(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130996
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、インバータ制御方法、インバータ制御プログラム、インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240920BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040989
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】関 雄太
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA17
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA06Z
5H770HA07Z
5H770HA09Z
5H770HA14W
5H770JA13W
5H770JA17W
5H770JA19W
5H770LA04Z
5H770LA10Z
5H770LB05
5H770PA02
(57)【要約】
【課題】平滑コンデンサを実質的に長寿命化できるインバータ制御装置等を提供する。
【解決手段】インバータ装置10は、直流を交流に変換する直流交流変換部13と、平滑した直流を直流交流変換部13に供給可能な平滑コンデンサ12と、直流交流変換部13から供給される交流によって駆動される被駆動体としてのモータ20の動作状態を検知する動作状態検知部32と、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の動作状態に応じて、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える切替部33と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流を交流に変換する直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知する動作状態検知部と、
前記動作状態検知部によって検知された動作状態に応じて、平滑した直流を前記直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと当該直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える切替部と、
を備えるインバータ制御装置。
【請求項2】
前記被駆動体は、前記直流交流変換部から供給される交流によって駆動されるモータであり、
前記動作状態検知部が検知する動作状態は、前記モータの回転速度である、
請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記切替部は、前記動作状態検知部によって検知された前記回転速度が所定の回転速度閾値より小さい場合は前記接続状態に切り替え、当該回転速度閾値より大きい場合は前記遮断状態に切り替える、請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記平滑コンデンサは、互いに並列に接続された複数のサブ平滑コンデンサを備え、
前記切替部は、前記動作状態検知部によって検知された前記回転速度に応じて、前記各サブ平滑コンデンサを前記接続状態と前記遮断状態の間で個別に切り替える、
請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記切替部は、前記動作状態検知部によって検知された前記回転速度が小さいほど多くの前記サブ平滑コンデンサを前記接続状態に切り替え、当該回転速度が大きいほど多くの前記サブ平滑コンデンサを前記遮断状態に切り替える、請求項4に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記各サブ平滑コンデンサが前記接続状態に切り替えられて使用された累積使用量を検知する累積使用量検知部を備え、
前記切替部は、前記複数のサブ平滑コンデンサの間の前記累積使用量のばらつきが低減されるように、前記接続状態に切り替える前記各サブ平滑コンデンサを選択する、
請求項4に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
前記平滑コンデンサが前記接続状態であるか前記遮断状態であるかに応じて、前記直流交流変換部を異なる態様で制御する制御部を備える、請求項1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記被駆動体は、前記直流交流変換部から供給される交流によって駆動されるモータであり、
前記動作状態検知部が検知する動作状態は、前記モータの回転加速度である、
請求項1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記切替部は、前記動作状態検知部によって検知された前記回転加速度が所定の回転加速度閾値より大きい場合は前記接続状態に切り替え、当該回転加速度閾値より小さい場合は前記遮断状態に切り替える、請求項8に記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
前記直流交流変換部に供給される直流における脈流を検知する脈流検知部を備え、
前記切替部は、前記脈流検知部によって検知された脈流に応じて、前記接続状態と前記遮断状態の間で切り替える、
請求項1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項11】
前記直流交流変換部から前記被駆動体に供給される交流を検知する交流検知部を備え、
前記切替部は、前記交流検知部によって検知された交流に応じて、前記接続状態と前記遮断状態の間で切り替える、
請求項1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項12】
