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特開2024-130906可撓性冷媒輸送ホース、それを用いた宇宙機用液浸冷却ネットワークシステムおよびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130906
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】可撓性冷媒輸送ホース、それを用いた宇宙機用液浸冷却ネットワークシステムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 1/20 20060101AFI20240920BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
G06F1/20 C
H05K7/20 M
G06F1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040862
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】新谷 勇介
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 孝太
(72)【発明者】
【氏名】持田 則彦
【テーマコード(参考)】
5E322
【Fターム(参考)】
5E322AA09
5E322AA11
5E322AB10
5E322AB11
5E322DA01
5E322DA02
5E322DA03
5E322DA04
5E322EA11
5E322FA01
(57)【要約】
【課題】レイアウト設計および省スペース化が容易となる宇宙機用液浸冷却ネットワーク用の可撓性冷媒輸送ホースを提供する。
【解決手段】宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムにおける可撓性冷媒輸送ホース201であって、液浸冷却ネットワークシステムの第1ノードN1と接続する第1接続部202と、第2ノードN2と接続する第2接続部203と、第1接続部と第2接続部との間で冷媒が流動する可撓性ホース200と、可撓性ホースの少なくとも一カ所に内蔵された強制流動生成部Pと、を含み、強制流動生成部Pの駆動により第1ノードと第2ノードとの間で冷媒を一方向に強制的に流動させる。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムにおいて冷媒を輸送するホースであって、
前記液浸冷却ネットワークシステムの第1ノードと接続する第1接続部と、
前記液浸冷却ネットワークシステムの第2ノードと接続する第2接続部と、
前記第1接続部と前記第2接続部との間で冷媒が流動する可撓性ホースと、
前記可撓性ホースの少なくとも一カ所に内蔵された強制流動生成部と、
を含み、前記強制流動生成部の駆動により前記第1ノードと前記第2ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させることを特徴とする可撓性冷媒輸送ホース。
【請求項2】
前記強制流動生成部が、前記冷媒を一方向に強制的に流動させる軸流ポンプと、前記軸流ポンプを前記可撓性ホースに支持する支持構造と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の可撓性冷媒輸送ホース。
【請求項3】
前記軸流ポンプがモータと前記モータにより回転する回転翼とを含み、前記支持構造が前記モータを支持する支持翼と一体形成されて排熱パスを構成していることを特徴とする請求項2に記載の可撓性冷媒輸送ホース。
【請求項4】
宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムであって、
前記電子機器を液浸冷却する圧力容器を含む複数のノードと、
前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、
前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように各ノードに流れる冷媒の流量を調整する制御部と、
を含み、
前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つが可撓性冷媒輸送ホースであり、前記可撓性冷媒輸送ホースが第1ノードと第2ノードとの間を接続し、前記第1ノードと前記第2ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵した、ことを特徴とする液浸冷却ネットワークシステム。
【請求項5】
前記複数のノードの各々は、冷媒を熱交換するラジエータ、内部に電子機器を配置し冷媒により液浸冷却を行う圧力容器、および冷媒の流量を調整する制御バルブのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
【請求項6】
前記制御部が、少なくとも前記強制流動生成部の出力を制御することを特徴とする請求項5に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
【請求項7】
前記制御部が、前記制御バルブを制御して異なる圧力容器間あるいは前記ラジエータと前記複数の圧力容器との間の冷媒の流量を調整することを特徴とする請求項5に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
【請求項8】
複数の圧力容器のうち少なくとも1つの圧力容器に配置された電子機器が前記制御部を含み、前記複数の圧力容器の各々の温度を監視し、各圧力容器の温度が所望範囲内に維持されるように前記制御バルブの冷媒分配量および前記強制流動生成部の冷媒流動量の少なくとも一方を制御する、ことを特徴とする請求項6または7に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
【請求項9】
電子機器を液浸冷却する圧力容器と異なる圧力容器への冷媒流量を調整する制御バルブとを含む複数のノードと、前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように冷媒の流量を調整する制御部と、を含み、前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つ可撓性冷媒輸送ホースが冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵する液浸冷却ネットワークシステムの制御方法であって、
前記制御部が、
各圧力容器の温度および流量と前記可撓性冷媒輸送ホースの流量を監視し、
一つの圧力容器の流量が所定値を超えると、当該圧力容器の流量を減少させるように前記強制流動生成部の冷媒流動量を制御し、
