(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013109
(43)【公開日】2024-01-31
(54)【発明の名称】不焼成型低炭素セメント及びその硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20240124BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240124BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240124BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240124BHJP
C04B 18/04 20060101ALI20240124BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240124BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20240124BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240124BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20240124BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20240124BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B14/10 A
C04B18/04
C04B22/06 A
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B22/08 A
C04B18/14 F
C04B18/16
C04B14/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115055
(22)【出願日】2022-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 柱国
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA00
4G112MA01
4G112MB02
4G112MB06
4G112PA02
4G112PA03
4G112PA06
4G112PA10
4G112PA25
4G112PA26
4G112PA27
4G112PA28
4G112PA29
4G112PA30
4G112PB03
4G112PB06
4G112PB08
(57)【要約】
【課題】従来のコンクリート生産・施工システムを大きく変えることなく、しかも焼成工程が不要で、出発原料として強アルカリ性の溶液を使用せずに硬化後にアルカリ性を示す不焼成型低炭素セメント及びその硬化体を提供する。
【解決手段】炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムから選択される少なくとも1種の炭酸水素塩の粉体である第1成分と、活性フィラーを含む粉体混合物である第2成分と、未炭酸化カルシウムを含む粉体である第3成分とを含む不焼成型低炭素セメントである。この不焼成型低炭素セメントは、水と混合したときに、又は、モル濃度が4mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物水溶液、アルカリ金属の炭酸塩水溶液及びアルカリ金属のケイ酸塩水溶液から選択される少なくとも1種のアルカリ水溶液と混合したときに、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上の硬化体を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムから選択される少なくとも1種の炭酸水素塩の粉体である第1成分と、
活性フィラーを含む粉体混合物である第2成分と、
未炭酸化カルシウムを含む粉体である第3成分と、
を含む不焼成型低炭素セメントであって、
水と混合したときに、又は、モル濃度が4mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物水溶液、アルカリ金属の炭酸塩水溶液及びアルカリ金属のケイ酸塩水溶液から選択される少なくとも1種のアルカリ水溶液と混合したときに、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上の硬化体を生成する、不焼成型低炭素セメント。
【請求項2】
前記活性フィラーは、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン、下水汚泥溶融スラグ粉末及び都市ごみの焼却灰溶融スラグ粉末から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の不焼成型低炭素セメント。
【請求項3】
前記第2成分は不活性フィラーを更に含む、請求項1に記載の不焼成型低炭素セメント。
【請求項4】
前記未炭酸化カルシウムを含む粉体は、未炭酸化カルシウムとして遊離酸化カルシウム(CaO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH)2)から選択される少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載の不焼成型低炭素セメント。
【請求項5】
