(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131052
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】蛍光体素子、波長変換装置、照明装置およびプロジェクター
(51)【国際特許分類】
G03B 21/14 20060101AFI20240920BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240920BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20240920BHJP
F21V 9/32 20180101ALI20240920BHJP
F21V 7/26 20180101ALI20240920BHJP
F21V 7/28 20180101ALI20240920BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20240920BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20240920BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240920BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240920BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240920BHJP
【FI】
G03B21/14 A
G02B5/20
G03B21/00 E
F21V9/32
F21V7/26
F21V7/28 220
F21S2/00 340
F21S2/00 390
C09K11/02 Z
C09K11/64
C09K11/80
F21Y115:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041076
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(72)【発明者】
【氏名】加納 顕悟
(72)【発明者】
【氏名】戸田 壮馬
【テーマコード(参考)】
2H148
2K203
4H001
【Fターム(参考)】
2H148AA00
2H148AA05
2H148AA07
2H148AA19
2K203FA03
2K203FA23
2K203FA34
2K203FA44
2K203FA45
2K203FA54
2K203FA62
2K203GA35
2K203GA40
2K203HA08
2K203HA27
2K203HB22
2K203HB25
2K203HB26
2K203MA04
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA31
4H001XA39
4H001XA64
4H001XA65
4H001XA71
4H001YA58
(57)【要約】
【課題】蛍光の取り出し効率を向上できる、蛍光体素子、波長変換装置、照明装置およびプロジェクターを提供する。
【解決手段】本発明の蛍光体素子は、ガーネット構造を有するA
3B
5O
12:Ceにより構成された蛍光体相と、蛍光体相の屈折率よりも高い屈折率を有するマトリックス相と、を備え、蛍光体相の含有量は、マトリックス相および蛍光体相を含む全体に対する体積比で、56vol%以上70vol%以下である。ただし、AはLu、Gd、Tb、GaおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、BはAlである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガーネット構造を有するA3B5O12:Ceにより構成された蛍光体相と、
前記蛍光体相の屈折率よりも高い屈折率を有するマトリックス相と、を備え、
前記蛍光体相の含有量は、前記マトリックス相および前記蛍光体相を含む全体に対する体積比で、56vol%以上70vol%以下である、
ことを特徴とする蛍光体素子。
ただし、AはLu、Gd、Tb、GaおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、BはAlである。
【請求項2】
AはYである、
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体素子。
【請求項3】
前記マトリックス相は、AlNである、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光体素子。
【請求項4】
前記蛍光体相の平均粒径は3μm以上である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光体素子。
【請求項5】
基板と、
前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、請求項1に記載の蛍光体素子と、
前記蛍光体素子の光入射側とは反対側に設けられた反射層と、を備える、
ことを特徴とする波長変換装置。
【請求項6】
基板と、
前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、請求項1に記載の蛍光体素子と、
前記蛍光体素子の光入射側に設けられ、前記励起光を透過し前記蛍光を反射する光学層と、を備える、
ことを特徴とする波長変換装置。
【請求項7】
前記励起光を射出する光源と、
前記励起光が入射する、請求項5または請求項6に記載の波長変換装置と、を備える、
ことを特徴とする照明装置。
【請求項8】
