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特開2024-130901温度測定装置、温度測定方法、及び、温度測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130901
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】温度測定装置、温度測定方法、及び、温度測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20240920BHJP
   G01J 5/05 20220101ALI20240920BHJP
   G01J 5/60 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G01J5/00 101A
G01J5/05
G01J5/60 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040853
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】村木 秀行
(72)【発明者】
【氏名】江川 秀
(72)【発明者】
【氏名】藤川 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 雅人
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AA15
2G066AC01
2G066BB15
(57)【要約】
【課題】コークス炉の光学窓の汚れを適切に除去して、安定してコークス炉の燃焼室の温度を測定する。
【解決手段】コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定装置であって、コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、燃焼室の温度を測定する2色放射温度計と、光学窓を清掃する清掃装置と、を備え、清掃装置は、2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて算出される光学窓の透過率が閾値未満であるときに、光学窓を清掃する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定装置であって、
前記コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、前記燃焼室の温度を測定する2色放射温度計と、
前記光学窓を清掃する清掃装置と、
を備え、
前記清掃装置は、前記2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて算出される前記光学窓の透過率が閾値未満であるときに、前記光学窓を清掃する、温度測定装置。
【請求項2】
前記温度測定装置は、前記コークス炉の炉上を移動する移動装置に設置される、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記温度測定装置は、装炭車に設置される、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記清掃装置は、エア、高圧水、蒸気または粉体を吹き付ける装置である、請求項1~3のいずれか1項記載の温度測定装置。
【請求項5】
コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定方法であって、
2色放射温度計を用いて、前記コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、前記燃焼室の温度を測定する温度測定ステップと、
前記2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて、前記光学窓の透過率を算出する透過率算出ステップと、
算出した前記光学窓の透過率が閾値未満である光学窓を、清掃対象として決定する清掃対象決定ステップと、
前記清掃対象の光学窓を清掃する清掃ステップと、
を含む、温度測定方法。
【請求項6】
コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定システムであって、
前記コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、前記燃焼室の温度を測定する2色放射温度計と、
前記光学窓を清掃する清掃装置と、
前記清掃装置により清掃する前記光学窓を判定する情報処理装置と、
を含み、
前記情報処理装置は、
前記2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて、前記光学窓の透過率を算出し、
算出した前記光学窓の透過率が閾値未満である光学窓を、清掃対象として決定する、温度測定システム。
【請求項7】
