(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131059
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】積層インダクタ
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20240920BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F27/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041086
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】矢田 剛裕
(72)【発明者】
【氏名】下保 真志
(72)【発明者】
【氏名】山本 将敬
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】生出 章彦
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AB03
5E070BA16
5E070CA07
(57)【要約】
【課題】直流重畳特性の向上が可能な積層インダクタを提供する。
【解決手段】積層インダクタ10は、互いに対向している一対の端面12a,12bと、一対の端面12a,12b間を接続するように第一方向D1において延在している側面12cと、を有する素体12と、素体12内に配置され、第一方向D1において延在しているスルー導体16と、を備える。素体12は、第一方向D1から見て、スルー導体16を囲む第一部分21と、第一部分21よりも外側に位置する第二部分22と、を含む。第一部分21は、側面12c,12d,12e,12fから離間して配置されている。第一部分21及び第二部分22は、互いに異なる透磁率を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向している一対の端面と、前記一対の端面間を接続するように前記一対の端面の対向方向において延在している側面と、を有する素体と、
前記素体内に配置され、前記対向方向において延在しているスルー導体と、を備え、
前記素体は、前記対向方向から見て、前記スルー導体を囲む第一部分と、前記第一部分よりも外側に位置する第二部分と、を含み、
前記第一部分は、前記側面から離間して配置されており、
前記第一部分及び前記第二部分は、互いに異なる透磁率を有している、
積層インダクタ。
【請求項2】
前記第一部分の透磁率は、前記第二部分の透磁率よりも低い、
請求項1に記載の積層インダクタ。
【請求項3】
前記素体は、前記第一部分と前記第二部分との間に配置された第三部分を更に含み、
前記第三部分の透磁率は、前記第一部分の透磁率よりも高く、前記第二部分の透磁率よりも低い、
請求項2に記載の積層インダクタ。
【請求項4】
前記素体は、前記対向方向において積層された複数の素体層を有している、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【請求項5】
前記第一部分の前記対向方向における長さは、前記スルー導体の前記対向方向における長さと等しい、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【請求項6】
前記対向方向から見て、前記第一部分は、前記第一部分の長手方向が前記素体の長手方向に沿うように配置されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【請求項7】
前記一対の端面は、長方形状を呈しており、
前記一対の端面の長辺方向における前記第一部分の長さは、前記一対の端面の短辺方向における前記第一部分の長さよりも長い、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【請求項8】
前記一対の端面は、正方形状を呈しており、
前記対向方向から見て、前記スルー導体及び前記第一部分は、いずれも円形状を呈しているか、いずれも正方形状を呈している、
請求項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一対の端面を有する素体と、素体内に配置され、一対の端面の対向方向において延在しているスルー導体と、を備える積層インダクタが知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、直流重畳特性の向上が可能な積層インダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る積層インダクタは、互いに対向している一対の端面と、一対の端面間を接続するように一対の端面の対向方向において延在している側面と、を有する素体と、素体内に配置され、対向方向において延在しているスルー導体と、を備え、素体は、対向方向から見て、スルー導体を囲む第一部分と、第一部分よりも外側に位置する第二部分と、を含み、第一部分は、側面から離間して配置されており、第一部分及び第二部分は、互いに異なる透磁率を有している。
