(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130955
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】配向性制御剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240920BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240920BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240920BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20240920BHJP
C12N 9/02 20060101ALN20240920BHJP
C12N 11/00 20060101ALN20240920BHJP
C07D 215/50 20060101ALN20240920BHJP
C07D 311/82 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 Y
H01M4/88 K
H01M8/16
C12N9/02
C12N11/00
C07D215/50
C07D311/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040935
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 優人
(72)【発明者】
【氏名】奥田 光美
(72)【発明者】
【氏名】川崎 彰子
(72)【発明者】
【氏名】四反田 功
【テーマコード(参考)】
4B033
5H018
【Fターム(参考)】
4B033NA23
4B033NC18
4B033ND16
4B033ND20
5H018AA01
5H018BB12
5H018EE16
(57)【要約】
【課題】酸化還元酵素の配向性を制御可能な配向性制御剤の提供。
【解決手段】式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなる酸化還元酵素の配向性制御剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び下記式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなる酸化還元酵素の配向性制御剤。
【化1】
(式中、R
1及びR
5は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;
R
2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又はカルボキシ基を示し;
R
3は、水素原子、ヒドロキシ基、又はフェニル基を示し;
R
4は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基、又はフェノキシ基を示す。
ただし、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5のすべてが水素原子であるものを除く。);
【化2】
【化3】
【化4】
(式中、R
6及びR
9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;
R
7は、=O、-ONa、ジエチルアミノ基、又は=N
+(C
2H
5)
2Cl
-を示し;
R
8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【化5】
(式中、R
10は、水素原子、又はフェニル基を示し;
R
11、R
12及びR
13は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。)
【請求項2】
上記カルボン酸又はその塩は、上記式(I)又は(IV)で表されるカルボン酸又はその塩である請求項1記載の配向性制御剤。
【請求項3】
上記カルボン酸又はその塩は、下記式(I’)又は(IV’)で表されるカルボン酸又はその塩である請求項1記載の配向性制御剤。
【化6】
(式中、R
1及びR
5は、同一又は相異なって、水素原子、ヒドロキシ基を示し;
R
2は、水素原子、ヒドロキシ基、又はカルボキシ基を示し;
R
3は、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;
R
4は、水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基を有していてもよいフェニル基を示す。
ただし、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5のすべてが水素原子であるものを除く。)
【化7】
(式中、R
6及びR
9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;
R
7は、=O、又は-ONaを示し;
