(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130922
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層造形装置の制御情報修正方法、造形方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240920BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240920BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20240920BHJP
B23K 9/09 20060101ALI20240920BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240920BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240920BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/12 301Q
B23K9/12 303C
B23K9/127 509D
B23K9/127 509E
B23K9/04 Z
B23K9/12 304Z
B23K9/12 305
B23K9/09
B33Y50/02
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040886
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 朱耀
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA02
4E082AA03
4E082AA09
4E082AA12
4E082AB01
4E082BA04
4E082EA06
4E082ED03
4E082FA14
4E082JA01
4E082JA06
(57)【要約】
【課題】積層造形において複数のパスによりビードを形成する際に、アークスタート位置でのスラグを排除でき、アークスタート不良の発生を抑制できるようにする。
【解決手段】積層造形装置の制御情報修正方法は、造形計画から造形経路の情報を取得する工程と、造形経路の情報から形成するビード毎にビード形成開始及び終了位置の情報をそれぞれ抽出する工程と、造形経路における先行パスのビード形成終了位置から延長した延長パスを造形経路に追加し、後行パスのビード形成開始位置を延長パス上に設ける工程を有する。造形経路のうち延長パスを除くパスでの溶接条件を、一定速度で溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流でアークを発生させる第一溶接条件に設定し、延長パスでの溶接条件を、溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を溶加材の正逆送給タイミングと同期させてアークを発生させる第二溶接条件に設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する工程と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する工程と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける工程と、
を有し、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定し、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項2】
前記延長パスは、前記造形経路上の特定点と前記特定点から離れた位置の追加点とを結ぶ経路であり、
前記特定点を前記先行パスのビード形成終了位置に設定し、
前記追加点を前記後行パスのビード形成開始位置に設定する、
請求項1に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項3】
前記延長パスは、前記造形経路上の特定点と前記特定点から離れた位置の追加点とを結ぶ経路であり、
前記延長パスを、前記特定点から前記追加点までの一方向路又は往復路として設定する、
請求項1に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項4】
前記追加点を前記後行パスの経路上に配置する、
請求項3に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項5】
前記先行パスから前記延長パスに移行する際に、前記アークの発生と前記溶加材の送給とを停止させずに連続してビード形成するように前記溶接条件を修正する、
請求項2から4のいずれか1項に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項6】
前記延長パスから前記後行パスに移行する際に、前記アークの発生と前記溶加材の送給とを停止させずに連続してビード形成するように前記溶接条件を修正する、
請求項2から4のいずれか1項に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか1項に記載の積層造形装置の制御情報修正方法により修正された制御情報に基づき前記積層造形装置を制御して三次元形状を造形する、
造形方法。
【請求項8】
請求項5に記載の積層造形装置の制御情報修正方法により修正された制御情報に基づき前記積層造形装置を制御して三次元形状を造形する、
造形方法。
【請求項9】
請求項6に記載の積層造形装置の制御情報修正方法により修正された制御情報に基づき前記積層造形装置を制御して三次元形状を造形する、
造形方法。
【請求項10】
アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法であって、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する工程と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する工程と、