前記異なる圧力容器の各々の温度に応じて前記制御バルブの流量と前記強制流動生成器の冷媒流動量とを制御する、
ことを特徴とする液浸冷却ネットワークシステムの制御方法。
【請求項10】
第1圧力容器の温度が第1所定値を超えており、第2圧力容器の温度が第2所定値以下である場合、前記第1圧力容器の流量が前記第2圧力容器の流量より大きくなるように前記制御バルブを制御し、
前記第1圧力容器の温度が前記第1所定値を超えており、前記第2圧力容器の温度が前記第2所定値を超えている場合、前記第1圧力容器および前記第2圧力容器に冷媒を供給する側の前記強制流動生成部の出力を上昇させて冷媒の流量を増大させる、
ことを特徴とする請求項9に記載の液浸冷却ネットワークシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は宇宙機に搭載された電子機器を液浸冷却する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星等の宇宙機に搭載される電子機器、特にCPU(中央処理装置)あるいはプロセッサ等を含む計算機は、将来的には消費電力が300W以上に達すると予想されている。このために宇宙機搭載用の計算機が発生する熱をどのように効率的に排熱するかは極めて重要な課題である。
【0003】
一般的な排熱方式としては、たとえば特許文献1に記載された冷却装置がある。それによれば、冷却流体をポンプにより沸騰部と液化部との間で循環させ、水を減圧状態にて沸騰させ、その際の水の大きな蒸発潜熱を利用して発熱源である半導体装置を冷却する。
【0004】
また特許文献2によれば、発熱体から冷媒に吸熱する吸熱器と吸熱した冷媒を放熱させる放熱器とを冷媒移送管で接続し、冷媒移送管に設けられた冷媒ポンプで冷媒を移送する冷却装置が開示されている。
【0005】
他の冷却方式として、近年、コンピュータ等の電子機器自体を冷媒槽内に浸して冷却する液浸冷却が注目されている。たとえば特許文献3には、ポンプにより冷媒を移動させる液浸冷却装置が開示されており、電子部品からの熱を冷媒の対流および沸騰により効率的に放熱する例が記載されている。
【0006】
さらに宇宙機に搭載された排熱システムとしては、特許文献4にポンプ式排熱システムが開示されている。このポンプ式排熱システムでは、ポンプ、蒸発器および凝縮器が配管を介して3次元的に連結されている。液相状態の冷媒はポンプにより配管を通して強制的に循環する。すなわち、ポンプから吐出された冷媒は蒸発器で気化して気液二相流になり、二相流になった冷媒が凝縮器で排熱され液化してポンプに戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-190928号公報
【特許文献2】特開2005-019906号公報
【特許文献3】米国特許第9750159B2号明細書
【特許文献4】特開2021-097179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1-4に開示された冷却システムは、いずれも冷媒を循環させる冷媒輸送管について具体的に開示していない。したがって、一般的にはステンレス管のような高い強度と耐久性を有する配管を採用していると考えられる。このような配管では熱輸送ネットワークの設計自由度が著しく限定され自由なレイアウト設計が困難となる。
【0009】
また、上記特許文献1-4に開示された冷却システムでは冷媒を強制循環させるポンプを別個に設ける必要がある。すなわち設計段階でポンプを設置するスペースを確保しなければならない。一般に、宇宙機では限られたスペースに多くの機器を搭載する必要がある。このために、設計自由度が低い上にポンプの設置スペースを確保する必要がある上記冷却システムは宇宙機への搭載に適していない。
【0010】
また、特許文献1、2および4に開示された冷却システムでは、冷媒が蒸発器/吸熱器と凝縮器/放熱器との間で循環させて電子機器を冷却するものであり、間接的に発熱体を冷却していることから、高い排熱効率を得ることが困難である。
【0011】
また特許文献3に記載された液浸冷却装置は、地上での通常使用を前提とした冷却方式である。このために、たとえばロケットで打ち上げる時の大きな振動や無重力環境での使用を想定していない。特に無重力の宇宙空間では冷媒の対流が起こらないために、沸騰時の気泡が放熱フィンから剥離せずドライアウト現象が発生する。また、電子機器を浸す第1冷媒を流す手段と、その第1冷媒を冷却するための第2冷媒を流す手段と、を必要とするために構造および製造工程が複雑化する。
【0012】
さらに、特許文献1-4に記載の発熱源としての電子機器は、民生用が想定されており過酷な環境での使用を想定していない。したがって、温度、圧力、振動等が通常範囲外の環境で使用される場合には、耐環境性強化(ラギダイズ)技術が不可欠である。このような耐環境性が強化された電子機器の効率的な冷却システムはどの特許文献にも記載されていない。
【0013】
本発明の第1の目的は、レイアウト設計および省スペース化が容易となる宇宙機用液浸冷却ネットワーク用の可撓性冷媒輸送ホースを提供することにある。
【0014】
本発明の第2の目的は、耐環境性が強化され、高い冷却効率を得ることができ、かつレイアウト設計および省スペース化が容易である宇宙機用液浸冷却ネットワークシステムおよびその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムにおいて冷媒を輸送するホースであって、前記液浸冷却ネットワークシステムの第1ノードと接続する第1接続部と、前記液浸冷却ネットワークシステムの第2ノードと接続する第2接続部と、前記第1接続部と前記第2接続部との間で冷媒が流動する可撓性ホースと、前記可撓性ホースの少なくとも一カ所に内蔵された強制流動生成部と、を含み、前記強制流動生成部の駆動により前記第1ノードと前記第2ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させることを特徴とする。
本発明の一態様によれば、宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムであって、前記電子機器を液浸冷却する圧力容器を含む複数のノードと、前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように各ノードに流れる冷媒の流量を調整する制御部と、を含み、前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つが可撓性冷媒輸送ホースであり、前記可撓性冷媒輸送ホースが第1ノードと第2ノードとの間を接続し、前記第1ノードと前記第2ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵したことを特徴とする。
