(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013092
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】受信システム
(51)【国際特許分類】
E21B 47/12 20120101AFI20240124BHJP
【FI】
E21B47/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115024
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(71)【出願人】
【識別番号】390025759
【氏名又は名称】株式会社ワイビーエム
(71)【出願人】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 博人
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】澤原 拡
(72)【発明者】
【氏名】財部 繁久
(72)【発明者】
【氏名】奈須 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】森 守正
(57)【要約】
【課題】ロッドを地盤に貫入させる重機の稼働状況に関わらず、弾性波を用いた計測データによるロッド先端の姿勢の計測を可能とする。
【解決手段】受信システムは、ロッドを地盤に貫入させる杭打ち重機のロッド先端における姿勢を含む計測データを、弾性波信号を用いて受信する受信システムであって、ロッド先端で計測データを計測して送信された弾性波信号から、重機のアイドリング時を示す所定の周波数帯域の第1ノイズの周波数と、重機によるロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域の第2ノイズの周波数とを特定する特定部と、弾性波信号における、第1ノイズの周波数をハイパスフィルタにより除去し、第2ノイズの周波数をローパスフィルタにより除去するノイズ除去部と、ノイズ除去後の弾性波信号について、出力信号強度を一定に変換する信号補正部と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドを地盤に貫入させる杭打ち重機のロッド先端における姿勢を含む計測データを、弾性波信号を用いて受信する受信システムであって、
ロッド先端で計測データを計測して送信された弾性波信号から、前記重機のアイドリング時を示す所定の周波数帯域の第1ノイズの周波数と、前記重機によるロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域の第2ノイズの周波数とを特定する特定部と、
前記弾性波信号における、前記第1ノイズの周波数をハイパスフィルタにより除去し、前記第2ノイズの周波数をローパスフィルタにより除去するノイズ除去部と、
ノイズ除去後の前記弾性波信号について、出力信号強度を一定に変換する信号補正部と、
を含む受信システム。
【請求項2】
前記重機の稼働を停止させずに、前記弾性波信号を送信する、
請求項1に記載の受信システム。
【請求項3】
ハイパスフィルタを用いて、特定した前記第1ノイズの周波数に対応する周波数帯域以下を除去し、ローパスフィルタを用いて、特定した前記第2ノイズの周波数に対応する周波数帯域以上を除去する、
請求項1又は請求項2に記載の受信システム。
【請求項4】
前記重機の機種に応じて、前記アイドリング時を示す所定の周波数帯域と、前記ロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域とを定め、
前記特定部は、前記重機の機種に応じた、前記第1ノイズの周波数と、前記第2ノイズの周波数とを特定する、
請求項1又は請求項2に記載の受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
掘削ロッドによる掘削精度を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、傾斜角及び方位を計測し、計測値を第一弾性波信号に変換し第一弾性波信号を掘削ロッドに伝達している。
【0003】
また、ロッドの特性を考慮してデータの伝送に最適な弾性波の周波数を定める技術が知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2では、変換周波数特性の各々について、変換周波数と信号強度との関係を求める。そして、関係が予め定められた条件となる変換周波数特性に対応する入力周波数を選択してロッド位置検出に用いる弾性波の周波数を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-092027号公報
【特許文献2】特開2020-060036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、ロッドの掘削位置・姿勢の計測は、掘削先端にある掘削ビットに設置したセンサーにより掘削ビットの傾斜を計測し、計測データを弾性波信号に変換、ボーリングロッドを通して地上まで伝送し、掘削途中で掘削先端の位置・姿勢の把握を行っている。
【0006】
しかしながら従来技術では、アイドリング時のノイズにより弾性波を受信できずエンジンをストップし計測を行っている。
図1に示すように、アイドリングノイズと伝送用弾性波との受信信号強度のピークが近いと、判別が困難なため受信ができない。加えて、
図2に示すように、受信信号強度にばらつきがある為、手動でアンプを調整することで信号強度を適切な大きさにしている。これらにより計測時間が長くなるという問題が発生している。
【0007】
