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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131031
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】Cr含有鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240920BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041047
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】浦島 裕史
(72)【発明者】
【氏名】田所 裕
(72)【発明者】
【氏名】志村 保美
(57)【要約】
【課題】環境配慮型コンクリートの内部に使用可能な耐食性を有するCr含有鋼材を提供する。
【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.001~0.15%、Si:0.10~2.00%、Al:2.00%以下、Mn:0.10~2.00%、P:0.040%以下、S:0.050%以下、N:0.001~0.10%、W:0.001~1.00%、Cr:9.0~25.0%、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、[-2.5≦0.2Cr+20N-0.7W-0.6Mo-3.7≦2.6]を満足する、フェライト相とマルテンサイトとを含むCr含有鋼材。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.15%、
Si:0.10~2.00%、
Al:2.00%以下、
Mn:0.10~2.00%、
P:0.040%以下、
S:0.050%以下、
N:0.001~0.10%、
W:0.001~1.00%、
Cr:9.0~25.0%、
V:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
Cu:0~1.00%、
Sn:0~0.20%、
Ca:0~0.005%、
B:0~0.01%、
Mg:0~0.10%、
Zr:0~0.10%、
Co:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足する、フェライト相とマルテンサイトとを含むCr含有鋼材。
-2.5≦0.2Cr+20N-0.7W-0.6Mo-3.7≦2.6 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はCr含有鋼材に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
V:0.01~0.30%、
Ni:0.01~1.00%、
Mo:0.01~0.50%、
Cu:0.01~1.00%、
Sn:0.001~0.20%、
Ca:0.0001~0.005%、
B:0.0001~0.01%、
Mg:0.001~0.10%、
Zr:0.001~0.10%、
Co:0.001~0.10%、および
REM:0.001~0.10%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のCr含有鋼材。
【請求項3】
環境配慮型コンクリートの内部の鋼材に用いられる、請求項1に記載のCr含有鋼材。
【請求項4】
環境配慮型コンクリートの内部の鋼材に用いられる、請求項2に記載のCr含有鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr含有鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
Cr含有鋼材、例えば、ステンレス鋼材等は、耐食性に優れることから、コンクリート構造物の内部に設置される鉄筋等に使用されている。鉄筋用の鋼は、コンクリート構造物内の腐食環境にも適応しうる耐食性が求められている。例えば、特許文献1には、耐食性を向上させた鉄筋用のクロム系ステンレス鋼材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-209804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、カーボンニュートラルの観点から、CO排出量を低減する試みが行われている。その一つとして、環境配慮型コンクリートの使用がある。環境配慮型コンクリートには、発電プラント等から排出される石炭灰や高炉スラグ微粉末を、原料の一部に使用することで製造され、コンクリート製造に伴うセメント使用量を削減し、CO排出量を低減するものがある。さらに、炭酸化処理をした廃コンクリートなど炭酸塩の形でCOを含有し、材料を骨材や細骨材として使用するもの、コンクリートの製造過程でCOを吸収させ炭酸塩を形成させるなどの方法でCOを固定化し、全体のCO排出量を低減するものなどがある。
【0005】
したがって、いずれの環境配慮型コンクリートも通常のコンクリートと比較して炭酸塩化していない金属(以後、未反応金属)の割合が少ない。未反応金属が大気中のCOと反応し、炭酸塩化してしまうと急激に酸性度が高まるが、環境配慮型コンクリートの場合、その期間は短くなり、内部は早期に腐食が進みやすい環境となる。しかしながら、特許文献1に開示された鋼材は、環境配慮型コンクリートのように、酸性度が高いコンクリート内部での腐食を検討していない。このため、環境配慮型コンクリートの内部に使用可能な耐食性を有するCr含有鋼材が求められている。
【0006】
以上を踏まえ、本発明は、環境配慮型コンクリートの内部に使用可能な耐食性を有するCr含有鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のCr含有鋼材を要旨とする。
【0008】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.15%、
Si:0.10~2.00%、
Al:2.00%以下、
Mn:0.10~2.00%、
P:0.040%以下、
S:0.050%以下、
N:0.001~0.10%、
W:0.001~1.00%、
Cr:9.0~25.0%、
V:0~0.30%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
Cu:0~1.00%、
Sn:0~0.20%、
Ca:0~0.005%、
B:0~0.01%、
Mg:0~0.10%、
Zr:0~0.10%、