本発明の一態様によれば、電子機器を液浸冷却する圧力容器と異なる圧力容器への冷媒流量を調整する制御バルブとを含む複数のノードと、前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように冷媒の流量を調整する制御部と、を含み、前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つ可撓性冷媒輸送ホースが冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵する液浸冷却ネットワークシステムの制御方法であって、前記制御部が、各圧力容器の温度および流量と前記可撓性冷媒輸送ホースの流量を監視し、一つの圧力容器の流量が所定値を超えると、当該圧力容器の流量を減少させるように前記強制流動生成部の冷媒流動量を制御し、前記異なる圧力容器の各々の温度に応じて前記制御バルブの流量と前記強制流動生成器の冷媒流動量とを制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明による可撓性冷媒輸送ホースによればレイアウト設計および省スペース化が容易となる。さらに本発明による可撓性冷媒輸送ホースを採用することで、耐環境性が強化され、高い冷却効率を得ることができ、かつレイアウト設計および省スペース化が容易な宇宙機用液浸冷却ネットワークシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明の一実施形態による液浸冷却ネットワークシステムの模式的構成図である。
図2図2は本発明の一実施形態による可撓性冷媒輸送ホースの模式的構成図である。
図3図3は本実施形態による可撓性冷媒輸送ホースにおける軸流ポンプ部の一構成例を示す模式的断面構成図である。
図4図4図3に示す軸流ポンプ部のA-A線構成図である。
図5図5は本実施形態による可撓性冷媒輸送ホースにおける軸流ポンプ部の他の構成例を示す模式的断面構成図である。
図6図6は本実施形態における圧力容器(ノード)の概略的構成を示す斜視図である。
図7図7は本実施形態における熱輸送ネットワークの一例を示す接続図である。
図8図8は本実施形態における熱輸送ネットワークおよびバルブ・ポンプ制御系を示すブロック構成図である。
図9図9は本実施形態による液浸冷却ネットワークシステムの制御方法を例示するフローチャートである。
図10図10は本実施形態における圧力容器の一例を模式的に示す側面断面図である。
図11図11図10に示す圧力容器のI-I線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態の概要>
本発明の実施形態による可撓性冷媒輸送ホースは、強制流動生成部として軸流ポンプを内蔵し、液浸冷却ネットワークシステムの可撓性ホースのなかの強制流動生成ホースとして機能する。すなわち軸流ポンプが駆動することにより、電子機器を冷却する冷媒が可撓性冷媒輸送ホースを通して一方向に強制的に流動し、液浸冷却ネットワークシステムの熱輸送ネットワークでの冷媒循環を生成する。このように強制流動生成部を内蔵した可撓性冷媒輸送ホースを採用することで、設計時のレイアウトの自由度が高くなる。さらに冷媒を強制循環させるポンプを別個に設ける必要がないので省スペースで効率的な電子機器の液浸冷却が可能となる。
【0019】
軸流ポンプは支持構造により可撓性ホースに支持される。支持構造は冷媒を通過させる支持翼を含み、支持構造の熱伝導によって排熱パスが構成される。この排熱パスにより軸流ポンプのモータで発生する熱を効率的に排出できる。
【0020】
液浸冷却ネットワークシステムにおいて、熱輸送ネットワークは、複数のノード(複数の圧力容器、制御バルブおよびラジエータ)と、これらのノードを接続する可撓性ホースおよび可撓性冷媒輸送ホースとから構成される。制御バルブは異なる圧力容器へのそれぞれの冷媒流量を変更可能である。したがって、可撓性冷媒輸送ホースの軸流ポンプの出力と制御バルブの流量比とを制御することにより、各圧力容器の冷媒流量を調整することができ、各圧力容器内の温度あるいは圧力を所定範囲内に維持することが容易となる。
【0021】
さらに各圧力容器の温度および流量を監視し、流量が所定値を超えた時に圧力容器の流量を減少させるように制御バルブを調整し、その後、異なる圧力容器の各々の温度に応じて制御バルブの冷媒分配量および前記強制流動生成器の冷媒流動量の少なくとも一方を制御することで、冷媒に浸漬された電子機器を効率的かつ精度良く冷却することが可能となる。
【0022】
電子機器は圧力容器内で液体の冷媒に浸漬されるので、圧力容器壁および冷媒により耐環境性が強化され、かつ液浸により電子機器の効率的な冷却が可能である。さらに、複数の圧力容器を可撓性ホースおよび軸流ポンプを内蔵した可撓性冷媒輸送ホースにより接続するので、宇宙機内の限られたスペースであっても多くの電子機器を比較的自由にレイアウトすることが可能となる。これにより、宇宙機内で、耐環境性が強化され、高い冷却効率を得ることができ、かつレイアウト設計および省スペース化が容易となる冷却システムを構築できる。
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素、その形状、寸法および寸法の比率、並びに配置は本実施形態を説明するための例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0024】
1.システム構成
図1に例示するように、宇宙機である衛星100には、宇宙空間に排熱するためのラジエータ101と、各種ミッション機器102aおよび102bとが搭載されているものとする。ラジエータ101は複数のラジエータを含んでもよい。また、衛星100内の主要なコンピュータ等の電子機器は液浸冷却用の圧力容器G1~G3内の冷媒に浸漬されている。各圧力容器Giには冷媒入口ILと冷媒出口OLとが設けられている(iは1以上の任意の整数であるが、ここではi=1,2または3)。
【0025】
図1に示す例において、熱輸送ネットワークは、複数のネットワーク要素(ノードという。)と、ノード間を接続する可撓性ホースあるいは可撓性冷媒輸送ホースから構成される。可撓性ホースおよび可撓性冷媒輸送ホースは高真空用ホースからなり、その両端に着脱可能に連結するための水密コネクタが設けられている。
【0026】
なお、図1では、ノードは圧力容器G1~G3、ラジエータ101、制御バルブVL1およびVL2のいずれかである。また、ここでは2本の可撓性冷媒輸送ホース201aおよび201bが設けられ、可撓性冷媒輸送ホース201aには強制流動生成部としての軸流ポンプP1が、可撓性冷媒輸送ホース201bには強制流動生成部としての軸流ポンプP2がそれぞれ内蔵されているものとする。
【0027】