前記2色放射温度計及び前記清掃装置は、前記コークス炉の炉上を移動する同一または異なる移動装置に設置されている、請求項6に記載の温度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定装置、温度測定方法、及び、温度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉では、燃焼室の温度に基づいて燃料ガスの供給量を調整しながら操業が行われている。燃焼室の温度は、一般に、コークス炉の燃焼室の上方に設けられたフリューポートと呼ばれる観察孔から放射温度計を用いて測定される。放射温度計を用いた燃焼室の温度の測定作業は、作業者が、観察孔を封鎖するフリューポートの蓋(以下、「フリュー蓋」とも称する。)を取り外し、ハンディタイプの放射温度計により燃焼室内部を覗いて測温し、測定値が得られるとフリュー蓋を元に戻す、という手順で実施される。かかる測定作業では、放射温度計で大気開放された燃焼室を直視することになるため、作業者が燃焼室からの炎や高温の熱風に晒される危険がある。また、1つのコークス炉には約100室の燃焼室があり、さらに各燃焼室には30程度のフリューポートがあるため、燃焼室ごとに特定された数か所のフリューポートにおいて測温するだけでも多大な作業量となる。
【0003】
また、燃焼室の温度を測定するための手法として、例えば特許文献1、2には、燃焼室内部に熱電対を挿入し、燃焼室の温度を測定する技術が開示されている。熱電対を設置して温度を測定する場合には、フリューポート毎に起電力信号を取得するための配線が必要となる。また、燃焼室に常時設置されている熱電対は、燃焼室の高温によって劣化するため、頻繁に交換する必要がある。
【0004】
そこで、作業量の低減を目的として、例えば特許文献3には、フリュー蓋に光学窓を設け、光学窓を介して2色放射温度計で燃焼室の温度を測定する方法が提案されている。特許文献3に記載の方法では、フリュー蓋を取り外すことなく測温ができる。また、2色放射温度計は、異なる2つの波長の分光放射輝度を検出し、それらの分光放射輝度の比(2色比)が温度に応じて変化することを測定原理とする。このため、光学窓に粉塵が付着して観測する放射輝度が低下した場合や、2色放射温度計の視野の一部が光学窓から外れる「視野欠け」が生じた場合の影響を受けにくく、正確に温度を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-129484号公報
【特許文献2】特開2006-70079号公報
【特許文献3】特開2022-144765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、光学窓は屋外で晒された状態にあるため、汚れが付着する。光学窓の汚れがひどくなると、2色放射温度計が炉底部の熱放射を正しく検出できなくなることがある。2色放射温度計により燃焼室の温度を正確に測定するには、光学窓の汚れを除去すればよいが、コークス炉のすべての光学窓を清掃するのは負荷が高い。このため、適切なタイミングで光学窓の汚れを除去できることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、コークス炉の光学窓の汚れを適切に除去して、安定してコークス炉の燃焼室の温度を測定することが可能な、温度測定装置、温度測定方法、及び、温度測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定装置であって、コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、燃焼室の温度を測定する2色放射温度計と、光学窓を清掃する清掃装置と、を備え、清掃装置は、2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて算出される光学窓の透過率が閾値未満であるときに、光学窓を清掃する、温度測定装置が提供される。
【0009】
温度測定装置は、コークス炉の炉上を移動する移動装置に設置されてもよい。
【0010】
温度測定装置は、装炭車に設置されてもよい。
【0011】
清掃装置は、エア、高圧水、蒸気または粉体を吹き付ける装置であってもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定方法であって、2色放射温度計を用いて、コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、燃焼室の温度を測定する温度測定ステップと、2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて、光学窓の透過率を算出する透過率算出ステップと、算出した光学窓の透過率が閾値未満である光学窓を、清掃対象として決定する清掃対象決定ステップと、清掃対象の光学窓を清掃する清掃ステップと、を含む、温度測定方法が提供される。
