(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130915
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】液晶素子、照明装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20240920BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240920BHJP
G02F 1/139 20060101ALI20240920BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240920BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20240920BHJP
F21S 41/64 20180101ALI20240920BHJP
F21W 102/145 20180101ALN20240920BHJP
F21Y 101/00 20160101ALN20240920BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240920BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240920BHJP
【FI】
G02F1/1337 530
G02F1/1337 515
G02F1/13 505
G02F1/139
G02F1/1335 510
G02F1/13357
F21S41/64
F21W102:145
F21Y101:00 100
F21Y101:00 300
F21Y115:10
F21Y115:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040874
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里実
(72)【発明者】
【氏名】亀井 松雄
【テーマコード(参考)】
2H088
2H290
2H291
2H391
【Fターム(参考)】
2H088EA33
2H088GA02
2H088GA17
2H088HA02
2H088HA18
2H088HA28
2H088JA10
2H088KA12
2H088KA27
2H088MA04
2H290AA35
2H290AA37
2H290BA07
2H290BE03
2H290BE04
2H290BF04
2H290BF14
2H290CA02
2H290CB32
2H291FA22X
2H291FA22Z
2H291FA29Z
2H291FA30X
2H291FA30Z
2H291FA36Z
2H291FA37Z
2H291FA56X
2H291FA85Z
2H291FD10
2H291GA05
2H291GA08
2H291LA24
2H291MA20
2H391BA01
2H391BA12
2H391BA24
2H391BA26
2H391BA27
2H391BA28
2H391BA29
2H391FA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】垂直配向型の液晶素子における透過率のバラつきを抑制すること。
【解決手段】互いの一面側を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、前記第1基板の一面側に配置されており第1配向容易軸を有する第1垂直配向膜と、前記第2基板の一面側に配置されており前記第1配向容易軸に対して反平行に配置された第2配向容易軸を有する第2垂直配向膜と、カイラル材を含有し、電圧無印加時に略垂直配向であり、前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜との間に配置された液晶層と、を含み、前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、無機配向膜を用いて構成されており、それぞれの表面自由エネルギーが33mJ/m
2~35mJ/m
2である、液晶素子である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの一面側を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の一面側に配置されており第1配向容易軸を有する第1垂直配向膜と、
前記第2基板の一面側に配置されており前記第1配向容易軸に対して反平行に配置された第2配向容易軸を有する第2垂直配向膜と、
カイラル材を含有し、電圧無印加時に略垂直配向であり、前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜との間に配置された液晶層と、
を含み、
