(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131100
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】水処理システムおよびその運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240920BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20240920BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240920BHJP
【FI】
C02F1/00 D
C02F1/20 A
C02F1/00 B
C02F1/00 V
C02F1/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041155
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 臨太郎
【テーマコード(参考)】
4D025
4D037
【Fターム(参考)】
4D025AA04
4D025BA08
4D025BA13
4D025DA01
4D025DA03
4D025DA04
4D025DA05
4D037AA03
4D037AB11
4D037BA18
4D037BA23
4D037BB05
4D037BB07
4D037CA01
4D037CA02
4D037CA03
4D037CA15
(57)【要約】
【課題】水の無駄な消費を抑制しながら、循環する純水の水質を良好に維持する。
【解決手段】水処理システム1は、処理手段13,14と、処理手段13,14に被処理水を供給する給水ラインL2と、処理手段13,14からの純水を流通させる純水ラインL5と、純水ラインL5からの純水を貯留する純水タンク21と、純水タンク21内の純水を循環させる循環ラインL10と、循環ラインL10から分岐して給水ラインL2に接続された還流ラインL13と、循環ラインL10に設けられた純水の水質検出手段24と、水質検出手段24の検出結果に基づいて、循環ラインL10を循環する純水の水質が所定の水質を満たしていないと判定した場合に、循環する純水の少なくとも一部を還流ラインL13から給水ラインL2に還流させて処理手段13,14で処理した後、純水ラインL5を通じて純水タンク21に貯留する水質回復処理を実行する制御手段25とを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱気装置およびイオン除去装置の少なくとも1つを含む処理手段と、
前記処理手段に被処理水を供給する給水ラインと、
前記処理手段で得られた純水を流通させる純水ラインと、
前記純水ラインを流通した純水を貯留する純水タンクと、
前記純水タンク内の純水を循環させる循環ラインと、
前記循環ラインから分岐して前記給水ラインに接続された還流ラインと、
前記循環ラインに設けられ、該循環ラインを循環する純水の水質を検出する水質検出手段と、
前記水質検出手段の検出結果に基づいて、前記循環ラインを循環する純水の水質が所定の水質を満たしていないと判定した場合に、前記循環する純水の少なくとも一部を前記還流ラインから前記給水ラインに還流させて前記処理手段で処理した後、前記純水ラインを通じて前記純水タンクに貯留する水質回復処理を実行する制御手段と、を有する水処理システム。
【請求項2】
前記処理手段に供給される被処理水の流量を検出する流量検出手段と、
前記処理手段に供給される被処理水の流量を調整する流量調整手段と、を有し、
前記制御手段は、前記水質回復処理において、前記流量検出手段の検出結果に基づいて前記流量調整手段を制御し、前記処理手段に供給される純水の流量を調整する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記流量調整手段が、前記給水ラインおよび前記純水ラインのうち前記給水ラインと前記還流ラインとの接続部の下流側、または、前記還流ラインに設けられた流量調整弁であり、
前記制御手段は、前記水質回復処理において、前記流量検出手段の検出結果に基づいて前記流量調整弁の開度を調整する、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記流量調整手段が、前記循環ラインに設けられ、前記純水タンク内の純水を前記循環ラインに流通させる循環ポンプであり、
