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特開2024-130926蛍光体分散体、及びこれを用いた塗膜形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130926
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】蛍光体分散体、及びこれを用いた塗膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240920BHJP
   C08G 59/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 183/10 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240920BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240920BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240920BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240920BHJP
   C09D 5/22 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C09D183/04
C08G59/00
C09D183/10
C09D17/00
H01L33/50
C09D163/00
C09D7/20
C09D5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040893
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000180058
【氏名又は名称】山陽色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 博昭
【テーマコード(参考)】
4J036
4J037
4J038
5F142
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AK09
4J036DC02
4J036DD08
4J036FA01
4J036HA12
4J036JA01
4J036KA03
4J037AA08
4J037DD23
4J037DD24
4J038CG002
4J038DB002
4J038DL031
4J038DL132
4J038GA07
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA10
4J038PA19
4J038PB08
4J038PB09
5F142DA13
5F142FA26
(57)【要約】
【課題】発光特性及び耐熱性の両方の特性に優れた蛍光体分散体、並びに、発光特性及び耐熱性の両方の特性に優れた塗膜形成用組成物を提供すること。
【解決手段】赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、シリコーン樹脂と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを含有することを特徴とする塗膜形成用組成物、並びに赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを含有することを特徴とする蛍光体分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、
脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、
シリコーン樹脂と、
エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤と
を含有することを特徴とする、塗膜形成用組成物。
【請求項2】
さらに、熱重合性化合物及び熱重合開始剤を含有する、請求項1に記載の塗膜形成用組成物。
【請求項3】
前記塗膜形成用組成物が、前記無機蛍光体、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を含有する蛍光体分散体と、前記シリコーン樹脂、熱重合性化合物、熱重合開始剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤との混合物である、請求項2に記載の塗膜形成用組成物。
【請求項4】
前記塗膜形成用組成物中の含有量が、
前記無機蛍光体10~60重量%、
前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤1~20重量%、
前記シリコーン樹脂5~20重量%、
前記熱重合性化合物1~10重量%、
前記熱重合開始剤0.1~3重量%及び
前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤15~75重量%である、請求項2又は3に記載の塗膜形成用組成物。
【請求項5】
波長変換層用である、請求項1又は2に記載の塗膜形成用組成物。
【請求項6】
赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、
脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、
エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤と
を含有することを特徴とする、蛍光体分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成用組成物に関するものである。より詳しくは、有機ELディスプレイ、マイクロLEDディスプレイにおける波長変換層に使用するための塗膜形成用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)が急速に普及している。LEDは、テレビ、パソコン、タブレット、スマートフォン等のディスプレイや照明等に利用される。LEDを利用した画像表示装置は、光の透過、非透過を切り替える液晶を用いずに表示を行うことができる。このため、LEDを利用した画像表示装置は、黒表示時に光漏れが生じることが課題であった液晶表示装置と比較して、暗所での視認性に特に優れる。