【0006】
上記積層インダクタでは、スルー導体を囲む素体の第一部分と、第一部分よりも外側に位置する素体の第二部分とが互いに異なる透磁率を有している。これにより、磁束密度の分布が一様となり易いので、直流重畳特性を向上させることができる。第一部分は、側面から離間して配置され、側面から露出していないので、側面にめっき延びを生じさせることが抑制される。
【0007】
第一部分の透磁率は、第二部分の透磁率よりも低くてもよい。この場合、確実に直流重畳特性を向上させることができる。
【0008】
素体は、第一部分と第二部分との間に配置された第三部分を更に含み、第三部分の透磁率は、第一部分の透磁率よりも高く、第二部分の透磁率よりも低くてもよい。この場合、インピーダンスを調整することができる。
【0009】
素体は、対向方向において積層された複数の素体層を有していてもよい。この場合、各素体層を印刷法により形成すれば、第一部分及び第二部分を所望の形状とし易い。
【0010】
第一部分の対向方向における長さは、スルー導体の対向方向における長さと等しくてもよい。この場合、スルー導体の全長にわたって、第一部分を設けることができるので、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0011】
対向方向から見て、第一部分は、第一部分の長手方向が素体の長手方向に沿うように配置されていてもよい。この場合、磁束を素体の全体に分散させ易い。よって、磁束が素体の一部に集中し、磁気飽和することが抑制される。その結果、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0012】
一対の端面は、長方形状を呈しており、一対の端面の長辺方向における第一部分の長さは、一対の端面の短辺方向における第一部分の長さよりも長くてもよい。この場合、磁束を素体の全体に分散させ易い。よって、磁束が素体の一部に集中し、磁気飽和することが抑制される。その結果、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0013】
一対の端面は、正方形状を呈しており、対向方向から見て、スルー導体及び第一部分は、いずれも円形状を呈しているか、いずれも正方形状を呈していてもよい。この場合、磁束を素体の全体に分散させ易い。よって、磁束が素体の一部に集中し、磁気飽和することが抑制される。その結果、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、直流重畳特性の向上が可能な積層インダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第二実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第三実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
【
図8】
図8は、第四実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
【
図9】
図9は、第五実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
【
図10】
図10(a)は、第一比較例に係る積層インダクタを示す断面図である。
図10(b)は、第二比較例に係る積層インダクタを示す断面図である。
【
図11】
図11は、直流重畳特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。
図1に示されるように、第一実施形態に係る積層インダクタ10は、素体12と、一対の外部電極14A,14Bと、スルー導体16とを備えている。
【0018】
素体12は、直方体形状の外形を有している。直方体形状には、角部及び稜線部が面取りされている直方体の形状、及び、角部及び稜線部が丸められている直方体の形状が含まれる。素体12は、その外面として、互いに対向している一対の端面12a,12bと、互いに対向している一対の側面12c,12dと、互いに対向している一対の側面12e,12fとを有している。各側面12c,12d,12e,12fは、一対の端面12a,12b間を接続するように一対の端面12a,12bの対向方向において延在している。
【0019】
側面12dは、積層インダクタ10が実装された際に実装基体と対向する実装面である。側面12dと対向する側面12cは、積層インダクタ10が実装された際に頂面となる。以下では、一対の端面12a,12bの対向方向を第一方向D1、一対の側面12c,12dの対向方向を第二方向D2、一対の側面12e,12fの対向方向を第三方向D3とする。第一方向D1、第二方向D2及び第三方向D3は、互いに直交している。
