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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024131132
(43)【公開日】2024-09-30
(54)【発明の名称】電動パーキングブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20240920BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023041221
(22)【出願日】2023-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】石塚 基
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA08
3D246DA02
3D246GA15
3D246GC11
3D246HA06A
3D246HA49A
3D246HB21B
3D246JA12
3D246JB10
3D246JB33
3D246LA13Z
(57)【要約】
【課題】ブレーキパッドが交換されてその摩擦係数が低下した場合でも、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生できる電動パーキングブレーキシステムを提供する。
【解決手段】電動パーキングブレーキシステムは、パーキングロック機構を有しないギアボックスを備える車両に適用され、ブレーキロータに対してブレーキパッドを押圧状態ないし非押圧状態の位置に変位を可能にする電動モータと、押圧状態の位置において車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させるためにブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御する制御装置と、を備える。ブレーキパッドが交換された場合に、制御装置が、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキングロック機構を有しないギアボックスを備える車両の電動パーキングブレーキシステムであって、
ブレーキロータに対してブレーキパッドを押圧状態ないし非押圧状態の位置に変位を可能にする電動モータと、前記押圧状態の位置において前記車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させるために前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御する制御装置と、を備え、
前記ブレーキパッドが交換された場合に、前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御する
ことを特徴とする電動パーキングブレーキシステム。
【請求項2】
前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから前記増加押圧力の付与回数が所定回数を超えたと判断したときに前記慣らし期間が終了したと判断し、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから前記増加押圧力の累積付与時間が所定時間を超えたと判断したときに前記慣らし期間が終了したと判断し、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項4】
前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから前記車両の走行中の他の所定制動力を発生させる押圧力が前記所定押圧力を超えた累積時間が他の所定時間を超えたと判断したときに前記慣らし期間が終了したと判断し、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項5】
前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから前記車両の走行距離が所定距離を超えたと判断したときに前記慣らし期間が終了したと判断し、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項6】
前記増加押圧力が、前記通常押圧力と未使用品であるブレーキパッドの摩擦係数に対する前記通常押圧力が付与される通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数の比との積以上であることを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項7】
複数のブレーキロータと、各々のブレーキロータに対応するブレーキパッドと、を備え、
前記通常押圧力が付与される通常使用の場合において、前記制御装置が、少なくとも1つのブレーキパッドを対応するブレーキロータに対して前記通常押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御し、
前記ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了するまでの間において、前記制御装置が、前記通常押圧力が付与される通常使用の場合より多い個数のブレーキパッドを対応するブレーキロータに前記増加押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項8】
前記増加押圧力が、第1増加押圧力と、前記第1増加押圧力よりも小さい第2増加押圧力を含み、
前記制御装置が、前記ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了するまでの間において、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記第2増加押圧力で押圧させるより前に前記第1増加押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項9】
