(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130864
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】銅と砒素の化合物の処理方法、および、砒素の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/02 20060101AFI20240920BHJP
C22B 30/04 20060101ALI20240920BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C22B1/02
C22B30/04
C22B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040806
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】大竹 晃平
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA03
4K001AA09
4K001BA24
4K001CA01
4K001CA09
4K001CA15
(57)【要約】
【課題】銅と砒素の化合物から、効率よく砒素を分離(回収)できる処理方法を提供する。
【解決手段】銅と砒素の化合物を含む原料中の酸素品位を、原料中の銅の酸化物の含有率により調整する、前処理工程と、酸素品位調整後の原料を焙焼し、砒素を揮発させる、焙焼工程と、を有する、銅と砒素の化合物の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と砒素の化合物を含む原料中の酸素品位を、前記原料中の銅の酸化物の含有率により調整する、前処理工程と、
酸素品位調整後の前記原料を焙焼し、砒素を揮発させる、焙焼工程と、を有する、銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項2】
前記前処理工程では、前記原料を酸化焙焼することで得られる酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、請求項1に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項3】
前記前処理工程では、前記焙焼工程で得られた焙焼物をさらに酸化焙焼することで得られる酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、請求項1に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項4】
前記前処理工程では、銅の酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、請求項1に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項5】
前記前処理工程では、前記原料中の酸素品位を、11~20重量%に調整する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項6】
前記焙焼工程では、酸素濃度が1%未満の雰囲気で焙焼を行う、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項7】
前記焙焼工程における、砒素の揮発率は、50%以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の銅と砒素の化合物の処理方法。
【請求項8】
銅と砒素の化合物と、銅の酸化物とを含む原料を、酸素濃度が1%未満の雰囲気で焙焼することで、砒素を回収する工程を有する、砒素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅と砒素の化合物の処理方法、および、砒素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素は酸化焙焼することで、三酸化二砒素として揮発することが知られている。例えば、特許文献1には、砒素を含有する廃棄物をあらかじめ酸素雰囲気とした後に該酸素雰囲気中において加熱し400℃以上600℃未満の温度範囲で燃焼させることにより、砒素分を三酸化二砒素として昇華させて砒素以外の酸化物から分離した後、昇華した三酸化二砒素を凝固させて回収する方法が開示されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2には、湿式亜鉛製錬で得られる亜鉛浸出残渣から金、銀、銅、鉄もしくは鉛等の有価金属を分離回収する亜鉛浸出残渣の湿式処理法が開示されており、亜鉛製錬において、砒化銅が発生すること、および、該砒化銅を湿式処理して砒素を分離することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-59722号公報
【特許文献2】特開2002-30355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、特許文献2に記載されているような、亜鉛製錬において発生する砒化銅を、単に酸化焙焼した場合、原料の一部しか反応せず、砒素を充分に分離できないという課題がある。