前記未炭酸化カルシウムを含む粉体は、製鋼スラグ、廃コンクリート、下水汚泥溶融スラグ、流動床石炭灰、都市ごみ焼却飛灰、フェロニッケルスラグ及び電気炉酸化スラグの粉末、細粒又は微粒から選択される少なくとも1種を含むものである、請求項1に記載の不焼成型低炭素セメント。
【請求項6】
アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属のケイ酸塩から選択される少なくとも1種の粉体である第4成分を更に含み、水と混合したときに、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上の硬化体を生成する、請求項1に記載の不焼成型低炭素セメント。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の不焼成型低炭素セメントに水、又は、モル濃度が4mol/L以下のアルカリ金属水酸化物水溶液、アルカリ金属の炭酸塩水溶液及びアルカリ金属のケイ酸塩水溶液から選択される少なくとも1種のアルカリ水溶液を添加して得られる硬化体であって、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上である、硬化体。
【請求項8】
コンクリート用の細骨材及び粗骨材から選択される少なくとも1種の骨材を含む、又は前記細骨材の少なくとも一部が都市ごみ焼却主灰若しくは再生細骨材で代替されている、請求項7に記載の硬化体。
【請求項9】
請求項6に記載の不焼成型低炭素セメントに水を添加して得られる硬化体であって、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上である、硬化体。
【請求項10】
コンクリート用の細骨材及び粗骨材から選択される少なくとも1種の骨材を含む、又は前記細骨材の少なくとも一部が都市ごみ焼却主灰若しくは再生細骨材で代替されている、請求項9に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として建設分野において使用されるセメントと、その硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
建設分野において、モルタル、コンクリート、木質系セメント板、繊維強化セメント板などの建設材料の製造に使用される結合材や接着剤(バインダー)として、セメント、特にポルトランドセメントが多用されている。しかし、ポルトランドセメントの製造過程においてセメントクリンカーの高温焼成には燃料が大量に使用され、石灰石の熱分解が発生するため、ポルトランドセメントには二酸化炭素(CO2)排出原単位が大きいという問題がある。そのため、ポルトランドセメントを用いたコンクリートのCO2排出原単位も大きい。カーボンニュートラルの実現に向け、CO2排出原単位の大きいポルトランドセメントの代替物として、CO2排出原単位の小さいセメント、いわゆる低炭素セメントが求められている。一方、ポルトランドセメントの水和反応生成物には水酸化カルシウム(Ca(OH)2)があるため、ポルトランドセメントの硬化体はpHが11.5以上の強アルカリ性を有し、鉄筋コンクリート部材の鉄筋が腐食を生じにくいという利点がある。したがって、ポルトランドセメントの代替物には、CO2排出原単位が小さいことに加えて、硬化後に強アルカリ性を示すことが求められる。
【0003】
このような背景のなかで、近年、廃棄物や副産物を主原料としたジオポリマーが、低炭素セメントの一種として注目されている。ジオポリマーとは、セメントクリンカーを使用せず、非晶質のケイ酸アルミニウムを主成分とした原料(活性フィラーと略称)とアルカリ金属のケイ酸塩、炭酸塩、水酸化物の水溶液の少なくとも1種類(アルカリ溶液と略称)を用いて常温下又は40℃以上の加温環境では硬化させたものである(非特許文献1参照)。性能とエネルギ消費量を共に考慮して、加温養生の温度は一般的に60℃~80℃である。
活性フィラーとしては、メタカオリン、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、下水汚泥や都市ごみの焼却灰溶融スラグ微粉末及びパーライト原石の微粉末などが挙げられる。また、これらの活性フィラーに加えて不活性フィラーと呼ばれる原料をジオポリマーに使用することもある。ここで不活性フィラーとは、前記のアルカリ溶液と混合しても硬化しないか、硬化しても硬化体の圧縮強度が10MPa以下である粉体のことをいい、例えば、流動床石炭灰、乾式・湿式砕石粉、高炉徐冷スラグ微粉末、都市ごみ焼却灰、木質バイオマス焼却灰などが該当する。これらの不活性フィラーに活性フィラーを添加すれば、ジオポリマーの硬化体を作製することができる。
このように、ジオポリマーの硬化体の作製には、ポルトランドセメントのような焼成工程が不要であり、石灰石も原料に使用しないため、そのCO2排出原単位はポルトランドセメントより小さくなる。
ジオポリマーに使われるアルカリ溶液としては、原料コストと硬化体の性能の観点から、8mol/L以上の苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液、ケイ酸ソーダ(水ガラス)(JIS1号ケイ酸ソーダを水で希釈した水溶液、JIS2号ケイ酸ソーダ原液)、又は苛性ソーダとケイ酸ソーダの混合水溶液が現在一般的に使用されている。これらのアルカリ溶液はアルカリ性を有し、ジオポリマーの硬化体の細孔中に残留することから、ジオポリマーの硬化体はアルカリ性を示すことになる。
その反面、ジオポリマーでは出発原料として強アルカリ性(例えば、アルカリ溶液に苛性ソーダを混合する場合)又は高粘性(例えば、アルカリ溶液にケイ酸ソーダ(水)溶液と苛性ソーダ溶液の体積比が1:1以上である場合)のアルカリ溶液を使用することから、高いコストのほか、作業者の安全性、練り混ぜ、運搬及び打込み等を含めた作業性の面で問題があった。
