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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130914
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】生体信号計測装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/276 20210101AFI20240920BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20240920BHJP
   A61B 5/28 20210101ALI20240920BHJP
   A61B 5/346 20210101ALI20240920BHJP
【FI】
A61B5/276 100
A61B5/256 220
A61B5/28
A61B5/346
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040872
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村(石田) ゆい
(72)【発明者】
【氏名】小泉 昌之
(72)【発明者】
【氏名】久保 光明
(72)【発明者】
【氏名】王 タンニー
(72)【発明者】
【氏名】川端 康大
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】松村 直美
(72)【発明者】
【氏名】福永 誠治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓矢
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127BB03
4C127CC10
4C127GG05
4C127GG07
4C127GG09
4C127LL13
4C127LL15
(57)【要約】
【課題】乾式電極の装着状態の良否の判定やユーザーへの報知を適切に行うための技術を提供する。
【解決手段】生体信号計測装置は、乾式の電極と、前記電極を生体に押し当てた状態で固定する部材と、前記電極により生体信号を計測する制御本体と、を備え、前記制御本体は、生体信号の波形から特徴量を抽出する波形特徴抽出部と、前記部材により前記電極を前記生体に装着してからの経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極の装着状態の良否を判定する装着状態判定部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式の電極と、
前記電極を生体に押し当てた状態で固定する部材と、
前記電極により生体信号を計測する制御本体と、を備え、
前記制御本体は、
生体信号の波形から特徴量を抽出する波形特徴抽出部と、
前記部材により前記電極を前記生体に装着してからの経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極の装着状態の良否を判定する装着状態判定部と、を有する、
生体信号計測装置。
【請求項2】
前記所定時間が5分以上の時間に設定されている、
請求項1に記載の生体信号計測装置。
【請求項3】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部は、所定値以上の長さの非信号区間が現れた場合に、装着状態が不良と判定する、
請求項1に記載の生体信号計測装置。
【請求項4】
前記装着状態判定部は、前記経過時間が前記所定時間に達する前の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量が所定の基準に当てはまる場合に、前記経過時間が前記所定時間に達するよりも前に、装着状態が不良と判定する、
請求項1に記載の生体信号計測装置。
【請求項5】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペアのすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていたものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペアのうちの一部の電極ペアで前記所定値以上の長さの非信号区間が現れなくなることである、
請求項4に記載の生体信号計測装置。
【請求項6】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペアのすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていなかったものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペアのうちの一部の電極ペアで前記所定値以上の長さの非信号区間が現れたことである、
請求項4に記載の生体信号計測装置。
【請求項7】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、前記複数の電極ペアのなかに、所定値以上の長さの非信号区間が現れる電極ペアと、前記所定値以上の長さの非信号区間が現れない電極ペアとが混在していることである、
請求項4に記載の生体信号計測装置。
【請求項8】
前記装着状態判定部によって装着状態が不良と判定された場合にユーザーに報知する報知部をさらに有する、
請求項1~7のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項9】
前記装着状態判定部は、前記生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、装着状態の不良の原因を判別し、
前記報知部は、装着状態の不良の原因に応じて、前記ユーザーへの報知を異ならせる、請求項8に記載の生体信号計測装置。
【請求項10】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部によって所定値以上の長さの非信号区間が現れたと判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極の装着し直しを促す、
請求項8に記載の生体信号計測装置。
【請求項11】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号に含まれるピークの振幅を、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部によって前記ピークの振幅が所定の振幅値より小さいと判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極の装着位置の変更を促す、
請求項8に記載の生体信号計測装置。
