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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131116
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】シートベルト用リトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/44 20060101AFI20240920BHJP
   B60R 22/34 20060101ALI20240920BHJP
   F16D 41/12 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60R22/44 113
B60R22/34
F16D41/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041190
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】ルゥン,ゴック アン
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018GA00
3D018LA05
(57)【要約】
【課題】モータの力でベルトを巻き取るモータ付きのシートベルト用リトラクタとしての機能を損なうことなく、シートベルトの巻き取り力を調整することを可能とする。
【解決手段】シートベルト用リトラクタ1であって、スピンドル10と、モータ20と、動力伝達機構30と、第1回転ギア33と、クラッチ機構34と、シートベルト2を巻き取る方向にスピンドル10に巻取り力を付勢するリターンスプリング40と、リターンスプリング40からスピンドル10に作用する巻取り力の大きさを減少させる反巻取り力を蓄勢可能な巻取り力調整スプリング50と、回転することにより巻取り力調整スプリング50に反巻取り力を蓄勢させることが可能なハウジング51と、モータ20が第1の方向とは逆の第2の方向に回転するのに伴い第1回転ギア33が所定方向に回転するとき、該第1回転ギア33とハウジング51とを連結させる連結機構60と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のシートベルトを巻き取るように構成されたシートベルト用リトラクタであって、
前記シートベルトを巻き取るスピンドルと、
前記スピンドルを回転させる動力を発生するモータと、
前記モータからの動力を前記スピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、
前記動力伝達機構を構成するギアであって、前記スピンドルの中心軸上に回転可能に配置された第1回転ギアと、
前記モータが第1の方向に回転するとき、前記モータから前記スピンドルへの動力の伝達を可能にする、前記動力伝達機構に設けられたクラッチ機構と、
前記シートベルトを巻き取る方向に前記スピンドルに巻取り力を付勢するリターンスプリングと、
前記スピンドルに接続され、前記リターンスプリングから前記スピンドルに作用する巻取り力の大きさを減少させる反巻取り力を蓄勢可能な巻取り力調整スプリングと、
前記スピンドルの中心軸上に回転可能に配置され、回転することにより前記巻取り力調整スプリングに前記反巻取り力を蓄勢させることが可能なハウジングと、
前記モータが前記第1の方向とは逆の第2の方向に回転するのに伴い前記第1回転ギアが所定方向に回転するとき、該第1回転ギアと前記ハウジングとを連結させる連結機構と、
を備える、シートベルト用リトラクタ。
【請求項2】
前記第1回転ギアが所定方向に回転するときの当該所定方向は、前記シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向である、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項3】
前記連結機構は、前記第1回転ギアが前記シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転するときに係止した状態となり当該第1回転ギアと前記ハウジングとを連結させるラッチ機構で構成されている、請求項2に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項4】
前記ラッチ機構は、前記ハウジングに形成されたラチェットギアと、前記第1回転ギアに回動可能に取り付けられ、当該第1回転ギアが前記シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転するときにのみ前記ラチェットギアに爪先を係止させるパウルと、を含む、請求項3に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項5】
前記ラッチ機構は、前記パウルの爪先を前記ラチェットギアから離間する方向に付勢するパウルリターンスプリングと、前記第1回転ギアが前記シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転したときに前記パウルの爪先を前記ラチェットギアに近接させるガイドと、をさらに含む、請求項4に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項6】
前記ガイドは、前記第1回転ギアと供回りする供回りリングに形成されている、請求項5に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項7】
前記供回りリングに、前記第1回転ギアの突起が係合する長孔が形成されていて、当該供回りリングはこの長孔に対応したストローク幅で前記第1回転ギアに対して相対回転可能である、請求項6に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項8】
前記第1回転ギアが前記シートベルトを巻き取る方向に少なくとも前記ストローク幅を超えるぶん回転すると、パウルリターンスプリングが、前記ラチェットギアから外れた前記パウルの爪先を当該ラチェットギアから離間させる、請求項7に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項9】