請求項7に記載の照明装置と、
前記照明装置から射出された光を変調する光変調装置と、
前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学装置と、を備える、
ことを特徴とするプロジェクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体素子、波長変換装置、照明装置およびプロジェクターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクター用の光源に使用される波長変換部材としてセラミック複合体が用いられる。下記特許文献1には、Al2O3、MgAl2O4、MgO等の透光性セラミックスからなるマトリックス相と、Ceを含有するYAGからなる蛍光体相とを有する無機材料で構成されたセラミックス複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたセラミックス複合体では、高熱伝導フィラーを混合させて焼結することで熱伝導率を向上させているものの、蛍光の取り出し効率を十分に向上させることが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の1つの態様によれば、ガーネット構造を有するA3B5O12:Ceにより構成された蛍光体相と、前記蛍光体相の屈折率よりも高い屈折率を有するマトリックス相と、を備え、前記蛍光体相の含有量は、前記マトリックス相および前記蛍光体相を含む全体に対する体積比で、56vol%以上70vol%以下である、蛍光体素子が提供される。ただし、AはLu、Gd、Tb、GaおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、BはAlである。
【0006】
また、本発明の別の態様によれば、基板と、前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、上記態様の蛍光体素子と、前記蛍光体素子の光入射側とは反対側に設けられ、前記励起光および前記蛍光を反射する反射層と、を備える、波長変換装置が提供される。
【0007】
また、本発明の別の態様によれば、基板と、前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、上記態様の蛍光体素子と、前記蛍光体素子の光入射側に設けられ、前記励起光を透過し前記蛍光を反射する光学層と、を備える、波長変換装置が提供される。
【0008】
また、本発明の別の態様によれば、励起光を射出する光源と、前記励起光が入射する、上記態様の波長変換装置と、を備える、照明装置が提供される。
【0009】
また、本発明の別の態様によれば、上記態様の照明装置と、前記照明装置から射出された光を変調する光変調装置と、前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学装置と、を備える、プロジェクターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態のプロジェクターを示す概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の照明装置を示す概略構成図である。
【
図5】蛍光体素子における発光スペクトルを示す図である。
【
図6】第2実施形態の照明装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態のプロジェクターを示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のプロジェクター1は、スクリーンSCR上に映像を表示する投射型画像表示装置である。プロジェクター1は、照明装置2と、色分離光学系3と、光変調装置4Rと、光変調装置4Gと、光変調装置4Bと、合成光学系5と、投射光学装置6と、を備える。
【0013】
照明装置2は、色分離光学系3に向けて白色の照明光WLを射出する。照明装置2の構成については、後で詳しく説明する。
【0014】
色分離光学系3は、照明装置2から射出された照明光WLを、赤色光LRと、緑色光LGと、青色光LBとに分離する。色分離光学系3は、第1ダイクロイックミラー7aと、第2ダイクロイックミラー7bと、第1全反射ミラー8aと、第2全反射ミラー8bと、第3全反射ミラー8cと、第1リレーレンズ9aと、第2リレーレンズ9bと、を備えている。
【0015】
第1ダイクロイックミラー7aは、照明装置2からの照明光WLを、赤色光LRと、緑色光LGおよび青色光LBを含む光と、に分離する。第1ダイクロイックミラー7aは、赤色光LRを透過するとともに、緑色光LGおよび青色光LBを含む光を反射する。一方、第2ダイクロイックミラー7bは、緑色光LGを反射するとともに、青色光LBを透過する。これにより、第2ダイクロイックミラー7bは、緑色光LGと青色光LBとを含む光を緑色光LGと青色光LBとに分離する。
【0016】
第1全反射ミラー8aは、赤色光LRの光路中に配置され、第1ダイクロイックミラー7aを透過した赤色光LRを光変調装置4Rに向けて反射する。一方、第2全反射ミラー8bおよび第3全反射ミラー8cは、青色光LBの光路中に配置され、第2ダイクロイックミラー7bを透過した青色光LBを光変調装置4Bに導く。緑色光LGは、第2ダイクロイックミラー7bから光変調装置4Gに向けて反射される。
【0017】
第1リレーレンズ9aは、青色光LBの光路中における第2ダイクロイックミラー7bおよび第2全反射ミラー8bの間に配置されている。第2リレーレンズ9bは、青色光LBの光路中における第2全反射ミラー8bおよび第3全反射ミラー8cの間に配置されている。第1リレーレンズ9aおよび第2リレーレンズ9bは、青色光LBの光路長が赤色光LRや緑色光LGの光路長よりも長くなることに起因した青色光LBの光損失を補償する。
