(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131123
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】法面吹付工法及び法面補強セメント系硬化層用保護剤
(51)【国際特許分類】
C04B 41/63 20060101AFI20240920BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C04B41/63
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041205
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 丈史
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】杉村 涼平
(72)【発明者】
【氏名】東 秀明
【テーマコード(参考)】
4G028
4G112
【Fターム(参考)】
4G028CA01
4G028CB01
4G112PA22
(57)【要約】
【課題】本発明は、法面補強のために設けられるセメント系硬化層のひび割れ等の破損を十分に抑制できる法面吹付工法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(1)(A)対象法面の表面を保護液で処理後、セメント系吹付材を吹き付ける工程((A1)保護液による対象法面の前処理工程、及び(A2)前処理後の表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程を含んでもよい)、及び(B)吹付面を保護液で処理して養生しセメント系硬化層を形成する工程を含むか、又は、前記工程(A1)及び(A2)からなる工程を含む、法面吹付工法、及び、ミクロフィブリルセルロースを含む、法面補強セメント系硬化層用保護剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)対象法面の表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程、及び
(B)吹付面を保護液で処理して養生しセメント系硬化層を形成する工程を含み、
前記保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
法面吹付工法。
【請求項2】
(B)工程における保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、請求項1に記載の工法。
【請求項3】
(A)工程は、(A1)対象法面の表面を第2の保護液で処理する前工程、及び(A2)前記前工程の後に、前記表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程を含み、
前記第2の保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
請求項1又は2に記載の法面吹付工法。
【請求項4】
(A)工程における第2の保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、請求項3に記載の工法。
【請求項5】
(A1)対象法面の表面を保護液で処理する前工程、及び、
(A2)前記前工程の後に、セメント系吹付材を吹き付ける工程を含み、
前記保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
法面吹付工法。
【請求項6】
前記保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、請求項5に記載の工法。
【請求項7】
水分散液中のミクロフィブリルセルロースの固形分濃度が、0.01~10重量%である、請求項1、3又は5に記載の工法。
【請求項8】
ミクロフィブリルセルロースを含む、法面補強セメント系硬化層用保護剤。
【請求項9】
前記ミクロフィブリルセルロースが、ミクロフィブリルセルロースを構成するセルロースのグルコース単位中におけるC6位のヒドロキシル基の一部がカルボキシル基に酸化されており、且つミクロフィブリルセルロースに対するカルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gである、請求項8に記載の保護剤。
【請求項10】
前記ミクロフィブリルセルロースが、ミクロフィブリルセルロースを構成するセルロースのグルコース単位中におけるヒドロキシル基の水素原子の一部がカルボキシメチル基に置換されており、且つグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50である、請求項8に記載の保護剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面吹付工法及び法面補強セメント系硬化層用保護剤に関する。
【背景技術】
【0002】
法面を補強する工法の一つとして、法面吹付工法が知られている。法面吹付工法においては、モルタル等のセメント系吹付材を法面に吹き付けて養生させることによりセメント系硬化層を設けるが、ひび割れが発生することが問題となっている。ひび割れの種類としては、養生中に硬化層が乾燥することによる乾燥収縮ひび割れ、水分の移動と同時に起こる固体成分の沈下によるひび割れ(型枠等の強化材上部など)、法面のうちモルタルの流れが止められる箇所におけるひび割れがある。
【0003】
特許文献1には、ケイ酸塩系表面含浸材を法面工事の吹付モルタルの表面改質に用いることにより、ヘアークラック、ひび割れ等の空間を緻密化し、強度、耐久性、防水性等の向上、中性化、塩害等の抑止が可能であることが記載されている。特許文献2には、セメント硬化体にナイロン66を含む所定強度の繊維を配合することにより、ひび割れが生じた部分に水分を間欠的又は連続的に付与することによりひび割れを自己治癒できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-79042号公報