熱輸送ネットワークは各圧力容器で効率的に液浸冷却が実行されるように構成されていればよい。ラジエータ101で熱交換された冷媒が各圧力容器へ流入し、各圧力容器から流出した冷媒がラジエータ101へ戻るように構成される。本実施形態では、衛星全体の制御を行う電子機器(OBC:On Board Computer)が圧力容器G3に設けられている。OBCは各圧力容器の温度あるいは圧力を監視し、軸流ポンプ(P1、P2)の出力および制御バルブ(VL1、VL2)の流量比を制御する。こうして冷却が必要な圧力容器へ必要な量の冷媒を供給することができる。詳細は後述する。
【0028】
図1において、可撓性冷媒輸送ホース201aは軸流ポンプP1によりラジエータ101aの冷媒出口ROから制御バルブVL1へ冷媒を流動させる。制御バルブVL1は可撓性冷媒輸送ホース201aから流入した冷媒を制御された流量比で圧力容器G1とG3の間で分配する。制御バルブVL1から圧力容器G1の冷媒入口ILへ流入した冷媒は、圧力容器G1の電子機器を液浸冷却し冷媒出口OLから制御バルブVL2へ流出する。制御バルブVL1から圧力容器G3の冷媒入口ILへ流入した冷媒は、圧力容器G3の電子機器を液浸冷却し冷媒出口OLからラジエータ101aの冷媒入口RIへ流入する。
【0029】
可撓性冷媒輸送ホース201bは軸流ポンプP2によりラジエータ101bの冷媒出口ROから圧力容器G2へ冷媒を流動させる。可撓性冷媒輸送ホース201bから圧力容器G2の冷媒入口ILに流入した冷媒は、圧力容器G2の電子機器を液浸冷却して冷媒出口OLから制御バルブVL2へ流出する。制御バルブVL2は圧力容器G1およびG2から制御された流量比で流入した冷媒をラジエータ101bの冷媒入口RIへ流出させる。
【0030】
本実施形態では、ミッション機器102aと接続する電子機器(ミッションエッジ)が圧力容器G1に、ミッション機器102bと接続する電子機器(ミッションエッジ)が圧力容器G2に、衛星全体の制御を行う電子機器(OBC)が圧力容器G3に、それぞれ内蔵されているものとする。各圧力容器の電子機器は衛星内ネットワークNETを通して他の圧力容器の電子機器あるいはミッション機器102a、102bと通信可能である。さらに後述するように、圧力容器G3のOBCは、衛星内ネットワークNETを通して制御バルブVL1、VL2のそれぞれの流量比を制御し、電源ラインPL1およびPL2を通して軸流ポンプP1およびP2のそれぞれの出力を制御する。
【0031】
2.可撓性冷媒輸送ホース(軸流ポンプ付き可撓性ホース)
可撓性冷媒輸送ホース201aおよび201bは同一の構成を有するので、以下これらを「可撓性冷媒輸送ホース201」と記し、可撓性冷媒輸送ホースの構造について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図2に例示するように、本実施形態による可撓性冷媒輸送ホース201は両端に水密継ぎ手202および203を有し、水密継ぎ手202および203の間が可撓性ホース200により連結され、その途中に軸流ポンプPが内蔵されている。可撓性ホース200は高真空用ホースからなり、たとえば金属フレキシブルホースを使用できる。水密継ぎ手202および203はそれぞれをノードN1およびN2に着脱可能に連結するための水密継ぎ手である。上述したようにノードN1およびN2の各々は圧力容器、ラジエータまたは制御バルブのいずれかである。
【0033】
軸流ポンプPはノードN1からノードN2へ向かう方向(あるいはその逆方向に)冷媒を強制的に流動させることができる。軸流ポンプPはポンプ制御部204により制御される。すなわちポンプ制御部204は電源205のパワーを制御することで軸流ポンプPの出力(流量および流動方向)を制御することができる。なお、軸流ポンプPを反転させて流動方向を切り替えることは電気系統あるいは熱交換系統の障害を解消する契機となる可能性がある。以下、軸流ポンプPの設置例について図3~5を参照しながら説明する。
【0034】
<第1例>
図3および図4において、可撓性ホース200の長手方向をZ軸、Z軸に直交する平面をXY平面とする。この例ではZ軸の正方向(矢印F方向)が冷媒の流動方向である。
【0035】
軸流ポンプPは冷媒流動方向をZ軸に一致させて可撓性ホース200内に設けられる。図4に例示されるように、軸流ポンプPはモータ301とモータ301の回転軸301aに取り付けられた回転翼302とを有し、回転軸301aが可撓性ホース200のZ軸方向の中心線に一致する。モータ301は、回転軸301aに固定されたロータ301bと、ロータ301bの周囲に配置されたステータ301cとを有する。
【0036】
モータ301はモータ円筒ケース303内に固定配置される。円筒ケース303は支持翼304によりポンプ円筒ケース305に固定され、ポンプ円筒ケース305の外周が可撓性ホース200の内壁に固定される。すなわち、円筒ケース303、支持翼304およびポンプ円筒ケース305は一体となって支持構造を構成し、モータ301を可撓性ホース200の中心に固定配置する。円筒ケース303、支持翼304およびポンプ円筒ケース305は熱伝導率の良い材料で一体成形されることが望ましい。これにより良好な排熱パスが形成され、モータ301での発熱が流動する冷媒に効率的に排出される。
【0037】
なお、固体熱伝導の観点からは支持構造のXY平面上の断面は太く、Z方向の長さを長くする方が望ましい。反対に冷媒への対流熱伝導および可撓性ホース200内の圧力損失の観点からは支持構造の断面は細くして冷媒が通る断面積を広げ、Z方向の長さを短くした方が望ましい。したがって、支持構造の断面形状および寸法は、軸流ポンプPに求められる熱輸送能力、モータ301の発熱量等のパラメータから決定される。
【0038】
図4に例示されるように、支持翼304は圧力損失が均等に分布するようにXY平面上で対称形に形成される。たとえば十字形の4枚の支持翼304を一組として、それを排熱および圧力損失の両方の観点から望ましい組数だけ対称に配置することができる。図4の例では、2組の十字形、計8枚の支持翼304が放射状に形成されている。なお、放射状に形成された複数の支持翼304は、回転翼302により生成された冷媒の流れをZ方向に整流する機能を有するように形成することもできる。
【0039】
モータ301の電源入力端子は可撓性ホース200に設けられた電気端子306を通して電源ラインPLに接続され、電源ラインPLは圧力容器G3内のOBCにより制御される電源バッテリに接続されている。また、軸流ポンプPが内蔵された可撓性ホース200の部分は衛星100内の主構造103に接手金具307により固定されている。
【0040】
このように軸流ポンプPが構成されることで、モータ301が駆動され回転翼302が回転すると可撓性ホース200内の冷媒がたとえば矢印F方向に強制的に流動する。モータ301の回転速度および回転方向は、たとえば圧力容器G3に設けられた圧力容器G3内のOBCにより制御することができる。
【0041】
<第2例>