【0018】
光変調装置4Rは、赤色光LRを画像情報に応じて変調し、赤色光LRに対応した画像光を形成する。光変調装置4Gは、緑色光LGを画像情報に応じて変調し、緑色光LGに対応した画像光を形成する。光変調装置4Bは、青色光LBを画像情報に応じて変調し、青色光LBに対応した画像光を形成する。
【0019】
光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bのそれぞれには、例えば透過型の液晶パネルが用いられている。また、液晶パネルの入射側および射出側のそれぞれには、図示しない偏光板が配置されている。
【0020】
光変調装置4Rの入射側には、フィールドレンズ10Rが配置されている。フィールドレンズ10Rは、光変調装置4Rに入射する赤色光LRを平行化する。光変調装置4Gの入射側には、フィールドレンズ10Gが配置されている。フィールドレンズ10Gは、光変調装置4Gに入射する緑色光LGを平行化する。光変調装置4Bの入射側には、フィールドレンズ10Bが配置されている。フィールドレンズ10Bは、光変調装置4Bに入射する青色光LBを平行化する。
【0021】
合成光学系5には、光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bから射出される画像光が入射する。合成光学系5は、赤色光LR、緑色光LG、および青色光LBのそれぞれに対応する画像光を合成し、合成された画像光を投射光学装置6に向けて射出する。合成光学系5には、例えばクロスダイクロイックプリズムが用いられている。
【0022】
投射光学装置6は、複数の投射レンズを有する。投射光学装置6は、合成光学系5により合成された画像光をスクリーンSCRに向けて拡大投射する。これにより、スクリーンSCR上には、拡大された映像が表示される。
【0023】
以下、照明装置2の構成について説明する。
図2は、本実施形態の照明装置2を示す概略構成図である。
図2に示すように、照明装置2は、第1光源40と、コリメート光学系41と、ダイクロイックミラー42と、第1集光光学系43と、波長変換装置50と、第2光源44と、第2集光光学系45と、拡散板46と、コリメート光学系47と、を備える。
【0024】
第1光源40は、レーザー光からなる青色の励起光Eを射出する複数の半導体レーザー40aで構成されている。励起光Eの発光強度のピークは、例えば445nmである。複数の半導体レーザー40aは、第1光源40の光軸axと直交する一つの平面内においてアレイ状に配置されている。なお、半導体レーザー40aとしては、445nm以外の波長、例えば455nmや460nmの青色光を射出する半導体レーザーを用いることもできる。第1光源40の光軸axは、照明装置2の照明光軸100axと直交する。
本実施形態の第1光源40は、特許請求の範囲の「光源」に対応する。
【0025】
コリメート光学系41は、第1レンズ41aと、第2レンズ41bと、を備える。コリメート光学系41は、第1光源40から射出された光を略平行化する。第1レンズ41aおよび第2レンズ41bのそれぞれは、凸レンズで構成されている。
【0026】
ダイクロイックミラー42は、コリメート光学系41から第1集光光学系43までの間の光路中に、第1光源40の光軸axと照明光軸100axとのそれぞれに対して45°の角度で交差する向きに配置されている。ダイクロイックミラー42は、青色光成分を反射させ、赤色光成分および緑色光成分を透過させる。したがって、ダイクロイックミラー42は、励起光Eおよび青色光Bを反射させ、黄色の蛍光Yを透過させる。
【0027】
第1集光光学系43は、ダイクロイックミラー42を透過した励起光Eを集光させて波長変換装置50に入射させる一方、波長変換装置50から射出された蛍光Yを略平行化する。第1集光光学系43は、第1レンズ43aと、第2レンズ43bと、を備える。第1レンズ43aおよび第2レンズ43bのそれぞれは、凸レンズで構成されている。
【0028】
第2光源44は、第1光源40の波長帯と同一の波長帯を有する半導体レーザーから構成されている。第2光源44は、1つの半導体レーザーで構成されていてもよいし、複数の半導体レーザーで構成されていてもよい。また、第2光源44は、第1光源40の半導体レーザーとは波長帯が異なる半導体レーザーから構成されていてもよい。
【0029】
第2集光光学系45は、第1レンズ45aと、第2レンズ45bと、を備える。第2集光光学系45は、第2光源44から射出された青色光Bを拡散板46の拡散面上または拡散面の近傍に集光させる。第1レンズ45aと第2レンズ45bのそれぞれは、凸レンズで構成されている。
【0030】
拡散板46は、第2光源44から射出された青色光Bを拡散させ、波長変換装置50から射出された蛍光Yの配光分布に近い配光分布を有する青色光Bを生成する。拡散板46として、例えば光学ガラスからなる磨りガラスを用いることができる。
【0031】
コリメート光学系47は、第1レンズ47aと、第2レンズ47bと、を備える。コリメート光学系47は、拡散板46から射出された光を略平行化する。第1レンズ47aおよび第2レンズ47bのそれぞれは、凸レンズで構成されている。
【0032】
第2光源44から射出された青色光Bは、ダイクロイックミラー42で反射され、波長変換装置50から射出され、ダイクロイックミラー42を透過した蛍光Yと合成されて、白色の照明光WLを生成する。照明光WLは、均一照明光学系80に入射する。
【0033】
均一照明光学系80は、第1レンズアレイ81と、第2レンズアレイ82と、偏光変換素子83と、重畳レンズ84と、を有する。