そのため、従来技術は、ロッド先端の姿勢を計測するために時間が掛かる、という課題がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮して、ロッドを地盤に貫入させる重機の稼働状況に関わらず、弾性波を用いた計測データによるロッド先端の姿勢の計測を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の受信システムは、ロッドを地盤に貫入させる杭打ち重機のロッド先端における姿勢を含む計測データを、弾性波信号を用いて受信する受信システムであって、ロッド先端で計測データを計測して送信された弾性波信号から、ロッドを地盤に貫入させる重機のアイドリング時を示す所定の周波数帯域の第1ノイズの周波数と、前記重機によるロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域の第2ノイズの周波数とを特定する特定部と、前記弾性波信号における、前記第1ノイズの周波数をハイパスフィルタにより除去し、前記第2ノイズの周波数をローパスフィルタにより除去するノイズ除去部と、ノイズ除去後の前記弾性波信号について、出力信号強度を一定に変換する信号補正部と、を含む。これにより、ロッドを地盤に貫入させる重機の稼働状況に関わらず、弾性波を用いた計測データによるロッド先端の姿勢の計測を可能とする。
【0010】
本発明の受信システムは、前記重機の稼働を停止させずに、前記弾性波信号を送信する。これにより、ロッド先端の計測に係る重機停止時間を抑止し、掘削作業を短縮することができる。
【0011】
本発明の受信システムは、ハイパスフィルタを用いて、特定した前記第1ノイズの周波数に対応する周波数帯域以下を除去し、ローパスフィルタを用いて、特定した前記第2ノイズの周波数に対応する周波数帯域以上を除去する。これにより、一定の周波数帯を考慮した計測を可能とする。
【0012】
本発明の受信システムは、前記重機の機種に応じて、前記アイドリング時を示す所定の周波数帯域と、前記ロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域とを定め、前記特定部は、前記重機の機種に応じた、前記第1ノイズの周波数と、前記第2ノイズの周波数とを特定する。これにより、重機の種類に応じたノイズの周波数を特定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロッドを地盤に貫入させる重機の稼働状況に関わらず、弾性波を用いた計測データによるロッド先端の姿勢の計測を可能とする、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アイドリングノイズと伝送用弾性波との受信信号強度のピークが近い場合を示す図である。
【
図2】受信信号強度にばらつきがある為、手動でアンプを調整する場合を示す図である。
【
図3】受信システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】ノイズ除去のフィルタ特性の一例を示す図である。
【
図5】出力信号強度を一定にした場合の例を示す図である。
【
図6】先行削孔時に傾きの計測処理を行う場合のイメージを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る受信システムにおける処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の受信システムについて説明する。
【0016】
図3は、受信システム1の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、受信システム1は、杭打ち重機5(以下、単に重機と表記する)のロッド10と、弾性波発生部11と、送信素子12と、受信素子13と、信号処理装置20とを備える。重機は、ロッド10を地盤に貫入させる。信号処理装置20は、特定部21と、ノイズ除去部22と、信号補正部23と、データ処理部24とを備える。なお、データ処理部24は信号処理装置20の外部に設置してもよい。信号処理装置20は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータにより実現される。
【0017】
受信システム1では、地盤を掘削するロッド10の先端の弾性波発生部11により弾性波信号を発生させ、送信素子12から受信素子13へ送信し、受信素子13は弾性波信号を信号処理装置20へ出力する。弾性波信号には、重機のロッド先端における位置及び姿勢を含む計測データが含まれる。なお、弾性波は、送信素子12の送信基板におけるMPU(Micro Processor Unit)(図示省略)で発生させた伝送信号を基板上のアンプで増幅し送信素子を振動させることで発生させている。弾性波信号には、重機のロッド先端における位置及び姿勢を含む計測データが含まれる。計測には、例えば光ファイバージャイロなどを用いる。また、受信素子13と信号処理装置20とは図示しないネットワーク(WiFi等)により接続されていてもよい。
【0018】
なお、受信システム1は、重機の稼働を停止させずに弾性波信号を送信する。重機を停止させない場合、アイドリング時と定格回転時のノイズの影響が含まれる。重機を停止させない状態とは、掘削動作をすぐに再開できるようにエンジンやアクチュエータなどの掘削動作が可能な状態になっていることである。アイドリング時とは掘削動作を停止し、稼働可能になっている状態である。定格回転時とはロッドを回転させ掘削するために稼働の準備又は稼働している状態である。
【0019】
特定部21は、弾性波信号から、ロッドを地盤に貫入させる重機のアイドリング時を示す所定の周波数帯域の第1ノイズの周波数と、重機によるロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域の第2ノイズの周波数とを特定する。
【0020】