R
8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【請求項4】
カルボン酸又はその塩、及びフェノール類が、次の(1)~(27)より選択される少なくとも1種である請求項1記載の配向性制御剤。
(1)ビフェニル-3-カルボン酸
(2)2’-メチルビフェニル-3-カルボン酸
(3)3-(3’-ピリジル)安息香酸
(4)3-(ピリジン-4-イル)安息香酸
(5)3-(ピリミジン-5-イル)安息香酸
(6)3-フェノキシ安息香酸
(7)3-(2-ナフチル)安息香酸
(8)3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸
(9)3,5-ジメチル安息香酸
(10)3,5-ジブロモ安息香酸
(11)5-ヒドロキシイソフタル酸
(12)没食子酸
(13)プロトカテク酸
(14)2,3-ジヒドロキシ安息香酸
(15)2,6-ジヒドロキシ安息香酸
(16)2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸
(17)フロログルシノール
(18)フェニルヒドロキノン
(19)ビフェニル-4-カルボン酸
(20)2,2’-ビシンコニン酸
(21)1-ピレン酪酸
(22)エオシンY
(23)エリスロシンB
(24)アシッドレッド94
(25)アシッドレッド92
(26)アシッドレッド91
(27)ローダミンB
【請求項5】
酸化還元酵素がマルチ銅オキシダーゼである請求項1~4のいずれか1項記載の配向性制御剤。
【請求項6】
酸化還元酵素がビリルビンオキシダーゼである請求項1~4のいずれか1項記載の配向性制御剤。
【請求項7】
電極上に、請求項1~6のいずれか1項記載の配向性制御剤を介在させて酸化還元酵素が固定化された酵素電極。
【請求項8】
電極上に請求項1~6のいずれか1項記載の配向性制御剤を接触させて、当該配向性制御剤が固定化された電極を得る工程と、当該配向性制御剤が固定化された電極上に酸化還元酵素を固定化する工程を含む、酵素電極の製造方法。
【請求項9】
負極及び正極を備える酵素バイオ燃料電池であって、正極に、請求項7記載の酵素電極を備える酵素バイオ燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元酵素の配向性制御剤、酵素電極及び酵素バイオ燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT等のデジタル化が急速に進んでいる。特に、燃料電池やセンサーに関する研究は古くより活発に行われている領域である。その中でも、酵素バイオ燃料電池は安全性やコスト面だけでなく、環境面においても魅力的な技術の一つであり、約50年前から研究されている分野である(非特許文献1及び2)。
【0003】
生物は、有機酸等の酸化反応や酸素等の還元反応といった酵素による代謝過程において生じるエネルギーを活用している。これらの酵素の働きを電極触媒として利用することで、化学エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。これが酵素バイオ燃料電池の概念である。
酵素バイオ燃料電池の優位点としては、(i)基質選択性により燃料のクロスオーバーがない(堅いセパレータがなくてもいい)、(ii)セパレータフリーであるため、柔軟にセルデザインが可能、(iii)室温で操作可能であり、生体親和性の高い物質を用いているため安全性も高い、(iv)酵素は工業的に大量生産可能である(資源的には枯渇する可能性が低く環境に優しい)、(v)低コストで高容量化が可能、等が挙げられる。これら酵素バイオ燃料電池の特徴を活かし、エネルギー運搬・資源開発・廃棄・リサイクルに関わる消費エネルギーの削減を実現できる。
一方で、酵素バイオ燃料電池には出力面や容量面、安定性面に課題があり(非特許文献1)、実用化に至っていない。このような背景の下、近年のSDGsの潮流(化石エネルギーから再生エネルギーへの移行)を受けて、酵素バイオ燃料電池に関する研究が再燃してきている。
【0004】
酵素バイオ燃料電池における電極-酵素間の電子伝達形式は大別して2つに分けられる(非特許文献3)。1つ目が、低分子化合物等の酸化還元物質を介してリレー形式で電子を伝える電子伝達メディエータ型(MET)である。もう1つが、電極と酵素の間を介するモノが無く、直接的に電子の授受を行う直接電子移動型(DET)である。近年では、センサーでの利用を目的として、検出した化合物をより定量的に測定すべく、DETの形式を用いられることが増えてきている。
【0005】
DET型においてメディエータを用いない場合、酵素-電極間の距離が重要な要素となる。一般的に酵素中の電子の伝達可能な距離は20Åとされており(非特許文献4)、15Å以内に収めるのが良いとされている(非特許文献5)。また、同時に酵素の配向性が重要となってくる(非特許文献6)。