前記平滑コンデンサの温度を検知する温度検知部を備え、
前記切替部は、前記温度検知部によって検知された温度に応じて、前記接続状態と前記遮断状態の間で切り替える、
請求項1から6のいずれかに記載のインバータ制御装置。
【請求項13】
直流を交流に変換する直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知することと、
前記検知された動作状態に応じて、平滑した直流を前記直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと当該直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替えることと、
を実行するインバータ制御方法。
【請求項14】
直流を交流に変換する直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知することと、
前記検知された動作状態に応じて、平滑した直流を前記直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと当該直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替えることと、
をコンピュータに実行させるインバータ制御プログラム。
【請求項15】
直流を交流に変換する直流交流変換部と、
平滑した直流を前記直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと、
前記直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知する動作状態検知部と、
前記動作状態検知部によって検知された動作状態に応じて、前記平滑コンデンサと前記直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える切替部と、
を備えるインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインバータ制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、交流を生成するインバータにおいて、整流された直流を平滑する平滑コンデンサの寿命または余命(以下では余命も含めて寿命と総称する)を診断する技術を開示している。当該平滑コンデンサに前段から流入する第1リップル電流および後段から流入する第2リップル電流の測定結果を、所定の寿命演算式に代入することで平滑コンデンサの寿命が演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、インバータ全体の寿命に決定的な影響を及ぼしうる平滑コンデンサの寿命を診断できるものの、それ自体を延ばすことはできない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、平滑コンデンサを実質的に長寿命化できるインバータ制御装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインバータ制御装置は、直流を交流に変換する直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知する動作状態検知部と、動作状態検知部によって検知された動作状態に応じて、平滑した直流を直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと当該直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える切替部と、を備える。
【0007】
本態様では、直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態に応じて、平滑コンデンサと直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替えられる。平滑コンデンサは遮断状態において実質的に使用されないため、当該平滑コンデンサを実質的に長寿命化できる。
【0008】
本発明の別の態様は、インバータ制御方法である。この方法は、直流を交流に変換する直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知することと、検知された動作状態に応じて、平滑した直流を直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと当該直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替えることと、を実行する。
【0009】
本発明の更に別の態様は、インバータ装置である。この装置は、直流を交流に変換する直流交流変換部と、平滑した直流を直流交流変換部に供給可能な平滑コンデンサと、直流交流変換部から供給される交流によって駆動される被駆動体の動作状態を検知する動作状態検知部と、動作状態検知部によって検知された動作状態に応じて、平滑コンデンサと直流交流変換部の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える切替部と、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、平滑コンデンサを実質的に長寿命化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】インバータ制御装置と、その制御対象としてのインバータ装置の構成を模式的に示す。
【