周波数の特定は、例えばオシロスコープを用いて弾性波信号の特定の周波数帯域に、対応する周波数の波が存在しているかを判別することにより行う。周波数の判別は、特定の周波数帯域の波のパターンと一致しているか否か、又は受信信号強度が閾値以上であるか否か等により行う。アイドリングノイズに対応する0.85kHz付近の周波数帯域に存在する周波数の波を、第1ノイズの周波数として特定する。定格回転時ノイズに対応する3kHz付近の周波数帯域に存在する周波数の波を、第2ノイズの周波数として特定する。なお、重機の機種に応じて特定の周波数帯域を設定する。重機の機種に応じて、アイドリングノイズの周波数帯域、定格回転時ノイズの周波数帯域を定めておき、重機の機種に応じた第1ノイズの周波数と、第2ノイズの周波数とを特定する。
【0021】
ノイズ除去部22は、弾性波信号における、第1ノイズの周波数をハイパスフィルタにより除去し、第2ノイズの周波数をローパスフィルタにより除去する。
図4は、ノイズ除去のフィルタ特性の一例を示す図である。第1ノイズの周波数の除去は、ハイパスフィルタを用いて、特定した第1ノイズの周波数に対応する周波数帯域以下を除去し、第2ノイズの周波数の除去は、ローパスフィルタを用いて、特定した第2ノイズの周波数に対応する周波数帯域以上を除去する。
【0022】
図4に示すように、第1ノイズ(アイドリングノイズ)の周波数が0.85kHzの場合は、ハイパスフィルタ(HPF)を用いて、1.3kHz付近からアイドリングノイズの0.85kHzまで減衰させ、0.85kHz以下の周波数帯域を除去する。1.3kHz~0.85kHzが第1ノイズの周波数に対応する周波数帯域である。第2ノイズ(定格回転時ノイズ)の周波数が3kHzの場合は、ローパスフィルタ(LPF)を用いて、2.2kHz付近から定格回転時ノイズの3kHzまで減衰させ、3kHz以上の周波数帯域を除去する。2.2kHz~3kHzが第2ノイズの周波数に対応する周波数帯域である。HPFとLPFを使用するため、結果的に1.3kHz~2.2kHzのバンドパスフィルタ(BPF)でアイドリングノイズと定格回転時ノイズを除去し、ロッドからの弾性波を適切に受信する。
【0023】
信号補正部23は、ノイズ除去後の弾性波信号について、出力信号強度を一定に変換する。信号補正部23にはオートゲインコントロール(AGC)などの回路を用いればよい。
図5は、出力信号強度を一定にした場合の例である。横軸が入力となるノイズ除去後の信号強度であり、縦軸が出力となる信号強度である。信号強度は10mV~数百mVの範囲で何れかの値を定めて一定とすればよい。
【0024】
データ処理部24は、処理済みの弾性波信号を解析してロッド先端の位置及び姿勢を取得し、計測処理を行う。計測処理の適用例を説明する。
図6は、先行削孔時に傾きの計測処理を行う場合のイメージである。
図6では、重機として山留め壁先行削孔機に本実施形態を適用し、掘削フェーズごとに計測を行う場合を示している。計測処理では、掘削フェーズごとに、重機位置に対する傾きの度合いを計測し、傾きが一定以上になっていないかをチェックする。傾きが一定以上になっている場合には、傾きが一定未満となるように傾き修正を行う。
【0025】
重機アイドリング時のノイズ除去を行うことで、重機のエンジンを止めること無く計測を行え、計測による重機停止時間を短縮することができる。また、データ処理に最適な受信信号強度に自動で調整することで、手動計測時の調整手間削減やデータの受信し損ないをなくすことができる。
【0026】
次に、本発明の実施形態の受信システム1の作用について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る受信システム1における処理を示すフローチャートである。
【0027】
ステップS100では、受信システム1は、弾性波発生部11により弾性波信号を発生させ、弾性波信号を送信素子12から受信素子13へ送信し、受信素子13から弾性波信号を信号処理装置20に出力する。このとき、重機の稼働を停止させずに及び送信を行う。
【0028】
ステップS102では、特定部21は、弾性波信号から、重機のアイドリング時を示す所定の周波数帯域の第1ノイズの周波数と、重機によるロッドの定格回転時を示す所定の周波数帯域の第2ノイズの周波数とを特定する。
【0029】
ステップS104では、ノイズ除去部22は、弾性波信号における、第1ノイズの周波数をハイパスフィルタにより除去し、第2ノイズの周波数をローパスフィルタにより除去する。第1ノイズの周波数の除去は、ハイパスフィルタを用いて、特定した第1ノイズの周波数に対応する周波数帯域以下を除去し、第2ノイズの周波数の除去は、ローパスフィルタを用いて、特定した第2ノイズの周波数に対応する周波数帯域以上を除去する。
【0030】
ステップS106では、信号補正部23は、ノイズ除去後の弾性波信号について、出力信号強度を一定に変換する。
【0031】
ステップS108では、データ処理部24は、処理済みの弾性波信号を解析してロッド先端の位置及び姿勢を取得し、計測処理を行う。
【0032】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る受信システム1によれば、ロッドを地盤に貫入させる重機の稼働状況に関わらず、弾性波を用いた計測データによるロッド先端の姿勢の計測を可能とする。
【0033】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、アイドリングノイズと定格回転時ノイズを対象として除去する態様について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、重機の機種に特有の稼働時の他のノイズがある場合には、当該他のノイズに対応する周波数帯域から当該他のノイズを特定して除去するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 受信システム
5 重機
10 ロッド
11 弾性波発生部
12 送信素子
13 受信素子
20 信号処理装置
21 特定部
22 ノイズ除去部
23 信号補正部
24 データ処理部