前記制御手段は、前記水質回復運転において、前記流量検出手段の検出結果に基づいて前記循環ポンプの回転数を調整する、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記水質回復処理において、前記処理手段に供給される純水の流量が前記水処理システムの通常運転時の被処理水の流量よりも小さくなるように、前記流量調整手段を制御する、請求項2から4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
医薬品製造に使用される純水を製造する用途に用いられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
脱気装置およびイオン除去装置の少なくとも1つを含む処理手段と、前記処理手段に被処理水を供給する給水ラインと、前記処理手段で得られた純水を流通させる純水ラインと、前記純水ラインを流通した純水を貯留する純水タンクと、を有する水処理システムの運転方法であって、
前記純水タンク内の純水を循環ラインに沿って循環させる工程と、
前記循環ラインを循環する純水の水質を検出し、該検出された水質が所定の水質を満たしているか否かを判定する工程と、
前記検出された水質が前記所定の水質を満たしていない場合に、前記循環ラインから分岐して前記給水ラインに接続された還流ラインを通じて、前記循環ラインを循環する純水の少なくとも一部を前記処理手段に供給して処理した後、前記純水ラインを通じて前記純水タンクに貯留する工程と、を含む、水処理システムの運転方法。
【請求項8】
前記少なくとも一部の純水を前記処理手段に供給する工程が、
前記処理手段に供給される純水の流量を検出する工程と、
前記検出された流量に基づいて、前記処理手段に供給される純水の流量を調整する工程と、を含む、請求項7に記載の水処理システムの運転方法。
【請求項9】
前記純水の流量を調整する工程が、前記給水ラインおよび前記純水ラインのうち前記給水ラインと前記還流ラインとの接続部の下流側、または、前記還流ラインに設けられた流量調整弁の開度を調整することを含む、請求項8に記載の水処理システムの運転方法。
【請求項10】
前記純水の流量を調整する工程が、前記循環ラインに設けられ、前記純水タンク内の純水を前記循環ラインに流通させる循環ポンプの回転数を調整することを含む、請求項8に記載の水処理システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムおよびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製造などに使用される純水(精製水や注射用水など)をユースポイントに供給する装置として、純水タンク内の純水を循環ラインに沿って循環させながら、必要に応じてその一部をユースポイントに供給する純水供給装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。このような純水供給装置では、ユースポイントでの需要の有無にかかわらず、滞留による生菌発生を抑制するために純水の循環運転が常時行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-095479号公報
【特許文献2】特開2017-196587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、循環ラインを循環して純水タンクに戻される純水は、通常、シャワーボールによって純水タンク内に散水されるが、その際に、ベントフィルタを通じて純水タンク内に流入する空気と接触し、その空気中の二酸化炭素が純水に溶解することがある。それにより、純水の導電率が上昇し、ユースポイントで要求される水質基準を満たさなくなるおそれがある。こうして悪化した水質を回復させるために、多くの場合、循環する純水の一部を外部に排出し、それに応じて純水製造装置から新たな純水を補給する方法が用いられるが、このような水質回復方法は、水の無駄な消費につながり、節水の観点から好ましくない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、水の無駄な消費を抑制しながら、循環する純水の水質を良好に維持する水処理システムおよびその運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の水処理システムは、脱気装置およびイオン除去装置の少なくとも1つを含む処理手段と、処理手段に被処理水を供給する給水ラインと、処理手段で得られた純水を流通させる純水ラインと、純水ラインを流通した純水を貯留する純水タンクと、純水タンク内の純水を循環させる循環ラインと、循環ラインから分岐して給水ラインに接続された還流ラインと、循環ラインに設けられ、循環ラインを循環する純水の水質を検出する水質検出手段と、水質検出手段の検出結果に基づいて、循環ラインを循環する純水の水質が所定の水質を満たしていないと判定した場合に、循環ラインを循環する純水の少なくとも一部を還流ラインから給水ラインに還流させて処理手段で処理した後、純水ラインを通じて純水タンクに貯留する水質回復処理を実行する制御手段と、を有している。
