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特開2024-131009鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法
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  • 特開-鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法 図1
  • 特開-鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131009
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/22 20060101AFI20240920BHJP
   B61F 5/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B61F5/22 E
B61F5/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041011
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 修
(57)【要約】
【課題】圧縮空気の消費を適切に行える鉄道車両の車体傾斜装置を提供する。
【解決手段】車体傾斜装置(8)は、台車(2)上に配置されて車体(3)を支持する左右に一対の空気ばね(5)と、空気ばね(5)の各々に対して給排気を司る給排気系(18)と、給排気系(18)による給排気の動作を制御する制御装置(9)と、を備える。制御装置(9)は、記憶部(19A)と、設定部(19B)と、算出部(19C)と、出力部(19D)とを含む。記憶部(19A)は、曲線路ごとに給排気系(18)による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する。設定部(19B)は、曲線路ごとに、格納された制御モードのうちの1つを設定する。算出部(19C)は、曲線路ごとに、設定された制御モードに応じた給排気系への動作信号を算出する。出力部(19D)は、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系(18)に送出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる車体傾斜装置であって、
前記台車上に配置されて前記車体を支持する左右一対の空気ばねと、
前記空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、
前記給排気系による給排気の動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記曲線路ごとに前記給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する記憶部と、
前記曲線路ごとに、前記格納された制御モードのうちの1つを設定する設定部と、
前記曲線路ごとに、前記設定された制御モードに応じた前記給排気系への動作信号を算出する算出部と、
前記曲線路ごとに、前記算出された動作信号を前記給排気系に送出する出力部と、を含む、車体傾斜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車体傾斜装置であって、
前記給排気系は、給気用電磁弁及び排気用電磁弁を含み、
前記制御装置の出力部は、前記曲線路ごとに、前記給気用電磁弁及び前記排気用電磁弁の各々に、弁の開閉信号を送出する、車体傾斜装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車体傾斜装置であって、
前記給排気系は、さらに、給気用流量比例弁及び排気用流量比例弁を含み、
前記制御装置の出力部は、前記曲線路ごとに、さらに、前記給気用流量比例弁及び前記排気用流量比例弁の各々に、弁の開閉信号を送出する、車体傾斜装置。
【請求項4】
鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる車体傾斜方法であって、
前記鉄道車両は、
前記台車上に配置されて前記車体を支持する左右一対の空気ばねと、
前記空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、を備え、
前記車体傾斜方法は、
前記曲線路ごとに前記給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する記憶ステップと、
