(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001311
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】Ni-Cr-Co-Mo-Ti-Al合金の延性を向上させるための熱処理
(51)【国際特許分類】
C22F 1/10 20060101AFI20231226BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20231226BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
C22F1/10 H
C22C19/05 L
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630C
C22F1/00 630M
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 621
C22F1/00 651B
C22F1/00 630A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187724
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2020526017の分割
【原出願日】2018-11-09
(31)【優先権主張番号】62/584,340
(32)【優先日】2017-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】595104529
【氏名又は名称】ヘインズ インターナショナル,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パイク、リー
(57)【要約】
【課題】従来に確立された合金用の熱処理に起因するものと比較して、より高い材料延性および対応する閉じ込め因子をもたらす、HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金(UNS N07208)用の新しい時効硬化熱処理を提供すること。
【解決手段】
UNS N07028範囲内の合金組成物を熱処理する方法は、合金組成物を843℃~954℃の間の温度で少なくとも2時間加熱し、次に704℃~843℃の間の低温で少なくとも2時間加熱する。843℃~954℃の間の温度で合金組成物を加熱する前に、合金組成物を、1010℃~1066℃の間の温度で少なくとも1時間加熱してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
UNS N07028の範囲内の合金組成物の熱処理方法であって、
前記合金組成物を843℃~954℃(1550°F~1750°F)の温度で少なくとも2時間加熱するステップと、
次に、前記合金組成物を704℃~843℃(1300°F~1550°F)の低温で少なくとも2時間加熱するステップ
とを含む熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UNS N07208の特定のNi-Cr-Co-Mo-Al-Ti合金組成物に適用され、これにより、従来確立された合金用の熱処理と比較して延性を向上させる熱処理に関するものである。特に、これらの熱処理により、中間温度、例えば約760℃(1400°F)での延性が向上する。この温度は、特に航空機エンジンにおいて、高延性を必要とするガスタービンエンジンの部品の動作にとって重要な温度である。
【背景技術】
【0002】
HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金は、多くの用途、特に航空機用および産業用ガスタービンエンジンの両方の部品に使用されるUNS N07208の市販の合金である。合金は公称Ni-20Cr-10Co-8.5Mo-2.1Ti-1.5Alであるが、この合金の組成範囲の規定を表1に示す。この合金は、優れたクリープ強度、熱安定性、および加工性に対してその独自の組み合わせにより注目に値する。HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金の優れた加工性は、優れた熱間加工性、冷間加工性および溶接性(歪み時効割れ耐性および高温割れ耐性の両方)を含む。
【表1】
【0003】