【0007】
また、本発明の水処理システムの運転方法は、脱気装置およびイオン除去装置の少なくとも1つを含む処理手段と、処理手段に被処理水を供給する給水ラインと、処理手段で得られた純水を流通させる純水ラインと、純水ラインを流通した純水を貯留する純水タンクと、を有する水処理システムの運転方法であって、純水タンクに貯留された純水を循環ラインに沿って循環させる工程と、循環ラインを循環する純水の水質を検出し、検出された水質が所定の水質を満たしているか否かを判定する工程と、検出された水質が所定の水質を満たしていない場合に、循環ラインから分岐して給水ラインに接続された還流ラインを通じて、循環ラインを循環する純水の少なくとも一部を処理手段に供給して処理した後、純水ラインを通じて純水タンクに貯留する工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水の無駄な消費を抑制しながら、循環する純水の水質を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水処理システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書において、精製水とは、常水を、蒸留、イオン交換、逆浸透、限外ろ過、またはそれらの組み合わせにより精製したものを意味し、注射用水とは、精製水を滅菌し、発熱性物質(エンドトキシン)試験や無菌試験に適合したものを意味する。このような精製水および注射用水としては、例えば、日本薬局方で規定されたものを例示することができる。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る水処理システムの概略構成図である。なお、図示した水処理システムの構成は、単なる一例であり、本発明を制限するものではなく、システムの使用目的や用途、要求性能に応じて適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0012】
水処理システム1は、純水製造装置2と純水供給装置3とから構成されている。純水製造装置2は、被処理水(原水)を順次処理して純水を製造するものであり、純水供給装置3は、純水製造装置2で製造された純水を循環させながら保持し、必要に応じてその一部をユースポイント4に供給するものである。
【0013】
純水製造装置2は、原水タンク11と、膜分離装置12と、脱気装置13と、電気式脱イオン水製造装置(以下、「EDI装置」ともいう)14とを有している。
【0014】
膜分離装置12は、市水などの原水に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であり、原水タンク11から供給される原水を、不純物を含む濃縮水と不純物が除去された透過水(処理水)とに分離する逆浸透膜(RO膜)を有している。膜分離装置12の分離膜としては、RO膜に限定されず、例えば、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)などを用いることができる。ただし、処理水質の向上の観点から、NF膜またはRO膜を用いることが好ましく、RO膜を用いることがより好ましい。なお、膜分離装置12は、複数のRO膜を有していてもよく、それらは、直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよく、直列と並列を組み合わせて接続されていてもよい。ここでいう「直列に接続される」とは、被処理水が複数のRO膜で順次処理されることを意味し、隣接する2つのRO膜において、上流側のRO膜で分離された透過水が下流側のRO膜に被処理水として供給されることを意味する。この場合、上流側のRO膜で分離された透過水が下流側のRO膜でさらに処理されるため、より良好な水質の処理水を得ることができる。
【0015】
膜分離装置12には、膜分離装置12に原水を供給する原水ラインL1と、膜分離装置12からの透過水を流通させる透過水ラインL2と、膜分離装置12からの濃縮水(以下、「RO濃縮水」ともいう)を流通させるRO濃縮水ラインL3とが接続されている。原水ラインL1は、その上流側で原水タンク11に接続されている。透過水ラインL2は、その下流側でEDI装置14に接続されている。また、透過水ラインL2には、脱気装置13が設けられている。したがって、透過水ラインL2は、脱気装置13やEDI装置14に被処理水としての透過水を供給する給水ラインとしても機能する。また、RO濃縮水ラインL3は、その下流側で原水タンク11に接続されている。原水タンク11には、原水補給ラインL4が接続され、必要に応じて原水が供給される。