【0006】
本発明の一実施形態は、銅と砒素の化合物から、効率よく砒素を分離(回収)できる処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、
銅と砒素の化合物を含む原料中の酸素品位を、前記原料中の銅の酸化物の含有率により調整する、前処理工程と、
酸素品位調整後の前記原料を焙焼し、砒素を揮発させる、焙焼工程と、を有する、銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、
前記前処理工程では、前記原料を酸化焙焼することで得られる酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、上記第1の態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0009】
本発明の第3の態様は、
前記前処理工程では、前記焙焼工程で得られた焙焼物をさらに酸化焙焼することで得られる酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、上記第1の態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0010】
本発明の第4の態様は、
前記前処理工程では、銅の酸化物を、前記原料に加えることで、酸素品位を調整する、上記第1の態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0011】
本発明の第5の態様は、
前記前処理工程では、前記原料中の酸素品位を、11~20重量%に調整する、上記第1から第4のいずれか1つの態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0012】
本発明の第6の態様は、
前記焙焼工程では、酸素濃度が1%未満の雰囲気で焙焼を行う、上記第1から第4のいずれか1つの態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0013】
本発明の第7の態様は、
前記焙焼工程における、砒素の揮発率は、50%以上である、上記第1から第4のいずれか1つの態様に記載の銅と砒素の化合物の処理方法である。
【0014】
本発明の第8の態様は、
銅と砒素の化合物と、銅の酸化物とを含む原料を、酸素濃度が1%未満の雰囲気で焙焼することで砒素を回収する工程を有する、砒素の回収方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、銅と砒素の化合物から、効率よく砒素を分離(回収)できる処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る、銅と砒素の化合物の処理方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<発明者の得た知見>
まず、発明者が得た知見について説明する。
【0018】
亜鉛製錬等において、製錬の中間産物として発生する銅と砒素の化合物(例えば、砒化銅)は、有価な銅も含むことから、銅を回収する事業価値は十分にあるが、製錬規模に応じた処理量を可能とするプロセスが肝要である。銅と砒素を含む原料について、単に大気中で酸化焙焼を行った場合、酸素が供給される表面近傍しか焙焼反応が進まず、処理効率が劣ることがわかっている。しかし、発明者らは、上記酸化焙焼後における酸化物について鋭意研究し、当該酸化物中の酸素については、化合状態から焙焼助剤として活用することを見出し、本発明に至った。さらに具体的には、上記酸化焙焼によって得られた酸化物を、元の原料に混合して焙焼を行ったところ、原料内部にまで酸素が供給され、高い砒素揮発率が得られることがわかった。
【0019】
発明者のさらなる鋭意検討の結果、上記焙焼助剤としての調整指標として、原料中の酸素品位を適切な範囲に調整することで、さらに効率よく砒素を分離できることを見出した。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
なお、本明細書において、「A~B」とは、「A以上B以下」の数値範囲であることを意味する。
【0022】
<本発明の第1実施形態>
(1)銅と砒素の化合物の処理方法
まず、本実施形態の銅と砒素の化合物の処理方法について説明する。
図1は、本実施形態の銅と砒素の化合物の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の銅と砒素の化合物の処理方法は、例えば、銅と砒素の化合物(例えば、砒化銅)を含む原料10からスタートし、前処理工程S101と、焙焼工程S102と、を経て、三酸化二砒素20として砒素を分離(揮発)し、銅を主成分とする焙焼物30を得ることができる処理方法(乾式)である。
【0023】
原料10は、例えば、亜鉛製錬等の非鉄製錬において、中間産物として発生する砒化銅を主に含んでいる。原料10に含まれる各元素の品位(dry含有量)は、例えば、銅が50~70重量%、砒素が20~30重量%、硫黄が1重量%以下である。原料10は、事前に乾燥、粉砕し、微細粉末(例えば、粒径250μm以下)としておいてもよい。なお、本明細書において、砒化銅とは、組成式Cu3Asで表せるものの他、CuxAs等、複合金属化合物が含まれているものも含む。
