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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130920
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】プラズマ発生装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/26 20060101AFI20240920BHJP
   A61L 2/14 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H05H1/26
A61L2/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040883
(22)【出願日】2023-03-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (刊行物等1)発表日:令和4年9月26日~27日、開催場所:日本防菌防黴学会第49回年次大会ポスター発表、公開者:大澤泰樹、劉智志、山内素明、松村有里子、岩澤篤郎、沖野晃俊、日本防菌防黴学会第49回年次大会ポスター発表で発表したポスター
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】沖野 晃俊
(72)【発明者】
【氏名】大澤 泰樹
【テーマコード(参考)】
2G084
4C058
【Fターム(参考)】
2G084AA25
2G084BB22
2G084CC02
2G084CC03
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC14
2G084CC19
2G084CC22
2G084CC35
2G084FF12
2G084FF32
2G084GG07
2G084GG18
4C058AA01
4C058BB06
4C058KK06
4C058KK50
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、希ガスや窒素ガスを用いたプラズマよりも殺菌や表面処理の性能の向上が見込め、可搬性に優れ、取り扱いが容易なプラズマを利用可能なプラズマ発生装置を得ることである。
【解決手段】本発明のプラズマ発生装置100は、蒸気プラズマを生成する蒸気プラズマ生成手段110と、蒸気プラズマを吐出するノズル120とを備え、蒸気プラズマ生成手段110は、1以上の電極111a、112aを含む筐体110aと、1以上の電極によって放電が発生するように1以上の電極に電圧を印加する電圧印加手段110bと、供給源から1以上の電極が存在する域に液体を供給する供給管110cと、液体を気化して蒸気を生成する蒸気生成手段110dとを備え、筐体内で1以上の電極による放電により前記蒸気をプラズマ化して前記蒸気プラズマを生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気プラズマを生成する蒸気プラズマ生成手段と、
前記蒸気プラズマを吐出するノズルと
を備え、
前記蒸気プラズマ生成手段は、
1つ以上の電極を含む筐体と、
前記1以上の電極によって放電が発生するように前記1以上の電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
供給源から前記1以上の電極が存在する近傍領域に液体を供給する供給管と、
前記液体を気化して蒸気を生成する水蒸気生成手段と
を備え、
前記筐体内で前記1以上の電極による放電により前記蒸気をプラズマ化して前記蒸気プラズマを生成する、プラズマ発生装置。
【請求項2】
前記電圧印加手段は、前記1以上の電極に約3kV~約18kVの電圧を印加可能なように構成されており、
前記蒸気プラズマの温度は、約300K~約2000Kである、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段をさらに備えた、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
前記液滴除去手段は、前記ノズルを加熱するノズル加熱装置を備える、請求項3に記載のプラズマ発生装置。
【請求項5】
前記蒸気生成手段は、前記筐体の内部に設けられた筐体内加熱装置を備える、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項6】