【請求項12】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号のノイズ混入度合を、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部によって前記ノイズ混入度合が所定の閾値以上であると判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極と皮膚表面の間の湿潤を高めるための対処を促す、
請求項8に記載の生体信号計測装置。
【請求項13】
前記制御本体は、
ユーザーが前記電極を装着した後に操作する操作部を有し、
前記ユーザーによって前記操作部の操作が行われた場合に、前記経過時間のカウントを開始する、
請求項1~7のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項14】
前記生体信号は、ECG(Electrocardiogram)信号である、
請求項1~7のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項15】
前記部材は、前記電極が設けられたバンドである、
請求項1~7のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【請求項16】
前記バンドは、前記生体の上腕に装着される、
請求項15に記載の生体信号計測装置。
【請求項17】
乾式の電極により生体信号を計測する生体信号計測装置の制御方法であって、
前記電極が生体に装着されてからの経過時間をカウントするステップと、
前記生体信号の波形から特徴量を抽出するステップと、
前記経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極の装着状態の良否を判定するステップと、を有する、
生体信号計測装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面に固定した電極により生体信号を計測する生体信号計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の皮膚表面に電極を固定し心電や筋電などの生体信号を計測する技術が知られており、かかる技術はさまざまな計測装置に応用されている。この種の装置では、電極と皮膚表面の接触状態が適切でないと、計測精度の低下を招いたり、計測自体が不能となったりする。
【0003】
特許文献1では、標準12誘導心電図の計測において、心電図の記録を開始する前に、個々の誘導波形の特徴に基づいてノイズ混入の有無、電極の誤装着、電極外れを判定する、というアイデアが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-261723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、乾式電極が埋め込まれたバンド(以下、「電極バンド」とも称する。)を腕や脚に巻き付けることで、皮膚表面への電極固定を行うタイプの計測装置の開発を進めている。このような乾式電極の固定構造を採用することにより、患者自身が装置の付け外しを簡単にできるため手軽に計測を行える、皮膚かぶれなどが無いため装置を装着したまま長時間にわたる計測を行いやすい、などの利点がある。しかしその反面、患者自身に装置の付け外しを任せるとなると、装着不良の発生頻度が高まることが予想される。そこで、計測の信頼性・安定性を向上する観点から、乾式電極の装着状態を自動で判定し、装着不良の場合は患者に報知する、という仕組みが望まれる。
【0006】
本発明者らは、電極バンドを試作し装着実験を繰り返すなかで、電極の装着不良が起こる原因には、電極が皮膚表面に正しく接触していないこと(物理的な接続不良)と、電極と皮膚表面の間の湿潤不足の2つの要因が存在するという知見を得た。さらに、電極を装着してからある程度時間が経つと、発汗により湿潤不足が解消するケースが多いことや、時間が経っても電極と皮膚の間が十分に湿潤しない患者も一定数存在することなども判ってきた。
【0007】
特許文献1のような12誘導心電図では、導電性ゲルを利用した湿式電極が用いられることが通常であるため、湿潤不足を原因とする装着不良は想定されていない。そのため、特許文献1の判定方法を、乾式電極タイプの装置に単純に適用した場合、湿潤不足か物理的な接続不良かの切り分けができず、一律に装着不良という判定結果が出力されてしまう。しかし、湿潤不足が原因の場合は、時間の経過とともに解消する可能性が高いのであるから、即座に装着不良と判定することは適当でない。むしろ、湿潤不足の場合は電極を装着し直したとしても解消しないため、患者を誤誘導する結果となる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、乾式電極を採用した生体信号計測装置において、電極の装着状態の良否の判定やユーザーへの報知を適切に行うための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、乾式の電極と、前記電極を生体に押し当てた状態で固定する部材と、前記電極により生体信号を計測する制御本体と、を備え、前記制御本体は、生体信号の波形から特徴量を抽出する波形特徴抽出部と、前記部材により前記電極を前記生体に装着してからの経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極の装着状態の良否を判定する装着状態判定部と、を有する、生体信号計測装置を含む。
【0010】
前記所定時間が5分以上の時間に設定されていてもよい。
【0011】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、前記装着状態判定部は、所定値以上の長さの非信号区間が現れた場合に、装着状態が不良と判定してもよい。
【0012】
前記装着状態判定部は、前記経過時間が前記所定時間に達する前の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量が所定の基準に当てはまる場合に、前記経過時間が前記所定時間に達するよりも前に、装着状態が不良と判定してもよい。
【0013】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペアのすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていたものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペアのうちの一部の電極ペアで前記所定値以上の長さの非信号区間が現れなくなることであってもよい。
【0014】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペアのすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていなかったものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペアのうちの一部の電極ペアで前記所定値以上の長さの非信号区間が現れたことであってもよい。
【0015】