【0020】
素体12の第一方向D1における寸法を長さ、素体12の第三方向D3における寸法を幅、素体12の第二方向D2における寸法を厚さとすると、素体12の寸法は、一例として長さ2.5mm×幅2mm×厚さ0.85mmである。本実施形態では、素体12は、厚さより幅のほうが長くなるように設計されている。また、素体12は、幅より長さのほうが長くなるように設計されている。各端面12a,12bは、第二方向D2を短辺方向、第三方向D3を長辺方向とする長方形状を呈している。
【0021】
素体12は、第一方向D1において積層されている複数の素体層(不図示)を有している。すなわち、第一方向D1は複数の素体層の積層方向である。実際の素体12では、複数の素体層は、その層間の境界が視認できない程度に一体化されている。素体12を構成する素体層の数は、一例として150である。各素体層の厚さ(第一方向D1の長さ)は、たとえば、1μm以上100μm以下である。素体12は、たとえばフェライト等の磁性材料で構成されている。素体12は、素体層となる複数の磁性体パターンを積層して焼成することで得られる。磁性体パターンは、たとえば、磁性体ペースト(たとえば、フェライトペースト)を用い、印刷法により所望のパターンで形成される。すなわち、素体12は、印刷積層構造を有する。
【0022】
一対の外部電極14A,14Bは、素体12の一対の端面12a,12bにそれぞれ設けられている。一対の外部電極14A,14Bは、スルー導体16と電気的に接続されている。外部電極14Aは、端面12aに設けられ、端面12aの全領域を覆っている。外部電極14Aは、端面12aと、端面12aと隣り合う側面12c,12d,12e,12fの端部とを一体的に覆っている。外部電極14Bは、端面12bに設けられ、端面12bの全領域を覆っている。外部電極14Bは、端面12bと、端面12bと隣り合う側面12c,12d,12e,12fの端部とを一体的に覆っている。
【0023】
各外部電極14A,14Bは、一または複数の電極層で構成されている。各外部電極14A,14Bを構成する電極材料には、たとえばAg等の金属材料や樹脂電極材料を採用することができる。各外部電極14A,14Bは、たとえば、焼結金属層と、焼結金属層を覆うめっき層とを含んで構成されている。
【0024】
図2は、
図1の積層インダクタを示す斜視図である。
図2では、外部電極14A,14Bの図示が省略されている。
図3及び
図4は、
図1の積層インダクタを示す断面図である。
図3では、第一方向D1に直交する断面図が示されている。
図4では、第三方向D3に直交する断面図が示されている。
図2~
図4に示されるように、スルー導体16は、素体12内に配置され、第一方向D1において延在している。スルー導体16は、端面12aから端面12bに至っている。スルー導体16は、第一方向D1を軸方向とする円柱形状を呈している。スルー導体16の直径は、一例として0.4mmである。スルー導体16の第一方向D1における長さL1は、素体12の第一方向D1における長さと等しい。
【0025】
スルー導体16は、一対の端面16a,16b及び側面16cを有している。一対の端面16a,16bは、第一方向D1において互いに対向している。端面16aは、端面12aに露出し、外部電極14Aと接合されている。端面16bは、端面12bに露出し、外部電極14Bと接合されている。側面16cは、一対の端面16a,16b間を接続するように第一方向D1において延在している。側面16cは、スルー導体16の外周面である。
【0026】
スルー導体16は、各側面12c,12d,12e,12fから離間して配置され、各側面12c,12d,12e,12fには露出していない。スルー導体16は、素体12の第二方向D2の中央部、かつ、素体12の第三方向D3の中央部に配置されている。すなわち、スルー導体16と側面12cとの離間距離は、スルー導体16と側面12dとの離間距離と同等である。スルー導体16と側面12eとの離間距離は、スルー導体16と側面12fとの離間距離と同等である。本明細書において、離間距離は最短の離間距離を意味する。
【0027】
スルー導体16は、たとえばAg等の金属を含む導電材料で構成されている。スルー導体16は、たとえば素体層に設けられた貫通孔に導電ペーストを充填し、焼成することにより形成されている。スルー導体16は、素体層と共に積層された複数の導体層(不図示)を有していてもよい。この場合、スルー導体16を構成する導体層の数は、素体12を構成する素体層の数と同じである。スルー導体16は、導体層となる複数の導体パターンを積層して焼成することで得られる。導体パターンは、たとえば、導電ペーストを用い、印刷法により所定のパターンで形成される。すなわち、素体12と同様にスルー導体16は、印刷積層構造を有してもよい。
【0028】