優れたクリープ強度を達成するために、282(登録商標)合金は、時効硬化状態で使用される。時効硬化処理の主な目的は、ガンマプライム相を析出/成長させ、材料の強度/硬度を高めること(時効硬化と呼ばれるプロセス)である。通常は、時効硬化処理は、部品に完全に加工し、加工後の「溶体化処理」を行った後に、合金に行う。282(登録商標)合金の溶体化処理温度は、通常1093℃~1149℃(2000~2100°F)の範囲である。282(登録商標)合金の「標準時効硬化」処理は、1010℃(1850°F)で2時間+788℃(1450°F)で8時間である。この熱処理は、282(登録商標)合金の入門の論文(例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照)ならびに国際的仕様(「析出熱処理」と呼ばれる)(非特許文献3および非特許文献4を参照)に記載されている。「単一工程(シングルステップ)」時効硬化熱処理の使用は、282(登録商標)合金で検討されている(例えば、非特許文献5を参照)。通常、これらの単一ステップの時効硬化処理は、約802℃(1475°F)で4~8時間行われる。上記の両方の熱時効硬化熱処理が注目を集め、使用中または大規模な試験プログラムで使用されているが、いずれの熱処理から生じる中間温度の延性も、すべての用途に十分ではない場合があることが分かっている。
【0004】
ガスタービンエンジン内の、特に航空エンジン内の特定の部品では、できるだけ高い中間温度延性を有することが望ましい。特定のケースやリングを含み得るこれらの部品は、エンジンが故障した場合に良好な閉じ込め特性を備えている必要がある。このような閉じ込め特性は、高強度に加えて、動作温度での合金の延性に大きく依存する。閉じ込め特性は、費用のかかる特別な高ひずみ速度試験で測定するのが最良であるが、関連する温度での標準的な引張試験から得られる延性(伸び)値を考慮することによって、閉じ込め特性の妥当な測定値が得られる。引張試験からの降伏強さ(YS)と極限引張強さ(UTS)の値もまた考慮される。閉じ込め因子CFは、引張試験の結果から計算でき、CF=1/2*(YS+UTS)*(伸び)として定義される。閉じ込め特性が必要な用途では、高い値のCFが望まれる。異なる材料条件に対するCF値を比較する場合、引張特性は製品の形状とサイズ、ならびに試験試料の形状に大きく依存する可能性があるため、類似の製品の形状とサイズを比較し、同じ試料形状を使用することが重要である。
【0005】
基礎となる引張特性が、通常、温度に依存するという事実を考慮すると、閉じ込め因子は温度に依存する。閉じ込め特性が重視される用途の場合、使用温度は約649℃(1200°F)~816℃(1500°F)の「中間範囲」に入る場合がある。このため、本発明の試験には760℃(1400°F)の温度が選択された。「標準」時効硬化条件と「単一ステップ」時効硬化条件の両方で282(登録商標)合金に対して、760℃(1400°F)の引張特性および結果として得られるCF値を表2に示す。この表には、1.6mm(0.063インチ)の厚さの薄板(シート)からのデータのみが含まれている。「標準」時効硬化処理(熱処理コードAHT1)は、単一ステップ時効硬化条件(熱処理コードAHT0)よりもかなり高いCF、つまり2751対1344を得られることが分かる。YSおよびUTSの両方がAHT1条件でわずかに高くなっているが、最大の違いは、AHT0条件での延性(伸び)の大幅な低下(26.0%対12.9%)である。AHT1条件でのより高いCF値は良好であるが、閉じ込め特性が不可欠である用途では、さらに高いCF値が望ましい。本発明の基礎は、延性および対応するCF値がさらに大きくなる282(登録商標)合金の新しい時効硬化熱処理の発見である。
【表2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8,066,938号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L. M. Pike,“HAYNES 282 alloy - A New Wrought Superalloy Designed for Improved Creep Strength and Fabricability”(「HAYNES 282合金-クリープ強度と加工性の改善のために設計された新鍛造超合金」) ASME Turbo Expo 2006, paper no. GT2006-91204, ASME Publication, New York, NY, 2006.
【非特許文献2】L. M. Pike,“Development of a Fabricable Gamma-Prime (γ’) Strengthened Superalloy”(「加工可能なガンマプライム(γ’)強化超合金の開発」), Superalloys 2008 - Proceedings of the 11th International Symposium on Superalloys, p 191-200, 2008
【非特許文献3】AMS仕様AMS5951 Rev. A、ニッケル合金、ニッケル合金、耐食性および耐熱性、薄板、ストリップ、およびプレート、57Ni-20Cr-10Co-8.5Mo-2.1Ti-1.5Al-0.005B、SAE International(2017)
【非特許文献4】AMS仕様AMS5915、ニッケル合金、ニッケル合金、耐食性および耐熱性、バーおよび鍛造品、57Ni-20Cr-10Co-8.5Mo-2.1Ti-1.5Al-0.005B、SAE International(2014)