前記蒸気生成手段は、前記ノズルの内部に設けられたノズル内加熱装置を備え、前記ノズル内加熱装置は前記ノズルに生成される液滴を除去する前記液滴除去手段を兼ねる、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項7】
前記供給管に前記液体を供給する供給手段をさらに備え、
前記供給手段は、約0.1L/min以下、好ましくは約0.010L/min以下で前記液体を供給可能なように構成されている、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項8】
前記供給手段は、容積式ポンプである、請求項7に記載のプラズマ発生装置。
【請求項9】
前記液体は、水、アルコール、アミン、アクリル酸、シランカップリング剤、モノマーの少なくとも1種を含む、請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項10】
前記液体は水である、請求項9に記載のプラズマ発生装置。
【請求項11】
被処理体の処理面を殺菌する殺菌方法であって、
請求項1に記載のプラズマ発生装置により前記蒸気プラズマを前記被処理体の処理面に吐出することを含み、
前記液体は水を含む、殺菌方法。
【請求項12】
被処理体の表面を処理する処理方法であって、
請求項1に記載のプラズマ発生装置により前記蒸気プラズマを前記被処理体の処理面に吐出することを含み、
前記液体はアルコール、アミン、アクリル酸、カップリング剤、モノマーの少なくとも1種を含む、処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置に関し、特に、プラズマ化された液体蒸気(例えば、水蒸気プラズマ)を発生する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低温プラズマは、表面処理の他、医療分野における殺菌、血液凝固(止血)、創傷治癒、水質改善、気体浄化、植物の育成促進などの効果が得られることから、研究開発が進められている。例えば、特許文献1には、希ガスや窒素ガスなどを用いた低温プラズマによるプラズマジェットを簡単な構成で効率よく生成可能な装置が開示されている。しかしながら、特許文献1のプラズマ照射装置は希ガスや窒素ガスなどの供給源としてガスボンベを必要とし、可搬性に乏しく、取り扱いにも注意が必要だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-033603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、希ガスや窒素ガスなどを用いたプラズマよりも殺菌や表面処理の性能の向上が見込め、可搬性と取り扱い性に優れた蒸気プラズマを照射可能なプラズマ発生装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の項目を提供する。
【0006】
(項目1)
蒸気プラズマを生成する蒸気プラズマ生成手段と、
前記蒸気プラズマを吐出するノズルと
を備え、
前記蒸気プラズマ生成手段は、
1つ以上の電極を含む筐体と、
前記1以上の電極によって放電が発生するように前記1以上の電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
供給源から前記1以上の電極が存在する領域に液体を供給する供給管と、
前記液体を気化して蒸気を生成する蒸気生成手段と
を備え、
前記筐体内で前記1以上の電極による放電により前記蒸気をプラズマ化して前記蒸気プラズマを生成する、プラズマ発生装置。
【0007】
(項目2)
前記電圧印加手段は、前記1以上の電極に約3kV~約18kVの電圧を印加可能なように構成されており、
前記蒸気プラズマの温度は、約300K~約2000Kである、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0008】
(項目3)
前記ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段をさらに備えた、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0009】
(項目4)
前記液滴除去手段は、前記ノズルを加熱するノズル加熱装置を備える、項目3に記載のプラズマ発生装置。
【0010】
(項目5)
前記蒸気生成手段は、前記筐体の内部に設けられた筐体内加熱装置を備える、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0011】