DET型カソード酵素には、活性中心となる金属原子がポリペプチドに埋没している酵素、例えば、マルチ銅オキシダーゼが頻繁に用いられる。そのため、理想的な電極は、その活性中心から近く、さらに電子を通しやすいものとされている。環境面等様々な観点から、近年では導電性の優れた材料として炭素材料が用いられてきている。ただし、炭素材料は疎水性材料であり、水中で凝集してしまうため、バイオ領域での利用には工夫が必要とされている(非特許文献7)。
【0006】
酵素の活性中心を電極近傍に配置すべく酵素の固定化法として、共有結合法・橋かけ結合法・吸着法・包括法等が広く研究されている(非特許文献6)。特に、吸着法(物理的吸着)は簡便であり、酵素の変性・失活も少なく、担体の再利用も可能であるため、配向性制御を目的とした研究が活発に行われている。一方で、電極からの脱離・漏出という課題もあるため、共有結合法等も並行して研究が進んでいる。ただし、共有結合による固定化は、酵素安定性に大きな影響を与える可能性も大きく、取り扱いが難しい(非特許文献4)。そのため、酵素工学も重要とされているにも関わらず、酵素の安定性と活性の変化を誘発してしまうため採用されていない。
【0007】
マルチ銅オキシダーゼによる酸素の還元反応に関して、詳細の解明には至っていないものの、研究が進んでいる。酸素の還元反応において想定されている作用機序では、マルチ銅オキシダーゼの活性中心である4つ銅イオン(T1,T2,T3,T3)間の電子移動が想定されており(非特許文献9)、このうちPeroxy intermediate(PI)とNative intermediate(NI)の反応性が高く、これらは検出できないとされている。さらなる検証の結果、T2近傍のAspにH+を供給することでT2T3の間での電子移動が高速となることがわかってきた(非特許文献8)。pHを大きくすることで電流密度は小さくなり、酸性条件にて電流密度が大きくなることとも一致する。また、銅イオンを他のイオンに置き換えた検討よりT1が電子の入り口であることもわかっている(非特許文献10)。以上より、高反応性のPIやNIによる再酸化を考慮すると、電流密度の向上には、界面にてT1へ電子を高速で送る必要性があるといえる。つまり、T1を電極の近くに配置するよう配向性を制御する必要がある。
【0008】
ビリルビンオキシダーゼに関して、より詳細な構造解析がなされている(非特許文献11)。疎水性残基で構成されたタンパク質表面の内側に、T1は位置しており、その周辺は親水性残基で構成されている。さらに、T1近傍は正の電荷を帯びており、正に帯電した電極を近づけた場合に、酵素が反対向きに配向されることもわかっている(非特許文献12及び13)。すなわち、静電相互作用により配向性を制御することが可能であるということである。また、静電相互作用が電流密度の向上に影響しないことも合わせて確認されている(非特許文献4)。
【0009】
上述したように、ビリルビンオキシダーゼのT1近傍は正に帯電していることが明らかになっている。これに基づき、負に帯電する小分子を用いて配向性を制御する手法の開発が活発に行われている。例えば、非特許文献8では、負に帯電する小分子を電極表面に電気化学的に修飾することで、酵素を塗布した際の電流密度の挙動が観測され、小分子の修飾によるCVの波形に影響はなく、ナフタレンの末端にカルボン酸をもつ化合物が大きな電流密度を生じたことが報告されている。
また、非特許文献14では、電流密度の測定結果より、スルホン酸を含有した化合物が効果的であることが報告されている。
【0010】
さらに、小分子としてビリルビンを用いた技術が検討されている。ビリルビンは、ビリルビンオキシダーゼの基質であり、その基質特異性を利用することでビリルビンオキシダーゼの配向性を制御できると考えられた。実際、ビリルビンを電極に修飾していない場合と比較すると、電流密度が2倍以上に大きく向上したことが報告されている(非特許文献11)。
【0011】
この報告を基に、ビリルビンに類似した構造を持つ小分子の活用が検討されている。ビリルビンがヘムの分解中間体であることを踏まえ、ポルフィリン類縁体の利用が検討され(非特許文献15)、その結果、エステル体に対し、カルボン酸部位を有する化合物を用いた場合に電流密度を向上させることがわかった。ただし、Fe原子の含有の有無は電流密度にほとんど影響しない。また、メディエータとして機能するABTSを添加して同様の測定を行ったところ、最も良い結果を与えた化合物を用いた場合、同様の波形が観測されている。エステル体を用いた場合において、ABTSの添加による電流密度の向上は、MET機構での電子伝達が促進されたためと結論付けられる。一方で、カルボン酸を利用した場合に変化が見られなかったのは、負に帯電したカルボン酸による配向性制御のため、DET機構にて電子が円滑に伝達されたと考えられる。
【0012】
小分子による配向性制御だけでなく、共有結合法を併用することで2点で酵素を固定した技術も報告されている(非特許文献16)。1-pyrenebutanoic acid succinimidyl ester (PBSE)を用いることで、π―π相互作用、及び酵素との共有結合を合わせて利用することで酵素と電極を直接結ぶことができる。その上で、2,5-Dimethyl-1-phenyl-1H-pyrrole-3-carbaldehyde(DPy)の利用により、酵素の配向性を制御することで電極表面からの効率的な電子伝達を実現する。