【非特許文献5】S. K. Srivastava, J. L. Caron, and L. M. Pike.“Recent Developments in the Characteristics of Haynes 282 Alloy For Use in A-USC applications”(「化石発電所用材料技術の進歩」) Advances in Materials Technology for Fossil Power Plants: Proceedings from the Seventh International Conference, October 22-25, 2013 Waikoloa, Hawaii,USA, p. 120. ASM International, 2014
【非特許文献6】M. G. Fahrmann and L. M. Pike,“Experimental TTT Diagram of HAYNES 282 Alloy”(「HAYNES 282合金の実験的TTT図」), Proceedings of the 9th International Symposium on Superalloy 718 & Derivatives: Energy Aerospace and Industrial Applications, E. Ott et al. (Eds.),2018年6月3-6日, The Minerals, Metals, and Materials Society, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、従来に確立された合金用の熱処理に起因するものと比較して、より高い材料延性および対応する閉じ込め因子(CF)をもたらす、HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金(UNS N07208)用の新しい時効硬化熱処理を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
新しい熱処理には、少なくとも2つのステップが含まれる。第1の必要なステップは、843℃(1550°F)~954℃(1750°F)の温度範囲内での熱処理である(ここでは「ステップ1」と称される)。第2の必要なステップは、704℃(1300°F)~843℃(1550°F)の温度範囲内での熱処理である(ここでは「ステップ2」と称される)。ステップ1の範囲内の最低温度は、ステップ2の範囲内の最高温度(843℃(1550°F))と同じであるが、2つのステップの間で温度が低下するように、2つのステップの温度を選択する必要がある。2つのステップの持続時間は、処理する製品のサイズと形状によって様々にできるが、各ステップは少なくとも2時間必要である。1つの例は、第1のステップに4時間、その後、第2のステップに8時間である。これらの2つの必要なステップに加えて、任意選択でステップ1の前に挿入され得る1010℃(1850°F)~1066℃(1950°F)の範囲内のステップ(ここでは「ステップ0」と称する)がある。このステップの持続時間もまた様々にできるが、例えば、約1~2時間とすることができる。上記のマルチステップの熱処理は、合金用に従来に確立された熱処理と比較して、760℃(1400°F)の中間温度で延性および対応する閉じ込め因子をかなり改善した282(登録商標)合金を提供することが予想外に見出されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】UNS N07208内の合金組成を本方法に従って熱処理されたときに形成された(M
23C
6とガンマプライムの両方からなる)粒界層の典型的なSEM像である。この場合、熱処理はAHT2である。
【
図2】UNS N07208内の合金組成を「標準」の2ステップ時効硬化熱処理(AHT1)を使用して熱処理されたときに生じる、離散M
23C
6炭化物の粒界層の典型的なSEM画像である。
【
図3】UNS N07208内の合金組成を単一ステップ時効硬化熱処理(AHT0)を使用して熱処理されたときに生じる連続M
23C
6炭化物の粒界層の典型的なSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
UNS N07208範囲内の合金組成物のためのマルチステップ時効硬化熱処理が提供される。これにより、この合金用に従来確立された時効硬化処理に対して、改善された中間温度延性および対応する閉じ込め因子が得られる。
【0012】
マルチステップの熱処理は、843℃(1550°F)~954℃(1750°F)のステップ(ステップ1)と、その後の704℃(1300°F)~843℃(1550°F)の低温ステップ(ステップ2)とを必要とする。各ステップの持続時間は様々にできるが、一例としては、第1のステップが4時間、第2のステップが8時間である。任意選択として、ステップ1の前にステップを挿入してもよい。このステップ(ステップ0)の温度範囲は、1010℃(1850°F)~1066℃(1950°F)である。ステップ0の持続時間もまた様々にできるが、一例としては2時間である。表3に、282(登録商標)合金の新しい熱処理のステップを示す表を示す。