【0013】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コークス炉の燃焼室の温度を測定する温度測定システムであって、コークス炉の燃焼室の上方にある観察孔に設けられた光学窓を介して取得した異なる2つの波長の分光放射輝度の比に基づいて、燃焼室の温度を測定する2色放射温度計と、光学窓を清掃する清掃装置と、清掃装置により清掃する光学窓を判定する情報処理装置と、を備え、情報処理装置は、2色放射温度計により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて、光学窓の透過率を算出し、算出した光学窓の透過率が閾値未満である光学窓を、清掃対象として決定する、温度測定システムが提供される。
【0014】
2色放射温度計及び清掃装置は、コークス炉の炉上を移動する同一または異なる移動装置に設置されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、コークス炉の光学窓の汚れを適切に除去して、安定してコークス炉の燃焼室の温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るコークス炉の概略構成を示す概略図である。
図2】同実施形態に係るコークス炉の燃焼室の温度測定方法を示す説明図である。
図3】黒体温度と2色比との一関係例を示すグラフである。
図4】2色放射温度計による温度及び放射輝度(相対値)の測定結果の一例を示す説明図である。
図5】光学窓に汚れのない状態での2色放射温度計による測温状態を示す説明図である。
図6】光学窓に粉塵が堆積した状態での2色放射温度計による測温状態を示す説明図である。
図7】光学窓にすりガラス状の汚れが固着した状態での2色放射温度計による測温状態を示す説明図である。
図8】光学窓の透過率と2色放射温度計による測定温度との一関係例を示すグラフである。
図9】光学窓の透過率の変化による測定温度の変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[1.構成]
[1-1.コークス炉]
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るコークス炉1の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係るコークス炉1の概略構成を示す概略図である。
【0019】
コークス炉1は、コークスを生成するための窯炉である。コークス炉1の炉体の上部には炭化室10と燃焼室20とが炉幅方向(Y方向)に交互に配列され、下部には蓄熱室60が設けられる。コークスは、蓄熱室60でそれぞれ予熱された燃焼ガスと燃焼用空気とを燃焼室20で燃焼させ、発生した熱によって炭化室10に装入された石炭を乾留することによって生成される。石炭を乾留して生成されたコークス(図2のコークス5)は、押出機(図示せず。)により押出機側から反対側のコークス排出側へ押し出され、炭化室10から排出される。
【0020】
各燃焼室20上方の炉頂部30には、燃焼室20内の燃焼状態を確認するための燃焼室観察孔(フリューポートともいう。以下、「観察孔」と称する。)35が鉛直方向に向かって開口しており、燃焼室20とコークス炉1上方の大気空間とをつないでいる。観察孔35は、炉長方向(X方向)に沿って複数配列されている。観察孔35の開口から燃焼室20の炎や熱風が漏れないように、各観察孔35には、観察孔35を封鎖する、取り外し可能なフリュー蓋が設けられている。そのため、フリュー蓋を開けて熱電対を燃焼室20に挿入することで、温度を測定することも可能である。
【0021】
本実施形態に係るフリュー蓋は、コークス炉1の燃焼室20内の光をコークス炉1の外部に透過させる光学窓を有する。フリュー蓋に光学窓が設けられていることにより、フリュー蓋を取り外すことなく燃焼室の温度を測定することが可能となる。光学窓には、燃焼室20の熱による破損が生じないように、例えば石英ガラスが用いられる。光学窓には、十分な強度がある厚みの円形板ガラスやロッド形状ガラスが好適である。
【0022】
[1-2.温度測定装置]
図2に基づいて、コークス炉1の燃焼室20の温度を測定する温度測定装置50について説明する。図2は、本実施形態に係る温度測定装置50の一構成例を示す説明図である。
【0023】
本実施形態に係る温度測定装置50は、炉頂部30の観察孔35に設置されたフリュー蓋40の光学窓43を介して、燃焼室20の温度を測定する際に用いられる装置である。温度測定装置50は、図2に示すように、燃焼室20の温度を測定する2色放射温度計51と、光学窓43を清掃する清掃装置53と、を備える。
【0024】
2色放射温度計51及び清掃装置53を備える温度測定装置50は、例えば図2に示すように、コークス炉1の炉上を移動する移動装置70に設けられる。移動装置70は、例えば、コークス炉1の炉上から炭化室に石炭を供給する移動機である装炭車であってもよく、温度測定装置50用の移動台車であってもよい。温度測定装置50を移動装置70に設けることにより、自動で燃焼室の温度を測定したり光学窓43を清掃したりすることが可能となり、作業者の負荷を軽減することができる。