前記乾式の電極は、複数の電極ペアを含み、前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、前記所定の基準は、前記複数の電極ペアのなかに、所定値以上の長さの非信号区間が現れる電極ペアと、前記所定値以上の長さの非信号区間が現れない電極ペアとが混在していることであってもよい。
【0016】
前記装着状態判定部によって装着状態が不良と判定された場合にユーザーに報知する報知部をさらに有してもよい。
【0017】
前記装着状態判定部は、前記生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、装着状態の不良の原因を判別し、前記報知部は、装着状態の不良の原因に応じて、前記ユーザーへの報知を異ならせてもよい。
【0018】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、前記装着状態判定部によって所定値以上の長さの非信号区間が現れたと判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極の装着し直しを促してもよい。
【0019】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号に含まれるピークの振幅を、前記特徴量として抽出し、前記装着状態判定部によって前記ピークの振幅が所定の振幅値より小さいと判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極の装着位置の変更を促してもよい。
【0020】
前記波形特徴抽出部は、前記生体信号のノイズ混入度合を、前記特徴量として抽出し、前記装着状態判定部によって前記ノイズ混入度合が所定の閾値以上であると判定された場合に、前記報知部は、前記ユーザーに前記電極と皮膚表面の間の湿潤を高めるための対処を促してもよい。
【0021】
前記制御本体は、ユーザーが前記電極を装着した後に操作する操作部を有し、前記ユーザーによって前記操作部の操作が行われた場合に、前記経過時間のカウントを開始してもよい。
【0022】
前記生体信号は、ECG(Electrocardiogram)信号であってもよい。
【0023】
前記部材は、前記電極が設けられたバンドであってもよい。
【0024】
前記バンドは、前記生体の上腕に装着されてもよい。
【0025】
本開示は、乾式の電極により生体信号を計測する生体信号計測装置の制御方法であって、前記電極が生体に装着されてからの経過時間をカウントするステップと、前記生体信号の波形から特徴量を抽出するステップと、前記経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極の装着状態の良否を判定するステップと、を有する、生体信号計測装置の制御方法を含む。
【0026】
本発明は、上記構成の少なくとも一部を有する生体信号計測装置として捉えてもよいし、生体信号としてECG信号を計測する心電計測装置として捉えてもよい。あるいは、生体信号計測装置に搭載可能な装着状態判定装置として捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む装着状態判定方法、生体信号計測装置の制御方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記構成および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、乾式電極を採用した生体信号計測装置において、電極の装着状態の良否の判定やユーザーへの報知を適切に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は生体信号計測装置を上腕に装着した様子を示す図である。
図2図2は生体信号計測装置の平面図である。
図3図3は生体信号計測装置の斜視図である。
図4図4は制御本体の機能構成を示すブロック図である。
図5図5はECG信号の計測処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は電極ペアとECG信号の例を示す図である。
図7図7はECG信号の波形と心拍情報を説明する図である。
図8図8は第1実施形態における装着状態の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9はECG信号波形の例を示す図である。
図10図10は第2実施形態における装着状態の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図11図11は第3実施形態における装着状態の判定処理の流れを示すフローチャートである。
図12図12は第3実施形態において装着状態を判定する際の基準の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<適用例>
図1を参照して、本発明の適用例の一つについて説明する。
【0030】
生体信号計測装置1は、生体に装着して使用される携帯型の計測デバイスである。生体信号計測装置1は、主な構成として、1つ以上の乾式の電極11が設けられたバンド10と、電極11により生体信号を計測する制御本体12とを備えている。
【0031】
計測の対象となる生体信号は、生体電気信号又は生体電位とも呼ばれ、生体の活動に伴って生じる電気信号である。例えば、心電信号(拍動に伴う微小電気信号)、筋電信号(筋肉の活動に伴う微小電気信号)、脳波信号(脳の活動に伴う微小電気信号)などがある。バンド10を装着する計測部位としては、上肢(上腕、前腕、手首、手、指)、下肢(大腿、下腿、足首、足、指)、頭部、頸部、胸部、腹部、耳朶などを例示でき、計測する生体信号の種類や計測アルゴリズムなどに応じて適宜選択される。
【0032】
計測時には、ユーザー自らがバンド10を計測部位に巻き付けて装置1を装着した後、制御本体12のボタンを押下するなどして計測を開始する。このとき、バンド10の巻き方や締めつけが悪く、電極11が皮膚表面から浮いてしまっているなどの物理的な接続不良があると、正しい計測を行うことができない。それゆえ、このような場合には、ユーザーに報知し、バンド10の装着し直しなどの対処を講じてもらう必要がある。ただし、電極11と皮膚表面の物理的な接続が良好であっても、湿潤不足が原因で電極11と皮膚表面の間の電気的な接続が不良となるケースがある。したがって、電極11と皮膚表面の間の電気的な接続の良し悪しを単純に評価するだけでは、物理的な接続不良なのか湿潤不足なのかの切り分けができず、ユーザーに適切な対処を案内することができない。
【0033】
そこで、生体信号計測装置1は、電極11を装着してからの経過時間が所定時間Twに達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、電極11の装着状態の良否を判定する。すなわち、バンド10の装着直後ではなく、敢えて所定時間Twだけ待ってから装着状態の良否判定を実施するのである。このような待ち時間を設けたことによって、発汗により電極11と皮膚表面の間が湿潤することが期待されるため、物理的な接続不良かどうか(つまり、装着し直しの要否)を高い確度で判定することが可能となる。
