(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131084
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】ホログラム素子
(51)【国際特許分類】
G03H 1/22 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
G03H1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041131
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】503208150
【氏名又は名称】独立行政法人 造幣局
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】山東 悠介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和郎
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祥▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】福 大介
(72)【発明者】
【氏名】大原 輝彦
【テーマコード(参考)】
2K008
【Fターム(参考)】
2K008AA00
2K008CC03
2K008EE01
(57)【要約】
【課題】観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を提供する。
【解決手段】観察者の視点Vが配置される面を視域面P3とし、視域面P3における潜像3が観察される視点Vの範囲を視域Zとし、視域面P3に設定される複数の視域Zの群を視域群として、視域群に、観察される潜像3が互いに異なる複数の視域Zが含まれ、視域Zから観察される潜像3は、入射面P1からの伝搬方向が当該視域Zに向かう方向に制御された波面である視域別波面WZにより生成され、視域群を構成する視域Zの数に対応する複数の視域別波面WZを生成するように、ホログラム素子1が構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、
観察者の視点が配置される面を視域面とし、前記視域面における前記潜像が観察される前記視点の範囲を視域とし、前記視域面に設定される複数の前記視域の群を視域群として、
前記視域群に、観察される前記潜像が互いに異なる複数の前記視域が含まれ、
前記視域から観察される前記潜像は、前記入射面からの伝搬方向が当該視域に向かう方向に制御された波面である視域別波面により生成され、
前記視域群を構成する前記視域の数に対応する複数の前記視域別波面を生成するように構成されている、ホログラム素子。
【請求項2】
前記入射面上の前記入射光を表す波面を入射波面として、
前記入射面に、複数の前記視域別波面を前記入射面上で重ね合わせた波面が前記入射波面で除算された波面を符号化したパターンが形成され、
前記視域別波面に対応する前記視域を対象視域とし、前記対象視域から観察される前記潜像を対象潜像とし、複数の前記視域から観察できる前記対象潜像を生成するための前記入射面上の波面を基準波面とし、前記基準波面に対して前記入射面から前記視域面までの順方向の回折計算を行って得られる前記視域面上の波面を対象波面として、
前記入射面上での前記視域別波面は、前記対象波面から前記対象視域に対応する領域以外の領域の波面を除去した波面に対して、前記視域面から前記入射面までの逆方向の回折計算を行って得られる前記入射面上の波面である、請求項1に記載のホログラム素子。
【請求項3】
前記視域群に、形状及び寸法の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記視域が含まれている、請求項1に記載のホログラム素子。
【請求項4】
前記視域面に沿う特定の方向を第1方向とし、前記第1方向の一方側を第1方向第1側として、
前記視域群に、第1視域と、前記第1視域に対して前記第1方向第1側に隣接する第2視域とが含まれ、
前記第1視域から観察される前記潜像を第1潜像とし、前記第2視域から観察される前記潜像を第2潜像として、
前記第1潜像に表示される対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記第1方向第1側から見た向きで、前記第2潜像に表示されるように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のホログラム素子。
【請求項5】
前記視域面に沿う方向であって前記第1方向に直交する方向を第2方向とし、前記第2方向の一方側を第2方向第1側として、
前記視域群に、前記第1視域に対して前記第2方向第1側に隣接する第3視域が含まれ、
前記第3視域から観察される前記潜像を第3潜像として、
