(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130958
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層体および締結物品
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20240920BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20240920BHJP
B32B 5/02 20060101ALN20240920BHJP
【FI】
B32B5/28 A
B29C65/02
B32B5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040939
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 喜彦
【テーマコード(参考)】
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
4F100AA37A
4F100AB01A
4F100AD00A
4F100AG00A
4F100AK01B
4F100AK04B
4F100AK42B
4F100AK46B
4F100AT00
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100DB05
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4F100DH01A
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4F100EC03
4F100EC07
4F100EH01
4F100GB07
4F100GB31
4F211AA03
4F211AA04
4F211AA11
4F211AA13
4F211AA15
4F211AA16
4F211AA24
4F211AA28
4F211AA29
4F211AA34
4F211AA40
4F211AD16
4F211AG01
4F211AR02
4F211AR06
4F211AR11
4F211TA01
4F211TC09
4F211TD11
4F211TN07
4F211TN27
4F211TQ04
4F211TW15
(57)【要約】
【課題】引張応力に対する吸収エネルギー量が高い、一方向に配向して配列した強化繊維を有する積層体を提供すること。
【解決手段】一方向に配向した複数の強化繊維とマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂層が融着されてなる積層体であって、前記繊維強化樹脂層の層間に、隣接する前記繊維強化樹脂層が融着されていない非融着部が部分的に形成された、積層体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配向した複数の強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂層が融着されてなる積層体であって、
前記繊維強化樹脂層の層間に、隣接する前記繊維強化樹脂層が融着されていない非融着部が部分的に形成された、
積層体。
【請求項2】
前記非融着部が配置された部位で前記積層体を厚み方向に切断した断面において、
一の層間には前記非融着部が形成され、他の層間には隣接する前記繊維強化樹脂層が融着された融着部が形成された、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記非融着部は、前記非融着部の外周が、前記積層体の外周と重複するように配置された、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記非融着部は、前記非融着部の外周が、前記積層体の外周と重複しないように配置された、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記積層体は、3層以上の層を有する積層体であり、前記非融着部は、前記3層以上の層のうち1つの層と、他の層との間に形成された、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記非融着部は、前記積層体の、他の部材との締結部位に形成された、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体は、基準となる前記繊維強化樹脂層における前記強化繊維の配向方向に対して、前記強化繊維が配向する角度が異なる層を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記強化繊維が配向する角度が異なる層は、基準となる前記繊維強化樹脂層における前記強化繊維の配向方向に対して、前記強化繊維が配向する角度が90°異なる層である、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体と、
前記積層体の前記非融着部において締結された相手部材と、