前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、無機配向膜を用いて構成されており、それぞれの表面自由エネルギーが33mJ/m2~35mJ/m2である、
液晶素子。
【請求項2】
前記カイラル材のピッチpと前記液晶層の層厚dとの比d/pが0.187以上0.229以下である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、シロキサン系垂直配向膜である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜の各々と前記液晶層との界面におけるプレティルト角が80°以上90°未満である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項5】
前記第1配向容易軸は、前記第1垂直配向膜に施された配向処理の方向と略一致しており、
前記第2配向容易軸は、前記第2垂直配向膜に施された配向処理の方向と略一致している、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項6】
請求項1に記載の液晶素子と、
前記液晶素子に光を入射させる光源と、
を含む、照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶素子、照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-128449号公報(特許文献1)には、光源と、光源を出射した光の光路上に配置された液晶素子と、液晶素子を出射した光が入射するレンズであって液晶素子の配置位置近傍が焦点位置となるレンズとを有する照明装置が記載されている。この照明装置における液晶素子は、各々に電極及び垂直配向膜が配置された第1基板及び第2基板と、誘電率異方性が負の液晶材料を用いて形成された液晶層を有して構成された垂直配向型の液晶素子であり、第1基板の電極と第2基板の電極の間に電圧を印加したときの液晶層の捻じれ角は70°~120°である。
【0003】
ところで、上記のような液晶素子において、例えば無機配向膜などの比較的に配向規制力の弱い垂直配向膜を用いた場合に、電気光学特性における透過率のバラつきが大きくなる傾向がみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示に係る具体的態様は、垂直配向型の液晶素子における透過率のバラつきを抑制することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示に係る一態様の液晶素子は、(a)互いの一面側を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板の一面側に配置されており第1配向容易軸を有する第1垂直配向膜と、(c)前記第2基板の一面側に配置されており前記第1配向容易軸に対して反平行に配置された第2配向容易軸を有する第2垂直配向膜と、(d)カイラル材を含有し、電圧無印加時に略垂直配向であり、前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜との間に配置された液晶層と、を含み、(e)前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、無機配向膜を用いて構成されており、それぞれの表面自由エネルギーが33mJ/m2~35mJ/m2である、液晶素子である。
[2]本開示に係る一態様の照明装置は、前記[1]の液晶素子と、この液晶素子に光を入射させる光源と、を含む、照明装置である。
【0007】
上記構成によれば、垂直配向型の液晶素子やこれを用いる照明装置における透過率のバラつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、液晶素子の配向容易軸と各偏光板の透過軸との位置関係を説明するための図である。
【
図3】
図3は、液晶素子に対して12Vの駆動電圧を印加した際の透過率と、当該液晶素子を上記の照明装置に配置して測定した投影輝度との関係性を示すグラフである。
【
図4】
図4は、液晶素子における透過率の方位角依存性を測定した際の測定光学系を説明するための図である。
【
図5】
図5は、液晶素子における透過率の方位角依存性(配向方位)の測定結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(A)は、配向膜の違いによる影響の検証結果を説明するための図である。
図6(B)は、カイラル材の有無による影響の検証結果を説明するための図である。
【
図7】
図7(A)は、製造メーカの異なる2種の液晶材料A、Bを用い、配向膜焼成温度を異ならせて作製したサンプルについて、水平回転時の回転角による透過率依存性を測定して得られた基準角との差分(配向方位ずれ角度)を示した図である。
図7(B)は、配向膜の表面自由エネルギー値の焼成温度依存性の測定結果を示す図である。
【
図8】
