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特開2024-131076表面処理装置、表面処理方法、及び皮膜付き部材
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  • 特開-表面処理装置、表面処理方法、及び皮膜付き部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131076
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】表面処理装置、表面処理方法、及び皮膜付き部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/511 20060101AFI20240920BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20240920BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20240920BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240920BHJP
   F17C 1/10 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C23C16/511
C23C16/27
B01J19/08 H
H05H1/46 B
F17C1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041116
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】510078872
【氏名又は名称】大陽日酸JFP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 真弥
【テーマコード(参考)】
2G084
3E172
4G075
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084AA05
2G084AA07
2G084BB05
2G084CC05
2G084CC06
2G084CC14
2G084CC33
2G084DD04
2G084DD18
2G084DD20
2G084DD38
2G084DD42
2G084FF14
2G084FF39
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172AB14
3E172AB15
3E172AB20
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172DA80
3E172JA01
4G075AA03
4G075AA30
4G075AA52
4G075AA53
4G075BC04
4G075CA26
4G075CA47
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB01
4G075EB41
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB03
4G075FC15
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA11
4K030AA16
4K030BA28
4K030BB12
4K030CA11
4K030CA15
4K030DA03
4K030EA05
4K030EA06
4K030EA11
4K030FA01
4K030JA03
4K030KA18
4K030KA30
4K030KA46
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、被処理部材が有する中空部の内壁面に対して表面処理が可能な表面処理装置を提供する。
【解決手段】2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材41を内側に配置するチャンバ2と、被処理部材41に負の直流バイアス電圧を印加するバイアス印加機構3と、チャンバ2内に配置された被処理部材41の中空部内にプラズマ生成領域を形成する電磁波供給機構4と、開口部の少なくとも1つがチャンバ2内に露出しないように被処理部材41に密着し、当該開口部から中空部にガスを供給するガス供給機構5と、チャンバ2内の雰囲気を排気するガス排気機構6と、を備える表面処理装置1を選択する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材を内側に配置するチャンバと、
前記被処理部材に負の直流バイアス電圧を印加するバイアス印加機構と、
前記チャンバ内に配置された前記被処理部材の前記中空部内にプラズマ生成領域を形成する電磁波供給機構と、
前記開口部の少なくとも1つが前記チャンバ内に露出しないように前記被処理部材に密着し、当該開口部から前記中空部にガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバ内の雰囲気を排気するガス排気機構と、を備える表面処理装置。
【請求項2】
前記電磁波供給機構が、前記チャンバ内を臨む位置に配置された誘電体と、前記誘電体を介して前記チャンバ内に電磁波を供給するために前記誘電体に接続された同軸ケーブルもしくは導波管と、を有する、請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記ガス供給機構が、前記開口部の周囲に密着して当該開口部の外側に密閉空間を形成する筒状部材と、前記密閉空間に前記ガスを供給するガス供給配管と、を有する、請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記ガス供給機構が、前記チャンバと絶縁されている、請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記ガス供給機構が、前記被処理部材と前記電磁波供給機構との間に位置する、請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記筒状部材が導電体であり、前記被処理部材と前記誘電体との間に位置する、請求項3に記載の表面処理装置。