【0034】
所定時間(待ち時間)Twは、5分以上30分以下の時間に設定されるとよい。電極11を装着した状態でこの程度の時間が経過すれば、ほとんどのユーザーにおいて十分な湿潤状態(つまり、生体信号の計測及び波形の評価が可能な程度に電極11と皮膚表面の電気的接続が維持された状態)が得られるからである。
【0035】
以下では、本発明の一実施形態として、本発明を上腕心電デバイスに適用した場合の具体的な構成例を説明する。
【0036】
<第1実施形態>
【0037】
(装置構成)
図1図3を参照して、本発明の実施形態を説明する。図1は生体信号計測装置1を上腕に装着した様子を示す図であり、図2は生体信号計測装置1の平面図、図3は生体信号計測装置1の斜視図である。
【0038】
本実施形態の生体信号計測装置1は、ユーザーの上腕(好ましくは心臓に近い左上腕)に装着され、生体信号としてのECG(Electrocardiogram)信号(心電信号)を計測するために用いられる上腕心電デバイスである。
【0039】
生体信号計測装置1は、主な構成として、バンド10と、バンド10に固定された複数の電極11と、バンド10に固定された制御本体12と、を有している。
【0040】
バンド10は、電極11を生体に押し当てた状態で固定するための部材(固定部材)である。本実施形態では、可撓性及び柔軟性のある材料(例えば化学繊維、シリコン、皮革など)からなる帯状のバンド10が用いられる。バンド10の長手方向端部には固定機構13が設けられている。図1及び図3に示すようにバンド10をループ状にし、固定機構13で留めることにより、生体信号計測装置1を上腕に装着することができる。固定機構13は、面ファスナ、フック、コネクタ、ボタン、マグネットなどどのようなものでもよい。
【0041】
複数の電極11(電極アレイとも呼ばれる)は、生体との接触面がバンド10の内側(生体側)に露出するようにして、バンド10に埋め込み固定されている。複数の電極11は、バンド10の長手方向に一列に等間隔で配置されている。これにより、バンド10を腕に巻き付けたときに、腕の周囲の異なる位置に電極11が接触する。電極11の数は任意に設計できる。ECG信号を計測する目的であれば、少なくとも2つの電極11(1組の電極ペア)があればよく、計測の信頼性やロバスト性を高めるために3つ以上の電極11を設けてもよい。本実施形態では、6個の電極11(3組の電極ペア)を設ける構成を採用している。
【0042】
電極11は、乾式の金属電極である。湿式の電極(ゲル電極など)は、長時間装着していると皮膚かぶれや痒みを生じる可能性がある、耐久性やメンテナンス性が低い、などの問題があるのに対し、乾式の電極11はそのような問題がない。本実施形態の生体信号計測装置1は、長時間装着し続け、ECG信号を24時間モニタリングすることを想定しているため、乾式の電極11であることが好ましい。
【0043】
制御本体12は、生体信号計測装置1の制御や信号処理を行う処理ユニットである。制御本体12は、例えば、樹脂や金属からなるケースの内部に、プロセッサ、メモリ、バッテリ、その他の回路が実装された構造を有する。制御本体12には、物理スイッチ及びディスプレイが設けられていてもよい。図示しないが、制御本体12と複数の電極11の間は信号線を介して接続されている。
【0044】
(制御本体)
図4は、制御本体12の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0045】
制御本体12は、ECG信号の計測に関する構成として、計測使用電極選択部30、ECG計測部20、ECG信号処理部21、ECG心拍情報算出部22、ECG信号品質判定部23、AF判定部24、記憶部25、通信部26、操作部27を有する。計測使用電極選択部30は、ECG信号の計測に用いる電極ペアを選択する。ECG計測部20は、選択された電極ペアの間の電位差を差動アンプにより増幅し、ECG信号として出力する回路である。ECG信号処理部21は、ECG信号のAD変換及びフィルタ処理を行う部
分であり、ECG信号をAD変換するAD変換部210と、ECG信号から電磁ノイズを除去してSN比を高める電磁ノイズ除去部211と、ECG信号の基線変動(低周波の変動)を除去する基線変動除去部212を有する。ECG心拍情報算出部22は、ECG信号から各種の心拍情報を抽出する部分であり、R波検出部220、RRI算出部221、心拍変動算出部222、P波検出部223を有する。ECG信号品質判定部23は、ECG信号の品質の良否(すなわち、診断などの目的に適う精度ないし信頼性のあるデータが計測できているか否か)を判定する部分である。ECG信号品質判定部23はさらにECG信号の波形から特徴量を抽出する波形特徴抽出部としての機能を有し、抽出した波形の特徴量は後述する装着状態の判定処理に利用される。AF判定部24は、心拍情報に基づいてAF(Atrial Fibrillation;心房細動)の発生を検出したり、AFに関する指標を算出したりする部分である。記憶部25は、計測ないし算出されたデータを記憶する不揮発性のメモリである。通信部26は、外部機器(例えば、ユーザーのスマートフォン、他の健康機器、ホームサーバーなど)と無線によるデータ通信を行う部分である。操作部27は、ユーザーが入力操作を行うための入力インターフェイスである。操作部27は、物理ボタンでもよいし、タッチパネルディスプレイでもよい。
【0046】
また、制御本体12は、電極11の装着状態の自動判定に関する構成として、装着状態判定部33、報知部(通知部)34を有する。装着状態判定部33は、ECG信号品質判定部23で抽出されたECG信号の波形の特徴量に基づいて、電極11の装着状態の良否を判定する部分である。報知部34は、装着状態判定部33の判定結果に応じてユーザーへの報知を行う部分である。
【0047】
(ECG信号の計測処理)
図5図7を参照して、生体信号計測装置1によるECG信号の計測処理について説明する。図5はECG信号の計測処理の流れを示すフローチャートであり、図6は電極ペアとECG信号の例を示す図であり、図7はECG信号の波形と心拍情報を説明する図である。
【0048】
ユーザーがバンド10を上腕に巻き付け、固定機構13でバンド10を留めた後、操作部27により計測開始を指示する操作を行うと、制御本体12のプロセッサが図5の計測処理を開始する。
【0049】
ステップS500では、ECG計測部20により、3組の電極ペアを用いて3チャネルのECG信号が計測される。具体的には、計測に使用する電極ペア(2つの電極11)が計測使用電極選択部30によって選択され、選択された電極ペアの間の電位差が差動アンプにより増幅されて、ECG信号(アナログ電圧信号)として取り込まれる。選択する電極ペアを順に切り替えることにより、3チャネルのECG信号が取り込まれる。
【0050】
