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特開2024-13098冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法
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  • 特開-冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013098
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/10 20060101AFI20240124BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20240124BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20240124BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
B21B27/10 D
B21B45/02 320J
B21B3/02
B21B1/22 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115033
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】日野 公貴
(72)【発明者】
【氏名】平井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】田野口 一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒川 哲矢
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AD05
4E002BA01
4E002BC08
4E002BD07
4E002CB01
(57)【要約】
【課題】ワークロールの変形を抑制し、圧延時の脆性割れを抑制できる冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法が提供される。
【解決手段】冷間圧延設備は、ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、最も上流側に設けられた最上流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように複数のロールを制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、最も上流側に設けられた最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように前記複数のロールを制御する、冷間圧延設備。
【請求項2】
前記制御装置は、前記最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯の鋼種、ライン速度、前記クーラントの噴射流量、前記金属鋼帯の温度及び前記金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、前記1以上の冷間圧延機の噛み込み部に対する前記金属鋼帯の傾斜角度を設定する、請求項1に記載の冷間圧延設備。
【請求項3】
前記制御装置は、前記傾斜角度が2°以上かつ10°以下であるように前記複数のロールを制御する、請求項2記載の冷間圧延設備。
【請求項4】
前記1以上の冷間圧延機が複数であって、
前記制御装置は、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御する、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷間圧延設備。
【請求項5】
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御する、冷間圧延設備。
【請求項6】
前記制御装置は、前記最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯の鋼種、ライン速度、前記クーラントの噴射流量、前記金属鋼帯の温度及び前記金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、前記1以上の冷間圧延機の噛み込み部に対する前記金属鋼帯の傾斜角度を設定する、請求項5に記載の冷間圧延設備。
【請求項7】
前記制御装置は、前記傾斜角度が-10°以上かつ-2°以下であるように前記複数のロールを制御する、請求項6に記載の冷間圧延設備。
【請求項8】
請求項1又は5に記載の冷間圧延設備と、前記金属鋼帯を切断する設備と、を備える、鋼板の製造設備。
【請求項9】
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備える冷間圧延設備において実行される冷間圧延方法であって、
前記制御装置が、最も上流側に設けられた最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように前記複数のロールを制御するステップを含む、冷間圧延方法。
【請求項10】