【0003】
マイクロLEDディスプレイは、およそ2μmから50μm(2μm~50μm、2μm以上50μm以下を指す、以下も同様)サイズのLEDチップがマトリクス状に配列した構造を有し、複数のLEDの各々を個別駆動することによって表示を行う画像表示装置である。このようなマイクロLEDディスプレイは、液晶を用いずに表示を行うことができる。
【0004】
マイクロLEDディスプレイは、赤色発光、緑色発光、青色発光の3種類のLED素子を用いる方式と、青色から近紫外の波長域の光を発する発光LEDチップ等の単色発光LED素子のみを用いる方式とに大別される。マイクロLEDディスプレイにおいては、個々のLED素子が表示機能層の役割を果たす。赤色発光、緑色発光、青色発光の3種類のLED素子を用いる方式では、輝度や寿命に優れる長所を有する一方で、発光色の異なるLED素子を実装するプロセスが多く、コストがかかるという欠点や、LED素子の発光特性にばらつきがあり、その制御が困難であるという欠点等、がある。
【0005】
単色発光LED素子を用いる方式では、複数の単色発光LED素子の各々に、発光波長を赤色、緑色、及び青色のいずれかへ波長を変換する波長変換層(例えば、量子ドットや無機蛍光体等の分散体)を積層することで、カラー表示を実現している。前記波長変換層は、光源である単色発光LED素子と対応するサイズでパターン化して配置する必要がある。波長変換層をパターン化する方法としては、フォトリソグラフィ法、インクジェット法、及びノズル塗布法が知られている。なかでもインクジェット法やノズル塗布法は、露光・現像を複数回繰り返す必要のあるフォトリソグラフィ法と比較して工程が簡易的である点で優れている。
【0006】
前記波長変換層用の樹脂組成物として、少なくとも、無機粒子、バインダー樹脂、モノマーを含有することを特徴とする樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。前記樹脂組成物では、前記バインダー樹脂としてアクリル樹脂が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-205417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機ELディスプレイ、マイクロLEDディスプレイの波長変換層を形成する場合、段階的に加熱硬化させる手法は公知である。しかしながら、従来品であるアクリル樹脂やウレタン樹脂を含有した塗膜形成用樹脂組成物を加熱硬化させると硬化膜の発光維持率、具体的には、蛍光量子収率又は発光強度(ピーク値)が低下するという、耐熱性の問題が存在する。
そこで、本発明の課題は、発光特性及び耐熱性の両方の特性に優れた蛍光体分散体を提供することにある。また本発明の他の課題は、発光特性及び耐熱性の両方の特性に優れた塗膜形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1の態様は、赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、シリコーン樹脂と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを含有することを特徴とする、塗膜形成用組成物に関する。なお、「及び/又は」は、エステル系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤の両者、あるいは、エステル系溶剤又はグリコールエーテル系溶剤のいずれか一方、の状態を含む。
【0010】
前記塗膜形成用組成物は、さらに、熱重合性化合物及び熱重合開始剤を含有してもよい。
【0011】
前記塗膜形成用組成物は、前記無機蛍光体、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を含有する蛍光体分散体と、前記シリコーン樹脂、前記熱重合性化合物、前記熱重合開始剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤との混合物であってもよい。
【0012】
前記塗膜形成用組成物は、前記無機蛍光体10~60重量%、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤1~20重量%、シリコーン樹脂5~20重量%、熱重合性化合物1~10重量%、熱重合開始剤0.1~3重量%及びエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤15~75重量%を含有してもよい。
【0013】
前記塗膜形成用組成物は、波長変換層用であってもよい。
【0014】
本発明に係る第2の態様は、赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを含有することを特徴とする、蛍光体分散体に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る塗膜形成用組成物は、耐熱性に優れるために加熱硬化させた場合でも発光維持率が高い。そのため、この塗膜形成用組成物を用いて作製した波長変換層を有する表示装置用基板は、単位面積あたり従来より少ない蛍光体量でも、必要な発光輝度を保つことができる。
また、本発明に係る塗膜形成用組成物は発光維持率が高いため、従来品に比べて表示装置用基板を効率よく低コストで製造することができる。
さらに、本発明に係る蛍光体分散体を用いることで、前記塗膜形成用組成物を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る塗膜形成用組成物及び蛍光体分散体の実施形態について説明する。
【0017】
(塗膜形成用組成物)
本発明の実施形態に係る塗膜形成用組成物(以下、本発明の組成物ともいう)は、赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、シリコーン樹脂と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを含有することを特徴とする。
【0018】
本発明の組成物では、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、シリコーン樹脂と、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤とを併用することで、組成物中における赤色系蛍光、緑色系蛍光又は青色系蛍光を放出する無機蛍光体の分散性が向上し、かつ発光特性及び耐熱性が優れたものとなる。