図2】インバータ制御装置と、その制御対象としてのインバータ装置の変形例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係るインバータ制御装置30と、その制御対象としてのインバータ装置10の構成を模式的に示す。インバータ装置10は、不図示の交流電源から入力される互いに位相が異なる多相の交流を整流して直流に変換する整流部11と、整流部11によって整流された直流を平滑して波形を整える平滑コンデンサ12と、整流部11によって整流された直流を交流に変換する直流交流変換部13を備える。なお、本実施形態における交流は文脈に応じて交流電圧および交流電流の少なくともいずれかを表し、本実施形態における直流は文脈に応じて直流電圧および直流電流の少なくともいずれかを表す。
【0015】
整流部11は、交流電源から入力される3相(R,S,T)の交流を一定の方向(
図1における下から上に向かう方向)に整流する6個のダイオード111~116を備える。ダイオード111はR相の交流が正の時に電流を流し、ダイオード112はR相の交流が負の時に電流を流し、ダイオード113はS相の交流が正の時に電流を流し、ダイオード114はS相の交流が負の時に電流を流し、ダイオード115はT相の交流が正の時に電流を流し、ダイオード116はT相の交流が負の時に電流を流す。これらのブリッジ状に接続されたダイオード111~116によって、整流部11の高電位出力端子117が接続される高電位ライン10Hと、低電位出力端子118が接続される低電位ライン10Lの間には、方向が一定で大きさが変動する脈流が現われる。
【0016】
電解コンデンサ等によって構成される平滑コンデンサ12は、後述するスイッチ14が閉状態(オン状態)の場合に、整流部11で得られた脈流を平滑して波形の整った直流を生成する。平滑コンデンサ12は実体的にはキャパシタンスによって構成されるが、実際には抵抗およびインダクタンスの成分を含んでもよい。抵抗は、ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)とも呼ばれ、インダクタンスは、ESL(Equivalent Series Inductance:等価直列インダクタンス)とも呼ばれる。このように、平滑コンデンサ12は、C(キャパシタンス)、R(ESRとしての抵抗)、L(ESLとしてのインダクタンス)が、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に直列に接続された等価回路として表されてもよい。後述するスイッチ14が開状態(オフ状態)の場合、平滑コンデンサ12は高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの少なくともいずれかから遮断されて実質的に使用されない。
【0017】
直流交流変換部13は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流を、6個のトランジスタ131~136によって3相(U,V,W)の交流に変換する。具体的には、直流に基づいてU相の交流を生成する高電位トランジスタ131および低電位トランジスタ132を備えるU相直流交流変換部13Uと、直流に基づいてV相の交流を生成する高電位トランジスタ133および低電位トランジスタ134を備えるV相直流交流変換部13Vと、直流に基づいてW相の交流を生成する高電位トランジスタ135および低電位トランジスタ136を備えるW相直流交流変換部13Wが並列に設けられる。各相の直流交流変換部13U、13V、13Wの構成は同様であるため、以下ではU相直流交流変換部13Uについて代表的に説明する。
【0018】
U相直流交流変換部13Uは、直流高電位が供給されている高電位ライン10Hおよび直流低電位が供給されている低電位ライン10Lの間に設けられて、当該直流高電位および当該直流低電位の間で変動するU相の交流を出力する出力端子137(V相直流交流変換部13Vでは出力端子138、W相直流交流変換部13Wでは出力端子139)を備える。高電位ライン10Hと出力端子137の間には高電位トランジスタ131(V相直流交流変換部13Vでは高電位トランジスタ133、W相直流交流変換部13Wでは高電位トランジスタ135)が接続され、低電位ライン10Lと出力端子137の間には低電位トランジスタ132(V相直流交流変換部13Vでは低電位トランジスタ134、W相直流交流変換部13Wでは低電位トランジスタ136)が接続される。高電位トランジスタ131は、その制御電極に接続された制御部31および/または不図示の高電位ドライバからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。低電位トランジスタ132は、その制御電極に接続された制御部31および/または不図示の低電位ドライバからの制御信号に応じて導通状態が切り替えられる。
【0019】
制御部31および/または高電位ドライバと低電位ドライバからなるドライバ対は、高電位トランジスタ131および低電位トランジスタ132からなるトランジスタ対の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで直流をU相の交流に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各相のトランジスタ対が同時にオン状態にならないように制御することを意味する。換言すれば、各相の一方のトランジスタがオン状態の時は、当該各相の他方のトランジスタがオフ状態になるように制御することを意味する。但し、各相のトランジスタ対が同時にオフ状態になることは許容される。U相について具体的には、高電位トランジスタ131がオン状態の時は低電位トランジスタ132がオフ状態に制御され、低電位トランジスタ132がオン状態の時は高電位トランジスタ131がオフ状態に制御される。このため、高電位トランジスタ131がオン状態の時は出力端子137に高電位が現われ、低電位トランジスタ132がオン状態の時は出力端子137に低電位が現われる。このようなスイッチング制御を周期的に繰り返すことで、出力端子137には高電位と低電位が交互に現われるため交流(U相)が生成される。
【0020】