前記曲線路ごとに、前記格納された制御モードのうちの1つを設定する設定ステップと、
前記曲線路ごとに、前記設定された制御モードに応じた前記給排気系への動作信号を算出する算出ステップと、
前記曲線路ごとに、前記算出された動作信号を前記給排気系に送出する出力ステップと、を含む、車体傾斜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、車体とを備える。車体は、台車上に配置された左右一対の空気ばねを介して台車に支持されている。通常、鉄道車両が走行する路線は、多数の曲線路を有する。車両が曲線路を走行するとき、車両及び車体内の乗客は遠心力を受ける。このため、車両は車体傾斜装置を備える(例えば、特開平7-81558号公報(特許文献1)参照)。車体傾斜装置を備える車両が曲線路を走行する際、左右の各空気ばねに対して給排気が行われ、各空気ばねが伸縮する。各空気ばねの伸縮により、車体が台車に対して内軌側に傾斜し、乗客が感じる遠心力が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-81558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体傾斜装置を備える鉄道車両において、車体傾斜の動力は圧縮空気であり、この圧縮空気は、車両に搭載されたコンプレッサによって生成される。一般に、路線を運行する列車は、複数の車両から編成される。このような編成列車の場合、軌道設備への荷重の制限に伴う車両重量の制限、車両の床下スペースの制限などのため、コンプレッサは複数の車両で共用される。例えば、10両編成の列車の場合、コンプレッサの数は、5台程度が限界である。このため、車体傾斜装置は、無駄なく、適切に圧縮空気を消費することが必要となる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来の車体傾斜装置では、曲線路ごとに1つの制御モードが定められて永続的に使用される。そうすると、例えば圧縮空気を過度に消費している場合であっても、圧縮空気を必要以上に消費し続けなければならず、コンプレッサに過剰な負担がかかる。また、コンプレッサで生成された圧縮空気はブレーキなどにも兼用されるため、圧縮空気の消費は極力抑える必要がある。
【0006】
本開示の目的は、圧縮空気の消費を適切に行える、鉄道車両の車体傾斜装置及び車体傾斜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る車体傾斜装置は、鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる。当該車体傾斜装置は、台車上に配置されて車体を支持する左右に一対の空気ばねと、空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、給排気系による給排気の動作を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、記憶部と、設定部と、算出部と、出力部とを含む。記憶部は、曲線路ごとに給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する。設定部は、曲線路ごとに、格納された制御モードのうちの1つを設定する。算出部は、曲線路ごとに、設定された制御モードに応じた給排気系への動作信号を算出する。出力部は、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する。
【0008】
本開示に係る車体傾斜方法は、鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる。鉄道車両は、台車上に配置されて車体を支持する左右一対の空気ばねと、空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、を備える。当該車体傾斜方法は、記憶ステップと、設定ステップと、算出ステップと、出力ステップとを含む。記憶ステップは、曲線路ごとに給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する。設定ステップは、曲線路ごとに、格納された制御モードのうちの1つを設定する。算出ステップは、曲線路ごとに、設定された制御モードに応じた給排気系への動作信号を算出する。出力部は、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る車体傾斜装置によれば、圧縮空気の消費を適切に行える。また、本開示に係る車体傾斜方法によれば、圧縮空気の消費を適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る車体傾斜装置を備える鉄道車両を示す模式図である。