前記第1潜像に表示される前記対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記第2方向第1側から見た向きで、前記第3潜像に表示されるように構成されている、請求項4に記載のホログラム素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム素子の一例が、特開2004-309709号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1には、観察方向に応じて複数の画像を選択的に再生可能な計算機合成ホログラム(ホログラフィックステレオグラム)に関する技術が開示されている。特許文献1の段落0002,0003に記載されているように、ステレオグラムを用いると、全く異なる複数の画像の切り替え表示、立体感のある画像表示、及び、アニメーション効果を持った画像表示が可能となる。特許文献1には、レンズアレイのような物理的な画素構造の必要のないホログラフィックステレオグラムの技術として、視差画像等の複数の画像を再生する面であってホログラム面から離れた面に、放射方向に応じて異なった画像のその方向の放射輝度を持った仮想点光源、或いは集光方向に応じて異なった画像のその方向の輝度に等しい放射輝度を持った仮想集光点を多数定義し、それらの仮想点光源から放射する光或いはそれらの仮想集光点に集光する光を仮想的な物体光として計算機合成ホログラムを作成する技術が開示されている(段落0020等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホログラム素子を用いると、特定の波面を特定の方向に伝搬させることができる。本発明者らは、鋭意研究の結果、このようなホログラム素子による波面の伝搬方向の制御を、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なステレオグラムに利用できることを新たに見出した。
【0005】
本発明の目的は、このような新規な知見に基づいた、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るホログラム素子は、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、観察者の視点が配置される面を視域面とし、前記視域面における前記潜像が観察される前記視点の範囲を視域とし、前記視域面に設定される複数の前記視域の群を視域群として、前記視域群に、観察される前記潜像が互いに異なる複数の前記視域が含まれ、前記視域から観察される前記潜像は、前記入射面からの伝搬方向が当該視域に向かう方向に制御された波面である視域別波面により生成され、前記視域群を構成する前記視域の数に対応する複数の前記視域別波面を生成するように構成されている。
【0007】
本構成によれば、ホログラム素子による波面の伝搬方向の制御を利用して、視域群を構成する複数の視域のそれぞれに対して、各視域に向かう方向に伝搬方向が制御された視域別波面を伝搬させることができる。そして、視域別波面の形は視域別波面毎に独立して設定することができるため、各視域から観察される潜像は、視域毎に自由に設定することができ、本構成では、視域群に、観察される潜像が互いに異なる複数の視域が含まれる。そのため、観察者がこれら複数の視域の間で視点を移動させた場合に、観察される潜像を変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を実現することができる。
【0008】
ホログラム素子の更なる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るホログラム素子の観察態様を示す図
【
図2】実施形態に係る視域と視域潜像との関係を示す図
【
図6】比較例に係るホログラム素子の観察態様を示す図
【
図7】実施形態に係る視域面に到達する波面の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
ホログラム素子の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、ホログラム素子1は、入射面P1への入射光(
図1に示す例では、点光源9からの入射光)を回折して潜像3を表示する素子である。ホログラム素子1には、入射面P1への入射光を回折させるためのパターン(ホログラムパターン)が形成されている。ホログラム素子1は、位相型、振幅型、複素振幅型のいずれであってもよい。位相型のホログラム素子1には、凹凸パターン等の光路長(位相遅延量)の変化によって入射光を回折させるホログラムパターンが形成され、振幅型のホログラム素子1には、濃淡パターン等の反射率や透過率の変化によって入射光を回折させるホログラムパターンが形成される。
【0012】
本開示の技術は、例えば、コインやメダル等の金属製品の付加価値向上のために実施することができる。この場合、金属製品が「ホログラム素子」に相当し、当該金属製品の表面におけるホログラムパターン(例えば、凹凸パターン)が形成された領域が「入射面」に相当する。これ以外にも、本開示の技術は、例えば、時計やアクセサリ等の装飾品、フィルムシート、金券、チケット、CDやDVD等の記録媒体(メディア)、公的文書や機密情報を記録した媒体等にも適用することができる。
【0013】
潜像3を生成するための入射面P1への入射光(再生光)は、球面波であっても平面波であってもよい。
図1には、入射面P1への入射光が、点光源9からの球面波とされる場合を例示している。なお、点光源9には、疑似的に点光源と近似可能な光源を含む。点光源9は、単色光を発する光源であっても、連続的又は不連続的なスペクトル分布を持つ光(例えば、白色光)を発する光源であってもよい。例えば、スマートフォン等に搭載された白色LED(Light Emitting Diode)を、点光源9として用いることができる。
【0014】
ここで、