を有する、締結物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および締結物品に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向に配向して配列された複数の強化繊維と、上記強化繊維に含浸された樹脂組成物(マトリクス樹脂)と、を含む薄膜状の繊維強化樹脂(以下、単に「Uni-Direction (UD)シート」ともいう。)が知られている。このUDシートは、金属よりも軽量であり、一方で機械的強度が高いため、複数枚を積層して互いに融着させ、補強される相手部材の表面に張り合わせて、補強材として使用することなどが検討されている。
【0003】
上記相手部材の表面に張り合わせは、締結により行われることがある。たとえば、特許文献1には、UDシートを含む複数の樹脂シートを、特殊な形状のリベットにより金属部材に締結した締結構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような締結部には、締結された補強部材を、締結部位から引き離す方向への荷重(つまりは、引張方向への荷重)が長期間にわたってかかり続ける。そして、UDシートの積層体を相手部材に締結させた締結物品は、上記の引張方向への荷重により、締結部位において積層体が変形してしまうことがある。
【0006】
上記の積層体の変形を抑制し、補強材としての積層体の耐久性を高める観点からは、UDシートの積素体のような一方向に配向して配列した強化繊維を有する積層体の、引張応力に対する吸収エネルギー量を高めることが望ましい。
【0007】
本発明は、上記の観点に基づきなされたものであり、引張応力に対する吸収エネルギー量が高い、一方向に配向して配列した強化繊維を有する積層体、およびこの積層体が相手部材に締結されてなる締結物品を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[8]の積層体に関する。
[1]一方向に配向した複数の強化繊維と熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む繊維強化樹脂層が融着されてなる積層体であって、
前記繊維強化樹脂層の層間に、隣接する前記繊維強化樹脂層が融着されていない非融着部が部分的に形成された、
積層体。
[2]前記非融着部が配置された部位で前記積層体を厚み方向に切断した断面において、
一の層間には前記非融着部が形成され、他の層間には隣接する前記繊維強化樹脂層が融着された融着部が形成された、
[1]に記載の積層体。
[3]前記非融着部は、前記非融着部の外周が、前記積層体の外周と重複するように配置された、[1]または[2]に記載の積層体。
[4]前記非融着部は、前記非融着部の外周が、前記積層体の外周と重複しないように配置された、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記積層体は、3層以上の層を有する積層体であり、前記非融着部は、前記3層以上の層のうち1つの層と、他の層との間に形成された、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記非融着部は、前記積層体の、他の部材との締結部位に形成された、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記積層体は、基準となる前記繊維強化樹脂層における前記強化繊維の配向方向に対して、前記強化繊維が配向する角度が異なる層を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記強化繊維が配向する角度が異なる層は、基準となる前記繊維強化樹脂層における前記強化繊維の配向方向に対して、前記強化繊維が配向する角度が90°異なる層である、[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の他の態様は、下記[9]の締結物品に関する。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の積層体と、
前記積層体の前記非融着部において締結された相手部材と、
を有する、締結物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引張応力に対する吸収エネルギー量が高い、一方向に配向して配列した強化繊維を有する積層体、およびこの積層体が相手部材に締結されてなる締結物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に関する積層体の構成を示す、模式的な斜視図である。
【
図2】
図2Aは、1つの繊維強化樹脂層の、面内方向(
図1中のX-Y方向)への断面を示す、
図1における線2A-2Aに沿った繊維強化樹脂の断面図であり、
図2Bは、
図2Aとは異なる繊維強化樹脂層の、面内方向(
図1中のX-Y方向)への断面を示す、
図1における線2B-2Bに沿った繊維強化樹脂の断面図であり。
図2Cは、2つの繊維強化樹脂層の界面における、これらの繊維強化樹脂層の融着部および非融着部を示す、
図1における線2C-2Cに沿った積層体の断面図である。
【
図3】。
図3A~
図3Cは、積層体における非融着部の位置のいくつかの例を示す、