図2図2は、第2実施形態に係る車体傾斜装置を備える鉄道車両を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本開示はそれらの例示に限定されない。
【0012】
本実施形態に係る車体傾斜装置は、鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる。当該車体傾斜装置は、台車上に配置されて車体を支持する左右に一対の空気ばねと、空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、給排気系による給排気の動作を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、記憶部と、設定部と、算出部と、出力部とを含む。記憶部は、曲線路ごとに給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する。設定部は、曲線路ごとに、格納された制御モードのうちの1つを設定する。算出部は、曲線路ごとに、設定された制御モードに応じた給排気系への動作信号を算出する。出力部は、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する(第1の構成)。
【0013】
第1の構成では、制御装置が、記憶部と、設定部と、算出部と、出力部とを含む。記憶部には曲線路ごとに複数の制御モードが格納されており、設定部が、曲線路ごとに、その複数の制御モードのうちの1つを設定し、算出部が、曲線路ごとに、その設定された制御モードに応じた動作信号を算出し、出力部が、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する。これにより、各曲線路において、左右の各空気ばねに対して給排気が行われ、各空気ばねが伸縮して、車体が台車に対して傾斜する。ここで、圧縮空気が過度に消費されていれば、設定部において、記憶部に格納されている他の制御モードに設定することができる。すなわち、適切に圧縮空気を消費する制御モードに切り替えることができる。したがって、第1の構成の車体傾斜装置によれば、圧縮空気の消費を適切に行える。
【0014】
例えば、車体傾斜装置は、さらに、空気ばねの各々の高さを検出する空気ばね高さセンサと、車体の左右方向の振動加速度を検出する加速度センサと、空気ばねに供給する圧縮空気を蓄える空気溜めの圧力を検出する圧力センサとを備えることができる。車体傾斜装置は、圧力センサに加えて、又は圧力センサに代えて、各々の空気ばねで消費される空気消費量を検出する流量センサを備えることができる。この場合、制御装置の設定部は、曲線路ごとに、各センサから検出値を取得し、予め空気消費量が最大となる営業最高速度で走行試験した際に取得した検出値に基づいて、格納された制御モードのうちの1つを事前に設定すればよい。そうすると、各曲線路において、各センサの検出値に基づいて、制御モードを設定することができる。具体的には、各検出値に基づいて、乗客が感じる遠心力を許容範囲内に抑えつつ、圧縮空気の消費量を低減できるか否かを把握することができ、その結果、適切な制御モードに切り替えることができる。
【0015】
第1の構成の車体傾斜装置において、給排気系は、給気用電磁弁及び排気用電磁弁を含んでいてもよい。この場合、制御装置の出力部は、曲線路ごとに、給気用電磁弁及び排気用電磁弁の各々に、弁の開閉信号を送出する(第2の構成)。
【0016】
第2の構成の車体傾斜装置において、給排気系は、さらに、給気用流量比例弁及び排気用流量比例弁を含んでいることが好ましい。この場合、制御装置の出力部は、曲線路ごとに、さらに、給気用流量比例弁及び排気用流量比例弁の各々に、弁の開閉信号を送出する(第3の構成)。
【0017】
本実施形態に係る車体傾斜方法は、鉄道車両が路線中の曲線路の各々を走行するときに台車に対して車体を傾斜させる。鉄道車両は、台車上に配置されて車体を支持する左右一対の空気ばねと、空気ばねの各々に対して給排気を司る給排気系と、を備える。当該車体傾斜方法は、記憶ステップと、設定ステップと、算出ステップと、出力ステップとを含む。記憶ステップは、曲線路ごとに給排気系による給排気の動作に関する複数の制御モードを格納する。設定ステップは、曲線路ごとに、格納された制御モードのうちの1つを設定する。算出ステップは、曲線路ごとに、設定された制御モードに応じた給排気系への動作信号を算出する。出力部は、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する(第4の構成)。