を有し、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する、
造形方法。
【請求項11】
前記延長ビードの表面を前記造形用ビードのアークスタート位置にする、請求項10に記載の造形方法。
【請求項12】
アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する手順と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する手順と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける手順と、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定する手順と、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する手順と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する手順と、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置の制御情報修正方法、造形方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については、航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、アーク等の熱源を用いて金属ワイヤ等の溶加材を溶融及び凝固させた金属を積層させて造形物を造形する。このような積層造形技術が、例えば特許文献1,2に開示されている。
また、例えば消耗電極式を採用したアーク溶接においては、溶接動作を開始する際、溶接ワイヤ等の溶加材と母材との間に溶接電圧を印加しつつ両者を接触させて短絡電流を生じさせる。この短絡電流により溶加材が溶断され、溶加材と母材との間にアークが発生してアークスタートが行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-179503号公報
【特許文献2】特開2016-159316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接ワイヤをアークで溶融させる積層造形技術(WAAM:Wire and Arc Additive Manufacturing)においては、例えば単位時間に溶着する金属の量で評価される造形効率の向上のため、入熱量の大きい溶接条件の使用が望ましい。しかし、入熱量が大きい溶接条件では溶接ワイヤ中のスラグ形成元素(例えばSi、Mn、Ti、Al等のFeよりも酸化しやすい成分)がシールドガス中の酸化性成分(CO2、O2等)と激しく反応して大量のスラグが形成され、造形体表面の大部分が絶縁性のスラグに覆われてしまう。そのため、アークスタート位置ではスラグの存在確率が高くなり、アークスタート不良が発生しやすくなる。アークスタート不良が生じると、その対処・復旧によって造形工程の効率が著しく損なわれ、積層造形の自動化の実現も阻害される。
【0005】
特許文献1には、溶接ビードのクレータ部を小さく凹みがない状態に制御するため、溶接終了時において、一定速度の溶接ワイヤの送給から正送と逆送とを繰り返す送給に切り替えることが記載されている。この切り替えに伴って、溶接電流、溶接電圧が低下すること、アークスタートの改善効果があることが記載されているが、次パスの開始位置までの運棒や連続造形については記載がなく、三次元の積層造形体の造形に適用する具体的な手法についての開示がない。
【0006】
特許文献2には、アークスタート不良の原因となる溶接ワイヤ先端のスラグを、その形成位置が溶接ワイヤ先端からずれるように溶接電流の波形制御することで、アークスタート不良の発生を抑制することが記載されている。しかし、大入熱の条件で溶接して溶接ビード表面の多くがスラグで覆われている場合には、溶接ワイヤ先端のスラグ位置をずらしてもアークスタート不良は改善されにくい。また、積層造形のような連続造形ではパス毎にスラグ除去ができないため、この点からもアークスタート不良の回避は困難になっている。
【0007】
そこで本発明は、積層造形において複数のパスによりビードを形成する際に、アークスタート位置でのスラグを排除でき、アークスタート不良の発生を抑制できる積層造形装置の制御情報修正方法、造形方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する工程と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する工程と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける工程と、
を有し、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定し、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
(2) (1)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法により修正された制御情報に基づき前記積層造形装置を制御して三次元形状を造形する、造形方法。
(3) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法であって、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する工程と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する工程と、
を有し、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する、
造形方法。