【0016】
原水ラインL1には、加圧ポンプ15が設けられている。加圧ポンプ15は、原水タンク11に貯留された原水を膜分離装置12に供給する機能を有するとともに、インバータ(図示せず)によって回転数が制御されるようになっており、膜分離装置12への原水の供給圧力を調整する機能も有している。
【0017】
なお、図示していないが、原水ラインL1のうち加圧ポンプ15の上流側には、送水ポンプと、熱交換器と、軟水器と、活性炭ろ過器と、フィルタとが、好ましくは上流側からこの順に設けられていてもよい。送水ポンプは、加圧ポンプ15と共に、原水タンクに貯留された原水を膜分離装置12に供給する機能を有している。熱交換器は、季節によって変動する原水の温度を一定温度(例えば25℃)に制御するために用いられる。また、本実施形態では、製造される純水が医薬品製造などに使用される場合、純水製造装置2の通常運転(純水製造)の合間に、例えば60℃以上の熱水により系内の生菌数を低減させる熱水殺菌工程が定期的に行われるが、熱交換器は、そのときの熱水を生成するためにも用いられる。軟水器は、内部にイオン交換樹脂(カチオン交換樹脂)が充填され、膜分離装置12に供給される原水からカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分を除去する機能を有している。活性炭ろ過器は、膜分離装置12に供給される原水から残留塩素を除去する機能を有し、フィルタは、活性炭ろ過器から生じる微粉炭を捕捉して除去する機能を有している。なお、軟水器の位置は特に限定されないが、活性炭ろ過器が設けられている場合には、上述したようにその上流側であることが好ましい。これにより、原水に含まれる残留塩素が活性炭ろ過器で除去される前に、軟水器に原水が通水されるため、軟水器内での生菌の繁殖を抑制することができる。
【0018】
透過水ラインL2には、流量調整弁CV1と流量センサ16が設けられている。流量調整弁CV1は、透過水ラインL2を流れる透過水の流量を調整する流量調整手段として機能し、流量センサ16は、透過水ラインL2を流れる透過水の流量を検出する流量検出手段として機能する。これらは、純水製造装置2の通常運転時に、膜分離装置12から脱気装置13やEDI装置14に供給される透過水の流量を設定流量に調整するために用いられる他、詳細は後述するが、後述する水質回復工程で使用されてもよい。また、透過水ラインL2には、その水質回復工程で使用される開閉弁V1が設けられている。RO濃縮水ラインL3には、例えば、純水製造装置2の通常運転時にRO濃縮水を外部に排出したり、上述した熱水殺菌工程時に熱水を外部に排出したりするための排水ライン(図示せず)が接続されている。
【0019】
脱気装置13は、透過水ラインL2に設けられ、膜分離装置12からの透過水中に溶存する酸素や二酸化炭素などの気体を除去する機能を有している。脱気装置13の構成は特に限定されず、除去すべき気体の種類に応じて適切な公知の脱気装置を用いることができる。そのような脱気装置としては、例えば、膜脱気装置、脱炭酸塔、真空脱気塔、触媒脱酸素塔などが挙げられる。なお、脱気装置13の位置は、図示した膜分離装置12の下流側に限定されず、被処理水中の溶存酸素濃度を低減することで微生物の増殖を抑え、それにより、RO膜のバイオファウリングを抑制するために、膜分離装置12の上流側であってもよい。
【0020】
EDI装置14は、イオン交換体による被処理水の脱イオン化(脱塩)処理と、イオン交換体の再生処理とを同時に行う装置であり、透過水ラインL2を通じて膜分離装置12から供給される透過水を処理して脱イオン水(純水)を製造するものである。EDI装置14には、EDI装置14からの純水を流通させる純水ラインL5と、EDI装置14からの濃縮水(以下、「EDI濃縮水」ともいう)を流通させるEDI濃縮水ラインL6が接続されている。純水ラインL5は、その下流側で純水供給装置3の後述する純水タンク21に接続され、EDI濃縮水ラインL6は、その下流側で原水タンク11に接続されている。また、図示していないが、EDI装置14には、EDI装置14からの電極水を外部に排出する電極水排出ラインが接続されている。
【0021】