DPyは窒素上のPh基がPBSE同様、カーボンナノチューブの表面とπ―π相互作用を形成していると考えられる。PBSEだけを用いた場合、生じる電流密度が少し大きくなる一方で、PBSE・DPyを併用することにより電流密度の大きな向上が観測されており、二点固定の効果が示唆される結果である。また、同様にして、DPyの代わりにsyringaldazineを用いた例も報告されている(非特許文献17)。
【0013】
ビリルビンオキシダーゼだけでなく、これらの他にも、酵素にタグを導入することで配向性を固定化する報告例もある。His-Tagを導入し、カーボンナノチューブ上にpyreneを有する小分子の一部にNi原子を配置した小分子を付与することで酵素の配向性を制御可能である(非特許文献18)。ただし、pHの制御を要求される等、課題も多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】酵素トランスデューサーと酵素技術展開-酵素センサ、バイオ電池、そして酵素処理応用(食品、医薬、修復)- 監修:三林浩二 シーエムシー出版 2020. 3. 11.
【非特許文献2】A. T. Yashiro et al. Biochim. Biophys. Acta. 1964, 88, 375
【非特許文献3】P. Bollella et al. Sensors 2020, 20, 12
【非特許文献4】V. P. Hitaishi et al. catalysts 2018, 8, 192
【非特許文献5】Page et al. Nature 1999, 402, 47
【非特許文献6】I. Mazurenko et al. Current Opinion in Electrochemistry 2020, 19, 113
【非特許文献7】Y. Amano et al. Materials Letters 2016, 174, 184
【非特許文献8】L. Santos et al. Phys. Chem. Cehm. Phys. 2010, 12, 13962
【非特許文献9】N. Mano et al. Chem. Rev. 2018, 118, 2392
【非特許文献10】Y. Kamitaka et al. Journal of Electroanalytical Chemistry 2007, 601, 119
【非特許文献11】J. A. Cracknell et al. Dalton Trans., 2011, 40, 6668
【非特許文献12】T. Koval et al. Scientific Reports 2019, 9, 13700
【非特許文献13】F. Lopez et al. Journal of Electroanalytical Chemistry 2018, 812, 19
【非特許文献14】H. Xia et al. Journal of Electroanalytical Chemistry 2016, 763, 104
【非特許文献15】N. Lalaoui et al. Chem. Eur. J. 2015, 21, 16868
【非特許文献16】R. J. Lopez et al. ChemElectroChem 2014, 1, 241
【非特許文献17】Y. Ulyanova et al. Phys. Chem. Cehm. Phys. 2014, 16, 13367
【非特許文献18】Y. Amano et al. Materials Letters 2016, 174, 184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、酸化還元酵素の配向性を制御可能な配向性制御剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、電極と酸化還元酵素の間に、所定のカルボン酸又はその塩、あるいはフェノール類を介入させて、酸化還元酵素を電極上に固定化させることにより、当該酵素の配向性を制御することができ、酵素電極の電流密度が向上することを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)下記式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び下記式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなる酸化還元酵素の配向性制御剤。
【0018】
【0019】
(式中、R1及びR5は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;
R2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又はカルボキシ基を示し;
R3は、水素原子、ヒドロキシ基、又はフェニル基を示し;