【0025】
(2色放射温度計)
2色放射温度計51は、2つの波長で熱放射の分光放射輝度を検出し、それらの分光放射輝度の比(2色比)が温度に応じて変化することを測定原理とする温度計測装置である。
【0026】
放射測温法は、物体の温度が高くなると熱放射輝度が増大する現象を利用して、測温対象に接触することなく温度を測定する手法であり、科学分野及び工業分野において広く利用されている。ある光の波長において熱放射輝度(放射光の強度)を検出する一般的な放射温度計は、厳密には「単色放射温度計」と呼ばれる。
【0027】
これに対して、2色放射測温法は、測温対象の温度が高くなると熱放射の波長分布が変化することを利用して、測温対象に接触することなく温度を測定する手法である。2色放射測温法に基づき測温する2色放射温度計51では、2つの波長λ、λの分光放射輝度L、Lの比から測温対象の温度Tを特定する。観測される2つの波長λ、λの分光放射輝度L、Lは、黒体放射のWienの近似式により、下記式(1)、式(2)で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、τは波長λ、温度Tにおける測定対象から2色放射温度計51までの光路上の分光透過率、τは波長λ、温度Tにおける測定対象から2色放射温度計51までの光路上の分光透過率、c、cはそれぞれ黒体放射の第1定数、第2定数である。なお、一般的な放射測温においては測定対象の放射率が問題になるが、コークス炉1の燃焼室20の温度計測では、燃焼室20が均一温度の空洞であるため、波長に関係なく疑似的な黒体(放射率=1)と見なすことができる。また、波長λ、λは2色放射温度計ごとに決まった値を取る。
【0030】
2つの波長λ、λで分光透過率が等しい(すなわち、τ=τ=τ)とすると、上記式(1)と式(2)との比をとった2色比Rは、下記式(3)のように整理される。
【0031】
【数2】
【0032】
上記式(3)において、Rλ及びΛは検出波長で決まる定数であることから、2色比Rは温度Tのみの関数になる。したがって、2色比Rを取得できれば、測温対象の温度Tを特定することができる。
【0033】
図3は、λ=1350nm、λ=1550nmとして上記式(3)により計算された温度Tと2色比Rとの関係を示している。図3に示すように、2色比Rは、温度Tに対して単調に増加する。
【0034】
このように、2色放射温度計51では、熱放射輝度の強度を測定する必要はなく、2色比Rさえ取得できれば測温対象の温度Tを知ることができる。単色放射温度計の場合には、検出した熱放射輝度に基づき測温対象の温度を特定するため、観測光が弱まると測温値も低下してしまう。これに対して、観測光が弱まっても2色比Rは変化しないことから、2色放射温度計51では減光の影響を受けることなく測温できる。
【0035】
図4に、2色放射温度計51による温度(●)及び放射輝度(相対値)(○)の測定結果の一例を示す。図4は、2色放射温度計51を移動装置70の一例である装炭車に搭載し、装炭車を走行させて、1つのフリューポートを通過するときの2色放射温度計51の出力(温度及び2つの波長λ、λのうち一方の分光放射輝度(相対値))を示している。なお、測定に際しては、2色放射温度計51の分光放射輝度を観察する視野Sがフリューポートに設置されたフリュー蓋40のほぼ中心を通るように調整した。測定したコークス炉1では、フリュー蓋40の光学窓43の直径は80mmであった。
【0036】
図4に示すように、2色放射温度計51の視野Sが光学窓43上にあるときに燃焼室20内の温度が取得されている。視野Sが炉上煉瓦にあるときには、炉上煉瓦は常温のため熱放射を発していないため分光放射輝度はゼロに近い値となり、2色放射温度計51から温度は出力されない。なお、移動装置位置150mmでは、2色放射温度計51の視野Sが光学窓43の右端に一部にかかっており、視野欠けに応じて分光放射輝度は低下するが、2色放射測温法の原理から正しい温度が出力されている。
【0037】
2色放射温度計51は、2つの波長λ、λの分光放射輝度L、Lの比から測温対象の温度Tを特定すると、温度Tと、分光放射輝度L、Lのうちいずれか一方とを、測定結果として、後述する情報処理装置55へ送信する。このとき、情報処理装置55は、受信した温度Tと、分光放射輝度L、Lのうちいずれか一方とを、移動装置70の位置情報と関連付けて記憶する。これにより、測温した燃焼室20を特定することができる。
【0038】
(清掃装置)
清掃装置53は、光学窓43を清掃する装置である。清掃装置53は、光学窓43の外表面の汚れを除去することができればよく、光学窓43の清掃方法は特に限定されない。例えば、清掃装置53として、エアを吹き付けるエアブロー装置や、高圧水を吹き付ける高圧水洗浄装置、蒸気(スチーム)を吹き付けるスチーム洗浄装置、粉体を流体に混ぜて吹き付ける粉体ブラスト装置等を用いてもよい。清掃装置53は、後述する情報処理装置55によって清掃対象とされた光学窓43の外表面を清掃する。