(4) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する手順と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する手順と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける手順と、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定する手順と、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
(5) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する手順と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する手順と、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層造形において複数のパスによりビードを形成する際に、アークスタート位置でのスラグを排除でき、アークスタート不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、造形制御装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、制御情報の修正手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したビードモデルの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したビードモデルの一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、形成するビードの造形経路の一例を模式的に示す説明図である。
【
図7】
図7は、先行パスと後行パスとの間に延長パスを設けた様子を示す説明図である。
【
図8】
図8は、造形用ビードと延長パスのビードの形成例を示す写真である。
【
図9】
図9は、
図7に示す造形経路に従って造形用ビードと延長ビードとを形成した場合の造形結果を模式的に示す説明図である。
【
図10】
図10は、延長パスを造形経路上の特定点と、この特定点から離れた位置の追加点とを結んで追加した場合を示す説明図である。
【
図11】
図11は、延長パスを造形経路上に配置した場合を示す説明図である。
【
図12】
図12は、比較例における実部品の層内のパスを示す説明図である。
【
図13】
図13は、実施例1における実部品の層内のパスを示す説明図である。
【
図14】
図14は、実施例2における実部品の層内のパスを示す説明図である。
【
図15】
図15は、比較例及び実施例1,2の造形時間の内訳を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形装置は、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融及び凝固させたビードを層状に形成して、得られたビード層を積層することで、所望の形状にビードが積層された造形物を造形するものである。
【0012】
<積層造形装置の構成>
上記の積層造形装置の一構成例を説明する。
図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
積層造形装置100は、コントローラ11と、マニピュレータ13と、溶加材供給部15と、熱源制御部17とを含んで構成される。コントローラ11には、詳細を後述する造形制御装置19が接続される。
【0013】
コントローラ11は、造形制御装置19からの制御情報に基づき、マニピュレータ13と、熱源制御部17とを制御する。コントローラ11には不図示の操作部が接続されて、コントローラ11の任意の操作が操作部を介して操作者から指示可能となっている。
【0014】
マニピュレータ13は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ21には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ21は、溶加材Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。トーチ21の位置及び姿勢は、マニピュレータ13を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ13は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、トーチ先端の熱源の向きを任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ13は、
図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0015】
トーチ21は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、或いはプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ21は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0016】
溶加材供給部15は、トーチ21に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給部15は、溶加材Mが巻回されたリール15aと、リール15aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構15bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構15bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ21へ送給される。繰り出し機構15bは、溶加材供給部15側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式と、押し出しと引き込みが可能なプッシュ-プル方式が切り替え自在となっている。この繰り出し機構15bは、ロボットアーム等に配置されてもよい。
【0017】