図1に示すように、入射面P1に直交する方向を奥行き方向Dとし、奥行き方向Dにおける入射面P1に対して観察者の視点Vが配置される側を手前側D1とし、奥行き方向Dにおける手前側D1とは反対側を奥側D2とする。また、入射面P1よりも奥側D2であって潜像3が生成される面(仮想面)を潜像面P2とし、入射面P1よりも手前側D1であって観察者の視点Vが配置される面(仮想面)を視域面P3とする。
【0015】
ホログラム素子1は、反射型であっても透過型であってもよい。ホログラム素子1が透過型である場合、
図1に示すように、光源(例えば、点光源9)は、入射面P1に対して奥側D2に配置され、ホログラム素子1が反射型である場合、図示は省略するが、光源(例えば、点光源9)は、入射面P1に対して手前側D1に配置される。ホログラム素子1が透過型である場合の入射側の光学系を入射面P1に対して奥行き方向Dに反転させて手前側D1に配置すると、ホログラム素子1が反射型である場合の入射側の光学系となる。そのため、以下の説明は、ホログラム素子1が反射型であっても透過型であっても成立する。
【0016】
本出願人らは、特願2022-58522号の出願において、レーザ等の特殊な光源や、狭帯域フィルタ等の特殊な光学部材を用いることなく、比較的入手の容易な点光源とホログラム素子のみで、色収差に起因する色滲みや点光源の大きさに起因する像ボケ(潜像のボケ)が低減された潜像を表示する技術を提案している。本開示の技術は、
図1に示す態様に限定されないが、
図1に示す態様は、特願2022-58522号にて提案されている技術を適用したものであり、ホログラム素子1は、入射面P1に対して奥側D2であって、入射面P1からの奥行き方向Dに沿った距離が設定距離である位置に、潜像3を生成するように構成されている。ここで、入射面P1と点光源9との奥行き方向Dの距離を対象距離として、設定距離は、対象距離未満の距離(好適には、対象距離の半分と同等の距離)である。ホログラム素子1をこのように構成することで、入射面P1からの奥行き方向Dに沿った距離が対象距離である位置に潜像3を生成する場合に比べて、色滲みや像ボケが低減された潜像3を生成することができる。
【0017】
特願2022-58522号にて提案されている技術では、光学的な奥行き範囲を広げなければ、色滲みや像ボケを増加させないようにすることができる。そして、以下に説明するように、本開示の技術によれば、光学的な奥行き範囲を広げることなく、観察方向に応じて複数の潜像を選択的に表示することができる。そのため、
図1に例示するようにこれら2つの技術を組み合わせた場合、色滲みや像ボケの増加による画質の劣化を抑制しつつ、観察方向に応じて複数の潜像を選択的に表示することができる。従って、これら2つの技術は好適に組み合わせることができる。なお、本開示の技術は、特願2022-58522号にて提案されている技術を組み合わせずに実施することも当然可能であり、例えば、
図1に示す態様に代えて、潜像3がフーリエ面(光源或いはその鏡像が配置される面)に生成されるようにホログラム素子1を設計してもよい。
【0018】
図1に示すように、本実施形態では、ホログラム素子1は、視域群ZG(
図2参照)を構成する複数の視域Zのそれぞれに対して、互いに独立した波面(後述する視域別波面WZ)が到達するように設計される。ここで、視域Zは、視域面P3における潜像3が観察される視点Vの範囲(存在範囲)である。また、視域群ZGは、視域面P3に設定される複数の視域Zの群である。視域面P3を複数の区画に分割した場合の区画分割された各領域が、視域Zに相当する。なお、視域面P3の分割方法は任意であり、視域Zの形状や寸法は、視域Z毎に独立して設定することができる。また、複数の視域Zは、規則的に配列されても不規則に配置されてもよい。複数の視域Z同士の間に隙間があってもよいが、複数の視域Zが隙間なく並ぶ構成とすると好適である。
【0019】
視域面P3に沿う特定の方向を第1方向Xとし、視域面P3に沿う方向であって第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとして、
図1及び
図2に示す例では、視域面P3を第1方向X及び第2方向Yのそれぞれにおいて3つの区画に分割しており、視域面P3には合計で9つの視域Z(
図1ではそのうちの3つの視域Zのみを図示)が設定されている。
図1等では、複数の視域Zを互いに区別するためにインデックス[M,N](M、Nは整数)を用いており、Mは第1方向Xの座標を表し、Nは第2方向Yの座標を表している。
図1及び
図2において、視域潜像3Z[M,N]は、視域Z[M,N]から観察される潜像3であり、
図2では、視域Zと視域潜像3Zとの対応関係の理解を容易にするために、視域Zから観察される視域潜像3Zを、当該視域Zに重ねて示している。ここでは、潜像3に表示される対象物2をサイコロとしている。
【0020】
図1及び
図2に示す例では、視域面P3を第1方向X及び第2方向Yのそれぞれにおいて均等に分割して視域Zを設定している。そのため、視域群ZGを構成する全ての視域Zは、形状及び寸法の双方が互いに同一とされており、具体的には、同じ寸法の正方形状の領域とされている。なお、視域面P3の分割方法は任意であり、
図5に示すように、視域群ZGに、形状及び寸法の少なくとも一方が互いに異なる複数の視域Zが含まれるようにしてもよい。
図5に示す例では、視域群ZGにおける互いに異なる場所に、正方形状に形成される第1種視域Z1と、円形状に形成される第2種視域Z2と、長方形状に形成される第3種視域Z3とが設定されている。また、
