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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024130997
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】情報導出方法、鉄筋曲げ装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 7/024 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B21D7/024 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040991
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000223056
【氏名又は名称】東陽建設工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】呉 其樹
(72)【発明者】
【氏名】桧垣 智史
【テーマコード(参考)】
4E063
【Fターム(参考)】
4E063AA09
4E063BC05
4E063JA01
4E063JA07
4E063LA07
(57)【要約】
【課題】情報を導出する情報導出方法及び鉄筋曲げ装置を提供する。
【解決手段】情報導出方法は、鉄筋曲げ装置1に鉄筋30をセットする鉄筋供給ステップS1と、セットした鉄筋30に対して最初に曲げ加工を行ったときの力点部材20の戻り回動角度を測定する第1回動角度測定ステップS2と、最初の曲げ加工を行った鉄筋30に対して更に大きい角度まで曲げ加工を行ったときの力点部材20の戻り回動角度を測定する第2回動角度測定ステップS3と、第1回動角度測定ステップS2及び第2回動角度測定ステップS3の測定結果を用いて、力点部材20の回動角度と戻り回動角度との関係を示す情報を生成する情報生成ステップS4と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、前記支点部材の周りを回動する力点部材とを備える鉄筋曲げ装置を使用して、情報を導出する情報導出方法であって、
異形鉄筋を前記鉄筋曲げ装置に供給する鉄筋供給ステップと、
前記力点部材を第一方向に回動させて、供給された前記異形鉄筋を曲げ加工した後、前記力点部材を前記第一方向の反対の第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第1回動角度測定ステップと、
前記力点部材の曲げ力が解除された異形鉄筋を、前記力点部材を前記第一方向に回動させて更に曲げ加工した後、前記力点部材を前記第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置にかかる力が前記閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第2回動角度測定ステップと、
前記第2回動角度測定ステップを1回又は複数回実行した後に、前記第1回動角度測定ステップの測定結果と、前記第2回動角度測定ステップの測定結果とを利用して、曲げ加工時における前記力点部材の前記第一方向への回動角度と前記力点部材の前記第二方向への回動角度との関係を示す前記情報を生成する情報生成ステップと、を備え、
前記第2回動角度測定ステップにおける前記第一方向への前記力点部材の回動角度は、直前に行った前記第1回動角度測定ステップにおける前記第一方向への前記力点部材の回動角度、又は直前に行った前記第2回動角度測定ステップにおける前記第一方向への前記力点部材の回動角度より大きい角度である、
情報導出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の情報導出方法であって、
前記第1回動角度測定ステップ及び前記第2回動角度測定ステップでは、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置に作用する力を、前記鉄筋曲げ装置の一部に設けられたひずみセンサにより検出する、
情報導出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の情報導出方法であって、
前記鉄筋曲げ装置は、供給された異形鉄筋を保持する保持部を含み、
前記ひずみセンサは、前記保持部に設けられる、
情報導出方法。
【請求項4】
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、前記支点部材の周りを回動する力点部材と、制御部と、を備える鉄筋曲げ装置であって、
前記制御部は、
供給された異形鉄筋に対し、前記力点部材を第一方向に回動させて前記異形鉄筋を曲げ加工した後、前記力点部材を前記第一方向の反対の第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第1回動角度測定処理と、