【0019】
[無機蛍光体]
前記無機蛍光体とは、無機化合物からなり、かつ紫外線を吸収して赤色光、緑色光又は青色光を放出する蛍光体であり、従来から種々のものが知られている。例えば、YAG系蛍光体、TAG系蛍光体、サイアロン系蛍光体、Mn4+付活蛍光体、Eu2+付活蛍光体等が挙げられる。ここで、LED素子の光が消えた後に蛍光の発光強度が1/e(eは自然対数の底)となるまでに要する時間である残光時間が長い蛍光体を表示装置に使用した場合、表示映像に色が付いて見える現象や、3D表示時に左右映像が混ざって見えるいわゆるクロストーク現象等の不具合が発生することがある。本発明において使用される蛍光体としては、前記のような残光時間が短いという観点から、Eu2+付活蛍光体が好ましい。
Eu2+付活蛍光体としては、例えば、SrCaAlSiN:Eu、(Ba,Sr,Ca)SiO:Eu、(Ba,Sr,Ca)(Si,Al):Eu、(Ca,Sr)AlSi(O,N):Eu、(Ba,Sr)Ga:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)SiO:Eu、SiAlON:Eu(β-サイアロン)、(Ca,Sr)Mg(SiOCl:Eu、(Sr,Ba,Ca,Mg)10(POCl:Eu、BaMgAl1017:Eu、Sr10(POCl:Eu、又はBaPOCl:Eu等が挙げられる。
本発明において、市販されている前記無機蛍光体であれば、その粒径等に関わらず、使用することができる。また、本発明では、前記無機蛍光体を、1種単独で又は異なる2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0020】
無機蛍光体の分散粒子径は、前記無機蛍光体の作用効果を十分に発揮する観点から、0.5~30μmが好ましく、1~20μmがより好ましい。
本明細書において、無機蛍光体の分散粒子径(分散粒径)は、蛍光体を分散させた後の平均粒子径のことを指し、光子相関法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径を意味する。
【0021】
本発明の組成物中における前記無機蛍光体の含有量としては、前記無機蛍光体の作用効果を十分に発揮する観点から、10~60重量%が好ましく、15~55重量%がより好ましい。なお、「10~60重量%」は、10重量%以上60重量%以下を指す。以下の各成分の含有量も同様とする。
【0022】
[脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤]
前記無機蛍光体と共に必須成分として用いられる脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤は、蛍光体層において無機蛍光体を保持するマトリックス樹脂になる。さらに、前記無機蛍光体を高温から保護し、高温に晒されても、前記無機蛍光体の熱による変質や劣化を抑制する。
【0023】
脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤は、ケイ素と酸素が化学結合により交互に連なったシロキサン結合を主骨格に持つシリコーンの一部にポリエステルが導入された構造をもつ変性シリコーン系化合物を主成分とするものである。脂肪族ポリエステル変性シリコーンにおけるポリエステルを構成する炭素数としては、本発明の効果が奏されやすい観点から、1~10であることが好ましい。
また、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーンの主鎖は、直鎖型、分岐型、環状型のいずれでもよい。
脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤としては、市販品を使用することができ、例えば、KR-5230、KR-5234、KR-5235(いずれも商品名、信越化学工業社製)、BYK(登録商標)-313、BYK-302(いずれも商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、TSR180(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0024】
前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の分子量は、無機蛍光体の種類や含有量、本発明の組成物の用途等に応じて広い範囲から適宜選択できる。
【0025】
本発明の組成物においては、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤が存在することにより前記無機蛍光体の熱による劣化や変質が顕著に抑制される。前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の配合量は特に制限されず、使用する前記無機蛍光体の種類や粒径、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の種類、本発明の組成物の用途等に応じ、その保存安定性、塗工性、ハンドリング性や、硬化後の蛍光体層の機械強度や耐久性、等を考慮して、適した範囲を適宜選択すればよい。
【0026】
本発明の組成物中における前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の含有量としては、前記無機蛍光体の熱による劣化又は変質を抑制又は防止する観点から、1~20重量%が好ましく、1~10重量%がより好ましい。
【0027】
なお、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤ではなく、アクリル樹脂系分散剤や芳香族変性シリコーン系分散剤等の他の樹脂系分散剤を用いた場合には、発光特性及び耐熱性が共に優れた塗膜形成用組成物とはならない。
【0028】
[シリコーン樹脂]
本発明における「シリコーン樹脂」は、シロキサン結合(Si-O-Si結合)を主鎖とする樹脂を指し、前記無機蛍光体の分散媒として作用する成分である。なお、シリコーン樹脂には、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤として使用される樹脂は含まれない。
【0029】
本実施形態のシリコーン樹脂は、式(ia)で表される繰り返し単位を含有する。