【特許文献2】特開2017-222555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、法面の補強工事におけるひび割れを十分抑制することができない場合があった。そのため、本発明は、法面補強のために設けられるセメント系硬化層のひび割れ等の破損を十分に抑制できる法面吹付工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔8〕を提供する。
〔1〕(A)対象法面の表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程、及び
(B)吹付面を保護液で処理して養生しセメント系硬化層を形成する工程を含み、
前記保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
法面吹付工法。
〔2〕(B)工程における保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、〔1〕に記載の工法。
〔3〕(A)工程は、セメント系吹付材を吹き付ける前に、対象法面の表面を第2の保護液で処理する前工程を含み、
前記第2の保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
〔1〕又は〔2〕に記載の法面吹付工法。
〔4〕(A)工程における第2の保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、〔3〕に記載の工法。
〔5〕対象法面の表面を保護液で処理する前工程、及び、
前記前工程の後に、セメント系吹付材を吹き付ける工程を含み、
前記保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液である、
法面吹付工法。
〔6〕前記保護液による処理は、対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、0.5g/m2以上となるように行う、請求項5に記載の工法。
〔7〕水分散液中のミクロフィブリルセルロースの固形分濃度が、0.01~10重量%である、〔1〕、〔3〕又は〔5〕に記載の工法。
〔8〕ミクロフィブリルセルロースを含む、法面補強セメント系硬化層用保護剤。
〔9〕前記ミクロフィブリルセルロースが、ミクロフィブリルセルロースを構成するセルロースのグルコース単位中におけるC6位のヒドロキシル基の一部がカルボキシル基に酸化されており、且つミクロフィブリルセルロースに対するカルボキシル基の量が0.5mmol/g~3.0mmol/gである、〔8〕に記載の保護剤。
〔10〕前記ミクロフィブリルセルロースが、ミクロフィブリルセルロースを構成するセルロースのグルコース単位中におけるヒドロキシル基の水素原子の一部がカルボキシメチル基に置換されており、且つグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01~0.50である、〔8〕に記載の保護剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、法面吹付工法におけるセメント系吹付材の過剰な乾燥を抑制し、セメント系硬化層におけるひび割れ等の破損を十分に抑制でき、法面を十分補強できる。そのため、本発明は、法面補強に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1.法面吹付工法]
法面吹付工法は、以下の(A)工程を含み、更に(B)工程を含んでもよい。
【0009】
[(A)吹付工程]
(A)工程は、対象法面の表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程である。(A)工程は、吹付前処理として保護液による対象法面の表面の処理を含んでもよい。すなわち、(A1)対象法面の表面を保護液で処理する前工程と、(A2)前記前工程の後に、前記表面にセメント系吹付材を吹き付ける工程とを含んでもよい。(B)工程を省略する場合、(A)工程は、(A1)及び(A2)工程を含むことが好ましい。
【0010】
[対象法面]
対象法面は、補修の対象としての法面であり、風化等による崩壊の抑制が望まれる斜面であれば特に限定されない。一例をあげると、道路、宅地造成地等の崖地、切土法面が挙げられ、安全確保、災害復旧、治山等の目的で選択できる。
【0011】
対象法面は、必要に応じて、予め整地作業を行うことが好ましい。これにより、以降の作業を円滑に進めることができる。整地作業としては、例えば、草木、石等の障害物の清掃、凹凸の平滑化が挙げられる。整地は、人力で、又は機器を用いて(例;重機)行うことができる。
【0012】
[補強材]
対象法面の表面には、セメント系組成物の吹付前に補強材が敷設されていることが好ましい。これにより、法面をより強固に補強できる。
【0013】
補強材としては、例えば、網状部材、型枠、ロックボルトが挙げられる。これらの補強材は、既知の法面補強工法(例、モルタル吹付工法、法枠工法、ロックボルト工法)に沿って設置すればよい。
【0014】
-網状部材-
網状部材は、通常、ラス金網(ひし形金網)と呼称される金網であり、必要に応じて亜鉛メッキがなされていてもよい。網状部材は、型枠及び/又はロックボルトを設置する場合も設置しない場合も(モルタル吹付工法、法枠工法、ロックボルト工法のいずれにおいても)敷設することが好ましい。通常、他の補強材の設置に先行して、まず対象法面の表面に直截貼り付けられる。これにより、吹付材の剥離、破損を抑制できる。網状部材の網目寸法は特に限定されない。網状部材の設置には、必要に応じて結束線、アンカーピン等の留め具を用いることができる。