【0034】
第1レンズアレイ81は、照明装置2からの照明光WLを複数の部分光束に分割するための複数の第1レンズ81aを有する。複数の第1レンズ81aは、照明光軸100axと直交する面内においてマトリクス状に配列されている。
【0035】
第2レンズアレイ82は、第1レンズアレイ81の複数の第1レンズ81aに対応する複数の第2レンズ82aを有する。複数の第2レンズ82aは、照明光軸100axに直交する面内においてマトリクス状に配列されている。
【0036】
第2レンズアレイ82は、重畳レンズ84とともに、第1レンズアレイ81の各第1レンズ81aの像を光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bの画像形成領域の近傍にそれぞれ結像する。
【0037】
偏光変換素子83は、第2レンズアレイ82から射出された光を一方の直線偏光に変換する。偏光変換素子83は、例えば偏光分離膜および位相差板(図示略)を備える。
【0038】
重畳レンズ84は、偏光変換素子83から射出された各部分光束を集光して光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bの画像形成領域の近傍にそれぞれ重畳させる。
【0039】
次に、波長変換装置50の構成について説明する。
図3は、波長変換装置50の構成を示す断面図である。
図3は、
図2の照明光軸100axを含む平面で波長変換装置50を切断した断面に相当する。
【0040】
図3に示すように、波長変換装置50は、基板51と、蛍光体素子52と、接合層53と、反射層54と、を備える。本実施形態の波長変換装置50は、蛍光体素子52に対する励起光Eの入射位置が時間的に変化しない固定型の波長変換装置で構成されている。
【0041】
基板51は、接合層53を介して反射層54および蛍光体素子52を支持する。基板51は、例えばアルミニウム、銅等の高い熱伝導率を有する金属材料で構成されている。接合層53は、例えばナノ銀ペースト等の高い熱伝導率を有する接合材で構成されている。接合層53は基板51の表面である第1面51aと蛍光体素子52とを接合する。
【0042】
蛍光体素子52は、基板51に対向する第1面52aと、第1面52aとは反対側の第2面52bと、を有する。蛍光体素子52は、第2面52bから入射する励起光Eが波長変換された蛍光Yを第2面52bから射出させる。蛍光体素子52は、蛍光体相520と、マトリックス相521と、を有する。
【0043】
反射層54は、接合層53を挟んで蛍光体素子52の第1面51aに対向して設けられている。すなわち、反射層54は、基板51と蛍光体素子52の第1面52aとの間に設けられている。反射層54は、高い光反射率を有する銀等の金属膜、または誘電体多層膜、またはこれらの膜の組合せから構成されている。反射層54は、蛍光体素子52内において光入射側と反対側(第1面52a側)に向かった蛍光Yを光入射側(第2面b側)に向けて反射する。なお、反射層54は、励起光Eの一部を光入射側(第2面b側)に反射させてもよく、反射層54に反射された励起光Eは蛍光Yの励起に利用される。
本実施形態の波長変換装置50は、励起光Eが入射する蛍光体素子52の第2面52bから蛍光Yを射出する反射型の波長変換装置として機能するようになっている。
【0044】
図4は、本実施形態の蛍光体素子52の要部構成を示す図である。
図4はSEM(走査電子顕微鏡)を用いて蛍光体素子52を撮像した画像である。
図4に示す蛍光体相520は、ガーネット構造を有するA
3B
5O
12:Ceから構成された蛍光体粒子を含む。本実施形態の蛍光体相520において、AがY(イットリウム)、BがAL(アルミニウム)である。すなわち、本実施形態の蛍光体相520は、賦活剤としてセリウム(Ce)が添加されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG(Y
3Al
5O
12):Ce)から構成された蛍光体粒子を含む。
【0045】
マトリックス相521は、蛍光体相520を構成する複数の蛍光体粒子同士を結合するバインダーとして機能するとともに蛍光体相520が発する蛍光を透化させる透光性セラミックスである。本実施形態のマトリックス相521はAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。マトリックス相521は、蛍光体相520を構成するYAG:Ceの屈折率(1.8)よりも高い屈折率(2.2)を有する。
【0046】
マトリックス相521を構成するAlNの熱伝導率は、約285W/m・Kであり、蛍光体相520を構成するYAG:Ceの熱伝導率は、約9W/m・Kである。すなわち、マトリックス相521は、蛍光体相520の熱伝導率よりも十分に高い熱伝導率を有する。
【0047】
また、本実施形態のマトリックス相521の熱伝導率は、一般的にセラミック蛍光体のマトリックス相として用いられるAl2O3(アルミナ)の熱伝導率(約30W/m・K)より十分に高い値である。このため、本実施形態の蛍光体素子52は、Al2O3をマトリックス相として用いた従来の蛍光体素子に比べて熱伝導性に優れるので、放熱性に優れたものとなっている。
【0048】
本実施形態の蛍光体素子52の光射出方向の厚みは30μm以上200μm以下であることが好ましい。これは、厚みが30μm未満の場合、厚みが薄すぎることで製造時において割れ等が発生するからである。また、厚みが200μmを超える場合、厚みが厚くなり過ぎることで蛍光体素子52の放熱性が低下し蛍光変換効率が低下するからである。
本実施形態の場合、蛍光体素子52の厚みを200μmとした。
【0049】