【0039】
[1-3.情報処理装置]
情報処理装置55は、光学窓43の透過率に基づき、清掃装置53により清掃する光学窓43を決定する。情報処理装置55は、図2に示すように温度測定装置50とネットワークを介して情報の送受信が可能に設けられていてもよく、温度測定装置50とともに移動装置70に搭載されていてもよい。情報処理装置55は、2色放射温度計51及び清掃装置53を備える温度測定装置50とともに、温度測定システムを構成し得る。
【0040】
(1)光学窓の汚れによる測温誤差
本願発明者は、稼働中のコークス炉1に設置したフリュー蓋40の光学窓43について、1か月程度の期間の汚れの進行と測定温度とについて調査した。その結果、雨が降らなかった2週間は、光学窓43上に多少の粉塵が乗っていたが、燃焼室20の温度は問題なく測定できることが確認された。しかし、ひとたび降雨があると、光学窓43の外表面がすりガラス状になる汚れが見られた。このため、光学窓43越しに燃焼室20の内部が見通せなくなり、温度測定値も不正確になった。
【0041】
かかる現象について考察すると、まず、光学窓43に汚れのない状態では、図5に示すように、2色放射温度計51の視野Sが汚れによって欠けることがない。したがって、例えば燃焼室20の温度が1200℃であるとき、2色放射温度計51の測定温度は1200℃となり、正確に燃焼室20の温度を測定することができる。
【0042】
次に、乾燥した粉塵Dが光学窓43の外表面に堆積している状態では、図6に示すように、2色放射温度計51の視野Sは粉塵Dによって部分的に欠け、メッシュ状の視野欠けが生じる。視野Sが部分的に欠けるため2色放射温度計51が受光する光量は低下するが、測定する2つの波長の分光放射輝度の比(2色比R)の値に変化はない。したがって、この場合にも、例えば燃焼室20の温度が1200℃であるとき、2色放射温度計51の測定温度は1200℃となり、光学窓43の外表面に粉塵Dが堆積していても測温には影響がない。
【0043】
これに対して、降雨後に光学窓43の外表面上の雨水が乾燥すると、降雨量が多い場合は雨水に含まれる微細なダストが光学窓43の外表面を覆うように付着するため、光学窓43の外表面にすりガラス状の汚れDが固着した状態となる。すりガラス状の汚れDは、図7に示すように、2色放射温度計51の視野Sを散乱させてしまう。その結果、2色放射温度計51が測定する分光放射輝度は、燃焼室20の炉底部25の放射輝度に、散乱光による燃焼室20内の炉頂部30に近い上方部27の放射輝度が混入したものとなる。燃焼室20内の上方部27は、常温の炉頂部30に近いことから炉底部30よりも低温となっており、さらに炉底部25から炉頂部30に向かうほど温度が低下する温度勾配がある。すなわち、図7に示すような散乱性の汚れ(すりガラス状の汚れD)が光学窓43の外表面に固着した状態では、2色放射温度計51は、異なる温度部分からの放射輝度を測定してしまうため、測定温度が燃焼室20の実際の温度からずれてしまう。
【0044】
2色放射温度計51により継続的に安定して燃焼室20の温度を測定するには、光学窓43の外表面に散乱性の汚れが固着したときには、光学窓43を清掃して、図5に示すような散乱の生じない状態とすることが望ましい。しかし、光学窓43の汚れがどの程度散乱を生じさせているのかを把握するのは難しい。
【0045】
そこで、本願発明者は、降雨を模擬して図7に示すようなすりガラス状の汚れDを光学窓43の外表面に固着させ、1200℃の燃焼室20を観察する実験を行った。その結果、光学窓43の透過率がある値より低下すると、2色放射温度計51による測定温度が実際の燃焼室20の温度よりも低くなるとの知見を得た。図8に、光学窓43の透過率と2色放射温度計51による測定温度との一関係例を示す。図8に示す結果では、光学窓43の透過率が低下しても30%となるまでは2色放射測温法の測定原理が機能して正しい測温値が得られたが、光学窓43の透過率が30%よりも低下する顕著な汚れとなると2色放射温度計51による測定温度は、実際の温度よりも低くなった。
【0046】
以上の結果から、情報処理装置55により、光学窓43の透過率を算出し、光学窓43の透過率が所定の閾値未満となったときに当該光学窓43を清掃対象と判定することとした。
【0047】
(2)構成
情報処理装置55は、例えばパーソナルコンピュータ等の演算処理を行う装置であって、光学窓43の清掃の要否を判定する判定部55aと、各種情報を記憶する記憶部55bと、を有する。
【0048】
(判定部)
判定部55aは、2色放射温度計51により取得された温度と、いずれか一方の波長の分光放射輝度とに基づいて、光学窓43の透過率を算出する。上述したように、2色放射測温法の測定原理により、光学窓43はある程度汚れていても、2色放射温度計51による測定温度に大きな測定誤差は生じない。一方、分光放射輝度L、Lは、光学窓43の汚れに応じて低下する。そこで、判定部55aは、2色放射温度計51により取得される2つの分光放射輝L、Lのうちいずれか一方を用いて、光学窓43の透過率を算出する。光学窓43の透過率は、分光放射輝度L、Lのいずれを用いてもよいが、例えば値の大きい方を用いてもよい。