図8は、無機配向膜の配向規制力の配向膜温度依存について、液晶素子のサンプルに対して等方相処理実施後の配向欠陥量に基づいて確認した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、プレティルト角の配向膜焼成温度依存を確認した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、液晶素子における電気光学特性のd/p依存性を示す図である。
【
図11】
図11(A)は、無機配向膜の焼成温度を180℃及び200℃とした液晶素子の各サンプルについて、水平回転時の回転角による透過率依存性に基づいて求めた配向方位の基準角との差分を示す図である。
図11(b)は、液晶素子の各サンプルについて、法線方向の電気光学特性を測定して得られた最大透過率の標準偏差σと平均値T
maxを示す図である。
【
図12】
図12は、方位角方位の液晶分子の配向分布の印加電圧依存性の計算結果である。
【
図13】
図13(A)は、液晶素子の電圧印加時の液晶分子の様子を模式的に示す図である。
図13(B)は、平面視での液晶分子の配向方位を概略的に示す図である。
【
図14】
図14は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の液晶素子の構成を示す模式的な断面図である。本実施形態の液晶素子10は、例えば光源と組み合わせて表示装置あるいは照明装置などとして用いられるものである。
【0010】
第1基板11と第2基板12は、互いの一面側を向かい合わせ、相互間に隙間(例えば数μm程度の隙間)を設けて配置されており、互いに貼り合わされている。第1基板11及び第2基板12としては、少なくとも可視光に対して透明(高透過率)なガラス基板やプラスチック基板が好適に用いられる。
【0011】
画素電極(個別電極)13は、第1基板11の一面側に配置されている。また、対向電極(共通電極)14は、第2基板12の一面側に配置されている。これらの画素電極13、対向電極14は、それぞれ例えばインジウム錫酸化物膜(ITO膜)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって得られる。各画素電極13と対向電極14との重なる領域がそれぞれ画素部(光変調領域)となる。
【0012】
垂直配向膜15は、第1基板11の一面側において各画素電極13を覆うようにして配置されている。同様に、垂直配向膜16は、第2基板12の一面側において対向電極14を覆うようにして配置されている。垂直配向膜とは、液晶層19の液晶分子を基板面に対して垂直かそれに近い角度(例えば80°~89.9°)に配向させる能力を有する膜である。本実施形態では、垂直配向膜15及び垂直配向膜16として無機配向膜が用いられている。無機配向膜としては、例えばシロキサン系垂直配向膜溶液をフレキソ印刷にて塗布し、200℃で焼成して薄膜化し、ラビング処理等の配向処理を施すことによって形成される無機配向膜を用いることができる。各垂直配向膜15、16は、それぞれの配向処理方向と略一致する方向に沿った配向容易軸を有する。
【0013】
液晶層19は、第1基板11と第2基板12の間に配置されている。本実施形態では、誘電率異方性が負であり、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて液晶層19が構成されている。また、液晶層19の液晶材料には、液晶分子の配向に捻じれを生じさせる機能を発揮するカイラル材が添加されている。また、液晶層19は、電圧無印加時において液晶分子の配向が第1基板11ないし第2基板12の基板面に対して80°以上90°未満であって垂直に近い角度(例えば89°)で一様に傾斜した配向を有する。また、液晶層19は、閾値以上の電圧印加時においてはカイラル材の効果により捻じれ配向となる。
【0014】
偏光板(偏光素子)21は、第1基板11の外側面(液晶層19から遠い側の面)に配置されている。偏光板(偏光素子)22は、第2基板12の外側面(液晶層19から遠い側の面)に配置されている。なお、各偏光板21、22と各基板11、12との間には適宜、視角補償板などの光学板が配置されてもよい。
【0015】
図2は、液晶素子の配向容易軸と各偏光板の透過軸との位置関係を説明するための図である。
図2では、液晶素子10を偏光板22側から平面視した場合の配向容易軸と透過軸等が示されている。ここでは、液晶素子10の平面視における図中の右方向(3時方位)を0°、左方向(9時方位)を180°、上方向(12時方位)を90°、下方向(6時方位)を270°というように座標系を定義する。
【0016】
偏光板21、22の透過軸33、34は互いに略直交配置(クロスニコル配置)とされており、例えば裏側の偏光板21の透過軸33が0°-180°方位に配置され、表側の偏光板22の透過軸34が90°-270°方位に配置されている。これにより、電圧無印加時においては液晶層19が略垂直配向しているため、液晶素子10を透過する光の透過率は著しく低い状態となる。
【0017】
