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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130912
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】生体信号計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/33 20210101AFI20240920BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20240920BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20240920BHJP
   A61B 5/361 20210101ALI20240920BHJP
   A61B 5/353 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B5/33 200
A61B5/352 100
A61B5/02 310A
A61B5/361
A61B5/353
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040870
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 光明
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昌之
(72)【発明者】
【氏名】王 タンニー
(72)【発明者】
【氏名】木村(石田) ゆい
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】川端 康大
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AA19
4C017AB01
4C017AC26
4C017BC17
4C017BC21
4C017BD06
4C017EE15
4C127AA02
4C127BB03
4C127BB05
4C127GG05
4C127GG16
4C127LL13
(57)【要約】
【課題】日常生活の中でも心房細動などの循環器疾患の診断に有用なデータを計測することが可能な技術を提供する。
【解決手段】ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置が、前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するECGセンサと、前記ユーザーの脈波を計測する脈波センサと、前記ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサにより得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得する情報処理部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置であって、
前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するECGセンサと、
前記ユーザーの脈波を計測する脈波センサと、
前記ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサにより得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得する情報処理部と、を有する、
生体信号計測装置。
【請求項2】
前記心電波形の異常に関する情報は、P波の有無に関する情報を含み、
前記情報処理部は、常時計測される前記ECG信号及び前記脈波の時系列データから取得された前記心拍変動に関する情報と前記P波の有無に関する情報に基づいて、心房細動の発生を検出する、
請求項1に記載の生体信号計測装置。
【請求項3】
前記情報処理部は、所定の計測期間における心房細動の検出結果に基づいて心房細動に関する指標を生成し、記録又は出力する、
請求項2に記載の生体信号計測装置。
【請求項4】
前記心房細動に関する指標は、前記所定の計測期間における最長の心房細動持続時間、前記所定の計測期間における心房細動発生回数、及び、前記所定の計測期間における心房細動の累積時間の少なくともいずれかを含む、
請求項3に記載の生体信号計測装置。
【請求項5】
前記情報処理部は、前記ECG信号の時系列データから前記心電波形の異常に関する情報を取得し、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得する、
請求項1に記載の生体信号計測装置。
【請求項6】
前記情報処理部は、
前記ECG信号の信号品質の良否を判定するECG信号品質判定部と前記脈波の信号品質の良否を判定する脈波信号品質判定を有し、
前記ECG信号の信号品質が良好と判定されている期間は、前記ECG信号の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得し、
前記ECG信号の信号品質が不良と判定されている期間は、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得する、
請求項1~請求項5のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項7】
乾式の電極と、
前記電極を前記ユーザーの体肢に押し当てた状態で固定する部材と、を有しており、
前記ECGセンサは、前記部材によって固定された前記電極によりECG信号を計測する、
請求項1~請求項5のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項8】
前記脈波センサは、PPG(Photoplethysmography)センサである、
請求項7に記載の生体信号計測装置。
【請求項9】
ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置の制御方法であって、
ECGセンサにより、前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するステップと、
脈波センサにより、前記ユーザーの脈波を計測するステップと、
前記ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサにより得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得するステップと、を有する、
生体信号計測装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号を常時計測する生体信号計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動(Atrial Fibrillation;AF)は、不整脈の一種であり、洞結節以外の場所から発生する異常な電気信号によって心房が小刻みに痙攣し、脈(心拍間隔)が不規則になる病気である。心房細動は、動悸や息切れを招き日常生活に支障をきたすだけでなく、脳梗塞や心不全などの重篤な病気を引き起こす可能性もあるため、心房細動の早期発見及び適切な治療が望まれる。
【0003】
心房細動の診断は、通常、心電図(Electrocardiogram;ECG)により心拍間隔の乱れを評価することにより行われる。また、発作性心房細動のように心房細動がいつ発生するか予測できない場合には、短時間の心電図検査では発見・診断が困難であるため、24時間ホルター心電計による長時間心電図が利用されることが一般的である。24時間ホルター心電計とは、胸の数か所に導電性粘着ゲルで電極を貼り付け、日常生活の中で心電図を常時計測し記録することが可能な携帯型の心電計である。特許文献1では、24時間ホルター心電計により計測された長時間心電図データに基づいて、R-R間隔(心電図のR波と次のR波の間隔)を2次元散布図にプロットし、その分布にみられる特徴から発作性心房細動の有無を判別する、というアイデアが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-16248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発作性心房細動の正確な診断には長時間心電図の利用が欠かせない。また最近は、AF
burden(心房細動負担)と呼ばれる指標が認知されはじめ、長時間心電図から、心房細動の最長の持続時間、一日の発作回数、心房細動の累積時間などを評価することの重要性が高まっている。
【0006】
そこで本発明者らは、長時間心電図の計測を手軽に行えるようにするために、ユーザーの腕や手首、あるいは脚などの体肢部分に装着するタイプの心電計(以下「体肢式心電計」と称する。)の開発を進めている。しかしながら、体肢式心電計は、ホルター心電計と比較して、筋電ノイズの影響を受けやすいという課題がある。心電図は、心臓が拍動するときに発生する微弱な電気信号(ECG信号)を皮膚表面に固定した電極により計測するという原理であるため、体動により発生する筋電信号はノイズとなる。ホルター心電計は主に胸に電極が装着されるために体動の影響を受けにくいのに対し、体肢式心電計が装着される部位(腕、手首、脚など)は動きが大きいため、日中など活動時には筋電ノイズの混入が避けられない。しかも、ホルター心電計と比べて体肢式心電計は心臓から電極までの距離が遠くなるため、ECG信号の電位の減衰も大きく、SN比の悪化を招きやすい。したがって、体肢式心電計により心電図を24時間計測できたとしても、日中(活動時間帯)のデータは心房細動の診断にほとんど利用できない可能性もある。
【0007】
一方、Apple Watch(登録商標)のように、PPG(Photoplethysmography)センサによって心房細動を検出可能であることを謳う製品も登場している。PPGセンサは、血流量の変化を光学的に計測することで脈波を測定するとい
う原理であるため、筋電ノイズの影響を受けないという点で心電計より有利かもしれない。しかしながら、厳密には、PPGセンサで得られる脈波データからは心房細動の正確な判定はできない。なぜなら、心房細動の診断には、心房が洞結節からの電気信号にしたがって動作しているかそれ以外の異常な電気信号にしたがって動作しているかの判断が必須であり、その判断のための手がかりとして、P波(心房の興奮を示す波)が形成されているか消失しているかの確認が必要となるからである。脈波データにはP波の情報が含まれていないため、脈波データからは、不整脈(頻脈や不規則な脈)が生じていることは判るものの、その不整脈が、心房細動によるものか、他の病気(例えば期外収縮)によるものかを区別することができない。
【0008】
ここまで心房細動を例に挙げたが、例えば、虚血性心疾患、心室性期外収縮などの循環器疾患の場合も同様の問題が生じる。すなわち、体肢式心電計では筋電ノイズの影響により安定した計測や診断が難しく、また、脈波データからは心電波形をとらえることができないため循環器疾患の正確な判断を行うことができない。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、日常生活の中でも心房細動などの循環器疾患の診断に有用なデータを計測することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置であって、前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するECGセンサと、前記ユーザーの脈波を計測する脈波センサと、前記ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサにより得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得する情報処理部と、を有する、生体信号計測装置を含む。