熱源制御部17は、マニピュレータ13を用いた溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御部17は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御部17が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給部15の溶加材供給速度が調整される。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0019】
造形制御装置19は、コントローラ11に制御情報を出力して上記した各部を統括して制御する。造形制御装置19は、積層造形装置100と直接的に接続される構成に限らず、ネットワーク等を介して遠隔から接続される構成であってもよい。
【0020】
上記した構成の積層造形装置100は、造形物Wの造形計画に基づいて造形制御装置19が作成又は修正した制御情報に基づく造形プログラム等に従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ21を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状のビードBが対象面(例えば、ベース23又は既設のビードBの表面)に形成される。つまり、コントローラ11は、造形制御装置19から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ13、熱源制御部17を駆動して、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ21を移動させてビードBを形成する。このようにしてビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0021】
図2は、造形制御装置19の機能ブロック図である。造形制御装置19は、造形物Wを造形する際に用いる積層造形装置100を制御するための制御情報を生成する機能と、制御情報を修正する機能とを有する。制御情報には上記した造形プログラムが含まれる。造形制御装置19は、詳細を後述する造形経路情報取得部31と、ビード形成開始・終了位置抽出部33と、延長経路設定部35と、溶接条件設定部37と、記憶部39とを含んで構成されている。記憶部39には上記した制御情報等の各種の情報が記憶される。
【0022】
造形制御装置19は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置19の各機能は、不図示の制御部が特定の機能を有するプログラムを記憶部39から読み出し、これを実行することで実現される。記憶部39としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。
【0023】
次に、造形制御装置19による制御情報の修正手順について、
図2、
図3を参照しながら説明する。
図3は、制御情報の修正手順を示すフローチャートである。まず、造形制御装置19には、造形物Wを造形するビードのパス情報と、ビード形状に関する情報を含む造形計画の情報が入力される。造形経路情報取得部31は、入力された造形計画の情報から、形成するビードの造形経路の情報を取得する(S1)。造形経路については公知の方法で算出されたものでよく、例えば、CADデータ等の造形物の形状を所定厚さにスライスし、スライスされた層形状に対して、溶接ビードの形状を模したビードモデルを当てはめて求めてもよい。また、予め生成され、記憶部39等に記憶された造形計画の情報を読み込んでもよい。
【0024】
読み込む造形計画の情報に含まれる造形経路(以下、パスともいう。)の情報としては、例えばパス中に含まれる点の座標情報(例えば、直交座標系であるX,Y,Z軸における座標)、隣接するパス同士のピッチd、スライスした層の厚さ(層間隔)H、各パスの造形(積層)順序、等の情報が挙げられる。
【0025】
一方、取得するビード形状の情報としては、ビードモデル、ビード幅、ビード高さ、等の形状情報が含まれる。設定されたパスに沿ってビードモデルを設定することで、線状のパスから、溶接ビードを形成する狙い位置であるトーチの移動軌跡に沿って溶接ビードを形成した場合のビード形状を推定できる。
【0026】
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したビードモデルの一例を示す説明図である。ここでは、溶接ビードの長手方向に直交する断面における3つのビードモデルの形状を示している。各ビードモデルは、基準となるパスのビードモデルBMaの断面形状が台形であり、ビードモデルBMaには他のパスのビードモデルBMbが隣接して設けられ、ビードモデルBMbには更に他のパスのビードモデルBMcが隣接して設けられている。ビードモデルBMb,BMcは、
図4の左側に配置されるモデルに一部をオーバーラップさせている。具体的には、ビードモデルBMb,BMcは、基本的にビードモデルBMaと同じ台形形状であり、ビードモデルBMa側とは反対側となる台形の底辺の一端を中心に、断面形状をそのまま維持しつつ、所定角度時計回りに回転させて、台形の底辺を傾斜させている。そして、ビードモデルBMbがビードモデルBMaと重なる部分はビードモデルBMaの領域とし、ビードモデルBMaに含まれないビードモデルBMbの下方領域をビードモデルBMbの領域に含ませる。同様に、ビードモデルBMcがビードモデルBMbと重なる部分はビードモデルBMbの領域とし、ビードモデルBMbに含まれないビードモデルBMcの下方領域をビードモデルBMcの領域に含ませる。
【0027】
その結果、ビードモデルBMbの形状は、ビードモデルBMaの一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となり、ビードモデルBMcの形状は、ビードモデルBMbの一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となる。このように、各ビードモデルBMa,BMb,BMcは、実際の溶接ビードの断面形状により近似した形状となる。