前記リターンスプリングは、前記スピンドルの周囲に渦巻状に巻回されたぜんまいばねで構成されている、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項10】
前記巻取り力調整スプリングは、前記スピンドルの周囲に、前記リターンスプリングとは逆方向で渦巻状に巻回されたぜんまいばねで構成されている、請求項9に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項11】
前記巻取り力調整スプリングは、その内側端部が前記スピンドルに固着され、外側端部が前記ハウジングに固着された状態となっている、請求項10に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項12】
前記巻取り力調整スプリングは、前記ハウジングに収容された状態となっている、請求項11に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項13】
前記第1回転ギアは、前記動力伝達機構を構成するギア列の終端に配置されたファイナルギアである、請求項1に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項14】
前記クラッチ機構は、前記第1回転ギアと前記スピンドルとの間に設けられている、請求項13に記載のシートベルト用リトラクタ。
【請求項15】
前記クラッチ機構は、ワンウェイクラッチを含む、請求項14に記載のシートベルト用リトラクタ。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト用リトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のシートベルト装置に設けられるリトラクタとして、スピンドルの回転によりシートベルトの巻き取りを行うとともに、車両衝突時にスピンドルの回転をロック機構によりロックしてシートベルトの引き出しを阻止するように構成されたもの等が提案されあるいは利用されている(例えば特許文献1~4参照)。
【0003】
また、モータの力でシートベルトを巻き取るモータ付きシートベルト(以下、「PP」(Pre-Pretensioner)という場合がある)用のモータ付きのリトラクタとしては、車両急減速状態(例えば衝突可能性がある場合)をセンサで検出した際には、モータによってスピンドルを巻き取り方向に回転させ、シートベルトを一定量巻き取って乗員を軽拘束し、また、車両衝突を検出した際には、火薬式のプリテンショナを作動させて、シートベルトを強制的に巻き取って乗員を確実に拘束するものが知られている。さらに、シートベルトを着用したときのたるみ解消のため、また、シートベルトを外したときの格納性向上のために、モータによってシートベルトの巻き取りを補助することも知られている。一般に、前者の車両急減速状態の検出時にシートベルトを軽く巻き取ることは「プリクラッシュ作動」と称され、また、後者の補助的にシートベルトを巻き取ることは「コンフォート作動」と称される。また、このようにベルト装着時は巻き取り力を弱くし、解除すると巻き取り力を強くするようにした装置は、テンションレデューサー(Tension reducer)等と呼ばれている。
【0004】
このようなモータ付きリトラクタでは、モータからの動力をスピンドルに伝達する動力伝達機構にクラッチが介在されている。プリクラッシュ作動及びコンフォート作動を実施する際には、モータを正転させてクラッチをつなぎ、シートベルトを巻き取る。そして、プリクラッシュ作動及びコンフォート作動の実施後には、モータを逆転させてクラッチを切り、シートベルトの通常の巻き取り及び引き出しが可能な状態としている。
【0005】
さて、上記のごとくモータの力でベルトを巻き取るモータ付きシートベルト(Pre-Pretensioner)においては、ベルト格納アシストをモータで行うため、リターンスプリング(シートベルト巻き取りのための付勢力を与える付勢手段)の巻き取り力を低く設定することができるといった利点がある。
【0006】
また、昨今では、リターンスプリングと並列にスピンドルに接続された巻き取り力調整用スプリング(FAスプリング等と称呼される場合がある)を設けた、スプリング力調整機構が併設された装置が提案されてもいる。巻き取り力調整用スプリングは、リターンスプリングの力を強めたり弱めたりするためのもので、例えば、当該巻き取り力調整用スプリングのハウジングを回転させることで巻き数を変え、巻き取り力を調整するように構成される等している。ちなみに、慣性クラッチを用いたPP(Pre-Pretensioner)のファイナルギアでハウジングを回転させるという構成の場合だと、PPによる巻き取りはモータを高速で回してクラッチを結合させ、スピンドルへトルクを伝達させる一方、巻き取り力調整時はモータをゆっくりと回してクラッチを結合させず、モータのトルクがスピンドルに伝達しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-514731号公報
【特許文献2】特開2005-035539号公報
【特許文献3】特開2013-173515号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第102021102381号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述のごとき従来の機構や装置のそれぞれには、以下に述べるような課題があると考えられる。
【0009】
まず、テンションレデューサーは、ベルト装着時は巻き取り力を弱くし、解除すると巻き取り力を強くするようにした装置であるものの、ユーザーがベルトを引き出す際の引き出し力は通常のシートベルトと変わらない。このため、従来のテンションレデューサーは、ベルト引き出し時にユーザーが必要とする引き出し力を弱めてあげることができない。
【0010】
次に、PP(モータの力でシートベルトを巻き取るモータ付きシートベルト)においては、モータによるシートベルト巻き取り動作がユーザーによる操作とバッティングすることがあり、そうなったとき、ユーザーに奇異な印象を与えてしまうことがある。