【0011】
前記心電波形の異常に関する情報は、P波の有無に関する情報を含んでもよい。前記情報処理部は、常時計測される前記ECG信号及び前記脈波の時系列データから取得された前記心拍変動に関する情報と前記P波の有無に関する情報に基づいて、心房細動の発生を検出してもよい。
【0012】
前記情報処理部は、所定の計測期間における心房細動の検出結果に基づいて心房細動に関する指標を生成し、記録又は出力してもよい。
【0013】
前記心房細動に関する指標は、前記所定の計測期間における最長の心房細動持続時間、前記所定の計測期間における心房細動発生回数、及び、前記所定の計測期間における心房細動の累積時間の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0014】
前記情報処理部は、前記ECG信号の時系列データから前記心電波形の異常に関する情報を取得し、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得してもよい。
【0015】
前記情報処理部は、前記ECG信号の信号品質の良否を判定するECG信号品質判定部と前記脈波の信号品質の良否を判定する脈波信号品質判定を有し、前記ECG信号の信号品質が良好と判定されている期間は、前記ECG信号の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得し、前記ECG信号の信号品質が不良と判定されている期間は、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得してもよい。
【0016】
乾式の電極と、前記電極を前記ユーザーの体肢に押し当てた状態で固定する部材と、を有しており、前記ECGセンサは、前記部材によって固定された前記電極によりECG信
号を計測してもよい。
【0017】
前記脈波センサは、PPG(Photoplethysmography)センサであってもよい。
【0018】
本開示は、ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置の制御方法であって、ECGセンサにより、前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するステップと、脈波センサにより、前記ユーザーの脈波を計測するステップと、前記ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサにより得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得するステップと、を有する、生体信号計測装置の制御方法を含む。
【0019】
本発明は、上記構成の少なくとも一部を有する生体信号計測装置として捉えてもよいし、生体信号としてECG信号を計測する心電計測装置として捉えてもよい。あるいは、心房細動検出装置や心房細動記録装置や心房細動監視装置として捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む制御方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記構成および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、日常生活の中でも心房細動などの循環器疾患の診断に有用なデータを計測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は生体信号計測装置を上腕に装着した様子を示す図である。
図2図2は生体信号計測装置の平面図である。
図3図3は生体信号計測装置の斜視図である。
図4図4は第1実施形態における生体信号計測装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は第1実施形態における計測処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は電極ペアとECG信号の例を示す図である。
図7図7はECG信号の波形と心拍情報を説明する図である。
図8図8はPPG信号の計測原理を説明する図である。
図9図9はPPG信号の波形の例を示す図である。
図10図10は第2実施形態における生体信号計測装置の機能構成を示すブロック図である。
図11図11は第2実施形態における計測処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<適用例>
図1を参照して、本発明の適用例の一つについて説明する。
【0023】
生体信号計測装置1は、体肢に装着して使用される携帯型の計測デバイスであり、ECG信号(心電信号)や心房細動などの循環器疾患の24時間モニタリングが可能である。生体信号計測装置1は、ECG信号を計測するECGセンサと脈波を計測する脈波センサとを備えている。
【0024】
計測時には、ユーザー自らがバンド10を計測部位に巻き付けて生体信号計測装置1を
装着する。バンド10を装着する計測部位としては、上肢(上腕、前腕、手首、手、指)、下肢(大腿、下腿、足首、足、指)、などを例示でき、計測する生体信号の種類や計測アルゴリズムなどに応じて適宜選択される。
【0025】
前述したように、循環器疾患の正確な診断のためには長時間心電図が必要であるが、体動が大きいときは、筋電ノイズの混入によるSN比が低下し、安定した計測や診断が困難となる。他方、脈波センサの計測データは体動の影響を受け難いが、循環器疾患の正確な判断ができない。
【0026】