本実施形態では、図6に示すように、バンド10が上腕に巻き付けられた状態のときにちょうど対向する2つの電極11同士がペアとなるように、3組の電極ペアが設定されている。ペアとなる2つの電極11の間を離すほうが、より大きい電位差(つまり、SN比の高いECG信号)を計測し得るからである。ただし、電極ペアの設定の仕方はこれに限られない。例えば、マルチプレクサを用いて、ペアとなる電極11の組み合わせを自由に切り替えられるようにしてもよい。この場合、6つの電極11から4チャネル以上のECG信号を計測することも可能である。
【0051】
ステップS501では、ECG信号処理部21が、ECG信号をAD変換し、デジタル信号処理によって電磁ノイズ及び基線変動の除去を行う。電磁ノイズ及び基線変動の除去には、例えば、バンドパスフィルタ、ノッチフィルタ、移動平均などの公知のノイズ低減手法を用いることができる。
【0052】
ステップS502では、ECG心拍情報算出部22が、取り込まれたECG信号を解析し各種の心拍情報を算出する。ECG心拍情報算出部22は、ECG信号処理部21から所定の単位時間分のECG信号の時系列データ(波形データ)が取り込まれると、ステップS502の処理を実行する。単位時間は、例えば、10秒~600秒程度の時間に設定すればよく、本実施形態では60秒に設定されている。
【0053】
図7に模式的に示すように、ECG信号の1心拍の波形は、主に、P波、QRS波、T波からなる。なお、QRS波は、上向きのピークであるR波とその前後に現れる下向きのQ波及びS波を合わせた波形を指している。正常な心臓では、洞結節で発生する電気刺激が心房から心室へと伝達され、心房の興奮(収縮)、心室の興奮(収縮)が順に起こることで、血液が送り出される。P波は心房の興奮に対応する波形であり、QRS波は心室の興奮に対応する波形であり、T波は心室が興奮から回復する過程に対応する波形である。平均的な成人の場合、心拍数は60~80bpm程度であるから、単位時間(60秒)分のECG信号の時系列データには約60~80個の心拍波形が含まれている。
【0054】
心拍情報としては、例えば、R振幅(R波の基線からの高さ)、QRS振幅(例えば、R波の基線からの高さとS波の基線からの深さの合計で定義)、P振幅(P波の基線からの高さ)、T振幅(T波の基線からの高さ)、P幅(P波の始まりからP波の終わりまでの時間)、QRS幅(Q波の始まりからS波の終わりまでの時間)、T幅(T波の始まりからT波の終わりまでの時間)、PQ時間(P波の始まりからQ波の始まりまでの時間)、QT時間(Q波の始まりからT波の終わりまでの時間)、RRI(RRインターバル;R波のピークから次のR波のピークまでの時間)、PPI(PPインターバル;P波の始まりから次のP波の始まりまでの時間)、心拍変動(RRIやPPIの時間変動)などがある。これらすべての心拍情報を算出する必要はなく、必要な心拍情報のみ算出すればよい。また、これら以外の心拍情報を算出してもよい。
【0055】
ステップS503では、ECG信号品質判定部23が、ステップS501で取り込まれた単位時間分のECG信号の品質を評価する。信号品質の評価にはどのような指標を用いてもよい。例えば、ECG信号そのもののノイズ、パワー(強度)、基線変動などを評価指標として用いてもよいし、ステップS502で算出した心拍情報(心拍情報の算出に成功したか否かも含む)を評価指標として用いてもよい。直近計測された単位時間分のECG信号が所定の品質(診断などの目的に適う精度ないし信頼性のあるデータであること)を満たさないと判定された場合は(ステップS504のNO)、この単位時間分のECG信号及び心拍情報は破棄される。
【0056】
所定の品質のECG信号が得られた場合(ステップS504のYES)は、AF判定部24が心拍情報に基づいてAF(心房細動)の発生を検出したり、AFに関する指標を算出する(ステップS505)。ステップS502で算出された心拍情報及びステップS505で得られたAFの情報は、計測時刻の情報とともに、記憶部25に記録される(ステップS506)。
【0057】
以上述べた図5の計測処理が、単位時間毎に繰り返し実行されることにより、ECG信号の24時間モニタリングが行われる。
【0058】
(装着状態の判定処理)
図8は、第1実施形態における装着状態の判定処理の流れを示している。
【0059】
ユーザーがバンド10を上腕に巻き付け、固定機構13でバンド10を留めた後、操作部27により計測開始を指示する操作を行うと、制御本体12のプロセッサが図5の計測
処理を開始するとともに、図8の判定処理も開始する。
【0060】
制御本体12の装着状態判定部33は、ユーザーによって計測開始を指示する操作が行われたことを検知すると、ユーザーが電極11を装着したとみなし、「電極11を装着してからの経過時間Tp」のカウントを開始する(ステップS100)。なお、本実施形態では、ユーザー操作を経過時間Tpのカウントのトリガとしたが、光学的/電気的/磁気的/物理的なセンサでバンド10もしくは電極11が腕に装着されたことを検知して経過時間Tpのカウントを開始するようにしてもよい。
【0061】
ステップS101では、ECG信号品質判定部23が、単位時間分のECG信号の波形から、装着状態の判定処理に利用する特徴量を抽出する。本実施形態では、ECG信号が飽和し又は0である状態が続く区間を「非信号区間」と呼び、この非信号区間の長さを特徴量としてとらえる。
【0062】
図9を用いて非信号区間について詳しく説明する。図9は、安静状態で計測されたECG信号の波形90と、体動の影響で乱れたECG信号の波形91と、電極11の装着不良がある場合に計測されるECG信号の波形92を示している。電極11が皮膚表面から離れると、電極ペアの差動電圧を正しく計測できず、ECG信号が飽和し又は0となる。したがって、電極11の装着状態が悪い(物理的な接続が不安定)な場合は、波形92のように、ECG信号が飽和し又は0である状態が一定時間連続して現れる傾向がある。波形91のように、体動の影響による筋電ノイズが混入した場合も差動電圧が乱れ、ECG信号が瞬間的に飽和又は0に振れることがあるが、飽和又は0の状態が続くことはない。それゆえ、非信号区間の長さを評価することで、電極11の装着不良と体動の影響との切り分けが可能である。
【0063】
ECG信号品質判定部23は、3組の電極ペアそれぞれのECG信号から抽出した特徴量を記憶部25に一時的に格納する。なお、単位時間分の波形のなかに非信号区間が複数回現れた場合は、そのなかで最も長い時間(非信号区間の最長時間)を特徴量として採用すればよい。
【0064】
ステップS102では、装着状態判定部33が、ステップS101で特徴量の抽出に用いたECG信号が、経過時間Tpが所定時間Twに達した後の期間に計測された信号であるかを判定する。経過時間Tpが所定時間Twに達していない場合(Tp<Tw)は、ステップS101に戻る。本実施形態では、例えば、Tw=10分に設定される。
【0065】