前記力点部材の曲げ力が解除された異形鉄筋を、前記力点部材を前記第一方向に回動させて更に曲げ加工した後、前記力点部材を前記第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置にかかる力が前記閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第2回動角度測定処理と、
前記第2回動角度測定処理を1回又は複数回実行した後に、前記第1回動角度測定処理の測定結果と、前記第2回動角度測定処理の測定結果とを利用して、曲げ加工時における前記力点部材の前記第一方向への回動角度と前記力点部材の前記第二方向への回動角度との関係を示す情報を生成する情報生成処理と、を実行し、
前記第2回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度は、直前に行った前記第1回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度、又は直前に行った前記第2回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度より大きい角度である、
鉄筋曲げ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報導出方法、鉄筋曲げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材の曲げ加工時には、スプリングバックが発生することが知られており、スプリングバック量を考慮した加工を行うことが必要である。
【0003】
パイプ等の金属長尺部材の曲げ加工におけるスプリングバック量の予測を行う技術が記載されたものとして、特許文献1、2がある。
【0004】
特許文献1には、パイプ等の長尺部材スプリングバックパラメータを計算するために、テストパイプについて、一対の曲げ加工を行い、その結果の曲げ角を測定する点が記載されている。
【0005】
特許文献2には、管の曲げ加工に際して、異なる2回の試験曲げ加工を行った結果に基づいてスプリングバック量を予測する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011-508674号公報
【特許文献2】特開昭48-103067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の予測技術は、いずれも、曲げ対象が一様な部材であることを前提として、異なるテストパイプに対して、あるいは、較正用パイプの異なる箇所の曲げ箇所に対して曲げ加工を行った結果に基づいてスプリングバック量を予測するものである。しかし、異形鉄筋のように、軸方向、及び周方向の断面が一様ではない部材のスプリングバック量の予測に適用した場合、誤差が大きくなる。すなわち、異形鉄筋のように、軸方向、及び周方向の断面が一様ではない部材の曲げ加工においては、曲げ装置への取付態様、曲げ位置等により、曲げ加工の挙動が変化するので、異なる部材、あるいは、異なる箇所の曲げ結果を利用した場合には、誤差が大きくなる。
【0008】
本発明は、異形鉄筋を所望の角度に精度よく曲げ加工する技術を確立するために利用可能な情報を導出する情報導出方法及び鉄筋曲げ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の技術は以下に示すものである。
【0010】
(1)
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、上記支点部材の周りを回動する力点部材とを備える鉄筋曲げ装置を使用して、情報を導出する情報導出方法であって、
異形鉄筋を上記鉄筋曲げ装置に供給する鉄筋供給ステップと、
上記力点部材を第一方向に回動させて、供給された上記異形鉄筋を曲げ加工した後、上記力点部材を上記第一方向の反対の第二方向に回動させて上記異形鉄筋に対する上記力点部材の曲げ力を解除し、上記力点部材の上記第二方向への回動の開始から、上記異形鉄筋から上記鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるまでの上記力点部材の上記第二方向への回動角度を測定する第1回動角度測定ステップと、
上記力点部材の曲げ力が解除された異形鉄筋を、上記力点部材を上記第一方向に回動させて更に曲げ加工した後、上記力点部材を上記第二方向に回動させて上記異形鉄筋に対する上記力点部材の曲げ力を解除し、上記力点部材の上記第二方向への回動の開始から、上記異形鉄筋から上記鉄筋曲げ装置にかかる力が上記閾値以下となるまでの上記力点部材の上記第二方向への回動角度を測定する第2回動角度測定ステップと、