そこで、生体信号計測装置1は、ECGセンサにより得られたECG信号の時系列データと脈波センサにより得られた脈波の時系列データとを組み合わせて、循環器疾患の診断に必要な情報(例えば、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報)を取得する、という構成を採用する。一つの方法として、『心電波形の異常に関する情報はECG信号の時系列データから取得し、心拍変動に関する情報は脈波の時系列データから取得する』ようにしてもよい。あるいは別の方法として、『心電波形の異常に関する情報はECG信号の時系列データから取得し、心拍変動に関する情報については、ECG信号の品質が良好な場合(体動が小さくSN比が高い場合)はECG信号の時系列データから取得し、そうでない場合(体動が大きくECG信号のSN比が低い場合)は脈波の時系列データから取得する』というように動的に切り替えてもよい。あるいは別の方法として、『ECG信号の時系列データと脈波の時系列データの両方を入力すると心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報の両方を出力する』ように機械学習された学習済みモデルを用いてもよい。このように、ECGセンサの計測データと脈波センサの計測データとを相互補完的に利用することにより、体動の有無にかかわらず、循環器疾患の診断に必要な信頼性の高い情報の常時モニタリングや循環器疾患に関する指標(例えば、心房細動に関する指標であるAF burden)の記録が可能となる。
【0027】
生体信号計測装置1が心房細動の検出を行う場合、ECG信号の時系列データから、心電波形の異常に関する情報として、P波の有無に関する情報を取得してもよい。例えば、虚血性心疾患の検出を行う場合であれば、ECG信号の時系列データから、心電波形の異常に関する情報として、STの上昇や低下、Q波の異常などを取得してもよい。また例えば、心室性期外収縮の検出を行う場合であれば、ECG信号の時系列データから、心電波形の異常に関する情報として、QRS波の異常を取得してもよい。
【0028】
以下では、本発明の一実施形態として、本発明を心房細動の診断に適用した場合の具体的な構成例を説明する。
【0029】
<第1実施形態>
【0030】
(装置構成)
図1図3を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は生体信号計測装置1を上腕に装着した様子を示す図であり、図2は生体信号計測装置1の平面図、図3は生体信号計測装置1の斜視図である。
【0031】
本実施形態の生体信号計測装置1は、ユーザーの上腕(好ましくは心臓に近い左上腕)に装着され、生体信号としてのECG(Electrocardiogram)信号(心電信号)を計測するために用いられる上腕心電デバイスである。
【0032】
生体信号計測装置1は、主な構成として、バンド10と、バンド10に固定された複数の電極11と、バンド10に固定された制御本体12と、を有している。複数の電極11と制御本体12に内蔵された処理回路によってECGセンサ14が構成されている。また
、制御本体12には脈波センサ15が内蔵されている。
【0033】
バンド10は、電極11を生体に押し当てた状態で固定するための部材(固定部材)である。本実施形態では、可撓性及び柔軟性のある材料(例えば化学繊維、シリコン、皮革など)からなる帯状のバンド10が用いられる。バンド10の長手方向端部には固定機構13が設けられている。図1及び図3に示すようにバンド10をループ状にし、固定機構13で留めることにより、生体信号計測装置1を上腕に装着することができる。固定機構13は、面ファスナ、フック、コネクタ、ボタン、マグネットなどどのようなものでもよい。
【0034】
複数の電極11(電極アレイとも呼ばれる)は、生体との接触面がバンド10の内側(生体側)に露出するようにして、バンド10に埋め込み固定されている。複数の電極11は、バンド10の長手方向に一列に等間隔で配置されている。これにより、バンド10を腕に巻き付けたときに、腕の周囲の異なる位置に電極11が接触する。電極11の数は任意に設計できる。ECG信号を計測する目的であれば、少なくとも2つの電極11(1組の電極ペア)があればよく、計測の信頼性やロバスト性を高めるために3つ以上の電極11を設けてもよい。本実施形態では、6個の電極11(3組の電極ペア)を設ける構成を採用している。
【0035】
電極11は、乾式の金属電極である。湿式の電極(ゲル電極など)は、長時間装着していると皮膚かぶれや痒みを生じる可能性がある、耐久性やメンテナンス性が低い、などの問題があるのに対し、乾式の電極11はそのような問題がない。本実施形態の生体信号計測装置1は、長時間装着し続け、ECG信号を24時間モニタリングすることを想定しているため、乾式の電極11であることが好ましい。
【0036】
制御本体12は、生体信号計測装置1の制御や信号処理を行う処理ユニットである。制御本体12は、例えば、樹脂や金属からなるケースの内部に、プロセッサ、メモリ、バッテリ、その他の回路が実装された構造を有する。制御本体12には、物理スイッチ及びディスプレイが設けられていてもよい。図示しないが、制御本体12と複数の電極11の間は信号線を介して接続されている。
【0037】
(機能構成)
図4は、生体信号計測装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0038】
生体信号計測装置1は、ECGセンサ14と脈波センサ15と情報処理部16を有している。ECGセンサ14は、ECG信号を計測するセンサであり、概略、複数の電極11とECG計測部20から構成される。ECG計測部20は、電極ペアの間の電位差を差動アンプにより増幅し、ECG信号として出力する回路である。脈波センサ15は、脈波を計測するセンサであり、本実施形態ではPPGセンサが用いられる。脈波センサ15は、概略、光を照射するための発光素子150と、反射光を検出し光電変換する光検出器151と、反射光強度をPPG信号として出力するPPG計測部30から構成される。発光素子150としては、可視光又は赤外光を照射するLEDなどが用いられ、光検出器151としては、フォトダイオード又はフォトトランジスタなどが用いられる。
【0039】