【0024】
(前処理工程S101)
前処理工程S101は、原料10中の酸素品位を、原料10中の銅の酸化物の含有率により調整する工程である。本実施形態の前処理工程S101では、原料10を酸化焙焼することで得られる酸化物11を、原料10に加える(混合する)ことで、原料10中の酸素品位を調整することができる。前処理工程S101では、原料10に酸化物11として銅の酸化物を加える(混合する)ことをしてもよい。
【0025】
前処理工程S101における酸化焙焼は、酸化雰囲気、具体的には、大気雰囲気でも良く、例えば、酸素濃度が10ppm以上(より好ましくは1%以上)の雰囲気で行うことが好ましい。これにより、原料10の少なくとも表面近傍(例えば、表層1cm程度の変色部分)が酸素と反応し、酸化物11が形成されやすくなる。
【0026】
前処理工程S101における酸化焙焼は、大気中で400~600℃の温度で行うことが好ましい。温度が400℃未満では、酸化反応が不充分であり、酸化物11が形成されにくい。これに対し、温度を400℃以上とすることで、酸化物11が形成されやすくなる。一方、温度が600℃を超えると、酸化物11が硬化してしまい、原料10と混合するのが困難となる可能性がある。これに対し、温度を600℃以下とすることで、酸化物11が硬化することを抑制できる。
【0027】
本実施形態では、前処理工程S101における酸化焙焼を行った後、酸素と反応し、酸素品位が11重量%以上(好ましくは20重量%以上)となった部分を酸化物11とする。酸化物11の他の元素の品位は、例えば、銅が50~70重量%、砒素が20重量%以下であることが好ましい。なお、酸化物11の酸素品位を算出するには、例えば、酸化物11を王水で煮沸溶解した後、溶液をICP-AESで測定し、砒素、銅、および、その他不純物の品位の合計値を100から引いて算出すればよい。
【0028】
前処理工程S101において、酸化焙焼することで得られた酸化物11を、原料10に加える(混合する)場合、原料10は、酸化焙焼に用いた原料10と同一のロットであってもよいし、別のロットであってもよい。また、酸化焙焼時に、酸素と反応しなかった部分(例えば、表層1cm以外の部分)を原料10として、酸化物11と混合してもよい。なお、酸化物11を原料10に混合する際は、均等に分散するように混合しても良いし、意図的に偏在させても良い。
【0029】
前処理工程S101では、酸化物11を原料10に加える(混合する)ことで、原料10中の酸素品位を、11~20重量%に調整することが好ましい。酸素品位が11重量%未満では、後述の焙焼工程S102において、酸化反応が充分に進まず、砒素が揮発しにくい。これに対し、酸素品位を11重量%以上とすることで、後述の焙焼工程S102において、砒素を揮発させやすくなる。一方、酸素品位が20重量%を超えると、後述の焙焼工程S102において、砒酸銅が生成しやすくなってしまい、砒素が揮発しにくい。これに対し、酸素品位を20重量%以下とすることで、後述の焙焼工程S102において、砒素を揮発させやすくなる。このように、場合によっては、砒素の揮発量を所望量とする制御も可能となる。
【0030】
酸化物11が砒酸銅を主成分とする場合、前処理工程S101において、原料10中の酸素品位を、14~20重量%に調整することが好ましい。一方、酸化物11が酸化銅を主成分とする場合、原料10中の酸素品位を、11~13重量%に調整することが好ましい。
【0031】
前処理工程S101では、酸化物11を原料10に加える際、均一な混合状態にすることが好ましい。したがって、酸化物11および原料10を適宜粉砕し、微細粉末(例えば、粒径250μm以下)として混合することが好ましい。
【0032】
(焙焼工程S102)
焙焼工程S102は、酸素品位調整後の原料10を焙焼し、砒素を三酸化二砒素20として揮発させる工程である。前処理工程S101において、原料10中の酸素品位を適切な範囲に調整しているため、原料10の内部にも充分に酸素が供給される。これにより、原料10は、三酸化二砒素20と、銅を主成分とする焙焼物30とに分離することができる。揮発した三酸化二砒素20は、例えば、凝固させて回収してもよい。したがって、本実施形態の銅と砒素の化合物の処理方法は、砒素(三酸化二砒素)の回収方法(製造方法)としても適用可能である。
【0033】
焙焼工程S102では、低酸素雰囲気で焙焼を行うことが好ましい。具体的には、例えば、酸素濃度が20%未満(より好ましくは1%未満)の雰囲気で焙焼を行うことが好ましい。これにより、効率よく砒素を分離(回収)することができる。したがって、焙焼工程S102は、銅と砒素の化合物と、酸化物11とを含む原料10を、酸素濃度が20%未満(より好ましくは1%未満)の低酸素雰囲気で焙焼することで、砒素を回収する工程ということもできる。低酸素雰囲気で焙焼を行うのは、酸素濃度が高い酸化雰囲気では、焙焼時に砒酸銅が生成しやすくなってしまい、砒素が揮発しにくいからであり、窒素、アルゴンガス等の不活性ガスの他、低酸素濃度として減圧下で焙焼を行っても良い。酸素濃度が0.1%程度はあっても良い。焙焼工程S102で得られる焙焼物30に脆性があり、後工程のハンドリングを改善することもある。すなわち、酸素濃度は0.1%以上20%未満が好ましく、0.1%以上1%未満がより好ましい。なお、原料10中の各元素の回収率のバランスを取るために、還元反応を起こすガスが含まれていてもよい。