(項目6)
前記蒸気生成手段は、前記ノズルの内部に設けられたノズル内加熱装置を備え、前記ノズル内加熱装置は前記ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段を兼ねる、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0012】
(項目7)
前記供給管に前記液体を供給する供給手段をさらに備え、
前記供給手段は、約0.1L/min以下、好ましくは約0.010L/min以下で前記液体を供給可能なように構成されている、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0013】
(項目8)
前記供給手段は、容積式ポンプである、項目7に記載のプラズマ発生装置。
【0014】
(項目9)
前記液体は、水、アルコール、アミン、アクリル酸、カップリング剤、モノマーの少なくとも1種を含む、項目1に記載のプラズマ発生装置。
【0015】
(項目10)
前記液体は水である、項目9に記載のプラズマ発生装置。
【0016】
(項目11)
被処理体の処理面を殺菌する殺菌方法であって、
項目1に記載のプラズマ発生装置により前記蒸気プラズマを前記被処理体の処理面に照射することを含み、
前記液体は水である、殺菌方法。
【0017】
(項目12)
被処理体の表面を処理する処理方法であって、
項目1に記載のプラズマ発生装置により前記蒸気プラズマを前記被処理体の表面に吐出することを含み、
前記液体はアルコール、アミン、アクリル酸、カップリング剤、モノマーの少なくとも1種を含む、処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、希ガスや窒素ガスなどを用いたプラズマよりも殺菌や表面処理の性能の向上が見込め、可搬性に優れ、取り扱いが容易な蒸気プラズマを発生可能なプラズマ発生装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の1つの実施形態によるプラズマ発生装置100の構成を示す図。
図2図1に示すプラズマ発生装置100における液体供給手段110e、蒸気生成手段110dおよび筐体110aの具体的な構成を示す図。
図3】本発明の効果を示す試験結果を説明するための図。
図4図1に示す実施形態の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0022】
本発明は、希ガスや窒素ガスなどを用いたプラズマよりも殺菌や表面処理の性能の向上が見込め、可搬性に優れ、取り扱いが容易なプラズマを吐出可能なプラズマ発生装置を得ることを課題とし、
蒸気プラズマを生成する蒸気プラズマ生成手段と、
蒸気プラズマを吐出するノズルと
を備え、
蒸気プラズマ生成手段は、
1以上の電極を含む筐体と、
1以上の電極によって放電が発生するように1つ以上の電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
供給源から1以上の電極が存在する領域に液体を供給する供給管と、
液体を気化して蒸気を生成する蒸気生成手段と
を備え、
筐体内で1以上の電極による放電により蒸気をプラズマ化して蒸気プラズマを生成する、プラズマ発生装置を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0023】
従って、本発明のプラズマ発生装置は、液体を気化して蒸気を生成し、1以上の電極による放電により、1以上の電極が存在する領域を通る蒸気をプラズマ化するものであれば、特に限定されるものではない。
【0024】
〔蒸気プラズマ生成手段〕
例えば、蒸気プラズマ生成手段は、1つ以上の電極を含む筐体と、1以上らの電極に放電させる電圧印加手段と、1以上の電極が存在する領域に液体を供給する供給管と、この液体を気化して蒸気を生成する蒸気生成手段とを有し、筐体内で1以上の電極による放電により蒸気をプラズマ化して蒸気プラズマを生成するものであれば、その他の構成は、特に限定されるものではない。
【0025】
プラズマの生成手段は、任意の方式であり得る。例えば、電極放電、誘電体バリア放電、コロナ放電、容量結合方式、高周波誘導結合方式、マイクロ波方式、レーザー方式などであってもよい。1つの実施形態において、プラズマ生成手段は電極放電方式を採用する。ここで、蒸気プラズマの生成条件については、発明者らは、実験から蒸気流量約3~約5L/min程度で約10分以上安定にプラズマを生成可能であることを確認している。