【0015】
-型枠-
型枠は、法枠の補強材となり得る材料であり、通常、複数の型枠部材(L字型、T字型当の枠部材)を、格子状に交差する横枠(斜面に略垂直)及び縦枠(斜面に略水平)を構成するよう配置して形成される。型枠はいずれも、法面の表面に沿って、曲線又は直線状に設置されることが好ましい。型枠の固定は、例えば、交点に主アンカー、横枠に補助アンカーを設置して行うことができる。
【0016】
-ロックボルト-
ロックボルトは、既知の鋼材を用いることができる。ロックボルトの設置は、通常、削孔、ロックボルトの挿入、グラウト注入、頭部処理によることができ、具体例を挙げると以下のとおりである。まず、ロックボルトを挿入する予定の部位に重機等を用いて挿入可能な孔を形成し、ロックボルトを挿入し、その周囲にグラウト材(常法により調製したセメント系組成物)を孔口からポンプ等の装置を用いて注入する。注入後は、載荷等によりロックボルトを定着させる。続いて、ロックボルト頭部背面の止水や防食を行い、キャップを取付てロックボルトを固定する。ロックボルトの取り付け位置、取り付けの時期は特に限定されない。例えば、セメント系吹付材の吹付前において型枠を敷設し、吹付後に形成される法枠の格子の交点(縦枠および横枠の交差部分)に挿入することもできる。
【0017】
[保護液]
(A)工程において、保護液は、セメント系吹付材を吹き付ける前の対象法面の表面を処理するための液体であり、水系の液体であることが好ましく、水でもよい。水は特に限定されず、JIS A 5308付属書9に示される上水道水、上水道水以外の水(河川水、湖沼水、井戸水など)、回収水等が例示される。
【0018】
-ミクロフィブリルセルロース-
(A)工程が(A1)工程を含む場合、保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含むことが好ましい。これにより、(B)工程において、養生時の過剰な乾燥を抑制でき、セメント系硬化層におけるひび割れ等の破損(中でも、初期のひび割れ)発生をより抑制できる。本明細書において、(A1)工程において用いる保護液は、(B)工程において用いる保護液と区別するため、第2の保護液と言うことがある。
【0019】
保護液がミクロフィブリルセルロースを含む場合、その含有量(固形分濃度)は、通常、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上である。これにより、添加効果を十分に発揮できる。一方、上限は、通常、10重量%以下、好ましくは8重量%以下である。これにより、保護液の粘度を散布可能な程度に抑えることができ、作業性が良好となる。従って、ミクロフィブリルセルロースの含有量は、通常、0.01~10重量%、好ましくは0.1~8重量%である。
【0020】
ミクロフィブリルセルロースの、化学構造及び製造方法に関しては、後段で説明するとおりである。ミクロフィブリルセルロースを含む保護液の調製は、例えば、ミクロフィブリルセルロースを水に添加し、撹拌等により分散させることにより行うことができる。水の好ましい例については、上述のとおりである。
【0021】
-任意成分-
保護液は、ミクロフィブリルセルロース以外の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドメタノール付加物などのポリオキシアルキレンに低級アルコールを付加したもの、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック重合物、エチレンオキシド・プロピレンオキシドランダム重合物、グリコールのシクロアルキル基付加物、グリコールの両端にメチル基を付加した付加物、グリコールのフェニル基付加物、グリコールにメチルフェニル基を付加したブロック重合物、グリコールの両端にエチレンオキシドメタノールを付加した付加物及びグリコールにジメチルアミンを付加した付加物等を有効成分とする収縮低減剤、等の、セメント系組成物に利用される既知の成分が挙げられる。第1の保護液がミクロフィブリルセルロースを含む場合、保護液には、被膜が耐水性を発現可能な接着剤、又は界面活性剤が含まれていてもよい。上記接着剤を含むことにより、ミクロフィブリルセルロースをセメント系硬化層表面に定着させることができる。また、界面活性剤を含むことにより、保護液を硬化層内部へ十分に浸透させることができる。
【0022】
[保護液による処理]
保護液で対象法面の表面を処理する方法としては、表面に接触させる方法であればよく、例えば、散布、噴霧、塗布が挙げられる。これらの処理には、噴霧器、高圧洗浄機、ローラ、刷毛又はブラシ等の用具を適宜用いることができる。処理は1回でも複数回に分けてでもよい。複数回の処理を行うことにより、ひび割れ抑制効果をより向上させることができる。例えば、1回目の処理後に保護液が概ね乾燥した後、2回目、3回目と重ねて同様の処理を行うことができる。
【0023】
保護液がミクロフィブリルセルロースを含む場合、その被処理面への適用量は、処理面の対象面積あたりのミクロフィブリルセルロースの適用量が、好ましくは0.5g/m2以上、より好ましくは1g/m2以上、5g/m2以上又は10g/m2以上、さらに好ましくは30g/m2以上、50g/m2以上、70g/m2以上又は100g/m2以上である。これにより、被処理面を十分被覆でき、水分の蒸発を抑制でき収縮低減効果を十分発揮できる。上限は特にないが、通常は1000g/m2以下、好ましくは900g/m2以下、より好ましくは800g/m2以下である。従って、ミクロフィブリルセルロースの適用量は、好ましくは0.5g/m2以上、より好ましくは0.5~1000g/m2、さらに好ましくは1~1000g/m2、さらにより好ましくは10~900g/m2又は10~800g/m2である。