素体12は、第一部分21及び第二部分22を含む。第一部分21は、第一方向D1から見て、スルー導体16を囲んでいる。第一部分21は、側面16cに接して設けられている。第一部分21は、各側面12c,12d,12e,12fから離間して配置され、各側面12c,12d,12e,12fには露出していない。
【0029】
第一部分21は、一対の端面21a,21b及び側面21cを有している。一対の端面21a,21bは、第一方向D1において互いに対向している。端面21aは、端面12aに露出し、外部電極14Aにより覆われている。端面21bは、端面12bに露出し、外部電極14Bにより覆われている。側面21cは、一対の端面21a,21b間を接続するように第一方向D1において延在している。
【0030】
第一部分21は、第一方向D1を軸方向とし、内部にスルー導体16が配置された円筒形状を呈している。側面21cは、第一部分21の外周面である。第一部分21は、スルー導体16と同軸となるように配置されている。第一部分21の外径は、一例として0.7mmである。第一部分21は、側面16cの全領域を均等な厚さで覆っている。
【0031】
第二部分22は、第一方向D1から見て、第一部分21よりも外側に位置している。第二部分22は、第一方向D1から見て、第一部分21を囲んでいる。第二部分22は、第一部分21の側面21cに接して設けられている。第二部分22は、各側面12c,12d,12e,12fの全体を構成している。
【0032】
第一部分21及び第二部分22は、互いに異なる透磁率を有している。本実施形態では、第一部分21の透磁率は、第二部分22の透磁率よりも低い。第一部分21の第一方向D1における長さL2は、スルー導体16の第一方向D1における長さL1と等しい。
【0033】
以上説明したように、積層インダクタ10では、スルー導体16を囲む第一部分21と、第一部分21よりも外側に位置する第二部分22とが互いに異なる透磁率を有している。これにより、磁束密度の分布が一様となり易いので、直流重畳特性を向上させることができる。第一部分21の透磁率は、第二部分22の透磁率よりも低いので、確実に直流重畳特性を向上させることができる。
【0034】
一対の外部電極14A,14Bがめっき層を含んで構成される場合、第一部分21が側面12c,12d,12e,12fから露出していると、露出箇所にめっき延びが生じるおそれがある。積層インダクタ10では、第一部分21は、側面12c,12d,12e,12fから離間して配置され、側面12c,12d,12e,12fから露出していない。よって、側面12c,12d,12e,12fにめっき延びを生じさせることが抑制される。
【0035】
一対の端面21a,21bは、一対の端面12a,12bに露出している。しかしながら、一対の端面21a,21bは、めっき層の形成時には、一対の外部電極14A,14Bのめっき層以外の電極層(たとえば、焼結金属層)により既に覆われ、めっきに接する部分を有さない。よって、一対の端面12a,12bにめっき延びを生じさせることも抑制される。
【0036】
素体12は、第一方向D1において積層された複数の素体層を有している。各素体層を印刷法により形成すれば、第一部分21及び第二部分22を所望の形状とし易い。長さL1は、長さL2と等しいので、スルー導体16の第一方向D1の全長にわたって、第一部分21を設けることができる。よって、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0037】
(第二実施形態)
図5は、第二実施形態に係る積層インダクタを示す斜視図である。
図5では、外部電極14A,14Bの図示が省略されている。
図6は、
図5の積層インダクタを示す断面図である。
図6では、第一方向D1に直交する断面図が示されている。
図5及び
図6に示されるように、第二実施形態に係る積層インダクタ10Aでは、素体12が第三部分23を更に含む点で、第一実施形態に係る積層インダクタ10と相違している。以下では、積層インダクタ10との相違点を中心に積層インダクタ10Aについて説明する。
【0038】
第三部分23は、第一方向D1から見て、第一部分21と第二部分22との間に配置されている。第三部分23は、第一方向D1から見て、第一部分21を囲んでいる。第三部分23は、第一部分21の側面21cに接して設けられている。第三部分23は、各側面12c,12d,12e,12fから離間して配置され、各側面12c,12d,12e,12fには露出していない。
【0039】
第三部分23は、一対の端面23a,23b及び側面23cを有している。一対の端面23a,23bは、第一方向D1において互いに対向している。端面23aは、端面12aに露出し、外部電極14Aにより覆われている。端面23bは、端面12bに露出し、外部電極14Bにより覆われている。側面23cは、一対の端面23a,23b間を接続するように第一方向D1において延在している。
【0040】