【0028】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したビードモデルの一例を示す説明図である。ここでは、溶接ビードの長手方向に直交する断面におけるビードモデルの形状を示している。ベース23に積層された断面形状が台形のビードモデルBM1と、ビードモデルBM1より上層のビードモデルBM2,BM3,・・・,BMn(nは層数)のうち、上層の台形のビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnについては、底辺41の両端部に、下方へ延びる垂れ部43a,43bを追加している。垂れ部43a,43bの断面形状は、それぞれ底辺41の端部を一辺とする三角形であり、前述した溶接ビードの溶接条件と軌跡情報(パス)に応じて、その形状と面積が設定される。垂れ部43aと垂れ部43bとは、互いに同じ形状でも異なる形状でもよい。また、垂れ部43a,43bは、台形のビードモデルの底辺41の両端部に設ける以外にも、底辺41のいずれか一方の端部のみに設けてもよい。
【0029】
垂れ部43a,43bを設けたビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnを、造形計画用のビードモデルに設定することで、溶接ビードのビード高さが、溶接ビードに生じる溶融金属の垂れ下がりによる影響が加味される。これにより、オーバーハング部などの溶接ビードの溶融金属が垂れやすい条件下でも、溶接ビードの輪郭を演算により求めた結果と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0030】
また、ビードモデルの形状は、溶接条件に応じて決定することもできる。溶接条件としては、溶接電流、溶接電圧、トーチの移動速度(運棒速度)、溶加材の送給速度等が挙げられる。
【0031】
例えば、ビード高さLHを式(1)から求め、ビード幅LWを式(2)から求めてもよい。
【0032】
【0033】
Ts:トーチ移動速度
Wf:溶加材送給速度
C1~C6:係数
D1~D6:係数
【0034】
ビードモデルの形状は、溶接条件と、溶着断面積、ビード高さ、ビード幅等のパラメータとを関連付けて保存したデータベースから、設定される溶接条件に最も近いモデル形状を探索してもよい。また、上記したデータベースを基に近似式を作成して、その近似式を用いてモデル形状を決定してもよい。
【0035】
上記のように、ビードモデルとしては、隣接して配置されるビード同士の重なりを考慮したモデル、下層側への垂れ形状を再現したモデル等の溶接ビードを実際に積層した際に起きる現象を再現したものが望ましい。また、ビード幅とビード高さは、溶接速度、送給速度等の溶接条件と関係付けられていてもよい。
【0036】
<造形経路の変更>
図6は、形成するビードの造形経路の一例を模式的に示す説明図である。造形経路情報取得部31は、例えば、
図6に破線で示す複数のビードからなるビード層を形成するためのパスPS1~PS6の情報を取得する。本例のパスPS1~PS6は、パスの長手方向の一端側から他端側に向けて往復動する走査パターンで配置されている。
図2に示すビード形成開始・終了位置抽出部33は、取得した造形経路の情報から各パスPS1~PS6の始点及び終点、即ち、ビード形成開始位置Ps、ビード形成終了位置Peを抽出する(S2)。
【0037】
ビード形成開始位置Ps、ビード形成終了位置Peの抽出方法は特に指定されない。例えば、積層計画中に含まれるアークのON/OFFに関するフラグ情報を基にして、ON/OFFが切り替わるトーチ軌跡(パス)上の点を、ビード形成開始位置Ps、又はビード形成終了位置Peとして抽出してもよい。また、これと併せてアークスタート及びアークオフの処理区間を抽出してもよい。アークスタートとアークオフに際しては、通常、クレータ処理等のビードの定常部とは異なる溶接条件が設定されるので、それらの溶接条件をフラグとして抽出してもよい。
【0038】
この積層計画の場合、パスPS1のビード形成終了位置PeからパスPS2のビード形成開始位置Psまでの間、及びパスPS2のビード形成終了位置PeからパスPS3のビード形成開始位置Psまでの間、等のパス同士の間のトーチ移動は、アークを停止させたままの移動であり、ビード形成に寄与しないエアカット時間となる。このエアカット時間は、造形効率を低下させる一要因となる。また、パス毎のビード形成開始位置でアークスタートさせるため、ビード形成時に発生するスラグにより、アークスタート不良(エラー)が生じやすい。
【0039】
そこで、延長経路設定部35は、抽出されたビード形成開始位置Ps及びビード形成終了位置Peに関してのパス情報を修正する。ここで、造形物Wを構成する造形用ビードを形成するためのパスで、ビード形成の順番が前後で連続するパスを「先行パス」、「後行パス」という。また、先行パスと後行パスとの間で、パス端部同士を繋ぐように新たなパスを生成する。この生成するパスを「延長パス」という。
【0040】
図7は、先行パスと後行パスとの間に延長パスを設けた様子を示す説明図である。パスPS1のビード形成終了位置PeからパスPS2のビード形成開始位置Psまでの間に延長パスPSA1を設ける。また、パスPS2のビード形成終了位置PeからパスPS3のビード形成開始位置Psまでの間に延長パスPSA2を設ける。同様にして、各パスのパス端部同士の間に延長パスPSA3,PSA4,PSA5を設ける。このように、隣接するビード同士の終了位置と開始位置とを最短で結ぶ線分となる延長パスを、1パス目から順に設ける。
【0041】
つまり、ここでのパスの修正工程は、造形経路におけるビード形成順が先となる先行ビードのビード形成終了位置Peから延長した延長パスを造形経路に追加する。また、先行ビードの次に形成する後行ビードのビード形成開始位置Psを、追加した延長パス上に設ける(S3)。このようにすることで、例えば2パス目のビード形成開始位置Psは、1パス目から延長された延長パスにより形成されたビード上となる。
【0042】
換言すれば、延長パスは、造形経路上の特定点と特定点から離れた位置の追加点とを結ぶ経路であり、特定点を先行パスのビード形成終了位置Peに設定し、追加点を後行パスのビード形成開始位置Psに設定する。
【0043】