上記第2回動角度測定ステップを1回又は複数回実行した後に、上記第1回動角度測定ステップの測定結果と、上記第2回動角度測定ステップの測定結果とを利用して、曲げ加工時における上記力点部材の上記第一方向への回動角度と上記力点部材の上記第二方向への回動角度との関係を示す上記情報を生成する情報生成ステップと、を備え、
上記第2回動角度測定ステップにおける上記第一方向への上記力点部材の回動角度は、直前に行った上記第1回動角度測定ステップにおける上記第一方向への上記力点部材の回動角度、又は直前に行った上記第2回動角度測定ステップにおける上記第一方向への上記力点部材の回動角度より大きい角度である、
情報導出方法。
【0011】
(2)
(1)に記載の情報導出方法であって、
上記第1回動角度測定ステップ及び上記第2回動角度測定ステップでは、上記異形鉄筋から上記鉄筋曲げ装置に作用する力を、上記鉄筋曲げ装置の一部に設けられたひずみセンサにより検出する、
情報導出方法。
【0012】
(3)
(2)に記載の情報導出方法であって、
上記鉄筋曲げ装置は、供給された異形鉄筋を保持する保持部を含み、
上記ひずみセンサは、上記保持部に設けられる、
情報導出方法。
【0013】
(4)
曲げ加工の支点を構成する支点部材と、前記支点部材の周りを回動する力点部材と、制御部と、を備える鉄筋曲げ装置であって、
前記制御部は、
供給された異形鉄筋に対し、前記力点部材を第一方向に回動させて前記異形鉄筋を曲げ加工した後、前記力点部材を前記第一方向の反対の第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第1回動角度測定処理と、
前記力点部材の曲げ力が解除された異形鉄筋を、前記力点部材を前記第一方向に回動させて更に曲げ加工した後、前記力点部材を前記第二方向に回動させて前記異形鉄筋に対する前記力点部材の曲げ力を解除し、前記力点部材の前記第二方向への回動の開始から、前記異形鉄筋から前記鉄筋曲げ装置にかかる力が前記閾値以下となるまでの前記力点部材の前記第二方向への回動角度を測定する第2回動角度測定処理と、
前記第2回動角度測定処理を1回又は複数回実行した後に、前記第1回動角度測定処理の測定結果と、前記第2回動角度測定処理の測定結果とを利用して、曲げ加工時における前記力点部材の前記第一方向への回動角度と前記力点部材の前記第二方向への回動角度との関係を示す情報を生成する情報生成処理と、を実行し、
前記第2回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度は、直前に行った前記第1回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度、又は直前に行った前記第2回動角度測定処理における前記第一方向への前記力点部材の回動角度より大きい角度である、
鉄筋曲げ装置。
【発明の効果】
【0014】
(1)の情報導出方法及び(4)の鉄筋曲げ装置によれば、異形鉄筋を曲げ加工し、その後に曲げ力を解除する際に、異形鉄筋から鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるときの力点部材の第二方向への回動角度を、情報生成ステップにより生成した情報から予測できる。曲げ加工後に力点部材を第二方向に回動させていくと、異形鉄筋にスプリングバックが生じている間は、異形鉄筋から鉄筋曲げ装置に作用する力は大きい状態となる。したがって、この力が閾値以下となったタイミングは、異形鉄筋のスプリングバックが終了したタイミングに相当する。(1)によれば、上記情報から、曲げ加工後、異形鉄筋のスプリングバックが終了するまでの力点部材の第二方向への回動角度が予測できることで、その予測結果を利用して、例えば、目標曲げ角度に曲げ加工された異形鉄筋を精度よく得られる技術を確立することが可能となる。
【0015】
(2)の情報導出方法によれば、異形鉄筋から鉄筋曲げ装置に作用する力をひずみセンサによって検出するため、その力を精度よく且つ低コストで検出できる。
【0016】
(3)の情報導出方法によれば、異形鉄筋からの力をダイレクトに受ける保持部に設けられたひずみセンサによって、異形鉄筋から鉄筋曲げ装置に作用する力を検出することができる。このため、異形鉄筋のスプリングバックが終了したタイミングと、異形鉄筋から鉄筋曲げ装置に作用する力が閾値以下となるタイミングとを極力近づけることができ、スプリングバック終了までの力点部材の第二方向への回動角度を高精度に得られる。この結果、上記情報の導出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の情報導出方法に用いる鉄筋曲げ装置の一例の要部斜視図である
図2】鉄筋曲げ装置1の構成を示すブロック図である。
図3】鉄筋の一例を示す拡大図であり、(a)は、異形鉄筋の外面及び軸方向の断面を示す部分断面図であり、(b)は、(a)におけるA-A断面図である。
図4】情報導出方法を説明するためのフローチャートである。
図5】情報導出方法の各ステップでの鉄筋の曲り状態を示す鉄筋曲げ装置の概略平面図である。