【0024】
保護液による処理後は、乾燥処理(例えば、5~35℃で静置)を行ってもよい。
【0025】
[セメント系吹付材]
セメント系吹付材は、通常、セメント、骨材、水を含む。セメント系吹付材は、法面に吹付可能な組成物であればよく、例えば、セメントペースト(セメント、水)、モルタル(セメント、細骨材、水)、コンクリート(セメント、粗骨材、細骨材、水)等の未硬化の組成物が挙げられる。
【0026】
-セメント-
セメントとしては、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)が挙げられる。セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体、石膏などの成分が添加されていてもよい。
【0027】
-骨材-
骨材としては、例えば、砂、砂利、砕石;水砕スラグ;再生骨材等;珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材が挙げられる。径が小さい場合細骨材、大きい場合粗骨材として扱われる。一般には、10mmふるいを通過し5mmふるいを85重量%以上通るものを細骨材、5mmふるいに重量で85重量%以上が通過せずふるいに留まるものを粗骨材として扱う。
【0028】
-水-
水としては、(A1)工程の保護液について説明したのと同様の水を使用できる。吹付材中の水含有量は、通常4~50重量%である。
【0029】
-補強材-
セメント系吹付材は、補強材を含むことが好ましい。これにより、セメント系硬化層を補強でき、破損抑制効果を向上させることができる。補強材としては、例えば繊維状補強材(例、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール繊維等の樹脂製繊維)が挙げられる。繊維状補強材の場合、繊維径は、通常、0.01~0.5mm、繊維長は、通常、0.1~20mmである。補強材の吹付材への添加量は、通常、0.5~10000g/m3である。
【0030】
-他の添加剤-
セメント系吹付材は、セメント、骨材、水、補強材以外の添加剤を必要に応じて含んでもよい。例えば、AE(空気連行)剤、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、硬化促進剤、防錆剤、付着モルタル安定剤、凝結遅延剤、収縮低減剤、分離低減剤、気泡剤(発泡剤)、防凍剤(耐寒促進剤)、が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上の組み合わせを選択できる。
【0031】
-セメント系吹付材の製造方法-
セメント系吹付材の製造は、例えば、セメントを含む各種材料を一括又は順次添加し、混練(例えば、強制二軸ミキサーなどのコンクリートミキサー、アジテータ車のミキシング・ドラム内での混練)して行うことができる。混練時間、温度は通常の条件に従えばよく、特に限定されない。各材料の添加時期は、特に限定されず、一括添加、順次添加(例えば、水以外の材料を先にミキシングし、水を使用直前に添加)のいずれでもよい。
【0032】
[セメント系吹付材の吹付方法]
セメント系吹付材の対象法面への吹付は、例えば、吹付ノズルを備える吹付装置を用い、手動、半自動、自動制御で行うことができる。
【0033】
セメント系吹付材の吹付量は、常法に従って調整できる。例えば、法面表面から吹付後の吹付層表面までの平均厚さが、通常3~20cm、好ましくは4~18cm、より好ましくは5~15cmとなるように吹き付けることができる。
【0034】
[(B)養生工程]
(B)工程では、吹付面を保護液で処理して養生しセメント系硬化層を形成する。(B)工程を行うことにより、表面強度及び硬化の度合いへの影響を抑制し、セメント系硬化層のひび割れ等の破損を効率的に抑制できる。
【0035】
[保護液]
(B)工程で用いる保護液は、セメント系吹付材で処理済みの吹付面を処理するための液体であり、水系の液体であることが好ましく、水でもよい。水としては、(A1)工程で用いる保護液について説明したのと同様の水を使用できる。保護液は、ミクロフィブリルセルロースを含むことが好ましい。これにより、養生時の過剰な乾燥を抑制でき、セメント系硬化層におけるひび割れ等の破損発生をより抑制できる。(B)工程で用いる保護液に関する、ミクロフィブリルセルロースの使用量、固形分濃度、保護液の調製方法の好ましい態様、範囲は、(A1)工程で用いる保護液について説明したのと同様である。ミクロフィブリルセルロースの、化学構造及び製造方法に関しては、後段で説明するとおりである。
【0036】
[保護液による処理]
保護液でセメント系吹付材の吹付面を処理する方法、吹付量(ミクロフィブリルセルロースの適用量)の好ましい態様、範囲は、(A1)工程で用いる保護液について説明したのと同様である。
【0037】
保護液による処理時期は、セメント系吹付材の吹付以降硬化完了までの間であればいつでもよいが、好ましくは吹付材中のセメントの凝結反応の終結後(例えば、約30分後、40分後、50分後、又は1時間後)である。これにより、表面強度及び硬化の度合いへの影響を抑制し、本発明の効果をえることができる。上限は、好ましくは材齢7日まで、より好ましくは材齢3日までである。これにより、乾燥収縮が進行する前に処理できるので、十分な収縮低減効果を得ることができる。
【0038】
本明細書において、凝結反応の終結とは、骨材成分を実質含有しないセメントペーストに対してはJIS R 5201「セメントの物理試験方法」の規定による終結時間、またモルタル又はコンクリートに対してはJIS A 1147「コンクリートの凝結時間試験方法」の規定する終結時間のことをいう。また、材齢とは、原料を混和・注水してセメント系吹付材を作製後、吹き付けた時点からの経過期間をいう。
【0039】
(B)工程において用いる保護液の組成、処理条件は、(A1)工程において用いる保護液と同じでもよいし、異なってもよい。