【0034】
焙焼工程S102では、400~600℃の温度で焙焼を行うことが好ましい。温度が400℃未満では、反応が不充分であり、砒素が揮発しにくい。これに対し、温度を400℃以上とすることで、砒素を揮発しやすくなる。一方、温度が600℃を超えると、焙焼物30が硬化してしまい、砒素が揮発しにくい。これに対し、温度を600℃以下とすることで、砒素を揮発しやすくなる。焙焼工程S102で用いる炉は、一般的に熱処理に用いるもので良く、キルン、固定炉等、熱制御、雰囲気制御、排ガス処理が可能であれば良い。
【0035】
焙焼工程S102における、砒素の揮発率は、50%以上(より好ましくは80%以上)であることが好ましい。これにより、原料10から、効率よく砒素を分離することができる。また、銅品位の高い焙焼物30を得ることができる。焙焼物30の各元素の品位は、例えば、銅が70~90重量%、砒素が5重量%以下である。本実施形態では、このような銅品位の高い焙焼物30が得られるため、公知の方法により、銅のリサイクルが可能となる。したがって、本実施形態の銅と砒素の化合物の処理方法は、銅のリサイクル方法としても適用可能である。
【0036】
(2)第1実施形態の変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
(2-1)第1実施形態の変形例1
本変形例の前処理工程S101では、焙焼工程S102で得られた焙焼物30をさらに酸化焙焼することで得られる酸化物11を、原料10に加える(混合する)ことで、原料10中の酸素品位を調整する。本変形例の酸化焙焼は、上述の第1実施形態と同様の条件で行うことができる。
【0038】
焙焼物30は、銅を主成分とするため、酸化焙焼することで、酸化銅を主成分とする酸化物11を容易に得ることができる。本変形例の酸化物11は、例えば、酸化銅を70~90重量%含んでいることが好ましい。これにより、酸化物11と原料10との混合重量比(酸化物11/原料10)が小さい場合でも、酸素品位を適切な範囲(例えば、11~13重量%)に調整しやすくなる。したがって、所定量の酸化物11を用いて、より多量の原料10の処理が可能となる。なお、酸化物11として、試薬酸化銅等の銅の酸化物を用いてもよい。
【0039】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0040】
例えば、前処理工程S101における酸素品位の調整の仕方は、上述の実施形態に限定されない。例えば、原料10を酸化焙焼することで得られる酸化物11と、焙焼物30を酸化焙焼することで得られる酸化物11とを、原料10に加える等、上述した調整の仕方を組み合わせてもよい。
【実施例0041】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0042】
(実施例1)
銅と砒素の化合物を100℃乾燥器で乾燥した後、粒径が400μm以下となるように乳鉢で粉砕したものを原料10とした。原料10の組成は、銅が59重量%、砒素が25重量%であった。原料10をXRDで測定したところ、80%以上が砒化銅であった。
【0043】
原料10を、深さ3cmの型に約800g充填し、以下の条件で酸化焙焼を行った。
温度:600℃
加熱時間:2時間
流入ガス:大気(酸素濃度20.9%)
流入ガス量:20L/min
【0044】
酸化焙焼後、酸素品位が20重量%以上の部分(表面近傍の変色部)を酸化物11として得た。酸化物11の組成は、銅が51重量%、砒素が19重量%、酸素が24重量%であった。酸化物11は、粉砕して粒径250μm以下とした。
【0045】
332gの原料10に、55gの酸化物11を加え、酸素品位の調整を行った。酸素品位調整後の原料10の酸素品位は、10.6重量%であった。
【0046】
酸素品位調整後の原料10を、深さ3cmの型に充填し、以下の条件で焙焼を行った。
温度:600℃
加熱時間:2時間
流入ガス:窒素(酸素濃度0.1%)
流入ガス量:4L/min
【0047】
揮発した砒素(三酸化二砒素20)を凝固して回収し、焙焼工程における砒素の揮発率を算出したところ、55%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.05重量%、砒素が71重量%であった。なお、砒素の揮発率は、酸素品位調整後の原料10および焙焼物30の各元素の品位から算出した。具体的には、原料10の重量をA、砒素品位をAs%、銅品位をCu%とし、焙焼物30の重量をB、砒素品位をAs’%、銅品位をCu’%とし、焙焼前後で銅の含有量は変わらないという仮定から、A×Cu%=B×Cu’%という式(1)が成り立つ。砒素の揮発率は、(原料10の砒素含有量-焙焼物30の砒素含有量)÷(原料10の砒素含有量)×100、つまり、(A×As%-B×As’%)÷(A×As%)×100で表される。ここに式(1)を代入して、原料10および焙焼物30の砒素品位、銅品位のみから揮発率を算出した。
【0048】