図6】曲げ加工時の力点部材の回動角度と戻り回動角度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の情報導出方法及び異形鉄筋の曲げ加工方法の一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
【0019】
図1は、実施形態の情報導出方法に用いる鉄筋曲げ装置の一例の要部斜視図である。
図1に示す鉄筋曲げ装置1は、鉄筋を曲げ加工する装置である。以下では、鉄筋として異形鉄筋30(以下、単に、「鉄筋30」という)を曲げ加工する場合を説明する。鉄筋曲げ装置1は、曲げ加工に際して曲げる方向を特定する基準平面を構成する平坦な基準面部5と、基準面部5上において曲げ加工の支点を構成する支点部材10と、支点部材10の周りを基準面部5に沿うように旋回(回動)する力点部材20と、力点部材20を駆動する駆動部40と、基準面部5上において鉄筋30の一端を動かないように保持する端部保持部6と、CPU(central processing unit)等のプロセッサで構成され、装置全体を制御する制御部2と、を備える。基準面部5には、支点部材10を取り囲むように貫通孔5Aが形成されている。
【0020】
力点部材20は、基準面部5に直交する軸線VLの方向に延出された図示省略の旋回駆動軸に回転可能に設けられたローラ部材にて構成されており、このローラ部材の外周面が鉄筋30に当接して当該鉄筋30に曲げ力を付与する。
【0021】
駆動部40は、モータ42と、一端部において力点部材20を軸支し、他端部においてモータ42の駆動軸42aと連結されるアーム部41と、を備える。図1の例では、アーム部41は、上記旋回駆動軸が一端部に固定された平板部41Aと、基準面部5を挟んで平板部41Aに対向配置され且つ一端部がモータ42の駆動軸42aに連結された平板部41Bと、平板部41Aと平板部41Bの他端部同士を繋ぐ平板部41Cと、を備えた略L字形状を成している。駆動部40には減速機構が設けられていてもよい。
【0022】
鉄筋曲げ装置1では、制御部2がモータ42を駆動することにより、アーム部41とこれに軸支された力点部材20を、貫通孔5Aに沿って、支点部材10の周りに回動させることができる。力点部材20の回動方向として、基準面部5に垂直な方向からみたときの時計回りの方向(図1中の支点部材10周りの矢印の方向)を第一方向と定義し、第一方向の反対である反時計回りの方向を第二方向と定義する。
【0023】
図1の例では、端部保持部6は、曲げ加工時に鉄筋30の端部と接触する平板部60と、平板部60に鉄筋30を挟んで対向し、曲げ加工時に鉄筋30の端部と接触する平板部61と、平板部61に対し、鉄筋30側とは反対側に離間する平板部63と、平板部61と平板部63を接続する柱状の軸部材62と、を備える。平板部60と平板部61とで鉄筋30が挟持されることで、鉄筋30が保持される。
【0024】
端部保持部6には、鉄筋30から鉄筋曲げ装置1に作用する応力を検出するためのひずみセンサが設けられている。鉄筋曲げ装置1において、鉄筋30からの応力が伝達される部分としては、鉄筋30と直接接触する端部保持部6、支点部材10、及び力点部材20と、力点部材20を介して鉄筋30と間接的に接触するアーム部41及びモータ40の駆動軸42a等が挙げられる。これらのうち、曲げ加工時において鉄筋30との相対位置が固定される端部保持部6は、鉄筋30からの応力が安定して伝達されやすい部分ということができる。
【0025】
本実施形態では、この端部保持部6のうちの例えば軸部材62の外周面に、ひずみゲージ70、ひずみゲージ71、ひずみゲージ72、及びひずみゲージ73の4つのひずみセンサが設けられている。ひずみゲージ70~73のそれぞれの出力信号は、制御部2に送信される。ひずみゲージ70とひずみゲージ71は、軸部材62の軸線を挟んで対向配置されている。ひずみゲージ72とひずみゲージ73は、軸部材62の軸線を挟んで対向配置されており、その並び方向は、ひずみゲージ70とひずみゲージ71の並び方向と直交している。なお、端部保持部6に設けられるひずみセンサは、少なくとも1つであればよいが、複数とすることで、端部保持部6のひずみ変化(鉄筋30から受ける応力の変化に相当)を高精度に検出することができる。
【0026】
鉄筋曲げ装置1では、鉄筋30が供給された図1に示す初期状態から、力点部材20が第一方向に回動していくことで鉄筋30の曲げ加工が行われる。鉄筋30が曲げられている期間では、鉄筋30から端部保持部6に作用する応力(換言すると、軸部材62のひずみ)は、初期状態よりも大きい状態となる。また、鉄筋30を所定の曲げ加工角度まで曲げた後、力点部材20を第二方向に回動させていくと、鉄筋30のスプリングバックによって、鉄筋30から端部保持部6に作用する応力は、初期状態のときよりも大きい状態が維持される。その後、そのスプリングバックが終了すると、その時点で、鉄筋30から端部保持部6に作用する応力は、初期状態に近い値となる。したがって、ひずみゲージ70~73の出力信号を処理して軸部材62のひずみの変化を測定することで、曲げ加工後、スプリングバックが終了するまでに要する、力点部材20の第二方向への回動角度(以下、戻り回動角度と記載)を求めることが可能となる。