【0011】
また、スプリング力調整機構が併設された装置は、上記のように慣性クラッチを使っている場合、ゆっくり高い荷重でベルトを巻くような動作に不向きとなってしまう。ここで、例えば、横Gが作用するカーブ走行のとき乗員の身体を保持するためにベルト伸び出し抑制動作を実施することを想定してみると、ベルトが身体にフィットするまではユーザーに違和感を与えないようにゆっくりとベルトを巻き取る必要があり、一方で、乗員の身体を支えるための高い巻き取り力が必要となる。この点、慣性クラッチを使っているスプリング力調整機構はゆっくりとベルトを巻き取ることが困難であるためこのような動作に不向きであり、そうだとはいえ、スプリング力だけでは乗員を支えるだけの巻き取り力が発揮できない。
【0012】
そこで、本発明は、モータの力でベルトを巻き取るモータ付きのシートベルト用リトラクタとしての機能を損なうことなく、シートベルトの巻き取り力を調整することを可能とした構造のシートベルト用リトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、車両用のシートベルトを巻き取るように構成されたシートベルト用リトラクタであって、
シートベルトを巻き取るスピンドルと、
スピンドルを回転させる動力を発生するモータと、
モータからの動力をスピンドルに伝達可能な動力伝達機構と、
動力伝達機構を構成するギアであって、スピンドルの中心軸上に回転可能に配置された第1回転ギアと、
モータが第1の方向に回転するとき、モータからスピンドルへの動力の伝達を可能にする、動力伝達機構に設けられたクラッチ機構と、
シートベルトを巻き取る方向にスピンドルに巻取り力を付勢するリターンスプリングと、
スピンドルに接続され、リターンスプリングからスピンドルに作用する巻取り力の大きさを減少させる反巻取り力を蓄勢可能な巻取り力調整スプリングと、
スピンドルの中心軸上に回転可能に配置され、回転することにより巻取り力調整スプリングに反巻取り力を蓄勢させることが可能なハウジングと、
モータが第1の方向とは逆の第2の方向に回転するのに伴い第1回転ギアが所定方向に回転するとき、該第1回転ギアとハウジングとを連結させる連結機構と、
を備える、シートベルト用リトラクタである。
【0014】
かかるシートベルト用リトラクタにおいては、反巻取り力を蓄勢可能な巻取り力調整スプリングによる反巻取り力の大きさを調整する(具体的には、増加させる)ことにより、リターンスプリングからスピンドルに作用する巻取り力の大きさを減少させ、ベルト引き出し時にユーザーが必要とする引き出し力を弱めてあげることが可能である。
【0015】
また、かかるシートベルト用リトラクタにおいては、反巻取り力を蓄勢可能な巻取り力調整スプリングによる反巻取り力の大きさを調整することで、リターンスプリングのみでシートベルトを適度な力で巻き取るようにすることができる。このため、このリトラクタによれば、PP(モータの力でシートベルトを巻き取るモータ付きシートベルト)の機構を備えつつも、ユーザーに奇異な印象(例えば上記したようにモータによってシートベルトを巻き取る動作中、ユーザーによる操作とバッティングしたときにユーザーが感じかねない奇異な印象など)を与えてしまうことを軽減することが可能である。
【0016】
さらに、かかるシートベルト用リトラクタにおいては、たとえば、ワンウェイクラッチといった、慣性を利用しないクラッチ機構を用いることで、従来の装置とは異なり、ゆっくり高い荷重でベルトを巻くような動作をすることが可能である。したがって、例えば横Gが作用するカーブ走行のとき乗員の身体を保持するためにベルト伸び出し抑制動作を実施するような場合、ユーザーに違和感を与えないようにゆっくりとベルトを巻き取り身体にフィットさせることが可能である。
【0017】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、第1回転ギアが所定方向に回転するときの当該所定方向は、シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向であってもよい。
【0018】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、連結機構は、第1回転ギアがシートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転するときに係止した状態となり当該第1回転ギアとハウジングとを連結させるラッチ機構で構成されていてもよい。
【0019】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、ラッチ機構は、ハウジングに形成されたラチェットギアと、第1回転ギアに回動可能に取り付けられ、当該第1回転ギアがシートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転するときにのみラチェットギアに爪先を係止させるパウルと、を含むものであってもよい。
【0020】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、ラッチ機構は、パウルの爪先をラチェットギアから離間する方向に付勢するパウルリターンスプリングと、第1回転ギアがシートベルトを巻き取る方向とは逆の方向に回転したときにパウルの爪先をラチェットギアに近接させるガイドと、をさらに含むものであってもよい。
【0021】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、ガイドは、第1回転ギアと供回りする供回りリングに形成されていてもよい。
【0022】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、供回りリングに、第1回転ギアの突起が係合する長孔が形成されていて、当該供回りリングはこの長孔に対応したストローク幅で第1回転ギアに対して相対回転可能であってもよい。
【0023】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、第1回転ギアがシートベルトを巻き取る方向に少なくともストローク幅を超えるぶん回転すると、パウルリターンスプリングが、ラチェットギアから外れたパウルの爪先を当該ラチェットギアから離間させるように構成されていてもよい。