【0026】
言い換えると、蒸気流量が約3L/min以下である場合は、プラズマが間欠的に生成され、蒸気流量が約5L/min以上である場合は、ノズルでの液滴の発生の問題が生ずる。
【0027】
ここで、プラズマが間欠的に生成されるのは、蒸気量が足りないためと考えられる。また、ノズルの近傍で筐体内面に液滴が付着してしまうと、1以上の電極での放電が単なる大気中でのアーク放電のような状況となり、1以上の電極間での放電が蒸気のプラズマ化に寄与しにくくなり、プラズマが安定して生成できなくなってしまうおそれがある。なお、電極の数は1以上であれば任意の数であり得る。本発明の実施形態においては、2つの電極を用いた場合において説示する。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0028】
〔液体〕
なお、本発明において、蒸気化する液体は、任意の液体であり得る。例えば、水、アルコール、アミン、アクリル酸、モノマー、カップリング剤などであって、それらを1種もしくは複数種含んでいても良い。例えば、液体を水(水蒸気)とした場合は、特に殺菌処理に大きな効果を奏し、アルコール、アミン、アクリル酸、モノマー、カップリング剤などの場合は、特に表面処理コーティングに大きな効果を奏し得る。
【0029】
本発明ではプラズマの発生源として水などの液体を用いることで、従来の希ガスや窒素、二酸化炭素などの気体を用いる場合にようにガスボンベが不要であり、可搬性に優れ、装置の取扱いが容易となるという効果を奏する。ガスボンベは気体などが内部に高圧状態で充填されているため、危険であり、ガス漏れやボンベ保管の規制などに基づく保管などが必要であるが、本件発明の蒸気プラズマ発生装置は、ガスボンベが不要なため、上記の心配がなく、安心、安全にプラズマを発生させることが可能となる点で従来のプラズマ発生手段では得られない、優れた効果を奏する。
【0030】
(筐体)
筐体は、内部空間に2つの電極を配置したものであれば、形状、大きさ、材質は限定されるものではない。
【0031】
例えば、形状は、円筒形状でも四角筒形状でもよく、大きさは、吐出する蒸気プラズマの流量(L/min)に応じて適宜設定される。
【0032】
材質は、樹脂であっても金属であってもよいが、内部で導電性の物質であるプラズマが生成されることから、筐体を周辺の機器から絶縁する処置を考慮すると、絶縁性の素材である樹脂が望ましい。例えば、筐体には、塩化ビニール、アクリルなどの樹脂製の円筒体が用いられるが、素材は樹脂に限定されず、ステンレスなどの金属でもよい。
【0033】
また、2つの電極の形状、大きさ、配置、離間距離などは、効果的に放電が行われるように設定されており、その形状は、例えば、円板形状、四角形の板状などであり、2つの電極の配置は、2つの電極が対向し、それらの間での蒸気の流れの方向と平行に配置されていることが好ましい。2つの電極間での放電によりこれらの電極間を通過する蒸気が効果的にプラズマ化されるようにするためである。
【0034】
また、電極の材料としては、タングステン、モリブデン、アルミニウム、銅、炭素、ステンレスなどを用いることができる。
【0035】
また、2つの電極間で発生するプラズマ化された蒸気(例えば、水蒸気プラズマ)の温度は、約300K~約2000Kである。特に、人体、あるいは熱に弱い素材に対するプラズマ吐出を行う場合は、室温に近い温度であることが好ましい。
【0036】
(電圧印加手段)
電圧印加手段は、筐体内の1以上の電極間に電圧を印加して放電を発生させるものであれば、特に限定されるものではなく、1以上の電極に印加する電圧は直流電圧でも交流電圧でもよいが、1以上の電極によって発生する正負のイオンの分布に偏りが生じにくい交流電圧が望ましい。
【0037】
印加する電圧の大きさは任意な値を設定し得る。好ましくは、電圧値は、約3kV~約18kVの範囲の電圧であり、例えば、1つの実施形態において、約9kVである。また、交流電圧の場合における周波数の値も任意な値を設定し得る。好ましくは、約50Hz~約2.45GHzの範囲であり、例えば、1つの実施形態において、約16kHzである。
【0038】
(供給管)
供給管は、液体をその供給源から筐体内の1以上の電極が存在する領域に送る流路となるものであれば、サイズ、材質などは限定されるものではないが、加熱した供給管に液体を流して気化させる場合は、供給管は、少なくとも熱伝導性、耐熱性、耐腐食性のいずれか一つの効果の高い管材(例えば、ステンレス管)であることが望ましい。