経過時間Tpが所定時間Twに達した後(Tp≧Tw)、装着状態判定部33は、ECG信号の波形から抽出された特徴量に基づいて電極11の装着状態の良否を判定する(ステップS103)。具体的には、装着状態判定部33は、少なくともいずれかの電極ペアのECG信号の波形に所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れた場合は、電極浮きが発生している可能性が高いとみなし、「装着状態:不良」と判定する。すべての電極ペアのECG信号において、所定値Tth以上の長さの非信号区間が検出されなかった場合には、「装着状態:良好」と判定する。本実施形態では、例えば、Tth=1秒に設定される。
【0066】
装着状態が不良と判定された場合(ステップS104)、報知部34は、ユーザーに報知を行い、バンド10の巻き直しを促す(ステップS105)。報知の方法は任意である。例えば、警告音を鳴らす、バンド10の巻き直しを促す音声メッセージを出力する、ディスプレイにメッセージを表示する、振動や光によって報知する、外部装置(ユーザーが所持するスマートフォンなど)にメッセージを転送する、などが考えられる。
【0067】
本実施形態の判定処理では、電極11の装着直後ではなく、所定時間経過後の期間のECG信号波形によって電極11と皮膚表面の接触状態を評価する。発汗により電極11と皮膚表面の間の湿潤が十分高まるまで待ってからECG信号の計測及び評価を行うことで、湿潤不足による計測不良をできる限り排除できるため、電極11の浮きなどの物理的な接続不良(つまり、バンド10の巻き直しが必要な状態)を高い確度で判定することができる。
【0068】
(他の特徴量)
上記実施形態では、ECG信号波形の特徴量として非信号区間の長さを抽出したが、装着状態の良否判定に用いる特徴量は他のものでもよい。以下、特徴量の他の例として、(1)ピーク振幅と(2)ノイズ混入度合を説明する。
【0069】
(1)ピーク振幅
電極11と皮膚表面の物理的な接続状態が良好であり、ECG信号の計測が可能であったとしても、ECG信号の強度が弱すぎて、R波、P波、T波などのピークが不明瞭である場合は、心拍情報の精度や信頼性の低下を招いたり、心拍情報の取得に失敗したりするため、好ましくない。そのような場合は、電極11の装着位置を上に(肩に近い位置に)ずらすことで、改善する可能性がある。ECG信号の強度は、心臓に近いほど強くなるからである。
【0070】
そこで例えば、ステップS101において、ECG信号品質判定部23が、ECG信号のR波のピーク振幅を特徴量として抽出する。具体的には、図7に示す、R振幅又はQRS振幅の値を、装着状態の判定処理に利用する。なお、単位時間分のECG信号波形には数十個のR波が含まれるが、特徴量としては、振幅の平均値、最大値、最小値などの代表値を用いればよい。そして、ステップS103において、装着状態判定部33が、ECG信号のピーク振幅Aと所定の振幅値Athとを比較し、ピーク振幅Aが所定の振幅値Athより小さい(A<Ath)場合に、「装着状態:不良」と判定する。
【0071】
判定基準となる振幅値Athは予め定めた固定値を用いてもよいし、計測されたECG信号から動的に決めてもよい。本発明者らは、被験者実験の結果から、R波のピークが、P波やT波を含む基線部の波打ちに対して3倍を超える程度であれば、精度よく心拍情報を取得できるという知見を得た。そこで本実施形態では、ECG信号全体の実効値(二乗平均平方根)を基線部の波打ちに相当する値とみなし、下記式のように、判定基準振幅値Athを決定する。
【0072】
Ath=3×RMSecg
ここで、RMSecgは、ECG信号全体もしくはその一部の区間の実効値である。
【0073】
(2)ノイズ混入度合
電極11と皮膚表面の物理的な接続状態が良好であり、ECG信号の計測が可能であったとしても、電極11と皮膚表面の間の湿潤が未だ十分でない場合には、計測されるECG信号にノイズが多く混入し、心拍情報の精度や信頼性の低下を招いたり、心拍情報の取得に失敗したりする可能性がある。そのような場合は、皮膚にクリームや化粧水を塗布するか電極11を湿らせて、湿潤不足を解消するとよい。
【0074】
そこで例えば、ステップS101において、ECG信号品質判定部23が、ECG信号のノイズ混入度合を特徴量として抽出する。湿潤不足に起因するノイズが混入した波形では、ECG信号の基線部に1Hz前後の揺れが現れる。そこで、例えば、ECG信号全体もしくはその一部の区間の実効値RMSecgを計算し、この値をノイズ混入度合の指標NDとして用いる。ステップS103において、装着状態判定部33は、ECG信号から
求めたノイズ混入度合NDと所定の閾値NDthとを比較し、ノイズ混入度合NDが閾値NDth以上(ND≧NDth)であった場合に、「装着状態:不良」と判定する。
【0075】
判定基準となる閾値NDthは予め定めた固定値を用いてもよいし、計測されたECG信号から動的に決めてもよい。本発明者らは、被験者実験の結果から、湿潤不足に起因するノイズが混入した波形では、実効値RMSecgがR振幅と同じかそれより大きくなるという知見を得た。それゆえ、閾値NDthは、例えばR振幅又はQRS振幅と同程度に設定すればよい。
【0076】
<第2実施形態>
第1実施形態のように所定時間Twの待ち時間を設けることによりほとんどのケースで湿潤不足を解消することができると考えられるが、十分な時間が経ったとしても電極11と皮膚の間が十分に湿潤しない者も一定数存在し得る。また、その場の環境(温度、湿度など)に依存する可能性もある。もし湿潤不足が原因であった場合は、バンド10の巻き直しでは状況を改善することはできず、クリームや化粧水を皮膚に塗布するとか、電極を湿らせるといった、電極11と皮膚表面の間の湿潤を高めるための対処が必要となる。また、前述したように、ピークの振幅が小さい場合には、電極11の装着位置を心臓に近づけることが有効である。そこで、第2実施形態では、ECG信号の波形から抽出された特徴量に基づいて装着状態の不良の原因を判別し、装着状態の不良の原因に応じてユーザーへの報知を異ならせる。
【0077】
図10は、第2実施形態における装着状態の判定処理の流れを示している。第1実施形態の判定処理と同じ部分は、同一のステップ番号を付している。以下、第1実施形態と異なる処理を中心に説明する。
【0078】
ステップS101では、ECG信号品質判定部23が、単位時間分のECG信号波形から、『非信号区間の長さ』、『ピーク振幅』、『ノイズ混入度合』の3種類の特徴量を抽出する。各特徴量の定義及び抽出方法は第1実施形態と同様である。
【0079】
経過時間Tpが所定時間Twに達した後(ステップS102)、装着状態判定部33は、非信号区間の長さが所定値Tthより小さいか(ステップS200)、ピーク振幅が所定の振幅値Ath以上か(ステップS202)、ノイズ混入度合が所定の閾値NDthより小さいか(ステップS204)をそれぞれ検査する。すべての検査でYES判定が得られた場合は、「装着状態:良好」と判断する。
【0080】
もし、所定値Tth以上の長さの非信号区間が存在した場合には(ステップS200のNO)、装着不良の原因が電極浮きなどの物理的な接続不良にあるとみなし、報知部34は、ユーザーにバンド10の巻き直しを促す(ステップS201)。ピーク振幅が所定の振幅値Athより小さい場合には(ステップS202のNO)、装着不良の原因が電極11の装着位置が心臓から遠いことにあるとみなし、報知部34は、ユーザーに電極11の装着位置を上に(肩に近い方に)移動させるよう促す(ステップS203)。ノイズ混入度合が所定の閾値NDth以上の場合には(ステップS204のNO)、装着不良の原因が電極11と皮膚表面の間の湿潤不足にあるとみなし、報知部34は、クリーム塗布などの湿潤を高めるための対処を促す(ステップS205)。