上述した第1例では軸流ポンプPが可撓性ホース200の内側に挿入されたが、それに限定されるものではない。図5に例示するように、軸流ポンプと可撓性ホース200とを連結することで軸流ポンプPを内蔵することもできる。
【0042】
図5において、軸流ポンプPの第2例は、図3および図4に例示した第1例と同様の構成を有するが、軸流ポンプの径が可撓性ホース200の径より大きい点が異なっている。以下、第1例と同様の構成要素には同一の参照番号の末尾に「a」を付加して区別するものとする。
【0043】
図5に例示する軸流ポンプPは、モータ301aとモータ301aの回転軸301aに取り付けられた回転翼302aとを有し、回転軸301aが可撓性ホース200のZ軸方向の中心線に一致する。モータ301aはモータ円筒ケース303a内に固定配置される。円筒ケース303aは支持翼304aによりポンプ円筒ケース305aに固定され、ポンプ円筒ケース305aの両端が可撓性ホース200に水密連結される。すなわち、円筒ケース303a、支持翼304aおよびポンプ円筒ケース305aは一体となって支持構造を構成し、モータ301aを可撓性ホース200の中心に固定配置する。円筒ケース303a、支持翼304aおよびポンプ円筒ケース305aは、第1例と同様に熱伝導率の良い材料で一体成形されることが望ましい。
【0044】
ポンプ円筒ケース305aは、上述した第1例のポンプ円筒ケース305よりも大きい径を有し、それに応じて大きい回転翼302aを設け、高出力のモータ301aを搭載可能となる。これ以外の構成および機能は第1例と同様であるから同一の参照番号を付して説明は省略する。
【0045】
3.圧力容器(液浸冷却用)
以下、図1における圧力容器G1~G3の各々を「圧力容器G」と記し、圧力容器Gの構造について図6を参照しながら説明する。
【0046】
図6に例示するように、液浸冷却用の圧力容器Gは、密閉された円筒状の容器本体401からなり、容器本体401の底面に蓋402が固定され、圧力容器内部に冷媒403が密封される。蓋402には冷媒が容器内部へ流入する冷媒入口ILと外部へ流出する冷媒出口OLが設けられている。圧力容器Gの内部には蓋402に固定された支持部404が設けられ、支持部404に電子機器405が固定されている。したがって、冷媒は冷媒入口ILから流入し、電子機器405の上を流動して熱あるいは気泡を移動させ、冷媒出口OLから外部へ流出する。
【0047】
また蓋402には、衛星内ネットワークNETに接続するための端子406および407が設けられる。電子機器405は、複数の端子(406および407)を通して他の圧力容器内の電子機器あるいはミッション機器と通信可能である。本実施形態において、衛星内ネットワークNETは光ファイバからなる光ネットワークであるが、これに限定されない。たとえば電気信号により通信を行うローカルエリアネットワークであってもよい。あるいは端子406が光ネットワーク用の光端子、端子407がローカルエリアネットワーク用あるいは電源用の電気端子であってもよい。
【0048】
なお、冷媒403は電気絶縁性および熱伝導性を有する液体であって、特に中性子線を減速遮蔽するために水素原子を含むことが望ましい。このような冷媒403として、たとえば代替フロンやポリエステル等の液体を用いることができる。
【0049】
4.熱輸送ネットワークと流動制御系
次に、図7を参照して、可撓性ホース200および軸流ポンプPを内蔵した可撓性冷媒輸送ホース201を利用した熱輸送ネットワークについて説明する。
【0050】
図7は熱輸送ネットワークの一部を模式的に例示する。ここでは、2つの圧力容器GiおよびGj、1入力2出力の制御バルブVL、それらと接続する可撓性ホース200aおよび200b、軸流ポンプPを内蔵した可撓性冷媒輸送ホース201が記載されている。これらの可撓性ホースの各々は高真空用ホースからなり、その両端に着脱可能に連結するための水密継ぎ手が設けられている。以下、i、j、k、nは1以上の任意の整数であり、任意の圧力容器、制御バルブあるいは軸流ポンプを示すためのサフィックスとして用いるものとする。
【0051】
軸流ポンプPを設けた可撓性冷媒輸送ホース201は両端に継ぎ手202および203を有し、継ぎ手202がラジエータ101の冷媒出口ROに連結され、継ぎ手203が制御バルブVLの冷媒入口に連結される。可撓性ホース200aも同様に両端に水密継ぎ手を有し、これらが制御バルブVLの第1の冷媒出口および圧力容器Gjの冷媒入口ILにそれぞれ連結される。同様に、可撓性ホース200bも同様に両端に水密継ぎ手を有し、制御バルブVLの第2の冷媒出口および圧力容器Giの冷媒入口ILにそれぞれ連結される。なお、各可撓性ホースの両端に設けられた継ぎ手は、温度、圧力および真空環境に対する耐性を有する必要がある。
【0052】
こうしてラジエータ101から流出した冷媒は軸流ポンプPにより矢印方向に流動する。制御バルブVLは圧力容器GiおよびGjへそれぞれ制御された量の冷媒を供給することができる。軸流ポンプPおよび制御バルブVLの流量制御については後述する。
【0053】
なお、圧力容器Gの個数、ミッション機器の個数、および制御バルブVLの分配態様は図1および図7に限定されない。以下、一般化された熱輸送ネットワークおよび流量制御系について図8に示す。
【0054】
図8に例示するように、熱輸送ネットワーク110は、k個の圧力容器G1~Gkおよびラジエータ101と、n個の制御バルブVL1~VLnおよび軸流ポンプP1~Pnとから構成されているものとする。ここでは、圧力容器G1,G2およびGiの電子機器がミッション機器102a、102bおよび102cにそれぞれ接続されているものとする。さらに圧力容器Gkの電子機器が制御バルブVLおよび軸流ポンプPを制御する計算機を有し、制御部410およびバルブ・ポンプ制御部411が実装されているものとする。
【0055】
軸流ポンプP1はラジエータ101からの冷媒を制御バルブVL1へ供給する。制御バルブVL1は冷媒を圧力容器G1およびG2の間で分配し、制御された量の冷媒をそれぞれ供給する。同様に軸流ポンプPnはラジエータ101からの冷媒を制御バルブVLnへ供給する。制御バルブVLnは圧力容器Gi、GjおよびGkの間で制御された量の冷媒をそれぞれ供給する。各圧力容器から流出した冷媒は図示しない経路を通してラジエータ101に戻る。なお、各制御バルブVLの冷媒分配数は、1入力2出力あるいは1入力2出力に限定されず、1入力m(>3)出力であってもよいし、複数入力複数出力であってもよい。
【0056】
各圧力容器Gは容器内の温度Tおよび圧力Prを測定するセンサを有する。圧力容器Gnの制御部410は各圧力容器の測定値を衛星内ネットワークNETを通して収集する。制御部410は各圧力容器Gの温度Tを監視し、各圧力容器の温度に応じてバルブ・ポンプ制御部411を制御し、特に温度が高くなっている圧力容器により多くの冷媒を供給するように制御する。
【0057】