Co:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足する、フェライト相とマルテンサイトとを含むCr含有鋼材。
-2.5≦0.2Cr+20N-0.7W-0.6Mo-3.7≦2.6 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はCr含有鋼材に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【0009】
(2)前記化学組成が、質量%で、
V:0.01~0.30%、
Ni:0.01~1.00%、
Mo:0.01~0.50%、
Cu:0.01~1.00%、
Sn:0.001~0.20%、
Ca:0.0001~0.005%、
B:0.0001~0.01%、
Mg:0.001~0.10%、
Zr:0.001~0.10%、
Co:0.001~0.10%、および
REM:0.001~0.10%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のCr含有鋼材。
【0010】
(3)環境配慮型コンクリートの内部の鋼材に用いられる、上記(1)に記載のCr含有鋼材。
【0011】
(4)環境配慮型コンクリートの内部の鋼材に用いられる、上記(2)に記載のCr含有鋼材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境配慮型コンクリートの内部に使用可能な耐食性を有するCr含有鋼材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、環境配慮型コンクリートの内部に使用可能なCr含有鋼材について検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0014】
(a)環境配慮型コンクリートの場合、未反応金属の割合が少ないため使用初期においても、使用環境における酸性度が高く、経年変化において、急激に酸性度が高まっていく。このため、環境配慮型コンクリート内部の腐食環境に適応した鋼材を開発する必要がある。
【0015】
(b)そして、本発明者らは、Wを一定量、含有させることが有効であることを明らかにした。Wは、不働態皮膜に効果的に作用し、環境配慮型コンクリートでの使用においても、耐食性を高めると考えられる。
【0016】
(c)また、Wの含有量を制御するだけでなく、Cr、N、Mo等の含有量のバランスも適切な範囲に制御することが有効であることを明らかにした。これらの元素は、相互に影響を及ぼし合って、不働態皮膜をより強固にしていくからである。
【0017】
本発明のCr含有鋼材の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態のCr含有鋼材の各要件について詳しく説明する。
【0018】
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0019】
C:0.001~0.15%
C(炭素)は、強度を向上させる元素である。このため、C含有量は、0.001%以上である。C含有量は、0.005%以上であるのが好ましく、0.010%以上であるのがより好ましく、0.015%以上であるのがさらに好ましい。しかしながら、Cが過剰に含有されると、耐食性が低下する。このため、C含有量は、0.15%以下である。C含有量は、0.10%以下であるのが好ましく、0.08%以下であるのがより好ましく、0.06%以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
Si:0.10~2.00%
Si(ケイ素)は、脱酸効果を有する元素である。また、耐食性を高める効果も有する。このため、Si含有量は、0.10%以上である。Si含有量は、0.12%以上であるのが好ましく、0.15%以上であるのがより好ましく、0.20%以上であるのがさらに好ましい。しかしながら、Siが過剰に含有されると、延性、靭性等の機械的特性が低下する。また、製造性も低下する。このため、Si含有量は、2.00%以下である。Si含有量は、1.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましく、0.80%以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
Al:2.00%以下
Al(アルミニウム)は、脱酸効果を有する元素である。また、耐食性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Alが過剰に含有されると、Alを含む介在物が過剰に形成し、製造性が低下する。このため、Al含有量は、2.00%以下である。Al含有量は、1.50%以下であるのが好ましく、1.00%以下であるのがより好ましく、0.50%以下であるのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.002%以上であるのが好ましく、0.003%以上であるのがより好ましく、0.005%以上であるのがさらに好ましい。
【0022】
Mn:0.10~2.00%
Mn(マンガン)は、強度を高める効果を有する。また、耐食性を高める効果も有する。このため、Mn含有量は、0.10%以上である。Mn含有量は、0.15%以上であるのが好ましく、0.20%以上であるのがより好ましく、0.25%以上であるのがさらに好ましい。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、MnS等の介在物が過剰に形成し、却って、耐食性が低下する。このため、Mn含有量は、2.00%以下である。Mn含有量は、1.50%以下であるのが好ましく、1.25%以下であるのがより好ましく、1.00%以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
P:0.040%以下
P(リン)は、鋼材中に含有される不純物元素である。Pは、強度、靭性等の機械的特性を低下させる。このため、P含有量は、0.040%以下である。P含有量は、0.030%以下であるのが好ましい。P含有量は、極力低減するのが好ましいが、Pの過度な低減は、精錬コストを増加させる。このため、P含有量は、0.005%以上であるのが好ましい。
【0024】
S:0.050%以下
S(硫黄)は、鋼材中に含有される不純物元素である。Sは、耐食性を低下させる。このため、S含有量は、0.050%以下である。S含有量は、0.030%以下であるのが好ましい。S含有量は、極力低減するのが好ましいが、Sの過度な低減は、精錬コストを増加させる。このため、S含有量は、0.005%以上であるのが好ましい。
【0025】
N:0.001~0.10%