一例として、EDI装置14は、陽極および陰極と、陽極および陰極の間に配置され、カチオン交換体とアニオン交換体との少なくとも一方が充填された脱塩室と、イオン交換膜を介して脱塩室の両側に配置された一対の濃縮室とを有している。脱塩室には、透過水ラインL2を通じて膜分離装置12からの透過水が被処理水として供給され、濃縮室には、同じく膜分離装置12からの透過水が濃縮水として供給される。なお、陽極および陰極をそれぞれ収容する電極室にも、同じく膜分離装置12からの透過水が電極水として供給される。膜分離装置12から脱塩室に透過水が供給されると、透過水中のイオン成分は、脱塩室内のイオン交換体でイオン交換されて除去される。イオン成分が除去された透過水は、脱イオン水(純水)として、脱塩室から純水ラインL5を通じてEDI装置14から排出される。このとき、脱塩室で除去されたイオン成分は、両極間に直流電圧が印加されることで発生する電位差により、イオン交換体から脱離して脱塩室に隣接する濃縮室に移動する。こうして濃縮室に移動したイオン成分は、濃縮室を流れる濃縮水に取り込まれ、EDI濃縮水ラインL6を通じてEDI装置14から排出される。一方で、脱塩室では、水解離反応(水が水素イオンと水酸化物イオンとに解離する反応)が連続的に進行しており、これら水素イオンおよび水酸化物イオンが脱塩室内のイオン交換体に保持されたイオン成分と交換されて、脱塩室内のイオン交換体が再生される。
【0022】
純水ラインL5には、開閉弁V2が設けられ、その上流側近傍には、開閉弁V3を介して純水返送ラインL7が接続されている。これにより、例えば、装置起動時や運転再開時、ユースポイント4で純水の需要がない場合に純水供給装置3の後述する純水タンク21内の水位が変動しないときなど、純水製造装置2内で純水の循環運転を行うこともできる。すなわち、純水ラインL5の開閉弁V2が閉鎖され、純水返送ラインL7の開閉弁V3が開放されることで、純水返送ラインL7を通じてEDI装置14で製造される純水を原水タンク11に還流させることができる。なお、開閉弁V2,V3の代わりに、純水ラインL5と純水返送ラインL7との接続部に三方弁が設けられていてもよい。
【0023】
図示していないが、純水ラインL5のうち純水返送ラインL7との接続部の上流側には、フィルタと紫外線殺菌器が設けられていてもよい。フィルタは、EDI装置14から生じる破砕樹脂を捕捉して除去する機能を有し、紫外線殺菌器は、純水ラインL5を流れる純水を紫外線照射により殺菌するために用いられる。なお、製造される純水が医薬品製造用の精製水として使用される場合など、純水の生菌数管理が必要な場合には、紫外線殺菌器は設けられていることが好ましい。また、EDI濃縮水ラインL6には、例えば、純水製造装置2の通常運転時にEDI濃縮水を外部に排出したり、上述した熱水殺菌工程時に熱水を外部に排出したりするための排水ラインが接続されていてもよく、純水返送ラインL7にも、同様の排水ラインが接続されていてもよい。
【0024】
図示した例では、脱気装置13が上流側に配置され、EDI装置14が下流側に配置されているが、その逆であってもよく、すなわち、EDI装置14が上流側に配置され、脱気装置13が下流側に配置されていてもよい。換言すると、透過水ラインL2が、その下流側で脱気装置13に接続され、EDI装置14が透過水ラインL2に設けられていてもよい。なお、膜分離装置12からの透過水を処理する処理手段としては、脱気装置13とEDI装置14の両方が設けられていなくてもよく、すなわち、そのいずれか一方のみが設けられていてもよい。あるいは、EDI装置14の代わりに、膜分離装置12からの透過水中のイオン成分を除去するイオン除去装置として、非再生型または再生型の混床式イオン交換装置が設けられていてもよい。
【0025】
純水供給装置3は、純水ラインL5を通じて純水製造装置2から供給される純水を貯留する純水タンク21と、純水タンク21内の純水を循環させる循環ラインL10と、循環ラインL10に設けられ、純水タンク21内の純水を循環ラインL10に流通させる循環ポンプ22とを有している。循環ラインL10には、開閉弁(図示せず)を介して送水ラインL11が接続され、送水ラインL11は、その下流側でユースポイント4に接続されている。これにより、純水供給装置3は、純水を循環ラインL10に沿って循環させながら保持し、必要に応じてその一部をユースポイント4に供給することができる。純水の循環運転は、ユースポイントでの需要の有無にかかわらず常時行われるため、循環ラインL10を構成する配管内部に細菌が付着したり、バイオフィルムが成熟したりすることを抑制することができる。こうした菌汚染抑制の観点から、このときの純水の循環は、配管内部での流れが乱流になるように、レイノルズ数が4000以上となる流速、または1m/sec以上の流速で行われることが好ましい。レイノルズ数Reは、配管の内径をd(m)、配管内の流速をu(m/sec)、流体の密度をρ(kg/m3)、流体の粘度をμ(Pa・s)とすると、以下の式で表され、