前記制御装置が、組付け確認モードにおける前記電動モータの作動時間が未使用品であるブレーキパッドの厚さに基づく前記電動モータの作動電流値のピーク間隔時間よりも長い場合に、前記ブレーキパッドが交換されていないと判断することを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項10】
前記車両の現在位置における天候が雨ないし雪であるか否かを検知する雨天検知装置を更に備え、
前記雨天検知装置が前記車両が停止した際に前記天候が雨ないし雪であると判断した場合には、前記制御装置が、前記ブレーキロータに対して前記ブレーキパッドを前記増加押圧力よりも大きい雨天用増加押圧力で押圧させるように前記電動モータを制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【請求項11】
前記雨天検知装置が、前記車両のワイパーの作動を検知するワイパー作動検知装置であり、
前記ワイパー作動検知装置は、前記ワイパーが更に他の所定時間継続して作動していた場合に、前記天候が雨ないし雪であると判断する
ことを特徴とする請求項10に記載の電動パーキングブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パーキングブレーキシステムに係り、さらに詳細には、パーキングロック機構を有しないギアボックスを備える車両の電動パーキングブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シフトレンジ切替機構におけるパーキングロック機構と、電動パーキングブレーキの双方を備える車両を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-167655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたような車両は、上述したパーキングロック機構と電動パーキングブレーキの2つの駐車制動装置を備えているため、電動パーキングブレーキの駐車制動力が低下しても、パーキングロック機構の駐車制動力で駐車制動性能を満足していた。
【0005】
しかしながら、パーキングロック機構を無くした場合、車両の駐車制動装置が電動パーキングブレーキのみとなり、電動パーキングブレーキはブレーキパッドの摩擦力によって駐車制動を行っているため、ブレーキパッド交換後の慣らし前の状態では摩擦力が低下し、駐車制動力が低下してしまうという問題点があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、ブレーキパッドが交換されて、ブレーキパッドの摩擦係数が低下した場合であっても、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させることができる電動パーキングブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ブレーキパッドが交換された場合に、制御装置が、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の電動パーキングブレーキシステムは、パーキングロック機構を有しないギアボックスを備える車両の電動パーキングブレーキシステムである。
この電動パーキングブレーキシステムは、ブレーキロータに対してブレーキパッドを押圧状態ないし非押圧状態の位置に変位を可能にする電動モータと、押圧状態の位置において車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させるためにブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御する制御装置と、を備える。
この電動パーキングブレーキシステムにおいては、ブレーキパッドが交換された場合に、制御装置が、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブレーキパッドが交換された場合に、制御装置が、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御することとしたため、ブレーキパッドが交換されて、ブレーキパッドの摩擦係数が低下した場合であっても、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させることができる電動パーキングブレーキシステムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の電動パーキングブレーキシステムの一実施形態の構成を示す概略図である。
図2図1に示した電動パーキングブレーキアクチュエータの構成を示す概略図である。
図3】電動パーキングブレーキシステム制御の一例を示すフロー図である。
図4】電動パーキングブレーキシステム制御の他の例を示すフロー図である。
図5】電動パーキングブレーキシステム制御の更に他の例を示すフロー図である。
図6】電動パーキングブレーキシステム制御の更に他の例を示すフロー図である。
図7】各サプライヤのブレーキパッドにおける作動回数N(又は作動時間T)とパッドの摩擦係数μとの関係を示すグラフ図である。
図8】各サプライヤのブレーキパッドにおける作動回数N(又は作動時間T)とクランプ力Fとの関係を示すグラフ図である。
図9】ブレーキパッドが交換された場合における組付け確認モードを行った際の電動モータの作動電流値の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の電動パーキングブレーキシステムについて図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の電動パーキングブレーキシステムの一実施形態が前輪駆動の車両に搭載された構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の電動パーキングブレーキシステム1は、パーキングロック機構を有しないギアボックス(図示せず)を備える車両に適用される。ここで、上述の車両としては、例えば、ギアボックスの一例である自動変速機にパーキングロック機構を適用するPレンジを有しないオートマチック車、ギアボックスの他の例である減速機にパーキングロック機構を適用するPレンジを有しない電動車を挙げることができる。なお、以下「電動パーキングブレーキシステム」を単に「システム」ということがある。