次に、上記した造形経路の修正に伴って、各パスの溶接条件を設定する(S4)。特に造形計画に基づく造形用ビード(パスPS1~PS6)の溶接条件がパルス溶接のような比較的大入熱でかつ溶着量の大きい場合においては、延長パス(PSA1~PSA5)のビードでは比較的低入熱かつ溶着量の小さい条件に設定することが好ましい。このような低入熱及び小溶着量での溶接条件としては、例えば、溶接ワイヤを正逆送給し、この正逆送給と溶接電流のパルス波形とを同期させて溶接する、コールドメタルトランスファー(CMT(登録商標))プロセスで実施することが挙げられる。
【0044】
具体的なビードの溶接条件の目安としては、造形用ビードの断面積が8.0~80mm2の場合、溶着量を165~200mm3/sec、入熱量を400~4000J/mmの範囲で溶接条件を調整する。この場合、溶接ワイヤを正送しつつパルス状の溶接電流に設定する。一方、延長パスのビードは、その断面積を2.5~70mm2とする場合、溶着量を25~165mm3/sec、入熱量を50~2500J/mmの範囲で溶接条件を調整する。この場合、溶接ワイヤを正逆送給しつつパルス状の溶接電流を正逆送給タイミングと同期させて設定する。なお、これらの数値範囲はあくまでも目安であり、記載の数値範囲は一部重複があるが、前述したとおり延長パスの部位は他の部位に比べて入熱量と溶着量を相対的に小さくなるように調整することが好ましい。
【0045】
図8は、造形用ビードと延長パスのビードの形成例を示す写真である。ベース23上に形成した造形用ビード(高入熱ビード)45と延長ビード(低入熱ビード)47とを比較すると、延長ビード47は造形用ビード45より断面積が小さく、高さも低くなっている。溶接ワイヤを正逆送給する条件下で形成された延長ビード47については、溶接ワイヤを正送する通常のパルス溶接で形成された造形用ビード45と比較してビード表面のスラグの発生が少ない。そのため、スラグによるアークスタートの妨げが起きにくくなる。そこで、延長ビード47を造形用ビード45のアークスタート位置にすることで、アークスタート欠陥の発生を抑えて円滑なビード形成が行える。
【0046】
このとき、造形用ビード45から延長ビード47までアークを切らずに連続してビード形成する溶接条件にすることが好ましい。また、延長ビード47から次に続く造形用ビード45までアークを切らずに連続してビード形成する溶接条件にすることが好ましい。これにより、アークを停止させたまま溶接トーチを移動させるエアカット時間を省略でき、造形のタクトタイムを短縮して生産性を向上できる。また、造形経路のパス数増加やアークスタート回数の増加を抑制できる。これにより、延長パスを設けることに伴う造形時間の増加量を軽微な範囲に抑制できる。
【0047】
延長ビード47の表面をアークスタート位置とする場合は、延長ビード47の高さをオフセット値として溶接トーチ先端からの溶接ワイヤの突出し長さをずらしてよい。こうすることで、ワイヤ送出時にワイヤが造形物と衝突して、ワイヤ先端が変形するなどの他の異常発生を予防できる。
【0048】
図9は、
図7に示す造形経路に従って造形用ビード45と延長ビード47とを形成した場合の造形結果を模式的に示す説明図である。このように、造形用ビード45を延長ビード47上からアークスタートして形成する手順にすることで、アークスタートの回数を減らし、アークスタート不良の発生を抑えることができる。また、延長ビード47を造形用ビード45に続けて連続して形成することで、1つのパスで連続したビード形成が可能となり、造形時間を短縮できる。なお、造形用ビード45の形成後、一旦アークオフにした場合、造形用ビード45の表面が延長ビード47のアークスタート位置になるが、その場合、仮にアークスタート不良が生じても、延長ビード47自体が本来の造形には不要なビードであるため、必要とする造形体積、造形体の強度に何ら影響を及ぼすことはない。
【0049】
上記のように、入熱量が大きい造形用ビードの終端位置(又は後述する途中位置)と、次のアークスタート位置との間を、溶接ワイヤの正逆送給制御により形成される入熱量の小さい延長ビードで連結することで、次のアークスタート位置におけるスラグの存在を排除でき、アークスタート不良の発生を抑制できる。
【0050】
<延長パスの変形例>
次に、造形経路に延長パスを追加する他の例を説明する。
図10は、延長パスPSB1,PSB2を造形経路上の特定点P1と、この特定点P1から離れた位置の追加点P2とを結んで追加した場合を示す説明図である。追加点P2は、予め設定された造形経路以外の位置に配置する。延長パスPSB1,PSB2は、特定点P1から追加点P2まで連続した往復路して形成するが、延長パスPSB1のビード形成後、追加点P2で一旦アークをオフにし、追加点P2で再びアークスタートさせて延長パスPSB2のビード形成を実施するように、一対の片路としてもよい。延長パスPSB2に沿ったビード形成時には、特定点P1に戻った際、アークを発生させたまま後行パスPSbのビード形成を続けることが好ましい。つまり、アークスタートは、延長パスPSBの経路上のみで実施するか、アークスタート自体を省略することが好ましい。
【0051】
この場合、特定点P1は、先行パスPSaのビード形成終了位置Pe、延長パスPSBのビード形成開始位置及び後行パスPSbのビード形成開始位置Psとなる。
【0052】
延長パスPSB1,PSB2を予め設定された造形経路以外の追加点P2まで設けることにより、上記したアークスタート不良の抑制効果、タクトタイムの短縮効果に加え、過剰な入熱を回避する効果も得られる。即ち、造形用ビードは高入熱で形成するために、造形条件によっては過剰な温度上昇を招くことがある。その場合、延長パスにより造形用ビード45の形成を一旦停止して、これ以上の温度上昇を抑えたり、冷却を促したりすることができ、高温となったビードの垂れ等によるビード形状の変化を抑制できる。その結果、高い寸法精度の造形物を安定して造形できる。また、本手法は、長尺なビードを複数台の造形装置で分担して形成する場合にも適用できる。一つの造形装置の可動範囲は限られているので、大型の造形物を造形する場合、例えば、先行パスを一方のロボットが担当し、後行パスを他方のロボットが担当するように運用できる。その場合、本手法によれば、他方のロボットが一方のロボットからスムーズに引き継いでビードを形成できるようになる。つまり、アークスタートの安定性を向上しつつ、造形装置同士の連携を補助できる。