第三部分23は、第一方向D1を軸方向とし、内部にスルー導体16及び第一部分21が配置された円筒形状を呈している。側面23cは、第三部分23の外周面である。第三部分23は、スルー導体16及び第一部分21と同軸となるように配置されている。第三部分23の外径は、一例として0.7mmである。この場合、第一部分21の外径は、一例として○○mmである。第三部分23は、側面21cの全領域を均等な厚さで覆っている。
【0041】
第三部分23は、素体12の第二方向D2の中央部、かつ、素体12の第三方向D3の中央部に配置されている。すなわち、第三部分23と側面12cとの離間距離は、第三部分23と側面12dとの離間距離と同等である。第三部分23と側面12eとの離間距離は、第三部分23と側面12fとの離間距離と同等である。第二部分22は、第一方向D1から見て、第一部分21及び第三部分23よりも外側に位置し、第一部分21及び第三部分23を囲んでいる。第二部分22は、第三部分23の側面23cに接して設けられている。
【0042】
第一部分21、第二部分22、及び第三部分23は、互いに異なる透磁率を有している。本実施形態では、第三部分23の透磁率は、第一部分21の透磁率よりも高く、第二部分22の透磁率よりも低い。
【0043】
積層インダクタ10Aにおいても、第一部分21及び第二部分22が互いに異なる透磁率を有しているので、直流重畳特性を向上させることができる。第三部分23の透磁率は、第一部分21の透磁率よりも高く、第二部分22の透磁率よりも低いので、インピーダンスを調整することができる。よって、積層インダクタ10Aでは、直流重畳特性の向上とインピーダンスの確保とを両立し易い。
【0044】
(第三実施形態)
図7は、第三実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
図7では、第三方向D3に直交する断面図が示されている。
図7に示されるように、第三実施形態に係る積層インダクタ10Bでは、長さL2が長さL1よりも短い点で、第一実施形態に係る積層インダクタ10と相違している。以下では、積層インダクタ10との相違点を中心に積層インダクタ10Bについて説明する。
【0045】
第一部分21は、側面16cの全領域ではなく、側面16cの第一方向D1の一部領域を覆っている。第一部分21は、一対の端面12a,12bから離間して配置されている。一対の端面21a,21bは、第二部分22により覆われ、一対の端面12a,12bに露出していない。第一部分21は、素体12の第一方向D1の中央部に配置されている。すなわち、第一部分21と端面12aとの離間距離は、第一部分21と端面12bとの離間距離と同等である。
【0046】
積層インダクタ10Bにおいても、第一部分21及び第二部分22が互いに異なる透磁率を有しているので、直流重畳特性を向上させることができる。第一部分21の長さL2を変動させることにより、第一部分21の体積が変動するので、直流重畳特性にも変化が生じる。これにより、取得できるインピーダンス値の幅が広がるので、使用目的に合わせたインピーダンスの調整が可能となる。第一部分21の全体が素体12内に配置され、素体12の外面に露出していないので、めっき延びがより確実に抑制される。
【0047】
(第四実施形態)
図8は、第四実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
図8では、第三方向D3に直交する断面図が示されている。
図8に示されるように、第四実施形態に係る積層インダクタ10Cでは、第一部分21が一対の分割部分211,212を含む点で、第一実施形態に係る積層インダクタ10と相違している。以下では、積層インダクタ10との相違点を中心に積層インダクタ10Cについて説明する。
【0048】
一対の分割部分211,212は、第一方向D1において互いに離間して配置されている。一対の分割部分211,212の間には、第二部分22が配置されている。一対の分割部分211,212は、互いに同じ形状を有している。分割部分211は、端面21aを含み、端面12aに露出している。分割部分212は、端面21bを含み、端面12bに露出している。各分割部分211,212の第一方向D1の長さL3は、長さL1よりも短い。長さL3は、長さL1の1/2よりも短い。
【0049】
積層インダクタ10Cにおいても、第一部分21及び第二部分22が互いに異なる透磁率を有しているので、直流重畳特性を向上させることができる。第一部分21の長さ(すなわち、分割部分211の長さL3の総和)を変動させることにより、第一部分21の体積(すなわち、分割部分211,212の長さL3の総和)が変動するので、直流重畳特性にも変化が生じる。これにより、取得できるインピーダンス値の幅が広がるので、使用目的に合わせたインピーダンスの調整が可能となる。
【0050】
(第五実施形態)
図9は、第五実施形態に係る積層インダクタを示す断面図である。
図9では、第一方向D1に直交する断面図が示されている。