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備える冷間圧延設備において実行される冷間圧延方法であって、
前記制御装置が、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御するステップを含む、冷間圧延方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の冷間圧延方法を実行し、前記金属鋼帯を切断するステップを含む、鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板等のSiを含む鋼板は靭性が低く圧延時に脆性破壊しやすい。一般的に鋼板中に含まれるSi量が多いほど延性脆性遷移温度は低くなる傾向にある。脆性破壊を防止する方法として圧延前に鋼板を延性脆性遷移温度以上に加熱する方法がある。
【0003】
鋼板の圧延設備、タンデムミル等では圧延時の鋼板の潤滑性及びワークロールの熱変形を防止するためクーラントをワークロールと鋼板の噛み込み部に向けて噴射している。そのため噴射したクーラントはワークロールで跳ね返り、鋼板上を入側に向かって流れる。圧延前に鋼板を加熱した場合、入側に向かって流れてきたクーラント(クーラント液乗り)によって鋼板温度は低下する。
【0004】
クーラントの鋼板長手方向の液乗り長さはライン速度が遅いほど長くなる。また、ライン速度が速くなると鋼板によりクーラントを引き込む力が強くなるため、液乗り長さは短くなる傾向にある。そのためライン速度が遅いときは、鋼板を予熱してもクーラントの温度程度まで鋼板が冷却される。
【0005】
例えば特許文献1には、圧延機の上ロールに吹き付けたクーラントがストリップに落下してストリップの温度が低下するのを防止するため、上ロールに液切り用エアーを吹き付ける液切り装置を設ける技術が開示されている。
【0006】
上記特許文献1の液切り装置で生じる鋼板の潤滑不足を解消するために、例えば特許文献2に示すようにエマルションを高濃度にして鋼板に少量供給する技術が開示されている。
【0007】
一方で多段圧延機等の後段スタンドにおいて、圧延時の加工発熱により鋼板温度は上昇するが、温度が高すぎると、圧延時にワークロールへの入熱量が多くなり、ワークロールにサーマルクラウンが形成される。サーマルクラウンが形成されると鋼板の圧延形状が悪化する。
【0008】
特に圧延速度が速くなると単位時間当たりの入熱量は増加し、サーマルクラウンがさらに成長し、鋼板の圧延形状が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-271614号公報
【特許文献2】特開2006-272382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし特許文献1に記載されている液切り装置を設けることは板温低下抑制のためには有効であるものの、鋼板の潤滑不良が生じて焼付が発生しやすい。
【0011】
特許文献2の場合、圧延機入側でエマルションを鋼板に供給するため、エマルションの液乗りによって鋼板が冷却され鋼板の温度が低下する。
【0012】
ここで、多段圧延機等の後段スタンドにおいて、圧延時の加工発熱により鋼板温度が高すぎる場合、クーラント液乗りによって鋼板温度は低下し、ワークロールへの入熱量を抑制することができる。しかし、圧延速度が速い場合、液乗り長が短くなるため、冷却効果は小さい。
【0013】
またクーラント流量を増やすことで冷却能力が向上し、液乗り長が長くなることで更に冷却能力は向上する。ただし、ポンプの増強、クーラント送水配管径、循環タンクサイズの見直しが必要である。
【0014】
本開示はこのような課題を鑑みてなされたものであり、ワークロールの変形を抑制し、圧延時の脆性割れを抑制できる冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備は、
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、最も上流側に設けられた最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように前記複数のロールを制御する。
【0016】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記制御装置は、前記最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯の鋼種、ライン速度、前記クーラントの噴射流量、前記金属鋼帯の温度及び前記金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、前記1以上の冷間圧延機の噛み込み部に対する前記金属鋼帯の傾斜角度を設定する。
【0017】
(3)本開示の一実施形態として、(2)において、
前記制御装置は、前記傾斜角度が2°以上かつ10°以下であるように前記複数のロールを制御する。
【0018】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記1以上の冷間圧延機が複数であって、
前記制御装置は、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御する。
【0019】