R4は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基、又はフェノキシ基を示す。
ただし、R1、R2、R3、R4、R5のすべてが水素原子であるものを除く。);
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
(式中、R6及びR9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;
R7は、=O、-ONa、ジエチルアミノ基、又は=N+(C2H5)2Cl-を示し;
R8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【0024】
【0025】
(式中、R10は、水素原子、又はフェニル基を示し;
R11、R12及びR13は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。)
2)電極上に、上記記載の配向性制御剤を介在させて酸化還元酵素が固定化された酵素電極。
3)電極上に上記記載の配向性制御剤を接触させて、当該配向性制御剤が固定化された電極を得る工程と、当該配向性制御剤が固定化された電極上に酸化還元酵素を固定化する工程を含む、酵素電極の製造方法。
4)負極及び正極を備える酵素バイオ燃料電池であって、正極に、上記記載の酵素電極を備える酵素バイオ燃料電池。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電極上の酸化還元酵素の配向性を制御し、酵素電極の電流密度を向上することができる。これにより、高い出力を発揮する酵素バイオ燃料電池の構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】配向性制御剤1と比較例1の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の配向性制御剤は、下記式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び下記式(V)で表されるフェノール類より選択される少なくとも1種からなるものである。
【0029】
【0030】
(式中、R1及びR5は、同一又は相異なって、水素原子、ヒドロキシ基を示し;
R2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又はカルボキシ基を示し;
R3は、水素原子、ヒドロキシ基、又はフェニル基を示し;
R4は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基、又はフェノキシ基を示す。
ただし、R1、R2、R3、R4、R5のすべてが水素原子であるものを除く。);
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
(式中、R6及びR9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;
R7は、=O、-ONa、ジエチルアミノ基、又は=N+(C2H5)2Cl-を示し;
R8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【0035】
【0036】
(式中、R10は、水素原子、又はフェニル基を示し;
R11、R12及びR13は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。)
【0037】
一般式(I)中、R1及びR5は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。なかでも、R1及びR5が水素原子である場合、R1がヒドロキシ基であり、R5が水素原子である場合、あるいは、R1及びR5がヒドロキシ基である場合が好ましい。
【0038】
一般式(I)中、R2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、又はカルボキシ基を示す。
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられる。なかでも、好ましくは臭素原子である。
炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数1~6の直鎖状、分枝状若しくは環状のアルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基シクロプロピル基が挙げられる。なかでも、好ましくはメチル基、tert-ブチル基である。
【0039】
一般式(I)中、R3は、水素原子、ヒドロキシ基、又はフェニル基を示す。
【0040】
一般式(I)中、R4は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基、又はフェノキシ基を示す。
ハロゲン原子としては、前記のハロゲン原子が例示され、好ましくは臭素原子である。
炭素数1~6のアルキル基は、前記の炭素数1~6のアルキル基を示し、好ましくはメチル基、tert-ブチル基である。