【0053】
図11は、延長パスを造形経路上に配置した場合を示す説明図である。この場合、造形路上の特定点P1から、予め設定された造形経路上(同一直線上)に配置された追加点P2までの間に延長パスPSCを設定する。延長パスPSCの形成後、特定点P1から後行パスPSbを形成する際、後行パスPSbのアークスタート位置を延長パスPSC上に設定できる。そのため、後行パスPSbのビード形成をアークスタート不良の発生を抑えて実施できる。また、先行パスPSaから延長パスPSCにアークをオフにすることなく連続してビード形成することが好ましく、これにより、連続したビード形成が可能となり、造形時間を短縮できる。
【0054】
また、延長パスPSCは、特定点P1から追加点P2までの片路に限らず、P1→P2→P1の順で往復する往復路としてもよい。その場合でも、前述したように過剰な温度上昇を抑えることができ、高精度な造形が可能となる。また、延長パスを一方向路又は往復路として設定することで、延長パスに形成されるビードの高さや幅を調整でき、後行パスのビード形成開始位置として指定できる範囲も調整できる。
【0055】
図10,
図11に示す例のように、連続する造形用ビードのパスが同一直線上に並ぶなど、ビード形成終了位置とビード形成開始位置が元々近接している場合には、新たに追加点P2を設けて造形経路のパスを延長してもよい。
【実施例0056】
以下、入熱量を小さく設定する延長パスを造形経路に追加した際に、アークスタート欠陥が低減される効果を確認した結果を説明する。
実部品の造形計画を作成し、作成した造形計画による造形パスの一部(1層あたり10パス)を切り出し、従来の造形方法(比較例)と、入熱量の小さいパス(延長パス)で連結した造形方法(実施例1、2)とによって、5層までの造形を実施した。
【0057】
図12は、比較例における実部品の層内(XY平面上)のパスを示す説明図である。比較例の造形物は、1層あたり10パス(PS1~PS10)の層を合計5層有するもので、全部で50つ(10パス×5層)のパスで造形した。これらパスの全てがアークスタートを含んでおり、アークスタートのトータルの回数は50回であった。
【0058】
図13は、実施例1における実部品の層内(XY平面上)のパスを示す説明図である。実施例1では、比較例と同一の順でパスPS1~PS10を形成し、先行パスのビード形成終了位置と、後行パスのビード形成開始位置とを延長パス(破線)で結んだ。
図14は、実施例2における実部品の層内(XY平面上)のパスを示す説明図である。実施例2では、パスPS1~PS10を、ビード形成終了位置からビード形成開始位置までの距離ができるだけ短くなるように形成順序を入れ替え、先行パスのビード形成終了位置と、後行パスのビード形成開始位置とを延長パス(破線)で結んだ。実施例1,2は、1層あたり10パスの全てを延長パス(入熱量の小さいパス)で接続しているため、1層あたり1パスで、全部で5つ(1パス×5層)のパスで造形した。これらパスの全てがアークスタートとなり、アークスタートのトータルの回数は5回となる。
【0059】
上記の条件で造形した結果、比較例の造形方法では、全50回のアークスタート中にアークスタート不良が14回発生した。このように、アークスタートの発生割合は約3割に達した。一方、実施例1、2のアークスタート不良の発生回数は、それぞれ0回、3回であった。
【0060】
図15は、比較例及び実施例1,2の造形時間の内訳を示すグラフである。比較例及び実施例1,2の造形方法による1層目から5層目までの造形時間は、実施例1と実施例2とは略等しい時間で、比較例と比較して約半分の時間まで短縮できた。造形時間の内訳については、アークスタート不良が生じた際のエラー対応時間と、エアカット時間が大幅に短縮できていることがわかる。このように、パス同士を延長パスで連結し、その延長パスの形成に溶接ワイヤの正逆送給制御を併用することで、アークスタート欠陥の発生数を減らしつつ、造形時間を大幅に短縮できた。
【0061】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0062】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する工程と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する工程と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける工程と、
を有し、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定し、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、先行パスのビード形成終了位置から延長され、溶接ワイヤを正逆送給して入熱量を抑えてビード形成する延長パスが造形経路に追加される。この延長パスでは、低入熱のためスラグの発生が第一溶接条件の場合よりも抑えられるため、後行パスのアークスタート位置を延長パス上に設定することで、アークスタートの安定性を向上できる。
【0063】
(2) 前記延長パスは、前記造形経路上の特定点と前記特定点から離れた位置の追加点とを結ぶ経路であり、
前記特定点を前記先行パスのビード形成終了位置に設定し、
前記追加点を前記後行パスのビード形成開始位置に設定する、(1)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、延長パスのビードを形成後すぐに後行パスのビード形成を開始できるので、生産性と、後行パスのアークスタートの安定性との両方を向上できる。
【0064】
(3) 前記延長パスは、前記造形経路上の特定点と前記特定点から離れた位置の追加点とを結ぶ経路であり、
前記延長パスを、前記特定点から前記追加点までの一方向路又は往復路として設定する、(1)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、延長パスを一方向路又は往復路として設定することで、延長パスに形成されるビードの高さや幅を調整でき、後行パスのビード形成開始位置として指定できる範囲も調整できる。先行パスと後行パスとの間に延長パスが介装されることで、先行パスで過剰な温度上昇が生じるおそれがある場合でも、延長パスの存在により温度上昇が抑えられる。