【0039】
また、供給管の開口径(管の内径)は、単位時間当たりの液体の流量に応じて約0.5mm~約20mmの範囲で設定され得る。例えば、1分間当たりの液体の流量は、約0.0001L~約0.1Lであり、1つの実施形態では、1分間当たり約0.010Lであり、この場合、供給管110cの開口径は約1mmである。
【0040】
液体(例えば、水蒸気)の流量が少なすぎるとプラズマの安定は発生が阻害され、一方、液体の流量が多すぎると、プラズマの噴射ノズルでの液滴の発生を招くこととなる。
【0041】
(蒸気生成手段)
蒸気生成手段は、供給源から1以上の電極が存在する領域に供給する液体を気化して蒸気を生成するものであれば、その他の構成は限定されるものでないが、例えば、蒸気を生成する手段としては、1つの実施形態において、供給管内を流れる液体を加熱して気化させる加熱装置である。例えば、このような加熱装置としては、細長い短冊状のリボンヒータ(例えば幅40mm)などの金属ヒータであってもよいし、金属ヒータよりもより柔らかく柔軟性のあるラバー状のヒータ(例えば、シリコンヒータ)であってもよい。1つの実施形態では、供給管の外周面にリボンヒータを採用し、加熱温度は、約200℃であり、消費電力は約300Wである。
【0042】
また、液体を気化するための加熱装置が設置する場所は任意の位置であり得る。例えば、供給管など筐体の外部に設けられても良いし、筐体の外部ではなく筐体内に設けられるもの(筐体内加熱装置)あるいはノズルに設けられるもの(ノズル加熱装置)でもよい。
【0043】
筐体内部および/またはノズルに設けられる加熱装置(筐体内加熱装置および/またはノズル加熱装置)としては、供給管の外表面に巻き付けられる幅の広い金属ヒータ(リボンヒータ)ではなく、より柔軟性のあるラバー状ヒータ(例えば、シリコンヒータ)であり得る。1つの実施形態において、シリコンヒータを採用し、その外形は例えば、外径2.4mmである。
【0044】
例えば、液体として水を採用する場合において、1gの水の温度を1℃上げるのに約4.2J必要であり、1gの水の気化熱は約2264Jであるので,20℃の1gの水を100℃の水蒸気にするための熱は約2600Jとなる。
【0045】
そのため、蒸気プラズマとして水蒸気プラズマとする場合における殺菌処理または表面処理を効果的に処理するためには、水蒸気プラズマの水蒸気量は、最低限3L/min生成することが必要と考えられる。そして、3L/minの水蒸気流量を生成するには,熱の逃げが全くなくても、76.5Wの加熱はどうしても必要であり、実用的にはその1.5倍ぐらいは必要と考えられる。
【0046】
また、蒸気生成手段は、断熱材を備えていてもよい。例えば、加熱装置が配置される筐体、供給管、およびノズルの少なくとも一つの外表面に断熱材を配置することによって、加熱装置で発生した熱をすべて液体の気化熱として利用することが可能となる。
【0047】
(供給手段)
また、プラズマ発生装置は、供給管に液体を供給する供給手段をさらに備えてもよい。供給手段は、任意の形態のポンプであり得る。例えば、機械的に液体が溜まる部分を押し出すことで圧送するペリスタルティックポンプなどの容積式であってもよいし、あるいはインペラが回転することによる遠心力で液体を圧送する渦巻ポンプなどの遠心式ポンプであってもよい。
【0048】
好ましくは、供給手段は、約0.010L/min以下で水を供給可能なように構成されており、1つの実施形態では、供給手段は、ペリスタルティックポンプである。ペリスタルティックポンプは、常に定量を吐出し続けることが可能な容積式ポンプであり、供給管での液体の流量を一定に保つのに好ましいものである。
【0049】
(ノズル)
また、プラズマ発生装置を構成する蒸気プラズマを吐出するノズルは、筐体内で生成された蒸気プラズマを被処理隊の処理面に吐出することが可能なものであればよく、その他の構成は限定されるものではないが、ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段をさらに備えることが好ましい。この液滴除去手段は、液滴を生じさせない、または、液滴を気化させる加熱手段であってもよいし、液滴を除去する吸引手段であってもよい。1つの実施形態ではノズルを加熱する加熱装置である。液滴除去を目的とするノズルに設けられる加熱装置は、ノズルの外部に設けられても良いし、ノズル内部に設けられても良い。また、上述した蒸気生成手段としてノズルの内部に設けたノズル内加熱手段を、ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段として併用してもよい。