【0013】
本実施形態のシステム1は、制御装置10と、電動パーキングブレーキアクチュエータ20R,20Lと、電動パーキングブレーキスイッチ30を備えている。また、この車両は、パワートレイン40と、車両が走行中か停止中かを検知する車輪速度センサ50FR,50FL,50RR,50RLと、雨天検知装置60(ワイパー作動検知装置61)を備えている。なお、以下「電動パーキングブレーキアクチュエータ」及び「電動パーキングブレーキスイッチ」をそれぞれ「アクチュエータ」及び「スイッチ」ということがある。また、アクチュエータ20Rとアクチュエータ20Lとは基本的には左右の違いしかないため、単にアクチュエータ20ということがある。
【0014】
また、図2に示すように、アクチュエータ20は、電動モータ21と減速機22とスピンドル23とナット24とピストン25とブレーキパッド26を備えている。図2中の符号27は、ブレーキロータを示している。
【0015】
制御装置10は、スイッチ30のON・OFFに応じて電動モータ21を制御する。具体的には、スイッチ30がONの場合、電動モータ21は、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を押圧状態の位置に変位させ、スイッチ30がOFFの場合、図示しないシールの変形により、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26は非押圧状態の位置に戻る。その際、電動モータ21は、減速機22、スピンドル23、ナット24、ピストン25を介してブレーキパッド26の位置を変位させる。
【0016】
また、制御装置10は、スイッチ30がONの場合(ブレーキロータ27とブレーキパッド26とが押圧状態の位置の場合)、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させるためにブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御する。
【0017】
しかしながら、ブレーキパッド26が交換された場合、ブレーキパッド26が交換されてから慣らし期間が終了するまでは、ブレーキパッド26の摩擦係数が低下してしまう。ここで、ブレーキパッド26の制動力はブレーキパッド26の押圧力とブレーキパッド26の摩擦係数の積で規定される。そのため、慣らし期間が終了するまでは、ブレーキパッド26を通常押圧力で押圧してもブレーキパッド26の制動力が低下し、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させることができなくなる。
【0018】
本実施形態のシステム1によれば、ブレーキパッドが交換された場合に、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから慣らし期間が終了したと判断するまで、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力よりも大きい増加押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御するので、ブレーキパッドが交換されて、ブレーキパッドの摩擦係数が低下した場合であっても、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させることができる。
【0019】
なお、ブレーキロータに対してブレーキパッドを増加押圧力で押圧させるには、例えば、電動モータの電圧を12Vで固定し、電流を増加させればよい。
【0020】
ここで、本実施形態のシステム制御の一例を説明する。図3に示すように、ステップ1(以下「S1」ということがある。以下同様。)において、ブレーキパッド26の交換モードの指令がある場合(YESの場合)には、S2に進む。なお、NOの場合には、S9に進み、押圧しクランプするクランプ力の通常制御を維持する。
【0021】
S2において、ブレーキパッド26を外せるようにナット24を最もリリース側に移行し、S3に進む。このとき、ブレーキパッド26が交換されると推定される。例えば、S3において、ドライバやディーラの作業者等によりブレーキパッド26の交換作業が行われ、S4に進む。S4において組付け確認モードが実行され、S5に進む。S5において、ナット24を最もアプライ側に移行し、S6に進む。
【0022】
S6において、ナット24の移動量が新品(未使用品)のブレーキパッド26の厚さに基づく移動量よりも小さい場合(YESの場合)には、S7に進む。なお、NOの場合には、S10に進み、パッド未交換と判断し、S11に進む。S11において、クランプ力の通常制御にする。なお、ブレーキパッドの交換の有無はマニュアル入力としてもよい。
【0023】
S7において、新品のブレーキパッド26に交換されたと判断し、S8に進む。S8において、クランプ力の増加制御をして、図4図5又は図6のSTARTに進む。
【0024】
また、本実施形態のシステム1においては、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから増加押圧力の付与回数が所定回数を超えたと判断したときに慣らし期間が終了したと判断し、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することが好ましい。