図5に示す例では、第3種視域Z3に分類される5つの視域Zについて、第1方向Xの寸法を第1方向Xの両端部では大きく第1方向Xの中央部では小さくすることで、視域Zの密度を第1方向Xの両端部では低く第1方向Xの中央部では高くなるようにしている。このように、本開示のホログラム素子1では、視域面P3における場所毎に視域Zの形状や密度を異ならせることができる。
【0021】
図1及び
図2に示すように、視域群ZGには、観察される潜像3(視域潜像3Z)が互いに異なる複数の視域Zが含まれている。そのため、観察者がこれら複数の視域Zの間で視点Vを移動させた場合に、観察される潜像3を変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子1を実現することができる。
図2では、視域群ZGを構成する全ての視域Zから互いに異なる潜像3が観察されるようにホログラム素子1が構成されている場合を例示している。
【0022】
ここで、第1方向Xの一方側を第1方向第1側X1とし、第1方向Xの他方側を第1方向第2側X2とし、第2方向Yの一方側を第2方向第1側Y1とし、第2方向Yの他方側を第2方向第2側Y2とする。本実施形態では、視域群ZGに、第1視域と、第1視域に対して第1方向第1側X1に隣接する第2視域とが含まれる。そして、第1視域から観察される潜像3(視域潜像3Z)を第1潜像とし、第2視域から観察される潜像3(視域潜像3Z)を第2潜像として、第1潜像に表示される対象物2が、当該第1潜像での向きよりも第1方向第1側X1から見た向きで第2潜像に表示されるように、ホログラム素子1が構成されている。
【0023】
図2に示す例では、第1方向Xに隣接する2つの視域Zの組のそれぞれが、上記のように構成されている。例えば、視域Z[0,0]を「第1視域」とし視域Z[1,0]を「第2視域」とすると、視域潜像3Z[0,0]が「第1潜像」となり視域潜像3Z[1,0]が「第2潜像」となる。そして、視域潜像3Z[0,0]に表示される対象物2が、当該視域潜像3Z[0,0]での向きよりも第1方向第1側X1から見た向きで、視域潜像3Z[1,0]に表示される。これにより、第1方向Xの視差(運動視差或いは両眼視差)に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができる。
【0024】
また、本実施形態では、視域群ZGに、第1視域に対して第2方向第1側Y1に隣接する第3視域が含まれる。そして、第3視域から観察される潜像3を第3潜像として、第1潜像に表示される対象物2が、当該第1潜像での向きよりも第2方向第1側Y1から見た向きで第3潜像に表示されるように、ホログラム素子1が構成されている。
【0025】
図2に示す例では、第2方向Yに隣接する2つの視域Zの組のそれぞれが、上記のように構成されている。例えば、視域Z[0,0]を「第1視域」とし視域Z[0,1]を「第3視域」とすると、視域潜像3Z[0,0]が「第1潜像」となり視域潜像3Z[0,1]が「第3潜像」となる。そして、視域潜像3Z[0,0]に表示される対象物2が、当該視域潜像3Z[0,0]での向きよりも第2方向第1側Y1から見た向きで、視域潜像3Z[0,1]に表示される。これにより、第2方向Yの視差(運動視差或いは両眼視差)に基づく対象物2の立体感を観察者に与えることができる。
【0026】
図2に示す例では、対象物2(本例では、サイコロ)が立体的に表示されるように、各視域潜像3Zを設定している。すなわち、視域潜像3Z[M,N]は、視域Z[M,N]に対応する方向から対象物2を見た画像に設定されている。例えば、潜像面P2に対象物2が存在するとした場合に視域Z[M,N]から見える対象物2の画像を、視域潜像3Z[M,N]に設定することができる。このように、視域潜像3Z[M,N]を、視域Z[M,N]に対応する方向から対象物2を見た画像に設定することで、上述したように、第1潜像に表示される対象物2は、当該第1潜像での向きよりも第1方向第1側X1から見た向きで第2潜像に表示されると共に、第1潜像に表示される対象物2は、当該第1潜像での向きよりも第2方向第1側Y1から見た向きで第3潜像に表示される。
【0027】
なお、各視域潜像3Zは、光学的には2次元像であり、光学的な奥行き範囲はない(言い換えれば、奥行きに幅がない)。そのため、本開示の技術に、上述した特願2022-58522号にて提案されている技術を組み合わせた場合には、色滲みや像ボケの増加による画質の劣化を抑制しつつ、立体感を観察者に与えることが可能な視差画像を生成することができる。
【0028】
図2では、視域Zの密度が視域面P3における場所によらずに均一とされる場合を例示しているが、上述したように、本開示のホログラム素子1では、視域面P3の分割方法は任意であり、視域面P3における場所毎に視域Zの密度を異ならせることができる。例えば、立体表示させる対象物2の形状によっては、或いは対象物2をアニメーションで動かす場合の動く速度の設定によっては、視域面P3における特定の領域において視点Vの移動距離に対する対象物2の変化量が大きくなる場合がある。この場合、当該特定の領域における視域Zの密度を他の領域に比べて高くすることで、当該特定の領域における視点Vの移動に対する対象物2の変化を滑らかにすることができる。
【0029】
また、視域面P3における特定の領域において視点Vの移動距離に対する対象物2の変化量が小さくなる場合がある。この場合、当該特定の領域における視域Zの密度を他の領域に比べて低くすることで、当該特定の領域における視域Zの面積を大きく確保することができる。視域Zの面積が大きくなるに従って、当該視域Zから観察される潜像3(視域潜像3Z)の生成に寄与する入射面P1上の領域(後述する寄与領域R、