Re=d・u・ρ/μ
配管内部での流れは、レイノルズ数Reが2000~3000では、層流と乱流との遷移域となり、それ以上であれば一般に乱流となる。なお、送水ラインL11の数は1つに限定されず、複数であってもよい。すなわち、純水供給装置3は、複数のユースポイント4に純水を供給するようになっていてもよい。
【0026】
純水タンク21には、上述したように純水ラインL5が接続され、例えば、水位センサ(図示せず)により検知された純水タンク21内の水位に応じて、純水製造装置2から純水が補給される。具体的には、純水タンク21内の水位が所定の下限水位以下になると、純水ラインL5の開閉弁V2が開放される(とともに、純水返送ラインL7の開閉弁V3が閉鎖される)ことで、純水ラインL5を通じて純水タンク21に純水が補給される。そして、純水タンク21内の水位が所定の上限水位に達すると、純水ラインL5の開閉弁V2が閉鎖される(とともに、純水返送ラインL7の開閉弁V3が開放される)ことで、純水タンク21への純水の補給は停止される。
【0027】
循環ラインL10のうち送水ラインL11との接続部の下流側には、紫外線殺菌器(図示せず)と、熱交換器(図示せず)と、圧力センサ23と、導電率センサ24とが設けられている。
【0028】
紫外線殺菌器は、循環ラインL10を流れる純水を紫外線照射により殺菌するために用いられるが、ユースポイント4に供給される純水の生菌数管理が不要な場合には、必ずしも設けられていなくてもよい。熱交換器は、純水供給装置3の通常運転(純水の循環運転)の合間に定期的に行われる熱水殺菌工程で使用され、循環ラインL10に沿って循環する純水を例えば60℃以上、好ましくは80℃以上に加熱して熱水を生成し、その熱水により純水タンク21や循環ラインL10を殺菌するために用いられる。なお、紫外線殺菌器と熱交換器は、それぞれの処理量を減らすことができる点で、上述したように、循環ラインL10のうち送水ラインL11との接続部の下流側に設けられていることが好ましい。ただし、紫外線殺菌器と熱交換器の位置はこれに限定されず、接続部の上流側であってもよく、特に、熱水を循環させずに(いわゆるワンパスで)ユースポイント4に供給することが求められる場合には上流側であることが好ましい。圧力センサ23は、ユースポイント4での純水の使用状況を把握するために用いられる他、ユースポイント4への純水の送水圧力を調整するために用いられてもよい。すなわち、圧力センサ23の検出値に基づいて、循環ポンプ22の回転数がインバータ(図示せず)によって制御され、ユースポイント4への純水の送水圧力が調整されてもよい。導電率センサ24は、循環ラインL10を循環する純水の水質(導電率)を検出する水質検出手段として機能し、後述する水質回復工程で使用される。
【0029】
また、循環ラインL10のうち導電率センサ24の下流側には、開閉弁V4が設けられ、その上流側近傍には、開閉弁V5を介して純水排出ラインL12が接続されている。さらに、その下流側には、開閉弁V6が設けられ、その上流側近傍には、開閉弁V7を介して純水還流ラインL13が接続されている。純水還流ラインL13は、循環ラインL10から分岐し、透過水ラインL2(具体的には、開閉弁V1と流量調整弁CV1との間)に接続されている。なお、開閉弁V4,V5の代わりに、循環ラインL10と純水排出ラインL12との接続部に三方弁が設けられていてもよく、開閉弁V6,V7の代わりに、循環ラインL10と純水還流ラインL13との接続部に三方弁が設けられていてもよい。また、開閉弁V4は必ずしも設けられていなくてもよく、その機能を開閉弁V6,V7で代用してもよい。
【0030】
ところで、循環ラインL10は、その下流側で、シャワーボールなど散水手段を介して純水タンク21に接続されていることが好ましく、これにより、熱水殺菌工程時に純水タンク21の内壁面にも熱水を吹き付けることができる。しかしながら、このような構成では、純水供給装置3の通常運転時、純水タンク21内に散水される純水がベントフィルタ(図示せず)を通じて純水タンク21内に流入する空気と接触し、その空気中の二酸化炭素が純水に溶解するおそれがある。その結果、純水の導電率が上昇し、ユースポイント4で要求される水質基準(例えば、米国薬局方によれば、医薬品製造用の精製水の場合、25℃での許容導電率が1.3μS/cm)を満たさなくなるおそれがある。これに対し、循環ラインL10に沿って循環する純水の一部を、純水排出ラインL12を通じて外部に排出し、それに応じて純水製造装置2から新たな純水を補給することも考えられるが、このような方法は、水の無駄な消費につながり、節水の観点から好ましくない。
【0031】