【0030】
【化1】
【0031】
式(ia)中、Rは、水素原子又は炭素数1~30かつ1価~3価の炭化水素基である。炭化水素基は、脂肪族でも芳香族でもよく、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状でも分岐状でも環状でもよい。炭化水素基の炭素数が2以上の場合、炭化水素基における1つ以上のメチレン基は非置換であってもよく、酸素、イミド基又はカルボニル基で置換されていてもよい。炭化水素基の炭素数が2以上の場合、炭化水素基における1つ以上の水素は非置換であってもよく、フッ素、水酸基又は炭素数1~20のアルコキシ基で置換されていてもよい。炭化水素基の炭素数が2以上の場合、炭化水素基における1つ以上の炭素は非置換であってもよく、ケイ素で置換されていてもよい。炭化水素基が2価又は3価の場合、炭化水素基は、複数の繰り返し単位に含まれるSi同士を連結していてもよい。
【0032】
式(ia)中、Rは、アルキル基が好ましい。Rが炭化水素基の場合、炭化水素基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましい。炭化水素基の価数は、2価又は3価が好ましく、3価がより好ましい。炭化水素基は、脂肪族が好ましい。炭化水素基は、飽和が好ましい。炭化水素基は、分岐状が好ましい。
【0033】
前記炭化水素基における水素がアルコキシ基で置換されている場合、アルコキシ基の炭素数は、1~20が好ましく、1~6がより好ましい。
【0034】
式(ia)で表される繰り返し単位は、シルセスキオキサン構造単位である。シルセスキオキサンは、3官能性シランを加水分解することで得られる(RSiO1.5(nは自然数)の構造を有するネットワーク型ポリマー又は多面体クラスターである。各ケイ素原子は、平均1.5個の酸素原子と、1つの炭化水素基と結合している。最大8個の有機官能基と、Si-O結合とでできたカゴ状骨格を有する無機化合物である。シルセスキオキサンは、シリカ(SiO)とシリコーン(RSiO)の中間の量論的化合物であり、有機物に親和性を有する無機物である。
前記シリコーン樹脂は、シルセスキオキサン構造単位を有することで、耐熱性及び耐黄変性により優れる。
【0035】
シルセスキオキサン構造単位の含有量は、前記シリコーン樹脂を構成する繰り返し単位の総数に対して、40~80モル%であり、45~75モル%が好ましく、50~70モル%がより好ましい。シルセスキオキサン構造単位の含有量が40モル%以上であると、蛍光体含有組成物の耐熱性及び耐黄変性をより高められる。シルセスキオキサン構造単位の含有量が80モル%以下であると、蛍光体分散体の透明性をより高められる。
【0036】
前記シリコーン樹脂は、式(ib)で表される繰り返し単位を含有してもよい。
【0037】
【化2】
【0038】
式(ib)で表される繰り返し単位の含有量は、前記シリコーン樹脂を構成する繰り返し単位の総数に対して、40モル%以下が好ましく、10~20モル%がより好ましい。式(ib)で表される繰り返し単位の含有量が10モル%以上であると、蛍光体含有組成物の耐熱性及び耐黄変性をより高められる。式(ib)で表される繰り返し単位の含有量が40モル%以下であると、蛍光体分散体の透明性をより高められる。式(ib)で表される繰り返し単位の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)により求めることができる。
【0039】
前記シリコーン樹脂は、式(ia)で表される繰り返し単位及び式(ib)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位(以下、「他の繰り返し単位」ともいう。)を含有してもよい。他の繰り返し単位としては、例えば、ビニル化合物に由来する繰り返し単位、アクリル化合物に由来する繰り返し単位、ポリエステル化合物に由来する繰り返し単位等が挙げられる。他の繰り返し単位の含有量は、前記シリコーン樹脂を構成する繰り返し単位の総数に対して、1モル%以下が好ましく、0モル%がより好ましい。他の繰り返し単位の含有量が1モル%以下であると、蛍光体分散体の有機物含有率を低減でき、蛍光体分散体の耐熱性及び耐黄変性をより高められる。他の繰り返し単位の含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィーにより求めることができる。
【0040】
前記シリコーン樹脂の質量平均分子量は、500~25000が好ましく、1000~20000がより好ましい。シリコーン樹脂の質量平均分子量が500以上であると、蛍光体分散体の耐熱性及び耐黄変性をより高められる。シリコーン樹脂の質量平均分子量が上記25000以下であると、蛍光体分散体の透明性をより高められる。
本明細書において、質量平均分子量は、ポリスチレン換算の質量平均分子量を意味し、ポリスチレンを基準物質として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求められる。
【0041】
前記シリコーン樹脂のモノマーとしては、例えば、Pentacyclo[9.5.1.13,9.15,15.17,13]octasiloxane,1,3,5,7,9,11,13-heptamethyl-15-phenyl-(CAS No.18616-10-9)、Pentacyclo[9.5.1.13,9.15,15.17,13]octasiloxane,1,3,5,7,9,13-hexamethyl-11,15-diphenyl-(CAS No.18421-62-0)等の完全カゴ型シルセスキオキサン等が挙げられる。本発明の組成物では、シリコーン樹脂として、これらを2種以上含有してもよい。
【0042】
本発明の組成物中における前記シリコーン樹脂の含有量としては、前記無機蛍光体の熱による劣化又は変質を抑制又は防止する観点から、5~20重量%が好ましい。
【0043】
本発明の組成物は、前記無機蛍光体と、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤と、前記シリコーン樹脂とを、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤に加え、さらに熱重合性化合物と、重合開始剤を使用することが好ましい。
【0044】
[熱重合性化合物]