図9に示されるように、第五実施形態に係る積層インダクタ10Dでは、第一方向D1から見た第一部分21の外縁が、円形状ではなく、楕円形状を呈している点で、第一実施形態に係る積層インダクタ10と相違している。以下では、積層インダクタ10との相違点を中心に積層インダクタ10Dについて説明する。
【0051】
第一方向D1から見た第一部分21の外縁は、第三方向D3を長軸方向、第二方向D2を短軸方向とする楕円形状を呈している。一対の端面12a,12bの長辺方向(すなわち第三方向D3)における第一部分21の長さL5は、一対の端面12a,12bの短辺方向(すなわち第二方向D2)における第一部分21の長さL4よりも長い。長さL4は、スルー導体16の直径と同等である。長さL4は、スルー導体16の直径より長くてもよい。
【0052】
第一方向D1から見て、第一部分21は、第一部分21の長手方向(すなわち第三方向D3)が素体12の長手方向(すなわち第三方向D3)に沿うように配置されていると言える。アスペクト比を長手方向の長さと短手方向の長さの比とすると、第一方向D1から見て、第一部分21のアスペクト比(すなわち、長さL5と長さL4の比)は、素体12のアスペクト比(すなわち、素体12の第三方向D3の長さと素体12の第二方向D2の長さの比)と同等であってもよい。
【0053】
積層インダクタ10Dにおいても、第一部分21及び第二部分22が互いに異なる透磁率を有しているので、直流重畳特性を向上させることができる。第一方向D1から見て、第一部分21の長手方向と素体12の長手方向とが一致している。また、長さL5は、長さL4より長い。これにより、第一方向D1から見て、第二部分22の厚さ、すなわち、側面12c,12d,12e,12fから第一部分21の側面21cまでの距離が、積層インダクタ10の場合よりも均等になる。このため、積層インダクタ10Dでは、磁束が素体12の一部に集中し、磁気飽和することが抑制される。その結果、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0054】
上記実施形態の効果を確認するために、実施例及び比較例に係る積層インダクタの直流重畳特性をシミュレーションにより評価した。なお、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0055】
第一実施例に係る積層インダクタは、第一実施形態に係る積層インダクタ10Aに対応する構成を有している。第二実施例に係る積層インダクタは、第五実施形態に係る積層インダクタ10Dに対応する構成を有している。
【0056】
図10(a)は、第一比較例に係る積層インダクタを示す断面図である。
図10(a)及び
図3に示されるように、第一比較例に係る積層インダクタ51と第一実施形態に係る積層インダクタ10との主な相違点は、積層インダクタ10では、素体12が互いに異なる透磁率を有する第一部分21及び第二部分22により構成されているのに対し、積層インダクタ51では、素体12の全体が同じ透磁率を有する磁性材料で構成されている点である。
【0057】
図10(b)は、第二比較例に係る積層インダクタを示す断面図である。
図10(b)及び
図3に示されるように、第二比較例に係る積層インダクタ52と第一実施形態に係る積層インダクタ10との主な相違点は、第一部分21の形状である。積層インダクタ10では、第一部分21がスルー導体16の側面16cの全領域を覆い、側面12c,12d,12e,12fに露出していない。これに対し、積層インダクタ52では、第一部分21がスルー導体16の側面16cの一部領域のみを覆い、側面12e,12fに露出している。
【0058】
積層インダクタ52では、第一部分21の第二方向D2の長さは、スルー導体16の直径よりも短い。第一部分21は、スルー導体16の第三方向D3の両側に配置されている。第一部分21は、第二方向D2を厚さ方向とする矩形板状を呈し、スルー導体16から側面12e,12fに至っている。第一部分21は、側面16cのうち、側面12eと対向する領域、及び、側面12fと対向する領域を覆っている。側面16cの残りの領域は、第一部分21から露出している。
【0059】
第一実施例、第二実施例、第一比較例及び第二比較例に係る積層インダクタでは、いずれも素体の寸法を長さ2.5mm×幅2mm×厚さ0.85mmとし、スルー導体の直径を0.4mmとした。各積層インダクタに対し、0A、0.5A、1A、2A、3A、4A、及び5Aの直流電流(IDC)を流したときのインダクタンスをシミュレーションにより求めた。
【0060】
図11は、直流重畳特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図11の横軸は、直流電流の値(A)を示す。
図11の縦軸は、インダクタンスの変化率(%)を示す。インダクタンスは、直流電流が増加するにつれて低下する。インダクタンスの変化率は、インダクタンスの変化量を0Aのときのインダクタンスを基準としてパーセント表示されている(すなわち、インダクタンスの変化率(%)=インダクタンスの変化量/0Aのときのインダクタンス)。