そこで、本実施形態の純水供給装置3には、上述したように純水の水質(導電率)が悪化した場合にそれを回復させるための運転制御を実行する制御部(制御手段)25が設けられている。この制御部25による運転制御では、まず、導電率センサ24の検出結果に基づいて、循環ラインL10を循環する純水の水質が所定の水質を満たしているか否か(例えば、導電率センサ24の検出値が許容導電率以下であるか否か)が判定される。そして、所定の水質を満たしていないと判定された場合には、循環ラインL10を循環する純水の水質が回復するまで、以下の水質回復工程(水質回復処理)が行われる。
【0032】
水質回復工程が開始されると、加圧ポンプ15が停止され、それと同時に、純水ラインL5の開閉弁V2と純水還流ラインL13の開閉弁V7とが開放され、透過水ラインL2の開閉弁V1と純水返送ラインL7の開閉弁V3とが閉鎖される。このとき、循環ラインL10の開閉弁V6は、純水の滞留による生菌発生を抑制する観点から、純水供給装置3の通常運転時と同様に開放されたままでもよく、所定の水質を満たしていない純水を純水タンク21に戻さないようにするために閉鎖されてもよい。なお、循環ラインL10の開閉弁V6は、任意の開度に調整可能な制御弁であってもよく、それにより、開閉弁V6を開放する場合にもその開度を調整することで、循環ラインL10から純水還流ラインL13に純水を確実に流入させることができる。また、透過水ラインL2の開閉弁V1の代わりに、またはそれに加えて、逆止弁が設けられていてもよい。
【0033】
これにより、循環ラインL10を循環する純水は、少なくとも一部が純水還流ラインL13を通じて透過水ラインL2に還流され、脱気装置13とEDI装置14で処理された後、純水ラインL5を通じて純水タンク21へと戻される。すなわち、透過水ラインL2に還流された純水は、脱気装置13で炭酸ガスが主に除去され、EDI装置14で炭酸イオンが主に除去されることで、溶解した二酸化炭素が除去されて水質が回復した後で、純水タンク21へと戻される。こうして、循環ラインL10を循環する純水の水質(導電率)が悪化した場合にも、それを回復させるための純水の消費を抑えることができ、その結果、水の無駄な消費を抑制しながら、純水供給装置3内の純水の水質を良好に維持することができる。なお、このとき、EDI装置14からEDI濃縮水や電極水が排出されるが、節水効果を高めるために、EDI濃縮水は、EDI濃縮水ラインL6を通じて原水タンク11に還流されてもよい。
【0034】
水質回復工程中は、ユースポイント4への純水の供給を停止してもよく、あるいは、水質回復工程を実施するか否かの判定基準値を緩め(例えば、米国薬局方による上述した許容導電率の70%)に設定し、ユースポイント4への純水の供給を継続しながら、水質回復工程を実施してもよい。ただし、水質回復工程による純水の水質回復が間に合わず、ユースポイント4で要求される水質基準を満たさなくなる場合には、途中でユースポイント4への純水の供給を停止し、水質回復工程のみを行うことが好ましい。なお、水質回復工程中は、上述したようにEDI装置14からの排水を伴うため、ユースポイント4への純水の供給の有無にかかわらず、純水タンク21内の水位が所定の下限水位に達する場合がある。その場合、水質回復工程を中断し、純水供給装置4では、通常運転時と同様に循環ラインL10に沿って純水を循環させる循環運転に移行する一方、純水製造装置2では通常運転(純水製造)に移行し、純水ラインL5を通じて純水タンク21に新たな純水を補給してもよい。
【0035】
例えば、上述した純水の水質悪化を抑制するという観点からは、循環ラインL10に脱気装置やEDI装置などの処理手段を設け、純水供給装置3内で純水の脱炭酸(二酸化炭素の除去)を行うことも考えられる。しかしながら、純水供給装置3内に新たな機器を追加することは、生菌繁殖のリスクにつながり、ひいてはユースポイント4に供給される純水の菌汚染につながる可能性がある。そのため、本実施形態のように、純水供給装置3内の純水の水質悪化に応じて、その少なくとも一部を透過水ラインL2に還流させ、純水製造装置2内の脱気装置13とEDI装置14で脱炭酸を行うことが好ましい。これにより、純水供給装置3内での生菌発生のリスクを高めることなく、悪化した純水の水質を回復させることができる。
【0036】