一般的に蛍光体素子は温度が高くなると、蛍光の発光スペクトルが長波長側にシフトし、かつ発光効率が減少することが知られている。この原因の一つは発光スペクトルが長波長側にシフトすることで、励起光を蛍光変換する際に使用されるエネルギーが増えるためである。つまり、蛍光体素子において蛍光変換効率を高めるためには、温度上昇に伴う発光スペクトルの長波長側へのシフトを少なくすることが有効となる。
【0050】
本発明者らは、温度上昇に伴う発光スペクトルの長波長側へのシフトを小さく抑えることで蛍光体素子の蛍光変換効率を高めることに着目した。そして、本発明者らは、温度上昇に伴う発光スペクトルの長波長側へのシフト量を20nm以下に抑えることで温度上昇による蛍光変換効率の低下を抑制した蛍光体素子を実現できるとの知見を得た。
そして、本発明者らは、鋭意研究の結果、本実施形態の蛍光体素子52の構成を完成させた。
【0051】
まず、本発明者らは、蛍光体相中のCeの含有量が少な過ぎると、励起光が蛍光体相で良好に吸収されず、蛍光の取り出し量が減少すると考えた。つまり、蛍光体相中のCeの含有量を適切に設定することで蛍光の量子収率の低下を抑制し、蛍光の取り出し量を増やせると考えた。なお、蛍光Yの量子収率とは、励起光Eによる励起によって放出された蛍光Yの光子数と、励起光Eの光子数との比を意味する。より具体的には、蛍光体素子52が発光した蛍光Yの量を吸収した励起光Eの量で割った値である。
【0052】
本実施形態の蛍光体素子52は、ガーネット構造を有するYAG(Y3Al5O12):Ceにより構成された蛍光体相520と、蛍光体相520の屈折率よりも高い屈折率を有するマトリックス相521と、を備え、蛍光体相520の含有量は、マトリックス相521と蛍光体相520とを含む相全体における体積比で、56vol%以上70vol%以下である。以下、本明細書において、マトリクス相521と蛍光体相520とを合わせた相全体に対する蛍光体相520の体積比を「YAG量」と称する。
【0053】
本実施形態の蛍光体素子52によれば、YAG量を56vol%以上70vol%以下とすることで、蛍光体相520において励起光Eが良好に吸収されるようになっている。
【0054】
また、本発明者らは、蛍光体相の平均粒径が小さすぎると、励起光が蛍光体相で吸収され難くなることで蛍光発光量が減少し、量子収率が低下すると考えた。
これに対して、本実施形態の蛍光体素子52では、
図4に示すように、蛍光体相520の平均粒径を3μm以上とするようにした。なお、平均粒径は、例えば顕微鏡法による1.0mm
2の断面観察において得られた画像の長軸方向の長さの平均で定義される。
【0055】
本実施形態の蛍光体素子52によれば、蛍光体相520の平均粒径は3μm以上とすることで、蛍光体相520において励起光Eが良好に吸収されて蛍光の発光効率を高めることができる。
よって、本実施形態の蛍光体素子52は、量子収率85%以上を実現できるので、蛍光Yの発光効率を高めることで明るい蛍光Yを生成することができる。なお、量子収率が85%以上とは、蛍光体素子52から射出された蛍光Yがプロジェクター用照明光として実使用上で問題ないことを意味する。
【0056】
本実施形態の蛍光体素子52において、YAG量を56vol%以上70vol%以下とした場合、マトリックス相521の割合が所定の範囲(33vol%以上44vol%以下)に決まる。本実施形態の蛍光体素子52において、マトリックス相521は熱伝導率が高いAlNで構成される。このため、本実施形態の蛍光体素子52は、蛍光発光に伴う熱を効率良く放出することで温度上昇に伴う蛍光変換効率の低下を抑制することができる。つまり、本実施形態の蛍光体素子52は、熱伝導率が高いマトリックス相521を有することで後述のように温度上昇が抑制されるので、蛍光Yの発光スペクトルの長波長側へのシフトを抑制可能である。
【0057】
より具体的に本実施形態の蛍光体素子52は、素子全体における熱伝導率を20(W/m・K)以上とすることができるので、蛍光発光に伴う熱を効率良く放出することで温度上昇に伴う蛍光変換効率の低下を良好に抑制可能である。
【0058】
一般的に蛍光体素子において蛍光体相中のCeの含有量を多くし過ぎると、蛍光体相で生成された蛍光がマトリックス相との屈折率差により内部に向けて散乱されることでCeに再吸収されることで蛍光の量子収率が低下する恐れがある。特に本実施形態の蛍光体素子52では、上述のようにマトリックス相521としてAlNを用いることで放熱性を高めているが、AlNは一般的にマトリックス相として用いられるアルミナの屈折率(1.63)よりもさらに高い屈折率を有する。つまり、本実施形態の蛍光体素子52では、蛍光体相520およびマトリックス相521間の屈折率差が大きくなっており、Ce再吸収が起こる恐れもある。
【0059】
これに対して、本実施形態の蛍光体素子52では、上述のようにYAG量を56vol%以上70vol%以下とすることで、蛍光発光に伴う熱の放熱性の向上と屈折率差による蛍光Yの再吸収の抑制とのバランスをとることで蛍光Yを効率良く取り出すことができる。
【0060】
図5は本実施形態の蛍光体素子52における発光スペクトルを示す図である。
図5中の実線は蛍光体素子52の室温時(25℃)における発光スペクトルを示し、
図5中の破線は蛍光体素子52の高温時(250℃)における発光スペクトルを示している。なお、高温時の温度250℃とは、プロジェクター用の照明装置として使用される場合において蛍光体素子52として想定される最大温度である。
【0061】
図5に示すように、本実施形態の蛍光体素子52において、室温時におけるスペクトルの発光ピーク波長P1は533nmであり、高温時におけるスペクトルの発光ピーク波長P2は548nmである。つまり、本実施形態の蛍光体素子52の場合、高温時(250℃)に生じる発光スペクトルのシフト量が17mmとなる。つまり、本実施形態の蛍光体素子52によれば、高温時における発光スペクトルのシフト量を20nm以下に抑えることができる。