【0027】
図2は、鉄筋曲げ装置1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、鉄筋曲げ装置1は、更に、操作部3と、記憶部4と、回動量センサ21と、を備えている。記憶部4は、曲げ加工に必要な各種データ、測定データ等を記憶して装置制御に利用する。操作部3は、曲げ加工に必要な各種データの入力や装置動作に必要な情報の入力や動作指示を行う。
【0028】
回動量センサ21は、力点部材20の回動角度を検出するものであり、例えば、ポテンショメータ等により構成される。回動量センサ21は、力点部材20の回動角度を検出できる位置に設けられていればよく、その位置は限定されない。例えば、軸部材の周りに回転可能なローラで構成される支点部材10の当該軸部材に、アーム部41の一端部を回動可能に連結しておき、当該軸部材にポテンショメータを取り付けることで、力点部材20の回動角度を検出することができる。
【0029】
図3は、鉄筋30の一例を示す拡大図である、図3(a)は、鉄筋30の外面及び軸方向の断面を示す部分断面図を示す。図3(b)は、図3(a)におけるA-A断面図を示す。
本実施形態において曲げ加工に使用する鉄筋30は、鉄筋表面30sに、例えば、図3(a)に示すように、鉄筋長手方向に形成された2本のリブ31と、鉄筋円周方向にリブ31間に形成された多数のフシ32と、によって凹凸が形成された形状である。2本のリブ31は、図3(b)に示すように、鉄筋円周方向に180度離れて設けられている。また、フシ32は、鉄筋円周方向において若干傾斜するように設けられ、更にリブ31を挟んで軸方向に交互にずれた位置に設けられている。また、リブ31は、図3の例ではフシ32よりも高く形成されているが、同じ高さでもよく、リブ31の部分が、鉄筋30の最外径Dを構成している。
【0030】
次に、情報導出方法について説明する。図4は、情報導出方法を説明するためのフローチャートである。図5は、図4のステップS1からステップS3の各々での鉄筋30の曲り状態を示す鉄筋曲げ装置1の概略平面図である。
【0031】
本実施形態では、一例として、図5に示す初期状態(鉄筋30が真っすぐに配置された状態)における支点部材10の中心と力点部材20の中心とを通る直線LAと、回動後の力点部材20の中心と支点部材10の中心とを通る直線LBと、のなす角度(図5の角度θf)を、力点部材20の回動角度と定義する。また、図5には、初期状態における鉄筋30の軸線DLと、力点部材20が回動することによって所定角度に曲げられた後の鉄筋30の曲げられた部分の軸線BLとのなす角度を、鉄筋30の曲げ加工角度θ1~θ5として示している。
【0032】
先ず、情報導出方法について概略を説明する。
情報導出方法は、図4に示すように、鉄筋曲げ装置1に鉄筋30をセットする鉄筋供給ステップS1と、セットした鉄筋30に対して最初に曲げ加工を行ったときの力点部材20の戻り回動角度を測定する第1回動角度測定ステップS2と、最初の曲げ加工を行った鉄筋30に対して更に大きい角度まで曲げ加工を行ったときの力点部材20の戻り回動角度を測定する第2回動角度測定ステップS3と、第1回動角度測定ステップS2及び第2回動角度測定ステップS3の測定結果を用いて、曲げ加工時の力点部材20の回動角度と戻り回動角度との関係を示す情報を生成する情報生成ステップS4と、を含む。
【0033】
情報導出方法の各ステップについて、図5を参照してより具体的に説明する。
鉄筋供給ステップS1では、図5に示すように、鉄筋30を、鉄筋曲げ装置1の所定の位置にセットする。ここでは、鉄筋30の側面を支点部材10に接する(略接する)ようにすると共に、端部保持部6にて鉄筋30を基準面部5上に位置決め・固定する。鉄筋30のセットは、人が行ってもよいし、機械を用いて行ってもよい。
【0034】
なお、鉄筋30のセット向きは、特に、図3に示した形状の場合、リブ31が基準面部5に直交する方向に並ぶ向きにセットする。鉄筋30の最外径D(図3参照)が鉄筋表面30sの部分に比べて比較的大きく構成されている場合、最外径Dの部分と交差する方向に曲げ加工することで、鉄筋30の捻れを回避することができる。リブ31のような部分が無い鉄筋30においては、セットの向きは特に制限するものではない。
【0035】