【0004】
セメント・コンクリート分野全体のCO2排出量を削減するために、最近、ポルトランドセメントを用いたフレッシュコンクリートに、又は、廃コンクリートの粒子にCO2含有ガスの吹込や、炭酸イオン水の注入などを行い、炭酸塩の生成反応によってCO2吸収型や固定型コンクリートや硬化体を製造する技術が開発されている。しかし、従来のコンクリート生産・施工システムにはない新たな工程・装置が必要となる。そのため、従来のコンクリート生産・施工体系と品質管理体系を大きく変え、生産・施工効率が低下し、現場打設施工に適用し難い。また、このような技術では、炭酸塩の生成反応が多くなると、ポルトランドセメントの硬化体や廃コンクリートの粒子固化体にCa(OH)2が生じない又は少なくなるため、硬化体や固化体が中性になる、又は中性化抵抗性が低くなり、鉄筋コンクリート部材の製造に適用し難い。
一方、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、あるいは炭酸水素ナトリウムなどの炭酸水素塩や、炭酸ガスの炭酸化反応を利用して、製鋼スラグの処理技術、製鋼スラグの固化技術がいくつか提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献2等)。これらの技術は基本的に、製鋼スラグ中の遊離CaOがCO2と反応して不溶性炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する炭酸化反応を利用して製鋼スラグの性質安定化や固化を図るものである。炭酸塩や炭酸水素塩によって処理された製鋼スラグは、遊離CaOの水和とC2S(2CaO・SiO2)の変態膨張による粉化を生じにくくなり、路盤材、土木用材料として使用されやすい。しかし、これらの技術はセメント技術範疇外のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-132456号公報
【特許文献2】特開2020-132457号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】公益財団法人日本コンクリート工学会:建設分野へのジオポリマー技術の適用に関する研究委員会報告書,p.1,2017.9
【非特許文献2】新材料としての製鋼スラグ炭酸固化体,コンクリート工学,Vol.38,No.2,p.3-9,2000.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、従来のコンクリート生産・施工システムを大きく変えることなく、しかも焼成工程が不要で、出発原料として強アルカリ性の溶液を使用せずに硬化後にアルカリ性を示す不焼成型低炭素セメント及びその硬化体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、次の不焼成型低炭素セメントが提供される。
炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムから選択される少なくとも1種の炭酸水素塩の粉体である第1成分と、
活性フィラーを含む粉体混合物である第2成分と、
未炭酸化カルシウムを含む粉体である第3成分と、
を含む不焼成型低炭素セメントであって、
水と混合したときに、又は、モル濃度が4mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物水溶液、アルカリ金属の炭酸塩水溶液及びアルカリ金属のケイ酸塩水溶液から選択される少なくとも1種のアルカリ水溶液と混合したときに、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上の硬化体を生成する、不焼成型低炭素セメント。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、上記本発明の不焼成型低炭素セメントに水又は前記のアルカリ水溶液を添加して得られる硬化体であって、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上である硬化体が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不焼成型低炭素セメント(以下、単に「低炭素セメント」という。)は炭酸塩反応及び縮重合反応によって、pHが8.0以上、かつ圧縮強度が5MPa以上の硬化体を生成することができる。この低炭素セメントの製造には、焼成工程が不要で、石灰石を原料としない。更に、生産段階にはCO2を固定する炭酸水素塩を第1成分として使用する。したがって、低炭素セメントのCO2排出原単位は小さい。そして本発明によれば、従来のコンクリート生産・施工システムを大きく変えることなく、少なくとも第1成分、第2成分及び第3成分を含む低炭素セメントに水を加えることで低環境負荷型又はCO2吸収型の硬化体を製造することができる。また、強度向上のために、第1成分、第2成分及び第3成分から構成される低炭素セメントに、水の代わりに従来のジオポリマーの固化時に用いる場合よりも低いアルカリ性のアルカリ水溶液を添加して硬化体を作製する場合は、作業の安全性があり、添加したアルカリ物質が硬化反応に消費されても、硬化後にアルカリ性を示す低炭素セメント及びその硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明者らが実施した実験結果に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
1.主要な使用材料
本実験に使用した炭酸水素塩は、純度が99.5%以上の炭酸水素ナトリウム試薬(粉体)である。