【0049】
例えば、分光放射輝度Lに基づく光学窓43の透過率τは、前述の式(1)を変形して、下記式(4)で表される。
【0050】
【数3】
【0051】
上記式(4)に2色放射温度計により得られる分光放射輝度L及び温度Tを代入すれば透過率τが求められる。なお、式(4)の右辺の分母は、波長λ、温度Tにおける黒体放射輝度である。温度と黒体放射輝度との関係は、式(4)の右辺の分母を計算してもよく、あるいは、テーブル化して予め記憶部55bに記録しておいてもよい。判定部55aは、例えば、2色放射温度計51が測定した波長λ、温度Tでの黒体放射輝度を、記憶部55bを参照して取得する。そして、判定部55aは、2色放射温度計51により取得された波長λの分光放射輝度Lと黒体放射輝度とに基づき、上記式(4)から光学窓43の透過率τを算出する。
【0052】
なお、分光放射輝度Lに基づく光学窓43の透過率τも、上記式(2)より、下記式(4)と同様に表される。したがって、判定部55aは、透過率τと同様に、2色放射温度計51が測定した波長λ、温度Tでの黒体放射輝度と、分光放射輝度Lとに基づき、光学窓43の透過率τを算出し得る。
【0053】
判定部55aは、光学窓43の透過率を算出すると、算出した光学窓43の透過率が閾値未満であるか否かを判定する。閾値は、2色放射温度計51の測定温度の精度が許容範囲であるか否かを判定するための指標である。例えば、閾値は、図8に示した光学窓43の透過率と2色放射温度計51による測定温度との関係を実験により取得し、2色放射温度計51の測定温度と実際の温度とのずれが許容範囲である透過率の下限値としてもよい。閾値は、予め求められており、記憶部55bに記録されている。しかし、例えば、光の波長や降雨の状況、コークス炉1の形状等により、2色放射温度計51の測定温度と実際の温度との関係は変化すると考えられるため、これらの状況に応じて適宜変更してもよい。判定部55aは、算出した光学窓43の透過率が閾値未満であるか否かを判定し、当該透過率が閾値未満であるときに当該光学窓43を清掃装置53による清掃対象とする。
【0054】
判定部55aは、清掃対象とした光学窓43を清掃する指示を、清掃装置53へ出力する。このとき、判定部55aは、清掃対象とした光学窓43に関連付けられた移動装置70の位置情報を移動装置70へ出力し、移動装置70を当該位置まで移動させる。これにより、自動的に、移動装置70を清掃対象の光学窓43の位置まで移動させ、清掃装置53により清掃することができる。
【0055】
(記憶部)
記憶部55bは、光学窓43の清掃の要否を判定するために必要な各種情報を記憶する記憶部であって、例えばROM、RAM等からなる。記憶部55bは、例えば、2色放射温度計51から受信した温度Tと、分光放射輝度L、Lのうちいずれか一方とを、移動装置70の位置情報と関連付けて記憶する。2色放射温度計51が温度T、分光放射輝度L、Lを取得したときの移動装置70の位置情報を関連付けて記憶することで、どの燃焼室20の測定結果であるかを特定することができる。また、記憶部55bは、温度と黒体放射輝度との関係や、光学窓43の清掃の要否を判定するための閾値を記憶する。
【0056】
[2.温度測定方法]
以下、本実施形態に係るコークス炉1の燃焼室20の温度を測定する温度測定方法の一例を説明する。
【0057】
(温度測定ステップ)
本実施形態に係る温度測定方法では、まず、2色放射温度計51を用いて、コークス炉1の燃焼室20の上方にある観察孔35に設けられた光学窓43を介して取得した異なる2つの波長λ、λの分光放射輝度L、Lの比に基づいて、燃焼室20の温度を測定する。例えば図2に示したように、温度測定装置50が移動装置70に設置されているとき、移動装置70は、コークス炉1の炉上を走行して、2色放射温度計51により各燃焼室20の温度Tを順に測定する。このとき、2色放射温度計51は、分光放射輝度L、Lも取得する。
【0058】
2色放射温度計51は、取得した燃焼室20の温度Tと、分光放射輝度L、Lのうち少なくともいずれか一方を、情報処理装置55へ送信する。このとき、2色放射温度計51が温度T、分光放射輝度L、Lを取得したときの移動装置70の位置情報も、合わせて情報処理装置55へ送信される。なお、情報処理装置55への燃焼室20の温度T、分光放射輝度L、L及び移動装置70の位置情報は、燃焼室20を測温する毎に送信してもよく、一時的に保持しておき、複数の燃焼室20について測温した後にまとめて送信してもよい。
【0059】
(透過率算出ステップ)