【請求項7】
プラズマCVDの表面処理用のクリーニングガス供給源、または反応ガス供給源をさらに備える、請求項1又は2に記載の表面処理装置。
【請求項8】
2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材の、少なくとも2つの前記開口部の間に位置する前記中空部の内壁面を処理する表面処理方法であって、
前記開口部の少なくとも1つから前記中空部にクリーニングガス、又は反応ガスを供給しながら、電磁波プラズマを発生させて被処理部材の内壁面を表面処理する、表面処理方法。
【請求項9】
前記内壁面にプラズマ生成領域を形成し、
前記開口部の少なくとも1つが前記被処理部材の周囲の雰囲気に露出しないように前記開口部又は前記開口部の周囲を覆った状態で、当該開口部から前記中空部に前記クリーニングガス、又は前記反応ガスを供給する、請求項8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
2以上の開口部と連通する中空部を有する部材と、
少なくとも2つの前記開口部の間に位置する前記中空部の内壁面を被覆する皮膜と、を備え、
前記皮膜が、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む、皮膜付き部材。
【請求項11】
前記皮膜に臨む前記開口部のうち、最も小さい開口径が、15mm以下である、請求項10に記載の皮膜付き部材。
【請求項12】
前記中空部のうち、最も小さい内径が、6mm以下である、請求項10に記載の皮膜付き部材。
【請求項13】
前記中空部が、第1中空部と、前記第1中空部とは内径又は延在する方向が異なる第2中空部と、を有する、請求項12に記載の皮膜付き部材。
【請求項14】
前記部材が、工業用ガスが充填された高圧ガス容器に取り付ける容器弁である、請求項10又は11に記載の皮膜付き部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置、表面処理方法、及び皮膜付き部材に関する。
【背景技術】
【0002】
図3(A)及び図3(B)に示すように、工業用ガスが充填された高圧ガス容器50には、容器弁51が取り付けられている。ところで、腐食性ガスや毒性ガスが充填された高圧ガス容器では、プロセスラインから取り外す際、容器弁内のガスを排出するために何度もパージ作業を繰り返す必要があるが、ガスの一部が容器弁の内壁面に吸着して、サブppmレベルで残留することがある。残留したガスが大気中の水分と反応すると、異臭や発煙、脱離によるガス漏洩検知器発報、素地の腐食といった問題が生じる。
【0003】
吸着特性を改善する方法の一つとして、基材の表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC:diamond-like carbon)膜を形成する方法が挙げられる。DLC膜は、ダイヤモンドのsp結合とグラファイトのsp結合の両者を炭素原子の骨格構造とした、C-C結合、及びC-H結合からなるアモルファスカーボン膜であり、ガスバリア性や化学的安定性に優れる。このようなDLC膜を容器弁の内壁面に設けることで、ガスの化学吸着が起こらずに物理吸着が主体となるため、パージ特性の改善が見込まれる。
【0004】
ところで、被処理部材の中空部の内壁面に薄膜を形成する方法として、特許文献1及び特許文献2が知られている。
特許文献1には、負バイアスとマイクロ波とを組み合わせた技術により、高アスペクト比の内径数mmの直管やクロス管、S字管といった中空部の内壁面にプラズマを生成し、膜形成する技術が開示されている。
また、特許文献2には、少なくとも一つの開口部を有する中空部を有する被処理部材の中空部の内部にプラズマを発生させて、被処理部材の内壁面を表面処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4152135号公報
【特許文献2】特許第5540201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図3(C)に示すように、容器弁51の内側には、直径数mmの細い中空部41B,41C,41Dと直径数十mmの中空部41Aとが位置し、これらの異径の中空部が最大角90度で接続された複雑な形状の中空部が設けられている。このような容器弁51を被処理部材とし、特許文献1及び特許文献2に開示された技術を用いて中空部(41A~41D)の内壁面に薄膜を形成する場合、線状の導電体や絶縁性薄膜(外面コーティング)を設ける必要があり、その他条件の調整が必要であった。また、中空部の内壁面に生成するプラズマが不安定かつ不均一となり、内壁面の全体にわたって薄膜を形成することが困難だった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成により、被処理部材が有する中空部の内壁面に対して表面処理が可能な表面処理装置、及び表面処理方法を提供することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む皮膜が内壁面の全体にわたって設けられた皮膜付き部材を提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成を採用する。
[1] 2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材を内側に配置するチャンバと、
前記被処理部材に負の直流バイアス電圧を印加するバイアス印加機構と、
前記チャンバ内に配置された前記被処理部材の前記中空部内にプラズマ生成領域を形成する電磁波供給機構と、