(5)本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備は、
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御する。
【0020】
(6)本開示の一実施形態として、(5)において、
前記制御装置は、前記最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯の鋼種、ライン速度、前記クーラントの噴射流量、前記金属鋼帯の温度及び前記金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、前記1以上の冷間圧延機の噛み込み部に対する前記金属鋼帯の傾斜角度を設定する。
【0021】
(7)本開示の一実施形態として、(6)において、
前記制御装置は、前記傾斜角度が-10°以上かつ-2°以下であるように前記複数のロールを制御する。
【0022】
(8)本開示の一実施形態に係る鋼板の製造設備は、
(1)から(7)のいずれかの冷間圧延設備と、前記金属鋼帯を切断する設備と、を備える。
【0023】
(9)本開示の一実施形態に係る冷間圧延方法は、
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備える冷間圧延設備において実行される冷間圧延方法であって、
前記制御装置が、最も上流側に設けられた最上流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように前記複数のロールを制御するステップを含む。
【0024】
(10)本開示の一実施形態に係る冷間圧延方法は、
ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、前記金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、前記1以上の冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、前記複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備える冷間圧延設備において実行される冷間圧延方法であって、
前記制御装置が、最も下流側に設けられた最下流圧延機を含む前記1以上の冷間圧延機の少なくとも一部の上流側において、前記金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように前記複数のロールを制御するステップを含む。
【0025】
(11)本開示の一実施形態に係る鋼板の製造方法は、
(9)又は(10)の冷間圧延方法を実行し、前記金属鋼帯を切断するステップを含む。
【発明の効果】
【0026】
本開示によれば、ワークロールの変形を抑制し、圧延時の脆性割れを抑制できる冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備が備える冷間圧延機の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備が備える冷間圧延機の構成例を示す図である。
図3図3は、冷間圧延設備における金属鋼帯の温度の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法が説明される。
【0029】
まず、図3を参照して、冷間圧延設備における金属鋼帯の温度変化の例が説明される。図3の例において、冷間圧延設備は、加熱装置、複数のロール及び第1から第4の冷間圧延機を備える。第1から第4の冷間圧延機は、加熱装置によって加熱されて、複数のロールによって搬送される金属鋼帯の冷間圧延を行う。冷間圧延設備は、金属鋼帯の搬送方向の上流側から下流側に向かって、加熱装置、第1の冷間圧延機、第2の冷間圧延機、第3の冷間圧延機及び第4の冷間圧延機を順に備える。冷間圧延設備は、鋼板の製造設備の一部を構成してよい。鋼板の製造設備は、例えば第4の冷間圧延機より下流側に、金属鋼帯を切断する設備をさらに備えて、所望のサイズの鋼板を切り出してよい。
【0030】
第1から第4の冷間圧延機のそれぞれは、ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射するクーラントヘッダー(図1参照)を備える。クーラントは、例えば圧延油と水を混合した液体であって、潤滑性確保及びワークロールの冷却を目的として噴射される。
【0031】
冷間圧延機に金属鋼帯を噛み込む際に、ある程度の温度がなければ脆性破断の可能性がある。冷間圧延設備を含む製造設備によって製造される鋼板は例えば電磁鋼板を含む。通常、電磁鋼板は延性脆性遷移温度が70~80℃であるため、延性脆性遷移温度以上(例えば200℃~500℃)に程度加熱された後、圧延設備に挿入され圧延される。しかし、圧延の際に供される圧延油等により鋼板温度が低下し、冷間圧延機での噛み込み時の金属鋼帯の温度(以下「板温」とも称される)が延性脆性遷移温度未満になると破断が発生しやすい。冷間圧延設備において、圧延油の液乗り次第では板温が想定より低下してしまうことがあった。
【0032】
一方、噛み込み時の板温が高いと破断は防止できるが、圧延時の加工発熱などもあり、下流側の圧延パスにおいて板温がさらに高温になり得る。板温が想定以上に高温であると、ワークロールのサーマルクラウンが成長して、圧延後の金属鋼帯において形状不良を引き起こす可能性がある。