【0025】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、増加押圧力の付与回数を検出し、規定回数を超えた場合にブレーキパッドの摩擦係数が通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数に戻ったと判断し、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、押圧力の増加によるブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。
【0026】
ここで、本実施形態のシステム制御の他の一例を説明する。図4に示すように、S21において、クランプ力が増加制御中である場合(YSEの場合)には、S22に進む。なお、NOの場合には、S27に進み、N=0とする。
【0027】
S22において、ブレーキパッドの作動回数Nを読み込み、S23に進む。S23において、ブレーキ操作がある場合(YESの場合)には、S24に進む。
【0028】
S24において、N=N+1とし、S25に進む。S25において、N>Kの場合(YESの場合)にはS26に進む。S26において、クランプ力の増加制御を終了して、図3のSTARTに戻る。
【0029】
さらに、本実施形態のシステム1においては、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから増加押圧力の累積付与時間が所定時間を超えたと判断したときに慣らし期間が終了したと判断し、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することが好ましい。
【0030】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、増加押圧力の累積付与時間を検出し、規定時間を超えた場合にブレーキパッドの摩擦係数が通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数に戻ったと判断し、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、規定回数で判断する場合よりも正確に慣らし期間の終了を判断でき、押圧力の増加によるブレーキパッドの耐久性低下をより抑制することができる。
【0031】
さらに、本実施形態のシステム1においては、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから車両の走行中の他の所定制動力を発生させる押圧力が所定押圧力を超えた累積時間が他の所定時間を超えたと判断したときに慣らし期間が終了したと判断し、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することが好ましい。なお、例えば、走行中における50~200回程度の制動によって通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数になる。
【0032】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、車両の走行中の他の所定制動力を発生させる押圧力が所定押圧力を超えた累積時間(ブレーキパッドがブレーキロータに当たる液圧以上の他の増加押圧力の累積時間)が他の規定時間を超えた場合にブレーキパッドの摩擦係数が通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数に戻ったと判断し、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、単に停止時の累積付与時間で判断する場合よりも正確に慣らし期間の終了を判断でき、押圧力の増加によるブレーキパッドの耐久性低下をより抑制することができる。
【0033】
ここで、本実施形態のシステム制御の更に他の一例を説明する。図5に示すように、S31~S40に示すように、累積付与時間によって正確に慣らし期間の終了を判断して、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することができる。
【0034】
さらに、本実施形態のシステム1においては、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから車両の走行距離が所定距離を超えたと判断したときに慣らし期間が終了したと判断し、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を通常押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御しても良い。
【0035】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、車両の走行距離を検出し、規定距離を超えた場合にブレーキパッドの摩擦係数が通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数に戻ったと判断し、ブレーキロータに対してブレーキパッドを通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、押圧力の増加によるブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。
【0036】
さらに、本実施形態のシステム1においては、増加押圧力が、通常押圧力と未使用品であるブレーキパッドの摩擦係数に対する通常押圧力が付与される通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数の比との積以上であることが好ましい。
【0037】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、増加押圧力をブレーキパッドの摩擦係数の低下分を考慮した押圧力とすることにより、交換されたブレーキパッドに過度な負荷を掛けることがなく、ブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。例えば、通常使用の場合のブレーキパッドの摩擦係数μ(nom)が0.26であり、新品(未使用品)のブレーキパッドの摩擦係数μ(ini)が0.20である場合、その差を考慮して、通常の押圧力(クランプ力)F(nom)に対して、F≧F(nom)×[μ(nom)/μ(ini)]となるようなクランプ力で増加制御することが好ましい。