【0081】
本実施形態の判定処理によれば、第1実施形態と同様の作用効果に加え、ユーザーの体質や環境が原因で湿潤不足が解消しない場合や、ECG信号のピークが小さい場合などにユーザーに適切な対処法を案内することができ、ユーザビリティに優れた計測装置を提供することができる、という利点がある。
【0082】
<第3実施形態>
第1及び第2実施形態では、所定時間Twが経過してから電極11の装着状態の判定を実施したが、所定時間Twが経過するより前に明らかに装着不良と判る場合には、その時点でユーザーに報知してもよい。
【0083】
図11は、第3実施形態における装着状態の判定処理の流れを示している。第1実施形態の判定処理と同じ部分は、同一のステップ番号を付している。以下、第1実施形態と異なる処理を中心に説明する。
【0084】
ステップS101においてECG信号波形の特徴量抽出が行われた後、ステップS300において、装着状態判定部33が、電極11の装着直後から現時点までに抽出された特徴量に基づいて、電極11の装着状態の良否を判定する。ステップS300の判定処理を、ステップS103の判定処理と区別するため、「早期判定処理」と呼ぶ。早期判定処理において装着不良と判定された場合は(ステップS301)、直ちに報知を行い終了する(ステップS302)。早期判定処理では、経過時間Tpが所定時間Twに達する前の期間に計測されたECG信号の波形から抽出された特徴量(特徴量の値もしくはその時間変化)が所定の基準に当てはまるか否かが評価される。図12に所定の基準の一例を示す。
【0085】
(1)基準1は、第1の期間において3組の電極ペアのすべてで所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れていたものが、その後の第2の期間において、一部の電極ペアで所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れなくなることである。
【0086】
皮膚が乾燥している場合、電極11の装着直後は電極11と皮膚の電気的接続がうまくとれない可能性がある。そのような場合は、初期的に、すべての電極ペアで非信号区間が現れる。そして、発汗により湿潤が進み、電気的接続が良好になると、通常はすべての電極ペアで非信号区間は消失する。しかしもし、一部の電極ペアで非信号区間が消失したにもかかわらず、残りの電極ペアでは依然として非信号区間が現れるという状態であれば、この残りの電極ペアには電極浮きなどの物理的な接続不良が発生している蓋然性が高い。したがって、基準1に当てはまる場合には、装着状態判定部33は即座に装着不良と判定し、報知部34がユーザーにバンド10の巻き直しを促すとよい。
【0087】
(2)基準2は、第1の期間において3組の電極ペアのすべてで所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れていなかったものが、その後の第2の期間において、一部の電極ペアで所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れることである。
【0088】
電極11が皮膚表面に対し確実に接触固定されている場合には、非信号区間の無い状態から非信号区間のある状態に変化することはない。言い換えると、基準2のごとく、非信号区間の無い状態から非信号区間のある状態への変化が生じた場合には、電極11と皮膚表面の間の物理的な接続状態が不安定であり、ユーザーの姿勢や体動によって電極が接触したり離れたりしている蓋然性が高い。したがって、このような場合には、装着状態判定部33は即座に装着不良と判定し、報知部34がユーザーにバンド10の巻き直しを促すとよい。
【0089】
(3)基準3は、3組の電極ペアのなかに、所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れる電極ペアと、所定値Tth以上の長さの非信号区間が現れない電極ペアとが混在していることである。
【0090】
6個の電極11の湿潤状態はほぼ同程度であるため、3組の電極ペアのすべてで非信号区間が現れるか、3組の電極ペアのすべてで非信号区間が現れないか、のいずれかの状態になるのが通常である。言い換えると、基準3のごとく、非信号区間のある電極ペアと非
信号区間のない電極ペアが混在する場合には、非信号区間のある電極ペアにおいて電極浮きなどの接続不良が起きている蓋然性が高い。したがって、このような場合には、装着状態判定部33は即座に装着不良と判定し、報知部34がユーザーにバンド10の巻き直しを促すとよい。基準3は、一つの期間分のECG信号波形だけで判断できるため、電極11の装着直後でも判断可能である。
【0091】
以上述べた判定処理を組み合わせることにより、明らかに装着不良と判る場合には経過時間Tpが所定時間Twに達するよりも前に装着不良と判定し、ユーザーに対処を促すことができる。したがって、本実施形態によれば、装置の利便性を一層高めることができる。なお、ここでは、第1実施形態の判定フローに早期判定処理を組み込んだ例を説明したが、第2実施形態の判定フローに早期判定処理を組み込んでもよい。
【0092】
<その他>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、装置を装着する身体部位は上腕以外でもよい。また、電極11を生体に押し当てた状態で固定するための固定部材としては、上記実施形態のように、電極11を接触させた状態で生体の測定部分に巻き付くバンド状(帯状)のものの他、生体の測定部分を覆って包む包状のものやリング状のものを用いてもよい。また、固定部材は、生体の測定部分のサイズ(径)に対応するために、伸縮性や変形性を有しているとよい。あるいは、非伸縮性のある素材で作成されている場合は、長さの調節が可能な構造を有しているとよい。電極11の数は1個以上であればよい。複数の電極11の場合の配列は1列である必要はなく、2次元アレイ状に配置してもよい。また、等間隔ではなく、電極11の配置間隔に偏りをつけてもよい。電極11は、固定部材(バンド10)に一体であってもよいし、固定部材とは別の構造でもよい。制御本体12はバンド10に固定されていなくてもよい。例えば、制御本体12とバンド10を別構造とし、制御本体12とバンド10(電極11)との間をケーブルで繋いでもよい。計測対象の生体信号はECG信号に限られず、例えば、筋電信号や脳波信号でもよい。
【0093】
本明細書は以下の開示を含む。
【0094】
[付記1]
乾式の電極(11)と、
前記電極(11)を生体に押し当てた状態で固定する部材(10)と、
前記電極(11)により生体信号を計測する制御本体(12)と、備え、
前記制御本体(12)は、