前記開口部の少なくとも1つが前記チャンバ内に露出しないように前記被処理部材に密着し、当該開口部から前記中空部にガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバ内の雰囲気を排気するガス排気機構と、を備える表面処理装置。
[2] 前記電磁波供給機構が、前記チャンバ内を臨む位置に配置された誘電体と、前記誘電体を介して前記チャンバ内に電磁波を供給するために前記誘電体に接続された同軸ケーブルもしくは導波管と、を有する、前項[1]に記載の表面処理装置。
[3] 前記ガス供給機構が、前記開口部の周囲に密着して当該開口部の外側に密閉空間を形成する筒状部材と、前記密閉空間に前記ガスを供給するガス供給配管と、を有する、前項[1]又は[2]に記載の表面処理装置。
[4] 前記ガス供給機構が、前記チャンバと絶縁されている、前項[1]乃至[3]のいずれかに記載の表面処理装置。
[5] 前記ガス供給機構が、前記被処理部材と前記電磁波供給機構との間に位置する、前項[1]乃至[4]のいずれかに記載の表面処理装置。
[6] 前記筒状部材が導電体であり、前記被処理部材と前記誘電体との間に位置する、前項[3]乃至[5]のいずれかに記載の表面処理装置。
[7] プラズマCVDの表面処理用のクリーニングガス供給源、または反応ガス供給源をさらに備える、前項[1]乃至[6]のいずれかに記載の表面処理装置。
[8] 2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材の、少なくとも2つの前記開口部の間に位置する前記中空部の内壁面を処理する表面処理方法であって、
前記開口部の少なくとも1つから前記中空部にクリーニングガス、又は反応ガスを供給しながら、電磁波プラズマを発生させて被処理部材の内壁面を表面処理する、表面処理方法。
[9] 前記内壁面にプラズマ生成領域を形成し、
前記開口部の少なくとも1つが前記被処理部材の周囲の雰囲気に露出しないように前記開口部又は前記開口部の周囲を覆った状態で、当該開口部から前記中空部に前記クリーニングガス、又は前記反応ガスを供給する、前項[8]に記載の表面処理方法。
[10] 2以上の開口部と連通する中空部を有する部材と、
少なくとも2つの前記開口部の間に位置する前記中空部の内壁面を被覆する皮膜と、を備え、
前記皮膜が、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む、皮膜付き部材。
[11] 前記皮膜に臨む前記開口部のうち、最も小さい開口径が、15mm以下である、前項[10]に記載の皮膜付き部材。
[12] 前記中空部のうち、最も小さい内径が、6mm以下である、前項[10]又は[11]に記載の皮膜付き部材。
[13] 前記中空部が、第1中空部と、前記第1中空部とは内径又は延在する方向が異なる第2中空部と、を有する、前項[10]乃至[12]のいずれかに記載の皮膜付き部材。
[14] 前記部材が、工業用ガスが充填された高圧ガス容器に取り付ける容器弁である、前項[10]乃至[13]のいずれかに記載の皮膜付き部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理装置、及び表面処理方法は、簡易な構成により、被処理部材が有する中空部の内壁面に対して表面処理が可能である。
【0011】
また、本発明の皮膜付き部材は、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む皮膜が内壁面の全体にわたって設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である表面処理装置の構成を示す系統図である。
図2】本発明の一実施形態である表面処理装置の、被処理部材の周囲の構成を示す拡大断面図である。
図3】(a)高圧ガス容器の全体を示す側面図、(b)容器弁の全体を示す側面図、(c)容器弁の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがあり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、「~」で表される数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を示す。
【0014】
<表面処理装置>
先ず、本発明の一実施形態として、図1に示す表面処理装置1について説明する。
なお、図3は、高圧ガス容器の構成を示す断面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の表面処理装置1は、被処理部材41を内側に配置するチャンバ2と、バイアス印加機構3と、電磁波供給機構4と、ガス供給機構5と、ガス排気機構6と、を備える。
本実施形態の表面処理装置1は、被処理部材41の中空部の内壁面の少なくとも一部または全部に対して、表面処理や皮膜形成を含む表面処理を行うものである。
【0016】
チャンバ2は、チャンバ2内でプラズマが良好に発生するように、ガス供給口2A及びガス排気口2Bを有する。ガス供給口2Aには、ガス供給機構5が位置する。また、ガス排気口2Bには、ガス排気機構6が位置する。チャンバ2は、ガス供給機構5及びガス排気機構6により、チャンバ2内の圧力が一定(例えば、60~100Pa程度)に維持される。
なお、後述するように、被処理部材41には直流バイアス電圧を印加するが、チャンバ2はその際の接地の役割もあることから、導電性材料で構成することが好ましい。導電性材料としては、ステンレスや銅等の金属材料が挙げられる。
【0017】
被処理部材41は、2以上の(複数の)開口部と連通する中空部を有する導電性の部材であれば、特に限定されない。2以上の中空部を有する部材としては、バルブ状の部材、パイプ状(筒状)の部材等が挙げられる。導電性の部材としては、金属あるいは合金材料などを挙げることができ、ステンレスなどを用いることができる。
【0018】
本実施形態では、被処理部材41として、図3(A)及び図3(B)に示すような、工業用ガスが充填された高圧ガス容器50に取り付ける容器弁51を適用することができる。
以下、容器弁51を分解してボディのみの状態とした部材をバルブ状の被処理部材41とした場合を一例として、説明する。