【0038】
さらに、本実施形態のシステム1においては、モータの耐久性向上の観点から、モータが制動力を付与する回数や時間を低減するために、複数のブレーキロータと、各々のブレーキロータに対応するブレーキパッドとを備え、通常押圧力が付与される通常使用の場合において、制御装置が少なくとも1つのブレーキパッドを対応するブレーキロータに対して通常押圧力で押圧させるように電動モータを制御する車両が考えられる。そのような車両は、停車時の車両勾配を加速度センサ11(図1参照)で読み取り、その勾配が所定値以下であった場合に、上記の処理をする。この場合においては、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了するまでの間において、制御装置が通常押圧力が付与される通常使用の場合より多い個数のブレーキパッドを対応するブレーキロータに増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御することが好ましい。
【0039】
上述の好適形態によれば、制御装置によって、増加押圧力をブレーキパッドの摩擦係数の低下分を考慮した押圧力とすることにより、交換されたブレーキパッドに過度な負荷を掛けることがなく、ブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。具体的には、耐久性向上のために実行していた加速度センサ11(図1参照)より算出される車両の勾配に基づくクランプ力低下制御や勾配に基づく片輪制御を停止することにより、交換されたブレーキパッドに過度な負荷を掛けることがなく、ブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。
【0040】
さらに、本実施形態のシステム1においては、増加押圧力が、第1増加押圧力と、第1増加押圧力よりも小さい第2増加押圧力を含み、制御装置10が、ブレーキパッド26が交換されてから慣らし期間が終了するまでの間において、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を第2増加押圧力で押圧させるより前に第1増加押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することが好ましい。
【0041】
上述の好適形態によれば、制御装置よって、ブレーキパッドが交換されてから慣らし期間が終了するまでの間において、ブレーキロータに対してブレーキパッドを第2増加押圧力で押圧させるより前に第1増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、交換されたブレーキパッドの摩擦係数が上昇した分だけ、増加押圧力を小さくすることができ、ブレーキパッドの耐久性低下を抑制することができる。
【0042】
ここで、本実施形態のシステム制御の更に他の一例を説明する。図6に示すように、S41~S45に示すように、ブレーキ作動回数やブレーキ作動時間を読み込み、これらの値から各ブレーキパッドの必要クランプ力を図7及び図8に基づいて算出することにより、慣らし期間においてもより適切な押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することができる。
【0043】
さらに、本実施形態のシステム1においては、制御装置10が、組付け確認モードにおける電動モータ21の作動時間が未使用品であるブレーキパッド26の厚さに基づく電動モータ21の作動電流値のピーク間隔時間よりも長い場合に、ブレーキパッド26が交換されていないと判断することが好ましい。ピーク時間間隔に加えて又はピーク時間間隔とは別に、電流値が立ち上がるタイミングによってもブレーキパッドが交換されたかどうかを確認することができる。
【0044】
上述の好適形態によれば、ブレーキパッド26が未使用品に交換されている場合、図9中実線で示すような作動電流値となる。一方で、ブレーキパッド26が交換されていない場合、図9中一点鎖線で示すような作動電流値となる(途中までしか図示していない。)。
【0045】
さらに、本実施形態のシステム1は、車両の現在位置における天候が雨ないし雪であるか否かを検知する雨天検知装置60を更に備えている。このシステム1においては、雨天検知装置60が車両が停止した際に天候が雨ないし雪であると判断した場合には、制御装置10が、ブレーキロータ27に対してブレーキパッド26を増加押圧力よりも大きい雨天用増加押圧力で押圧させるように電動モータ21を制御することが好ましい。さらに、このシステム1においては、雨天検知装置60が、車両のワイパーの作動を検知するワイパー作動検知装置61である。このワイパー作動検知装置61は、ワイパーが更に他の所定時間継続して作動していた場合に、天候が雨ないし雪であると判断する。
【0046】
上述の好適形態によれば、上述のワイパー作動検知装置によって天候が雨ないし雪であると判断し、制御装置10によって、雨天用増加押圧力で押圧させるように電動モータを制御することにより、ブレーキパッド26の摩擦係数が低下しやすい天候であっても、車両の停止状態を保持する所定制動力を発生させることができる。
【0047】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 電動パーキングブレーキシステム
10 制動装置
11 加速度センサ
20,20R,20L 電動パーキングブレーキアクチュエータ
21 電動モータ
22 減速機
23 スピンドル
24 ナット
25 ピストン
26 ブレーキパッド
27 ブレーキロータ
30 電動パーキングブレーキスイッチ
40 パワートレイン
50FR,50FL,50RR,50RL 車輪速度センサ
60 雨天検知装置
61 ワイパー作動検知装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9