【0062】
以上のように本実施形態の蛍光体素子52は、YAG量を56vol%以上70vol%以下とすることで、放熱性を高めることで温度上昇に伴う発光スペクトルのシフト量を20nm以下に抑制することができる。これにより、スペクトルのシフトに起因する蛍光変換時の使用エネルギーを抑えることで蛍光変換効率を高めることで明るい蛍光Yを生成することができる。
【0063】
本実施形態の波長変換装置50は、基板51と、基板51に設けられ、入射される励起光Eを蛍光に変換する蛍光体素子52と、蛍光体素子52の光入射側とは反対側に設けられた反射層54と、を備える。
本実施形態の波長変換装置50によれば、明るい蛍光Yを効率良く取り出す反射型の波長変換装置を提供することができる。
【0064】
本実施形態の照明装置2は、励起光Eを射出する第1光源40と、励起光Eが入射する波長変換装置50と、を備える。
本実施形態の照明装置2によれば、波長変換効率に優れ、明るい照明光WLを射出する照明装置を提供することができる。
【0065】
本実施形態のプロジェクター1は、照明装置2と、照明装置2から射出された光を変調する光変調装置4R,4G,4Bと、光変調装置4R,4G,4Bにより変調された光を投射する投射光学装置6と、を備える。
【0066】
本実施形態のプロジェクター1によれば、表示品質に優れ、高効率のプロジェクターを提供することができる。
【0067】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態のプロジェクターについて説明する。
第2実施形態のプロジェクターの基本構成は第1実施形態と同様であり、照明装置の構成が第1実施形態と異なる。そのため、以下では照明装置の構成について説明する。
【0068】
図6は、第2実施形態の照明装置2Aを示す概略構成図である。
図6において、上記実施形態で用いた図面と共通の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
図6に示すように、照明装置2Aは、励起光源ユニット10と、アフォーカル光学系11と、ホモジナイザー光学系12と、集光光学系13と、波長変換装置250と、ピックアップ光学系30と、均一照明光学系80と、を備える。
【0070】
励起光源ユニット10は、レーザー光からなる青色の励起光Eを射出する複数の半導体レーザー10aと、複数のコリメーターレンズ10bと、から構成される。複数の半導体レーザー10aは、照明光軸100axと直交する平面内においてアレイ状に配置されている。コリメーターレンズ10bは、各半導体レーザー10aに対応するように、照明光軸100axと直交する平面内においてアレイ状に配置されている。コリメーターレンズ10bは、当該コリメーターレンズ10bに対応する半導体レーザー10aから射出された励起光Eを平行光に変換する。
本実施形態の励起光源ユニット10は、特許請求の範囲の「光源」に対応する。
【0071】
アフォーカル光学系11は、例えば凸レンズ11aと、凹レンズ11bと、を備える。
アフォーカル光学系11は、励起光源ユニット10から射出された平行光束からなる励起光Eの光束径を縮小する。
【0072】
ホモジナイザー光学系12は、例えば第1マルチレンズアレイ12aと、第2マルチレンズアレイ12bと、を備える。ホモジナイザー光学系12は、励起光の光強度分布を波長変換装置250の蛍光体素子52上で均一な分布、いわゆるトップハット分布にする。ホモジナイザー光学系12は、第1マルチレンズアレイ12aおよび第2マルチレンズアレイ12bの複数のレンズから射出された複数の小光束を、集光光学系13とともに、波長変換装置250の蛍光体素子52上で互いに重畳させる。これにより、蛍光体素子52上に照射する励起光Eの光強度分布を均一な状態とする。
【0073】
集光光学系13は、例えば第1レンズ13aと、第2レンズ13bと、を備える。本実施形態において、第1レンズ13aおよび第2レンズ13bは、それぞれ凸レンズから構成されている。集光光学系13は、ホモジナイザー光学系12から波長変換装置250までの光路中に配置され、励起光Eを集光させて波長変換装置250の蛍光体素子52に入射させる。
【0074】
本実施形態の波長変換装置250は、基板251と、蛍光体素子52と、接合層253と、光学層254と、を備える。本実施形態の波長変換装置250は、蛍光体素子52に対する励起光Eの入射位置が時間的に変化しない固定型の波長変換装置で構成されている。
【0075】
基板251は、接合層253を介して光学層254および蛍光体素子52を支持する。基板251は、例えばガラスやプラスチック等の透光性材料で構成されている。本実施形態の接合層253は、例えば、エポキシ等の光透過性を有する材料で構成されている。接合層253は基板251の表面である第1面251aと蛍光体素子52とを接合する。
【0076】
本実施形態の蛍光体素子52は、基板251に対向する第1面52aから励起光Eが入射し、蛍光Yを第2面52bから射出させる。本実施形態の波長変換装置250において、蛍光体素子52は、蛍光Yに加えて、波長変換されなかった一部の励起光E1も透過して射出させる。これにより、蛍光体素子52から白色の照明光WL1が射出される。
【0077】
光学層254は、蛍光体素子52の光入射側である第1面52aに設けられている。光学層254は、励起光Eを透過し、蛍光Yを反射するダイクロイックミラーで構成される。
【0078】
本実施形態の波長変換装置250は、励起光Eが入射する蛍光体素子52の第1面52aと反対の第2面52bから蛍光Yを含む照明光WL1を射出する透過型の波長変換装置として機能する。