【0019】
図2及び図3(C)に示すように、被処理部材41は、4つの異径の開口部41a~41dを有する。また、開口部41a~41dは、それぞれ異径の中空部41A~41Dと連通している。さらに、中空部41A~41Dは、被処理部材41の内側でそれぞれ合流又は分岐することで、内側の空間が直接または間接的にそれぞれ連通しており、全体として1つの中空部を構成している。
【0020】
なお、図2に示すように、本実施形態では、開口部41cから流路制限部材20が、中空部41Cの全体を閉塞するように挿入されている。
これにより、被処理部材41の内側には、開口径が28mmと大きな開口部41aと連通する中空部(第1中空部)41Aと、開口径が13mmと小さな開口部41bと連通する中空部(第2中空部)41Bと、からなる中空部が形成される。なお、中空部41Aと中空部41Bとは、90度となるように接続されており、延在する方向が互いに異なっている。
【0021】
被処理部材41は、図1に示すように、チャンバ2の内側に配置される。チャンバ2内に被処理部材41を配置する際、いずれかの開口部を電磁波供給機構4に向けて配置される。これにより、被処理部材41の中空部の内側にマイクロ波を伝播させることができる。この際、図2に示すように、大きな開口径を有する中空部41Aの開口部41aを電磁波供給機構4に向けて配置することで、中空部41Aから中空部41Bに向かって、マイクロ波を効率的に伝播させることができる。
【0022】
バイアス印加機構3は、被処理部材41に負の直流バイアス電圧を印加する。バイアス印加機構3は、電源7と、正極側の配線8と、負極側の配線9とを有する。
電源7は、チャンバ2の外側に位置する。電源7としては、直流パルス電源を適用できる。電源7には、正極側の配線8と負極側の配線9とが接続されている。配線8及び配線9としては、銅やステンレス等の金属製の配線を適用することができる。
【0023】
正極側の配線8は、チャンバ2と接続されている。
負極側の配線9は、チャンバ2に位置する絶縁性の挿入部10を介してチャンバ2内に挿入され、被処理部材41と接続されている。
なお、本実施形態の表面処理装置1では、直流パルス電源である電源7の正極側をグランドレベルとすることで、被処理部材41に負の直流バイアス電圧が印加される。
【0024】
電源7の印加電圧は、特に限定されるものではなく、例えば、-200~-500(V)の印加電圧とすることが好ましく、-220~-450(V)の印加電圧とすることがより好ましい。
【0025】
電磁波供給機構4は、チャンバ2内に配置された被処理部材41の中空部内にプラズマ生成領域を形成する。電磁波供給機構4は、チャンバ2内を臨む位置に配置された誘電体11と、誘電体11を介してチャンバ2内に電磁波を供給するために誘電体11に接続された同軸ケーブル12とを有する。
【0026】
誘電体11は、チャンバ2に設けられた孔部2Cに挿入されて構成されている。誘電体11は、チャンバ2内の密閉性を保つために、ステンレス製のフランジ13を介してチャンバ2に固定される。フランジ13は、ステンレス製の固定ネジ14によってチャンバ2に取り付けられている。このような構成により、チャンバ2内の減圧状態が保たれる構成となっている。
【0027】
フランジ13及び固定ネジ14の上方には、収束冶具15が設けられている。収束冶具15がフランジ13及び固定ネジ14の上面を覆うように配置されているため、チャンバ2内に入射されたマイクロ波がフランジ13方向に伝播することを抑制して、被処理部材41の中空部内に効率的に伝播させることができる。
【0028】
同軸ケーブル12は、電磁波供給源16に接続されている。また、同軸ケーブル12は、線状の内部導体部と、それを取り囲む絶縁体と、更に前記絶縁体を取り囲む外部導体部とを有している。電磁波供給源16から発生された電磁波は、同軸ケーブル12の中の内部導体部と外部導体部との間を伝搬し、誘電体11を介して、被処理部材41に向けて放射される構成となっている。
なお、同軸ケーブル12の代わりに導波管を用いても良い。
【0029】
電磁波供給機構4には、電磁波をほとんど吸収することがない誘電体材料からなる誘電体11が備えられているので、減圧状態とされたチャンバ2内に配置された被処理部材41に向けて、パワーを減衰させることなく、電磁波を伝搬させることができる。
なお、誘電体11の材料としては、石英ガラスなどを挙げることができる。
【0030】
本実施形態の表面処理装置1によれば、被処理部材41が負極側の配線9によりチャンバ2の外側に配置された電源7と接続されており、被処理部材41に負のバイアス電圧を印加できる構成となっている。そのため、バイアス印加機構3の電源7を操作して、被処理部材41に負バイアスを印加し、発生させるプラズマを被処理部材41の奥行き方向(すなわち、中空部41Aから中空部41B方向)にわたって分布させることができる。
特に、電磁波供給機構4から被処理部材41に向けて放射された電磁波が、シース領域とプラズマ相との境界に沿って、中空部41Aの開口部41aから別の開口部41bに向けて伝搬される際に、被処理部材41に負のバイアス電圧を印加することによって、当該電磁波に沿って発生されるプラズマの均一性を高めることができる。
【0031】
ガス供給機構5は、図1に示すように、ガス供給口を有する筒状部材17と、ガス供給配管18と、ガス供給源19と、を備える。
【0032】
筒状部材17は、図2に示すように、両端が開口した筒状の部材である。筒状部材17は、一方の開口端17aを電磁波供給機構4の誘電体11と密着させ、他方の開口端17bを被処理部材41の開口部41aに密着させる。本実施形態では、筒状部材17の開口端17bを開口部41aから中空部41Aの内側に挿入した状態で、筒状部材17の開口端17b寄りの部分を開口部41a及び中空部41Aに密着させる。このように、筒状部材17を電磁波供給機構4と被処理部材41との間に配置し、開口端17a,17bを誘電体11及び開口部41aの周囲にそれぞれ密着させることで、筒状部材17の内側に、チャンバ2内の雰囲気に露出しない密閉空間17Aが形成される。換言すると、筒状部材17により、開口部41a(あるいは中空部41A)の外側に密閉空間17Aが形成される。