本発明における「熱重合性化合物」とは、熱により架橋し硬化する化合物をいう。熱重合性化合物は、熱硬化性基を有する。熱硬化性基としては、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基、アミノ基、カルボキシ基、メチロール基等が挙げられ、蛍光体含有組成物の硬化物の耐熱性及び保存安定性に優れる観点、及び基材への密着性に優れる観点から、エポキシ基が好ましい。
【0045】
熱硬化性化合物としては、1分子中に熱硬化性官能基を2個以上有する化合物と硬化剤の組み合わせが通常用いられ、更に、熱硬化反応を促進できる触媒を添加しても良い。1分子中に熱硬化性官能基を2個以上有する化合物として、例えば、1分子中にエポキシ基2個以上を有するエポキシ化合物を用いても良い。1分子中にエポキシ基2個以上を有するエポキシ化合物は、エポキシ基を2個以上、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個を1分子中に有するエポキシ化合物(エポキシ樹脂と称されるものを含む)である。エポキシ基は、オキシラン環構造を有する構造であればよく、例えば、グリシジル基、オキシエチレン基、エポキシシクロヘキシル基等を示すことができる。エポキシ化合物としては、カルボン酸により硬化しうる公知の多価エポキシ化合物を挙げることができ、このようなエポキシ化合物は、例えば、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊(昭和62年)等に広く開示されており、これらを用いることが可能である。
【0046】
エポキシ基を有する熱重合性化合物としては、例えば、オキシラン環構造を有するモノマーの重合体、オキシラン環構造を有するモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。多官能エポキシ樹脂としては、例えば、ポリグリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、ベンジルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、n-ブチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、2-ヒドロキシエチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン-グリシジルメタクリレートが挙げられる。熱重合性化合物として、日本国特開2014-56248号公報の段落〔0044〕~〔0066〕に記載の化合物を用いることもできる。本発明の組成物では、熱重合性化合物として、これらを2種以上含有してもよい。
【0047】
本発明の組成物中における熱重合性化合物の含有量としては、硬化させた塗膜の強度の観点から、1~10重量%が好ましい。
【0048】
[熱重合開始剤]
本発明における「熱重合開始剤」とは、熱により分解及び/又は反応し、前記熱重合性化合物の重合を開始するための化合物であればよい。例えば、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、フェノールノボラック樹脂、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N-ジメチルベンジルアミン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア等が挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0049】
本発明の組成物中における熱重合開始剤の含有量としては、重合速度と塗膜の物性との観点から、0.1~3重量%が好ましい。
【0050】
[エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤]
本発明の組成物で使用するエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤は、前記無機蛍光体及び前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の分散性や保存安定性(特に前記無機蛍光体の凝集や沈殿の防止)、蛍光体層における前記無機蛍光体の均一分散性、本発明の組成物のハンドリング性、塗工性等を向上させるのに有用である。
【0051】
エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤としては、前記無機蛍光体や前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤の種類、これらの配合量、得られる本発明の組成物の用途等、種々の条件に応じて適宜選択される。エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤は、1種を単独で又は可能であれば2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、酢酸-3-メトキシブチル、エチルグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ブチルカルビトールアセテート、乳酸ブチル、エチル-3-エトキシプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
【0053】
グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等の水溶性のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等の非水溶性のグリコールエーテル類等が挙げられる。
【0054】
本発明の組成物中におけるエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤の含有量としては、塗膜作製時のハンドリングを考慮して、15~75重量%が好ましい。
【0055】
本発明の組成物は、前述成分の他に、必要に応じて、塗膜形成用組成物に用いられる任意の添加剤を含むことができる。該添加剤としては、例えば、増粘剤、分散助剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、界面活性剤、密着促進剤、表面調整剤等が挙げられる。
前記増粘剤として、シリカ粒子ACEMATT(登録商標)3600(エボニック社製)、NIPSIL(登録商標)SS-50F(東ソー・シリカ社製)等が挙げられる。