高炉スラグ微粉末(GGBFS)はJIS4000級の規格品である。比表面積(ブレーン値)と密度の実測値はそれぞれ4080cm2/gと2.9であった。GGBFSの主成分は、CaO(45.1%),SiO2(32.6%),Al2O3(13.7%),MgO(4.9%),Fe2O3(0.4%)であった(質量百分率、蛍光X線分析結果)。
また、転炉系製鋼スラグ(SS)をミルで比表面積が約3000cm2/gまで粉砕して使用した。その密度は3.4で、主成分はCaO(49.2%),Fe2O3(25.7%),SiO2(13.6%),Al2O3(2.5%),MgO(2.6%)であった(質量百分率、蛍光X線分析結果)。
【0014】
ポルトランドセメントの強さ試験は、セメント試験体ではなく、モルタル試験体を用いる。セメント硬化体の場合の乾燥収縮によるひび割れに配慮するためであると思われる。しがたって、本発明の低炭素セメントの強度試験は、この低炭素セメントを結合材としたモルタル(以下「低炭素モルタル」という。)で行った。この低炭素モルタルに使用した細骨材は、表乾状態の海砂(S)である(密度2.56,吸水率1.81%,FM2.6)。
【0015】
2.低炭素セメント及び低炭素モルタルの作製と性能測定
本発明の低炭素セメントは、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウムから選択される少なくとも1種の炭酸水素塩の粉体である第1成分と、活性フィラーを含む粉体混合物である第2成分と、未炭酸化カルシウムを含む粉体である第3成分とを含む。
本実験では、第1成分として前記の炭酸水素ナトリウムの粉体、第2成分として前記の高炉スラグ微粉末又はそれとフライアッシュの混合物、第3成分として前記の転炉系製鋼スラグの粉末、後記の廃コンクリートの細粒から選択した1種以上の粉体を使用して低炭素セメントとした。そして、この低炭素セメントに水と前記の細骨材を混ぜて低炭素モルタルを作製した。
なお、本実験では細粒状の廃棄物を添加した場合、それを細骨材と見なした。また、後述の実験例3のように、低濃度のアルカリ水溶液を使用する場合、水の代わりに低濃度のアルカリ水溶液を低炭素セメントと細骨材に混合した。
更に後述の実験例3では、第4成分として無水ケイ酸ソーダ又は炭酸ナトリウムの粉体を含む低炭素セメントを使用して低炭素モルタルを作製した。第4成分とは、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属のケイ酸塩から選択される少なくとも1種の粉体である。この第4成分を含む低炭素セメントを使用する場合は、水と細骨材を混ぜて低炭素モルタルを作製した。
【0016】
なお、本明細書において「粉体」とは固形の粉状物及び粒状物を総称する概念であり、そのサイズは技術常識による。また、本明細書において「微粉末」及び「粉末」とはそれぞれ比表面積(ブレーン値)が2750cm2/g以上及び1500cm2/g以上の粉体のことをいう。更に、本明細書において「細粒」及び「微粒」とはそれぞれ粒径が5mm未満及び0.075mm未満の粉体のことをいう。
【0017】
低炭素モルタルを練り混ぜた直後に、寸法が40×40×160mmの鋼製型枠に打込んで、20±3℃の気中で封緘養生した。28日材齢に、JIS R5201に準じて曲げ強度を測定した。その直後に、1%フェノールフタレイン溶液を1つの折片断面に噴霧して呈色を観察・撮影した。折片断面が赤紫や桃色を示す場合に、モルタルはpHが8.0以上のアルカリ性を有すると判定した。また、折片を用いてと圧縮強度を測定した。
【0018】
圧縮強度試験後のモルタル破片から15g以上のサンプルを採集して、質量を測定した。その後、電気炉に入れ、550℃まで加熱した。昇温速度は10℃/分とし、550℃になってから1時間温度を維持し、炉内で室温まで冷却して質量を測定した。その後、そのサンプルを再度に電気炉に入れ、10℃/分の昇温速度で750℃まで加熱し、750℃で1時間温度を維持した。その後、炉内で室温まで冷却して質量を測定した。そして、CaCO3の生成反応によるCO2の固定率(CUEC)を、550℃加熱後と750℃加熱後の質量差と最初の質量の比の百分率として求めた。
【0019】
3.低炭素セメントのCO2排出原単位とCO2吸収原単位の計算
鉄鋼スラグは製鉄工場の廃棄物であるため、製鉄工程における燃料、電力、水及び石灰石などの消費によって排出されるCO2を鉄鋼スラグに配分しないことにした。しかし、鉄鋼スラグを粉砕するための電力消費によるCO2排出量を考慮しなければならない。参考文献1(李柱国: ジオポリマーコンクリートの環境影響に関する定量的考察, 「建設分野におけるジオポリマー技術の現状と課題」に関するシンポジウム論文集, pp.43-50, 2016.6.)によると、JIS4000級の高炉スラグ微粉末のCO2排出量原単位は0.0599kg-CO2/kgである。前述の通り製鋼スラグには鉄分が多く、高炉スラグより粉砕しにくいかもしれないが、本実験で使用した製鋼スラグの粉末のブレーン値は高炉スラグ微粉末より小さかったため、製鋼スラグ微粉末のCO2排出量原単位は高炉スラグ微粉末と同様に0.0599kg-CO2/kgとした。JIS II種のフライアッシュ、再生細骨材L級及びケイ酸ソーダのCO2原単位は、それぞれ4.44×10-2kg-CO2/kg、3.55×10-3kg-CO2/kg及び1.25kg-CO2/kgである(前記の参考文献1参照)。本実験2、3では使用した廃コンクリートの細粒(RFA)は、0~5mmの粒度を有する粉砕物で、再生細骨材L級と相当品であるため、再生細骨材L級と同様なCO2原単位を有すると仮定した。また、JIS2号水ガラス、無水ケイ酸ソーダ粉末を区別せず、ケイ酸ソーダのCO2原単位を低炭素セメントのCO2排出原単位の算定に近似的に用いた。なお、都市ごみ焼却灰のCO2原単位はゼロとした。塩安法で製造した炭酸ソーダ(Na2CO3)のCO2原単位は0.141kg-CO2/kgである。