また、電圧印加時には液晶層19が捻じれ配向に変化し、液晶素子10を透過する光の透過率が上昇する。液晶層19の液晶材料の閾値電圧よりも十分に高い電圧(例えば2.5倍以上の電圧)を印加した際には、第1基板11の垂直配向膜15と液晶層19との界面近傍では液晶分子の実質的な配向方位35は概ね図中の90°方位となり、第2基板12の垂直配向膜16と液晶層19との界面近傍では液晶分子の実質的な配向方位36は概ね図中の180°方位となる。
【0018】
第1基板11の垂直配向膜15における配向容易軸(配向処理方向)31は、図中の45°方位に配置され、第2基板12の垂直配向膜16における第2配向容易軸(配向処理方向)32は、225°方位に配置されている。すなわち、配向容易軸31と配向容易軸32とは、反平行状態(アンチパラレル状態)に設定されている。
【0019】
各垂直配向膜15、16としては、例えばシロキサン系垂直配向膜が用いられる。各垂直配向膜15、16には配向処理として例えばラビング処理が施される。ラビング処理の条件設定については、液晶層19と各基板11、12との界面近傍における液晶層19の液晶分子のプレティルト角が89°となるように設定することができる。
【0020】
また、液晶層19には、図中において左捻じれ(矢印37で示す方向)のカイラル材が添加されている。カイラル材の添加量は、カイラルピッチp=16μm、液晶層厚d=4μmとしたときに、例えばd/p=0.25に設定されている。
【0021】
本実施形態に係る構成を有する液晶素子のサンプルを作製し、これを
図14に示すような照明装置における液晶素子として設置し、液晶素子の法線方向(第2基板12の一面ないし他面の法線方向)の電気光学特性を測定した。なお、照明装置の構成の詳細については後述する。
【0022】
図3は、液晶素子に対して12Vの駆動電圧(閾値電圧の2.5倍以上の電圧)を印加した際の透過率と、当該液晶素子を上記の照明装置に配置して測定した投影輝度(投影された光の所定位置での輝度)との関係性を示すグラフである。このグラフでは、透過率を横軸にとり、投影輝度を縦軸にとっている。また、液晶素子のサンプルとしては、製造メーカの異なる基板A、Bをそれぞれ各基板11、12として用いて構成した2種類のサンプルを作製した。図示のように、液晶素子の最大透過率と照明装置の投影輝度との間には比例の関係性を示す傾向がある。つまり、最大透過率のバラつきに対応して投影輝度のバラつきを生じていると考えられる。測定結果からは、10%程度の透過率のバラつきが見られる。基板A、Bの違いによる差異は見られない。
【0023】
図4は、液晶素子における透過率の方位角依存性を測定した際の測定光学系を説明するための図である。測定光学系における配向容易軸と各偏光板の透過軸との位置関係は上記した
図2に示したものと同様である。方位角φについては、座標系の0°方向(3時方位)と一致する場合を0°とした。極角については法線方向に固定した。測定光学系では、液晶素子10における裏側(第1基板11側)に略平行光を照射する光源41を配置し、表側(第2基板12側)に受光器42を配置した。また、液晶素子における裏側の偏光板21は、透過軸が0°-180°方位に配置され、表側の偏光板22は、透過軸が90°-270°方位に配置されている。透過軸33と透過軸34は互いに略直交配置(クロスニコル配置)とされている。このような測定光学系にて、液晶素子のうち各偏光板21、22を除いた部分(液晶セル)のサンプルを方位角方向にて水平回転させて、その際の透過率の方位角依存性を測定した。
【0024】
図5は、液晶素子における透過率の方位角依存性(配向方位)の測定結果を示すグラフである。ここでは、同一条件にて5個の液晶素子のサンプル(No.1~No.5)を作製し、それぞれに対して12Vの駆動電圧を印加した。
図5から、液晶素子の各サンプルにおいて、それぞれ最大透過率が得られる方位角が異なっていることが分かる。このことから、液晶素子の各サンプルにおいて、駆動電圧の印加時における液晶層19の液晶分子の配向方位に差異を生じていることが考えられる。
【0025】
本実施形態の液晶素子において最大透過率が得られるのは、各偏光板21、22の透過軸に対して45°方位に液晶分子が配向している場合であり、この45°方位から液晶分子の配向方位がずれた場合には最大透過率が低下する。つまり、最大透過率のバラつきは、液晶素子毎における駆動電圧印加時の液晶層19の配向方位のバラつきによるものであるといえる。従って、最大透過率のバラつきを抑制するには、液晶素子の駆動電圧印加時における液晶分子の配向方位のバラつきを抑えることが必要である。次に、液晶分子の配向方位のバラつきに関して、カイラル材の有無、配向膜の違いのそれぞれの影響を検証した結果を説明する。
【0026】
図6(A)は、配向膜の違いによる影響の検証結果を説明するための図である。
図6(B)は、カイラル材の有無による影響の検証結果を説明するための図である。いずれの検証においても、3個の液晶素子のサンプルをそれぞれ作製し、上記した透過率の方位角依存性の測定に基づいて最大透過率を示す方位角を求め、基準角度との差分を求めた。