【0024】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、リターンスプリングは、スピンドルの周囲に渦巻状に巻回されたぜんまいばねで構成されていてもよい。
【0025】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、巻取り力調整スプリングは、スピンドルの周囲に、リターンスプリングとは逆方向で渦巻状に巻回されたぜんまいばねで構成されていてもよい。
【0026】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、巻取り力調整スプリングは、その内側端部がスピンドルに固着され、外側端部がハウジングに固着された状態となっていてもよい。
【0027】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、巻取り力調整スプリングは、ハウジングに収容された状態となっていてもよい。
【0028】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、第1回転ギアは、動力伝達機構を構成するギア列の終端に配置されたファイナルギアであってもよい。
【0029】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおいて、クラッチ機構は、第1回転ギアと前記スピンドルとの間に設けられていてもよい。
【0030】
上記のごときシートベルト用リトラクタにおけるクラッチ機構は、ワンウェイクラッチを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、モータの力でベルトを巻き取るモータ付きのシートベルト用リトラクタとしての機能を損なうことなく、シートベルトの巻き取り力を調整することを可能とした構造のシートベルト用リトラクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態にかかるシートベルト用リトラクタを示す斜視図である。
図2】シートベルト用リトラクタの分解斜視図である。
図3】スピンドルの中心軸を通る断面におけるシートベルト用リトラクタの断面図である。
図4図3におけるファイナルギア(第1回転ギア)、リターンスプリング、FAスプリング(巻取り力調整スプリング)の周辺を拡大して示す図である。
図5】リターンスプリング等がある側からスピンドルの中心軸に沿って見たシートベルト用リトラクタの全体図である。
図6】ファイナルギアが初期位置にある状態を示す図である。
図7】ファイナルギアが初期位置から巻取り方向へ回転した状態を示す図である。
図8】ファイナルギアが初期位置からクラッチ解除方向へ回転した状態を示す図である。
図9図8のファイナルギアがさらにクラッチ解除方向へ回転した状態を示す図である。
図10】クラッチ解除方向へ回転したファイナルギアが途中で巻取り方向へ回転した状態を示す図である。
図11A】フリクションリング、コイルスプリングおよびクラッチハウジングの分解斜視図である。
図11B】フリクションリング、コイルスプリングおよびクラッチハウジングの組み合わされた状態での側面図である。
図12】ユーザーがシートベルトを外した際の既存のモータ付きシートベルト用リトラクタにおける制御例を参考として示すフローチャートである。
図13】(A)ユーザーがシートベルトを外した際の既存のモータ付きシートベルト用リトラクタにおける制御例を示すフローチャートと、(B)フローチャート中の<b>の動作中におけるFAスプリングのトルク(反巻取り力)の変化を示すグラフと、(C)フローチャート中の<c>の動作中におけるFAスプリングのトルク(反巻取り力)の変化を示すグラフである。
図14】モータ、動力伝達機構、ファイルギア、スピンドル等の分解斜視図である。
図15】(A)ワンウェイクラッチの初期状態を示す図と、(B)ワンウェイクラッチ用パウルの周辺を拡大して示す図である。
図16】(A)図15の状態からファイナルギアが所定量回転した状態におけるワンウェイクラッチを示す図と、(B)ワンウェイクラッチ用パウルの周辺を拡大して示す図である。
図17】(A)図16の状態からファイナルギアがさらに回転した状態におけるワンウェイクラッチを示す図と、(B)ワンウェイクラッチ用パウルの周辺を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて説明する(図1図14参照)。
【0034】
<シートベルト用リトラクタの構成>
本発明にかかるシートベルト用リトラクタ1は、シートベルト2を巻き取るように構成された車両用の装置である。本実施形態のシートベルト用リトラクタ1は、筐体3に設けられたスピンドル10、モータ20、動力伝達機構30、ファイナルギア(第1回転ギア)33、クラッチ機構34、リターンスプリング40、FAスプリング(巻取り力調整スプリング)50、FAハウジング51、ラッチ機構(連結機構)60等で構成されている(図1図2等参照)。
【0035】
スピンドル10は、シートベルト2を巻き取る部材であり、中心軸10xを中心にして正逆回転可能な状態で筐体3に設けられている(図2等参照)。なお、本明細書では、便宜的に、スピンドル10等の回転方向について、シートベルト2を巻き取るように正転する方向(図5においてCCWと示す反時計回り)を「巻取り方向」、シートベルト2を送り出すように逆転する方向(図5においてCWと示す時計回り)を「クラッチ解除方向」と呼ぶことにする(図5等参照)。
【0036】
モータ20は、スピンドル10を回転させる動力を発生する動力源である(図14参照)。本実施形態のモータ20は、筐体3の例えば下部に設けられている(図1等参照)。
モータ20を一の方向(本明細書では「第1の方向」という)に回転させたとき、クラッチ機構34によって動力が伝達され、スピンドル10は巻取り方向に回転する。また、モータ20を第1の方向とは逆の第2の方向に回転させると、ファイナルギア33はクラッチ解除方向に回転する(図1図5等参照)。
【0037】