【表3】
【0013】
多数のマルチステップ時効硬化熱処理が282(登録商標)合金の試料に適用された。試料は、様々な時効硬化熱処理を施す前にミルアニーリング(溶体化処理)された1.6mm(0.063インチ)の薄板(シート)から作製された。本発明の一部である熱処理のリストは、各処理を識別するためのコードと共に表4aに示される。本発明以外の他の熱処理も比較のために試験され、表4bに記載されている。
【表4】
【表5】
【0014】
熱処理された試料を、この臨界温度でそれらの強度、延性、および閉じ込め因子を決定するために、760℃(1400°F)で引張試験した。また、選択した試料のミクロ組織を、SEM(走査型電子顕微鏡)を使用して調べ、合金内の粒界析出に対する熱処理の影響を調べた。
【0015】
引張試験の結果を表5に示す。表2に示したAHT0およびAHT1の試験結果を、比較の目的のためにここに再掲する。
【表6】
【0016】
結果は、AHT2~AHT5、AHT10、およびAHT12~AHT23の17の熱処理のすべてが、熱処理AHT0およびAHT1に比べて有意に増加した延性(伸び)の値を有することを示している。実際、これらの17の熱処理のすべてにより、(最も近い整数に丸めた場合)30%を超える引張延性が得られた。対照的に、AHT0、AHT1、AHT6~AHT9、およびAHT11の7つの熱処理では、すべて、引張延性値は30%未満になった。さらに、新しく発見された17の熱処理(AHT2~AHT5、AHT10、AHT12~AHT23)が施された場合、合金の強度に有意な変化はなく、UTSにごくわずかな変化(いくつかはわずかに増加、他はわずかに減少)のみが観察され、YSは実際、AHT0とAHT1に対して17のすべての場合でわずかに増加した。対照的に、AHT6とAHT7は両方とも、調査された他の熱処理と比較して、YSが大幅に低下した。これは、この重要な特性の許容できない低下であり、したがって、AHT6もAHT7も本発明の一部とは見なされない。伸びの大幅な増加と、強度に大きな変化がないこととの複合効果は、17の熱処理(AHT2~AHT5、AHT10、およびAHT12~AHT23)のいずれかが施された場合、AHT0またはAHT1に比べて閉じ込め因子(CF)が大幅に増加することが見出されたことであった。これは非常に望ましい結果であり、良好な閉じ込め特性が必要な用途で使用される場合、282合金に明確な利点を提供する。数値的には、本発明の一部である17の熱処理から得られた282合金シート試料のCF値はすべて、3275よりも大きいことが見出された。対照的に、本発明の一部ではない7つの熱処理から得られたCF値はすべて、3275よりも小さかった。
【0017】
表5に考慮された24の熱処理のうち、本発明の一部である17は、AHT2~AHT5、AHT10、およびAHT12~AHT23である。表3に規定されているように、これらの17の熱処理のみがステップ1およびステップ2の両方を含み、それらの17の熱処理においてのみ、本発明の目的である高い延性およびCF値が得られた。
【0018】
本発明の熱処理における様々なステップの有益な効果をより良く理解するためには、熱処理の前後で、282(登録商標)合金を観察して得られるミクロ組織を検討することが有用である。まず、熱処理されたままの状態、および従来の熱処理(AHT0およびAHT1)により生じた状態を確認する。
【0019】
熱処理されたまま:
HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金は、通常、熱処理されたままの(またはミルアニーリングされた)状態で販売されている。282(登録商標)合金の典型的な熱処理温度は、1093℃(2000°F)~1149℃(2100°F)の範囲である。この状態では、ミクロ組織に存在する一次炭化物/窒化物はごくわずかである。粒界および粒内には、本質的に二次析出が無い。これは、技術論文である非特許文献2を含む公開された文献で説明されている。
【0020】
AHT1:
「標準」熱処理(AHT1)から得られたミクロ組織の特徴もまた、この技術論文に記載されている。第1のステップ(1010℃(1850°F)/2時間)は、粒界に位置し、「石垣」構成で成長した離散M
23C
6炭化物の形成をもたらした。1010℃(1850°F)は、282アロイの982℃(1827°F)のガンマプライムのソルバス温度よりも十分に高いことに注意されたい。AHT1の第2のステップ(788℃(1450°F)/8時間)は、粒子全体に均一に分布した微細なガンマプライム相の形成をもたらした。ガンマプライムは本質的に球形で、直径は約20nmであった。粒界でのガンマプライム相の顕著な蓄積または層は観察されなかった。AHT1熱処理後の典型的な282合金粒界のSEM画像を
図2に示す。
【0021】
AHT0:
「シングルステップ」熱処理(AHT0)に起因するミクロ組織の特徴は、技術論文である非特許文献5で説明されている。この処理には1つのステップ(802℃(1475°F)/8h)しか無い。このステップにより、標準処理と比較して、粒界でより連続的なM
23C
6層が生じた。このような粒界のSEM画像が
図3に与えられる。また、この単一ステップの熱処理中に形成されたのは、直径38~71nmの球形のガンマプライムであり、「標準」熱処理よりも幾分粗い。また、粒界ではガンマプライム相の顕著な蓄積または層は観察されない。
【0022】
次に、本発明の熱処理に起因して観察されたミクロ組織の特徴について説明する。その際、各ステップは個別に考慮される。
【0023】
ステップ1(843℃(1550°F)~954℃(1750°F)):
この温度範囲は、282(登録商標)合金の982℃(1827°F)のガンマプライムのソルバス温度よりも十分に低いので、ガンマプライム相を形成するはずであることが予想される。843℃(1550°F)~954℃(1750°F)の範囲で熱処理が施された材料の研究では、ガンマプライムが実際に形成されることが示されている。この場合も、粒内に球状のガンマプライムが均一に析出していることが観察される。しかしながら、さらに、離散M
23C
6炭化物に加えて、粒界にかなりの量のガンマプライム相が観察される。これらの2つの相が一緒になって、複合粒界層を形成している。この粒界層の典型的なSEM像を
図1に示す。このような層は、282(登録商標)合金用の2つの従来に確立された熱処理(AHT0またはAHT1)のいずれにおいても見出されなかったことに注意されたい。現時点では特定のメカニズムは提供されていないが、本発明の熱処理中に形成される複合ガンマプライム+M
23C
6粒界層は、本発明を定義する改善された中間温度延性および関連する閉じ込め因子をもたらすと考えられている。これらの粒界層の存在、特に282(登録商標)合金の中間温度延性および閉じ込め特性に対するそれらの有益な効果は予想外であり、本発明の基礎としての役割を果たす。
【0024】
ステップ2(704℃(1300°F)~843℃(1550°F)):
この温度範囲は、ガンマプライムのソルバスよりもさらに低い。したがって、ステップ1の後にステップ2を適用すると、ガンマプライム相の体積分率は増加し続けるであろう。このガンマプライムの増加により、合金がさらに強化され、典型的な用途に必要な高いYSを提供する。いくらかの追加のM23C6の析出も起こるであろう。
【0025】
ステップ0(1010℃(1850°F)~1066℃(1950°F)):
このステップは、本発明の熱処理の中で任意のステップと見なされ、ステップ1の前に適用される。このステップは、「標準」熱処理の第1のステップを反映する。したがって、結果として生じるミクロ組織は、離散M23C6の石垣構成である。ステップ1およびステップ2が適用されると、ミクロ組織には、粒界ガンマプライム層、ならびに粒内に存在する球状のガンマプライムも含まれる。
【0026】
(表3に規定されるように)ステップ1およびステップ2の両方を含む、ここで考慮される熱処理のすべては、改善された中間温度延性および関連する閉じ込め因子の所望の特性を有し、同時に強度の低下が生じないことが見出された。これは、ステップ1の前にステップ0が適用されたかどうかにかかわらなかった。このような熱処理には、AHT2~AHT5、AHT10、およびAHT12~AHT23が含まれる。これらはすべて、本発明の熱処理と見なされる。
【0027】
上記のように、粒界での複合ガンマプライム+M23C6層の存在は、本発明の熱処理によって提供される282(登録商標)合金において改善された中間温度延性および関連する閉じ込め因子に関与すると考えられている。このような層は、熱処理のステップ1構成の適用後に形成される。しかしながら、層自体の形成によっては、本発明を完全に規定できるものではない。例えば、熱処理AHT6には、粒界に複合ガンマプライム+M23C6層を提供するステップ1が含まれる。しかしながら、AHT6にはステップ2は含まれていない。その結果、形成される強化ガンマプライム相が少なくなり、YSがかなり低くなる。実際、それは低すぎる。したがって、所望のYSを達成するには、ステップ1の後にステップ2を適用することが重要である。また、AHT6から生じる延性も、所望の30%未満である。AHT9およびAHT11の熱処理も単一ステップである(ステップ1のみ)。AHT6と同様に、AHT9もAHT11も、所望の30%の延性を有さない。単一ステップの熱処理では、282合金における許容できるYS並びに高い延性およびCF値の望ましい組み合わせが得られないようである。このような特性の組み合わせを実現するには、(表3でステップ1およびステップ2として規定される)少なくとも2つのステップを含む熱処理が必要であることを見出した。ステップ1およびステップ2の温度範囲は843℃(1550°F)の温度で重複するが、本発明は2つのステップ間で温度を低下させる必要があるため、本発明は、ステップ1とステップ2の両方が843℃(1550°F)である熱処理を包含しない。そのような熱処理は、所望の特性を満たさないAHT11などの単一ステップの熱処理と本質的に同じであろう。