次いで、情報処理装置55は、判定部55aにより、2色放射温度計51により取得されたいずれか一方の波長の分光放射輝度L、Lと黒体基準輝度とに基づいて、光学窓43の透過率を算出する。判定部55aは、例えば、2色放射温度計51が測定した波長λ、温度Tでの黒体放射輝度を、記憶部55bを参照して取得する。そして、判定部55aは、2色放射温度計51により取得された波長λの分光放射輝度Lと黒体放射輝度とに基づき、上記式(4)から光学窓43の透過率τを算出する。
【0060】
(清掃対象決定ステップ)
そして、情報処理装置55は、判定部55aにより、算出した光学窓43の透過率が閾値未満である光学窓を、清掃対象として決定する。判定部55aは、算出した光学窓43の透過率が閾値未満であるか否かを判定し、当該透過率が閾値未満であるときに当該光学窓43を清掃装置53による清掃対象とする。
【0061】
透過率算出ステップ及び清掃対象決定ステップは、温度測定ステップにて取得された燃焼室20の温度T、分光放射輝度L、L及び移動装置70の位置情報を受信する度に実施してもよい。あるいは、複数の燃焼室20について受信した温度T、分光放射輝度L、L及び移動装置70の位置情報を記憶部55bに記憶しておき、その後任意のタイミングで透過率算出ステップ及び清掃対象決定ステップを実施してもよい。
【0062】
(清掃ステップ)
その後、清掃装置53により、清掃対象の光学窓43を清掃する。判定部55aは、清掃対象決定ステップにて清掃対象とした光学窓43を清掃する指示を、清掃装置53へ出力する。また、判定部55aは、清掃対象とした光学窓43に関連付けられた移動装置70の位置情報を移動装置70へ出力する。これにより、移動装置70は、清掃装置53を清掃対象の光学窓43が設置されている観察孔35まで移動させ、移動完了後、清掃装置53は、光学窓43に例えばスチームを吹き付ける等して、光学窓43を清掃する。清掃対象の光学窓43が複数ある場合には、移動装置70による移動と、清掃装置53による清掃とを繰り返し行う。このように、自動的に、移動装置70を清掃対象の光学窓43の位置まで移動させ、清掃装置53により清掃することができる。
【0063】
以上、本実施形態に係る温度測定方法について説明した。本実施形態に係る温度測定方法によれば、2色放射温度計を用いて、炉上の燃焼室観察孔に設けられた光学窓を介して、燃焼室の温度を測定する。これにより、フリュー蓋を観察孔から取り外すことなく燃焼室の測温が可能となり、人手による測温作業を効率的に行うことができる。この結果、より多くの測温箇所あるいは頻度の高い測温が可能になり、コークス炉の操業の安定化を図ることができる。また、2色放射温度計を用いることで、視野欠けが生じたり、光学窓に汚れにより燃焼室から出射される放射光が低下したりしても、正確な温度測定を実現することができる。
【0064】
さらに、2色放射温度計の測定結果を用いて光学窓の透過率の低下を確認し、透過率が閾値未満の光学窓を清掃する。これにより、降雨後に雨水に含まれる粉塵が固着して透過性が著しく低下した光学窓が清掃され、その透過率が改善されるため、高精度に安定して燃焼室の温度を測定することができる。また、測温に影響を与えるような散乱性の汚れは、降雨後等、不定期または不規則に生じる。本実施形態に係る温度測定方法によれば、光学窓の清掃のタイミングを評価することができるため、すべての光学窓を定期的に清掃する必要もない。
【0065】
図9に、光学窓の透過率の変化による測定温度の変化の一例を示す。ここでは、十分に清浄な光学窓(透過率τ=95%)をフリュー蓋に取り付けて経時的に汚れを成長させた。透過率τが50%の時点では、2色放射温度計による燃焼室の測定温度に変化は見られなかったが、透過率が10%まで低下すると2色放射温度計による燃焼室の測定温度は実際より明らかに低くなった。その後、光学窓を清掃すると、光学窓の透過率は90%にまで回復した。このときの2色放射温度計による燃焼室の測定温度は、光学窓が汚れる前の測定温度に戻った。このように、本実施形態に係る温度測定方法によれば、高精度に安定して燃焼室の測定温度を測定することができる
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、2色放射温度計と清掃装置とは、図2に示すように同一の移動装置に設置したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、2色放射温度計は装炭車に設置し、清掃装置は専用の移動装置に設置する等、異なる移動装置に設置してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 コークス炉
5 コークス
10 炭化室
20 燃焼室
25 炉底部
27 上方部
30 炉頂部
35 観察孔(フリューポート)
40 フリュー蓋
43 光学窓
50 温度測定装置
51 2色放射温度計
53 清掃装置
55 情報処理装置
55a 判定部
55b 記憶部
60 蓄熱室
70 移動装置
S 視野
汚れ(粉塵)
汚れ(すりガラス状)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9