N(窒素)は、耐食性を高める効果を有する。このため、N含有量は、0.001%以上である。N含有量は、0.005%以上であるのが好ましい。しかしながら、Nが過剰に含有されると、耐食性が低下する他、靭性等の機械的特性も低下する。このため、N含有量は、0.10%以下である。N含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.06%以下であるのがより好ましく、0.04%以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
W:0.001~1.00%
W(タングステン)は、本実施形態のCr含有鋼材において、重要な元素であり、環境配慮型コンクリート内の使用環境で、耐食性を高める効果を有する。このため、W含有量は、0.001%以上である。しかしながら、Wが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する他、製造性も低下する。このため、W含有量は、1.00%以下である。W含有量は、0.30%以下であるのが好ましく、0.50%以下であるのが好ましく、0.70%以下であるのが好ましい。
【0027】
Cr:9.0~25.0%
Cr(クロム)は、耐食性を高める基本的な元素である。このため、Cr含有量は、9.0%以上である。Cr含有量は、10.5%以上であるのが好ましく、11.0%以上であるのがより好ましく、11.5%以上であるのがさらに好ましい。しかしながら、Crが過剰に含有されると、フェライト相が過剰に増加し、強度が低下する。また、製造性も低下する。このため、Cr含有量は、25.0%以下である。Cr含有量は、20.0%以下であるのが好ましく、18.0%以下であるのがより好ましく、15.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
上記の元素に加えて、さらにV、Ni、Mo、Cu、およびSnから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0029】
V:0~0.30%
V(バナジウム)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、製造コストも増加する。このため、V含有量は、0.30%以下である。V含有量は、0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0030】
Ni:0~1.00%
Ni(ニッケル)は、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、Niが過剰に含有されると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、1.00%以下である。Ni含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0031】
Mo:0~0.50%
Mo(モリブデン)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、製造コストも増加する。このため、Mo含有量は、0.50%以下である。Mo含有量は、0.40%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0032】
Cu:0~1.00%
Cu(銅)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、熱間加工性も低下する。また、製造コストも増加する。このため、Cu含有量は、1.00%以下である。Cu含有量は、0.50%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
【0033】
Sn:0~0.20%
Sn(スズ)は、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snが過剰に含有されると、加工性および製造性が低下する。このため、Sn含有量は、0.20%以下である。Sn含有量は、0.15%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.001%以上であるのが好ましく、0.01%以上であるのがより好ましい。
【0034】
上記の元素に加えて、さらにCa、B、Mg、Zr、CoおよびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
【0035】
Ca:0~0.005%
Ca(カルシウム)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、製造性も低下する。このため、Ca含有量は、0.005%以下である。Ca含有量は、0.004%以下であるのが好ましく、0.002%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上であるのが好ましい。
【0036】
B:0~0.01%
B(ボロン)は、窒化物の形成を促進させ、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、熱間加工性が低下し、製造性も低下する。このため、B含有量は、0.01%以下である。B含有量は、0.008%以下であるのが好ましく、0.006%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0001%以上であるのが好ましい。
【0037】
Mg:0~0.10%
Mg(マグネシウム)は、酸化物の形成を促進させることで、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、靭性等の機械的特性が低下する。また、製造性も低下する。このため、Mg含有量は、0.10%以下である。Mg含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.06%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0038】
Zr:0~0.10%
Zr(ジルコニウム)は、酸化物の形成を促進させ、耐食性を向上させる効果を有する。また、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、上記効果が飽和するばかりか、製造性が低下する。また、製造コストも増加する。このため、Zr含有量は、0.10%以下である。Zr含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.06%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0039】