【0033】
なお、筒状部材17の開口端17bが開口部41aの周囲に密着する態様は、筒状部材17の内側に、チャンバ2内の雰囲気に露出しない密閉空間17Aが形成されるのであれば、開口部41aから中空部41Aの内側に挿入する態様に限定されない。例えば、筒状部材17の開口端17bと、開口部41aとが対向する状態で互いに密着する態様であってもよいし、開口端17bが開口部41aよりも大きく、開口端17bが開口部41aの外側と密着する態様であってもよい。
【0034】
これらの態様は、被処理部材41の表面処理を要する領域に応じて、適宜選択することができる。具体的には、筒状部材17の開口端17bを密着させる被処理部材41の開口部の径、あるいは中空部の内径に応じて、筒状部材17の内径のサイズを適宜選択することができる。
【0035】
また、筒状部材17が被処理部材41と電磁波供給機構4との間に位置する場合、筒状部材17の材質は、被処理部材41の開口部41aから中空部41Aにマイクロ波を伝播させる観点から、導電性の材料(導電体)とすることが好ましい。このような導電性の材料としては、ステンレスや各種合金等の金属材料が好ましい。
【0036】
導電体からなる筒状部材17を電磁波供給機構4と被処理部材41との間に配置し、開口端17a,17bを誘電体11及び開口部41aの周囲にそれぞれ密着させることで、筒状部材17の内側の密閉空間17Aを介して、マイクロ波が被処理部材41の中空部41Aから中空部41Bへ伝播する(図2中に示す矢印の方向)。
【0037】
ガス供給配管18は、ガス供給源19と筒状部材17との間に位置する。
ガス供給配管18の基端は、複数に分岐し、チャンバ2の外側に位置する各種ガスの供給源とそれぞれ接続されている。ガス供給配管18の先端は、チャンバ2内に位置する筒状部材17の胴体(筒状部分)と接続されている。これにより、ガス供給配管18は、ガス供給源19の各種ガスを筒状部材17の内側の密閉空間17Aに供給できる。
【0038】
密閉空間17Aに供給された各種ガスは、筒状部材17の開口端17bから被処理部材41の中空部41Aにのみ、供給される。すなわち、筒状部材17の開口端17bがガス供給口となり、被処理部材41の中空部41Aから中空部41Bを経た後、開口部41bからチャンバ2内へ拡散される。
【0039】
ところで、筒状部材17に相当する従来の部材には、ガス供給配管18のように積極的にガスを被処理部材41に導入するようなものがなく、筒状部材17の側面に小さな穴(アーキングや放電集中といった現象が起きない程度)が数個開いている程度であった。そして、従来技術では、チャンバ内全体にガスを導入してプラズマを生成するが、ガス自体は筒状部材17の開口端17b付近に届くものの、プラズマを生成すると開口部41bや中空部41B付近でガスがほとんど消費されてしまう。さらに、開口部41bから距離があり、且つ数mmレベルの小内径の奥まった部分である、開口端17bや中空部41A付近では、ガスが枯渇してプラズマが生成できないか、生成しても安定しない。
【0040】
これに対して、本実施形態の表面処理装置1によれば、従来の方法では安定したガス供給及びプラズマ生成が困難であった10~20mmといった小さな開口径、且つ5~10mmといった小さな内径の中空部を有する部材の内面に、特に開口部から距離がある奥まった部分にも、筒状部材17を介して被処理部材41に積極的に、且つ、安定した流量でガスを供給できるため、ガスが枯渇することなく、プラズマを安定して生成できる。したがって、確実且つ連続してプラズマ生成に十分な量のガスを供給することができる。
【0041】
また、本実施形態の表面処理装置1によれば、被処理部材41へのガス供給口となる筒状部材17の開口端17bが、マイクロ波が被処理部材41の中空部41Aへ伝播する経路上に位置するため、プラズマ化した各種ガスを被処理部材41の中空部41A,41Bへ供給することができる。したがって、被処理部材41の中空部41A,41Bの内壁面を効率的に表面処理することができる。
【0042】
ガス供給配管18の材質は、特に限定されない。ガス供給配管18の材質としては、各種樹脂等の有機材料、ガラス等の無機材料、及び各種合金等の金属材料が挙げられる。
なお、本実施形態では、被処理部材41とチャンバ2との絶縁性を担保する必要があるため、ガス供給配管18として導電性の材質を用いる場合には、経路の途中に絶縁性の材質からなる配管(絶縁配管)21を設ける。これにより、ガス供給機構5を構成する筒状部材17とチャンバ2とを確実に絶縁することができる。なお、絶縁配管21としては、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂など、樹脂製チューブを用いることができる。
【0043】
ガス供給機構5は、さらに、クリーニングまたはプラズマCVDの表面処理用のガス供給源19を有しており、チャンバ2内にクリーニングまたはプラズマCVDの反応ガスを供給できる構成となっている。プラズマCVD用の反応ガスとしては、たとえば、メタン(CH)等の炭化水素、水素(H)ガス、テトラトリメチルシラン(TMS)等のシリコン含有化合物が挙げられる。これらの反応ガスを用いた場合には、被処理部材41の中空部41A,41Bの内部にプラズマを発生させて、プラズマCVD法の原理で内壁面に薄膜を形成することができる。たとえば、SiOやダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などを形成することができる。
また、Arなどの不活性ガスを用いた場合には、プラズマ表面処理により、被処理部材41の中空部41A,41Bの内壁面のクリーニングを行うことができる。
【0044】
本実施形態の表面処理装置1によれば、ガス供給機構5を構成する筒状部材17が、被処理部材41の開口部41aと連通する中空部41Aの内壁面がチャンバ2内の雰囲気に露出しないように被処理部材41に密着するため、被処理部材41に供給する前にチャンバ2内にガスを拡散させることなく、当該開口部41aから中空部41Aにクリーニングガスあるいは反応ガスを確実に供給することができる。