【0027】
配向膜の違いによる影響の検証では、上記した無機配向膜(シロキサン系垂直配向膜)を用いた液晶素子のサンプルを同一条件で3個作製するとともに、比較例として有機材料からなる一般的な垂直配向膜を用いた点のみ異なる液晶素子のサンプルを同一条件で3個作製した。カイラル材の有無による影響の検証では、上記した条件でカイラル材を添加した液晶素子のサンプルを同一条件で3個作製するとともに、比較例としてカイラル材を添加しない点のみ異なる液晶素子のサンプルを同一条件で3個作製した。
【0028】
図6(A)に示すように、有機配向膜を用いた場合には3個のサンプルともに配向方位が略一致しており、配向方位のバラつきがなく安定している。他方で、無機配向膜を用いた場合には、配向方位が略一致する2個のサンプルと配向方位が一致しない1個のサンプルがあり、これらの間では方位角に4°の差異を生じている。つまり、配向方位にバラつきがある。この結果は、有機配向膜に比較して無機配向膜の配向規制力が弱いことによるものと考えられる。
【0029】
図6(B)に示すように、カイラル材を添加しない場合には3個のサンプルともに配向方位が略一致しており、配向方位のバラつきがなく安定している。他方で、カイラル材を添加した場合には、3個のサンプル間で配向方位が一致していない。この結果は、上記のように無機配向膜の配向規制力が相対的に弱いところに、カイラル材によって電圧印加時に生じる配向の捻じれの影響により配向方位にバラつきを生じるものと考えられる。
【0030】
上記の結果から、配向方位ずれは無機配向膜の配向規制力が弱いところにカイラル材の捻じれの影響が加わることで生じていると推察されることから、配向方位ずれ抑制には無機配向膜の配向規制力を高くすることが有効であると考えられる。配向規制力を高める方法としては無機配向膜の焼成温度を低くし、表面自由エネルギー値を小さくする方法が挙げられる。
【0031】
図7(A)は、製造メーカの異なる2種の液晶材料A、Bを用い、配向膜焼成温度を異ならせて作製した液晶素子のサンプルについて、水平回転時の回転角による透過率依存性を測定して得られた基準角との差分(配向方位ずれ角度)を示した図である。液晶材料の違いによらず、いずれの場合も配向膜焼成温度が低いほど配向方位ずれ角度は小さくなることが分かった。つまり、配向方位ずれは抑制されていることが分かった。
【0032】
図7(B)は、配向膜の表面自由エネルギー値の焼成温度依存性の測定結果を示す図である。上記したように無機配向膜としてはシロキサン系垂直配向膜を用いた。このような無機配向膜において、焼成温度が低いほど表面自由エネルギー値が低くなるのは、低温焼成であるほど配向膜の側鎖密度が高くなるためである。測定結果から、配向方位ずれを抑制するには無機配向膜の表面自由エネルギー値を33~35mJ/m
2とすることが好ましいといえる。
【0033】
図8は、無機配向膜の配向規制力の配向膜温度依存について、液晶素子のサンプルに対して等方相処理実施後の配向欠陥量に基づいて確認した結果を示す図である。等方相処理としては、液晶材料のネマティック-等方相転移温度T
ni以上である170℃にて1時間の熱処理を行った。配向欠陥量については目視で確認した。配向規制力(極角アンカリングエネルギー)が弱い場合、液晶層が等方相からネマティック相に戻る過程において、線状配向欠陥(ブロッホウォール)が発生することから、その配向欠陥量により配向規制力の大小を定性評価できる。上記した液晶材料Aを注入したサンプルの等方相処理後の外観観察像を
図8に示すように、180℃にて配向膜を焼成した液晶素子のサンプルにおいて最も配向欠陥が少なかった。配向欠陥の少なさは、無機配向膜の配向規制力が相対的に高いことを示唆するといえる。配向方位ずれ抑制に効果があると考えられる焼成温度は180℃±10%と見積もることができる。
【0034】
他方で、無機配向膜の側鎖密度が高いとラビング処理等の配向処理によるプレティルト角が付与されにくくなる懸念があるため、プレティルト角の配向膜焼成温度依存を確認した。結果を
図9に示す。液晶材料A、Bいずれの場合も180℃の焼成温度においても表示品位が低下しないプレティルト角(89.9°以下のプレティルト角)を得られていることが分かる。
【0035】
図10は、液晶素子における電気光学特性のd/p依存性を示す図である。ここでは、液晶層19の液晶層厚を4μmとし、液晶材料としては誘電率異方性が負の値、屈折率異方性が約0.11のものを用い、この液晶材料に左捻じれのカイラル材を添加した。カイラル材の添加量は、カイラルピッチp=16μmとし、d/pを0から0.25の範囲内でいくつか設定した。印加電圧は0~15Vの範囲とした。
【0036】