情報処理部16は、ECG信号の計測に関する構成として、ECG信号処理部21及びECG心拍情報算出部22を有する。ECG信号処理部21は、ECG信号のAD変換及びフィルタ処理を行う部分であり、ECG信号をAD変換するAD変換部210と、ECG信号から電磁ノイズを除去してSN比を高める電磁ノイズ除去部211と、ECG信号の基線変動(低周波の変動)を除去する基線変動除去部212を有する。ECG心拍情報算出部22は、ECG信号から各種の心拍情報を抽出する部分であり、R波検出部220
、RRI算出部221、心拍変動算出部222、P波検出部223を有する。
【0040】
情報処理部16は、PPG信号の計測に関する構成として、PPG信号処理部31及びPPG心拍情報算出部32を有する。PPG信号処理部31は、PPG信号のAD変換及びフィルタ処理を行う部分であり、PPG信号をAD変換するAD変換部310と、PPG信号からノイズを除去してSN比を高めるバンドパスフィルタ部311とを有する。PPG心拍情報算出部32は、PPG信号から各種の心拍情報を抽出する部分であり、脈動間隔算出部320、心拍変動算出部321を有する。
【0041】
情報処理部16は、さらに、AF判定部24、記憶部25、通信部26を有する。AF判定部24は、ECG信号から得られた情報とPPG信号から得られた情報に基づいて心房細動(AF)の発生を検出したり、AFに関する指標を算出したりする部分である。記憶部25は、計測ないし算出されたデータを記憶する不揮発性のメモリである。通信部26は、外部機器(例えば、ユーザーのスマートフォン、他の健康機器、ホームサーバーなど)と無線によるデータ通信を行う部分である。図示しないが、情報処理部16は、物理ボタンやタッチパネルディスプレイなどで構成される操作部を備えてもよい。
【0042】
(計測処理)
図5図9を参照して、生体信号計測装置1による計測処理について説明する。図5は計測処理の流れを示すフローチャートであり、図6は電極ペアとECG信号の例を示す図であり、図7はECG信号の波形と心拍情報を説明する図であり、図8はPPG信号の計測原理を説明する図であり、図9はPPG信号の波形の一例を示す図である。
【0043】
ユーザーがバンド10を上腕に巻き付け、固定機構13でバンド10を留めた後、計測開始を指示する操作を行うと、制御本体12のプロセッサが図5の計測処理を開始する。生体信号計測装置1では、ECG信号の計測処理(ステップS100~S102)とPPG信号の計測処理(ステップS110~S112)が並列に実行され、それらの処理で取得された情報を用いてAF判定処理(ステップS120~S121)が実行される。以下、それら3つの処理について順に説明する。
【0044】
(1)ECG信号の計測処理
ステップS100では、ECG計測部20により、3組の電極ペアを用いて3チャネルのECG信号が計測される。具体的には、計測に使用する電極ペア(2つの電極11)が選択され、選択された電極ペアの間の電位差が差動アンプにより増幅されて、ECG信号(アナログ電圧信号)として取り込まれる。選択する電極ペアを順に切り替えることにより、3チャネルのECG信号が取り込まれる。
【0045】
本実施形態では、図6に示すように、バンド10が上腕に巻き付けられた状態のときにちょうど対向する2つの電極11同士がペアとなるように、3組の電極ペアが設定されている。ペアとなる2つの電極11の間を離すほうが、より大きい電位差(つまり、SN比の高いECG信号)を計測し得るからである。ただし、電極ペアの設定の仕方はこれに限られない。例えば、マルチプレクサを用いて、ペアとなる電極11の組み合わせを自由に切り替えられるようにしてもよい。この場合、6つの電極11から4チャネル以上のECG信号を計測することも可能である。
【0046】
取り込まれたECG信号は、ECG信号処理部21によってAD変換され、デジタル信号処理によって電磁ノイズ及び基線変動の除去が行われる。電磁ノイズ及び基線変動の除去には、例えば、バンドパスフィルタ、ノッチフィルタ、移動平均などの公知のノイズ低減手法を用いることができる。
【0047】
ステップS101では、ECG心拍情報算出部22が、取り込まれたECG信号を解析し各種の心拍情報を算出する。ECG心拍情報算出部22は、ECG信号処理部21から所定の単位時間分のECG信号の時系列データ(波形データ)が取り込まれると、ステップS101の処理を実行する。単位時間は、例えば、10秒~600秒程度の時間に設定すればよく、本実施形態では60秒に設定されている。
【0048】
図7に模式的に示すように、ECG信号の1心拍の波形は、主に、P波、QRS波、T波からなる。なお、QRS波は、上向きのピークであるR波とその前後に現れる下向きのQ波及びS波を合わせた波形を指している。正常な心臓では、洞結節で発生する電気刺激が心房から心室へと伝達され、心房の興奮(収縮)、心室の興奮(収縮)が順に起こることで、血液が送り出される。P波は心房の興奮に対応する波形であり、QRS波は心室の興奮に対応する波形であり、T波は心室が興奮から回復する過程に対応する波形である。平均的な成人の場合、心拍数は60~80bpm程度であるから、単位時間(60秒)分のECG信号の時系列データには約60~80個の心拍波形が含まれている。
【0049】
心拍情報としては、例えば、R振幅(R波の基線からの高さ)、QRS振幅(例えば、R波の基線からの高さとS波の基線からの深さの合計で定義)、P振幅(P波の基線からの高さ)、T振幅(T波の基線からの高さ)、P幅(P波の始まりからP波の終わりまでの時間)、QRS幅(Q波の始まりからS波の終わりまでの時間)、T幅(T波の始まりからT波の終わりまでの時間)、PQ時間(P波の始まりからQ波の始まりまでの時間)、QT時間(Q波の始まりからT波の終わりまでの時間)、RRI(RRインターバル;R波のピークから次のR波のピークまでの時間)、PPI(PPインターバル;P波の始まりから次のP波の始まりまでの時間)、心拍変動(RRIやPPIの時間変動)などがある。これらすべての心拍情報を算出する必要はなく、必要な心拍情報のみ算出すればよい。また、これら以外の心拍情報を算出してもよい。
【0050】