より詳しくは、たとえば制御バルブVLnに接続された圧力容器Gxの温度が所定値を超え、おなじ制御バルブVLnに接続された圧力容器Gi、Gjの温度が所定値より低い場合、当該圧力容器Gxへの冷媒の流量を増加させるように、対応する軸流ポンプPnおよび制御バルブVLnを制御する。すなわちバルブ・ポンプ制御部411は、軸流ポンプPnの出力を上昇させて制御バルブVLnへの冷媒供給量を増大させ、さらに制御バルブVLnの分流比を制御して圧力容器Gxへの冷媒流量を増加させる。
【0058】
また主な可撓性ホース200の冷媒流量、各制御バルブおよび各圧力容器Gの冷媒流入量あるいは流出量を流量計Fsで計測する。なお、ここでいう冷媒の流量、流入量あるいは流出量とは単位時間あたりの流量である(以下同じ。)。冷媒流量に応じて対応する軸流ポンプPおよび/または制御バルブVLを制御することもできる。たとえば制御バルブVL1の冷媒流入量あるいは流出量が所定値を超えた場合、バルブ・ポンプ制御部411は圧力容器G1およびG2の温度あるいは圧力が問題なければ、対応する軸流ポンプP1の出力を低下させる。それでも冷媒流量が所定値以下に低下しない場合には、何らかの原因で慣性流が生じているものと判断し、制御バルブVL1を慣性流が収まるまで一時的の閉じてもよい。
【0059】
5.熱輸送ネットワークの流量制御
上述したように、本実施形態によれば、熱輸送ネットワーク110は液浸冷却用の圧力容器Gとラジエータ101との間を流れる冷媒の流量を制御あるいは遮断することができ、これらの間の熱的な相互作用を制御することができる。以下、熱輸送ネットワークの制御方法の一例を図9を参照しながら説明する。
【0060】
なお、以下に述べる冷媒流量制御は、図8に示す制御部410およびバルブ制御部411によって実行される。制御部410およびバルブ制御部411は圧力容器Gkの内部に配置された電子機器であるプロセッサ(あるいはCPU)に実装される。プロセッサは、図示しないメモリに格納されたプログラムを実行することで制御部210およびバルブ制御部211の機能を実現することができる。
【0061】
図9に例示するように、制御部410は、複数の圧力容器G1-Gkにそれぞれ設定された許容温度範囲および許容流量範囲と、各可撓性冷媒輸送ホース201および主要な可撓性ホース200にそれぞれ設定された許容流量範囲とに従って熱輸送ネットワーク110の流量制御を行う。
【0062】
まず、制御部410は各ネットワーク要素の温度および流量を収集する(動作S501)。以下、異なる任意のネットワーク要素(ここでは圧力容器および可撓性冷媒輸送ホース)をi、jで表記するものとする。制御部410は収集した流量(i)が所定閾値Fth(i)を超えているか否かを判断する(動作S502)。流量(i)が所定閾値Fth(i)を超えていると(動作S502のYES)、バルブ・ポンプ制御部411は対応する軸流ポンプPの出力を低下させて流量を低減させる(動作S503)。
【0063】
動作S503により流量が所定閾値Fth(i)以下になれば(動作S502のNO)、制御部410は圧力容器Giの温度がそれぞれの所定閾値Tth(i)を超えているか否かを判断する(動作S504)。圧力容器Giの温度が所定閾値Tth(i)を超えていれば(動作S504のYES)、制御部410は当該圧力容器Giと制御バルブVLを共有する近隣の圧力容器Gjの温度が所定閾値Tth(j)を超えているか否かを判断する(動作S505)。
【0064】
圧力容器Gjの温度が所定閾値Tth(j)以下であれば(動作S505のNO)、バルブ・ポンプ制御部411は圧力容器GiとGjとが共有する制御バルブを制御し、圧力容器Giの流量を圧力容器Gjの流量より増大させる(動作S506)。圧力容器Gjの温度が所定閾値Tth(j)を超えていれば(動作S505のYES)、バルブ・ポンプ制御部411は、圧力容器GiおよびGjに対応する軸流ポンプの出力を上昇させ、それらの圧力容器へ共有する制御バルブを通して供給される冷媒流量を増大させる(動作S507)。
【0065】
圧力容器Giの温度が所定閾値Tth(i)以下であれば(動作S504のNO)、制御部410は全ての圧力容器の温度が最低閾値Tmin以下であるか否かを判断する(動作S508)。最低閾値Tminは圧力容器G1-Gkの中で最も低い温度の閾値Tth以下の値に設定される。全ての圧力容器の温度が最低閾値Tmin以下であれば(動作S508のNO)、バルブ・ポンプ制御部411はラジエータ101を通る全ての制御バルブを閉じてラジエータ101を遮断する(動作S509)。
【0066】
以上の動作S501~S504および動作S509およびS509が所定時間間隔で繰り返され、すくなくとも1つの圧力容器の温度がその所定閾値Tthを超えた状態になれば(動作S504のYES)、制御部410およびバルブ・ポンプ制御部411は上記動作S501~S507を繰り返す。なお、動作S503の軸流ポンプの出力低減によっても流量が所定閾値Fth(i)以下にならない場合には、軸流ポンプの出力を超える慣性流が生じていると判断し、対応する制御バルブを閉じる制御を行うこともできる。
【0067】
なお、図8に示す例において、ラジエータ101で冷却された冷媒は軸流ポンプP1~Pnにより制御バルブVL1~VLnおよび圧力容器G1~Gkからなる熱輸送ネットワーク110へ供給され、ラジエータ101へ戻る。すなわち冷媒の循環方向は一定である。
【0068】
これに対して、上述したように軸流ポンプPは反転させることができる。したがって制御部410が何らかの障害を発見したときに、バルブ・ポンプ制御部411により冷媒の循環方向を逆転させ、障害からの復旧を図ることも可能である。
【0069】
6.圧力容器の他の例
以下、本実施形態において用いられる液浸冷却用の圧力容器の他の例を図10および図11を参照しながら説明する。図6に例示した圧力容器では、1つの蓋402に冷媒入口および冷媒出口と信号端子406および407とが設けられていたが、これに限定されない。以下の例では、容器本体の一方の蓋に冷媒入口および冷媒出口が設けられ、他方の蓋に信号端子が設けられている。
【0070】
図10および図11において、液浸冷却装置は圧力容器600および熱輸送ネットワーク700からなる。圧力容器600は、円筒形状の容器本体601と、容器本体601の対向する開口面にそれぞれ設けられた分離可能な第1の蓋610および第2の蓋620とからなり、圧力容器内部に冷媒630が密封される。第1の蓋610および第2の蓋620はボルト等の複数の接合部材602により容器本体601の両側の開口面に気密接合される。ここでは、第1の蓋610が冷媒系用に、第2の蓋620が電気系用に使用されるものとする。
【0071】
容器本体601の両端中央部には取付フランジ603および604がそれぞれ設けられ、取付フランジ603および604を取付部材として後述するプレート640が固定される。また、容器本体601の両開口端は外側へ突出したフランジ605および606が設けられ、これらフランジを用いてそれぞれ第1の蓋610および第2の蓋620が接合される。