【0079】
ピックアップ光学系30は、例えば第1コリメートレンズ31と、第2コリメートレンズ32と、を備える。ピックアップ光学系30は、波長変換装置250の蛍光体素子52から射出された光を略平行化する平行化光学系である。第1コリメートレンズ31および第2コリメートレンズ32は、それぞれ凸レンズから構成されている。ピックアップ光学系30で平行化された光は均一照明光学系80に入射する。
【0080】
(第2実施形態の効果)
本実施形態によれば、蛍光Yの取り出し量を増やすことができる蛍光体素子52を用いることで、明るい蛍光Yを生成する透過型の波長変換装置250を実現できる。また、本実施形態の照明装置2Aにおいても、透過型の波長変換装置250を備えることで、波長変換効率に優れ、明るい照明光WL1を射出することができる、といった第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0081】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記実施形態で示した蛍光体素子、波長変換装置、照明装置およびプロジェクターの各構成要素の形状、数、配置、材料、製造方法等の具体的な記載については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。
【0082】
上記実施形態では、蛍光体相520としてCeを含有したYAGを例に挙げたが、Lu3Al5O12、Tb3Al5O12、Ga3Al5O12、Gd3Al5O12のうちの少なくともいずれかにCeを含有させた蛍光体相を用いる場合にも本発明は適用可能である。つまり、ガーネット構造(A3B5O12:Ce)におけるAは、Y(イットリウム)の他、Yと同様の発光特性を得られるため、Lu(ルテチウム)、Gd(ガドリウム)、Tb(テルビウム)、Ga(ガリウム)のいずれかに置き換えた場合でも本発明は適用可能である。
【0083】
以下、本開示のまとめを付記する。
(付記1)
ガーネット構造を有するA3B5O12:Ceにより構成された蛍光体相と、
前記蛍光体相の屈折率よりも高い屈折率を有するマトリックス相と、を備え、
前記蛍光体相の含有量は、前記マトリックス相および前記蛍光体相を含む全体に対する体積比で、56vol%以上70vol%以下である、
ことを特徴とする蛍光体素子。
ただし、AはLu、Gd、Tb、GaおよびYからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、BはAlである。
【0084】
この構成の蛍光体素子によれば、熱伝導率と量子収率とのバランスをとることで蛍光の取り出し光量を増やすことができる。また、熱伝導率が高いAlNからなるマトリックス相を有するため、蛍光発光に伴う熱を効率良く放出することで温度上昇に伴う蛍光変換効率の低下を抑制することができる。よって、この構成の蛍光体素子は明るい蛍光を効率良く生成することができる。
【0085】
(付記2)
AはYである、
ことを特徴とする付記1に記載の蛍光体素子。
【0086】
この構成によれば、YAG(Y3Al5O12):Ceにより構成された蛍光体相を含む明るい蛍光を効率良く生成する蛍光体素子を実現できる。
【0087】
(付記3)
前記マトリックス相は、AlNである、
ことを特徴とする付記1または付記2に記載の蛍光体素子。
【0088】
この構成によれば、熱伝導率が高いAlNからなるマトリックス相を有するため、蛍光発光に伴う熱を効率良く放出することで温度上昇に伴う蛍光変換効率の低下を抑制できる。
【0089】
(付記4)
前記蛍光体相の平均粒径は3μm以上である、
ことを特徴とする付記1から付記3のうちのいずれか一つに記載の蛍光体素子。
【0090】
この構成によれば、蛍光体相において励起光が良好に吸収されることで蛍光の発光効率を高めることができる。
【0091】
(付記5)
基板と、
前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、付記1から付記4のうちのいずれか一つに記載の蛍光体素子と、
前記蛍光体素子の光入射側とは反対側に設けられた反射層と、を備える、
ことを特徴とする波長変換装置。
【0092】
この構成の波長変換装置によれば、明るい蛍光Yを効率良く取り出す反射型の波長変換装置を提供できる。
【0093】
(付記6)
基板と、
前記基板に設けられ、入射される励起光を蛍光に変換する、付記1から付記4のうちのいずれか一つに記載の蛍光体素子と、
前記蛍光体素子の光入射側に設けられ、前記励起光を透過し前記蛍光を反射する光学層と、を備える、
ことを特徴とする波長変換装置。
【0094】
この構成の波長変換装置によれば、明るい蛍光を効率良く取り出す透過型の波長変換装置を提供できる。
【0095】
(付記7)
前記励起光を射出する光源と、
前記励起光が入射する、付記5または付記6に記載の波長変換装置と、を備える、
ことを特徴とする照明装置。
【0096】
この構成の照明装置によれば、波長変換効率に優れ、明るい照明光を射出する照明装置を提供できる。
【0097】
(付記8)
付記7に記載の照明装置と、
前記照明装置から射出された光を変調する光変調装置と、
前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学装置と、を備える、
ことを特徴とするプロジェクター。
【0098】
この構成のプロジェクターによれば、表示品質に優れ、高効率のプロジェクターを提供できる。
【実施例0099】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