図示のように、カイラル材の添加量が増すに伴って(すなわちd/pが大きくなるに伴って)、最大透過率に到達した以降の印加電圧の範囲で透過率が低下する際の低下の度合いが少なくなる傾向が見られる。具体的には、d/pが0から0.167までの範囲では最大透過率に到達した以降の透過率低下が見られる。これに対して、d/pが0.208の場合には印加電圧が8~15Vの範囲でほぼ透過率の変動がない。d/pが0.25の場合も同様の傾向であるが、d/pが0.208の場合に比較して中間電圧での透過率が低くなる。これらの結果からは、d/pの条件としては0.167以上で0.25以下の範囲が好ましいといえる。さらに、d/pが0.208の±10%の範囲内、具体的にはd/pが0.187以上で0.229以下の範囲であれば、電気光学特性としてより好ましい結果が得られる。本例において最適となる条件は印加電圧が高い範囲でも透過率の飽和状態を保持できるd/p=0.208であるといえる。
【0037】
図11(A)は、無機配向膜の焼成温度を180℃及び200℃とした液晶素子の各サンプルについて、水平回転時の回転角による透過率依存性に基づいて求めた配向方位の基準角との差分を示す図である。また、
図11(B)は、液晶素子の各サンプルについて、法線方向の電気光学特性を測定して得られた最大透過率の標準偏差σと平均値T
maxを示す図である。無機配向膜の焼成温度を200℃とした場合に比較して、180℃とした場合には、配向方位ずれを抑制できるとともに、配向方位ずれ量のばらつきを抑制でき、最大透過率ばらつきが小さくなる結果が得られた。
【0038】
さらに検証するために、本実施形態の液晶素子において液晶層へ明状態が得られる十分な電圧を印加した場合の液晶層厚方向の方位角配向分布を計算機シミュレーションによって計算した。シミュレーションにはシンテック製LCDMASTER9(1次元解析)を用いた。液晶層を構成する液晶材料には誘電率異方性Δεが-5.1で相転移温度が約100℃の液晶材料を想定し、液晶層厚は4μmを想定し、駆動電圧を変化させた場合の方位角配向分布を求めた。方位角の座標系は上記した
図2に示したように、3時方位を0°、12時方位を90°、9時方位を180°、6時方位を270°とした。
【0039】
図12は、方位角方位の液晶分子の配向分布の印加電圧依存性の計算結果である。ここでは、第1基板11及び第2基板12の各基板面におけるプレティルト角を89°に設定し、第1基板11の垂直配向膜15の配向容易軸(配向処理方向)を45°、第2基板12の垂直配向膜16の配向容易軸(配向処理方向)を225°のアンチパラレル配向に設定し(
図2参照)、左捻じれのカイラル材を用いた想定でd/pを0.315に設定した。プレティルト角89°における電気光学特性での閾値電圧は約2Vである。また、第1基板11と液晶層19との界面の位置を液晶層厚=0μm、第2基板12と液晶層19との界面の位置を液晶層厚=4μmとした。
【0040】
図示のように、電圧無印加時(0V)では、両基板(第1基板11と第2基板12)がアンチパラレル配向であるので液晶層厚0μmから4μmまで液晶層19内で配向方位が45°で一定となる。しかし、閾値電圧付近(2V、3V)においては、各基板11、12と液晶層19との界面付近での配向方位が基板面での配向方位とは異なる状態となる。また、各基板11、12と液晶層19との界面付近での配向方位は、印加電圧の増加に従って基板面での配向方位との相違が大きくなり、かつ最大の方位角ずれがみられる液晶層厚方向での位置が両基板面に近接していく傾向がみられる。閾値電圧の約2.5倍である5V印加時には最大の方位角ずれが得られ、さらに印加電圧を増加すると方位角ずれが減少する傾向があるがその最大の方位角ずれが生じる液晶層厚はより基板表面に近接する傾向がみられる。
【0041】
ここで、上記したシミュレーションでは、両基板表面に関する設定として強いアンカリング条件を想定しているため、高電圧印加時でも両基板表面ではアンチパラレル配向が維持されている。しかし、実際の液晶素子に用いられる垂直配向膜ではこのような強いアンカリング条件は得られない。特に、無機配向膜は有機配向膜に比較してもアンカリングエネルギーが低いので、その傾向が顕著になる。このため、実際の液晶素子では、カイラル材による捻じれ力も相まって、電圧印加時には両基板表面近傍においても配向方位が大きく変化していると推察される。具体的には、
図12において印加電圧5Vの特性線に対して外挿した直線で示すように、第1基板11側では基板表面近傍での配向方位が90°に近づき、第2基板12側では基板表面近傍での配向方位が180°に近づくと推測される。
【0042】
図13(A)は、液晶素子の電圧印加時の液晶分子の様子を模式的に示す図である。
図13(B)は、平面視での液晶分子の配向方位を概略的に示す図である。液晶層にカイラル材を添加していることから、基板界面の液晶分子は、バルクの配向方位から上下で±45°捻じれる配向となる。これに対して、基板界面の配向方位は配向容易軸によって定まるため、アンチパラレル配向では基板界面とバルク界面での配向方位は45°ずれている。このずれが、カイラル材の捻じれによる配向と配向膜による配向規制力の強弱によりバルクの配向方位に影響を与えるのだと推測される。
【0043】
図14は、一実施形態の車両用灯具システム(照明装置)の構成を示す図である。