【0072】
第1の蓋610は、冷媒630が流出する冷媒出口611と、熱輸送ネットワーク700を通して温度調整された冷媒630が流入する冷媒入口612とを有する。さらに冷媒出口611と冷媒入口612との間であって冷媒出口611に近い位置に圧力容器600内の圧力および温度を検出するセンサ613が設けられている。また、第1の蓋610には、圧力・温度センサ613と冷媒入口612との間の位置に、容器本体601の取付フランジ603と接触するように内側に突出したフランジ614が設けられている。したがって、フランジ614と取付フランジ603とは圧力容器600の第1の蓋610側の上下(図10の紙面上下)を仕切る仕切り壁を構成する(図11参照)。これにより冷媒入口612から流入した冷媒630が圧力・温度センサ613および冷媒出口611へ直接流れることを防止できる。また第1の蓋610の開口部には外側に突出したフランジ615が設けられ、接合部材602により容器本体601のフランジ605と接合される。
【0073】
第2の蓋620は外部との信号の送受信および電力供給のための電気端子であるハーメチック端子621をほぼ中央部に有する。ハーメチック端子621は冷媒630内のケーブル622を通してコネクタ623と接続され、コネクタ623が回路基板641に設けられたコネクタ642と接続する。また第2の蓋620の開口部には外側に突出したフランジ624が設けられ、接合部材602により容器本体601のフランジ606と接合される。
【0074】
圧力容器600内にはプレート640が取付部材としての取付フランジ603および604により両端を支持されて固定される。プレート640の冷媒出口611側の表面には回路基板641が固定され、冷媒入口612側の表面には放熱フィン643が固定されている。回路基板641の第2の蓋620側の端にはコネクタ642が設けられ、上述したようにコネクタ623およびケーブル622を通してハーメチック端子621に接続される。従ってハーメチック端子621を衛星内ネットワークNETに接続することで、回路基板641と外部との間の信号送受信および電力供給が可能となる。回路基板641は半導体集積回路からなる電子機器6あり、OBC等のコンピュータを含む。
【0075】
熱輸送ネットワーク700は、圧力容器600の冷媒出口611に連結された可撓性ホース200と、制御バルブVLと、冷媒入口312に連結された軸流ポンプPを内蔵した可撓性冷媒輸送ホース201と、冷媒を冷却するラジエータ101となる放熱板701と、からなる。上述したように可撓性冷媒輸送ホース201の軸流ポンプPを駆動することで、圧力容器600内の冷媒630が冷媒出口611から制御バルブVLおよび可撓性ホース200を通して流れ、冷媒の熱が放熱板701により外部へ排出される。
【0076】
こうして排熱された冷媒が軸流ポンプPを通して冷媒入口612から圧力容器600内に流入し、放熱フィン643および回路基板641上を流動して冷却する。その際、放熱フィン643および回路基板641の発熱により冷媒630が気化し気泡BBが生じても、軸流ポンプPにより冷媒630が強制的に流動しているので気泡BBは冷媒630と共に流れ、圧力容器600の内壁近傍で凝縮して液体に戻る。こうして冷媒630は圧力容器600の内部と熱輸送ネットワーク700とを通して循環する。
【0077】
なお、図10に示すように、上述した圧力容器600は脚部601および602により衛星等の搭載パネル702に固定される。また上述したように可撓性冷媒輸送ホース201、可撓性ホース200、制御バルブVLおよび放熱板701も振動等で外れないように支持部材(図示せず)により搭載パネル702に固定される。このように圧力容器600、放熱板701および制御バルブVLが固定されていても、可撓性ホース200および可撓性冷媒輸送ホース201により熱輸送ネットワークの設計自由度が向上する。
【0078】
なお、冷媒630は電気絶縁性および熱伝導性を有する液体であって、特に中性子線を減速遮蔽するために水素原子を含むことが望ましい。このような冷媒630として、たとえば代替フロンやポリエステル等の液体を用いることができる。圧力容器600全体を60℃以下に温度制御している場合、冷媒630の沸点はたとえば76℃程度である。
【0079】
上述したように、図10および図11に例示する圧力容器600において、容器内の電子機器である回路基板641の周囲は流動する冷媒630で満たされるので効率的な冷却が可能となる。また回路基板641が圧力容器600および冷媒630で囲まれるので、大きな振動や宇宙のような過酷な環境に対する耐環境性が強化される。
【0080】
また可撓性ホース200および可撓性冷媒輸送ホース201により熱輸送ネットワーク700を構成するので、圧力容器600、制御バルブVLおよび放熱板701の配置を比較的自由に設計することができる。
【0081】
さらに圧力容器600は、容器本体601、第1の蓋(冷媒系用)および第2の蓋(電気系用)の3つに分割される。このように2つの蓋を冷媒系用と電気系用に分けることで、容器の機械的構成の設計と、熱制御系の設計と、電気系の設計とをそれぞれ分割することができ、液浸冷却装置としての最適解が導出しやすくなる。
【0082】
圧力容器600内に搭載する回路基板641の支持剛性については、容器本体601の両側に専用の取付フランジ603および604を設け、それぞれ回路基板を載せたプレート640の両端を固定する。これにより、たとえばロケットの打上げ時の振動耐性要求を満たす支持剛性を確保することができる。
【0083】
以上、本発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0084】
7.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムにおいて冷媒を輸送するホースであって、
前記液浸冷却ネットワークシステムの第1ノードと接続する第1接続部と、
前記液浸冷却ネットワークシステムの第2ノードと接続する第2接続部と、
前記第1接続部と前記第2接続部との間で冷媒が流動する可撓性ホースと、
前記可撓性ホースの少なくとも一カ所に内蔵された強制流動生成部と、
を含み、前記強制流動生成部の駆動により前記第1ノードと前記ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させることを特徴とする可撓性冷媒輸送ホース。
(付記2)
前記強制流動生成部が、前記冷媒を一方向に強制的に流動させる軸流ポンプと、前記軸流ポンプを前記可撓性ホースに支持する支持構造と、を含むことを特徴とする付記1に記載の可撓性冷媒輸送ホース。
(付記3)