【0033】
図3の下図のグラフは、金属鋼帯の温度の変化を示す。縦軸が金属鋼帯の温度を示し、横軸が上図の冷間圧延設備と対応する製造工程における位置を示す。第1から第4の冷間圧延機において噴射されたクーラントはワークロールで跳ね返り、金属鋼帯の上を入側(上流側)に向かって流れて、クーラント液乗りが生じる。クーラント液乗りの金属鋼帯の長手方向(搬送方向)への長さは、ライン速度が遅いほど長くなり、ライン速度が速くなると鋼板によりクーラントを引き込む力が強くなるため短くなる。冷間圧延設備において、金属鋼帯は圧延機で長手方向に圧延され延伸するため、上流側の冷間圧延機から下流側の冷間圧延機に向かって、ライン速度が速くなる。図3の例において、ライン速度が比較的遅い第1の冷間圧延機及び第2の冷間圧延機ではクーラント液乗りの長さが長くなり、金属鋼帯の温度を最適温度未満(延性脆性遷移温度未満)に低下させている。また、ライン速度が比較的速い第4の冷間圧延機ではクーラント液乗りの長さが短く、圧延時の加工発熱などが蓄積されて、ワークロールの温度を、金属鋼帯が形状不良を引き起こす形状不良発生温度以上に上昇させている。
【0034】
本実施形態に係る冷間圧延設備は、以下に説明するように、例えば図3下図のような板温等の測定結果に基づいて、それぞれの冷間圧延機の上流において、冷間圧延機の噛み込み部に対する金属鋼帯の傾斜角度を設定して、クーラント液乗りの長さを調整することができる。クーラント液乗りの長さが調整されることによって、金属鋼帯の温度が最適温度の範囲内となり、ワークロールの変形を抑制し、圧延時の脆性割れを抑制することができる。
【0035】
図1は、本実施形態に係る冷間圧延設備が備える冷間圧延機の構成例を示す図である。冷間圧延設備は、ワークロール及び金属鋼帯に向けてクーラントを噴射し、金属鋼帯を冷間圧延する1以上の冷間圧延機と、冷間圧延機よりも金属鋼帯の搬送方向上流側に設けられて金属鋼帯の搬送に供される複数のロールと、複数のロールの高低差を制御する制御装置と、を備える。冷間圧延設備が備える冷間圧延機の数は、特に限定されないが、本実施形態において図3のように4つであるとして説明する。図1は、冷間圧延設備が備える複数の冷間圧延機の1つを拡大して示している。
【0036】
図1に示すように、冷間圧延機の入側の複数のロールのそれぞれは、昇降装置により高さを調整することができる。昇降装置は、例えばスクリュージャッキ等であるが、特定の装置に限定されない。制御装置は、制御信号によって昇降装置にロールを昇降させて、複数のロールの高低差を制御する。図1の例において、制御装置は、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように複数のロールを制御している。冷間圧延機の噛み込み部の水平方向に対する入側の金属鋼帯の角度を傾斜角度として、図1の例において、制御装置は傾斜角度が正であるように制御する。傾斜角度が正であると、ワークロールで跳ね返り、金属鋼帯の上を入側(上流側)に向かって流れたクーラントが傾斜によって冷間圧延機の噛み込み部に戻る。そのため、クーラント液乗りの長さを短くすることができる。したがって、制御装置は、金属鋼帯の温度が最適温度未満に低下している冷間圧延機の入側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように制御することによって、金属鋼帯の温度を上昇させることができる。一般に、最も上流側に設けられた最上流圧延機の入側において、クーラント液乗りの長さが長くなり、最適温度未満に金属鋼帯の温度が低下する。そのため、制御装置は、最上流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように制御すればよい。図3の例において、制御装置は、第1の冷間圧延機(最上流圧延機)及び第2の冷間圧延機について、傾斜角度が正であるように入側のロールを昇降させることで、クーラント液乗りの長さを短くして、金属鋼帯の温度を上昇させて、最適温度範囲内にすることができる。
【0037】
ここで、制御装置は、第1の冷間圧延機における傾斜角度を、第2の冷間圧延機と同じ傾斜角度に設定してよいし、異なる傾斜角度に設定してよい。制御装置は、最上流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯の鋼種、ライン速度、クーラントの噴射流量、金属鋼帯の温度及び金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、傾斜角度を設定してよい。制御装置は、例えば金属鋼帯の温度及び金属鋼帯の目標温度に基づいて、第1の冷間圧延機(最上流圧延機)の傾斜角度を設定してよい。また、制御装置は、例えばライン速度の違い等に基づいて、第1の冷間圧延機の傾斜角よりも傾斜角度が小さくなるように、第2の冷間圧延機の傾斜角度を設定してよい。
【0038】
制御装置は、傾斜角度が2°以上かつ10°以下であるように複数のロールを制御することが好ましい。後述の実験例で示されるように傾斜角度が2°未満ではクーラント液乗りの長さの短縮の度合いが小さく温度上昇の効果が小さい。また、傾斜角度が10°より大きいと金属鋼帯の円滑な搬送が妨げられるおそれがあるためである。傾斜角度が5°以上の場合に、クーラント液乗りの長さを50%以上短くできる可能性がある。そのため、制御装置は、傾斜角度が5°以上かつ10°以下であるように複数のロールを制御してよい。