図1における線2C-2Cに沿った積層体の断面図である。
【
図4】
図4は、積層体を相手部材にセルフピアスリベットにより締結した締結物品を示す模式的な斜視図である。
【
図5】
図5は、実施例における試験片およびアルミニウム板の配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[積層体および締結物品]
図1は、本発明の一実施形態に関する積層体の構成を示す、模式的な斜視図である。
【0013】
積層体100は、3層以上の積層体であり、いずれも一方向に配向した複数の強化繊維と、熱可塑性樹脂であるマトリクス樹脂とを含む、複数の繊維強化樹脂層110a、繊維強化樹脂層110bおよび繊維強化樹脂層110c(
図1では3層)が積層され、これらの繊維強化樹脂層がマトリクス樹脂により融着されている。積層体110は、UDシートを積層して加熱し、マトリクス樹脂によりこれらのUDシートを融着させて、作製することができる。
【0014】
図2Aは、1つの繊維強化樹脂層110aの、面内方向(
図1中のX-Y方向)への断面を示す、
図1における線2A-2Aに沿った積層体100の断面図である。
図2Bは、
図2Aとは異なる繊維強化樹脂層110bの、面内方向(
図1中のX-Y方向)への断面を示す、
図1における線2B-2Bに沿った積層体100の断面図である。
図2Cは、繊維強化樹脂層110aと繊維強化樹脂層110bとの界面における、これらの繊維強化樹脂層の融着部122および非融着部124を示す、
図1における線2C-2Cに沿った積層体100の断面図である。
【0015】
なお、
図1に示す積層体100は、繊維強化樹脂層110aと繊維強化樹脂層110bの界面のみに部分的に非融着部124が形成されている(
図2C)。一方で、繊維強化樹脂層110bと繊維強化樹脂層110cの界面には非融着部124は形成されていない。このように、本実施形態における非融着部124は、ある特定の層間のみに形成される。そして、他の層間の、面内方向における位置が非融着部124と同じ部位は、融着部122となる。なお、複数の非融着部124が、面内方向における位置が同じとなり、ただし異なる層間となる位置に配置されてもよい。言い換えると、本実施形態において、ある非融着部124が配置された部位で積層体100を厚み方向に切断した断面において、一部の層間には非融着部124が形成され、他の層間には融着部122が形成される。また、当該断面に、厚み方向における位置が異なる複数の非融着部124が形成されていてもよい。
【0016】
積層体100を構成する各層の特定や、非融着部124の位置の特定は、透過型X線コンピュータ断層撮像(CT)により内部構造を可視化したり、あるいは積層体100の断面を切断し研磨したのち顕微鏡で観察したりして、行うことができる。たとえば、強化繊維の配向方向、集合の仕方、および粗密の具合などの違いにより、上下の層を特定することができる。また、上下の層間でマトリクス樹脂が不連続になっていれば、当該部位を非融着部124だと特定することができる。なお、非融着部124が端部にあるときは、目視で確認したり指で層間を押し広げて非融着部124を確認したりしてもよい。
【0017】
繊維強化樹脂層110a~繊維強化樹脂層110cは、いずれも一方向(
図2A中のY方向、
図2B中のX方向)に配向した複数の強化繊維112と、強化繊維112に含浸されたマトリクス樹脂114と、を含む(
図2A、
図2B参照)。
【0018】
強化繊維112の材料は、特に限定されない。たとえば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維などを、上記強化繊維として用いることができる。これらのうち、炭素繊維およびガラス繊維が好ましい。
【0019】
強化繊維112は、強化繊維112による強度の向上効果を十分に高める観点からは、平均直径が1μm以上20μm以下であることが好ましく、4μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0020】
強化繊維112の長さは、通常15mm以上である。強化繊維112の長さの下限値は、20mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、500mm以上がさらに好ましい。強化繊維112の長さの上限値の最大値は、たとえば50mである。
【0021】
また、強化繊維112は、サイジング剤によりサイジング処理されていてもよい。
【0022】
上記サイジング剤は特に限定されないが、変性ポリオレフィンが好ましく、得には、カルボン酸金属塩を含む変性ポリオレフィンであることがより好ましい。上記変性ポリオレフィンは、たとえば、未変性ポリオレフィンの重合体鎖に、カルボン酸基、カルボン酸無水物基またはカルボン酸エステル基をグラフト導入し、かつ上記官能基と金属カチオンとの間で塩を形成させたものである。
【0023】