動力伝達機構30は、モータ20からの動力をスピンドル10に伝達するための機構である。例えば本実施形態では、モータギア31、伝達シャフト(中間ギア)32、ファイナルギア33、クラッチ機構34を含む動力伝達機構30を用いている(図2図14等参照)。モータギア31は、モータ20の出力軸21に取り付けられているウォームで構成されている(図14参照)。伝達シャフト32は、モータ20の動力をファイナルギア33に伝達する部材である。この伝達シャフト32には、モータギア31と噛合する第1ヘリカルギア32aと、ファイナルギア33と噛合する第2ヘリカルギア32bとが設けられている(図2図14等参照)。
【0038】
ファイナルギア33は、動力伝達機構30を構成するギアのひとつであって、スピンドル10の中心軸10x上に回転可能に配置された大径のヘリカルギアで構成されている(図2等参照)。本実施形態のファイナルギア33は、動力伝達機構30を構成するギア列の終端に配置されたギアである。ファイナルギア33の外周には、伝達シャフト32の第2ヘリカルギア32bが噛合するはすば(斜歯)33aが形成されている。また、ファイナルギア33には、筐体3がある側とは反対の側に突出する突起33m、ピン33p、突起33tが設けられている(図2参照)。
【0039】
クラッチ機構34は、ファイナルギア33の回転をスピンドル10に伝達しあるいは遮断して伝えないようにするための機構であり、これらファイナルギア33とスピンドル10の間に配置されている(図1図2等参照)。本実施形態では、モータ20を第1の方向に回転させたときに結合した状態となってファイナルギア33の回転をスピンドル10へ伝達し、その一方でモータ20を第2の方向に回転させたときは結合しない、いわゆるワンウェイクラッチをこのクラッチ機構34に用いている。ワンウェイクラッチ自体の構成は従前のシートベルト用リトラクタにおけるものと同様であるため本明細書でその詳細を説明することは省略するが、例えば、ファイナルギア33が一方向に回転したときのみラチェットギア35aに係合するワンウェイクラッチ用パウル(ラッチ)34bを備えたもの等が該当する(図14参照)。
【0040】
本実施形態のクラッチ機構34は、ワンウェイクラッチ用パウル34b、ワンウェイクラッチ用フリクションリング34f、クラッチハウジング35等を備えたフリクション式ワンウェイクラッチ34aで構成されている(図15図17)参照)。このフリクション式ワンウェイクラッチ34aにおける初期状態から係合状態になるまでの動作を簡単に説明する。初期状態では、ワンウェイクラッチ用パウル34bはクラッチハウジング35のラチェットギア35aに係合していない(図15参照)。この初期状態から、モータ20を第1の方向に回転させるとファイナルギア33が図中、時計回りに回転する(なお、図15図17においてはリターンスプリング40等がある側でなく、それとは反対からスピンドル10の中心軸10xに沿って見た状態を示しているため、図15図17では、この時計回りへの回転が「巻取り方向」に相当することに留意されたい)。このようにファイナルギア33が図中の時計回り(つまりここでは巻取り方向)に回転したとき、ワンウェイクラッチ用フリクションリング34fは、フリクションの作用により、供回りせずその場に留まろうとする(図16参照)。そこからさらにファイナルギア33が図中の時計回り(巻取り方向)に回転すると、ワンウェイクラッチ用フリクションリング34fの爪34gがワンウェイクラッチ用パウル34bに当接し、ワンウェイクラッチ用パウル34bがファイナルギア33と供回りするのを阻止する(図17参照)。そうすると、ワンウェイクラッチ用パウル34bは、ガイド34hに沿って外周方向へと誘導されて移動し、その後、その歯先34cをクラッチハウジング35のラチェットギア(内歯)35aに係止させる(図17参照)。そうすると、フリクション式ワンウェイクラッチ34aは結合した状態となり、ファイナルギア33の回転をスピンドル10に伝達する。
【0041】
リターンスプリング40は、シートベルト2を巻き取る方向(巻取り方向)へスピンドル10に巻取り力を付勢する部材として設けられている(図1図2等参照)。本実施形態では、スピンドル10の周囲に渦巻状に巻回され、スプリングカセット41に収容されたぜんまいばねでリターンスプリング40を構成している(図2図4参照)。ぜんまいばねで構成されるリターンスプリング40は、その内側端部40iがボス部材40bを介してスピンドル10に固着され、外側端部40oがスプリングカセット41に固着された状態となっており、スピンドル10の回転量に応じた付勢力を蓄勢し、当該スピンドル10に回転トルクを付与する(図2等参照)。本実施形態のリターンスプリング40は、例えばユーザーによってシートベルト2が引き出されてスピンドル10がクラッチ解除方向に回転すると、リターンスプリング40が巻かれ、スピンドル10の回転量に応じた付勢力を蓄勢し、スピンドル10を巻取り方向に回転させる力(巻取り力)を付与するように付勢する(図1等参照)。
【0042】
FAスプリング(巻取り力調整スプリング)50は、スピンドル10に接続され、リターンスプリング40からスピンドル10に作用する巻取り力の大きさを減少させる力(反巻取り力)を蓄勢可能な部材として設けられている(図1等参照)。本実施形態では、スピンドル10の周囲に、リターンスプリング40とは逆方向で渦巻状に巻回されたぜんまいばねでこのFAスプリング50を構成している(図2等参照)。FAスプリング50は、その内側端部50iがボス部材50bを介してスピンドル10に固着され、外側端部50oが回転可能なFAハウジング51に固着された状態で、当該FAハウジング51に収容された状態となっている(図2図4等参照)。FAハウジング51が回転すると、FAスプリング50が巻かれてそのばね力(トルク)が変化する。
【0043】
FAハウジング51は、スピンドル10の中心軸10x上に回転可能に配置された筒状の筐体である。中心軸10xの周りでこのFAハウジング51を一方向に回転させることにより、FAスプリング50に反巻取り力を蓄勢させることが可能となっている(図1等参照)。本実施形態のシートベルト用リトラクタ1では、このFAハウジング51をクラッチ解除方向に回転させると、FAスプリング50が巻かれ、その回転量に応じた反巻取り力を蓄勢し、リターンスプリング40が蓄勢している巻取り方向への巻取り力を打ち消して減少させる。
【0044】
