルフェノキシ)シクロトリホスファゼン、トリフェノキシトリス(4-メタクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼンおよびトリフェノキシトリス(4-アクリルフェノキシ)シクロトリホスファゼンなどが含まれる。
【0083】
難燃剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
<その他の成分>
ポリアミド樹脂組成物は、公知の他の成分を含んでもよい。
【0085】
他の成分の例には、難燃助剤、核剤、滑剤、着色剤、耐熱安定剤、耐腐食性向上剤、ドリップ防止剤、イオン捕捉剤、エラストマー(ゴム)、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤(フェノール類、アミン類、イオウ類およびリン類など)、上記以外の耐熱安定剤(ラクトン化合物、ビタミンE類、ハイドロキノン類など)、光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類およびオギザニリド類など)、他の重合体(ポリオレフィン類、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのオレフィン共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびLCPなど)などが含まれる。
【0086】
(難燃助剤)
ポリアミド樹脂組成物は、少量の難燃剤(B)の添加で高い難燃効果を発揮する観点から、難燃助剤を含むことが好ましい。難燃助剤の例には、金属酸化物および金属水酸化物が含まれる。これらのうち、硼酸亜鉛、ベーマイト、錫酸亜鉛、酸化鉄、酸化錫が好ましく、硼酸亜鉛がより好ましい。
【0087】
難燃助剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0088】
(核剤)
核剤は、ポリアミド樹脂(A)の結晶化を促進し得る。そのため、樹脂部材120の引張強度および弾性率をより高めることができる。
【0089】
核剤の例には、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム、トリス(p-t-ブチル安息香酸)アルミニウム、およびステアリン酸塩などを含む金属塩系化合物、ビス(p-メチルベンジリデン)ソルビトール、およびビス(4-エチルベンジリデン)ソルビトールなどを含むソルビトール系化合物、ならびに、タルク、炭酸カルシウム、およびハイドロタルサイトなどを含む無機物などが含まれる。これらのうち、樹脂部材120の結晶化度をより高める観点から、タルクが好ましい。これらの核剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
タルクは、一般的に、含水ケイ酸マグネシウム(SiO:58~64%、MgO:28~32%、Al:0.5~5%、Fe:0.3~5%)を主成分とする。タルクの平均粒子径は、特に制限されないが、1~15μmであることが好ましい。タルクの平均粒子径が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性を損なうことなく、タルクをポリアミド樹脂(A)中に分散させやすい。同様の観点から、タルクの平均粒子径は、1~7.5μmであることがより好ましい。タルクの平均粒子径は、レーザー回折法、例えば(株)島津製作所製の島津粒度分布測定器SALD-2000A型を用いたレーザー回折法により測定できる。
【0091】
核剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.10質量部以上5.00質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上3.00質量部以下であることがより好ましい。核剤の含有量が上記範囲内であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶化度を十分に高めやすく、十分な機械的強度が得られやすい。
【0092】
(滑剤)
滑剤は、ポリアミド樹脂組成物の射出流動性を高め、かつ、得られる樹脂部材120の外観を良好にする。滑剤は、オキシカルボン酸金属塩および高級脂肪酸金属塩などの脂肪酸金属塩とすることができる。
【0093】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成するオキシカルボン酸は、脂肪族オキシカルボン酸であってもよく、芳香族オキシカルボン酸であってもよい。上記脂肪族オキシカルボン酸の例には、α-ヒドロキシミリスチン酸、α-ヒドロキシパルミチン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシエイコサン酸、α-ヒドロキシドコサン酸、α-ヒドロキシテトラエイコサン酸、α-ヒドロキシヘキサエイコサン酸、α-ヒドロキシオクタエイコサン酸、α-ヒドロキシトリアコンタン酸、β-ヒドロキシミリスチン酸、10-ヒドロキシデカン酸、15-ヒドロキシペンタデカン酸、16-ヒドロキシヘキサデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、およびリシノール酸などの炭素原子数10以上30以下の脂肪族のオキシカルボン酸が含まれる。上記芳香族オキシカルボン酸の例には、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、およびトロバ酸などが含まれる。
【0094】
上記オキシカルボン酸金属塩を構成する金属の例には、リチウムなどのアルカリ金属、ならびにマグネシウム、カルシウムおよびバリウムなどのアルカリ土類金属が含まれる。