置換基を有していてもよいフェニル基の置換基としては、好ましくは炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。この炭素数1~6のアルキル基は、前記の炭素数1~6のアルキル基を示し、好ましくはメチル基である。
窒素原子を1~3個有する単環性の5~6員の不飽和複素環基としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基等が挙げられる。なかでも、好ましくはピリジル基、ピリミジニル基である。
【0041】
一般式(IV)中、R6及びR9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示す。
ハロゲン原子としては、前記のハロゲン原子が例示され、好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子である。
R6及びR9としては、R6が臭素原子又はヨウ素原子であり、R9が水素原子又は塩素原子である場合、あるいは、R6及びR9が水素原子である場合が好ましい。
【0042】
一般式(IV)中、R7は、=O、-ONa、ジエチルアミノ基、又は=N+(C2H5)2Cl-を示す。
【0043】
一般式(IV)中、R8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。
ハロゲン原子としては、前記のハロゲン原子が例示され、好ましくは臭素原子、ヨウ素原子である。
【0044】
本明細書において、カルボン酸の塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。なかでも、好ましくはナトリウム塩である。
【0045】
本発明の好適なカルボン酸又はその塩は、上記式(I)又は(IV)で表されるカルボン酸又はその塩である。
【0046】
また、本発明の好適なカルボン酸又はその塩は、下記式(I’)又は(IV’)で表されるカルボン酸又はその塩である。
【0047】
【0048】
(式中、R1及びR5は、同一又は相異なって、水素原子、ヒドロキシ基を示し;
R2は、水素原子、ヒドロキシ基、又はカルボキシ基を示し;
R3は、水素原子、又はヒドロキシ基を示し;
R4は、水素原子、ヒドロキシ基、又は置換基を有していてもよいフェニル基を示す。
ただし、R1、R2、R3、R4、R5のすべてが水素原子であるものを除く。)
【0049】
【0050】
(式中、R6及びR9は、同一又は相異なって、水素原子、又はハロゲン原子を示し;
R7は、=O、又は-ONaを示し;
R8は、水素原子、ハロゲン原子、又はニトロ基を示す。)
【0051】
一般式(V)中、R10は、水素原子、又はフェニル基を示す。
【0052】
一般式(V)中、R11、R12及びR13は、同一又は相異なって、水素原子、又はヒドロキシ基を示す。
R11、R12及びR13としては、R11及びR13がヒドロキシ基であり、R12が水素原子である場合、あるいは、R11及びR13が水素原子であり、R12がヒドロキシ基である場合が好ましい。
【0053】
より具体的なカルボン酸又はその塩、フェノール類としては、以下の化合物(1)~(27)が例示できる。
(1)ビフェニル-3-カルボン酸
(2)2’-メチルビフェニル-3-カルボン酸
(3)3-(3’-ピリジル)安息香酸
(4)3-(ピリジン-4-イル)安息香酸
(5)3-(ピリミジン-5-イル)安息香酸
(6)3-フェノキシ安息香酸
(7)3-(2-ナフチル)安息香酸
(8)3,5-ジ-tert-ブチル安息香酸
(9)3,5-ジメチル安息香酸
(10)3,5-ジブロモ安息香酸
(11)5-ヒドロキシイソフタル酸
(12)没食子酸
(13)プロトカテク酸
(14)2,3-ジヒドロキシ安息香酸
(15)2,6-ジヒドロキシ安息香酸
(16)2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸
(17)フロログルシノール
(18)フェニルヒドロキノン
(19)ビフェニル-4-カルボン酸
(20)2,2’-ビシンコニン酸
(21)1-ピレン酪酸
(22)エオシンY
(23)エリスロシンB
(24)アシッドレッド94
(25)アシッドレッド92
(26)アシッドレッド91
(27)ローダミンB
【0054】
上記式(I)~(IV)で表されるカルボン酸又はその塩、及び上記式(V)で表されるフェノール類は、常法に基づき化学合成すること、或いはこれらを含有する植物体や培養由来物から抽出・精製することにより取得することができる。また、商業的に入手したものを用いてもよい。
【0055】
本発明の酵素電極は、電極上に、上記記載の配向性制御剤を介在させて酸化還元酵素が固定化された電極である。
【0056】
電極の材料としては、例えば、グラッシーカーボン、カーボンペースト、カーボンファイバー、グラファイト、ハードカーボン、導電性ダイヤモンド等の炭素材料、Pt、Au、Ag等の金属材料、導電性高分子、金属酸化物等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素材料である。