ラッチ機構(連結機構)60は、ファイナルギア33が所定方向(本実施形態の場合はシートベルト2を巻き取る方向とは逆の方向、すなわち上述したクラッチ解除方向)に回転するとき、このファイナルギア33とFAハウジング51とを連結させて供回りさせるための機構である。本実施形態では、このようなラッチ機構60として、ラチェットギア59やパウル61、フリクションリング(供回りリング)63等で構成される機構を採用しており、ファイナルギア33がクラッチ解除方向に回転するとパウル61がラチェットギア59に係止することでファイナルギア33とFAハウジング51が結合した状態となり、巻き取り方向に回転するとパウル61がパウルリターンスプリング62の力によって解除されることでファイナルギア33とFAハウジング51が分離した状態となるようにしている。
【0045】
ラチェットギア59は、FAハウジング51の例えば外周面に形成された左右非対称形状の歯からなるギアである。本実施形態のラチェットギア59は、ファイナルギア33がクラッチ解除方向に回転するときにのみ、パウル61が係止しうる形状に形成されている(図5図8等参照)。
【0046】
パウル61は、ファイナルギア33がクラッチ解除方向に回転するときにのみラチェットギア59にその爪先61tを係止させることができるように設けられている部材である。本実施形態のパウル6はファイナルギア33のピン33pに回動可能に取り付けられていて、パウルリターンスプリング62により、爪先61tがラチェットギア59から離間する方向(図5等において、当該パウル61を反時計回りに回転させる方向)に付勢されている(図5図6等参照)。パウルリターンスプリング62は、ファイナルギア33の突起33mに取り付けられている(図2等参照)。なお、本明細書ではパウル61のうちラチェットギア59に係止する先端部分を「爪先」と称しているがこれは便宜的な名称にすぎず、ラチェットギア59に係止するように形成されていればその名称や具体的形状がとくに限定されることがないことはいうまでもない。
【0047】
フリクションリング(供回りリング)63は、ファイナルギア33とFAハウジング51との間に配置された円板状ないしは円環状の部材である(図2等参照)。このフリクションリング63には、ファイナルギア33の突起33tが係合する長孔63hが周方向に沿って形成されている(図2図5図11A等参照)。フリクションリング63は、この長孔63hに対応したストローク幅でファイナルギア33に対して相対回転可能であり、そのストローク幅を超えてファイナルギア33が回転すると当該ファイナルギア33と供回りする。このフリクションリング63とクラッチハウジング35の間にはコイルスプリング36が設けられている(図2図11A図11B参照)。コイルスプリング36は、フリクションリング63とクラッチハウジング35の間に摩擦を発生させる。この摩擦力によって、ファイナルギア33が回転する際、フリクションリング63は供回りせずその場に留まろうとする。さらに、このフリクションリング63には、ガイド63gが形成されている(図2等参照)。
【0048】
ガイド63gは、ファイナルギア33がクラッチ解除方向に回転したときにパウル61の爪先61tをラチェットギア59に近接させるようにフリクションリング63に形成されている(図5等参照)。本実施形態では、フリクションリング63の外周の切れ込み部分に形成された傾斜した縁をガイド63gとして機能させている(図11A等参照)。ガイド63gは、パウル61の爪先61tをラチェットギア59に近接させるように案内する(図8等参照)。
【0049】
<シートベルト用リトラクタの動作>
上記のような構成である本実施形態のシートベルト用リトラクタ1の動作について以下に説明する(図6図10等参照)。本実施形態のシートベルト用リトラクタ1においては、ファイナルギア33に連動する形で他の部材が所定の動作をする構成になっているため、当該ファイナルギア33の回転動作に伴いで他の部材がどう動くかという観点を中心にして説明することにする。
【0050】
[初期位置(図6)]
初期位置におけるシートベルト用リトラクタ1は図6に示す状態となっている。
【0051】
[ファイナルギア33が初期位置から巻き取り方向へ回転する時(図7)]
モータ20を第1の方向に回転させると、ファイナルギア33が初期位置から巻き取り方向へ回転する。ファイナルギア33に取り付けられているパウル61は、ファイナルギア33とともに巻き取り方向へ移動する。ファイナルギア33上の突起33tがフリクションリング63の長孔63hの図中向かって左端に当接すると、フリクションリング63もファイナルギア33とともに巻取り方向に回転する。また、クラッチ機構34によって動力が伝達されていれば、スピンドル10も巻取り方向に回転する。このとき、内側端部50iがボス部材50bを介してスピンドル10に固着されているFAスプリング50も巻取り方向に回転する。また、FAハウジング51も、蓄勢されずに中立状態のままのFAスプリング50とともに巻き取り方向に回転する。
【0052】
[ファイナルギア33が初期位置からクラッチ解除方向へ回転する時(図8)]
モータ20を第2の方向に回転させると、ファイナルギア33が初期位置からクラッチ解除方向へ回転する。ファイナルギア33がクラッチ解除方向へ回転するとき、フリクションリング63は、長孔63hに対応したストローク幅のぶん、供回りせずにその場に留まろうとする。このようにフリクションリング63が留まっている間、パウル61の爪先61tはフリクションリング63のガイド63gに当接し、案内されてスピンドル10の軸方向へ落ち込み、FAハウジング51のラチェットギア59に係止した状態となる。
【0053】
[さらにファイナルギア33がクラッチ解除方向へ回転する時(図9)]
さらにファイナルギア33がクラッチ解除方向へ回転すると、ファイナルギア33上の突起33tがフリクションリング63の長孔63hの図中向かって右端に当接し、それ以降、フリクションリング63がファイナルギア33とともにクラッチ解除方向へ供回りする。また、この時、ラチェットギア59に係止しているパウル61が、FAハウジング51をクラッチ解除方向へ回転させていく。FAハウジング51がクラッチ解除方向へ回転すると、FAスプリング50が巻かれ、反巻取り力が蓄勢され、FAスプリング50のトルクが増加する。そうすると、ベルト巻取り力(シートベルト用リトラクタ1の全体におけるシートベルト2を巻き取ろうとする力)は、リターンスプリング40に蓄勢されているトルク(巻取り力)から、FAスプリング50に蓄勢されているトルク(反巻取り力)を引いた差分、つまり