上記未変性ポリオレフィンは、エチレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるエチレン系重合体、またはプロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上であるプロピレン系重合体であることが好ましい。上記エチレン系重合体の例には、エチレン単独重合体、およびエチレンと炭素原子数3以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記プロピレン系重合体の例には、プロピレン単独重合体、およびプロピレンとエチレンまたは炭素原子数4以上10以下のα-オレフィンとの共重合体が含まれる。上記未変性ポリオレフィンは、ホモポリプロピレン、ホモポリエチレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、またはエチレン・プロピレン・1-ブテン共重合体であることが好ましい。これら未変性ポリオレフィンおよび変性ポリオレフィンを構成するα-オレフィンは、化石燃料に由来するものであってもよく、バイオマス原料に由来するものであってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0024】
また、強化繊維112は、集束されて繊維束となっているものを開繊して用いてもよい。このとき収束された炭素繊維束あたりの単糸数は、100本以上100,000本以下であることが好ましく、1,000本以上50,000本以下であることがより好ましい。
【0025】
それぞれの繊維強化樹脂層の全質量に対する、強化繊維112の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上65質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。
【0026】
それぞれの繊維強化樹脂層の全体積に対する、強化繊維112の含有量は、10体積%以上70体積%以下であることが好ましく、15体積%以上60体積%以下であることがより好ましく、20体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
マトリクス樹脂114の材料は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されない。また、マトリクス樹脂114は、結晶性樹脂であってもよいし、非結晶性樹脂であってもよい。
【0028】
上記熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、およびポリ4-メチル-1-ペンテンなどを含むポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ならびにフッ素樹脂などが含まれる。これらの熱可塑性樹脂は、化石燃料に由来する材料から合成されたものであってもよく、バイオマス原料に由来する材料から合成されたものであってもよく、これらの混合物から合成されたであってもよい。
【0029】
これらのうち、それぞれの繊維強化樹脂層の成形性をより高める観点からは、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂が好ましく、より低温での成形を可能にして生産効率をより高める観点からは、ポリオレフィン樹脂がより好ましい。非融着部124を界面に有する2つの繊維強化樹脂層のいずれかがこれらの樹脂であることが好ましく、これらの双方がこれらの樹脂であることがより好ましい。
【0030】
マトリクス樹脂114は、添加剤を含む樹脂組成物であってもよい。上記添加剤の例には、公知の充填材(無機充填材、有機充填材)、顔料、染料、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、酸化防止剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、および軟化剤などが含まれる。たとえば、レーザーの照射によってUDシートを融着させて積層体100を形成するときは、マトリクス樹脂114は、照射する波長のレーザーを吸収する色素を含有する樹脂組成物であることが好ましい。上記色素は、300nm以上3000nm以下のいずれかの波長の光を吸収する色素であればよく、カーボンブラックであることが好ましい。
【0031】
また、マトリクス樹脂114は、上記以外の樹脂や、上記強化繊維よりも短い長さの短繊維などの他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
それぞれの繊維強化樹脂層の全質量に対する、マトリクス樹脂114の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、25質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、35質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以上65質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
それぞれの繊維強化樹脂層は、
図2Aおよび