例えば本実施形態では、R波検出部220がECG信号の時系列データから各心拍のR波を検出し、R振幅やQRS幅などを計算する。そして、RRI算出部221がRRIを計算する。拍動が正常な場合、RRIはほぼ一定(心拍変動なし)となるが、心房細動その他の不整脈が発生すると、RRIが狭くなったり、RRIが不規則に変化したりという症状がみられる。また、P波検出部223がECG信号の時系列データから各心拍のP波を検出し、P振幅やP幅などを計算する。
【0051】
P波の検出は例えば次のように行うことができる。P波はR波に対して通常0.1秒~0.2秒程度先行して出現する。そこで、P波検出部223は、R波検出部220で検出されたR波の時刻を基準に、それより先行して出現した起伏をP波候補点cPに設定し、候補点cPの強度を取得する。P波検出部223は、候補点cPの強度が所定の閾値Th1以上であれば、この候補点cPを頂点とする起伏をP波と認定し、閾値Th1未満であれば、P波は検出できず、と判定する。閾値Th1は任意に設定できるが、例えば、R振幅又はQRS振幅に対して2.5~5%程度の値に設定するとよい。
【0052】
ステップS102では、AF判定部24が、P波の有無を判定する。例えば、単位時間分のECG信号に含まれる心拍波形の全数に対する、P波検出部223によりP波が検出できた心拍波形の数の割合が、所定の閾値Th2以上であれば「P波あり」、閾値Th2未満であれば「P波なし」と判定してもよい。閾値Th2は任意に設定でき、本実施形態では例えば80%に設定する。ここでの判定結果が「P波の有無に関する情報」である。
【0053】
P波の有無の判定方法は、上記の方法に限られない。例えば、単位時間分のECG信号から1つの代表的な心拍波形(以下「代表波形」という)を取得し、この代表波形におけるP波候補点cPの強度(振幅)が所定の閾値Th1以上であれば「P波あり」、閾値T
h1未満であれば「P波なし」と判定してもよい。あるいは、単位時間分のECG信号から2つ以上の代表波形を取得し、取得した2つ以上の代表波形のうち、閾値Th1以上の強度をもつP波候補点cPが検出された代表波形の割合が、閾値Th2以上であれば「P波あり」、閾値Th2未満であれば「P波なし」と判定してもよい。なお、代表波形は、単位時間分のECG信号に含まれる複数の心拍波形の中から選択された心拍波形でもよいし、単位時間分のECG信号における全部又は一部の心拍波形から合成された心拍波形でもよいし、選択もしくは合成された心拍波形をさらに加工した波形でもよい。
【0054】
(2)PPG信号の計測処理
ステップS110では、PPG計測部30によりPPG信号が計測される。PPG信号はPPG信号処理部31に取り込まれ、AD変換部310によってAD変換された後、バンドパスフィルタ部311によってノイズの除去が行われる。
【0055】
図8に脈波センサ15によるPPG信号の計測原理を模式的に示す。図8図2のA-A断面に対応する。脈波センサ15は、制御本体12の裏面に並列配置された発光素子150及び光検出器151を有する反射型PPGセンサである。バンド10により制御本体12を上腕に巻き付けたときに、脈波センサ15は皮膚表面に密着した状態に置かれる。発光素子150から照射した光はその一部が生体内で反射され、光検出器151にて検出される。このとき、血液中のヘモグロビンによって光のエネルギーが吸収されるため、血流量に応じて反射光強度が変化する。PPG信号は、この反射光強度の時間変化をとらえたものであり、脈動に伴う血流量の変化を示している。
【0056】
ステップS111では、PPG心拍情報算出部32が、取り込まれたPPG信号を解析し各種の心拍情報を算出する。PPG心拍情報算出部32は、PPG信号処理部31から所定の単位時間分のPPG信号の時系列データ(波形データ)が取り込まれると、ステップS111の処理を実行する。単位時間は、ECG信号と同じ(本実施形態では60秒)に設定される。
【0057】
図9にPPG信号波形を模式的に示す。脈動も心臓の拍動に伴い生じる現象であるため、PPG信号波形のピーク周期はECG信号波形と同期している(ただし、ECG信号波形に比べて心臓からの距離に応じた遅延がある)。しかしながら、ECG信号は心臓から伝わる電気信号を計測したデータであるのに対し、PPG信号は血流量の時間変化を計測したデータであるため、PPG信号は、ECG信号とは明らかに異なる波形を呈し、P波に相当する情報を含んでいない。
【0058】
本実施形態では、脈動間隔算出部320が、PPG信号波形から脈動のピークを検出し、ピークと次のピークの間の時間、すなわち脈動間隔を計算する。脈動間隔は、ECG信号から取得されるRRIに相当する情報である。また、心拍変動算出部321が、心拍変動の指標として、単位時間分のPPG信号波形における脈動間隔のばらつき(例えば、分散、標準偏差など)を計算する。
【0059】
ステップS112では、AF判定部24が、心拍変動の有無を判定する。例えば、AF判定部24は、脈動間隔のばらつきが所定の閾値以上であれば「心拍変動あり」、閾値未満であれば「心拍変動なし」と判定してもよい。閾値は任意に設定できる。ここでの判定結果が「心拍変動に関する情報」である。
【0060】
(3)AF判定処理
ステップS120では、AF判定部24が、P波の有無に関する情報と心拍変動に関する情報とから、心房細動が発生しているか否かを判定する。例えば、「P波なし」かつ「心拍変動あり」であった場合は、その波形データが示す単位時間において心房細動が発生
していたと判定する。図示しないが、心房細動の発生を検出したタイミングで、ユーザーに報知したり、通信部26から外部機器にアラートメッセージなどを出力したりしてもよい。
【0061】
ステップS121では、AF判定部24が、波形データの計測時刻の情報とともに、心房細動の発生の有無を記憶部25に記録する。このとき、波形データやステップS101及びS111で算出した心拍情報を一緒に記録してもよい。これにより、記憶部25には、単位時間ごと(例えば60秒ごと)のAF判定結果が蓄積されていく。
【0062】