【0040】
[養生]
養生期間は、セメント系吹付材が硬化しセメント系硬化層となるまで行えばよく、セメント系吹付材の組成、吹付量、気候等の条件に応じて適宜調整できる。(A)工程において型枠を敷設した場合、格子状の型枠部材の間に吹付けられた吹付材が養生工程を経て硬化することで、対象法面上に格子状の法枠が形成される。法枠で囲まれた窪地には、土砂、玉石の充填、芝張りによる緑化を行ってもよい。法枠の格子の交点部分には、前述のとおりロックボルトを設置してもよい。
【0041】
[作用]
ミクロフィブリルセルロースを含有する水分散液を(A1)及び/又は(B)工程の保護液として利用することにより(好ましくは保護液として利用することにより)、セメント系硬化層のひび割れを抑制できる理由は、定かではないが、1)乾燥収縮防止:ミクロフィブリルセルロースが高い保水性を持つために、セメント系吹付材の硬化初期段階における急激な乾燥収縮を抑制していること、2)補強性の向上:ミクロフィブリルセルロースが微細な繊維状の構造をしていること、3)中性化および塩害防止:ミクロフィブリルセルロースの結晶化度が高いため、緻密な構造の膜を形成し、高いバリア性を発現していることに起因して、養生時の表面からの過剰な乾燥(水分蒸発)が抑制されるためと推測される。また、ミクロフィブリルセルロースが形成する保護膜により、太陽光、二酸化炭素によるセメント系硬化層の劣化の抑制も期待できる。
【0042】
[2.法面補強セメント系硬化層用保護剤]
法面補強セメント系硬化層用保護剤は、ミクロフィブリルセルロースを有効成分として含む。
【0043】
[ミクロフィブリルセルロース]
ミクロフィブリルセルロースとは、セルロース原料を、必要に応じ化学変性処理した後で、解繊処理することにより得られる微細繊維である。
【0044】
-繊維のサイズ-
ミクロフィブリルセルロースの平均繊維径は、通常、500nm超、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上である。
【0045】
ミクロフィブリルセルロースの平均繊維長は、200μm以上が好ましく、300μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましい。平均繊維長の上限は、特に限定されないが、3000μm以下が好ましく、1,500μm以下が好ましく、1,400μm以下がより好ましく、1,300μm以下がさらに好ましい。
【0046】
平均繊維径及び平均繊維長の測定は、例えば、ミクロフィブリルセルロースの0.001重量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出できる。
平均アスペクト比は、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。アスペクト比の上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0047】
-セルロース原料-
ミクロフィブリルセルロースの原料であるセルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ)、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0048】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0049】
-変性-
セルロース原料は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。本発明では、これらに対して変性を行ってもよく、また行わなくてもよいが、化学変性処理を行った方が、ゴム組成物に含有させた際に十分な補強性を発揮し得るため好ましい。その理由は、セルロース原料の変性により繊維の微細化が十分に進み、均一な繊維長及び繊維径が得られるためである。また、補強性を発揮するのに有効な繊維長及び繊維径を持つ繊維数が十分に確保できるためである。
【0050】
セルロース原料を変性するための変性方法は特に制限されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などの化学変性が挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化、カチオン化、エステル化が好ましい。以下、これらについて詳細に説明する。
【0051】
(変性の例:酸化)
酸化によりセルロース原料を変性する場合、得られる酸化セルロース又はミクロフィブリルセルロースの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは0.8mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、0.5mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、0.8mmol/g~2.5mmol/gがより好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gが更に好ましい。
【0052】
酸化の方法は特に限定されないが、1つの例としては、N-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0053】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0054】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~1mmolがさらに好ましい。