図2Bに示すように、強化繊維112が配向する角度が層ごとに変化していてもよい。言い換えると、基準となる繊維強化樹脂層における強化繊維112の配向方向に対して、強化繊維112が配向する角度が異なる層を含んでいてもよい。積層体100を補強材として使用するときは、異なる方向への応力のそれぞれに対する強度を高めるため、上記強化繊維112が配向する角度が異なる層を含むことが好ましく、強化繊維112が配向する角度が90°±10°異なる層を含むことがより好ましく、0°±10°の層と90°±10°異なる層とが交互に配置された、いわゆるクロスプライであることがさらに好ましいい。本発明者らの知見によると、強化繊維112が配向する角度が90°±10°異なる層を含むと、積層体100の剛性が高くなるため、引張負荷下では積層体100が反るように変形することによる締結部位の破壊が生じやすい。これに対し、非融着部124により積層体100の剛性を適度に低くすることで、積層体100を反りにくくして締結部を破壊されにくくすることができる。そのため、強化繊維112が配向する角度が90°±10°異なる層を含むときには、非融着部124により締結部位の破壊を抑制することによる、引張応力に対する吸収エネルギー量の向上効果が顕著に高まる。
【0034】
図2Aおよび
図2Bは、
図2Aにおける強化繊維112の配向方向を基準として、
図2Bでは強化繊維112が90°の方向に配向している様子を示す。各層における強化繊維112が配向する角度はこれに限定されず、たとえば基準と繊維強化樹脂層の配向方向に対して30°±10°、45°±10°、60°±10°などすることができる。また、非融着部124をはさむ2つの繊維強化樹脂層は、強化繊維112が配向する角度が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
非融着部124は、マトリクス樹脂114が存在せず、空気等の気体で充填された空間であってもよいし、非融着部124をはさむ2つの繊維強化樹脂層のマトリクス樹脂114とは融着しない樹脂により充填された部位であってもよいし、これらの気体や他の樹脂が存在しない、上下の層が融着せずに接触している部位であってもよい。
【0036】
これらの非融着部124は、隣接する層とはマトリクス樹脂114が連続していないため、マトリクス樹脂に生じた応力(特には引張応力)を吸収することができると考えられる。そのため、非融着部124を有する積層体100は、引張応力に対する吸収エネルギー量が高まると考えられる。そのため、たとえば非融着部124を相手部材(たとえば、補強材としての積層体100により補強される部材)への締結部位とすることで、締結部位の耐久性を高めることができる。
【0037】
非融着部124は、材料となるUDシートを積層する際に、これらの間に、マトリクス樹脂114とは異なる材料のフィルムまたはシートを挟み込み、当該フィルムまたはシートを挟んだまま加熱してUDシートを融着させて、作製することができる。このとき、挟み込んだフィルムまたはシートをUDシートの端部に配置して加熱融着させ、その後に上記フィルムまたはシートを引き抜くことで、空気などの気体で充填された非融着部124を作製することができる。あるいは、上記フィルムまたはシートをUDシートの中央部に配置して加熱融着させたり、端部に配置するが加熱融着後に引き抜かずに層間に残存させたりすることにより、マトリクス樹脂114とは融着しない樹脂により充填された非融着部124を作製することができる。
【0038】
上記異なる材料のフィルムまたはシートは、樹脂でもよいし、金属やセラミクスなどの樹脂以外の材料であってもよい。また、積層体100の材料がマトリクス樹脂114として熱可塑性樹脂を含むUDシートであるときは、マトリクス樹脂114よりも融点が高いか、または融点を持たない樹脂によるフィルムまたはシートを用いることで、マトリクス樹脂114のみを選択的に融着させつつ、フィルムまたはシートはマトリクス樹脂114と融着しない非融着部124とすることができる。また、上記異なる材料のフィルムまたはシートは、離型剤の配合や離型処理などの、マトリクス樹脂114との融着を防ぐための処理をされていることが好ましい。
【0039】
あるいは、非融着部124は、材料となるUDシートを積層して加熱融着させた後に、UDシートの層間に切れ込みを入れて、端部に非融着部124を有する積層体100を作製することもできる。
【0040】
あるいは、積層したUDシートを融着させる際に、非融着部124以外のみを加熱して融着させて、加熱されなかった部位に非融着部124を作製することもできる。たとえば、あらかじめ複数枚のUDシートを融着させた融着体を複数個用意する。そして、これらの融着体を積層し、非融着部124となる部位以外をレーザー照射などにより加熱して、加熱した部位において選択的に融着体同士をさらに融着させる。これにより、融着体同士を融着させなかった部位に非融着部124を有する積層体100を得ることができる。
【0041】
非融着部124の位置は特に限定されない。
図3A~
図3Cは、積層体100における非融着部124の位置のいくつかの例を示す、
図1における線2C-2Cに沿った積層体100の断面図である。
【0042】
たとえば、非融着部124は、
図3Aに示すように積層体100の内部に配置されてもよい。言い換えると、非融着部124は、非融着部124の外周が、積層体100の外周とは全く重複しないように配置されてもよい。