【0020】
カーボンフットプリント制度試行事業用CO2換算量共通原単位データベース(暫定版)(https://www.cfp-japan.jp/common/pdf/co2_database.pdf)により、NaOHと水のCO2排出量原単位はそれぞれ1.16kg-CO2/kgと2.11×10-4kg-CO2/kgである。NaOHのCO2排出量原単位に基づいて、乾式法(NaOH+CO2=NaHCO3)で製造したNaHCO3のCO2排出原単位を0.029kg-CO2/kgと算出した。また、2mol/LのNaOH水溶液のCO2原単位は、水の製造によるCO2排出量を除き、0.0859kg-CO2/kgである。
【0021】
1kgの低炭素セメントの作製に使われる各使用材料量(水を除き)とそれぞれのCO2原単位を掛け合わせて、低炭素セメントのCO2排出原単位を計算した。1kgのNaHCO3の製造には0.5238kgのCO2を消費する。低炭素セメントのCO2原単位の計算には、消費したCO2を除いたNaHCO3のCO2原単位を使った。なお、NaHCO3の製造で消費されるCO2を低炭素セメントのCO2吸収とし、1kgの低炭素セメントの作製に使われるNaHCO3量によって低炭素セメントのCO2吸収原単位を計算した。ポルトランドセメント(PC)と高炉セメント(SC)のCO2排出原単位はそれぞれ0.775kg-CO2/kgと0.440kg-CO2/kgである(セメント協会より)。各配合の低炭素セメントのCO2排出原単位のPC,SCに対する比を計算した。
また、低炭素モルタルのCO2原単位、CUEC測定値よりCaCO3の生成によって低炭素モルタルが固定したCO2量を計算した。
【0022】
4.実験例1
高炉スラグ微粉末(又はそれとフライアッシュの混合物)と製鋼スラグの粉末に炭酸水素ナトリウムの粉体を添加して低炭素セメントの実施例と比較例を試作した。表1に、低炭素セメント及びその低炭素セメントを使用したモルタルの配合と性能を示す。なお、表1において本発明の範囲内にある低炭素セメントの実施例には配合の記号の前に○を付し、本発明の範囲外である低炭素セメントの比較例には配合の記号の前に×を付すことにより、実施例と比較例とを区別している。後述する表2及び表3においても同様である。
【0023】
【0024】
この実験結果によって、炭酸水素ナトリウムの粉体を使う場合には、炭酸水素ナトリウムの添加率に拘わらず、高炉スラグ微粉末のみ使用したもの(配合a,b)は硬化したが、硬化体の強度は極めて小さかった。これは、炭酸水素ナトリウムの塩基度(アルカリ性)が低く、高炉スラグ微粉末の成分を溶出しないためである。しかし、高炉スラグ微粉末と製鋼スラグ粉末を適切な割合で混合すれば、圧縮強度が5MPa以上の硬化体を作製することができた。
【0025】
銑鉄を鋼に精錬するときに、鋼として不要な成分であるケイ素、リン、硫黄等を除去するために生石灰(酸化カルシウム(CaO))を添加する。この生石灰は、精錬に十分な熱と時間をかけて精錬すれば溶解される。しかし、精錬に要する時間は短時間であるため、生石灰は一部そのままの状態で製鋼スラグ中に残存する。表層の遊離石灰(free-CaO)は、
図1に概念的に示しているように、まず炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)と炭酸塩反応(Step1)を生じてCaCO
3とNaOHを生成する。生成したNaOHは、高炉スラグ微粉末のCa,Si,Alを溶出させ、Ca(OH)
2,Si(OH)
4,Al(OH)
4の縮重合反応(Step2)を誘発してC-A-S-Hを生成する。生成したNaOHは製鋼スラグの非遊離Ca,Si,Alを溶出させ、炭酸塩反応の他に縮重合反応も生じる可能性がある(“Step2縮重合反応”向きの点線(a)で示す)。製鋼スラグとの反応で炭酸水素ナトリウムが使い切れなければ、高炉スラグ微粉末から溶出するカルシウム成分の炭酸塩反応を発生する可能性もある(“高炉水砕スラグ”から出発して“NaOH”と“CaCO
3”に行く点線(b)で示す)。両スラグよる炭酸塩反応が生成したNaOHは、製鋼スラグ粉末粒子の内部の遊離石灰の炭酸塩反応を更に促進する(まずCaO+2NaOH=Ca(OH)
2+Na2O、次にCa(OH)
2+NaHCO
3=CaCO
3+NaOH+H
2O)(製鋼スラグから出発して“NaOH”と“CaCO
3”に行く点線(b)+(c)で示す)。炭酸塩反応、NaOH生成及び縮重合反応の連鎖で、低炭素セメントが硬化し、その硬化体はNaOHの存在によりpHが8.0以上のアルカリ性を示すことになる。
【0026】
製鋼スラグ粉末の質量と2種類のスラグ粉末の合計質量の比、すなわち製鋼スラグの混合率が大きいほど、低炭素モルタルの圧縮強度は大きかった(配合g,i,k)。勿論、製鋼スラグの混合率は少ないと、炭酸塩の生成反応に伴って生成するNaOHは少なく、高炉スラグの縮重合反応を誘発しない。また、製鋼スラグの混合率は大きすぎると、高炉スラグが少なく、縮重合反応の生成物は少量になるため、硬化後の強度は小さい恐れがある。したがって、製鋼スラグの混合率は10%以上必要であり、20~80%がより好ましい。逆に、高炉スラグ微粉末の混合率(高炉スラグ微粉末と2種類のスラグ粉末の合計質量の比)は、80~20%が好ましい。
また、炭酸水素ナトリウムを多く添加すると、低炭素モルタルの圧縮強度は小さくなることが認められた(配合fとg,iとj,kとl)。炭酸水素ナトリウムを過剰に添加すると、モルタルは硬化するものの強度は殆どない(配合h)。製鋼スラグの混合率に応じて、炭酸水素ナトリウムを適切に添加すべきである。例えば、製鋼スラグの混合率が0.3の場合、炭酸水素ナトリウムの添加率(炭酸水素ナトリウムの質量と2種類のスラグ粉末の合計質量の比)が12%のときに強度は最大であった(配合f)。なお、高炉スラグ微粉末の一部はJIS II種のフライアッシュで置換されても、アルカリ性の硬化体を作製することができた(配合n)。