生体信号の波形から特徴量を抽出する波形特徴抽出部(23)と、
前記部材(10)により前記電極(11)を前記生体に装着してからの経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極(11)の装着状態の良否を判定する装着状態判定部(33)と、を有する、
生体信号計測装置(1)。
【0095】
[付記2]
前記所定時間が5分以上の時間に設定されている、
付記1に記載の生体信号計測装置(1)。
【0096】
[付記3]
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部(33)は、所定値以上の長さの非信号区間が現れた場合に、装着
状態が不良と判定する、
付記1又は付記2に記載の生体信号計測装置(1)。
【0097】
[付記4]
前記装着状態判定部(33)は、前記経過時間が前記所定時間に達する前の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量が所定の基準に当てはまる場合に、前記経過時間が前記所定時間に達するよりも前に、装着状態が不良と判定する、
付記1~付記3のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0098】
[付記5]
前記乾式の電極は、複数の電極ペア(11,11)を含み、
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペア(11,11)のすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていたものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペア(11,11)のうちの一部の電極ペア(11,11)で前記所定値以上の長さの非信号区間が現れなくなることである、
付記4に記載の生体信号計測装置(1)。
【0099】
[付記6]
前記乾式の電極は、複数の電極ペア(11,11)を含み、
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、第1の期間において前記複数の電極ペア(11,11)のすべてで所定値以上の長さの非信号区間が現れていなかったものが、前記第1の期間より後の第2の期間において前記複数の電極ペア(11,11)のうちの一部の電極ペア(11,11)で前記所定値以上の長さの非信号区間が現れたことである、
付記4又は付記5に記載の生体信号計測装置(1)。
【0100】
[付記7]
前記乾式の電極は、複数の電極ペア(11,11)を含み、
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記所定の基準は、前記複数の電極ペア(11,11)のなかに、所定値以上の長さの非信号区間が現れる電極ペア(11,11)と、前記所定値以上の長さの非信号区間が現れない電極ペア(11,11)とが混在していることである、
付記4~付記6のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0101】
[付記8]
前記装着状態判定部(33)によって装着状態が不良と判定された場合にユーザーに報知する報知部(34)をさらに有する、
付記1~付記7のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【0102】
[付記9]
前記装着状態判定部(33)は、前記生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、装着状態の不良の原因を判別し、
前記報知部(34)は、装着状態の不良の原因に応じて、前記ユーザーへの報知を異ならせる、
付記8に記載の生体信号計測装置(1)。
【0103】
[付記10]
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号が飽和し又は0である状態が続く非信号区間の長さを、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部(33)によって所定値以上の長さの非信号区間が現れたと判定された場合に、前記報知部(34)は、前記ユーザーに前記電極(11)の装着し直しを促す、
付記8又は付記9に記載の生体信号計測装置(1)。
【0104】
[付記11]
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号に含まれるピークの振幅を、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部(33)によって前記ピークの振幅が所定の振幅値より小さいと判定された場合に、前記報知部(34)は、前記ユーザーに前記電極(11)の装着位置の変更を促す、
付記8~付記10のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0105】
[付記12]
前記波形特徴抽出部(23)は、前記生体信号のノイズ混入度合を、前記特徴量として抽出し、
前記装着状態判定部(33)によって前記ノイズ混入度合が所定の閾値以上であると判定された場合に、前記報知部(34)は、前記ユーザーに前記電極(11)と皮膚表面の間の湿潤を高めるための対処を促す、
付記8~付記11のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0106】
[付記13]
前記制御本体(12)は、
ユーザーが前記電極(11)を装着した後に操作する操作部(27)を有し、
前記ユーザーによって前記操作部(27)の操作が行われた場合に、前記経過時間のカウントを開始する、
付記1~付記12のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0107】
[付記14]
前記生体信号は、ECG(Electrocardiogram)信号である、
付記1~付記13のいずれかに記載の生体信号計測装置(1)。
【0108】
[付記15]
前記部材(10)は、前記電極(11)が設けられたバンド(10)である、
付記1~付記14のいずれかに記載の生体信号計測装置。
【0109】
[付記16]
前記バンド(10)は、前記生体の上腕に装着される、
付記15に記載の生体信号計測装置(1)。
【0110】
[付記17]
乾式の電極(11)により生体信号を計測する生体信号計測装置(1)の制御方法であって、
前記電極(11)が生体に装着されてからの経過時間をカウントするステップと、
前記生体信号の波形から特徴量を抽出するステップと、
前記経過時間が所定時間に達した後の期間に計測された生体信号の波形から抽出された特徴量に基づいて、前記電極(11)の装着状態の良否を判定するステップと、を有する

生体信号計測装置(1)の制御方法。
【符号の説明】
【0111】
1:生体信号計測装置
10:バンド
11:電極
12:制御本体
13:固定機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12