【0061】
図11に示されるように、第一実施例及び第二実施例に係る積層インダクタによれば、第一比較例に係る積層インダクタに比べて、直流重畳特性を向上できることが確認できた。第二比較例に係る積層インダクタでは、第一実施例に係る積層インダクタよりも直流重畳特性が向上できるものの、第一部分が素体の側面に露出しているので、めっき延びを抑制することができない。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0063】
一対の端面12a,12bは、正方形状を呈していてもよい。この場合、スルー導体16及び第一部分21の外縁は、第一方向D1から見て、いずれも円形状を呈していてもよい。または、スルー導体16及び第一部分21の外縁は、第一方向D1から見て、いずれも正方形状を呈していてもよい。これにより、第一方向D1から見て、第二部分22の厚さ、すなわち、側面12c,12d,12e,12fと第一部分21の側面21cとの離間距離が、積層インダクタ10の場合よりも均等化される。したがって、磁束を素体12の全体に分散させ易い。よって、磁束が素体12の一部に集中し、磁気飽和することが抑制される。その結果、直流重畳特性を更に向上させることができる。
【0064】
積層インダクタ10では、第一部分21の透磁率は、第二部分22の透磁率よりも高くてもよい。この場合、第一部分21の透磁率が第二部分22の透磁率よりも低い場合に比べて、直流重畳特性は悪化するものの、初期L値は増大する。つまり、第一部分21の透磁率が高い場合と低い場合とを使い分けることにより、インピーダンス値の調整が可能となる。
【0065】
積層インダクタ10Bでは、第一部分21は一対の端面12a,12bから離間しているが、端面12aに露出していてもよいし、端面12bに露出していてもよい。積層インダクタ10Cでは、各分割部分211,212は、各端面12a,12bから離間していてもよい。積層インダクタ10Cでは、第一部分21は、第一方向D1において互いに離間する三つ以上の分割部分を有していてもよい。複数の分割部分は、互いに異なる形状を有していてもよい。
【0066】
上記実施形態及び上記変形例は、適宜組み合わされてもよい。上述した実施形態及び変形例の記載から把握されるとおり、本明細書は以下に示す態様の開示を含んでいる。
(条項1)
互いに対向している一対の端面と、前記一対の端面間を接続するように前記一対の端面の対向方向において延在している側面と、を有する素体と、
前記素体内に配置され、前記対向方向において延在しているスルー導体と、を備え、
前記素体は、前記対向方向から見て、前記スルー導体を囲む第一部分と、前記第一部分よりも外側に位置する第二部分と、を含み、
前記第一部分は、前記側面から離間して配置されており、
前記第一部分及び前記第二部分は、互いに異なる透磁率を有している、
積層インダクタ。
(条項2)
前記第一部分の透磁率は、前記第二部分の透磁率よりも低い、
条項1に記載の積層インダクタ。
(条項3)
前記素体は、前記第一部分と前記第二部分との間に配置された第三部分を更に含み、
前記第三部分の透磁率は、前記第一部分の透磁率よりも高く、前記第二部分の透磁率よりも低い、
条項2に記載の積層インダクタ。
(条項4)
前記素体は、前記対向方向において積層された複数の素体層を有している、
条項1~3のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
(条項5)
前記第一部分の前記対向方向における長さは、前記スルー導体の前記対向方向における長さと等しい、
条項1~4のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
(条項6)
前記対向方向から見て、前記第一部分は、前記第一部分の長手方向が前記素体の長手方向に沿うように配置されている、
条項1~5のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
(条項7)
前記一対の端面は、長方形状を呈しており、
前記一対の端面の長辺方向における前記第一部分の長さは、前記一対の端面の短辺方向における前記第一部分の長さよりも長い、
条項1~6のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
(条項8)
前記一対の端面は、正方形状を呈しており、
前記対向方向から見て、前記スルー導体及び前記第一部分は、いずれも円形状を呈しているか、いずれも正方形状を呈している、
条項1~5のいずれか一項に記載の積層インダクタ。
【符号の説明】
【0067】
10,10A,10B,10C,10D…積層インダクタ、12…素体、12a,12b…端面、12c,12d,12e,12f…側面、16…スルー導体、21…第一部分、22…第二部分、23…第三部分。