直流交流変換部13は、直流から変換した3相の交流を任意の被駆動体、例えば、モータ20に供給する。モータ20は、例えば、U相、V相、W相の3相のコイル(不図示)を持つ3相ブラシレスモータである。U相コイルにはU相直流交流変換部13UからのU相電圧が印加されてU相電流が流れ、V相コイルにはV相直流交流変換部13VからのV相電圧が印加されてV相電流が流れ、W相コイルにはW相直流交流変換部13WからのW相電圧が印加されてW相電流が流れる。各相の直流交流変換部13U、13V、13Wは、モータ20のホール素子(不図示)が検知した回転子(不図示)の回転位置に基づいて、互いに位相が異なる交流を各相のコイルに印加する。このように各相のコイルに印加された交流は回転磁界を発生させ、磁石等を備える回転子を回転させることで所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流によって駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず任意の自然数でよい。同様に、整流部11に入力される交流の相の数も3に限られず任意の自然数でよい。
【0021】
インバータ装置10は、閉状態(オン状態)と開状態(オフ状態)の間で切り替わることで平滑コンデンサ12を後述する接続状態と遮断状態の間で切り替えるスイッチ14と、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流を検知する分圧部15を更に備える。
【0022】
スイッチ14は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間において、平滑コンデンサ12と直列に接続される。後述する切替部33によって、スイッチ14は閉状態と開状態の間で切り替えられる。
【0023】
スイッチ14が閉状態(オン状態)に切り替えられると、平滑コンデンサ12が高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの両方と接続される。この場合の平滑コンデンサ12は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの両方を介して、直流交流変換部13と接続された接続状態にある。接続状態の平滑コンデンサ12は、前述のように、整流部11で得られた脈流を平滑した直流を直流交流変換部13に供給する。
【0024】
スイッチ14が開状態(オフ状態)に切り替えられると、平滑コンデンサ12が高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの少なくともいずれか(
図1の例では、低電位ライン10L)から遮断される。この場合の平滑コンデンサ12は、直流交流変換部13から実質的に遮断された遮断状態にある。遮断状態の平滑コンデンサ12は実質的に機能せず、整流部11で得られた直流または脈流が直流交流変換部13に供給される。
【0025】
以上のように、スイッチ14は、切替部33の制御の下で、平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替える。このような平滑コンデンサ12の状態切替機能が実現される限り、スイッチ14の方式やタイプは任意である。例えば、スイッチ14は、開閉される機械的な接点を有する有接点リレー(メカニカルリレー)でもよいし、機械的な接点を有しない無接点リレーでもよいし、トランジスタやサイリスタ等のスイッチング素子でもよい。
【0026】
平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間に設けられる分圧部15は、直流を提供する高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に直列に接続される二つの分圧抵抗151、152を備える。高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の直流は、各分圧抵抗151、152の抵抗値に応じて分圧されて分圧出力点153から出力される。分圧出力点153には、後述する脈流検知部34が接続されている。なお、後述するように脈流検知部34が高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間の脈流を検知できる限り、分圧部15の代わりに他の適切な構成が設けられてもよいし、分圧部15が設けられなくてもよい。
【0027】
インバータ制御装置30は、制御部31と、動作状態検知部32と、切替部33と、脈流検知部34と、交流検知部35と、温度検知部36を備える。インバータ制御装置30が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略できる。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現されてもよい。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0028】
制御部31は、インバータ制御装置30の全体の制御を担い、インバータ制御装置30の各部を制御する。例えば、制御部31は、直流交流変換部13における各トランジスタ131~136の制御電極に、スイッチング動作のための制御信号を印加する。具体的には、制御部31は、PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)によってデューティ比が制御されたパルスを制御信号として各トランジスタ131~136の制御電極に印加する。各トランジスタ131~136は、パルスの有無に応じてオン状態とオフ状態の間でスイッチング動作を行う。具体的には、パルスが制御電極に印加されている間は各トランジスタ131~136がオン状態となってチャネルが導通状態となる。また、パルスが制御電極に印加されていない間は各トランジスタ131~136がオフ状態となってチャネルが非導通状態となる。
【0029】