【0018】
第4の構成では、車体傾斜方法が、記憶ステップと、設定ステップと、算出ステップと、出力ステップとを含む。記憶ステップにより、曲線路ごとに複数の制御モードを格納しており、設定ステップにより、曲線路ごとに、その複数の制御モードのうちの1つを設定し、算出ステップにより、曲線路ごとに、その設定された制御モードに応じた動作信号を算出し、出力ステップにより、曲線路ごとに、その算出された動作信号を給排気系に送出する。これにより、各曲線路において、左右の各空気ばねに対して給排気が行われ、各空気ばねが伸縮して、車体が台車に対して傾斜する。ここで、圧縮空気が過度に消費されていれば、設定ステップにおいて、記憶ステップで格納していた他の制御モードに設定することができる。すなわち、適切に圧縮空気を消費する制御モードに切り替えることができる。したがって、第4の構成の車体傾斜方法によれば、圧縮空気の消費を適切に行える。
【0019】
例えば、車体傾斜方法において、鉄道車両は、さらに、空気ばねの各々の高さを検出する空気ばね高さセンサと、車体の左右方向の振動加速度を検出する加速度センサと、空気ばねに供給する圧縮空気を蓄える空気溜めの圧力を検出する圧力センサとを備えることができる。車体傾斜方法において、鉄道車両は、圧力センサに加えて、又は圧力センサに代えて、各々の空気ばねで消費される空気消費量を検出する流量センサを備えることができる。この場合、設定ステップは、曲線路ごとに、各センサから検出値を取得し、予め空気消費量が最大となる営業最高速度で走行試験した際に取得した検出値に基づいて、格納された制御モードのうちの1つを事前に設定すればよい。そうすると、各曲線路において、各センサからの検出値に基づいて、制御モードを設定することができる。具体的には、各検出値に基づいて、乗客が感じる遠心力を許容範囲内に抑えつつ、圧縮空気の消費量を低減できるか否かを把握することができ、その結果、適切な制御モードに切り替えることができる。
【0020】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る車体傾斜装置を備える鉄道車両を示す模式図である。図1には、鉄道車両1を進行方向に沿って見たときの様子が示される。本明細書において、鉄道車両1の進行方向を前後方向と称し、鉄道車両1の幅方向を左右方向と称し、鉄道車両1の高さ方向を上下方向と称する場合がある。
【0022】
[鉄道車両1の基本構成]
図1を参照して、鉄道車両1は、台車2と、車体3とを備える。車体3の前と後にそれぞれ台車2が配置され、各台車2によって車体3が支持されている。具体的には、台車2は、前と後にそれぞれ輪軸4を備える。輪軸4の右と左にそれぞれ車輪4a,4aが設けられている。台車2は、右と左にそれぞれ空気ばね5,5を備える。空気ばね5,5は、台車2と車体3との間に配置され、車体3は、空気ばね5,5を介して台車2に支持されている。鉄道車両1はレールR、R上を走行する。レールR、Rは、多数の曲線路を含む路線を構成する。
【0023】
さらに、鉄道車両1は、車体傾斜装置8を備える。車体傾斜装置8は、制御装置9を備え、制御装置9により制御され、台車2に対して車体3を傾斜させる。車体傾斜装置8は給排気系18を備える。給排気系18は、空気ばね5,5の各々に対して給排気を司る。
【0024】
具体的には、給排気系18は、LV(レベリングバルブ)181,181と、角度センサ182,182と、給気用電磁弁183,183と、排気用電磁弁184,184と、切替弁185,185とを含む。さらに、給排気系18は、空気溜め6と、空気溜め6と各空気ばね5,5とをつなぐ配管とを含む。この配管は、第1配管7a,7a、第2配管7b,7b、及び第3配管7c,7cで構成される。第1配管7a,7a及び第2配管7b,7bの各々は、一方の端が空気溜め6に接続され、他方の端が合流している。その合流点に第3配管7c,7cの一方の端が接続され、第3配管7c,7cの他方の端は空気ばね5,5に接続されている。
【0025】
空気溜め6には、コンプレッサ(図示略)が接続されている。コンプレッサで生成された圧縮空気が空気溜め6に蓄えられる。コンプレッサは、隣の車両に搭載されている場合もある。空気溜め6には、圧力センサ186が接続されている。圧力センサ186によって空気溜め6の圧力を検出することができる。ただし、空気溜め6は車両(号車)間で太い配管で接続されているため、全車両(号車)に圧力センサ186があるとは限らない。
【0026】