【0045】
ガス排気機構6は、チャンバ2内の雰囲気を排気する。ガス排気機構6は、チャンバ2のガス排気口2Bに位置する真空計22、及び排気装置23を有する。排気装置23としては、ロータリーポンプ及びターボ分子ポンプのいずれか一方又は両方を用いることができる。ガス排気機構6により、チャンバ2内を減圧状態とすることができる。また、ガス排気機構6とガス供給機構5とにより、チャンバ2内のガスの濃度を調整することができる。
【0046】
本実施形態の表面処理装置1によれば、導電体からなる筒状部材17を電磁波供給機構4と被処理部材41との間に配置し、開口端17a,17bを誘電体11及び開口部41aの周囲にそれぞれ密着させることで、筒状部材17の内側に密閉空間17Aを形成する。
そして、この密閉空間17Aを、電磁波供給機構4によって発生させたマイクロ波の伝播経路として用いるとともに、プラズマCVDのクリーニング及び反応ガスの供給経路として用いることで、従来は安定したガスの供給及びプラズマ生成が困難であった、10~20mmといった小さな開口径且つ5~10mmといった小さな内径の中空部を有するパイプ状(筒状)部材やバルブ状の部材であっても、それらの中空部に確実にマイクロ波を伝播し、ガス供給することができる。
これにより、微小且つ複雑な内部構造の中空部を有する被処理部材であっても、中空部の内壁面を確実にプラズマ表面処理することができる。
【0047】
<表面処理方法>
次に、本発明の一実施形態として、表面処理方法について説明する。なお、本実施形態の表面処理方法は、上述した表面処理装置1を用いて行うことができる。
本実施形態の表面処理方法は、2以上の開口部と連通する中空部を有する被処理部材の、少なくとも2つの前記開口部の間に位置する前記中空部の内壁面を処理する表面処理方法であって、開口部の少なくとも1つから中空部にクリーニングガス、又は反応ガスを供給しながら、電磁波プラズマを発生させて被処理部材の内壁面を表面処理するものである。
すなわち、先ず、被処理部材の中空部の内壁面にプラズマ生成領域を形成し、次いで、開口部の少なくとも1つが被処理部材の周囲の雰囲気に露出しないように開口部又は開口部の周囲を覆った状態で、当該開口部から中空部にクリーニングガス、又は反応ガスを供給する。
【0048】
具体的には、図1及び図2に示すように、上述した本発明の一実施形態である表面処理装置1は、チャンバ2と、バイアス印加機構3と、電磁波供給機構4と、ガス供給機構5と、ガス排気機構6とが備えられている。電磁波供給機構4は、誘電体11と電磁波供給源16に接続された同軸ケーブル12とから構成され、その誘電体11がチャンバ2内を臨む位置に配置されている。また、2つ以上の開口部41a,41bと連通する中空部41A,41Bを有する被処理部材41が、チャンバ2の内側に、開口部41aを電磁波供給機構4側に向けた状態で配置されている。さらに、開口部41aにはガス供給機構5の筒状部材17の開口端17bが挿入されて密着されている。
【0049】
先ず、ガス排気機構6の排気装置23によってチャンバ2内を減圧する。次いで、ガス供給機構5からArガス及びHガスを被処理部材41の開口部41aから10~30sccmの流量で中空部41A,41Bに流入させた後、開口部41bからチャンバ2内へ供給する。次に、ガス排気機構6の運転状態を調節して、チャンバ2内の圧力を一定にして、初期プラズマを電磁波供給機構4の近接領域に形成する。その後、100MHz~100GHzの周波数の電磁波を、電磁波供給機構4から放射した後に、バイアス印加機構3によって被処理部材41に負のバイアス電圧を徐々に印加する。
【0050】
電磁波供給機構4から被処理部材41に向かって放射された電磁波は、開口部41aから中空部41Aへ入射される。入射された電磁波は、中空部41Aから中空部41Bへ進み、開口部41bから被処理部材41の外部に放射される。この電磁波に沿って、プラズマも中空部41A,41Bの内部に形成される。
【0051】
このように、被処理部材41の中空部が複雑な形状であったとしても、さらには一部の開口部の開口径や中空部の内径が小さい場合であっても、筒状部材17を含むガス供給機構5を用いることにより、被処理部材41の中空部に確実にクリーニングガス又は反応ガスを供給することができる。これにより、中空部41A,41Bの内部にプラズマを形成することができ、中空部41A,41Bの内壁面のプラズマ表面処理を行うことができる。また、ガス供給機構5からプラズマCVD用の反応ガスを供給する場合には、被処理部材41のガス流路として開放された中空部41A,41Bの内壁面の全体にわたって、プラズマCVD法により薄膜を形成することができる。
【0052】
<皮膜付き部材>
次に、本発明の一実施形態である皮膜付き部材について、説明する。
本実施形態の皮膜付き部材は、2以上の開口部と連通する中空部を有する部材と、少なくとも2つの開口部の間に位置する中空部の内壁面を被覆する皮膜とを備え、上記皮膜が、ダイヤモンドライクカーボン(以下、単に「DLC」と記載する)からなる表面層を含むものである。
また、本実施形態の皮膜付き部材は、上述した表面処理装置1及び表面処理方法により、製造することができる。
以下、2以上の開口部と連通する中空部を有する部材として、上述した表面処理装置1及び表面処理方法において被処理部材41とした場合、すなわち、図3(a)~図3(c)に示す、工業用ガスが充填された高圧ガス容器に取り付ける容器弁を用いた場合を一例として、説明する。
【0053】
本実施形態の皮膜付き部材(被処理部材41)は、容器弁の2つの開口部41a,41bと連通する中空部41A,41Bの内壁面に、DLC膜からなる表面層を含む皮膜が設けられているものである。
【0054】