本発明の組成物における添加剤の含有量は、本発明の組成物中の0.01~10重量%の範囲から適宜選択される。
【0056】
本発明の組成物は、各成分を任意の順番で混合することにより製造してもよい。
中でも、効率よく本発明の組成物を製造できる観点から、前記無機蛍光体、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を含有する蛍光体分散体を予め作製し、この蛍光体分散体、前記シリコーン樹脂、前記熱重合性化合物、前記熱重合開始剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を混合することで本発明の組成物を製造することが好ましい。
【0057】
前記蛍光体分散体と混合するための、前記シリコーン樹脂、前記熱重合性化合物、前記熱重合開始剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤については、これらの成分を混合したレジスト溶液としてもよい。
この場合、蛍光体分散体とレジスト溶液との混合比率(重量比)は3:7~7:3の範囲で好ましく選択できる。
【0058】
前記蛍光体分散体、前記シリコーン樹脂、前記熱重合性化合物、前記熱重合開始剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を混合する方法としては、公知の混合方法を利用できる。
【0059】
(蛍光体分散体)
本発明に係る蛍光体分散体(以下、本発明の分散体ともいう)に含有される前記無機蛍光体、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤は、いずれも本発明の組成物に使用できるものであればよい。
【0060】
本発明の分散体は、本発明の効果が奏されやすい観点から、さらにシリコーン樹脂を含有していることが好ましい。先にも述べたように、シリコーン樹脂は、シロキサン結合(Si-O-Si結合)を主鎖とする樹脂である。具体的には、前記式(ia)で表される繰り返し(シルセスキオキサン構造)単位を含有する熱硬化性シリコーン樹脂又は前記式(ib)で表される繰り返し単位を含有する熱硬化性シリコーン樹脂等である。
【0061】
前記蛍光体分散体は、前記無機蛍光体、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤及び前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤及び必要に応じて前記シリコーン樹脂を混合することにより製造できる。前記無機蛍光体の分散性を高める等の目的で、前記無機蛍光体及びエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤を含む混合物と、前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤又はそのエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤の溶液と、必要に応じて前記シリコーン樹脂等とを混合することにより蛍光体分散体を製造してもよい。
また、前記無機蛍光体の、エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤への分散には、微細粒子のエステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤への分散に利用される種々の分散方法を利用できる。
【0062】
前記蛍光体分散体における各成分の含有量としては、例えば、
前記無機蛍光体5~70重量%、
前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤2~32重量%、
前記エステル系溶剤及び/又はグリコールエーテル系溶剤2~88重量%、
の範囲に調整されていればよい。
【0063】
本発明の分散体は、本発明の組成物を作製する原料として使用できる以外に、波長変換の必要な場所に使用することもできる。
【0064】
(波長変換層)
以上のようにして得られる本発明の分散体及び組成物は、自発光型ディスプレイの発光素子を構成する表示装置用基板の表面に形成される波長変換層の材料として使用することができる。
【0065】
前記波長変換層は、本発明の分散体を表示装置用基板表面の所定領域にインクジェット塗布又はノズル塗布し、自然硬化又は加熱硬化させて、硬化層とすることにより形成される。
また、本発明の組成物を表示装置用基板表面の所定領域に塗布し、自然硬化又は加熱硬化させて、硬化層とすることにより形成される。
本発明の組成物の塗布方法としては公知の塗布(又は印刷)方法をいずれも採用できる。例えば、ロールコーティング、スピンコーティング、スロットコーティング、スクリーン印刷等の手法を利用できる。
【0066】
表示装置用基板表面に塗布された本発明の組成物の塗膜は、例えば加熱や光照射により硬化される。該塗膜の加熱硬化において、加熱温度及び加熱時間は本発明の組成物に含まれる前記脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤や有機溶剤の種類等に応じて適宜選択される。例えば、二段階で加熱硬化を行う場合、第1段(プリベーク)として、80~120℃程度の温度下で、1~30分程度加熱を行い、次いで第2段(本加熱)として、200~250℃程度の温度下で、20~60分程度で加熱を行い、硬化を完了させる。前記波長変換層の厚みは、有機ELディスプレイの場合には、好ましくは0.5~10μm程度、マイクロLEDディスプレイの場合には、好ましくは10~30μm程度である。
【実施例0067】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0068】
(実施製造例1:赤色系の蛍光体分散体1の製造)
表1に示す組成のように、赤色系無機蛍光体(以下、赤色蛍光体)と、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤A(市販の脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤)と、有機溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc))とを混合して赤色系の蛍光体分散体1を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.9μm)。