【0095】
これらのうち、上記オキシカルボン酸金属塩は、12-ヒドロキシステアリン酸の金属塩であることが好ましく、12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウムおよび12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムがより好ましい。
【0096】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する高級脂肪酸の例は、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ベヘン酸、およびモンタン酸などの炭素原子数15以上30以下の高級脂肪酸が含まれる。
【0097】
上記高級脂肪酸金属塩を構成する金属の例には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、リチウム、アルミニウム、亜鉛、ナトリウム、およびカリウムなどが含まれる。
【0098】
これらのうち、上記高級脂肪酸金属塩は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ベヘン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、およびモンタン酸カルシウムであることが好ましい。
【0099】
滑剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.30質量%以下であることが好ましい。滑剤の含有量が0.01質量%以上であると、成形時の流動性が高まりやすく、得られる成形品の外観性が高まりやすい。滑剤の含有量が1.30質量%以下であると、滑剤の分解によるガスが成形時に発生し難く、製品の外観が良好になりやすい。
【0100】
(着色剤)
着色剤は、樹脂部材120に所望の色調を付与する。着色剤は、特に制限されないが、顔料でありうる。顔料の例には、カーボンブラック、アルミナ、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどの無機顔料や、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、インダンスレン系顔料などの有機顔料が含まれる。
【0101】
着色剤の含有量は、ポリアミド樹脂組成物の全質量に対して、0.01質量%以上5.00質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上2.00質量%以下であることがより好ましい。
【0102】
<製造方法>
ポリアミド樹脂組成物は、前述のポリアミド樹脂(A)、および必要に応じて他の成分を、公知の樹脂混練方法、例えばヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、またはタンブラーブレンダーで混合する方法、あるいは混合後、さらに一軸押出機、多軸押出機、ニーダー、またはバンバリーミキサーで溶融混練した後、造粒または粉砕する方法で製造することができる。
【0103】
1-2-2.樹脂部材の構成
図2は、図1におけるα部分の拡大斜視図である。図3は、図2における電気部品100の側面図であり、図4は、図1におけるA-A線断面図である。なお、図4では、図1と縮尺を変えた図を示している。
【0104】
本実施形態では、樹脂部材120は、厚みが3.0mm以下の部位である第1被覆部121を有し、第1被覆部121のうち、厚みが0.5mm未満の部位を第2被覆部122とする。また、第1被覆部121のうち厚みが0.5mm以上3.0mm以下の部位を、第3被覆部123とする。
【0105】
樹脂部材120が、厚みが3.0mm以下である第1被覆部121を有することで、電気部品100を従来よりも小型化(薄型化)することができる。冒頭で述べたように、樹脂部材120、金属部材110を被覆する部位の厚みが小さくなると、高温環境下で、より絶縁破壊が生じやすい。これに対して、本実施形態に係る樹脂部材120は、上述した、ノルボルナンジアミンに由来する成分単位を含むため、樹脂部材120の金属部材110を被覆する部位(第1被覆部121)の厚みを小さくしても、高温環境下での絶縁破壊の発生を抑制できる。そのため、高温環境下においても必要な絶縁性を維持しつつ、電気部品100の小型化への対応を可能にすることができる。
【0106】
第1被覆部121の厚みは、0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上2.0mm以下であることがより好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがさらに好ましい。上記厚みが0.5mm以上であることで、樹脂部材120の剛性の低下を抑制できる。
【0107】
樹脂部材120の、金属部材110の延在方向(図1におけるX軸方向)の長さは、特に限定されないが、上記延在方向と垂直な方向に対する剛性を高める観点から、金属部材110の延在方向の長さに対して60%以上99%以下の長さであることが好ましく、60%以上90%以下の長さであることがより好ましい。
【0108】
樹脂部材120の形状は、特に限定されず、直方体状、柱状、球状、錐体状などであってもよい。本実施形態では、樹脂部材120は直方体状である。
【0109】
第1被覆部121は、樹脂部材120の、金属部材110の表面を被覆する部位の一部に形成されていてもよいし、上記被覆する部位の全てに形成されていてもよいが、上記被覆する部位の全てに形成されていることが好ましい。これにより、電気部品100をより小型化することができる。