電極は、例えば、電極材料を、紙、セラミック、合成樹脂、ガラス等の基材に、塗布やスクリーン印刷等の印刷により付与することで製造される。電極の製造にあたっては、フッ素系樹脂(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン)等のバインダーを用いてもよい。
【0057】
酸化還元酵素としては、例えば、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、一価銅オキシダーゼCueO、パーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、ラクテートオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、モノアミンオキシダーゼ、ウレートオキシダーゼ(ウリカーゼ)等が挙げられる。
なかでも、本発明の効果を享受し易いという観点から、好ましくは酸素還元反応を触媒する還元酵素であり、より好ましくはマルチ銅オキシダーゼ(MCO)であり、更に好ましくはビリルビンオキシダーゼである。
酸化還元酵素は、生来の酵素分子であってもよく、活性部位を含む酵素の断片であってもよい。このような酵素分子や酵素断片は、動植物や微生物から抽出したものや、化学的に合成したものでもよく、形質転換体由来のものでもよい。
【0058】
本発明の酵素電極は、電極上に上記記載の配向性制御剤を接触させて、当該配向性制御剤が固定化された電極を得る工程と、当該配向性制御剤が固定化された電極上に酸化還元酵素を固定化する工程を含む製造方法により得ることができる。
配向性制御剤及び酸化還元酵素の固定化は、常法により行うことができる。
配向性制御剤及び酸化還元酵素は、水や、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、リン酸緩衝液やトリス緩衝液等の緩衝液に溶解させた溶解液、あるいは分散させた分散液として用いることが好ましい。
【0059】
電極上に固定化する配向性制御剤の量及び酸化還元酵素の量は、用いる配向性制御剤の種類や酵素の活性に応じて選択することができる。
【0060】
このようにして得られた酵素電極は、バイオセンサーやバイオ燃料電池に用いることができる。
本発明のバイオ燃料電池は、負極(アノード)及び正極(カソード)を備える酵素バイオ燃料電池であって、正極(カソード)に、得られた酵素電極を用いる。当該バイオ燃料電池において、負極(アノード)には、糖、アルコール、有機酸、アミン等の基質の酸化反応を触媒する酸化酵素や脱水素酵素等を電極触媒とした電極を用いることができる。
【実施例0061】
(1)電極の形成
基材として、和紙(画仙紙「出雲」、有限会社キーノートプランニング)に撥水加工を施したものに、スクリーン印刷によりカーボンペースト(JELCON CH-10、十条ケミカル株式会社)を付与し、120℃で30分乾燥してリード部を形成した。次いで、MgO鋳型炭素(東洋炭素株式会社)440mg、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ)110mg、及びイソホロン(和光純薬工業株式会社)3mLを混合してスラリー状の電極材料を調製し、これをスクリーン印刷によりリード部の上に4層重ねて付与し、45℃で30分乾燥して、電極を形成した。
【0062】
(2)配向性制御剤・酵素の付与
<実施例1>
(1)で形成した電極に対してUV照射(SSP16-110、セン特殊光源株式会社)を15分行い、20mM水酸化ナトリウム水溶液にて溶解(化合物No.1~22、27)、あるいは水にて溶解(化合物No.23~26)させた表1に示す各配向性制御剤の溶液(3mM)を20μL滴下し、その後減圧下で1時間乾燥した。次いで、各配向性制御剤を付与した電極に、ビリルビンオキシダーゼ(BOD、天野エンザイム株式会社)を、pH 7.0の1 Mリン酸塩緩衝液中に分散させた液体(0.135 unit/μL)を20μL滴下し、その後、減圧下で1.5時間乾燥した。なおコントロールとしては、化合物の付与は行わず、その他は同様に操作したものを使用した。
【0063】
【0064】
<比較例1>
配向性制御剤としてビリルビンを用いて実施例1と同様にして電極に化合物を付与した。
【0065】
(3)電流値の評価
サイクリックボルタンメトリー(HZ-7000、北斗電工株式会社)により、作製した電極の電流値を評価した。酵素電極と対極(Ptカウンター電極 23 cm、ビー・エー・エス)、参照極(RE-1CP 飽和KCl銀塩化銀参照電極、ビー・エー・エス)を用いて、測定は三電極法で行い、測定条件は走査電位範囲-0.2~0.7V、走査速度10mV/sとした。実施例1及び比較例1の電極に対し電流値を測定した。配向性制御剤1~21の電流値を
図1に示す。配向性制御剤22~27の電流値を
図2に示す。配向性制御剤1と比較例1の測定結果を
図3に示す。
【0066】
図1~
図3に示す測定結果より、表1の配向性制御剤を介在させて酵素を固定化することで、電流密度が向上することを確認できた。