【0039】
ここで、傾斜部分の長さは、短すぎるとクーラント液乗りが傾斜部を乗り越える可能性があるため、ある程度の長さを有するとよい。傾斜部分の長さは、一例として1m以上が好ましい。また、設備制約上、傾斜部分の長さに上限が定められてよい。傾斜部分の長さは、一例として3m以下が好ましい。
【0040】
図2は、本実施形態に係る冷間圧延設備が備える冷間圧延機の別の構成例を示す図である。冷間圧延設備は、図1と同様に、1以上の冷間圧延機と、複数のロールと、制御装置と、を備える。図2は、図1と同じ冷間圧延設備が備える複数の冷間圧延機の1つを拡大して示しているとして説明する。
【0041】
冷間圧延機の入側の複数のロールのそれぞれは、図1と同様に、昇降装置により高さを調整することができる。図2の例において、制御装置は、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように複数のロールを制御している。つまり、図2の例において、制御装置は傾斜角度が負であるように制御する。傾斜角度が負であると、ワークロールで跳ね返り、金属鋼帯の上を入側(上流側)に向かって流れたクーラントが傾斜によってさらに上流側に延びる。そのため、クーラント液乗りの長さを長くすることができる。したがって、制御装置は、金属鋼帯の温度が形状不良発生温度以上に上昇している冷間圧延機の入側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように制御することによって、金属鋼帯の温度を低下させることができる。一般に、最も下流側に設けられた最下流圧延機の入側において、クーラント液乗りの長さが短く、圧延時の加工発熱などが蓄積されて、形状不良発生温度以上に金属鋼帯の温度が上昇する。そのため、制御装置は、最下流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように制御すればよい。図3の例において、制御装置は、第4の冷間圧延機(最下流圧延機)について、傾斜角度が負であるように入側のロールを昇降させることで、クーラント液乗りの長さを長くして、金属鋼帯の温度を低下させて、最適温度範囲内にすることができる。
【0042】
ここで、制御装置は、最下流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯の鋼種、ライン速度、クーラントの噴射流量、金属鋼帯の温度及び金属鋼帯の目標温度の少なくとも1つに基づいて、傾斜角度を設定してよい。制御装置は、例えば金属鋼帯の温度及び金属鋼帯の目標温度に基づいて、第4の冷間圧延機(最下流圧延機)の傾斜角度を設定してよい。また、制御装置は、例えば金属鋼帯の鋼種、ライン速度及びクーラントの噴射流量に基づいて、最適なクーラント液乗りの長さを計算で求めて、クーラント液乗りの長さが計算値に合うように、第4の冷間圧延機の傾斜角度を設定してよい。
【0043】
制御装置は、傾斜角度が-10°以上かつ-2°以下であるように複数のロールを制御することが好ましい。後述の実験例で示されるように傾斜角度が-2°以上ではクーラント液乗りの長さの延長の度合いが小さく温度低下の効果が小さい。また、傾斜角度が-10°より大きいと金属鋼帯の円滑な搬送が妨げられるおそれがあるためである。傾斜角度が-3°以下の場合に、クーラント液乗りの長さを3倍以上長くできる可能性がある。そのため、制御装置は、傾斜角度が-10°以上かつ-3°以下であるように複数のロールを制御してよい。
【0044】
ここで、冷間圧延設備が備える冷間圧延機の種類は限定されない。冷間圧延機は、例えば多段圧延機であってよいし、リバース圧延機であってよい。また、異なる種類の冷間圧延機が含まれていてよい。冷間圧延機がリバース圧延機である場合にも、金属鋼帯の温度を最適範囲にするように、クーラント液乗りの長さを調整する傾斜角度が設定されればよい。
【0045】
また、冷間圧延設備は、傾斜角度が所定角度範囲(例えば-10°~10°)を超えないように制限機構を有していてよい。制限機構は、例えばメカストッパーであってよいし、近接スイッチ等の検出装置からの信号に基づいて昇降装置の可動域を制限する装置であってよい。
【0046】
本実施形態に係る冷間圧延設備は、上記のように、鋼板の製造設備の一部として用いられる。また、冷間圧延設備の制御装置は、最上流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるように複数のロールを制御するステップを含む、冷間圧延方法を実行できる。また、冷間圧延設備の制御装置は、最下流圧延機を含む1以上の冷間圧延機の上流側において、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるように複数のロールを制御するステップを含む、冷間圧延方法を実行できる。鋼板の製造設備は、冷間圧延方法を実行して、さらに金属鋼帯を切断するステップを含む、鋼板の製造方法を実行できる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る冷間圧延設備、鋼板の製造設備、冷間圧延方法及び鋼板の製造方法は、上記の構成又は工程(ステップ)によって、クーラント液乗りの長さを調整して、金属鋼帯の温度を最適温度範囲内にする。そのため、ワークロールの変形を抑制し、圧延時の脆性割れを抑制することができる。