【0055】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0056】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0057】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0058】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0059】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0060】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30重量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1~30重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0061】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0062】
酸化ミクロフィブリルセルロースに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0063】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はミクロフィブリルファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕。
【0064】
(変性の例:エーテル化)
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0065】
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース又はミクロフィブリルセルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30が更に好ましい。
【0066】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されないが例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上又は95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0067】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0068】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0069】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、更に好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0070】
カルボキシメチル化ミクロフィブリルセルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行えばよい。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0071】
(変性の例:カチオン化)
カチオン化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカチオン化ミクロフィブリルセルロースは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオン、又は該カチオンを有する基を分子中に含んでいればよい。カチオン化ミクロフィブリルセルロースは、アンモニウムを有する基を含むことが好ましく、四級アンモニウムを有する基を含むことがより好ましい。
【0072】
カチオン化の方法は特に限定されないが例えば、セルロース原料にカチオン化剤と触媒を水及び/又はアルコールの存在下で反応させる方法が挙げられる。カチオン化剤としては例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト(例:3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムハイドライト)又はこれらのハロヒドリン型などが挙げられ、これらのいずれかを用いることで、四級アンモニウムを含む基を有するカチオン化セルロースを得ることができる。触媒としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属が挙げられる。アルコールとしては例えば、炭素原子数1~4のアルコールが挙げられる。カチオン化剤の量は、好ましくはセルロース原料100重量%に対して5重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上である。上限は通常800重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。触媒の量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。上限は通常7重量%以下であり、好ましくは3重量%以下である。アルコールの量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して50重量%以上であり、より好ましくは100重量%以上である。上限は通常50000重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。
【0073】
カチオン化の際の反応温度は通常10℃以上、好ましくは30℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、通常10分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは5時間以下である。カチオン化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0074】
カチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、カチオン化剤の添加量、水及び/又はアルコールの組成比率のコントロールによって調整することができる。カチオン置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、カチオン置換度は、「導入された置換基のモル数をグルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義される。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、カチオン置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0075】
カチオン化ミクロフィブリルセルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。上限は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。従って、0.01~0.40であることが好ましく、0.02~0.30がより好ましく、0.03~0.20が更に好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01以上であることにより、十分にナノ解繊することができる。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40以下であることにより、膨潤又は溶解を抑制することができ、これにより繊維形態を維持することができ、ミクロフィブリルセルロースとして得られない事態を防止することができる。
【0076】
グルコース単位当たりのカチオン置換度の測定方法の一例を以下に説明する。試料(カチオン化セルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN-10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式によりカチオン化度を算出する。ここでいうカチオン置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値である。
【0077】
カチオン置換度=(162×N)/(1-151.6×N)
N:窒素含有量
【0078】
(変性の例:エステル化)
本発明において、化学変性セルロースとして、エステル化したセルロースを用いる場合、セルロース系原料に対し、以下に挙げる化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース系原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0079】
化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形を取っても構わない。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0080】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例を挙げるとするならば、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10重量%のセルロース系原料の懸濁液に、化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100重量部とした際に、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500重量部であることが好ましく、1~400重量部であることがより好ましい。化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えても、収率向上の効果は頭打ちとなり、無駄に化合物Aを使用するだけである。
【0081】
この際、セルロース原料、化合物Aの他に、化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよく、化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。前記「塩基性」の定義は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈する場合、または/および水溶液のpHが7より大きい場合である。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量は2~1000重量部が好ましく、100~700重量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0082】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にミクロフィブリル状に解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ミクロフィブリルセルロースとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
【0083】