ベルト巻取り力=リターンスプリング40のトルク-FAスプリング50のトルク
ということになり、反巻取り力が増加したぶん、ベルト巻取り力が減少し、巻き取り力が低い状態になる。
【0054】
[ファイナルギア33が巻き取り方向に回転する時(図10)]
図9に示した前述の状態から、ファイナルギア33を巻き取り方向に回転させると、フリクションリング63は供回りせずその場に留まろうとする。この時、リターンスプリング40で付勢されているパウル61の爪先61tはフリクションリング63のガイド63gに沿ってFAハウジング51のラチェットギア59から外れて離れ、少なくともファイナルギア33が長孔63hの長さぶんのストローク幅を超えるぶん回転するまでの間に、ラチェットギア59から外れたパウル61の爪先61tが当該ラチェットギア59から離間し、係止している状態が解除される。パウル61が外れたFAハウジング51は、FAスプリング50に蓄勢されていたトルク(反巻取り力)によって巻取り方向に回転し、FAスプリング50のトルクが消失して中立状態となった時点で回転が止まる。このようにしてFAスプリング50のトルクが消失すると、
ベルト巻取り力=リターンスプリング40のトルク-FAスプリング50のトルク(この時点で消失)
の関係から、ベルト巻取り力が増加する。このようにFAスプリング50のトルクは消失してスピンドル10に作用しないため、ベルト巻き取り力=リターンスプリング40のトルクとなり、巻取り力が最大の状態になる。
【0055】
<シートベルト用リトラクタの制御>
ユーザーがシートベルト2を外した際のシートベルト用リトラクタ1における制御について説明する(図12図13参照)。なお、シートベルト2を外すというのは、特に図示はしないが、具体的にはユーザーがシートベルト2のタング(図示省略)をバックル(図示省略)から外してシートベルト装着状態を解除することを指す。シートベルト2が外されたことは、例えばバックルに内蔵されたバックルスイッチ(図示省略)で検出することができる。以下では、外されたシートベルト2に対し、シートベルト用リトラクタ1がどのような制御に従いシートベルト2を巻き取るか等について説明する。
【0056】
まず、参考までに、既存のモータ付きシートベルト用リトラクタにおける制御例を説明する(図12参照)。ユーザーがシートベルトを外したことをバックルスイッチで検出すると(ステップSP21)、制御装置(図示省略)によりモータを第1の方向に回転させ、スピンドルを巻取り方向に回転させてシートベルト2を巻き取る(ステップSP22)。シートベルトを所定量巻き取って収容する動作が完了したら(ステップSP23にてYes)、モータをいったん停止させ(ステップSP24)、モータを第2の方向に回転させ(ステップSP25)、停止させる(ステップSP26)。ここでは、シートベルトの巻取りがモータの力でのみ行われる。
【0057】
次に、本実施形態にかかるFAスプリング50付きのシートベルト用リトラクタ1における制御例を説明する(図13参照)。ユーザーがシートベルト2を外したことをバックルスイッチで検出すると(ステップSP11)、制御装置(図示省略)によりモータ20を第1の方向に回転させる(ステップSP12)。モータ20を第1の方向に回転させている間(図13中では<b>と表記している。これは短時間であってよい)、ラッチ機構60が解除され、パウル61が外れてFAハウジング51が回転し、FAスプリング(巻取り力調整スプリング)50のトルク(反巻取り力)は弱くなる(図13(B)参照)。FAスプリング50のトルク(反巻取り力)が消失して0(ゼロ)になったら、その後でモータ20をいったん停止させる(ステップSP13)。なお、このSP13では、例えば、「ベルト巻き取り量>収納判断閾値」という条件に基づき判断してもよい。FAスプリング50のトルク(反巻取り力)が消失することでベルト巻取り力が最大の状態になったら、リターンスプリング40の巻取り力を利用してシートベルト2を所定量巻き取って収容する動作が完了したら(ステップSP14にてYes)、モータ20を第2の方向に回転させ(ステップSP15)、回転させている間(図13中では<c>と表記している)、FAスプリング50を巻き上げてトルク(反巻取り力)を蓄勢させる(図13(C)参照)。FAスプリング50に所定のトルク(反巻取り力)を蓄勢させ、ベルト巻取り力が低い状態にする。
【0058】
既存のモータ付きシートベルト用リトラクタの場合には、リターンスプリングのトルク(巻取り力)をあらかじめ弱めに設定することでユーザーが感じる窮屈さを低減させつつ、シートベルトを確実に巻き取って収納するためにモータで巻取りをアシストする構成としている場合がある(図12参照)。これに対し、本実施形態のごときシートベルト用リトラクタ1のようにFAスプリング50を有している場合には、FAスプリング50の働きにより窮屈さを低減できることから、リターンスプリング40のトルク(巻取り力)を通常通りの強さに設定することが可能となっている。したがって、ラッチ機構60を解除してFAスプリング50が作用しない状態にすれば、リターンスプリング40に蓄勢されたトルク(巻取り力)によってシートベルト2を収納位置まで巻き取ることが可能である。上記に示した制御(図13参照)は、このような構成に基づき、窮屈さを低減させつつシートベルト2を確実に巻き取るうえで好適である。しかも、本実施形態のごとくリターンスプリング40に蓄勢されたトルク(巻取り力)を主に利用してシートベルト2を巻き取る構成とした場合には、
・ばねによる巻取りのほうが自然な感触である
・モータのみでベルトを巻き取る場合に比べて短い時間、駆動すればよく(モータ20を第1の方向に短時間回転させることでラッチ機構60を解除し、FAスプリング50のトルク(反巻取り力)を消失させることができる)、そのぶんモータ駆動時間が短いので、モータ駆動時の騒音や電気ノイズが低減され、省エネかつ低ノイズである
といった利点が得られる。
【0059】
さらに、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1の利点として以下を挙げることができる。