【0048】
本開示の実施形態について、諸図面に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。例えば、各構成部などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0049】
上記の実施形態において、図3を参照しながら、4つの冷間圧延機を含む冷間圧延設備について説明したが、冷間圧延設備が含む冷間圧延機の数は限定されない。例えば、冷間圧延設備が1つの冷間圧延機だけを備えて、制御装置は、金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって低位となるような複数のロールの制御と金属鋼帯が搬送方向下流側に向かって高位となるような複数のロールの制御の一方だけを実行してよい。また、冷間圧延設備が複数の冷間圧延機を含む場合に、最上流圧延機と最下流圧延機を除く中間に設けられる冷間圧延機のそれぞれは、制御装置によって正の傾斜角度を有するように調整されてよいし、負の傾斜角度を有するように調整されてよいし、傾斜角度の調整が行われなくてよい。
【0050】
以下、本開示内容の効果を実施例(実験例)に基づいて具体的に説明するが、本開示内容はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例)
上記の実施形態において説明した冷間圧延設備を用いて、圧延後に焼付及び板破断が発生するか圧延実験を行った。冷間圧延設備は、図3のように4つの冷間圧延機を備えるものが用いられた。対象とした鋼種A~Cの成分(質量%)は表1の通りである。表1において「Bal.」は残部がFeであることを示す。
【0052】
【表1】
【0053】
傾斜角度は0°~10°と変更して圧延実験(第1の実験)を行った。第1の実験において、最上流圧延機である第1の冷間圧延機(No.1std)の傾斜角度が変更された。クーラントの流量は100~300L/minとした。通板する鋼板(金属鋼帯)の初期温度は200℃とした。鋼板(金属鋼帯)サイズは幅を1000mm、初期の板厚を2.0mmとした。ライン速度は15mpm又は100mpmとした。板厚は、第1の冷間圧延機の圧延によって2.0mmから1.2mmになるように設定された。使用するクーラントは5%圧延油に95%純水を加えたものが使用された。クーラントの温度は60℃であった。
【0054】
表2は第1の実験の結果を示す。No.1の条件では液乗り長は100mm以下となったが、焼付が発生した。No.5の条件で焼付は発生しなかったが、クーラント液乗りの長さが600mmと長く、入側での板温も60℃と初期温度から140℃低下し板破断した。No.3及びNo.4はパスラインを傾斜させた結果であるが、いずれも焼付が発生しなかった。また、No.3及びNo.4では、入側での板温も80℃以上であって、延性脆性遷移温度以上となり、板破断も発生しなかった。
【0055】
その他の結果については、表2の通りである。比較例については、傾斜角度が0°であって、板破断が高い確率で発生した。表2の発明例より、鋼板(金属鋼帯)の初期温度が200℃の場合、パスラインを傾斜させて板破断を防止するために、最上流圧延機の傾斜角度を5°以上にすると防止効果がさらに高まることがわかった。この結果は、中間に設けられる冷間圧延機であって、入側の鋼板(金属鋼帯)の温度が延性脆性遷移温度未満である冷間圧延機についても同様と考えられる。
【0056】
【表2】
【0057】
また、上記の実施形態において説明した冷間圧延設備を用いて、圧延後に形状不良が発生するか圧延実験を行った。冷間圧延設備は、図3のように4つの冷間圧延機を備えるものが用いられた。対象とした鋼種A~Cの成分(質量%)は表1の通りである。
【0058】
傾斜角度は0°~-10°と変更して圧延実験(第2の実験)を行った。第2の実験において、最下流圧延機である第4の冷間圧延機(No.4std)の傾斜角度が変更された。クーラントの流量は2000~3000L/minとした。通板する鋼板(金属鋼帯)の初期温度は300℃とした。鋼板(金属鋼帯)サイズは幅を1000mm、初期の板厚を2.0mmとした。ライン速度は1000~1500mpmとした。板厚は、第4の冷間圧延機の圧延によって0.4mmから0.3mmになるように設定された。使用するクーラントは5%圧延油に95%純水を加えたものが使用された。クーラントの温度は60℃であった。
【0059】
表3は第2の実験の結果を示す。傾斜角度が0°で入側での板温が250℃の場合に、クーラント液乗りの長さが400mmで、クオーター伸び(形状不良)が発生した。傾斜角度が-2°で入側での板温が250℃の場合に、クーラント液乗りの長さが1500mmとなり、クオーター伸びは発生しなかった。
【0060】
その他の結果については、表3の通りである。比較例については、傾斜角度が0°であって、形状不良が高い確率で発生した。表3の発明例より、鋼板(金属鋼帯)の初期温度が300℃の場合、パスラインを傾斜させて形状不良を防止するために、最下流圧延機の傾斜角度を-2°以下にすると防止効果が高まることがわかった。この結果は、中間に設けられる冷間圧延機であって、入側の鋼板(金属鋼帯)の温度が形状不良発生温度以上である冷間圧延機についても同様と考えられる。
【0061】
【表3】
図1
図2
図3