水質回復工程では、脱気装置13およびEDI装置14に供給される純水に対し、純水製造装置2の通常運転時と同様の流量制御を行うことが好ましい。すなわち、流量センサ16の検出結果に基づいて流量調整弁CV1の開度を調整し、脱気装置13およびEDI装置14に供給される純水の流量を設定流量に調整することが好ましい。その代わりに、またはそれに加えて、流量センサ16の検出結果に基づいて、循環ポンプ22の回転数をインバータ(図示せず)によって調整し、脱気装置13およびEDI装置14に供給される純水の流量を設定流量に調整してもよい。すなわち、循環ポンプ22を、脱気装置13およびEDI装置14に供給される純水(被処理水)の流量を調整する流量調整手段として機能させることもできる。なお、このときの設定流量は、純水製造装置2の通常運転時に供給される透過水の設定流量よりも小さい値であることが好ましく、これにより、脱気装置13およびEDI装置14の処理能力を向上させ、水質回復を効率良く行うことができる。
【0037】
図示した例では、流量センサ16は、脱気装置13の上流側に設けられているが、脱気装置13およびEDI装置14への純水の流量を適切に管理できれば、その位置は特に限定されず、例えば、EDI装置14の下流側であってもよい。また、流量調整弁CV1の位置も、透過水ラインL2のうち純水還流ラインL13との接続部の下流側であれば、図示した位置に限定されず、例えば、EDI装置14の下流側の純水ラインL5上であってもよい。あるいは、流量調整弁CV1は、開閉弁V7の代わりに、純水還流ラインL13に設けられていてもよく、循環ポンプ22によって上述した流量制御が実行される場合には省略されてもよい。
【0038】
純水供給装置3内の純水の水質検出手段としては、二酸化炭素の溶解による導電率の上昇を検出することができれば、導電率センサ24に限定されず、例えば、比抵抗計や総溶解固形分(TDS)計などを用いることができる。あるいは、導電率の代わりに、無機炭素(IC)濃度を測定することで純水の水質を検出してもよく、そのために、IC計や全有機炭素(TOC)計などを用いてもよい。
【0039】
なお、周囲の外気に脱気装置13やEDI装置14で除去できない成分(例えば、有機溶媒など)が含まれるなどの理由で、上述した水質回復工程を実行して一定時間経過しても純水の水質が回復しないことがある。そのことが、例えば脱気装置13やEDI装置14の出口に設置した導電率センサ(図示せず)により検出された場合には、純水還流ラインL13の開閉弁V7を閉鎖し、純水還流ラインL13から透過水ラインL2への純水の還流を停止することで、水質回復工程を停止してもよい。そして、循環ラインL10の開閉弁V4を閉鎖し、純水排出ラインL12の開閉弁V5を開放することで、循環する純水の一部を外部に排出し、それに応じて、純水製造装置2で通常運転を行い、純水ラインL5を通じて純水タンク21に新たな純水を補給することで、純水供給装置3内の純水の水質を回復させてもよい。純水排出ラインL12の設置位置は特に限定されないが、循環する純水の一部を純水排出ラインL12から排出しながら、排出する純水の水質を監視するため、図示したように導電率センサ24の下流側であることが好ましい。
【0040】
上述したように、膜分離装置12からの透過水を処理する処理手段としては、脱気装置13とEDI装置14のいずれか一方のみが設けられていてもよく、したがって、水質回復工程においても、透過水ラインL2に還流された純水をその一方のみで処理(脱炭酸)するようになっていてもよい。また、本実施形態のように脱気装置13とEDI装置14の両方が設けられている場合にも、水質回復工程において、必ずしもその両方で純水の脱炭酸を行うようになっていなくてもよく、そのいずれか一方のみで行うようになっていてもよい。一例として、EDI装置14は、上述したように脱気装置13の上流側に設けられていてもよいが、この場合、EDI装置14の位置は、透過水ラインL2のうち純水還流ラインL13との接続部のさらに上流側であってもよい。すなわち、水質回復工程では、透過水ラインL2に還流された純水を脱気装置13のみで処理するようになっていてもよい。なお、このような構成は、水質回復工程時にEDI装置14の運転を停止することができ、EDI装置14からのEDI濃縮水や電極水の排出自体をなくすことができるため、さらなる節水効果を得る上でも有利である。
【符号の説明】
【0041】
1 水処理システム
2 純水製造装置
3 純水供給装置
4 ユースポイント
11 原水タンク
12 膜分離装置
13 脱気装置(処理手段)
14 EDI装置(処理手段)
15 加圧ポンプ
16 流量センサ(流量検出手段)
21 純水タンク
22 循環ポンプ(流量調整手段)
23 圧力センサ
24 導電率センサ(水質検出手段)
25 制御部(制御手段)
L1 原水ライン
L2 透過水ライン(給水ライン)
L3 RO濃縮水ライン
L4 原水補給ライン
L5 純水ライン
L6 EDI濃縮水ライン
L7 純水返送ライン
L10 循環ライン
L11 送水ライン
L12 純水排出ライン
L13 純水還流ライン
CV1 流量調整弁(流量調整手段)
V1~V7 開閉弁