まず、AlNをマトリックス相521となるAlN粉体に、マトリックス相と蛍光体相とを含む相全体における体積比で蛍光体相の含有量を56vol%としたYAG粉体を混錬し、Φ20mmの大きさに一軸成形し、窒素雰囲気にて1800℃にて焼成を行った。その後、研磨することで厚み200μmの実施例1の蛍光体素子を作製した。
【0101】
(実施例2)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を60vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、実施例2の蛍光体素子を製造した。
【0102】
(実施例3)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を70vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、実施例3の蛍光体素子を製造した。
【0103】
(比較例1)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を10vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例1の蛍光体素子を製造した。
【0104】
(比較例2)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を20vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例2の蛍光体素子を製造した。
【0105】
(比較例3)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を40vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例3の蛍光体素子を製造した。
【0106】
(比較例4)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を50vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例4の蛍光体素子を製造した。
【0107】
(比較例5)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を80vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例5の蛍光体素子を製造した。
【0108】
(比較例6)
上記YAG粉体として、蛍光体相の含有量を100vol%とした粉体を用いる以外、実施例1と同様の工程を行い、比較例6の蛍光体素子を製造した。
【0109】
(各実施例、比較例の評価)
上述した各実施例、比較例について、下記のYAGの平均粒径(単位:μm)の確認、量子収率(単位:%)の確認、および熱伝導率(単位:W/m・K)の確認を行い、量子収率および熱伝導率が高い蛍光体素子を光利用効率が高い蛍光体と判定した。その判定結果を表1に示す。
【0110】
表1において量子収率が、85%以上となるサンプルをA(可)、85%未満となるサンプルをB(不可)と評価した。また、表1において熱伝導率が、20%以上となるサンプルをA(可)、20%未満となるサンプルをB(不可)と評価した。
そして、総合評価として、量子収率および熱伝導率の評価項目がいずれもAであるサンプルをA(可)、量子収率および熱伝導率の評価項目のいずれか一方がBであるサンプルをB(不可)とした。表1において、マトリクス相と蛍光体相とを合わせた相全体に対する蛍光体相の体積比をYAG量とした。
【0111】
【0112】
表1に示すように、比較例1(YAG量10%)の場合、マトリクス相の割合が増えることで熱伝導率が80.0と十分な値を得ることができるが、蛍光体相の割合が少なくなることで励起光が蛍光体相に吸収されず、量子収率が55%まで低下する。また、比較例2(YAG量20%)、比較例3(YAG量40%)および比較例4(YAG量50%)の場合、それぞれ熱伝導率73.5、61.2、46.0と十分な値を得ることができるが、量子収率が79%、80%、83%であることから蛍光変換効率の点で十分ではなかった。
【0113】
一方、実施例1(YAG量56%)の場合、熱伝導率が41.4、量子収率が89となって、熱伝導率および量子収率がいずれも高くなることが確認できた。また、実施例2(YAG量60%)の場合、熱伝導率が33.0、量子収率が90となって、熱伝導率および量子収率がいずれも高くなることが確認できた。また、実施例3(YAG量70%)の場合、熱伝導率が23.0、量子収率が90となって、熱伝導率および量子収率がいずれも高くなることが確認できた。
【0114】
一方、比較例5(YAG量80%)の場合、量子収率が92と最も高くなるものの、熱伝導率が15.0と低下することが確認できた。また、比較例6(YAG量100%)の場合、量子収率が94と最も高くなるものの、熱伝導率が9.0と低下することが確認できた。つまり、比較例5、6の場合、蛍光発光時に温度が高くなると、発光スペクトルの長波長側へのシフト量が大きくなってしまい、蛍光の発光効率が大幅に減少することが確認できた。
【0115】
以上の結果から、実施例1~5の蛍光体素子によれば、YAG量が56%以上70%以下とすることで熱伝導率および量子収率をバランス良く高めることで、蛍光の発光効率を高めることで明るい蛍光を生成することができることを確認できた。
1…プロジェクター、2,2A…照明装置、4B,4G,4R…光変調装置、6…投射光学装置、25,520…蛍光体相、50,250…波長変換装置、51,251…基板、52…蛍光体素子、54…反射層、254…光学層、521…マトリックス相、E,E1…励起光、Y…蛍光。