【0043】
また、非融着部124は、
図3Bおよび
図3Cに示すように積層体100の端部に配置されてもよい。言い換えると、非融着部124は、非融着部124の外周が、積層体100の外周と重複するように配置されてもよい。
【0044】
また、非融着部124は、積層体の端部および内部の両方に配置されてもよい。
【0045】
非融着部124の位置は、積層体100の用途や、実使用時の負荷の係りかたなどに応じて設定することができる。
【0046】
非融着部124の形状および大きさは特に限定されず、積層体100の用途に応じて任意に定めることができる。たとえば、非融着部124の形状は、三角形や四角形、六角形などの多角形形状でもよいし、円や楕円、長円などでもよいし、その他の形状であってもよい。また、1つの非融着部124の大きさ(面内方向への面積)は、非融着部124による引張応力に対する吸収エネルギー量の向上と、融着部122による積層体の層間の密着性(はがれにくさ)とを両立させる観点からは、積層体100の面内方向の面積に対して10%以上50%以下であることが好ましく、10%以上30%以下であることがより好ましい。
【0047】
非融着部124の厚さは、繊維強化樹脂層の1層分の厚さより大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じ厚さであってもよい。非融着部124による積層体100の強度低下をなるべく小さくする観点からは、非融着部124は、厚さを実質的に有さず、言い換えるとマトリクス樹脂114同士が融着せずに上下の層が接触している状態であることが好ましい。
【0048】
非融着部124は、積層体100の厚さ方向の中央付近に配置されることが好ましい。言い換えると、積層体100の厚さ方向の断面において非融着部124が配置された位置(高さ)は、積層体100の一方の表面から、非融着部124の上記一方の表面までの距離が、積層体100の厚さに対して30%以上70%以下となる位置であることが好ましく、40%以上60%以下となる位置であることがより好ましい。
【0049】
非融着部124は、積層体100を他の部材(相手部材)に締結する締結部位とすることができる。非融着部124は、引張応力に対する吸収エネルギーが高いため、締結部位としたときに、相手部材を締結部位から引き離す方向への荷重が長期間にわたってかかり続けることによる当該締結部材の変形を、生じにくくすることができる。
【0050】
上記締結の方法は特に限定されず、リベット留めや、ボルトおよびビスなどを用いるネジ留めなどの公知の方法を用いることができる。これらのうち、リベット留めが好ましく、積層体100を貫通して相手部材に食い込んだリベットをかしめて締結するセルフピアスリベット留めがより好ましい。
図4は、積層体100を相手部材410にセルフピアスリベット420により締結した締結物品400を示す模式的な斜視図である。積層体100は、網掛けした部位の厚み方向内部に非融着部124を有する。
【0051】
相手部材410は特に制限されず、積層体100により補強したい部材を用いることができる。相手部材410の材質も特に制限されず、樹脂製であってもよく、金属製であってもよい。
【0052】
なお、上記説明は本実施形態の例示的な実施形態であり、本発明が上記した実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0053】
たとえば、積層体100は同一の層間または異なる層間に複数個の非融着部124を有してもよい。ただし、非融着部124は、積層体100に含まれる1つの層と、他の層との間のみに形成されることが好ましい。
【0054】
また、積層体100の平面形状および厚みは特に限定されず、用途に応じたいかなる形状であってもよい。なお、積層体100を補強材として用いるときは、積層体100はシート状であることが好ましく、その厚みは0.5mm以上8mm以下であることが好ましく、1mm以上4mm以下であることがより好ましい。
【0055】
また、積層体100を補強材や締結物品とするとき、
図4に示したように相手部材410の表面の全体を積層体100が被覆する必要はなく、相手部材410の表面の一部を積層体100が被覆してもよい。
【実施例0056】
1.積層体の作成
1-1.実施例1
UDシートとして、一方向に配列した炭素繊維にポリプロピレンを含浸させたUDシート(三井化学株式会社製、TAFNEX(登録商標)、繊維体積分率(VF):50%、厚差、0.16mm)を用意した。このUDシートを、炭素繊維が配向している方向を縦方向、縦方向に直交する方向を横方向とし、縦215mm×横215mmに切断して、単層のUDシートを得た。
【0057】
ポリエステル製の離型フィルム(底面フィルム)の上に、上記の単層のUDシートを、炭素繊維の配向方向が0°(基準)、90°、0°、90°、0°、90°、90°、0°、90°、0°、90°、0°となるように12枚積層し、さらにその上にポリエステル製の離型フィルム(上面フィルム)を配置した。その後、12枚積層したUDシートの6層目と7層目との間の端部(
図3B参照)に、縦80mm、横215mmのポリイミドフィルム(融点なし)を挿入して、材料積層体とした。
【0058】