【0028】
複合ガンマプライム+M23C6層の単なる存在がそれ自体十分ではない別の一例が、AHT7である。この熱処理には第1のステップと第2のステップが含まれるが、第1のステップは、表3で定義されているステップ1の範囲(最高954℃(1750°F))と比較して高過ぎる温度(982℃(1800°F))である。しかしながら、AHT7の第2のステップは、表3で定義されたステップ2内に含まれる。しかしながら、AHT7は本発明の熱処理と同様ではあるが、過度に高い第1のステップの温度は、許容範囲よりも低いYSをもたらす。特定のメカニズムに拘束されることはないが、これは982℃(1800°F)で形成されるガンマプライムが粗すぎるため、強化の効果が低い結果であり得ると考えられる。したがって、ステップ1を表3で規定された上限以下に保つことが重要である。実際、熱処理によって生成されるガンマプライム相が粗すぎないことをさらに確実にするために、ステップ1の上限温度は、927℃(1700°F)に下げることが最も好ましい。
【0029】
どの温度でガンマプライム層が282(登録商標)合金の粒界に形成されるかをより良く理解するために、追加の研究が行われた。本研究では、282(登録商標)合金の試料は、649℃(1200°F)~1093℃(2000°F)の範囲の温度で10時間熱処理された。試料をSEMで検査して、粒界にガンマプライム+M
23C
6層を探した。結果を表6に示す。ガンマプライム+M
23C
6層が見つかった温度範囲は816℃(1500°F)~982℃(1800°F)であった。しかしながら、816℃(1500°F)では、層のガンマプライム成分の連続性が低下しているように見えた。前述のAHT0およびAHT1熱処理と組み合わせて、それぞれ802℃(1475°F)および788℃(1450°F)での曝露後に粒界でガンマプライムが観察されなかったというこの事実は、有益なほとんど連続的なガンマプライム層の形成の下方境界は、まさに約816℃(1500°F)であることを示唆している。したがって、完全に発達した層を確保するには、ステップ1の下限816℃(1500°F)を楽に上回る843℃(1550°F)に設定する必要があると考えられる。前の段落でステップ1の上限は954℃(1750°F)であることが見出されたため、ステップ1の許容温度範囲は843℃(1550°F)F~954℃(1750°F)である。より好ましくは、ガンマプライム相の過度の粗大化を回避するために、ステップ1の許容温度範囲は、843℃(1550°F)~927℃(1700°F)にさらに制限され得る。
【表7】
【0030】
前の2つの段落では、ステップ1の許容温度範囲は、ミクロ組織の議論に基づいて規定された。表5に示される引張データは、ステップ1の温度範囲の妥当性をさらに支持している。例えば、範囲の上限954℃(1750°F)は、AHT4およびAHT5から得られる高い延性とCF値によって支持される。927℃(1700°F)のより好ましい上限の場合、熱処理された試料(AHT17およびAHT21)の延性およびCF値も高い。ステップ1の温度範囲の下端(843℃(1550°F))では、熱処理AHT10およびAHT18により高い延性およびCF値がもたらされることが見出された。任意のステップ0がステップ1の前に行われるかどうかに関係なく、良好な引張特性が、指定されたステップ1の温度範囲にわたって見出されたことに注意されたい。
【0031】
規定された範囲の外にあるステップ1の温度は、所望の特性が得られない可能性がある。例えば、AHT7の場合、982℃(1800°F)のステップ1の温度は、規定された限度を超えている。この場合、延性とCF値が低過ぎた(それぞれ30%未満および3275未満)だけでなく、YSもAHT1と比較して望ましくないほど減少した。同様に、AHT8は、816℃(1500°F)のステップ1の熱処理が規定された限度を下回る熱処理である。この熱処理はまた、低過ぎる延性およびCF値をもたらす。
【0032】
前述のように、ステップ2の主な目的は、可能な限り強度/硬度を増加させる目的で、ガンマプライムの析出を完了することである。発表された研究である非特許文献2は、等温時効が282(登録商標)合金の硬度に及ぼす影響を調べた。著者によっていくつかの追加の試験も行われた。要約すると、約732℃(1350°F)~約816℃(1500°F)の範囲で時効処理を行った後に、最大硬度が達成されることが見出された。同様の等温硬化研究が最近発表され、これは従来の研究(非特許文献6)と一致している。硬度は、合金のYSと大まかに相関すると予想できる。したがって、硬度データに基づいて、本発明の熱処理のステップ2の適切な温度範囲は、732℃(1350°F)~816℃(1500°F)である。しかしながら、表5の引張データから、ステップ2の範囲を704℃(1300°F)~843℃(1550°F)の温度を含むように拡張できることは明らかである。これは、AHT12およびAHT19(両方とも704℃(1300°F)のステップ2の温度を有する)が許容引張特性をもたらすという事実によるものであるが、AHT16とAHT20(両方とも843℃(1550°F)のステップ2の温度を含む)についても同じである。