さらにAF判定部24は、所定の計測期間分のデータが蓄積されたタイミングなどに、心房細動に関する指標であるAF burdenの生成、記録を行ってもよい。AF burdenは、例えば、所定の計測期間における最長の心房細動持続時間、所定の計測期間における心房細動発生回数、所定の計測期間における心房細動の累積時間の少なくともいずれかを含むとよい。計測期間は、例えば、数時間~数週間程度の長さに設定すればよい。仮に、計測期間が1日(=86400秒)、単位時間が60秒に設定されている場合であれば、AF burdenは1440個(=86400÷60)のAF判定結果の集計となる。
【0063】
以上述べた処理によって、心房細動の24時間モニタリングが実現できるとともに、心房細動の診断に有用なAF burdenの自動記録が実現できる。なお、記憶部25に記録されたAF情報(AF判定結果やAF burdenなど)は、通信部26から外部機器に出力される。
【0064】
<第2実施形態>
第1実施形態では、体動に対しロバストであるPPG信号から心拍変動に関する情報を取得することとしたが、体動のない安静時であればECG信号から心拍変動に関する情報を取得してもよい。PPG信号のピークに比べてECG信号のR波ピークの方が先鋭であるため、ECG信号の方が心拍間隔及び心拍変動をより正確に(時間誤差を小さく)算出できるからである。そこで、第2実施形態では、ECG信号の信号品質が良い場合は、ECG信号から心拍変動に関する情報を取得するという方法を採用する。
【0065】
図10は、第2実施形態の生体信号計測装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。第1実施形態の構成(図4)との違いは、ECG信号品質判定部23及びPPG信号品質判定部33を備えた点である。ECG信号品質判定部23は、ECG信号の品質の良否(すなわち、AF判定などの目的に適う精度ないし信頼性のあるデータが計測できているか否か)を判定する部分である。PPG信号品質判定部33は、PPG信号の品質の良否(すなわち、AF判定などの目的に適う精度ないし信頼性のあるデータが計測できているか否か)を判定する部分である。
【0066】
図11に、第2実施形態の生体信号計測装置1による計測処理の流れを示す。第1実施形態の計測処理(図5)と同じ部分は、同一のステップ番号を付している。以下、第1実施形態と異なる処理を中心に説明する。
【0067】
単位時間分のECG信号が計測され(ステップS100)、心拍情報が算出された(ステップS101)後、ECG信号品質判定部23が、ステップS100で取り込まれた単位時間分のECG信号の品質を評価する(ステップS200)。信号品質の評価にはどのような指標を用いてもよい。以下にECG信号の評価指標の一例を述べる。
【0068】
・ゼロクロス数(ZC):ECG信号が基線と交わる頻度。例えば、ゼロクロス数が100回/1秒よりも多い場合は、通常の基線変動では考えられないため、「信号品質=不
良」と判定する。
【0069】
・相対的なパワースペクトル密度比(RSQI):ECG信号の特徴的な波形であるP波、QRS波、T波のエネルギーが集中する周波数領域のパワースペクトル密度と、ECG信号全体のパワースペクトル密度の比。RSQIが所定の閾値より低い場合は、「信号品質=不良」と判定する。
【0070】
他方、単位時間分のPPG信号が計測され(ステップS110)、心拍情報が算出された(ステップS111)後、PPG信号品質判定部33が、ステップS110で取り込まれた単位時間分のPPG信号の品質を評価する(ステップS210)。信号品質の評価にはどのような指標を用いてもよい。以下にPPG信号の評価指標の一例を述べる。
【0071】
・灌流指数(PI):PPG信号のAC(交流)成分をDC(直流)成分で割った値。PI値が低いほどSN比が悪い。例えばPPG信号のPI値が1を下回った場合、「信号品質=不良」と判定する。
【0072】
・ゼロクロス数(ZC):PPG信号のAC成分の符号が変化する頻度。例えば、ゼロクロス数が10回/1秒よりも多い場合は、通常の心拍数では考えられないため、「信号品質=不良」と判定する。
【0073】
・相対的なパワースペクトル密度比(RSQI):心拍の収縮期及び拡張期の波のエネルギーが集中する周波数領域のパワースペクトル密度と、PPG信号全体のパワースペクトル密度の比。RSQIが所定の閾値より低い場合は、「信号品質=不良」と判定する。収縮期及び拡張期の波のエネルギーのほとんどは1~2.25Hzの周波数領域に集中しているため、例えば、この帯域のパワースペクトル密度(PSD)と信号全体(例えば、0~8Hz)のパワースペクトル密度(PSD)とから、下記式のようにRSQIを計算してもよい。
【数1】
【0074】
なお、ECG信号やPPG信号の信号品質の評価指標は上記のものに限られず、どのようなものを用いてもよい。また、1つの評価指標のみで信号品質の良否を決定してもよいし、複数の評価指標の評価結果を総合して最終的な信号品質の良否を決定してもよい。
【0075】
P波の有無に関する情報は、第1実施形態と同様、ECG信号の時系列データから取得される(ステップS102)。他方、心拍変動に関する情報の取得源については、ECG信号とPPG信号の信号品質に応じて動的に切り替える。具体的には、ECG信号の信号品質が良好と判定された場合(ステップS201)、当該単位時間の心拍変動に関する情報は、ECG信号の時系列データから取得される(ステップS202)。ECG信号の信号品質が不良と判定された場合(ステップS201)、当該単位時間の心拍変動に関する情報は、PPG信号の時系列データから取得される(ステップS112)。ただし、PPG信号の信号品質も不良と判定されてしまった場合(ステップS211)は、当該単位時間のデータは破棄し、AF判定は行わずに処理を終了する。
【0076】
以後の処理(ステップS120、S121)は、第1実施形態と同様である。
【0077】
本実施形態の処理によれば、ECG信号の品質が良好な期間(すなわち体動が小さいと