【0110】
第1被覆部121が第2被覆部122を含むとき、第2被覆部122が形成される位置は特に限定されない。本実施形態では、第2被覆部122は、第3被覆部123の、金属部材110の延在方向の両端部に形成され、金属部材110の、高さ方向(図1のZ軸方向)に沿って対向する表面をそれぞれ被覆している。
【0111】
第3被覆部123の厚みは、0.5mm以上3.0mm以下であり、0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.0mm以下であることがより好ましい。上記厚みが0.5mm以上であることで、樹脂部材120の引張強度の低下を抑制できる。
【0112】
樹脂部材120と金属部材110の位置関係は特に限定されないが、金属部材110の延在方向(図1のX軸方向)の中心と、樹脂部材120の上記延在方向の中心とが一致するように樹脂部材120が形成されていることが好ましい。つまり、電気部品100の中心軸に対して、金属部材110および樹脂部材120はいずれも、線対称であることが好ましい。
【0113】
1-3.電気部品の製造方法
上述した電気部品は、例えば、インサート成形法により製造することができる。具体的には、例えば、(1)金属部材を用意する工程と、(2)上記金属部材を金型内に設置し、溶融したポリアミド樹脂組成物を金型内に射出充填する工程と、(3)ポリアミド樹脂組成物を冷却する工程と、を有する製造方法により、電気部品を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0114】
1-3-1.金属部材の用意
まず、上述した金属部材を用意する。このとき、金属部材の少なくとも一部の表面を粗面化処理してもよいし、少なくとも一部の表面に凹凸構造を有する金属部材を用意してもよい。
【0115】
金属部材の表面を粗面化処理する方法は、特に制限されない。例えば、レーザー加工を用いる方法、NaOH等の無機塩基水溶液またはHClもしくはHNOなどの無機酸水溶液に金属部材を浸漬する方法、陽極酸化法により金属部材を処理する方法、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオン、第二銅イオンおよび必要に応じてマンガンイオンや塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウムなどを含む酸系エッチング剤水溶液)によってエッチングする置換晶析法、水和ヒドラジン、アンモニアおよび水溶性アミン化合物などの水溶液に金属部材を浸漬する方法、ならびに、温水処理法などを用いることができる。
【0116】
なお、本工程は、金属部材の表面を粗面化処理する工程を含んでいてもよい。
【0117】
1-3-2.金属部材の設置および樹脂組成物の射出充填
次に、金属部材を金型内に設置し、溶融したポリアミド樹脂組成物を金型内に射出充填する。これにより、軟化または溶融したポリアミド樹脂組成物と、上記用意された金属部材とを複合化させる。
【0118】
具体的には、まず、上記用意された金属部材を、射出成型金型内のキャビティ部(空間部)に配置する。そして、上記ポリアミド樹脂組成物の少なくとも一部が、金属部材接するように、金型のキャビティ部にポリアミド樹脂組成物を射出充填する。これにより、射出された溶融しているポリアミド樹脂組成物が、金属部材の表面に接触する。このときの射出成形金型の温度は、ポリアミド樹脂組成物を射出成形に適した状態に溶融させうる温度であればよく、特に制限されないが、例えば100~350℃としうる。
【0119】
このとき、射出成型金型のキャビティ部のサイズや形状を金属部材のサイズや形状に応じて調整することで、厚みを3.0mm以下である第1被覆部を形成することができる。また、適切な射出速度および保圧力および保圧時間に設定することで、金属部材110の第1被覆部121と接触する表面の表面積S1と、第2被覆部122と接触する表面の表面積S2とが、S2/S1≦0.5を満たすようにすることができる。
【0120】
金型としては、公知の射出成形金型、例えば高速ヒートサイクル成形(RHCM、ヒート&クール成形)用金型や発泡成形用コアバック金型を用いることができる。
【0121】
1-3-3.冷却
その後、金属部材の表面に接触したポリアミド樹脂組成物を冷却させて固化させることで、ポリアミド樹脂組成物を含む樹脂部材が金属部材に複合化された電気部品を得ることができる。
【0122】
1-4.その他
本実施形態では、金属部材110の数は4個であるが、これに限定されない。また、本実施形態では、金属部材110の延在方向(図1のX軸方向)の両端は樹脂部材120によって被覆されていないが、この形態に限定されない。例えば、樹脂部材120は、金属部材110の延在方向の中心よりも一方側に偏って形成され、金属部材110の上記一方側の端部を被覆してもよい。
【0123】
また、電気部品100は、バスバーユニット以外の用途に用いてもよい。
【0124】
例えば、電気部品100は、端子、端子台、高電圧コネクタ、モータ、電力変換装置(インバータ、コンバータ)、ECUボックス、電装部品などの移動体用の電気部品に用いることができる。
【0125】
また、電気部品100は、電子機器用の電気部品や、医療機器用の電気部品などにも用いることができる。
【0126】
2.バスバーユニット
本実施形態では、上述の金属部材110をバスバー210とし、樹脂部材120を、上記バスバーを保持するための保持部材とした、電気部品100をバスバーユニット200とすることができる。
【0127】
3.駆動ユニットおよび移動体