図7参照)が大きくなる。そのため、視域Zの面積を大きくすることで、当該視域Zから観察される潜像3の解像度を高くすることができる。ホログラム素子1の入射面P1に形成するホログラムパターンの計算方法については後述するが、視域Zの面積を大きくすることで、視域群ZGを構成する視域Zの数を少なくして、ホログラムパターンの計算時間を削減することもできる。
【0030】
次に、ホログラム素子1の入射面P1に形成されるパターンについて説明する。
図1に示すように、視域Zから観察される潜像3(視域潜像3Z)は、入射面P1からの伝搬方向が当該視域Zに向かう方向に制御された波面である視域別波面WZにより生成される。そのため、ホログラム素子1は、視域群ZGを構成する視域Zの数に対応する複数の視域別波面WZを生成するように構成される。このようなホログラム素子1は、複数の視域別波面WZを入射面P1上で重ね合わせた波面が入射波面(入射面P1上の入射光を表す波面)で除算された波面を符号化したパターンを、入射面P1に形成することで実現できる。波面同士の除算は、各波面が表す複素振幅分布同士の除算(複素除算)を意味する。
図1に示す例では、入射光(再生光)は、点光源9からの球面波であり、入射波面が表す複素振幅分布は、レンズと同等の位相分布とされる。入射光が平面波である場合、入射波面が表す複素振幅分布は、場所によらず同じ値(例えば、1)とされる。なお、「複数の視域別波面WZを入射面P1上で重ね合わせた波面が入射波面で除算された波面」の計算に際して、入射波面での除算は、複数の視域別波面WZを入射面P1上で重ね合わせた波面に対して行っても、重ね合わせ前の複数の視域別波面WZのそれぞれに対して行ってもよい。
【0031】
視域別波面WZは、回折計算を行って導出することができる。具体的には、視域別波面WZに対応する視域Zを対象視域とし、対象視域から観察される潜像3を対象潜像とし、複数の視域Z(本実施形態では、視域群ZGを構成する全ての視域Z)から観察できる対象潜像を生成するための入射面P1上の波面を基準波面WSとし、基準波面WSに対して入射面P1から視域面P3までの順方向の回折計算を行って得られる視域面P3上の波面を対象波面WTとして、入射面P1上での視域別波面WZは、対象波面WTから対象視域に対応する領域以外の領域の波面を除去した波面に対して、視域面P3から入射面P1までの逆方向の回折計算を行って得られる入射面P1上の波面である。後述するように、基準波面WSは、上記入射波面との乗算により生成される。そのため、基準波面WSには、入射波面が表す複素振幅分布が含まれている。本実施形態では、上記の「対象視域に対応する領域」は、対象視域と同じ領域とされるが、これに限らず、対象視域を拡大又は縮小した領域(例えば、隣接する視域Zとの境界を越えるように対象視域を拡大した領域)としてもよい。
【0032】
以下では、
図3及び
図4を参照して、
図2に示す視域潜像3Z[0,1]を生成するための視域別波面WZを例に、視域別波面WZの計算方法について具体的に説明する。本例では、視域Z[0,1]が上記の「対象視域」に相当し、視域潜像3Z[0,1]が上記「対象潜像」に相当する。
【0033】
まず、複数の視域Z(本実施形態では、視域群ZGを構成する全ての視域Z)から観察できる潜像3(ここでは、視域潜像3Z[0,1]と同じ潜像)を生成するための入射面P1上での波面を計算し、これを基準波面WSとする(
図3参照)。
図3では、図面の見やすさを考慮して、基準波面WSを入射面P1からずらして示している(
図4における視域別波面WZについても同様)。基準波面WSは、視域別波面WZとは異なり、入射面P1からの伝搬方向が特定の視域Zに向かう方向には制御されない波面である。そのため、
図3に示すように、基準波面WSにより生成される潜像3(ここでは、
図2に示す視域潜像3Z[0,1]と同じ潜像)は、視域Z[0,1]だけでなく視域Z[0,0]や視域Z[0,-1]からも観察される。
【0034】
例えば、潜像3をフーリエ面に生成する場合の基準波面WSは、潜像3の原画像に基づくフーリエ変換像の波面に入射波面を乗算した波面とすることができる。波面同士の乗算は、各波面が表す複素振幅分布同士の乗算(複素乗算)を意味する。一方、
図1に示す例のように潜像3をフーリエ面とは異なる面に生成する場合の基準波面WSは、潜像3の原画像に基づくフーリエ変換像にレンズ(具体的には、凹レンズ)の位相分布を乗算した波面に、入射波面を乗算した波面とすることができる。このようにレンズ(仮想レンズ)の位相分布を乗算することで、潜像3の奥行き方向Dの位置を制御することができる。なお、潜像3の原画像に基づくフーリエ変換像は、潜像3の原画像をそのままフーリエ変換したものであっても、潜像3の原画像に何らかの処理(例えば、0から2πの間のランダムな位相を付加する処理)を施した後にフーリエ変換したものであってもよい。
【0035】
次に、
図3に示すように、基準波面WSに対して入射面P1から視域面P3までの順方向の回折計算(伝搬計算)を行い、得られた視域面P3上の波面を対象波面WTとする。そして、
図4に示すように、対象波面WTから視域Z[0,1]に対応する領域以外の領域の波面を除去する(言い換えれば、複素振幅の値を0にする)。このように対象波面WTから視域Z[0,1]に対応する領域以外の領域の波面を除去した波面に対して、視域面P3から入射面P1までの逆方向の回折計算(伝搬計算)を行い、得られた入射面P1上の波面が視域別波面WZとなる。このように計算された視域別波面WZは、入射面P1からの伝搬方向が視域Z[0,1]に向かう方向に制御された波面であるため、