中空部の内壁面に設けられる皮膜の構成は、表面層がDLC膜からなる層であれば、特に限定されない。例えば、DLC膜からなる表面層と部材の表面(中空部の内壁面)との密着性を向上させることを目的として、Si含有DLC膜からなる下地層を含む構成としてもよい。また、DLC膜からなる表面層とSi含有DLC膜からなる下地層との間に、Si含有DLC膜側からDLC膜側に向かってSi含有量が次第に減少していく中間層をさらに含む構成としてもよい。
【0055】
本実施形態の皮膜付き部材によれば、上述した表面処理装置1及び表面処理方法を用いるため、皮膜に臨む開口部のうち、最も小さい開口径が、15mm以下の部材や、中空部のうち、最も小さい内径が、6mm以下の部材であっても、中空部の内壁面に皮膜を形成することができる。
また、部材(被処理部材)の中空部が、第1中空部と、第1中空部とは内径又は延在する方向が異なる第2中空部とを有するような部材であっても、中空部の内壁面に皮膜を形成することができる。
すなわち、従来の表面処理技術では、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む皮膜を設けることが困難であった容器弁の内側のガス流路の表面(内壁面)にダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む皮膜が設けられた容器弁が得られる。
【0056】
なお、本実施形態の皮膜付き部材は、中空部の内壁面が皮膜によって被覆されているのであれば、皮膜の厚さが、中空部の内径や開口部の開口径に応じて異なっていてもよい。
【0057】
本実施形態の皮膜付き部材が容器弁であれば、中空部の内壁面に、DLC膜からなる表面層が設けられるため、容器弁の中空部の内壁面とガスとの接触を抑制し、内壁面へのガスの物理吸着量を減少させることができる。
【0058】
また、本実施形態の皮膜付き部材が容器弁の場合、後述する実施例において具体的な製造方法を説明する。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、簡易な構成により、被処理部材41が有する中空部の内壁面に対して表面処理が可能である。
【0060】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、チャンバ2内に被処理部材41を配置する際、いずれかの開口部を電磁波供給機構4に向けて配置されるため、被処理部材41の中空部の内側にマイクロ波を伝播させることができる。また、2以上の開口部のうち、大きな開口径を有する中空部41Aの開口部41aを電磁波供給機構4に向けて配置することで、中空部41Aから中空部41Bに向かって、マイクロ波を効率的に伝播させることができる。
【0061】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、バイアス印加機構3の電源7を操作して、被処理部材41に負バイアスを印加し、発生させる電磁波プラズマを被処理部材41の奥行き方向(すなわち、中空部41Aから中空部41B方向)にわたって分布させることができる。
【0062】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、導電体からなる筒状部材17を電磁波供給機構4と被処理部材41との間に配置し、開口端17a,17bを誘電体11及び開口部41aの周囲にそれぞれ密着させることで、筒状部材17の内側の密閉空間17Aを介して、マイクロ波を被処理部材41の中空部41Aから中空部41Bへ伝播させることができる。
【0063】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、被処理部材41へのガス供給口となる筒状部材17の開口端17bが、マイクロ波が被処理部材41の中空部41Aへ伝播する経路上に位置するため、プラズマ化した状態で各種ガスを被処理部材41の中空部41A,41Bへ供給することができる。したがって、被処理部材41の中空部41A,41Bの内壁面を効率的に表面処理することができる。
【0064】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、ガス供給機構5を構成する筒状部材17が、被処理部材41の開口部41aと連通する中空部41Aの内壁面がチャンバ2内の雰囲気に露出しないように被処理部材41に密着するため、被処理部材41に供給する前にチャンバ2内にガスを拡散させることなく、当該開口部41aから中空部41Aにクリーニングガスあるいは反応ガスを確実に供給することができる。
【0065】
本実施形態の表面処理装置1及び表面処理方法によれば、導電体からなる筒状部材17を電磁波供給機構4と被処理部材41との間に配置し、開口端17a,17bを誘電体11及び開口部41aの周囲にそれぞれ密着させることで、筒状部材17の内側に密閉空間17Aを形成することができる。この密閉空間17Aを、電磁波供給機構4によって発生させたマイクロ波の伝播経路として用いるとともに、プラズマCVDのクリーニング及び反応ガスの供給経路として用いることで、従来はガスの供給が困難であった、小さな開口径や小さな内径の中空部を有するパイプ状(筒状)部材やバルブ状の部材であっても、それらの中空部に確実にマイクロ波を伝播し、ガス供給することができる。したがって、容器弁のように、微小且つ複雑な内部構造の中空部を有する被処理部材であっても、中空部の内壁面を確実にプラズマ表面処理することができる。
【0066】
本実施形態の皮膜付き部材によれば、ダイヤモンドライクカーボンからなる表面層を含む皮膜が内壁面の全面に確実に設けられている。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した表面処理装置1では、被処理部材41の中空部41Cを流路制限部材20で閉塞する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、流路制限部材20を用いることなく、被処理部材41の全ての中空部41A~41Dの内壁面を表面処理する構成としてもよい。
【0068】