図14に示す車両用灯具システムは、上記の実施形態に係る液晶素子10を用いて構成されるものであり、ランプユニット(車両用灯具)101と、コントローラ102と、カメラ103を含んで構成されている。この車両用前照灯システムは、カメラ103によって撮影される画像に基づいて自車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置を検出し、前方車両等の位置を含む一定範囲を非照射範囲(減光領域)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うとともに、路面上へ種々形状の光照射を行うものである。
【0044】
ランプユニット101は、車両前部の所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。なお、ランプユニット101は、例えば車両前部の左右それぞれに1つずつ設けられるがここでは1つのみ図示する。
【0045】
コントローラ102は、車両用灯具101の光源110や液晶パネル115の動作制御を行うものである。このコントローラ102は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態のコントローラ102は、運転席に設置されたライトスイッチ(図示せず)の操作状態に応じて光源110を点灯させるとともに、カメラ103によって検出される前方車両(対向車両、先行車両)、歩行者、道路標識、路上白線などの対象体に応じた配光パターンを設定し、この配光パターンに対応する像を形成するための制御信号を液晶パネル115へ供給する。
【0046】
カメラ103は、自車両の前方空間を撮影して画像を生成し、この画像に対して所定の画像認識処理を行って上記した前方車両等の対象体の位置、範囲、大きさ、種別などを検出する。画像認識処理による検出結果は、カメラ103と接続されているコントローラ102へ供給される。カメラ103は、自車両の車室内の所定位置(例えば、フロントガラス上部)に設置されるか、または自車両の車室外の所定位置(例えば、フロントバンパー内)に設置される。車両に他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0047】
なお、カメラ103における画像認識処理の機能をコントローラ102にて代替してもよい。その場合には、カメラ103は、生成した画像をコントローラ102へ出力、この画像に基づいてコントローラ102側で画像認識処理が行われる。あるいは、カメラ103から画像とそれに基づく画像認識処理の結果の双方がコントローラ2へ供給されてもよい。その場合に、コントローラ102は、カメラ103から得た画像を用いてさらに独自の画像認識処理を行ってもよい。
【0048】
図14に示すランプユニット101は、光源110、リフレクタ111、113、偏光ビームスプリッタ112、1/4波長板114、液晶パネル115、光学補償板116、偏光板117、投影レンズ118を含んで構成されている。これらの各要素は、例えば1つのハウジング(筐体)に収容されて一体化されている。また、光源110と液晶パネル115は、それぞれコントローラ102と接続されている。なお、本実施形態では、液晶パネル115、偏光ビームスプリッタ112、偏光板117が「液晶素子」に対応する。すなわち、上記実施形態の液晶素子10における偏光板21が偏光ビームスプリッタ112に対応し、偏光板22が偏光板117に対応し、各偏光板21、22以外の部分が液晶パネル115に対応する。
【0049】
光源110は、コントローラ102による制御を受けて光を放出する。この光源110は、例えばいくつかの白色LED(Light Emitting Diode)などの発光素子と駆動回路を含んで構成される。なお、光源110の構成はこれに限定されない。例えば、光源110としては、レーザ素子、さらには電球や放電灯など車両用ランプユニットに一般的に使用されている光源が使用可能である。
【0050】
リフレクタ111は、光源110に対応づけて配置されており、光源110から放出される光を反射及び集光して偏光ビームスプリッタ112の方向へ導き、液晶パネル115へ入射させる。リフレクタ111は、例えば楕円面状の反射面を有する反射鏡である。この場合、光源110は、リフレクタ111の反射面の焦点付近に配置することができる。なお、リフレクタ111に代えて集光部として集光レンズを用いてもよい。
【0051】
偏光ビームスプリッタ112は、入射光のうち特定方向の偏光成分を透過し、これと直交方向の偏光成分を反射させる反射型偏光素子である。このような偏光ビームスプリッタ112としては、例えばワイヤーグリッド型偏光素子や多層膜偏光素子などを用いることができる。
【0052】
リフレクタ113は、偏光ビームスプリッタ112によって反射される光が入射し得る位置に設けられており、入射した光を偏光ビームスプリッタ112の方向へ反射させる。
【0053】