【0033】
任意のステップ0の目的は、ステップ1の間に粒界にガンマプライムを形成する前に、離散石垣タイプの構成で粒界にM23C6を形成することである。このため、温度はガンマプライムのソルバスの982℃(1827°F)を楽に超えている必要がある。1010℃(1850°F)は一貫して、そのような構造を生成するための許容温度であることが示されているため、ステップ0の低温として機能する。ステップ0の上限は、熱処理温度よりもいくらか低くする必要があり、さもなければ処理中に粒子サイズが粗くなりがちであり、これは優れた機械的特性のために望ましくないものである。282(登録商標)合金のための熱処理温度は、典型的には1093℃(2000°F)~1149℃(2100°F)の範囲内であるので、上限温度は、約1066℃(1950°F)以下に維持する必要がある。したがって、ステップ0の温度範囲は、1010℃(1850°F)~1066℃(1950°F)にする必要がある。表5に示される引張データは、この範囲を支持している。例えば、AHT2は、1010℃(1850°F)のステップ0の下限温度が良好な延性およびCF値をもたらした、6つの異なる試験された熱処理のうちの1つである。同様に、AHT23は、1066℃(1950°F)のステップ0の上限温度が良好な延性とCF値をもたらした一例である。しかしながら、注意として、ステップ0を使用した場合と使用しない場合の両方の熱処理で非常に良好な閉じ込め特性が実現されているため、このステップは、本発明の熱処理の任意の構成であり、必須ではない。
【0034】
本テキストで既に言及したように、新しい時効硬化処理の効果を検討する場合、同じ製品形状および大きさの材料を試験することが重要である。表5に報告されている引張試験は、すべて1.6mm(0.063インチ)インチの厚さの薄板(シート)で行われた。新しい熱処理の影響をより完全に理解するために、プレートおよびリングの両方の材料に対しても試験が実施された。まず、12.7mm(0.5インチ)プレートの熱処理研究の結果が提供される。本研究では、282プレート試料(ミルアニーリングされた状態で開始)に、AHT1、AHT2、およびAHT3の熱処理を施した。結果が表7に与えられる。本発明の2つの熱処理(AHT2およびAHT3)は、薄板製品で見られたほど劇的ではないが、AHT1と比較して改善された延性および関連するCFを提供した。例えば、AHT3は、AHT1よりも(薄板製品の63%の増加と比較して)25%高いCF値をもたらした。それにもかかわらず、新しい熱処理は、著しい違いをもたらした。さらに、強度の著しい損失は観察されなかった。
【表8】
【0035】
溶体化処理に続いて異なる時効硬化熱処理を施した圧延リング(直径約610mm(24インチ))の引張特性を測定した。結果を表8に示す。ここでも、新しい熱処理であるAHT2およびAHT3により、延性とCFが著しく改善され、強度はほとんど失われなかった。AHT1と比較して、新しいAHT2およびAHT3の熱処理は、圧延リング試料においてAHT1よりもCFをそれぞれ14%および26%改善した。
【表9】
【0036】
試験された試料は鍛造薄板、プレート、およびリングに限られていたとしても、新たな熱処理は、他の製品形態に対しても利点を提供することが合理的に期待できる。これらは、他の鍛造形態(棒材、管材、パイプ、鍛造品、ワイヤーなど)、および鋳造、溶射成形、または粉末冶金の形態、つまり、粉末、圧縮粉末、焼結粉末、付加加工粉末等を含むことができるが、これらに限定されない。したがって、本発明は、282(登録商標)合金(UNS N07208)のすべての製品形態に適用される規定された熱処理を包含する。
【0037】
ここに提示された試験はすべて、HAYNES(登録商標)282(登録商標)合金(UNS N07208)に対してであったが、本発明の熱処理の有益な結果は、特定の主要な相が、同様の温度および同様の形態で析出するならば、同様の組成の合金に対して観察され得ると考えられる。一例は、特許文献1によって網羅される全範囲の組成物とすることができる。しかしながら、このような熱処理は、必ずしも(溶接可能な鍛造ニッケル系のガンマプライムフォーマーとして記載され得る)282(登録商標)合金と同じ一般的な合金分類の全ての合金に有効であろうとは予想されない。これは、異なる主要な相(ガンマプライム、M23C6等)のソルバス温度が合金によって大幅に変化し、形成される相の形態もまた合金によって幅広く変化することが予想され得るためである。
【0038】
熱処理の特定の好ましい実施形態を開示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲内で種々具体化されてもよいことが明確に理解されるべきである。