【0050】
このような液滴除去のための加熱装置を設けることで、液体を効率よく蒸気化することが可能となりプ蒸気をプラズマ化する環境として好ましい環境が実現される。
【0051】
このように本発明のプラズマ発生装置は、液体を気化して蒸気を生成し、2つの電極間での放電によりこれらの電極間を通る蒸気をプラズマ化して吐出するものであれば、特に限定されるものではないが、以下の実施形態で示すプラズマ発生装置では、蒸気プラズマ生成手段は、供給管に液体を供給する供給手段(ペリスタルティックポンプ)を備えたものとし、ノズルは、ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段(加熱装置)を有するものとする。
【0052】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0053】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1によるプラズマ発生装置100の構成を示す図である。
【0054】
プラズマ発生装置100は、蒸気プラズマを生成する蒸気プラズマ生成手段110と、蒸気プラズマを吐出するノズル120とを備えている。
【0055】
ここで、蒸気プラズマ生成手段110は、2つの電極111a、112aを含む筐体110aと、2つの電極111a、112a間で放電が発生するように2つの電極111a、112a間に交流電圧を印加する電圧印加手段110bとを備えている。
【0056】
ここで、2つの電極111a、112aは、筐体110aの内部空間内に対向するように配置されており、一方の電極111aは、アースに接続され、他方の電極112aとアースとの間には、交流電圧を出力する電圧印加手段110bが接続されている。
【0057】
ここで、電圧印加手段110bが出力する交流電圧の電圧値は約9kVであり、その周波数は、約16kHzである。
【0058】
なお、ここでは、筐体110aには塩化ビニール、アクリルなどの樹脂製の円筒体が用いられている
蒸気プラズマ生成手段110はさらに、液体(例えば、水)の供給源130から2つの電極111a、112a間の領域Rに液体Waを供給する供給管110cと、供給管110c内を流れる液体Waを気化して蒸気Avを生成する蒸気生成手段110dとを備えている。
【0059】
ここで、供給管110cは、液体を供給源130から筐体110a内の2つの電極111a、112a間の領域Rに送る流路となるものであり、一端側が供給源130に接続されその他端側が筐体110aの一端側から内部に挿入されている。
【0060】
この供給管110cの一部には、蒸気生成手段110dとしての加熱手段が設けられており、この加熱装置により供給管110c内の液体が加熱されて蒸気が生成されるようになっている。
【0061】
なお、ここでは、蒸気生成手段110dとしての加熱手段は、筐体110aおよびノズル120の外部に設けられているが、この加熱手段は、筐体110aの内部に設けられた筐体内加熱装置であってもよいし、あるいはノズル120の内部に設けられたノズル内加熱装置であってもよい。この場合、筐体110aおよびノズル120の少なくとも一方を断熱材で被覆することでこれらの加熱装置で発生した熱のすべてを実質的に液体の気化熱として利用することができる。また、液体を気化させるためのノズル内加熱装置は、ノズルで生ずる液滴を除去するための加熱装置としても兼用することができる。詳細については、後述する変形例で具体的に説明する。
【0062】
また、供給管110cの蒸気生成手段110dと供給源130との間の部分には、供給源130からの液体を供給管110cに供給する供給手段110eが設けられている。
【0063】
また、このプラズマ発生装置100では、筐体110a内で生成された蒸気プラズマを吐出するノズル120が筐体110aの他端側に取り付けられており、このノズル120には、ノズルに生成される液滴を除去する液滴除去手段121が設けられている。
【0064】
以下、液体供給手段110e、蒸気生成手段110d、およびノズル120の構成をより具体的に説明する。
【0065】
図2は、図1に示すプラズマ発生装置100における液体供給手段110e、蒸気生成手段110dおよびノズル120の具体的な構成を示す図である。
【0066】