Co:0~0.10%
Co(コバルト)は、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coが過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、製造性も低下する。このため、Co含有量は、0.10%以下である。Co含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.06%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0040】
REM:0~0.10%
REM(希土類元素)は、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、製造性も低下する。このため、REM含有量は、0.10%以下である。REM含有量は、0.08%以下であるのが好ましく、0.06%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上であるのが好ましい。
【0041】
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
【0042】
本実施形態のCr含有鋼材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、Cr含有鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0043】
(i)式
本実施形態のCr含有鋼材は、下記(i)式を満足する。
-2.5≦0.2Cr+20N-0.7W-0.6Mo-3.7≦2.6 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号はCr含有鋼材に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合は0とする。
【0044】
(i)式は、環境配慮型コンクリート内での腐食環境における耐食性の指標となる式である。(i)式に含まれる元素は、相互に不働態皮膜に影響を与える元素である。そして、(i)式中辺値である、0.2Cr+20N-0.7W-0.6Mo-3.7が、-2.5未満または2.6超であると、環境配慮型コンクリート内での腐食環境において、良好な耐食性を維持できない。このため、(i)式中辺値は、-2.5以上2.6以下である。
【0045】
2.組織
本実施形態のCr含有鋼材は、フェライト相とマルテンサイトとを含む金属組織を有し、これらが面積率で、70%以上含まれる組織である。フェライト相とマルテンサイトの合計の面積率は、90%以上であるのが好ましい。すなわち、フェライト-マルテンサイト系二相Cr含有鋼材であるのが好ましい。
【0046】
フェライトと、マルテンサイトのみの二相の組織であるのが最も好ましいが、通常、例えば、炭窒化物等フェライトとマルテンサイト以外が含まれる組織になることがある。フェライトとマルテンサイト以外の炭化物等が、面積率で5%以下であれば、特性に大きな影響を与えず、許容しうる。なお、フェライト相、マルテンサイトの面積率については、鋼材の断面をSEMで組織観察し、EBSDを用いた結晶構造解析等を行い、測定すればよい。
【0047】
3.用途
本実施形態のCr含有鋼材は、環境配慮型コンクリートの内部の鉄筋などの構造用部材、その他、コンクリートに接する部材に好適である。このため、本実施形態のCr含有鋼材の形状は、特に、限定されない。例えば、棒鋼、鋼線、鋼線材、鋼板、形鋼等がその一例として考えられる。
【0048】
4.製造方法
本実施形態のCr含有鋼材は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
【0049】
上記化学組成を有する鋼を溶製し、スラブ、ビレット等の鋼素材を製造する。なお、上記、鋼素材を製造する際の鋳造方法は、特に、限定されないが、例えば、連続鋳造法などでもよい。得られた鋼素材に、熱間加工を行う。熱間加工方法も、特に、限定されない。熱間加工方法として、例えば、熱間鍛造、熱間押出、熱間圧延等がある。熱間加工を行い、所望する形状、例えば、鋼板、棒鋼、線材等にすればよい。なお、熱間加工の条件は、特に、限定されない。適宜、必要に応じて、調整すればよい。
【0050】
熱間加工後、必要に応じて、冷間加工を行ってもよい。冷間加工方法は、特に、限定されない。熱間加工方法として、例えば、引抜き加工、冷間圧延等がある。熱間加工後、または冷間加工後、必要に応じて、熱処理、酸洗等をおこなってもよい。これらの製造条件も、特に、限定されず、適宜、調整すればよい。
【0051】
以下、実施例によって本発明に係るCr含有鋼材をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0052】
表1に示す化学組成を有する鋼を、電気炉真空溶解法によって溶解、鋳造し、ビレットを製造した。
【0053】
得られたビレットの表面を5mm研削した後、1200℃、1hの加熱を行い、熱間圧延した。熱間圧延により、公称直径13mmの異形棒鋼(Cr含有鋼材)を製造した。ただし、異形棒鋼の形状は、特に、限定されず、適宜、調整すればよい。
【0054】
得られた異形棒鋼について、ショットブラストと弗酸と硝酸の混合酸による脱スケール処理(酸洗)を行った。その後、SEM、EBSD等を用い、組織の観察を行ったところ、実施例の全ての例は、合計の面積率で、70%以上であり、フェライト相とマルテンサイト以外の組織が面積率で、5%以下であった。すなわち、フェライト相とマルテンサイトとを含む、フェライト-マルテンサイト系二相鋼であった。得られた異形棒鋼から5mm長さの試験片を採取し、耐食性を調査した。
【0055】
(耐食性評価)
環境配慮型コンクリートで使用される使用環境を模擬し、試験液は、飽和CaCOを、72時間以上空気を通気した後に、NaClを添加し、塩化物イオン濃度が0.3mol/Lになるようにした溶液とした。この試験液を用い、JIS G 0577:2014に準拠し、孔食電位を測定した。各棒鋼について、3回の試験の行い、その平均孔食電位が0.1V(vs.SSE)以上であれば環境配慮型コンクリートの使用環境でも良好な耐食性を有すると判断し、○と記載し、0.1V未満であれば、耐食性が不良であると判断し、×と記載した。以下、結果を纏めて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
本実施形態の要件を満足するNo.1~47は、良好な特性を示す一方、本実施形態の要件を満足しないNo.A~Kは、特性が不良であった。