第1回動角度測定ステップS2では、図5中の太矢印で示すように、制御部2が、力点部材20を第一方向(時計回りの方向)に回動角度θf1(=90度)となるまで回動させ、鉄筋30を所定の曲げ加工角度θ1まで曲げる。その後、制御部2は、力点部材20を第二方向(反時計回りの方向)に若干回動させ、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除していく。このとき、制御部2は、ひずみゲージ70~73の出力信号に基づいて、軸部材62のひずみ量を、鉄筋30から鉄筋曲げ装置1に作用する力と相関のある情報として検出する。制御部2は、検出したひずみ量が閾値TH(例えば、鉄筋供給ステップS1の直後の状態における軸部材62のひずみ量等から実験的に決められた値)以下となっているかを判定し、ひずみ量が閾値TH以下となったタイミングで、スプリングバックが終了したと判断して、力点部材20の第二方向への回動を停止させる。制御部2は、このタイミングで回動量センサ21により検出された力点部材20の回動角度θf1Aを取得し、回動角度θf1からこの回動角度θf1Aを減算して、戻り回動角度Δθ1を導出する。最後に、制御部2は、回動角度θf1と戻り回動角度Δθ1とを対応付けて記憶部4に記憶する。
【0036】
第2回動角度測定ステップS3では、制御部2が、第1回動角度測定ステップS2の終了によって力点部材20の曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を第一方向に回動角度θf2(=110度)となるまで回動させて、次の曲げ加工角度θ2まで曲げる。その後、制御部2は、力点部材20を第二方向に若干回動させて、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除していく。このとき、制御部2は、ひずみゲージ70~73の出力信号に基づいて軸部材62のひずみ量を検出し、検出したひずみ量が閾値TH以下となったタイミングで、力点部材20の第二方向への回動を停止させる。制御部2は、このタイミングで回動量センサ21により検出された力点部材20の回動角度θf2Aを取得し、回動角度θf2からこの回動角度θf2Aを減算して、戻り回動角度Δθ2を導出する。最後に、制御部2は、回動角度θf2と戻り回動角度Δθ2とを対応付けて記憶部4に記憶する。
【0037】
この第2回動角度測定ステップS3は、少なくとも1回行われればよいが、ここでは、第2回動角度測定ステップS3が全部で複数回(一例として4回)行われる場合を例にして説明する。第2回動角度測定ステップS3が複数回行われる場合には、第2回動角度測定ステップS3が行われる毎に、力点部材20の回動角度θfは大きくなっていく。
【0038】
2回目の第2回動角度測定ステップS3では、制御部2は、回動角度θfを1回目よりも大きい値とする。具体的には、制御部2は、1回目の第2回動角度測定ステップS3の終了によって曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を第一方向に回動角度θf3(=130度)となるまで回動させて、次の曲げ加工角度θ3まで曲げる。その後、制御部2は、力点部材20を第二方向に若干回動させて、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除していく。このとき、制御部2は、ひずみゲージ70~73の出力信号に基づいて軸部材62のひずみ量を検出し、検出したひずみ量が閾値TH以下となったタイミングで、力点部材20の第二方向への回動を停止させる。制御部2は、このタイミングで回動量センサ21により検出された力点部材20の回動角度θf3Aを取得し、回動角度θf3からこの回動角度θf3Aを減算して、戻り回動角度Δθ3を導出する。最後に、制御部2は、回動角度θf3と戻り回動角度Δθ3とを対応付けて記憶部4に記憶する。
【0039】
3回目の第2回動角度測定ステップS3では、制御部2は、回動角度θfを2回目よりも大きい値とする。具体的には、制御部2は、2回目の第2回動角度測定ステップS3の終了によって曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を第一方向に回動角度θf4(=150度)となるまで回動させて、次の曲げ加工角度θ4まで曲げる。その後、制御部2は、力点部材20を第二方向に若干回動させて、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除していく。このとき、制御部2は、ひずみゲージ70~73の出力信号に基づいて軸部材62のひずみ量を検出し、検出したひずみ量が閾値TH以下となったタイミングで、力点部材20の第二方向への回動を停止させる。制御部2は、このタイミングで回動量センサ21により検出された力点部材20の回動角度θf4Aを取得し、回動角度θf4からこの回動角度θf4Aを減算して、戻り回動角度Δθ4を導出する。最後に、制御部2は、回動角度θf4と戻り回動角度Δθ4とを対応付けて記憶部4に記憶する。
【0040】