LV181,181は、第1配管7a,7aの経路中に設けられている。LV181,181は、車体3の右と左にそれぞれ配置され、車体3に取り付けられている。LV181,181は、回転軸181a,181aを有する。回転軸181a,181aの一端に、レバー181b,181bが固定されている。回転軸181a,181aの他端に、角度センサ182,182が配置されている。角度センサ182,182は、回転軸181a,181aの回転角を検出する。角度センサ182,182として、例えば、レゾルバを用いることができる。
【0027】
レバー181b,181bは前後方向に延びており、その回転軸181a,181aと反対側の端に、連接棒181c,181cが接続されている。連接棒181c,181cは上下方向に延びており、その下端は台車2に接続されている。レバー181b,181b及び連接棒181c,181cによって、リンク機構が形成される。台車2に対して車体3が上下方向に移動することにより、連接棒181c,181cが上下方向に移動し、これに伴って、レバー181b,181bが回転軸181a,181aまわりに回転(回動)する。その回転軸181a,181aの回転角が角度センサ182,182によって検出される。
【0028】
第1配管7a,7a、第2配管7b,7b、及び第3配管7c,7cの合流点には、切替弁185,185が設けられている。切替弁185,185は、例えば三方弁である。切替弁185,185によって、空気溜め6から空気ばね5,5への経路を第1配管7a,7aの経路と第2配管7b,7bの経路とに切り替えることができる。第2配管7b,7bの経路中には、給気用電磁弁183,183、及び流量センサ187,187が設けられている。空気ばね5,5には、排気用電磁弁184,184が設けられている。給気用電磁弁183,183の開閉により、空気溜め6から空気ばね5,5への圧縮空気の供給量が調整される。排気用電磁弁184,184が開かれることにより、空気ばね5,5から圧縮空気が排出される。切替弁185,185により、LV181,181による空気ばねの給排気とするか、傾斜装置の指令による給気用電磁弁183及び排気用電磁弁184による空気ばねの給排気とするか、を切り替えることができる。要するに、給気用電磁弁183,183及び排気用電磁弁184,184は、空気ばね5,5に対して圧縮空気の給排気量を調節する電磁弁として機能する。
【0029】
空気ばね5,5に圧縮空気が供給されると、空気ばね5,5が伸長し、空気ばね5,5の高さが増加する。空気ばね5,5の高さの増加により、台車2に対して車体3が上昇する。一方、空気ばね5,5から圧縮空気が排出されると、空気ばね5,5が収縮し、空気ばね5,5の高さが減少する。空気ばね5,5の高さの減少により、台車2に対して車体3が下降する。空気ばね5,5の高さの変動、つまり台車2に対する車体3の上下方向の移動は、上述した通り、給排気系18における回転軸181a,181aの回転角として現れる。このため、給排気系18における角度センサ182,182は、空気ばね5,5の各々の高さを検出する空気ばね高さセンサとして機能する。すなわち、角度センサ182,182は、空気ばね高さセンサである。角度センサ182,182の検出値により、左右の各空気ばね5,5の高さを算定することができ、算定した空気ばね5,5の高さにより、台車2に対する車体3の傾斜角を導出することができる。
【0030】
本実施形態では、鉄道車両1は、加速度センサ188を含む。加速度センサ188は、車体3の台車2に近い部分に取り付けられている。加速度センサ188は、車体3に生じた左右方向の振動の加速度を検出する。鉄道車両1が曲線路を走行しているとき、加速度センサ188の検出値により、車両1及び車体3内の乗客が受ける遠心力の度合いを把握することができる。
【0031】
制御装置9は、各種の処理を実行するプログラムがインストールされたコンピュータである。制御装置9は、角度センサ182,182、給気用電磁弁183,183、排気用電磁弁184,184、切替弁185,185、及び加速度センサ188とそれぞれ導線で接続されている。制御装置9は、記憶部19Aと、設定部19Bと、算出部19Cと、出力部19Dとを含む。
【0032】
記憶部19Aには、曲線路ごとに給排気系18による給排気の動作に関する複数の制御モードが格納されている。つまり、曲線路ごとに、複数の制御モードが割り当てられている。制御モードは、例えば、台車2に対する車体3の目標傾斜角を含む。この場合、複数の目標傾斜角は、1.0°、1.5°、及び2.0°とすることができる。さらに、制御モードは、例えば、振動周波数に基づく制御データを含む。この場合、複数の制御データは、例えば0.5Hzのローリング振動を低減するのが得意な制御データ、0.7Hzのローリング振動を低減するのが得意な制御データ、及び1.0Hzの上下動振動を低減するのが得意な制御データなどとすることができる。目標傾斜角が大きくなるにつれて、空気ばね5,5に対する圧縮空気の消費量が増す。記憶部19Aには、さらに、各曲線路の特性データが格納されている。曲線路の特性データには、曲線路の曲率半径、カント、及び地点情報が含まれる。