縦240mm、横240mm、厚み2mmのステンレス鋼製平板、縦240mm、横240mm、厚み0.1mmのアルミニウム合金製フィルム、縦外寸240mm、横外寸240mm、厚み1.5mmt、縦内寸220mm、横内寸220mmのステンレス鋼製額縁、縦240mm、横240mm、厚み0.1mmのポリエステル製フィルムの順序で材料を重ね、上記の材料積層体を額縁の枠内に収め、さらにいずれも上記と同じサイズのポリエステル離型フィルム、アルミニウム合金製フィルム、ステンレス鋼製平板を重ねて、成形構造体とした。この成形構造体を、油圧プレス装置(株式会社東洋精機製作所製、ミニテストプレス)に配置し、加圧時の温度を180℃として1MPaの圧力を加えながら2分間保持し、さらに、5MPaの圧力を加えながら3分間保持した後、圧力を開放した。その後、すぐに15℃の冷却水が循環した冷却用油圧プレス装置(東洋精機製、ミニテストプレス)に成形構造体を配置し、5MPaの圧力を加えながら3分間保持した後、圧力を開放した。その後、冷却用油圧プレス装置から成形構造体を取り出し、成形構造体からステンレス鋼製平板、ポリエステル製フィルム、アルミニウム合金製フィルム、およびステンレス鋼製額縁を除去し、成形体(積層体1)を得た。
【0059】
1-2.比較例1
材料積層体を準備する際に、ポリイミドフィルムを挿入しなかった以外は積層体1と同様にして、積層体2を得た。
【0060】
2.セルフピアッシングリベット接合継手の作製
ウォータージェット切断加工により、縦方向25mm、横方向25mmの非融着部を端部に有する、縦方向100mm、横方向25mmの試験片を積層体1から採取し、試験片1とした。
【0061】
同様の試験片を積層体2から採取し、これを試験片2とした。
【0062】
セルフピアッシングリベット接合装置(ポップリベット・ファスナー株式会社製、Emhart SPR)のCフレームに取り付けられた接合用ダイの上に、試験片1または試験片2と、縦方向100mm、横方向25mm、厚み2.0mmtのアルミニウム板(JIS H4000:2014 5052-O)とを配置した。このとき、アルミニウム板の上に、非融着部(試験片の端部から25mm×25mmの範囲)のみがアルミニウム板の端部に重なり、その他の部分が同一直線状となるように(
図5参照)試験片1を配置し、試験片2も、同様の位置関係となるように配置した。
【0063】
その後、セルフピアッシングリベットエレメント(ポップリベット・ファスナー株式会社製、SPR550S1C0-4Y1)をセルフピアッシングリベット接合装置に取り付けられたツールで試験片側から圧入し、セルフピアッシングリベット接合継手を作製し、試験片1または試験片2がアルミニウム板に締結された締結物品を得た。このとき、セルフピアッシングリベットエレメントの平面部と積層板の表面の深さ方向の差異が-0.3mmから0.3mmの範囲に収まるようにセルフピアッシングリベットの圧入量を制御した。
【0064】
その後、締結物品のうち、セルフピアッシングリベット接合継手の両端部から長さ50mm、幅25mmの部分をエメリー紙#320でブラスティングし、アセトンで脱脂した。それぞれの構成材料と同じ材種の長さ50mm、幅25mmのタブを用意して、エメリー紙#320でブラスティングし、アセトンで脱脂した。試験片およびアルミニウム板の、締結部位とは反対側の端部をブラスティングおよび脱脂して、この部位にプライマー(東亜合成株式会社製)を塗布し、十分に乾かし、その後、シアノアクリレート接着剤(東亜株式会社製)を塗布して、それぞれに同じ材料のタブを乗せ、締結物品とタブとを接着した。
【0065】
3.評価
上記のセルフピアッシングリベット接合継手を設けた締結物品を引張試験に供し、継手の荷重と変位の関係を測定した。引張試験には、精密万能試験機(株式会社島津製作所製、AG-X100kN)を用いた。精密万能試験機のクロスヘッドおよび試験機ベースに取り付けられた引張試験用グリップにタブを固定し、クロスヘッドに引張方向の強制変位を課した。上記の締結物品をグリップに固定したときのグリップ間距離は75mmである。変位速度は10mm毎分であり、試験温度は23℃とした。引張試験は、ロードセルで計測した荷重が10Nを超えた時点の変位を0mmと定義し、クロスヘッドが5mm変位するまで行われた。試験中に計測した荷重と変位の曲線の面積(荷重×変位)を締結部位の吸収エネルギー量とした。得られた結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示すように、非融着部を設けることで、締結部位の吸収エネルギー量を増加させることができた。この結果から、非融着部を設けることで、UDシートを融着させた積層体の、引張応力に対する吸収エネルギー量を高めることができることがわかった。また、この結果から、非融着部を有する積層体は、非融着部を締結に用いたときに、引張応力をかけ続けても締結部位を変位しにくくして、耐久性をより高めることができることがわかった。
本発明は、一方向に配向して配列した強化繊維を有する積層体の引張方向への耐久性を高めることができる。本発明の積層体は、補強材として使用したときに締結部の耐久性が高く、当該積層体を使用した補強材による補強効果の持続性をより高めることができる。