図5は、バスバーユニット200を有する、駆動ユニット330を有する移動体(車両)300の例示的な構成を示す構成図である。本実施形態では、移動体300は、機体310と、機体310を駆動するための電力を供給する二次電池などの電源320と、電源320から供給される電力により機体310を駆動する駆動ユニット330と、を有する。
【0128】
駆動ユニット330は、電源320からの電力(電流)を制御するインバータ332と、インバータ332により制御された電力を供給されて回転するモータ334と、インバータ332とモータ334と電気的に接続するバスバーを有するバスバーユニット200と、を有する。モータ334は、モータ334により得られる回転速度を、機体310を駆動するための回転速度に変換する減速機335とともに、モータケース336に収容されている。バスバーユニット200は、モータケース336に取り付けられており、バスバーユニット200を介して、モータケース336の内部から外部へとバスバーが連通する。
【0129】
なお、モータケース336の内部には、モータ334を冷却する冷却液(クーラントオイル)が貯留されている。また、バスバーユニット200とモータケース336の接続部では、Oリングなどの封止部材により気密処理がされており、これによりモータケース336の内部から外部へのオイルの漏出が防がれている。
【0130】
なお、図5では移動体300が自動車などの車両である例を示しているが、移動体300は、機体と駆動ユニットを備えて移動可能である物体であれば特に限定されない。例えば、自動車、バイクおよび電気自転車などの車両のほか、鉄道車両、船舶、航空機、ドローン、ロボットなどを移動体300としてもよい。
【実施例0131】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0132】
1.測定
以下に述べる、ポリアミド樹脂の物性は、以下の方法により測定した。
【0133】
<融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)>
ポリアミド樹脂の融点(Tm)、およびガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定した。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、示差走査熱量測定にセットした。そして、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。当該樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却した。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とし、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0134】
<融解熱量(ΔH)>
ポリアミド樹脂の融解熱量(ΔH)は、JIS K 7122(2012年)に準じて、1回目の昇温過程での結晶化の発熱ピークの面積から求めた。
【0135】
<極限粘度[η]>
ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させ、得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t)/t
【0136】
2.材料の合成/用意
2-1.ポリアミド樹脂(A)の合成
<ポリアミド樹脂(PA-1)(6T/NBDAT)の調製>
テレフタル酸259.5g(1562.0ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン118.9g(1023.1ミリモル)、ノルボルナンジアミン85.0g(551.0ミリモル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37g、および蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温した。このとき、オートクレーブの内圧を3.0MPaまで昇圧した。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低次縮合物を抜き出した。その後、低次縮合物を室温まで冷却後、粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥した。
【0137】
次に、この低次縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて215℃まで昇温させた。その後、1時間30分反応させて、室温まで降温させた。
【0138】
その後、得られたプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(PA-1)を得た。
【0139】
得られたポリアミド樹脂(PA-1)の極限粘度[η]は0.97dl/g、融点(Tm)は312℃、ガラス転移温度(Tg)は160℃、融解熱量(ΔH)は46J/gであった。
【0140】
2-2.他のポリアミド樹脂の合成
<ポリアミド樹脂(PA-2)(6T6I)の調製>
テレフタル酸278.0g(1673.5ミリモル)、イソフタル酸119.0g(716.3ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン280.0g(2409.4ミリモル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37g、および蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れたこと以外は、PA-1の調製と同様にして、ポリアミド樹脂(PA-2)を得た。