【0069】
(実施製造例2:緑色系の蛍光体分散体2の製造)
表1に示す組成のように、赤色蛍光体に変えて緑色系無機蛍光体(以下、緑色蛍光体)を用いた以外は、実施製造例1と同様にして、緑色系の蛍光体分散体2を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.8μm)。
【0070】
(実施製造例3:青色系の蛍光体分散体3の製造)
表1に示す組成のように、赤色蛍光体に変えて青色系無機蛍光体(以下、青色蛍光体)を用いた以外は、実施製造例1と同様にして、青色系の蛍光体分散体3を製造した(無機蛍光体の分散粒子径4.9μm)。
【0071】
(比較製造例1:赤色系の蛍光体分散体4の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E1(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例1と同様にして、赤色系の蛍光体分散体4を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.6μm)。
【0072】
(比較製造例2:赤色系の蛍光体分散体5の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E2(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例1と同様にして、赤色系の蛍光体分散体5を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.8μm)。
【0073】
(比較製造例3:赤色系の蛍光体分散体6の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えて芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた以外は、実施製造例1と同様にして、赤色系の蛍光体分散体6を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.9μm)。
【0074】
(比較製造例4:緑色系の蛍光体分散体7の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E1(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例2と同様にして、緑色系の蛍光体分散体7を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.6μm)。
【0075】
(比較製造例5:緑色系の蛍光体分散体8の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E2(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例2と同様にして、緑色系の蛍光体分散体8を製造した(無機蛍光体の分散粒子径3.7μm)。
【0076】
(比較製造例6:緑色系の蛍光体分散体9の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えて芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた以外は、実施製造例2と同様にして、緑色系の蛍光体分散体9を製造した(無機蛍光体の分散粒子径4.4μm)。
【0077】
(比較製造例7:青色系の蛍光体分散体10の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E1(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例3と同様にして、青色系の蛍光体分散体10を製造した(無機蛍光体の分散粒子径4.1μm)。
【0078】
(比較製造例8:青色系の蛍光体分散体11の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えてアクリル樹脂系分散剤E2(市販のアクリル樹脂)を用いた以外は、実施製造例3と同様にして、青色系の蛍光体分散体11を製造した(無機蛍光体の分散粒子径4.3μm)。
【0079】
(比較製造例9:青色系の蛍光体分散体12の製造)
表1に示す組成のように、脂肪族ポリエステル変性シリコーン系分散剤Aに変えて芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた以外は、実施製造例3と同様にして、青色系の蛍光体分散体12を製造した(無機蛍光体の分散粒子径6.0μm)。
【0080】
【表1】
【0081】
(実施例1:赤色系の塗膜形成用組成物1の製造)
表2に示す組成となるように、実施製造例1で作製した蛍光体分散体1に対して、塗膜形成用組成物の母材としてシリコーン樹脂(熱硬化型シリコーン樹脂B)、熱重合性化合物C、熱重合開始剤D及び有機溶剤(PGMAc)を添加し、均一になるように混合して赤色系の塗膜形成用組成物1を製造した。
【0082】
(実施例2:緑色系の塗膜形成用組成物2の製造)
表2に示す組成となるように、実施製造例2で作製した蛍光体分散体2を用いて、実施例1と同様にして緑色系の塗膜形成用組成物2を作製した。
【0083】
(実施例3:青色系の塗膜形成用組成物3の製造)
表2に示す組成となるように、実施製造例3で作製した蛍光体分散体3を用いて、実施例1と同様にして青色系の塗膜形成用組成物3を作製した。
【0084】
(比較例1:赤色系の塗膜形成用組成物4の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例1で作製した蛍光体分散体4を用いて、実施例1と同様にして赤色系の塗膜形成用組成物4を作製した。
【0085】
(比較例2:赤色系の塗膜形成用組成物5の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例5で作製した蛍光体分散体5を用い、熱硬化型シリコーン樹脂Bに変えて熱硬化型アクリル樹脂Fを用い、熱重合性化合物Cに変えて熱重合性化合物Gを用い、熱重合開始剤Dに変えて熱重合開始剤Hを用いた以外は、実施例1と同様にして赤色系の塗膜形成用組成物5を作製した。
【0086】