また、後述するように、制御部31は、動作状態検知部32、脈流検知部34、交流検知部35、温度検知部36から提供される各種の情報に基づいて、切替部33を切替制御する。
【0030】
動作状態検知部32は、直流を交流に変換する直流交流変換部13から供給される交流によって駆動される被駆動体としてのモータ20の動作状態を検知する。動作状態検知部32が検知するモータ20の動作状態は、例えば、回転速度(回転数)、回転加速度、トルク等のモータ20の動作を表す任意のパラメータである。このようなモータ20の各種の動作状態は、モータ20に併設される不図示のエンコーダやセンサ等から直接的または間接的に取得可能である。例えば、モータ20の回転速度は、回転子の回転位置を測定するロータリエンコーダやホール素子から直接的に取得可能であり、モータ20の回転加速度は、直接的に取得された回転速度を微分することで間接的に取得可能である。
【0031】
切替部33は、制御部31の制御の下で、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の動作状態に応じて、平滑コンデンサ12と直流交流変換部13の間が接続される接続状態と遮断される遮断状態の間で切り替える。具体的には、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の動作状態に応じて、平滑コンデンサ12と直列に接続されたスイッチ14を切替制御またはオンオフ制御することで、当該平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替える。
【0032】
動作状態検知部32によってモータ20の回転速度が検知される場合、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の回転速度が所定の回転速度閾値より小さい場合は平滑コンデンサ12を接続状態に切り替え(スイッチ14を閉状態に切り替え)、当該回転速度閾値より大きい場合は平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替える(スイッチ14を開状態に切り替える)。
【0033】
独自の検討の結果、モータ20の回転速度が回転速度閾値より小さい低速領域または低周波数領域では、整流部11からの脈流(典型的には、直流に重畳される低周波数の振動)が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動に及ぼす影響が相対的に大きくなることが確認された。そこで、このような低速領域では、切替部33によって接続状態に切り替えられた平滑コンデンサ12が、整流部11からの脈流を平滑した直流を直流交流変換部13に供給することで、脈流の望ましくない影響を効果的に除去できる。
【0034】
一方、モータ20の回転速度が回転速度閾値より大きい高速領域または高周波数領域では、整流部11からの脈流が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動に及ぼす影響が相対的に小さくなることが確認された。そこで、このような高速領域では、切替部33によって平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替えることで、当該平滑コンデンサ12のリップル電流による自己発熱等の消耗を抑えながら、直流交流変換部13によってモータ20を適切に駆動できる。このことは、平滑コンデンサ12、ひいては、インバータ装置10全体の実質的な長寿命化に繋がる。
【0035】
動作状態検知部32によってモータ20の回転加速度が検知される場合、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の回転加速度が所定の回転加速度閾値より大きい場合は平滑コンデンサ12を接続状態に切り替え(スイッチ14を閉状態に切り替え)、当該回転加速度閾値より小さい場合は平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替える(スイッチ14を開状態に切り替える)。
【0036】
独自の検討の結果、モータ20の回転加速度が回転加速度閾値より大きい高加速領域(回転速度の変化が大きい領域)では、整流部11からの脈流が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動に及ぼす影響が相対的に大きくなることが確認された。そこで、このような高加速領域では、切替部33によって接続状態に切り替えられた平滑コンデンサ12が、整流部11からの脈流を平滑した直流を直流交流変換部13に供給することで、脈流の望ましくない影響を効果的に除去できる。
【0037】
一方、モータ20の回転加速度が回転加速度閾値より小さい低加速領域(回転速度の変化が小さい領域)では、整流部11からの脈流が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動に及ぼす影響が相対的に小さくなることが確認された。そこで、このような低加速領域では、切替部33によって平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替えることで、当該平滑コンデンサ12のリップル電流による自己発熱等の消耗を抑えながら、直流交流変換部13によってモータ20を適切に駆動できる。このことは、平滑コンデンサ12、ひいては、インバータ装置10全体の実質的な長寿命化に繋がる。
【0038】
上記のようなモータ20の動作状態(回転速度、回転加速度、トルク等)に加えてまたは代えて、切替部33は、制御部31の制御の下で、脈流検知部34、交流検知部35、温度検知部36等によって検知された各種の情報に応じて、平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替えてもよい。
【0039】
脈流検知部34は、少なくとも平滑コンデンサ12が遮断状態にある場合に、整流部11から直流交流変換部13に供給される直流における脈流を検知する。具体的には、前述のように、分圧部15における分圧出力点153の電圧が脈流検知部34によって検知される。