【0141】
得られたポリアミド樹脂(PA-2)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は330℃、ガラス転移温度(Tg)は125℃、融解熱量(ΔH)は55J/gであった。
【0142】
<ポリアミド樹脂(PA-3)(6T66)の調製>
テレフタル酸218.4g(1314.6ミリモル)、1,6-ジアミノヘキサン280.0g(2409.4ミリモル)、アジピン酸157.2g(1075.7ミリモル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.37g、および蒸留水81.8gを内容量1Lのオートクレーブに入れたこと以外は、PA-1の調製と同様にして、ポリアミド樹脂(PA-3)を得た。
【0143】
得られたポリアミド樹脂(PA-3)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は310℃、ガラス転移温度(Tg)は80℃、融解熱量(ΔH)は63J/gであった。
【0144】
2-3.難燃剤(B)
ホスフィン酸アルミニウム(EXOLIT OP1230、クラリアント社製)を用いた。
【0145】
2-4.その他の成分
2-4-1.難燃助剤
ホウ酸亜鉛(Firebrake 500、ボラックス社製)を用いた。
【0146】
2-4-2.核剤
タルク(平均粒子径6μm)を核剤として用いた。
【0147】
2-4-3.滑剤
モンタン酸ナトリウム(LICOMONT NAV101、クラリアント社製)を滑剤として使用した。
【0148】
2-4-4.強化材
ガラス繊維(FT756D、オーウィングコーニング社製、カルボキシル基を有する収束剤含有)を強化材として用いた。
【0149】
3.ポリアミド樹脂組成物の調製
上記の材料を、表1に示す組成比(単位は質量部)でタンブラーブレンダーにて混合し、30mmφのベント式二軸スクリュー押出機を用いてポリアミド樹脂(PA-1)~(PA-3)の融点(Tm)+5℃のシリンダー温度条件で溶融混練した。その後、混練物をストランド状に押出し、水槽で冷却させた。その後、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットすることでペレット状のポリアミド樹脂組成物1~5を得た。
【0150】
4.評価
<絶縁破壊電圧>
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形し、60mm×60mm×3.0mm、60mm×60mm×1.0mm、50mm×30mm×0.5mmの試験片を得た。
成形機 :東芝機械株式会社製 EC75N-2A
シリンダー温度 :ポリアミド樹脂(PA-1)~(PA-3)の融点+10℃
金型温度 :160℃
射出設定速度 :100mm/sec
【0151】
得られた試験片を、いずれも温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、IEC60243-1(2013)に準拠して、温度23℃および温度150℃、相対湿度50%の雰囲気下で絶縁破壊電圧[kV]を測定した。
【0152】
<引張強度>
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形して、厚み3.2mmのASTMダンベル型試験片Type Iを得た。
成形機: EC75N-2A(東芝機械株式会社製)
シリンダー温度: ポリアミド樹脂(PA-1)~(PA-3)の融点+10℃
金型温度: 160℃
射出設定速度: 100mm/sec
【0153】
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃および温度150℃、相対湿度50%の雰囲気下でASTMD638に準拠して、引張試験を行い、引張破断強度(引張強度)[MPa]を測定した。
【0154】
<曲げ強度および曲げ弾性率>
得られたポリアミド樹脂組成物を、下記の射出成形機を用いて、下記成形条件で成形して、厚み3.2mmのASTMダンベル型試験片Type Iを得た。
成形機: EC75N-2A(東芝機械株式会社製)
シリンダー温度: ポリアミド樹脂(PA-1)~(PA-3)の融点+10℃
金型温度: 160℃
射出設定速度: 100mm/sec
【0155】
得られた試験片を、温度23℃、窒素雰囲気下で24時間放置した。次いで、温度23℃および温度150℃、相対湿度50%の雰囲気下で曲げ試験機(AB5、TESCO株式会社製、スパン64mm、曲げ速度2.0mm/分)で曲げ試験を行い、曲げ強度[MPa]および曲げ弾性率[MPa]を測定した。
【0156】
表1に各ポリアミド樹脂組成物の組成、評価結果を示した。
【0157】
【表1】
【0158】
ポリアミド樹脂としてPA6T/NBDATを用いたポリアミド樹脂組成物1、2から得られた成形体は、厚みが3.0mm以下であっても、高温環境下においても十分な耐絶縁破壊性を有することがわかった。これにより、より薄型の樹脂部材(薄肉部を含む樹脂部材)を含む電気部品を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の電気部品は高温環境下においても必要な絶縁性を維持しつつ、小型化への対応が可能である。そのため、上記電気部品は、例えば、高温環境下で使用される部品(例えば、自動車部品)に有用である。
【符号の説明】
【0160】
100 電気部品
110 金属部材
120 樹脂部材
200 バスバーユニット
310 機体
320 電源
330 駆動ユニット
332 インバータ
334 モータ
335 減速機
336 モータケース
図1
図2
図3
図4
図5