この実施形態のプラズマ発生装置100では、液体供給手段110eには、図2に示すようにペリスタルティックポンプが用いられている。
【0067】
このポンプは、ハウジング11と、ハウジング11の内面に沿って設けられたチューブ12と、このチューブ12をしごくように移動するローラー13とを備えている。このローラー13は、回転軸体15に回転可能に支持された回転アーム14の先端に支持されている。
【0068】
そしてチューブ12の一端には、供給管110cの供給源130側の部分が接続され、チューブ12の他端には、供給管110cの筐体110a側の部分が接続され、供給管110cはその一部にペリスタルティックポンプが組み込まれた状態となっている。
【0069】
また、液体蒸気生成手段110dとしての加熱装置にはリボンヒータが用いられており、供給管110cのうちの液体供給手段110eと筐体110aとの間の部分にリボンヒータが巻き付けられている。リボンヒータは、細長いテープ状の発熱部材であり、リボンヒータを供給管の外周部に巻き付けることで簡単に加熱手段として供給管110cに装着することができるものである。
【0070】
さらに、この実施形態のプラズマ発生装置100では、ノズル120には生成された液滴を除去する液滴除去手段121としての加熱装置が装着されている。ここでは、この液滴除去用の加熱装置は、図2に示すように、ノズル120の先端に形成されている蒸気プラズマPmの噴出口120aの回りに取り付けられている。本発明のプラズマ発生装置においては、プラズマ発生源として窒素や二酸化炭素などの気体を用いないためガスボンベが不要であり、可搬性に優れ、装置の取扱いが非常に容易であり、メンテナンスも簡易である。
【0071】
次にこの実施形態のプラズマ発生装置100の動作を説明する。
【0072】
まず、プラズマ発生装置100では、蒸気生成手段110dとしての加熱装置により供給管110cを加熱するとともに、液滴除去手段121としての加熱装置によりノズル120の先端部を加熱し、さらに筐体110a内の2つの電極111a、112aに交流電圧を印加した状態とする。
【0073】
この状態で、液体供給手段110eとしてのペリスタルティックポンプを動作させて供給源130から液体を供給管110cに供給する。これにより、液体が供給管110cを流れてリボンヒータ(蒸気生成手段110d)が装着された部分に到達すると、この部分で液体が気化されて蒸気Avとなって筐体110aの電極111a、112aの間の領域Rに流れ込む。
【0074】
これらの電極111a、112aには交流電圧の印加により放電が生じており、2つの電極111a、112aの間の領域Rに流れ込んだ蒸気Avは両電極111aおよび112a間での放電によりプラズマ化されて蒸気プラズマPmとなってノズル120の先端の噴出口120aから出射する。このようにして被処処理体Tmの処理面に蒸気プラズマPmが吐出されることにより、被処処理体Tmの処理面の殺菌が行われる。
【0075】
以下、この蒸気プラズマPmの吐出による殺菌効果の実験を説明する。
【0076】
このとき、供給管110cでの液体である水の供給量は、例えば、0.010L/minとし、筐体への蒸気(水蒸気)Avの供給量は、17L/minとした。また、2つの電極111a、112a間に印加する電圧は、振幅値が9kVで、周波数が16kHzの交流電圧とした。また、噴出口120aの大きさは直径約1mmであって、噴出口120aと試料との間の距離を10mm、吐出時間を10秒もしくは30秒とした。
【0077】
試料としては、104-5(CFU/mL)に調整した黄色ブドウ球菌(S.aureus)懸濁液を1mL滴下した後に乾燥したものを用いた。なお、CFU(コロニー形成単位)は、細菌を培地で培養して、できたコロニー(集団)数を表しており、生菌数(生きている菌の数)を表す指標である。
【0078】
図3は、この試料を示し、図3(a)は、蒸気プラズマPmの吐出前の状態を示す。図3中、Paは、試料シートStに上記の調整した懸濁液を1mL滴下して乾燥した懸濁液塗布領域であり、Pbは、懸濁液塗布領域Paのうちの殺菌された範囲を示す。
【0079】
図3(b)に示すように、ノズル120の水蒸気からなる蒸気プラズマPmの噴出口120a(直径約1mm)より広い範囲(直径約28mm)で殺菌効果が確認された。これにより、蒸気プラズマによっても効率的に高い殺菌効果を得られることがわかった。この結果は、検証が必要であるが従来の希ガスや窒素ガスなどを用いたプラズマによる殺菌効果よりも高い効果が十分見込まれる結果である。
【0080】