図4に示すように、この視域別波面WZにより生成される潜像3は、視域Z[0,1]からのみ観察される。なお、対象波面WTから対象視域に対応する領域以外の領域の波面を除去するマスク処理を行う際に、対象視域に対応する領域(以下、「対象領域」という)の全域において複素振幅の値をそのままにしてもよいが、この場合、対象領域の外縁に波面の不連続性等のエッジ(境界)が生じることで、上記の逆方向の回折計算で得られる波面に不要なピークが生じる可能性がある。このような不要なピークやそれによる縞を軽減するために、例えば、対象領域を、隣接する視域Zとの境界を越えるように対象視域を拡大した領域とし、マスク処理において、対象領域における複素振幅の値を、対象領域における中央部側から外縁に向かうに従って連続的に小さくなる係数(例えば、ガウス分布の係数)をマスク処理前の値に対して乗算した値とすることができる。
【0036】
上記のような視域別波面WZの計算を全ての視域Zについて行い、得られた複数の視域別波面WZを入射面P1上で重ね合わせた波面を入射波面で除算し、或いは、得られた複数の視域別波面WZのそれぞれを入射波面で除算した後に重ね合わせることで、複数の視域別波面WZを入射面P1上で重ね合わせた波面が入射波面で除算された波面が得られる。そして、このようにして得られた波面を符号化したパターンを、入射面P1に形成する。符号化(コーディング)は、あらゆる手法を採用することができ、例えば、複素振幅分布の偏角の2値化とすることができる。入射面P1に形成されるパターンは、例えば、波面が表す複素振幅分布に対応する凹凸パターンとされる。この凹凸パターンは、例えば、複素振幅分布の位相情報を2値以上に多値化した凹凸パターンとされる。このような凹凸パターンを入射面P1に有するホログラム素子1は、例えば、入射面P1に対する微細加工(フォトリソグラフィプロセス等)を行って製造することができる。この凹凸パターンを、2値化された複素振幅分布の位相情報を深さで表すパターンとする場合には、ホログラム素子1の作製工程が簡素になると共に、パターンの転写を行うことでホログラム素子1の大量生産も容易となるため、コストの低減を図ることもできる。
【0037】
ところで、本出願人らは、特願2022-185844号の出願において、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子についての、本開示とは異なる技術を提案している。
図6は、特願2022-185844号にて提案されている技術を比較例として示している。
図6に示す比較例は、本開示に係る技術の実施例ではないが、
図1に示す本開示の技術との比較を容易にするために、
図1と同様の符号を
図6にも付している。なお、ホログラム素子の性能は、光源のサイズ等のここでは考慮しない要素にも依存するが、以下では、簡略化したモデルで考えた場合の、本開示の技術の比較例の技術に対する利点について説明する。
【0038】
図6に示す比較例では、ホログラム素子1の入射面P1が複数の要素ホログラムEに分割されている。
図6では、入射面P1が9つの要素ホログラムEに分割される場合を想定しており、
図6ではそのうちの3つの要素ホログラムEのみを示している。
図6では、複数の要素ホログラムEを互いに区別するために、インデックス[M,N](M、Nは整数)を用いている。そして、複数の要素ホログラムEのそれぞれは、それぞれに対応する視点Vから観察した場合に潜像面P2に潜像3を生成するように構成されている。
図6において、視点V[M,N]は、要素ホログラムE[M,N]に対応する視点Vであり、要素潜像3E[M,N]は、視点V[M,N]から観察される潜像3である。
図6では、
図1及び
図2に示す例と同様に、対象物2としてのサイコロを立体的に表示する場合を想定しており、要素潜像3E[M,N]を、
図1及び
図2に示す例での視域潜像3Z[M,N]と同じ画像としている。
【0039】
このように、
図6に示す比較例の技術では、入射面P1を複数の要素ホログラムEに分割するため、入射面P1に明示的な境界が存在する。そのため、当該境界が目視される場合や、当該境界における波面の不連続性によって散乱光が誘発される場合がある。これに対して、本開示の技術では、視域面P3を複数の視域Zに分割するものの、入射面P1は直接分割しないため、入射面P1に明示的な境界は存在しない。そのため、本開示の技術では、比較例の技術のように境界が目視されることを回避しやすく(仮に目視される場合であってもその程度を低く抑えやすく)、散乱光の誘発も抑制しやすい。この結果、本開示の技術では、比較例の技術に比べて、意匠性の向上や潜像3の画質の向上を図りやすい。また、本開示の技術では、視域面P3の分割方法は任意であるため、潜像3の解像度と潜像3の変化の滑らかさとのバランスを視域Z毎に決定することができる。そのため、本開示の技術では、比較例の技術に比べて、潜像3の表現力の向上を図りやすいという利点もある。
【0040】
更には、本開示の技術では、比較例の技術に比べて、潜像3の解像度を高くしやすいという利点もある。この点について、本開示の技術を示す
図7と、比較例の技術を示す
図8とを参照して説明する。
図7では、
図2における視域潜像3Z[0,0]及び視域潜像3Z[0,1]に着目しており、