【0040】
切替部33は、脈流検知部34によって検知された脈流に応じて、平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替えてもよい。例えば、脈流検知部34によって検知された脈流の振幅や周波数が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動において許容できる場合、切替部33によって平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替える(あるいは、平滑コンデンサ12の遮断状態を維持する)ことで、当該平滑コンデンサ12のリップル電流による自己発熱等の消耗を抑えながら、直流交流変換部13によってモータ20を適切に駆動できる。一方、脈流検知部34によって検知された脈流の振幅や周波数が、直流交流変換部13によるモータ20の駆動において許容できない場合、切替部33によって接続状態に切り替えられた平滑コンデンサ12が、整流部11からの脈流を平滑した直流を直流交流変換部13に供給することで、脈流の望ましくない影響を効果的に除去できる。
【0041】
交流検知部35は、少なくとも平滑コンデンサ12が遮断状態にある場合に、直流交流変換部13からモータ20に供給される交流を検知する。具体的には、U相出力端子137、V相出力端子138、W相出力端子139の少なくともいずれかとモータ20の間に設けられる不図示の電流センサ等によって、U相、V相、W相の少なくともいずれかの交流が交流検知部35によって検知される。
【0042】
切替部33は、交流検知部35によって検知された交流に応じて、平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替えてもよい。例えば、交流検知部35によって検知された交流において、モータ20の駆動に悪影響を及ぼしうる異常が認められない場合、切替部33によって平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替える(あるいは、平滑コンデンサ12の遮断状態を維持する)ことで、当該平滑コンデンサ12のリップル電流による自己発熱等の消耗を抑えながらモータ20を適切に駆動できる。一方、交流検知部35によって検知された交流において、モータ20の駆動に悪影響を及ぼしうる異常が認められる場合、切替部33によって接続状態に切り替えられた平滑コンデンサ12が、整流部11からの脈流を平滑した直流を直流交流変換部13に供給することで、異常の主因と考えられる脈流の望ましくない影響を効果的に除去できる。
【0043】
温度検知部36は、平滑コンデンサ12の温度を検知する。切替部33は、温度検知部36によって検知された温度に応じて、平滑コンデンサ12を接続状態と遮断状態の間で切り替えてもよい。例えば、接続状態にある平滑コンデンサ12の温度が所定の温度閾値より大きくなった場合であって、当該平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替えても直流交流変換部13によるモータ20の駆動に及ぼす影響が許容できる場合、切替部33によって当該平滑コンデンサ12を遮断状態に切り替えることで、当該平滑コンデンサ12の高温による消耗を抑えながらモータ20を適切に駆動できる。なお、図示は省略するが、温度検知部36によって検知される平滑コンデンサ12の温度が温度閾値より小さく保たれるように、当該平滑コンデンサ12を適応的に冷却する冷却ファン等の冷却部が設けられてもよい。
【0044】
以上のように、切替部33は、制御部31の制御の下で、動作状態検知部32、脈流検知部34、交流検知部35、温度検知部36等から提供される各種の情報に基づいて、平滑コンデンサ12またはスイッチ14を切替制御する。この際、制御部31は、平滑コンデンサ12が接続状態であるか遮断状態であるか(すなわち、スイッチ14が閉状態であるか開状態であるか)に応じて、直流交流変換部13を異なる態様で制御してもよい。
【0045】
前述のように、制御部31が直流交流変換部13をPWM制御する場合、各トランジスタ131~136の制御電極に印加するパルスのデューティ比(すなわち、幅)、各周期における位置(すなわち、タイミング)、波形、周期等のPWMにおける各種のパラメータを、平滑コンデンサ12が接続状態であるか遮断状態であるかに応じて変えてもよい。それぞれのPWMパラメータの調整方法は公知であるため説明を省略するが、定性的には、平滑コンデンサ12が遮断状態にある場合は整流部11からの脈流の影響が大きくなるため、制御部31は脈流耐性が高い(脈流に強い)PWMパラメータを使用するのが好ましく、平滑コンデンサ12が接続状態にある場合は整流部11からの脈流の影響が小さくなるため、制御部31は脈流耐性以外の駆動性能等を優先するPWMパラメータを使用するのが好ましい。
【0046】
図2は、インバータ制御装置30と、その制御対象としてのインバータ装置10の変形例を模式的に示す。
図1と同様の構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0047】
本変形例に係る平滑コンデンサ12は、高電位ライン10Hおよび低電位ライン10Lの間に互いに並列に接続された複数(
図2の例では四つ)のサブ平滑コンデンサ121~124を備える。複数のサブ平滑コンデンサ121~124には、それぞれを接続状態と遮断状態の間で切替可能な複数(
図2の例では四つ)のスイッチ141~144が直列に接続される。切替部33は、動作状態検知部32、脈流検知部34、交流検知部35、温度検知部36、後述の累積使用量検知部37等から提供される各種の情報に基づいて、各スイッチ141~144を閉状態と開状態の間で個別に切り替えることによって、各サブ平滑コンデンサ121~124を接続状態と遮断状態の間で個別に切り替える。
【0048】