【0027】
高炉スラグを使用せずに、製鋼スラグのみを使用したモルタルは硬化したが、28日材齢の圧縮強度は3.6MPaしかなかった(配合m)。なお、圧縮強度が6.8MPa以上の各モルタルはアルカリ性を示した。
【0028】
また、低炭素モルタルのCaCO3生成によるCO2固定率は1.3~1.9%であり、1m3の低炭素モルタルは30kg前後のCO2をCaCO3生成で固定した。炭酸水素ナトリウムの添加率が高いほど、低炭素モルタルのCO2吸収原単位が大きいわけであるが、添加した炭酸水素ナトリウムはすべて炭酸塩反応に消費されず、一部がモルタルに残留される。CO2固定の立場より、炭酸水素ナトリウムは低炭素セメントの硬化体に残留してもよい。しかし、硬化体のコストを考慮すると、表1に示すCO2固定量の測定結果によって、炭酸水素ナトリウムの合理な添加率は、製鋼スラグの混合率に応じて異なり、製鋼スラグの混合率が20~50%の場合には2種類のスラグ粉末の合計質量の8%~15%が好ましい。
【0029】
2種類のスラグ粉末と炭酸水素ナトリウムからなる低炭素セメントのCO2排出原単位とCO2吸収原単位は、炭酸水素ナトリウムの添加率によって若干異なる。実用上の強度(圧縮強度が5MPa以上)を有する硬化体を生成する低炭素セメントのCO2排出原単位とCO2吸収原単位は、それぞれ0.054~0.057kg-CO2/kgと-0.007~-0.016kg-CO2/kgである。低炭素セメントのCO2排出原単位はポルトランドセメントの7.0~7.5%、高炉セメントの12~13%しかない。原料の輸送と混合工程におけるCO2排出量を計上しても、低炭素セメントのCO2排出原単位はポルトランドセメントの10%以下と考えられる。計算結果をここに省略するが、低炭素セメントの原料の輸送と混合工程におけるCO2を計上しない場合には、同等な強度を有する低炭素セメントを使用したコンクリート(以下「低炭素コンクリート」という。)のCO2排出原単位はポルトランドセメントを使用したコンクリート(以下「PCコンクリート」という。)の10%程度である。
【0030】
なお、60℃加温養生履歴があっても、常温養生で硬化した配合は硬化した(配合g加温)。60℃加温養生履歴があると、硬化体の強度は、常温養生より若干高くなった。すなわち、この低炭素セメントは、40℃以上の加温養生方法に適用することができる。
【0031】
5.実験例2
表2に、高炉スラグ微粉末に製鋼スラグ粉末を混合し、一部の海砂が都市ごみ焼却主灰又は廃コンクリートの細粒に代替され、炭酸水素ナトリウムと水を加えた低炭素モルタルの配合と性能計測結果を示す。比較のため、都市ごみ焼却主灰又は廃コンクリートの細粒を使用しない配合jも示す。廃コンクリートの細粒の主成分は,SiO2(40.5%),CaO(21.7%),Al2O3(9.0%),MgO(1.0%),Fe2O3(2.7%)であった(質量百分率、蛍光X線分析結果)。この廃コンクリートの細粒は、JIS再生細骨材Lの相当品である。
【0032】
【0033】
製鋼スラグを混合した場合に、都市ごみ焼却主灰又は廃コンクリートの細粒で一部の海砂を代替しても低炭素モルタルを作製できた。都市ごみ焼却灰又は廃コンクリートの細粒の混合によって、低炭素モルタルの強度は増加した(配合j,o,pの比較)。
また、製鋼スラグを使用しなくても、廃コンクリートの細粒を適切に混合すれば、養生温度にかかわらず、実用上の強度を有し、アルカリ性を示す低炭素セメントの硬化体を作製することができた(配合r,r加温,s)。加温養生は、20℃8時間の封緘養生後に、60℃24時間の封緘養生を更にした後に、2日間20℃常温養生の試験体であり、試験材齢は3日であった。廃コンクリートの細粒の混合率(廃コンクリートの細粒の質量と細骨材全体の質量の比。ここで、細骨材はコンクリート用の細骨材を指し、2種類の粉末を含まないものである。)が高いほど、低炭素モルタルの強度は大きかった。また、廃コンクリートの細粒の混合率が低すぎる場合には、低炭素モルタルの強度は5MPa未満と小さくなった(配合q)。廃コンクリートの細粒又は廃コンクリートで製造されるJIS規格品の再生細骨材の混合率は、配合qとq加温の結果によって20%超が好ましく、細骨材の全量に使用することもできる。
【0034】
製鋼スラグを使用しなくても、低炭素モルタルのCaCO3生成によるCO2固定率は最大2.0%に達した。廃コンクリート中の水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の炭酸塩反応は、製鋼スラグと同様に、低炭素セメントの硬化に寄与すると考えられる。廃コンクリートの細粒の製造は製鋼スラグ粉末の製造よりエネルギ消費量が少ないため、廃コンクリートの細粒を用いた低炭素セメントのCO2排出原単位は、製鋼スラグ粉末を用いた低炭素セメントより少なく、0.05kg-CO2/kg以下であり、それぞれポルトランドセメントと高炉セメントの6%以下、10%以下である。
【0035】
6.実施例3
炭酸水素ナトリウムを2種類のスラグ粉末の合計質量の7%の添加率で添加し、2mol/LのNaOH水溶液を水の代わりに使用して低炭素モルタルを作製した。表3に、低炭素モルタルの配合と性能の計測結果を示す。なお、配合yでは、JIS2号ケイ酸ソーダ原液を更に増強剤として添加し、炭酸水素ナトリウムの添加率を2種類のスラグ粉末の合計質量の6%とした。JIS2号ケイ酸ソーダ原液の混合量が溶液全体の1/3以下であったため、溶液の粘性が不混合の場合より上がっても、従来のジオポリマーに使われるアルカリ溶液には主にケイ酸ソーダ(水)溶液を混合するため、本発明の低炭素セメント硬化体のフレッシュ時の粘性はジオポリマーに比べて低く、練り混ぜ、ポンプ圧送、打込みなどの作業を容易に行うことができる。また、強アルカリ性・高粘性のアルカリ溶液を使用しないため、作業の安全性と容易性に問題が発生しない。