1/4波長板114は、偏光ビームスプリッタ112とリフレクタ113の間の光路上に配置されており、入射する光に位相差を与える。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ112によって反射された光は、1/4波長板114を透過し、リフレクタ113で反射されて再度1/4波長板114を透過することで偏光方向が90°回転して偏光ビームスプリッタ112へ再入射する。それにより、再入射した光は偏光ビームスプリッタ112を透過することができるので光の利用効率が向上する。
【0054】
液晶パネル115は、リフレクタ111、113のそれぞれにより反射及び集光された光が入射し得る位置に配置されている。液晶パネル115は、互いに独立に制御可能な複数の画素部(光変調部)を備えている。本実施形態では、液晶パネル115は、各画素部に駆動電圧を与えるためのドライバ(図示せず)を有している。ドライバは、コントローラ102から供給される制御信号に基づいて、液晶パネル115に対して、各画素部を個別に駆動するための駆動電圧を与える。
【0055】
光学補償板116は、液晶パネル115を透過した光の位相差を補償し、偏光度を高めるためのものである。なお、光学補償板116は省略されてもよい。
【0056】
偏光板117は、液晶パネル115の光出射側に配置されている。偏光ビームスプリッタ112、偏光板117とこれらの間に配置された液晶パネル115によって、自車両の前方へ照射する光の配光パターンに対応した像が形成される。
【0057】
投影レンズ118は、リフレクタ111、113により反射及び集光され、液晶パネル115、光学補償板116及び偏光板117を透過した光が入射し得る位置に配置されており、この入射した光を自車両の前方へ投影する。投影レンズ118は、その焦点が液晶パネル115の液晶層の位置に対応するように配置されている。
【0058】
以上のような実施形態によれば、垂直配向型の液晶素子における透過率のバラつきを抑制することが可能になる。また、透過率の低下が抑制された液晶素子を備える車両用灯具システムを提供することが可能になる。
【0059】
なお、本開示は上記した各実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では無機配向膜の一例としてシロキサン系無機配向膜を挙げていたがこれに限定されず、例えばSiO斜方蒸着法によって得られる無機配向膜やイオンビームスパッタ法によって得られる無機配向膜などが用いられてもよい。
【0060】
また、車両用灯具システムの構成は上記した実施形態の構成に限定されず、液晶素子を用いて配光パターンを形成するものであれば本開示に係る液晶素子を適用することができる。また、各実施形態の液晶素子は、車両用途に限らず種々の照明装置(例えば液晶プロジェクタ、街路灯、踏切信号、方向案内照明等)に適用することも可能であり、また一般的な表示用途の液晶素子に適用することも可能である。
【0061】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
互いの一面側を向かい合わせて配置された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の一面側に配置されており第1配向容易軸を有する第1垂直配向膜と、
前記第2基板の一面側に配置されており前記第1配向容易軸に対して反平行に配置された第2配向容易軸を有する第2垂直配向膜と、
カイラル材を含有し、電圧無印加時に略垂直配向であり、前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜との間に配置された液晶層と、
を含み、
前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、無機配向膜を用いて構成されており、それぞれの表面自由エネルギーが33mJ/m2~35mJ/m2である、
液晶素子。
(付記2)
前記カイラル材のピッチpと前記液晶層の層厚dとの比d/pが0.187以上0.229以下である、
付記1に記載の液晶素子。
(付記3)
前記第1垂直配向膜及び前記第2垂直配向膜の各々は、シロキサン系垂直配向膜である、
付記1又は2に記載の液晶素子。
(付記4)
前記第1垂直配向膜と前記第2垂直配向膜の各々と前記液晶層との界面におけるプレティルト角が80°以上90°未満である、
付記1~3の何れかに記載の液晶素子。
(付記5)
前記第1配向容易軸は、前記第1垂直配向膜に施された配向処理の方向と略一致しており、
前記第2配向容易軸は、前記第2垂直配向膜に施された配向処理の方向と略一致している、
付記1~4の何れかに記載の液晶素子。
(付記6)
付記1~5の何れかに記載の液晶素子と、
前記液晶素子に光を入射させる光源と、
を含む、照明装置。
【符号の説明】
【0062】
10:液晶素子、11:第1基板、12:第2基板、13:画素電極、14:対向電極、15、16:垂直配向膜、19:液晶層、21、22:偏光板、31、32:配向容易軸、33、34:透過軸、35、36:実質的な配向方位