動作状態検知部32によってモータ20の回転速度が検知される場合、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の回転速度が小さいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え、当該回転速度が大きいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替える。例えば、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の回転速度が所定の第1回転速度閾値より小さい低速領域では、全部(四つ)のサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え、当該第1回転速度閾値より大きく第2回転速度閾値より小さい中速領域では、半分(二つ)のサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え(残りの半分のサブ平滑コンデンサ121~124は遮断状態に切り替えられる)、当該第2回転速度閾値より大きい高速領域では、全部(四つ)のサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替える。
【0049】
このように、モータ20の回転速度に応じた適切な数のサブ平滑コンデンサ121~124のみを接続状態に切り替え、残りのサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替えることで、当該各サブ平滑コンデンサ121~124のリップル電流による自己発熱等の消耗を抑えながら、直流交流変換部13によってモータ20を適切に駆動できる。このことは、各サブ平滑コンデンサ121~124を備える平滑コンデンサ12、ひいては、インバータ装置10全体の実質的な長寿命化に繋がる。
【0050】
以上のような複数のサブ平滑コンデンサ121~124の個別切替制御においては、当該各サブ平滑コンデンサ121~124の累積使用量が考慮されるのが好ましい。このために設けられる累積使用量検知部37は、各サブ平滑コンデンサ121~124が切替部33によって接続状態に切り替えられて使用された累積使用量を検知する。ここで、各サブ平滑コンデンサ121~124の累積使用量は、例えば、当該各サブ平滑コンデンサ121~124が接続状態に切り替えられていた累積時間でもよいし、当該各サブ平滑コンデンサ121~124が接続状態に切り替えられていた間に印加された電圧や電荷等の電気的なパラメータの累積値(積分値)でもよい。
【0051】
切替部33は、累積使用量検知部37によって検知された複数のサブ平滑コンデンサ121~124の間の累積使用量のばらつきが低減されるように、接続状態に切り替える各サブ平滑コンデンサ121~124を選択する。例えば、二つのサブ平滑コンデンサ121~124が接続状態に切り替えられる前述の中速領域では、四つのサブ平滑コンデンサ121~124のうち累積使用量が少ない二つのサブ平滑コンデンサ121~124が、切替部33によって優先的に選択されて接続状態に切り替えられてもよい。このように、各サブ平滑コンデンサ121~124の累積使用量が平準化されるため、平滑コンデンサ12全体、ひいては、インバータ装置10全体の実質的な長寿命化に繋がる。
【0052】
以上のような複数のサブ平滑コンデンサ121~124の個別切替制御は、上述のモータ20の回転速度に限らず、
図1に関して具体的に例示した、モータ20の回転加速度(動作状態検知部32)、整流部11から直流交流変換部13に供給される直流における脈流(脈流検知部34)、直流交流変換部13からモータ20に供給される交流(交流検知部35)、サブ平滑コンデンサ121~124の温度(温度検知部36)等に基づいて切替部33によって行われてもよい。
【0053】
具体的には、動作状態検知部32によってモータ20の回転加速度が検知される場合、切替部33は、動作状態検知部32によって検知されたモータ20の回転加速度が大きいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え、当該回転加速度が小さいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替えてもよい。
【0054】
切替部33は、脈流検知部34によって検知された脈流が大きいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え、当該脈流が小さいほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替えてもよい。切替部33は、交流検知部35によって検知された交流における異常が多いほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を接続状態に切り替え、当該交流における異常が少ないほど多くのサブ平滑コンデンサ121~124を遮断状態に切り替えてもよい。切替部33は、温度検知部36によって検知された温度が低いサブ平滑コンデンサ121~124を優先的に接続状態に切り替え、当該温度が高いサブ平滑コンデンサ121~124を優先的に遮断状態に切り替えてもよい。
【0055】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0056】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0057】
10 インバータ装置、10H 高電位ライン、10L 低電位ライン、11 整流部、12 平滑コンデンサ、13 直流交流変換部、14 スイッチ、20 モータ、30 インバータ制御装置、31 制御部、32 動作状態検知部、33 切替部、34 脈流検知部、35 交流検知部、36 温度検知部、37 累積使用量検知部、121~124 サブ平滑コンデンサ、141~144 スイッチ。