【0036】
【0037】
配合tの強度の試験結果に示すように、製鋼スラグ粉末や廃コンクリートの細粒を添加しなければ、高炉スラグ微粉末と炭酸水素ナトリウムに2mol/LのNaOH水溶液を添加しても硬化しなかった。しかし、前述のように、製鋼スラグ又は廃コンクリートを添加すれば、NaOH水溶液を加えなくても硬化した(配合k,l,q)。また、配合u,vは、高炉スラグを使わずに製鋼スラグ粉末を粉体の全量に使用したものであるが、2mol/LのNaOH水溶液を添加しても硬化しなかった。NaOH水溶液の使用有無に拘わらず、製鋼スラグ粉末を固化するためには、高炉スラグ微粉末の添加が必要であった。
【0038】
配合k,l,wの圧縮強度を比べると、2mol/LのNaOH水溶液の使用によって、低炭素モルタルの圧縮強度は増加した。また、2mol/LのNaOH水溶液を使う又は更に増強剤としてJIS2号ケイ酸ナトリウム原液を添加すると共に、廃コンクリートの細粒で一部の海砂を代替すると、低炭素モルタルの強度は大幅に増加し、ポルトランドセメントの圧縮強度の規格値(42.5MPa)を満足した(配合x,y,z)。なかでもケイ酸ナトリウムを添加した配合yの強度は最高であった。水又はアルカリ水溶液の使用量は、凝結前の流動性の要求に応じて調整される。練り混ぜができるようにするために、2種類のスラグ粉末の合計質量の25%以上が好ましい。
NaOH水溶液やケイ酸ナトリウムを添加すると、低炭素セメントのCO2排出原単位は増加する。それぞれポルトランドセメントと高炉セメントの25%以下、40%以下になる。測定した低炭素モルタルのCaCO3の生成によるCO2固定率はNaOH水溶液やケイ酸ナトリウムを使用しない場合とはほとんど違いがない。
なお、低濃度のNaOH水溶液又はケイ酸ナトリウム(水)溶液を水の代わりに低炭素セメントに混合して硬化体を作製するのではなく、配合k-s,k-nのように、第4成分として、無水ケイ酸ソーダ粉末、炭酸ナトリウム粉末を低炭素セメントに含め、これに水を加えれば硬化体を作製できた。苛性ソーダ粉末はケイ酸ソーダ、炭酸ナトリウムよりアルカリ性(pH)が高いため、苛性ソーダ粉末の添加実験を行わなくても、その添加が低炭素セメント硬化体の強度発現性を向上することを推測できる。無水ケイ酸ソーダ粉末又は炭酸ナトリウム粉末を添加しても、不焼成型低炭素セメントのCO2排出原単位は依然としてPC、SCより大幅に低く、それぞれPC、SCのCO2排出原単位の14%以下と24%以下である。
【0039】
7.本実験結果のまとめ
本実験では、従来のジオポリマーの作製に使用しない炭酸水素塩の粉体(第1成分)、高炉スラグ又はそれと他の活性・不活性フィラーとの混合粉体(第2成分)、製鋼スラグの粉末又は廃コンクリートの細粒(第3成分)の三成分を含み、水又はアルカリ水溶液と混合したときに、炭酸塩反応と縮重合反応が共に発生して硬化し、硬化体がアルカリ性を示す低炭素セメントについて種々の実験を行った。得られた主な知見を以下に示す。
1)高炉スラグ微粉末と製鋼スラグ粉末のいずれかに炭酸水素塩を混合しても、水又は低モル濃度のNaOH水溶液の使用では固化しない。炭酸水素塩を使用する場合、2種類のスラグ粉末は適当な割合で混合すれば固化し、アルカリ性を示す。また、高炉スラグ微粉末の一部は他の活性フィラーや非活性フィラーで代替されることができる。
2)炭酸水素塩を使用する場合、製鋼スラグ粉末を使用しなくても、廃コンクリートの細粒を適切な量で部分的に細骨材として使用すれば、高炉スラグ微粉末と混合しても、硬化体を作製することができる。また、都市ごみ焼却主灰を部分的に細骨材として使っても低炭素セメントの硬化体を作製することができる。その場合、硬化体の強度は製鋼スラグ粉末を単独で用いたものより大きい。
3)水の代わりに、低モル濃度のNaOH水溶液、ケイ酸ナトリウム溶液又はこれらの混合溶液を低炭素セメントと混合して、硬化体を作製することができる。それらの溶液の使用によって、低炭素セメントの硬化体の強度は大きくなる。
4)低炭素セメントに、無水ケイ酸ナトリウム粉末又は炭酸ナトリウム粉末を添加すれば、水で硬化した低炭素セメントの強度は増加する。
5)炭酸水素塩と製鋼スラグ粉末を用いた低炭素セメントのCO2排出原単位はポルトランドセメントの7.0~7.5%、高炉セメントの12~13%である。炭酸水素塩、高炉スラグ微粉末及び廃コンクリート細粒を用いた低炭素セメントのCO2排出原単位はポルトランドセメントの6%以下、高炉セメントの10%以下である。水の代わりにNaOH水溶液又はケイ酸ナトリウム溶液を混合する場合、低炭素セメント硬化体のCO2排出原単位は上昇するが、ポルトランドセメントと水の硬化体の2.5割以下、高炉セメントと水の硬化体の4割以下に抑えられる。
【0040】
8.変更例
以上、本発明者らが実施した実験結果に基づいて本発明の実施の形態を説明したが、本発明は本実験結果に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で適宜変更することができる。主な変更例を以下に示す。
1)本実験では第1成分として炭酸水素ナトリウムの粉体を使用したが、炭酸水素カリウムの粉体を単独で又は炭酸水素ナトリウムの粉体と混合して使用することもできる。炭酸水素カリウムを使用した場合、炭酸塩反応によりKOHが生成する。KOHはNaOHよち塩基度(アルカリ度)が高い。したがって、炭酸水素カリウムを使用した低炭素セメントでも、炭酸塩反応と縮重合反応が共に発生して硬化し、硬化体がアルカリ性を示す。