【0060】
まず、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1においては、反巻取り力を蓄勢可能なFAスプリング(巻取り力調整スプリング)50による反巻取り力の大きさを調整する(具体的には、増加させる)ことにより、リターンスプリング40からスピンドル10に作用する巻取り力の大きさを減少させ、ベルト引き出し時にユーザーが必要とする引き出し力を弱めてあげることが可能である。
【0061】
また、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1においては、反巻取り力を蓄勢可能なFAスプリング(巻取り力調整スプリング)50による反巻取り力の大きさを調整することで、リターンスプリング40のみでシートベルト2を適度な力で巻き取るようにすることができる。このため、このシートベルト用リトラクタ1によれば、PP(モータ20の力でシートベルト2を巻き取るモータ20付きシートベルト)の機構を備えつつ、ベルト装着中にPP駆動が要求された場合(例えば、衝突可能性があるときのような車両急減速状態をセンサで検出した場合)、モータ20を第1の方向に駆動してシートベルト2を巻き取り方向に駆動するが、この際、ラッチ機構60を解除してFAスプリング50の反巻取り力を消失させることで、ベルト巻取り力を瞬時的に増大させることができる。この場合、ベルト巻取り力が増大したとしても、モータ20の力のほうがより強いため、ユーザーは違和感を抱きにくい。上記のPP駆動が完了したら、モータ20を第1の方向に駆動して駆動してFAスプリング50の反巻取り力を蓄勢することでベルト巻取り力を再び弱い状態に設定することができる。このように、本実施形態のシートベルト用リトラクタ1によれば、従来のPPの機能を損なわずに、ベルト巻き取り力の調整を行うことができる。
【0062】
また、慣性クラッチを使っている従来の装置の場合、FAハウジングを回転させる際の回転量の制約は解消されるものの、機構が複雑になるという点のほか、ゆっくりとモータの力でシートベルトを巻くというモードに対応できないという点が欠点となりうる。このモードは例えば、横Gが作用する急カーブ走行のとき乗員の身体を保持するためにベルト伸び出し抑制動作を実施する場合などで必要となるが、乗員を支えるためにはモータのトルクが必要である一方、奇異なフィーリングを与えないためにはゆっくりとシートベルトを巻き始めなければならない、という状況では慣性クラッチだと対応しきれない。この点、フリクション式ワンウェイクラッチ34aを含むクラッチ機構34を備え、かつ、同一のモータ20を動力としてシートベルト巻取り用のリターンスプリング40の巻取り力を調整するためのFAスプリング(巻取り力調整スプリング)50を備えた本実施形態のシートベルト用リトラクタ1においては、従来装置とは異なり、ゆっくり高い荷重でベルトを巻くというモードに対応することが可能である。したがって、例えば横Gが作用するカーブ走行のとき乗員の身体を保持するためにベルト伸び出し抑制動作を実施するような場合、ユーザーに違和感を与えないようにゆっくりとベルトを巻き取り身体にフィットさせることが可能である。しかも、本実施形態では、リターンスプリング40のトルクの調整には、モータ20を第2の方向(クラッチ解除方向)に駆動すると反巻取り力が蓄勢され、第1の方向(巻取り方向)に駆動すると解放される仕組みを用いることで、前述のフリクション式ワンウェイクラッチ34aを含むクラッチ機構34のメカニズムと、スプリング力調整のメカニズムを両立させている。
【0063】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、特に図示してはいないが、上述したシートベルト用リトラクタ1において以下のような制御をすることもできる。すなわち、
・車両のエンジンオフ後、規定時間経過し、乗員が降車して停車状態にあると判断しうる場合
・車両ドアが開いた後で閉まったことを検出して乗員が降車したと判断しうる場合
のいずれか一方または両方が成立したとき、モータ20を第2の方向に回転させFAスプリング50を巻き上げてトルク(反巻取り力)を蓄勢させる。これにより、ベルト巻取り力は、ベルト引き出し~ベルト装着中も、モータが動作しない限り同じ状態で保たれるようになる。また、上記のように制御することで、ベルト収納後、ベルト巻取り力を再び弱くするためのモータ駆動を、乗員が降車したと推定される状況で行えるため、乗員に不快感を与えないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、車両用のシートベルトを巻き取るように構成されたシートベルト用リトラクタに適用して好適である。
【符号の説明】
【0065】
1…シートベルト用リトラクタ
2…シートベルト
3…筐体
10…スピンドル
10x…中心軸
20…モータ
21…出力軸
30…動力伝達機構
31…モータギア
32…伝達シャフト
32a…第1ヘリカルギア
32b…第2ヘリカルギア
33…ファイナルギア(第1回転ギア)
33a…はすば
33m…突起
33p…ピン
33t…突起
34…クラッチ機構
34a…フリクション式ワンウェイクラッチ
34b…ワンウェイクラッチ用パウル
34c…ワンウェイクラッチ用パウルの歯先
34f…ワンウェイクラッチ用フリクションリング
34g…爪
34h…ガイド
35…クラッチハウジング
35a…ラチェットギア
36…コイルスプリング
37…ギアケース
38…ギアカバー
40…リターンスプリング
40b…ボス部材
40i…内側端部
40o…外側端部
41…スプリングカセット
50…FAスプリング(巻取り力調整スプリング)
50b…ボス部材
50i…内側端部
50o…外側端部
51…FAハウジング(ハウジング)
59…ラチェットギア
60…ラッチ機構(連結機構)
61…パウル
61t…パウルの爪先
62…パウルリターンスプリング
63…フリクションリング(供回りリング)
63g…ガイド
63h…長孔
CCW…巻取り方向(第1の方向、シートベルトを巻き取る方向)
CW…クラッチ解除方向(シートベルトを巻き取る方向とは逆の方向)


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17