図8では、視域潜像3Z[0,0]及び視域潜像3Z[0,1]に対応する要素潜像3E[0,0]及び要素潜像3E[0,1]に着目している。
【0041】
図7において、視域間隔Tは、視域Zの寸法を表し、角度αは、視域Z[0,0]から潜像面P2上の基準点Aを見込む角度を表している。そして、基準点Aと各視域Zの外縁とを結ぶ線分を破線で示している。一方、
図8において、区画サイズSは、要素ホログラムEの寸法を表し、角度βは、要素ホログラムE[0,0]から潜像面P2上の基準点Aを見込む角度を表している。そして、基準点Aと要素ホログラムEの外縁とを結ぶ線分を視域面P3まで延長した線分を破線で示している。
【0042】
本開示の技術と比較例の技術とを同じ条件で比較するために、
図7における視域間隔Tと
図8における区画サイズSとを、角度αと角度βとが等しくなるように設定している。そのため、幾何学的に考えた場合、
図7において視域潜像3Zの生成に寄与する入射面P1上の領域は、
図8の区画サイズSと同じ大きさの領域となる。このことを示すために、
図8の区画サイズSを
図7にも示している。また、幾何学的に考えた場合、
図8において要素潜像3Eが観察される視域面P3上の領域は、
図7の視域間隔Tと同じ大きさの領域となる。このことを示すために、
図7の視域間隔Tを
図8にも示している。
【0043】
このように幾何学的に考えた場合、本開示の技術(
図7)及び比較例の技術(
図8)のいずれの場合も、潜像3(
図7では視域潜像3Z、
図8では要素潜像3E)の生成に寄与する入射面P1上の領域は、区画サイズSの大きさの領域となり、潜像3の解像度も等しくなる。しかし、以下に説明するように、回折による光の広がりを考慮すると、本開示の技術(
図7)の方が比較例の技術(
図8)よりも、潜像3の生成に寄与する入射面P1上の領域が広くなる。
【0044】
図8に示す比較例の技術では、要素潜像3Eは、要素ホログラムEによって生成されるため、要素潜像3Eの生成に寄与する入射面P1上の領域は、回折による光の広がりを考慮した場合であっても、区画サイズSの大きさの領域となる。そのため、要素潜像3Eを生成する要素別波面WEは、入射面P1において区画サイズSの大きさの領域に存在する。そして、回折による光の広がりを考慮すると、要素別波面WEは、
図8に示すように、入射面P1から視域面P3に向かって伝搬するに従って回折により広がり、視域面P3において視域間隔Tよりも大きく広がる。この結果、潜像3の生成に寄与する情報量の密度が低下し、観察者(具体的には、観察者の瞳)に届く実質的な情報量が減少し得る。また、
図8において要素潜像3E[0,0]を生成する要素別波面WE[0,0]と要素潜像3E[0,1]を生成する要素別波面WE[0,1]とが視域面P3において重なっているように、視域面P3において複数の要素別波面WEが重なるため、視点V毎の潜像3の独立性が損なわれ得る。
【0045】
これに対して、
図7に示す本開示の技術では、上述した計算方法によって視域別波面WZが導出されるため、視域面P3における複数の視域別波面WZの重なりを減らすことができ、視域面P3における複数の視域別波面WZの重なりをなくすこともできる。そのため、
図8に示す比較例の技術に比べて、潜像3の生成に寄与する実質的な情報量の確保や視点V毎の潜像3の独立性の確保が容易となる。また、視域面P3における複数の視域別波面WZの区画分割が与える回折への影響の結果、
図7において視域潜像3Z[0,0]を生成するための視域別波面WZ[0,0]と視域潜像3Z[0,1]を生成するための視域別波面WZ[0,1]とが入射面P1において重なっているように、入射面P1において複数の視域別波面WZが重なることになる。この結果、入射面P1における視域別波面WZの存在領域(言い換えれば、視域潜像3Zの生成に寄与する入射面P1上の領域である寄与領域R)は、区画サイズSよりも大きな領域となる。
【0046】
このように、本開示の技術(
図7)の方が比較例の技術(
図8)よりも、潜像3の生成に寄与する入射面P1上の領域が大きくなり、視域面P3における複数の視域別波面WZの重なりを減らすこともできる。これにより、本開示の技術では、比較例の技術に比べて、潜像3の解像度を高くしやすい。そして、区画サイズSが小さいほど、比較例の技術との差は顕著になる。
【0047】
本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎず、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
【0048】
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明したホログラム素子の概要について説明する。
【0049】
ホログラム素子は、入射面への入射光を回折して潜像を表示するホログラム素子であって、観察者の視点が配置される面を視域面とし、前記視域面における前記潜像が観察される前記視点の範囲を視域とし、前記視域面に形成される複数の前記視域の群を視域群として、前記視域群に、観察される前記潜像が互いに異なる複数の前記視域が含まれ、前記視域から観察される前記潜像は、前記入射面からの伝搬方向が当該視域に向かう方向に制御された波面である視域別波面により生成され、前記視域群を構成する前記視域の数に対応する複数の前記視域別波面を生成するように構成されている。
【0050】