リン酸基置換度は、以下の方法で測定し得る。固形分量が0.2質量%のリン酸エステル化CNFのスラリーを調製する。スラリーに対し、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーとを分離することにより、水素型リン酸エステル化CNFを得る。次いで、イオン交換樹脂による処理後のスラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測する。計測結果のうち、急激に電気伝導度が低下する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除すことにより、水素型リン酸エステル化CNF1g当たりのリン酸基量(mmol/g)を算出する。さらに、リン酸エステル化CNFのグルコース単位当たりのリン酸基置換度(DS)を、次式によって算出する:
DS=0.162×A/(1-0.079×A)
A:水素型リン酸エステル化CNFの1gあたりのリン酸基量(mmol/g)。
【0084】
-解繊-
セルロース原料の解繊は、セルロース原料に変性処理を施す場合には、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0085】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものが好ましい。
【0086】
解繊をセルロース原料の分散体に対して行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0087】
解繊、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0088】
[用途]
法面補強セメント系硬化層保護剤は、法面の補強用のセメント系硬化剤を含む層の保護液として用いることができる。例えば、法面補強用のセメント系吹付材の吹付後の吹付面の処理に用いることができ、好ましくは、吹付前の対象法面(法面に直接、又は強化材上)に適用できる。より好ましくは、前述の法面吹付工法の保護液(好ましくは(A1)工程及び/又は(B)工程の保護液)として利用できる。法面補強セメント系硬化層保護剤の剤型は、液状(水分散液など)、固体状(粉末、ペレットなど)、半固体状(ゲルなど)のいずれでもよく、固体状、半固体状であって保護液として用いる場合には、水に分散させて水分散液として用いることができる。
【実施例0089】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
<製造例1> 酸化ミクロフィブリルセルロース水分散液の製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.0mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.4mmol/gであった。これを水で4.0%(w/v)に調整し、シングルディスクリファイナー(製品名:14インチ ラボリファイナー(相川鉄工株式会社製))で処理して、酸化ミクロフィブリルセルロース分散液を得た。平均繊維径は15.9μm、平均繊維長0.58mmであった。この酸化ミクロフィブリルセルロースの0.5重量%水分散液(MFC水分散液)を、以下の実施例において塗布液として用いた。
【0091】
<製造例2> モルタルの製造
空練りプラントにて表1に示す配合のセメントと細骨材のミキシングを行い、現場にて使用直前に水を混入し、モルタル組成物を得た。
【0092】
【0093】
[表1の脚注]
C(セメント):普通ポルトランドセメント
S(細骨材):砕砂
W(水):水道水
【0094】
実施例1(モルタル吹付後のMFC散布)
道路に隣接する斜面の試験区画(100m2)の草木等を除去して清掃を行った後、ラス金網の設置、固定を行った。続いて、試験区画の表面にモルタルを吹き付ける前に、高圧洗浄機を用いて散水した。水の散布量は140~200L/m2とした。散水後、製造例2で製造したモルタル組成物を平均厚さ約7~10cmとなるように吹付けた。
【0095】
モルタル吹付終了から約1~2時間経過後、製造例1で製造したMFC水分散液を高圧洗浄機で散布した。散布量は、50~80L/m2、MFCの散布量は、300g/m2であった。
【0096】
実施例2(モルタル吹付前後のMFC散布)
実施例1とは別の隣接する試験区画において、モルタル吹付前に、散水に代えて、製造例1で製造したMFC水分散液を高圧洗浄機で散布したこと(散布量:450g/m2)以外は、実施例1と同様に行った。
【0097】
比較例1(散水のみ)
実施例1,2とは別の隣接する試験区画において、モルタル吹付前のMFC散布に代えて散水を行ったこと(散水量は実施例1と同様)以外は、実施例1と同様に行った。
【0098】
実施例1~2及び比較例1において、散布から7日経過後の試験区画のひび割れの状況を確認した。その結果、比較例1ではひび割れが49カ所、実施例1では18カ所2では16カ所であり、実施例のほうが顕著にひび割れを抑制できており、中でも実施例2は、初期のひび割れ抑制に効果があることが明らかとなった。また、いずれの実施例においても、作業性における問題はなかった。
【0099】
実施例3
実施例1、2とは別の試験区画(斜度のより急斜面、面積:5000m2)において、モルタル吹付前及び後の散布量を、それぞれいずれも500g/m2としたことの他は、実施例2と同様に実施した。
【0100】
比較例2(散水のみ)
実施例3とは別の隣接する試験区画において、モルタル吹付前のMFC散布に代えて散水を行ったこと(散水量は実施例3と同様)以外は、実施例3と同様に行った。
【0101】
実施例3において、散布から28日経過後の試験区画のひび割れの状況を確認した。実施例3では、比較例2と比べると顕著にひび割れを抑制できており、初期のひび割れ抑制に効果があることが明らかとなった。実施例3によれば斜度のきつい斜面でもひび割れ抑制効果が明らかになったことから、高斜度の斜面での、かつ広い対象区域の施工においてMFCのチキソ性がより活かせる可能性が期待された。また、いずれの実施例においても、作業性における問題はなかった。
【0102】
これらの実施例の結果は、本発明により法面補強時のセメント硬化層のひび割れ等の破損抑制効果を発揮できることを示している。