【0033】
設定部19Bは、曲線路ごとに、記憶部19Aに格納されている複数の制御モードのうちの1つを選択し、その制御モードを給排気系18の動作に使用する制御モードとして設定する。具体的には、設定部19Bは、曲線路ごとに、目標傾斜角と制御データを設定する。例えば、ある曲線路では、1.5°の目標傾斜角で0.7Hzのローリング振動を低減する制御データが設定され、これとは別の曲線路では、2.0°の目標傾斜角で0.5Hzのローリング振動を低減する制御データが設定される。目標傾斜角は、各曲線路の特性データに基づいて設定される。例えば、曲線路の曲率半径が大きくなるにつれて、目標傾斜角が小さく設定される。狙いとする周波数及び振動モードは、制御していないときの走行試験の振動加速度波形などから解析して、決定される。
【0034】
算出部19Cは、曲線路ごとに、設定部19Bで設定された制御モードに応じた給排気系18への動作信号を算出する。具体的には、算出部19Cは、曲線路ごとに、台車2に対する車体3の傾斜角が目標傾斜角となるような給排気系18への動作信号を算出する。
【0035】
出力部19Dは、曲線路ごとに、算出部19Cで算出された動作信号を給排気系18に送出する。具体的には、出力部19Dは、曲線路ごとに、各空気ばね5,5に対する給排気に必要な弁の開閉信号を給気用電磁弁183,183、及び排気用電磁弁184,184に送出する。このような制御データの設計には、H∞制御理論を用いることができる。
【0036】
制御装置9の出力部19Dから送出された動作信号に基づき、切替弁185,185により第1配管7a,7aの経路が遮断されてLV181,181の給排気は停止される。これにより、第2配管7b,7bの経路が開通し、給排気系18が作動する。鉄道車両1が曲線路を走行する際、給排気系18の作動により、給気用電磁弁183,183、又は排気用電磁弁184,184が開閉されると、空気ばね5,5に圧縮空気が供給され、又は空気ばね5,5から圧縮空気が排出される。すなわち、空気ばね5,5の高さが増加し、又は空気ばね5,5の高さが減少する。これにより、台車2に対して車体3が上下方向に移動し、連接棒181c,181c及びレバー181b,181bを介してLV181,181の回転軸181a,181aが回転(回動)する。その回転軸181a,181aの回転角が角度センサ182,182によって検出される。
【0037】
角度センサ182,182で検出された回転角は、制御装置9の算出部19Cに送られる。算出部19Cは、角度センサ182,182から取得した回転角に応じて、給気用電磁弁183,183、及び排気用電磁弁184,184に必要な弁の開閉信号を再度算出する。出力部19Dは、再度算出された信号を給排気系18に送出する。このように、角度センサ182,182で検出された回転角に基づいて、給気用電磁弁183,183、及び排気用電磁弁184,184の開閉が調整される。これにより、各曲線路において、左右の各空気ばね5,5に対して給排気が行われ、各空気ばね5,5が伸縮して、車体3が台車2に対して内軌側に傾斜し、車体3の傾斜角が目標傾斜角となる。
【0038】
本実施形態では、鉄道車両1が曲線路を走行する期間において、加速度センサ188の検出値が制御装置9の記憶部19Aに格納される。また、角度センサ182,182の検出値も記憶部19Aに格納される。角度センサ182,182の検出値は、空気ばね5,5の高さに相当する。
【0039】
上述の通り、鉄道車両1が曲線路を走行しているとき、加速度センサ188の検出値により、車体3に生じた左右方向の振動の加速度に基づき、車両1及び車体3内の乗客が受ける遠心力の度合いを把握することができる。具体的には、鉄道車両1が曲線路を走行する期間において、加速度センサ188で検出される振動加速度が大きく変動する場合、乗客にとって不快に感じる遠心力が作用していると認識することができ、その振動加速度の変動が小さい場合、乗客にとって許容される遠心力が作用していると認識することができる。また、鉄道車両1が曲線路を走行しているとき、角度センサ182,182の検出値により、空気ばね5,5の高さに基づき、車体3の傾斜角を把握することができる。
【0040】