前記軸流ポンプがモータと前記モータにより回転する回転翼とを含み、前記支持構造が前記モータを支持する支持翼と一体形成されて排熱パスを構成していることを特徴とする付記2に記載の可撓性冷媒輸送ホース。
(付記4)
宇宙機に搭載される電子機器を液浸冷却する液浸冷却ネットワークシステムであって、
前記電子機器を液浸冷却する圧力容器を含む複数のノードと、
前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、
前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように各ノードに流れる冷媒の流量を調整する制御部と、
を含み、
前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つが可撓性冷媒輸送ホースであり、前記可撓性冷媒輸送ホースが第1ノードと第2ノードとの間を接続し、前記第1ノードと前記第2ノードとの間で前記冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵した、ことを特徴とする液浸冷却ネットワークシステム。
(付記5)
前記強制流動生成部が、前記冷媒を一方向に強制的に流動させる軸流ポンプと、前記軸流ポンプを前記可撓性ホース内に支持する支持構造と、を含むことを特徴とする付記4に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記6)
前記軸流ポンプがモータと前記モータにより回転する回転翼とを含み、前記支持構造が前記モータを支持する支持翼と一体形成されて排熱パスを構成していることを特徴とする付記5に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記7)
前記複数のノードの各々は、冷媒を熱交換するラジエータ、内部に電子機器を配置し冷媒により液浸冷却を行う圧力容器、および冷媒の流量を調整する制御バルブのいずれかであることを特徴とする付記4-6のいずれか1項に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記8)
前記制御部が、少なくとも前記強制流動生成部の出力を制御することを特徴とする付記7に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記9)
前記制御部が、前記制御バルブを制御して異なる圧力容器間あるいは前記ラジエータと前記複数の圧力容器との間の冷媒の流量を調整することを特徴とする付記7に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記10)
複数の圧力容器のうち少なくとも1つの圧力容器に配置された電子機器が前記制御部を含み、前記複数の圧力容器の各々の温度を監視し、各圧力容器の温度が所望範囲内に維持されるように前記制御バルブの冷媒分配量および前記強制流動生成部の冷媒流動量の少なくとも一方を制御する、ことを特徴とする付記8または9に記載の液浸冷却ネットワークシステム。
(付記11)
電子機器を液浸冷却する圧力容器と異なる圧力容器への冷媒流量を調整する制御バルブとを含む複数のノードと、前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように冷媒の流量を調整する制御部と、を含み、前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つ可撓性冷媒輸送ホースが冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵する液浸冷却ネットワークシステムの制御方法であって、
前記制御部が、
各圧力容器の温度および流量と前記可撓性冷媒輸送ホースの流量を監視し、
一つの圧力容器の流量が所定値を超えると、当該圧力容器の流量を減少させるように前記強制流動生成部の冷媒流動量を制御し、
前記異なる圧力容器の各々の温度に応じて前記制御バルブの流量と前記強制流動生成器の冷媒流動量とを制御する、
ことを特徴とする液浸冷却ネットワークシステムの制御方法。
(付記12)
第1圧力容器の温度が第1所定値を超えており、第2圧力容器の温度が第2所定値以下である場合、前記第1圧力容器の流量が前記第2圧力容器の流量より大きくなるように前記制御バルブを制御し、
前記第1圧力容器の温度が前記第1所定値を超えており、前記第2圧力容器の温度が前記第2所定値を超えている場合、前記第1圧力容器および前記第2圧力容器に冷媒を供給する側の前記強制流動生成部の出力を上昇させて冷媒の流量を増大させる、
ことを特徴とする付記11に記載の液浸冷却ネットワークシステムの制御方法。
(付記13)
電子機器を液浸冷却する圧力容器と異なる圧力容器への冷媒流量を調整する制御バルブとを含む複数のノードと、前記複数のノードを接続して冷媒を循環させる複数の可撓性ホースと、前記圧力容器の内部状態を所望範囲内に維持するように冷媒の流量を調整する制御部と、を含み、前記複数の可撓性ホースに含まれる少なくとも1つ可撓性冷媒輸送ホースが冷媒を一方向に強制的に流動させる強制流動生成部を内蔵する液浸冷却ネットワークシステムにおける前記制御部としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
各圧力容器の温度および流量と前記可撓性冷媒輸送ホースの流量を監視する機能と、
一つの圧力容器の流量が所定値を超えると、当該圧力容器の流量を減少させるように前記強制流動生成部の冷媒流動量を制御する機能と、
前記異なる圧力容器の各々の温度に応じて前記制御バルブの流量と前記強制流動生成器の冷媒流動量とを制御する機能と、
を前記コンピュータに実現することを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は極寒/極暑地域や宇宙空間のような過酷な環境において使用される計算機等の電子機器を冷却するシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
100 衛星
101,101a、101b ラジエータ
102a、102b ミッション機器
103 主構造
G、G1-Gk 圧力容器
OL-OL 冷媒出口
IL-IL 冷媒入口
NET 衛星内ネットワーク
PL1、PL2 電源ライン
RO、RO ラジエータの冷媒出口
RI、RI ラジエータの冷媒入口
200 可撓性ホース
201 可撓性冷媒輸送ホース
202、203 継ぎ手
204 ポンプ制御部
205 電源
N1、N2 ノード
P 軸流ポンプ
301 モータ
301a 回転軸
301b ロータ
301c ステータ
302 回転翼
303 円筒ケース
304 支持翼
305 ポンプ円筒ケース
306 電気端子
307 接手金具


図1
図2
図3
図4
図5
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図11