また、酸化焙焼による砒素の揮発分も考慮し、砒素の総揮発率を算出したところ、57%であった。具体的には、酸化焙焼に用いた原料10の砒素含有量をAs1、酸化物11の砒素含有量をAs2、焙焼工程に用いた原料10の砒素含有量をAs3、焙焼物30の砒素含有量をAs4とすると、砒素の総揮発率は、(As1+As3-As4)÷(As1+As3)×100で表される。なお、As2については、全量を焙焼工程に使用するものとした。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、231gの原料10に、153gの酸化物11を加え、酸素品位を15.3重量%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0050】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は86%、総揮発率は88%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.01重量%、砒素が71重量%であった。また、焙焼物30の各元素の品位は、銅が84重量%、砒素が4.5重量%であった。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、126gの原料10に、251gの酸化物11を加え、酸素品位を19.6重量%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0052】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は54%、総揮発率は63%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.03重量%、砒素が73重量%であった。
【0053】
(実施例4)
実施例4では、262gの原料10に、118gの酸化物11を加え、酸素品位を13.0重量%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0054】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は84%、総揮発率は85%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.02重量%、砒素が67重量%であった。
【0055】
(実施例5)
実施例5では、190gの原料10に、190gの酸化物11を加え、酸素品位を17.1重量%に調整した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0056】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は85%、総揮発率は87%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.02重量%、砒素が71重量%であった。
【0057】
(実施例6)
実施例6では、実施例1と同様の条件で得た焙焼物30に対して、実施例1と同様の条件でさらに酸化焙焼を行った。得られた酸化物11の組成は、銅が72重量%、砒素が4重量%、酸素が20重量%であった。酸化物11は、粉砕して粒径250μm以下とした。
【0058】
259gの原料10に、141gの酸化物11を加え、酸素品位を11.3重量%に調整した。その後は、実施例1と同様の操作を行った。
【0059】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は87%であった。また、揮発物の各元素の品位は、銅が0.03重量%、砒素が74重量%であった。また、焙焼物30の各元素の品位は、銅が81重量%、砒素が3.2重量%であった。
【0060】
(実施例7)
実施例7では、試薬酸化銅を酸化物11として、酸素品位の調整を行った。250gの原料10に、108gの酸化物11を加え、酸素品位を12.6重量%に調整した。その後は、実施例1と同様の操作を行った。
【0061】
砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は92%であった。また、焙焼物30の各元素の品位は、銅が87重量%、砒素が2.1重量%であった。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、原料10中の酸素品位の調整を行わず(酸素品位8.5重量%)、302gの原料10に対して、実施例1と同様の焙焼を行った。砒素の揮発率を算出したところ、焙焼工程における揮発率は34%であった。
【0063】
実施例1~7、および比較例1の結果(砒素の揮発率)を表1にまとめた。なお、表1において、酸化物の種類欄は、Aが原料10を酸化焙焼することで得られる酸化物11を示し、Bが焙焼物30を酸化焙焼することで得られる酸化物11を示し、Cが試薬酸化銅からなる酸化物11を示している。
【0064】
【0065】
表1に示すように、酸素品位の調整を行わなかった比較例1より、酸素品位の調整を行った実施例1~7の方が、砒素揮発率は高かった。以上より、原料10中の酸素品位を調整することで、砒素揮発率を向上させ(例えば、50%以上)、効率よく砒素を分離できることを確認した。また、焙焼工程における揮発率が総揮発率の中で占める割合が大きい事から、焙焼工程の効果が大きいことがわかった。また、実施例2および実施例4~7のように、酸素品位を(酸化物11の形態に応じた)適切な範囲に調整することで、砒素揮発率をさらに向上させ(例えば、80%以上)、さらに効率よく砒素を分離できることを確認した。