き)には、ECG信号の方が優先的に利用され、ECG信号の品質が悪い期間(すなわち体動が大きいとき)には、PPG信号が補完的に利用される。PPG信号のピークに比べてECG信号のR波ピークの方が先鋭であるため、ECG信号の方が心拍間隔及び心拍変動をより正確に(時間誤差を小さく)算出することができる。したがって、第1実施形態よりも、心房細動の判定精度を向上することができる。
【0078】
<その他>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、電極11を生体に押し当てた状態で固定するための固定部材としては、上記実施形態のように、電極11を接触させた状態で生体の測定部分に巻き付くバンド状(帯状)のものの他、生体の測定部分を覆って包む包状のものやリング状のものを用いてもよい。また、固定部材は、生体の測定部分のサイズ(径)に対応するために、伸縮性や変形性を有しているとよい。あるいは、非伸縮性のある素材で作成されている場合は、長さの調節が可能な構造を有しているとよい。電極11の数は1個以上であればよい。複数の電極11の場合の配列は1列である必要はなく、2次元アレイ状に配置してもよい。また、等間隔ではなく、電極11の配置間隔に偏りをつけてもよい。電極11は、固定部材(バンド10)に一体であってもよいし、固定部材とは別の構造でもよい。制御本体12はバンド10に固定されていなくてもよい。例えば、制御本体12とバンド10を別構造とし、制御本体12とバンド10(電極11)との間をケーブルで繋いでもよい。また、脈波センサとしては、PPGセンサ以外にも、圧脈波センサを用いてもよい。
【0079】
本明細書は以下の開示を含む。
【0080】
[付記1]
ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置(1)であって、
前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するECGセンサ(14)と、
前記ユーザーの脈波を計測する脈波センサ(15)と、
前記ECGセンサ(14)により得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサ(15)により得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得する情報処理部(16)と、を有する、
生体信号計測装置(1)。
【0081】
[付記2]
前記心電波形の異常に関する情報は、P波の有無に関する情報を含み、
前記情報処理部(16)は、常時計測される前記ECG信号及び前記脈波の時系列データから取得された前記心拍変動に関する情報と前記P波の有無に関する情報に基づいて、心房細動の発生を検出する、
付記1に記載の生体信号計測装置(1)。
【0082】
[付記3]
前記情報処理部(16)は、所定の計測期間における心房細動の検出結果に基づいて心房細動に関する指標を生成し、記録又は出力する、
付記2に記載の生体信号計測装置(1)。
【0083】
[付記4]
前記心房細動に関する指標は、前記所定の計測期間における最長の心房細動持続時間、前記所定の計測期間における心房細動発生回数、及び、前記所定の計測期間における心房細動の累積時間の少なくともいずれかを含む、
付記3に記載の生体信号計測装置(1)。
【0084】
[付記5]
前記情報処理部(16)は、前記ECG信号の時系列データから前記心電波形の異常に関する情報を取得し、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得する、
付記1~付記4のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0085】
[付記6]
前記情報処理部(16)は、
前記ECG信号の信号品質の良否を判定するECG信号品質判定部(23)と前記脈波の信号品質の良否を判定する脈波信号品質判定(33)を有し、
前記ECG信号の信号品質が良好と判定されている期間は、前記ECG信号の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得し、
前記ECG信号の信号品質が不良と判定されている期間は、前記脈波の時系列データから前記心拍変動に関する情報を取得する、
付記1~付記5のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0086】
[付記7]
乾式の電極(11)と、
前記電極(11)を前記ユーザーの体肢に押し当てた状態で固定する部材(10)と、を有しており、
前記ECGセンサ(14)は、前記部材(10)によって固定された前記電極(11)によりECG信号を計測する、
付記1~付記6のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0087】
[付記8]
前記脈波センサ(15)は、PPG(Photoplethysmography)センサである、
付記1~付記7のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0088】
[付記9]
ユーザーに装着され、生体信号の常時計測を行う生体信号計測装置(1)の制御方法であって、
ECGセンサ(14)により、前記ユーザーの体肢においてECG信号を計測するステップと、
脈波センサ(15)により、前記ユーザーの脈波を計測するステップと、
前記ECGセンサ(14)により得られたECG信号の時系列データと前記脈波センサ(15)により得られた脈波の時系列データに基づいて、心拍変動に関する情報と心電波形の異常に関する情報とを取得するステップと、を有する、
生体信号計測装置(1)の制御方法。
【符号の説明】
【0089】
1:生体信号計測装置
10:バンド
11:電極
12:制御本体
13:固定機構
14:ECGセンサ
15:脈波センサ
16:情報処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11