2)本実験では第2成分を構成する活性フィラーとして高炉スラグ微粉末(又はそれとフライアッシュの混合物)を使用したが、活性フィラーとしてはメタカオリンを単独で、又は高炉スラグ微粉末(若しくはそれとフライアッシュの混合物)と混合して使用することもできる。メタカオリンは縮重合反応性が最高である活性フィラーであるから、低炭素セメントに使用できることは明らかである。また、下水汚泥や都市ごみの焼却灰溶融スラグ微粉末及びパーライト原石の微粉など、従前よりジオポリマーの活性フィラーとして使用されている粉体を使用することもできる。
3)第2成分は活性フィラーのほかに不活性フィラーを含むことができる。不活性フィラーとは前述の通り、ジオポリマーに用いられるような強アルカリ性・高濃度のアルカリ溶液と混合しても硬化しないか、硬化しても硬化体の圧縮強度が10MPa以下である粉体のことをいい、例えば、流動床石炭灰、乾式・湿式砕石粉、高炉徐冷スラグ微粉末、都市ごみ焼却灰、木質バイオマス焼却灰、石炭とバイオマスやリサイクル燃料の混焼灰などが該当する。不活性フィラーは充填材であるので硬化反応を阻止しない。そのため、必要に応じて不活性フィラーを添加してもよい。
4)本実験では第3成分として製鋼スラグの粉末と廃コンクリートの細粒を使用したが、本発明の低炭素セメントではその硬化機構(
図1参照)からして、第3成分は、未炭酸化カルシウムを含む粉体であればよい。また、このような未炭酸化カルシウムを含む粉体は、未炭酸化カルシウムとして遊離酸化カルシウム(CaO)及び水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)から選択される少なくとも1種を含むものとすることができる。製鋼スラグは遊離酸化カルシウム(CaO)を含み、廃コンクリートは水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)を含む。なお、製鋼スラグを粉末ではなく、細粒の形態で、廃コンクリートを細粒ではなく微粒の形態で使用することもできる。
製鋼スラグと廃コンクリートの他に、未炭酸化カルシウムを含む廃棄物又は産業副産物として、下水汚泥溶融スラグ、CaOの含有率が高い流動床石炭灰、都市ごみ焼却飛灰、フェロニッケルスラグ及び電気炉酸化スラグなどが挙げられる。循環流動床燃焼方式では、石炭中の硫黄分を硫黄酸化物(SOx)に転化して排出することを避けるために、石灰石-石膏法、水酸化マグネシウム法及び活性炭法のいずれかの脱硫方式が利用されている。脱硫方式に石灰石-石膏法や活性炭法を用いた場合には流動床石炭灰に遊離CaOが多く含まれ、その含有率は質量基準で15~30%であるが、水酸化マグネシウム法の場合、流動床石炭灰中の遊離CaOの含有率が質量基準で5%以下であり遊離CaOの含有率が高い灰を用いる方が好ましい。また、都市ごみ焼却時に発生する排ガス中には塩化水素(HCl),SOxなどの酸性ガスを除去するために、石灰(CaO)や消石灰(Ca(OH)
2)が大量に使用されるため、都市ごみ焼却飛灰にはCa(OH)
2又は遊離CaOが多く含まれる。遊離CaOが下水汚泥溶融スラグに含まれるため、下水汚泥溶融スラグをポルトランドセメントを用いたコンクリートに使うとポップアウト現象が発生する。ロータリーキルン法でフェロニッケルを製造する際に、石灰石を混合するため、混合量によってフェロニッケルスラグが遊離石灰を含む場合がある。なお、電気炉酸化スラグは、遊離石灰とともに遊離MgOを含有するため、炭酸水素塩を添加すると、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの両方を生成しうる。したがって、これらのものの粉末、細粒又は微粒は、本発明の低炭素セメントの第3成分として使用することができる。勿論、活性フィラーの縮重合反応を誘発する最小限のアルカリ物質(NaOH)を生成するためにはこれらのものの使用量を適切に調整する必要である。
5)本実験では低濃度のアルカリ水溶液として2mol/LのNaOH水溶液とケイ酸ナトリウム(JIS2号水ガラス原液)を使用したが、これらには限定されず、本発明ではモル濃度が4mol/L以下のアルカリ金属の水酸化物水溶液、アルカリ金属の炭酸塩水溶液及びアルカリ金属のケイ酸塩水溶液から選択される少なくとも1種を使用することができる。
6)本実験では第4成分としてケイ酸ナトリウムの粉体と炭酸ナトリウムの粉体を使用したが、これらには限定されず、本発明では第4成分として、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアルカリ金属のケイ酸塩から選択される少なくとも1種のアルカリ性粉体を使用することができる。
7)本実験では低炭素セメントを使用して低炭素モルタルを作製したが、従来のコンクリート用の粗骨材を添加すれば低炭素コンクリートを作製することもできる。この場合、コンクリート用の細骨材及び粗骨材から選択される少なくとも1種の骨材を含むことができる。また、本実験では細骨材として海砂を使って、低炭素モルタルを作製したが、他の天然砂、砕砂、クリンカアッシュ、再生細骨材、スラグ細骨材(例えば、銅スラグ、都市ごみ溶融スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグなど)等、及びそれらの混合物を細骨材として使用することができる。遊離CaO又はCa(OH)
2を含有するもの、例えば、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ、再生細骨材を細骨材として使用した場合、これらの細骨材は本実験で使用した廃コンクリートの細粒のように、低炭素セメントの第3成分を兼ねることになる。