例えば、営業前の走行試験において、営業最高速度で走行し、車体傾斜装置8の挙動をしらべ、圧力センサ186の検出値により、圧力が大きく減じられていれば圧縮空気の消費量が多いことがわかる。あるいは、流量センサ187,187の検出値により、直接的に圧縮空気の消費量を測定することができる。
【0041】
したがって、鉄道車両1が曲線路を走行した後、曲線路ごとに、角度センサ182,182及び加速度センサ188の各々の検出値に基づいて、乗客が感じる遠心力を許容範囲内に抑えつつ、圧縮空気の消費量を低減できるか否かを把握することができる。各検出値により、ある曲線路において、乗客が感じる遠心力が許容範囲内であって、圧縮空気が過度に消費されている場合、制御装置9の設定部19Bは、現在の制御モードを、記憶部19Aに格納されている他の制御モードに設定する。例えば、設定部19Bは、1.5°の目標傾斜角で0.7Hzのローリング振動を低減する制御データが設定されていた制御モードを、1.5°の目標傾斜角で0.5Hzのローリング振動を低減する制御データの制御モードに設定する。これにより、次回の走行時に、圧縮空気の消費量が低減される。すなわち、適切に圧縮空気を消費する制御モードに切り替えることができる。なお、制御モードの設定は、設定部19Bにおいてプログラムによって自動で行われる。ただし、手入力により制御モードを設定してもよい。
【0042】
[効果]
本実施形態では、制御装置9が、記憶部19Aと、設定部19Bと、算出部19Cと、出力部19Dとを含む。記憶部19Aには曲線路ごとに複数の制御モードが格納されており、設定部19Bが、曲線路ごとに、その複数の制御モードのうちの1つを設定する。そして、算出部19Cが、曲線路ごとに、その設定された制御モードに応じた動作信号を算出し、出力部19Dが、曲線路ごとに、算出された動作信号を給排気系に送出する。これにより、各曲線路において、左右の各空気ばね5,5に対して給排気が行われ、各空気ばね5,5が伸縮して、車体3が台車2に対して傾斜する。ここで、圧縮空気が過度に消費されていれば、設定部19Bにおいて、記憶部19Aに格納されている他の制御モードに設定することができる。すなわち、適切に圧縮空気を消費する制御モードに切り替えることができる。したがって、本実施形態によれば、圧縮空気の消費を適切に行える。
【0043】
本実施形態では、圧縮空気の消費を適切に行えるため、コンプレッサを追加する必要はない。そのため、車両が重くならず、現状の軸重を維持することができる。その結果、現状の軌道設備をそのまま使用することができる。
【0044】
<第2実施形態>
図2を参照して、第2実施形態に係る車体傾斜装置8Aについて説明する。図2は、第2実施形態に係る車体傾斜装置8Aを備える鉄道車両1を示す模式図である。車体傾斜装置8Aは、給排気系18Aの構成において、第1実施形態に係る車体傾斜装置8と異なる。
【0045】
図2を参照して、給排気系18Aは、さらに、給気用流量比例弁183A,183Aと、排気用流量比例弁184A,184Aとを含む。給気用流量比例弁183A,183Aは、第2配管7b,7bの経路中に設けられている。給気用流量比例弁183A,183Aの開閉度合いにより、空気溜め6から空気ばね5,5への圧縮空気の供給量を微調整することができ、また、圧縮空気の流通を止めることもできる。排気用流量比例弁184A,184Aは、排気用電磁弁184,184と空気ばね5,5との間の経路中に設けられている。排気用流量比例弁184A,184Aの開閉度合いにより、空気ばね5,5からの圧縮空気の排出量を微調整することができ、また、圧縮空気の流通を止めることもできる。
【0046】
給気用流量比例弁183A,183A、及び排気用流量比例弁184A,184Aは、制御装置9と導線で接続されている。鉄道車両1が曲線路を走行するとき、制御装置9の出力部19Dは、曲線路ごとに、給気用電磁弁183,183、給気用流量比例弁183A,183A、排気用電磁弁184,184、排気用流量比例弁184A,184A、及び切替弁185,185に弁の開閉信号を送出する。これにより、各曲線路において、左右の各空気ばね5,5に対して給排気が適切に行われる。
【0047】
以上、本開示に係る実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:鉄道車両
2:台車
3:車体
5:空気ばね
6:空気溜め
8,8A:車体傾斜装置
18,18A:給排気系
181:LV(レベリングバルブ)
182:角度センサ(空気ばね高さセンサ)
183:給気用電磁弁
184:排気用電磁弁
183A:給気用流量比例弁
184A:排気用流量比例弁
185:切替弁
186:圧力センサ
187:流量センサ
188:加速度センサ
9:制御装置
19A:記憶部
19B:設定部
19C:算出部
19D:出力部
図1
図2