(比較例3:赤色系の塗膜形成用組成物6の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例6で作製した蛍光体分散体6を用いて、実施例1と同様にして赤色系の塗膜形成用組成物6を作製した。
【0087】
(比較例4:緑色系の塗膜形成用組成物7の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例7で作製した蛍光体分散体7を用い、比較例2と同様に熱硬化型アクリル樹脂F、熱重合性化合物G及び熱重合開始剤Hを用いて、実施例2と同様にして緑色系の塗膜形成用組成物7を作製した。
【0088】
(比較例5:緑色系の塗膜形成用組成物8の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例8で作製した蛍光体分散体8を用いて、実施例2と同様にして緑色系の塗膜形成用組成物8を作製した。
【0089】
(比較例6:緑色系の塗膜形成用組成物9の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例9で作製した蛍光体分散体9に対して、比較例2、比較例4と同様に熱硬化型アクリル樹脂F、熱重合性化合物G及び熱重合開始剤Hを用いて、実施例2と同様にして緑色系の塗膜形成用組成物9を作製した。
【0090】
(比較例7:青色系の塗膜形成用組成物10の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例10で作製した蛍光体分散体10を用いて、実施例3と同様にして青色系の塗膜形成用組成物10を作製した。
【0091】
(比較例8:青色系の塗膜形成用組成物11の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例11で作製した蛍光体分散体11を用いて、実施例3と同様にして青色系の塗膜形成用組成物11を作製した。
【0092】
(比較例9:青色系の塗膜形成用組成物12の製造)
表2に示す組成となるように、比較製造例12で作製した蛍光体分散体12を用いて、実施例3と同様にして青色系の塗膜形成用組成物12を作製した。
【0093】
【表2】
【0094】
(試験例1:発光特性評価)
試験用「波長変換層」の作製
スピンコーター(ミカサ社製)を用いて、実施例1~3、比較例1~9として作製した塗膜形成用組成物1~12を10cm角の無アルカリガラス基板上に、加熱後の膜厚が15μmとなるように塗布し、ホットプレート(アズワン社製)を用いて温度100℃で3分間プリベーク(第1段の加熱)し、プリベーク膜を形成した。次いで、第2段(本加熱)として、プリベーク膜付き基板を、230℃で30分間加熱して、試験用の波長変換層を得た。
【0095】
得られた波長変換層について、1cm角に切り出し、量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製「C11347」(商品名))にて385nmの励起光における蛍光量子収率(PLQY)、光吸収率(Abs)、発光の極大ピーク波長(λmax)、発光強度(発光の極大ピーク強度。「ピーク強度」ともいう。)、半値幅(発光ピークの半値幅,FWHM)を測定した。また、波長変換層を385nmの光を発するLED素子の上に配置し、LED素子を発光させて、正面輝度計(コニカミノルタ社製「CS-1000(商品名)」)にて発光スペクトルを、加熱の前後で測定した。得られたスペクトルから、量子収率の変化率(Δ量子収率)、発光ピーク強度の変化率(Δピーク強度)をそれぞれ計算した。これらの結果を表3に示す。
【0096】
(試験例2:耐熱性試験)
量子収率測定装置及び正面輝度計を用いて、試験例1で作製した(試験用)波長変換層が形成された基板の初期値(加熱前値)を測定した。
その後、試験例1で作製した波長変換層が形成された基板を恒温恒湿槽(エスペック社製)に入れ、温度150℃(湿度制御せず)で500時間加熱した。
上記基板を室温(15~25℃)で一晩静置後、上記の量子収率測定装置及び正面輝度計を用いて測定した(加熱後値)。得られたスペクトルから、量子収率の変化率(Δ量子収率)、発光ピーク強度の変化率(Δピーク強度)をそれぞれ計算した。計算結果を表3に示す。
なお、耐熱性試験処理後のΔ量子収率、Δピーク強度が共に、±5%以内であるものを合格とした。ただし、「±5%以内」は絶対値が5%以下の数値範囲を示し、-(マイナス、負)5%以上、+(プラス、正)5%以下を指す。以下の耐湿熱性試験も同様。
【0097】
(試験例3:耐湿熱性試験)
量子収率測定装置及び正面輝度計を用いて、試験例1で作製した(試験用)波長変換層が形成された基板の初期値(加熱加湿前値)を測定した。
その後、試験例1で作製した波長変換層が形成された基板を恒温恒湿槽(エスペック社製)に入れ、温度85℃、湿度85%RHで500時間加熱加湿した。
上記基板を室温(15~25℃)で一晩静置後、上記の量子収率測定装置及び正面輝度計を用いて測定した(加熱加湿後値)。得られたスペクトルから、量子収率の変化率(Δ量子収率)、発光ピーク強度の変化率(Δピーク強度)をそれぞれ計算した。計算結果を表3に示す。
なお、耐湿熱性試験処理後のΔ量子収率、Δピーク強度が共に、±5%以内であるものを合格とした。
【0098】
【表3】
【0099】
表3に示すように、本発明を適用した実施例1は、分散剤としてアクリル樹脂系分散剤E1、アクリル樹脂系分散剤E2を用いた比較例1、2や、芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた比較例3に比べて、発光特性、並びに、耐熱性及び耐湿熱性がいずれも優れることが分かった。
本発明を適用した実施例2は、分散剤としてアクリル樹脂系分散剤E1、アクリル樹脂系分散剤E2を用いた比較例4、5や、芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた比較例6に比べて、発光特性、並びに、耐熱性及び耐湿熱性がいずれも優れることが分かった。
本発明を適用した実施例3は、分散剤としてアクリル樹脂系分散剤E1、アクリル樹脂系分散剤E2を用いた比較例7、8や、芳香族変性シリコーン系分散剤E3を用いた比較例9に比べて、発光特性、並びに、耐熱性及び耐湿熱性がいずれも優れることが分かった。
以上のことから、実施製造例1~3で作製した蛍光体分散体1~3、及び実施例1~3で作製した塗膜形成用組成物1~3はいずれも、発光特性及び耐熱性の両方の特性に優れたものであることがわかった。