4回目の第2回動角度測定ステップS3では、制御部2は、回動角度θfを3回目よりも大きい値とする。具体的には、制御部2は、3回目の第2回動角度測定ステップS3の終了によって曲げ力が解除された鉄筋30に対して、再び力点部材20を第一方向に回動角度θf5(=180度)となるまで回動させて、次の曲げ加工角度θ5まで曲げる。その後、制御部2は、力点部材20を第二方向に若干回動させて、鉄筋30に対する力点部材20の曲げ力を解除していく。このとき、制御部2は、ひずみゲージ70~73の出力信号に基づいて軸部材62のひずみ量を検出し、検出したひずみ量が閾値TH以下となったタイミングで、力点部材20の第二方向への回動を停止させる。制御部2は、このタイミングで回動量センサ21により検出された力点部材20の回動角度θf5Aを取得し、回動角度θf5からこの回動角度θf5Aを減算して、戻り回動角度Δθ5を導出する。最後に、制御部2は、回動角度θf5と戻り回動角度Δθ5とを対応付けて記憶部4に記憶する。
【0041】
情報生成ステップS4では、制御部2は、第1回動角度測定ステップS2及び複数回の第2回動角度測定ステップS3によって記憶部4に記憶した各データセット(回動角度θf1~回動角度θf5と戻り回動角度Δθ1~Δθ5のセット)に基づいて、曲げ加工時の力点部材20の回動角度と戻り回動角度との関係を示す情報を生成する。
【0042】
図6は、力点部材20の回動角度と戻り回動角度との関係を示すグラフである。第1回動角度測定ステップS2と4回の第2回動角度測定ステップS3の各測定で得られたデータは、例えば、図6のグラフに示すように表わされる。このグラフは、縦軸に戻り回動角度Δθを、横軸に回動角度θfを示す。このグラフから判るように、戻り回動角度Δθと回動角度θfとの関係が、Δθ=f(θf)として関係式を定義できることを示している。この関係式が一次式であるとすると、Δθ=aθf+bの関数で表わされる。なお、鉄筋30の太さや形状が異なる場合には、グラフの傾斜角度(係数a)及び定数bが異なる関数として表わされる。この関数を用いることで、例えば、力点部材の回動角度θfを任意の値とした場合に、戻り回動角度Δθがどの程度となるかを予測できる。情報生成ステップS4は、このような関数を情報として導出するステップである。
【0043】
以上の説明における回動角度θf1~θf5の具体的な数値は一例であり、これに限定されるものではない。
【0044】
このように、本実施形態の情報導出方法によれば、複数回の曲げ加工とそのときに得た戻り回動角度に基づいて、力点部材20の戻り回動角度が予測できる関数が生成される。このため、この関数によって予測される戻り回動角度を利用することで、目標曲げ角度に曲げ加工された鉄筋30を精度よく得られる技術を確立することができる。
【0045】
また、本実施形態では、鉄筋30からの力をダイレクトに受ける端部保持部6に設けられたひずみセンサによって、鉄筋30から鉄筋曲げ装置1に作用する力を検出している。このため、鉄筋30のスプリングバックが終了したタイミングと、鉄筋30から鉄筋曲げ装置1に作用する力が閾値TH以下となるタイミングとを極力近づけることができ、戻り回動角度を高精度に得られる。この結果、上記情報の導出精度を高めることができる。また、ひずみセンサを用いて戻り回動角度を検出することで、設備の簡素化と低コスト化が可能となる。
【0046】
本実施形態の情報導出方法において、第2回動角度測定ステップS3の実行回数を特定するものではないが、2回以上実行することで、3回以上の戻り回動角度の測定を行い、これによって、より多くの測定データに基づいた正確な戻り回動角度の予測が可能になる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の範疇において適宜変更することができる。例えば、ひずみセンサは、端部保持部6ではなく、アーム部41、駆動軸42a、又は支点部材10等に設けられていてもよい。ただし、アーム部41又は駆動軸42aは、曲げ加工時に動く部分であるため、曲げ加工時において動くことない端部保持部6にひずみセンサを設けることで、配線の取り回しを容易とすることができる。また、曲げ加工時において動くことがない端部保持部6にひずみセンサを設けることで、鉄筋30から受ける応力の変化が複雑にならないため、スプリングバックが終了したタイミングをより精度よく判定できる。アーム部41、駆動軸42a、及び支点部材10の中では、アーム部41又は駆動軸42aにひずみセンサを設けることが好ましい。
【0048】
以上の説明では、鉄筋30から鉄筋曲げ装置1が受ける応力をひずみセンサによって検出するものとしたが、この応力と相関のある情報を検出できれば、ひずみセンサ以外を採用することもできる。
【0049】
また、前掲の実施形態においては、図3に示す鉄筋30の形状の場合について説明したが、リブ31やフシ32等による凹凸形状は、他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 鉄筋曲げ装置
5 基準面部
10 支点部材
20 力点部材
30 鉄筋(異形鉄筋)
図1
図2
図3
図4
図5
図6