本構成によれば、ホログラム素子による波面の伝搬方向の制御を利用して、視域群を構成する複数の視域のそれぞれに対して、各視域に向かう方向に伝搬方向が制御された視域別波面を伝搬させることができる。そして、視域別波面の形は視域別波面毎に独立して設定することができるため、各視域から観察される潜像は、視域毎に自由に設定することができ、本構成では、視域群に、観察される潜像が互いに異なる複数の視域が含まれる。そのため、観察者がこれら複数の視域の間で視点を移動させた場合に、観察される潜像を変化させることができ、観察方向に応じて複数の画像を選択的に表示可能なホログラム素子を実現することができる。
【0051】
ここで、前記入射面上の前記入射光を表す波面を入射波面として、前記入射面に、複数の前記視域別波面を前記入射面上で重ね合わせた波面が前記入射波面で除算された波面を符号化したパターンが形成され、前記視域別波面に対応する前記視域を対象視域とし、前記対象視域から観察される前記潜像を対象潜像とし、複数の前記視域から観察できる前記対象潜像を生成するための前記入射面上の波面を基準波面とし、前記基準波面に対して前記入射面から前記視域面までの順方向の回折計算を行って得られる前記視域面上の波面を対象波面として、前記入射面上での前記視域別波面は、前記対象波面から前記対象視域に対応する領域以外の領域の波面を除去した波面に対して、前記視域面から前記入射面までの逆方向の回折計算を行って得られる前記入射面上の波面であると好適である。
【0052】
本構成によれば、複数の視域のそれぞれについて、当該視域から観察される潜像を生成するための波面であって当該視域に向かう方向に伝搬方向が制御された視域別波面を、回折計算を行って導出することができる。そして、入射面には、このように導出された複数の視域別波面を入射面上で重ね合わせた波面を、符号化したパターンが形成されるため、複数の視域別波面を生成するホログラム素子を適切に実現することができる。
【0053】
また、前記視域群に、形状及び寸法の少なくとも一方が互いに異なる複数の前記視域が含まれていると好適である。
【0054】
本構成によれば、複数の視域の間で形状及び寸法の少なくとも一方を互いに異ならせることができるため、潜像に表示させる対象物の視点毎に適した視域を設定することができる。例えば、視域面における特定の領域において、視点の移動距離に対する対象物の変化量が大きくなる場合には、視点の移動に対する対象物の変化を滑らかにすることを優先して、当該領域における単位面積当たりの視域の数が多くなるように(言い換えれば、視域の密度が高くなるように)視域の形状や寸法を設定することができる。この場合、隣接する視域間での対象物の変化量(言い換えれば、変化速度)を小さく抑えて、視点の移動に対する対象物の変化を滑らかにすることができる。また、視域面における特定の領域において、視点の移動に対する対象物の変化量が小さくなる場合には、潜像の解像度を高くすることを優先して、当該領域における視域の面積が大きくなるように視域の形状や寸法を設定することができる。この場合、視域の面積が大きくなることに伴い潜像の生成に寄与する入射面上の領域が大きくなるため、当該視域から観察される潜像の解像度を高くすることができる。
【0055】
また、前記視域面に沿う特定の方向を第1方向とし、前記第1方向の一方側を第1方向第1側として、前記視域群に、第1視域と、前記第1視域に対して前記第1方向第1側に隣接する第2視域とが含まれ、前記第1視域から観察される前記潜像を第1潜像とし、前記第2視域から観察される前記潜像を第2潜像として、前記第1潜像に表示される対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記第1方向第1側から見た向きで、前記第2潜像に表示されるように構成されていると好適である。
【0056】
本構成によれば、観察者が視点を第1視点から第2視点に移動させた場合(すなわち、視点を第1方向第1側に移動させた場合)には、視点の移動後に観察される対象物の向きを、視点の移動前に比べて第1方向第1側から見た向きとし、観察者が視点を第2視点から第1視点に移動させた場合(すなわち、視点を第1方向第2側に移動させた場合)には、視点の移動後に観察される対象物の向きを、視点の移動前に比べて第1方向第2側から見た向きとすることができる。よって、適切な視差画像が得られるように各視域から観察される潜像を設定することで、運動視差(或いは、両眼視差)に基づく立体感を観察者に与えることができる。
【0057】
上記の構成において、前記視域面に沿う方向であって前記第1方向に直交する方向を第2方向とし、前記第2方向の一方側を第2方向第1側として、前記視域群に、前記第1視域に対して前記第2方向第1側に隣接する第3視域が含まれ、前記第3視域から観察される前記潜像を第3潜像として、前記第1潜像に表示される前記対象物が、当該第1潜像での向きよりも前記第2方向第1側から見た向きで、前記第3潜像に表示されるように構成されていると好適である。
【0058】
本構成によれば、第1方向だけでなく第1方向に直交する第2方向においても、運動視差(或いは、両眼視差)に基づく立体感を観察者に与えることができる。
【0059】
本開示に係るホログラム素子は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
【符号の説明】
【0060】
1:ホログラム素子
2:対象物
3:潜像
P1:入射面
P3:視域面
V:視点
WS:基準波面
WT:対象波面
WZ:視域別波面
X:第1方向
X1:第1方向第1側
Y:第2方向
Y1:第2方向第1側
Z:視域
ZG:視域群