【0065】
(4) 前記追加点を前記後行パスの経路上に配置する、(3)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、先行パスと後行パスの連結に際してビードを別々の造形装置で分担して形成する場合でも、後行パスにおけるアークスタートの安定性を向上しつつ、造形装置同士の連携を補助できる。また、長尺なビードの形成にも対応できる。
【0066】
(5) 前記先行パスから前記延長パスに移行する際に、前記アークの発生と前記溶加材の送給とを停止させずに連続してビード形成するように前記溶接条件を修正する、(2)から(4)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、先行パスの形成に続けてアークを切ることなく連続して延長パスのビード形成を行うことで、造形経路のパス数増加やアークスタート回数の増加を抑制できる。これにより、延長パスを設けることに伴う造形時間の増加量を軽微な範囲に抑制できる。
【0067】
(6) 前記延長パスから前記後行パスに移行する際に、前記アークの発生と前記溶加材の送給とを停止させずに連続してビード形成するように前記溶接条件を修正する、(2)から(4)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、延長パスの形成に続けてアークを切ることなく連続して後行パスのビード形成を行うことで、造形経路のパス数を減らしてアークスタートの回数を低減できる。これにより、アークスタート不良の発生回数を抑制できるとともに、造形時間の短縮に寄与できる。
【0068】
(7) (1)から(6)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御情報修正方法により修正された制御情報に基づき前記積層造形装置を制御して三次元形状を造形する、造形方法。
この造形方法によれば、先行パスのビード形成終了位置から延長され、溶接ワイヤを正逆送給して入熱量を抑えた延長ビードが形成される。この延長ビードでは、低入熱のためスラグの発生が第一溶接条件の場合よりも抑えられ、後行パスのアークスタート位置を延長ビード上に設定することで、後行パスでのアークスタートの安定性を向上できる。
【0069】
(8) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法であって、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する工程と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する工程と、
を有し、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する、
造形方法。
この造形方法によれば、延長ビードと造形用ビードとが連続するため、これら各ビードを連続して形成できる。これにより、アークスタートの回数を減少させて、アークスタート欠陥の発生数を抑えることができる。
【0070】
(9) 前記延長ビードの表面を前記造形用ビードのアークスタート位置にする、(8)に記載の造形方法。
この造形方法によれば、造形用ビードを、入熱量が小さくスラグの発生が少ない延長ビードをアークスタート位置にして形成できるため、アークスタート欠陥の発生を抑制できる。
【0071】
(10) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形計画に従って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置により形成する前記ビードの溶接条件を含む制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形計画から造形経路の情報を取得する手順と、
前記造形経路の情報から形成する複数の前記ビード毎にビード形成開始位置及びビード形成終了位置の情報をそれぞれ抽出する手順と、
前記造形経路におけるビード形成順が先となる先行パスの前記ビード形成終了位置から延長した延長パスを前記造形経路に追加し、前記先行パスの次に形成する後行パスのビード形成開始位置を前記延長パス上に設ける手順と、
前記造形経路のうち前記延長パスを除くパスでの前記溶接条件を、一定速度で前記溶加材を正送しつつパルス状の溶接電流で前記アークを発生させる第一溶接条件に設定する手順と、
前記延長パスでの前記溶接条件を、前記溶加材を正逆送給しつつパルス状の溶接電流を前記溶加材の正逆送給タイミングと同期させて前記アークを発生させる第二溶接条件に設定する手順と、
を実行させるためのプログラム。
このプログラムによれば、先行パスのビード形成終了位置から延長され、溶接ワイヤを正逆送給して入熱量を抑えてビード形成する延長パスが造形経路に追加される。この延長パスでは、低入熱のためスラグの発生が第一溶接条件の場合よりも抑えられるため、後行パスのアークスタート位置を延長パス上に設定することで、アークスタートの安定性を向上できる。
【0072】
(11) アークによって溶融及び凝固した溶加材を造形経路に沿って対象面に付加して形成されるビードを用いて層形状を造形し、前記層形状を積層して三次元形状を造形する造形方法の手順を実行するプログラムであって、
コンピュータに、
第一の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させて造形用ビードを形成する手順と、
前記第一の入熱量より小さい第二の入熱量で前記溶加材を溶融及び凝固させ、前記造形用ビードよりもビード形成方向に直交する断面積が小さい延長ビードを形成する手順と、
前記造形用ビードと該造形用ビードの後に形成される前記造形用ビードとの間に、前記延長ビードを、前記造形用ビード同士を繋ぐように配置する手順と、
を実行させるためのプログラム。
このプログラムによれば、延長ビードと造形用ビードとが連続するため、これら各ビードを連続して形成できる。これにより、アークスタートの回数を減少させて、アークスタート欠陥の発生数を抑えることができる。