上述より、本発明の蒸気プラズマ発生装置は、殺菌効果従来の窒素ガスなどを用いた低温プラズマ照射装置による処理に比べてより殺菌効果が向上した結果が得られた。
【0081】
なお、本発明の蒸気プラズマ発生装置は殺菌効果だけではなく、表面処理能力(接着力)についても同様に従来の窒素ガスなどを用いた低温プラズマ照射装置による処理よりも高い効果が得られている。
【0082】
(変形例1)
次に上述した実施形態の変形例を具体的に説明する。
【0083】
上述して実施形態のプラズマ発生装置では、蒸気生成手段110dとしての加熱手段は、筐体110aおよびノズル120の外部に設けられているが、この加熱手段は、筐体110aの内部に設けられていてもよいし、あるいはノズル120の内部に設けられていてもよく、この変形例では、蒸気生成手段としての加熱手段がノズル内に設けられている場合を説明する。
【0084】
図4は、この変形例のプラズマ発生装置における筐体およびノズルの構造を示す図である。
【0085】
この変形例のプラズマ発生装置は、上述した実施形態のプラズマ発生装置における蒸気生成手段110dに代わる蒸気生成手段210dを備えたものであり、このプラズマ発生装置では、蒸気生成手段210dおよび2つの電極(図示せず)はノズル220内に配置されており、ノズル220内で、供給源からの液体を気化させ、さらに気化した蒸気をプラズマ化させる。なお、このプラズマ発生装置の筐体210aには、供給源からの液体を導入するための導入口213が取り付けられ、筐体210aに導入された液体はノズル220に誘導されるようになっている。
【0086】
このプラズマ発生装置の筐体210aの一端側には、上述した実施形態のプラズマ発生装置100と同様、ノズル220が取り付けられているが、この変形例では、ノズル220の外壁222の内部には筒状の内壁221が設けられており、この内壁221の内部に2つの電極(図示せず)が配置され、これらの電極間で放電が行われるようになっている。また、この内壁221の外周面には、蒸気生成手段210dを構成する加熱装置としてシリコンヒータ210dが巻き付けられており、ノズル220内を加熱できるようになっている。さらに、ノズル220の先端には、被処理体Tpの処理面にプラズマPmを噴射するための噴出口220aが形成されている。
【0087】
また、このようにノズル220に蒸気生成手段210dとしてのシリコンヒータ(加熱装置)を配置した場合、ノズル220で生ずる液滴の除去もこのシリコンヒータの熱で行うことができ、蒸気生成手段210dとしてのシリコンヒータは、液体の気化と、発生した液滴の除去とに兼用することができる。
【0088】
この場合、ノズルを断熱材で被覆することでこれらの加熱装置で発生した熱のすべてを実質的に液体の気化熱として利用することができる。
【0089】
なお、蒸気生成手段210dを構成する加熱装置であるシリコンヒータは、ノズル220ではなく、筐体210aの内部に設けてもよい。
【0090】
また、液体を気化させる蒸気生成手段210dとしてのシリコンヒータを、筐体210a内に配置するとともに、ノズル220を加熱するシリコンヒータをノズル220内に配置してもよい。この場合、ノズル220では、ここに配置されているシリコンヒータで液滴が除去されるだけでなく、筐体210aで気化された蒸気が加熱されることとなり、蒸気をプラズマ化する環境として望ましい環境が実現可能である。
【0091】
変形例1に示す本発明の蒸気プラズマ発生装置は、実施形態1に示す蒸気プラズマ発生装置よりもさらに殺菌および表面処理能力の向上が達成され得る。
【0092】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、希ガスや窒素ガスを用いたプラズマよりも殺菌や表面処理の性能の向上が見込め、可搬性に優れ、取り扱いが容易なプラズマを照射可能なプラズマ発生装置を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0094】
11 ハウジング
12 チューブ
13 ローラー
14 回転体
15 回転軸体
100 プラズマ発生装置
110 蒸気プラズマ生成手段
110a,210a 筐体
110b 電圧印加手段
110c 供給管
110d、210d 蒸気生成手段
110e 液体供給手段
111a、112a 電極
120、220 ノズル
120a、220a 噴射口
121 加熱装置
130 供給源
213 導入口
221 内壁
222 外壁
Av 蒸気
Pm プラズマ
Wa 液体
図1
図2
図3
図4