また、上述した表面処理装置1では、ガス供給機構5の筒状部材17が被処理部材41と電磁波供給機構4との間に位置し、筒状部材17の内側の密閉空間17Aを介して被処理部材41の中空部にマイクロ波とプラズマ形成用(表面処理用)のガスとを供給する態様を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、被処理部材41の開口部41aが電磁波供給機構4の誘電体11に直接接触するように配置され、開口部41a以外の開口部(及びその周囲)に筒状部材17が密着する構成であってもよい。このような構成であっても、被処理部材41の中空部に、マイクロ波とプラズマ形成用のガスを確実に供給することができる。
なお、筒状部材17が被処理部材41と電磁波供給機構4との間に位置しない構成とする場合、筒状部材17は、一方の端部のみが開放される有底筒状とすることが好ましい。また、筒状部材17は、導電性の材料で構成されていなくてもよい。
また、被処理部材41の開口部41aと誘電体11との間に、両端が開口した導電性の材料からなる他の筒状部材を配置してもよい。
【0069】
また、上述した表面処理装置1では、ガス供給機構5が1つの筒状部材17を有する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、ガス供給機構5が2以上の筒状部材17を有し、複数の開口部及びその周囲に筒状部材17をそれぞれ密着させる構成であってもよい。
なお、本発明の表面処理装置及び表面処理方法によれば、被処理部材が2以上の開口部を有しており、少なくとも1つの開口部を中空部へのガスの導入口として用い、少なくとも1つの開口部を中空部からのガスの排出口として用いれば、本発明の効果を奏する。
【実施例0070】
以下、実施例によって本発明の効果を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
<検証試験1>
図1及び図2に示す表面処理装置1を用い、以下の手順で被処理部材である容器弁の中空部の内周壁に、DLC膜からなる表面層を含む皮膜を形成して、皮膜付き部材を製造した。
【0072】
容器弁にはステンレスを用いた。
皮膜には、3層の積層膜を用いた。具体的には、被処理部材との密着性向上のためにSi含有DLC膜を1層目に形成し、Si含有量を減少させた傾斜層を2層目に形成した後、ガスバリア性の高いSi非含有DLC膜を3層目(最表面)に形成した。
以下に、詳細な手順を示す。
【0073】
(クリーニング工程)
先ず、クリーニング工程では、Ar+Hプラズマによって、容器弁の中空部表面の酸化膜や微細な塵を除去した。
(1)直流バイアス(DC)とマイクロ波の設定を行った。パルス周波数は、それぞれ1000Hzとした。Duty比(1周期あたりのプラズマON・OFF比)は、DC及びマイクロ波それぞれON<OFFの比率となるように設定した。
(2)チャンバ内を真空引きして、10Pa以下となるまで減圧した。
(3)Ar:15ml/min、H2:5ml/minの流量で、クリーニングガスを供給した。
(4)チャンバ内の圧力を100Pa以下に調整した。
(5)容器弁にDC電圧-250V印加した。
(6)容器弁の下部に位置する開口部41aから、2.45GHzのマイクロ波を1kWで入射した。
(7)DCの電圧を調整しつつ、アーキングがなくなり、且つ、容器弁の外面温度が350℃以上となるまでクリーニングを続けた。
【0074】
(膜形成工程)
成膜前調整工程に続いて、膜形成工程を実施した。
(1)チャンバ内を真空引きして、10Pa以下となるまで減圧した。
(2)各種ガスをAr:15ml/min,CH:2ml/min,TMS:1ml/minの流量で供給した。
(3)チャンバ内の圧力を100Pa以下に調整した。
(4)容器弁にDC電圧-400Vを印加した。
(5)容器弁の下部に位置する開口部41aから、2.45GHzのマイクロ波を1kWで入射した。
(6)必要に応じて、マイクロ波の入射位置を微調整した。
(7)45秒成膜した後、膜形成を中断した。
(8)TMSの流量を0.5ml/minに変更し、チャンバ2内の圧力が100Pa以下となるように再調整した。
(9)TMSの流量以外の設定はそのままで、膜形成を再開した。
(10)45秒成膜した後、膜形成を中断した。
(11)TMSの流量を0ml/minに変更し、チャンバ2内の圧力が100Pa以下となるよう再調整した。
(12)TMSの流量以外の設定はそのままで、膜形成を再開した。
(13)30秒成膜した後、膜形成を終了した。
【0075】
皮膜形成後の皮膜付き部材の断面を確認した結果、中空部の内壁面の全体にわたって皮膜が形成されていることが確認された。
【0076】
<検証試験2>
検証試験1で製造したDLC膜付き容器弁と、表面未処理の容器弁とのそれぞれに、3MPaの純PHを接触させた後、Heパージして残留濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、容器弁の内側にDLC膜を形成することで、パージ特性が3.5倍改善することが確認された。
また、DLC膜を形成した容器弁では、未処理の容器弁と比較して吸着量が1/3.5となり、中空部の内壁面の素地がほとんど露出していないため、容器弁の腐食を抑制する効果が期待される。
なお、DLC膜にPHを24時間接触させても、皮膜に損傷は確認されなかった。
【符号の説明】
【0079】
1・・・表面処理装置
2・・・チャンバ
2A・・・ガス供給口
2B・・・ガス排気口
3・・・バイアス印加機構
4・・・電磁波供給機構
5・・・ガス供給機構
6・・・ガス排気機構
7・・・電源
8・・・正極側の配線
9・・・負極側の配線
10・・・絶縁性の挿入部
11・・・誘電体
12・・・同軸ケーブル
13・・・フランジ
14・・・固定ネジ
15・・・収束冶具
16・・・電磁波供給源
17・・・筒状部材
17a,17b・・・開口端
17A・・・密閉空間
18・・・ガス供給配管
19・・・ガス供給源
20・・・流路制限部材
21・・・配管(絶縁配管)
22・・・真空計
23・・・排気装置
41・・・被処理部材
41a~41d・・・開口部
41A~41D・・・中空部
50・・・高圧ガス容器
51・・・容器弁
図1
図2
図3